Kanon Story

『大切なあなたと・・』

―ざわざわ

人通りの激しい公園で彼―相沢祐一―は自分の恋人を待っていた。

もともと彼は人が多い場所が苦手だった。

特に今日は祝日だったために恋人達の待ち合わせの場所としてこの公園はよく利用されていたのだった。

『はぁ・・・。さすがに人が多いなぁ、今日は。本当ならこの場所から早く立ち去りたいんだが。周りがカップルだらけの中で、一人ポツンと待ってるオレってどう見られてるんだろうか。早く来てくれ、栞・・・。』

そんなことを考え、何度目かの溜息をついた時、公園の入り口から見慣れた小

さな影がこちらに近寄ってくるのに気付いた。

「栞、こっちだ。」

「祐一さん。お待たせしました。」

息を切らせながら駆け寄ってきた栞を見て、軽く微笑みながら祐一は言った。

「そんなに気にするなよ。待ち合わせ時間にはまだ十分もあるんだから。オレがたまたまはやく来すぎたんだ。」

「ふふふ・・・。」

「ん?何がおかしいんだ、栞。」

「あ、すいません。嬉しくて、つい・・・。」

「何が?」

「こうしてあなたと、大好きな祐一さんと一緒に休日を過ごせるとは思わなかったので。奇蹟が起こって、こうして私はあなたといられる。大好きな人と一緒にいたい。そんな普通の女の子の抱く夢を私は抱くことが許されませんでした。だから、こうして普通の女の子になれたことを改めて実感できて嬉しいんです。」

「栞・・・。」

生まれつき体が弱く今まで多くのことを捨ててきた目の前の少女は本当に喜ん

でいた。

彼女を普通の女の子に戻した奇蹟。

それをくれた一人の女の子のことを祐一は心に思い浮かべ言った。

『見ているか、あゆ。お前のくれたこの奇蹟、おれは絶対に忘れない。例え何が起ころうとも絶対に。鯛焼きが好きで、いつも泣いてばかりいた、妙な口癖が特徴のお節介天使のことを・・・』

―結構酷いことを言っている祐一だった。

「どうしたんですか、祐一さん?」

「何でもないよ。それより香里はどうしたんだ?いつもなら、このことを知って『ふふふ・・・。家の栞に何するつもりなのかしら、相沢君?』とか言って邪魔するのに・・・」

「その辺は大丈夫ですよ、祐一さん♪もし、今日の祐一さんとのデートを邪魔するようなら・・・」

「邪魔するようなら?」

「秋子さんに頼んで譲ってもらったジャムで作った特製アイスを食べてもらうよって言っときましたから。」

「・・・。」

そのアイスを想像してしまったのか思わず無言になる祐一()

恐るべき、秋子ジャム!

そうして祐一が黙っていると、

「祐一さん。だから、今日は姉のことはこれっぽちも気にしなくていいんです。思う存分イチャイチャしましょう♪」

そう言って、栞は祐一を公園の入り口に引っ張っていった。

祐一は、その栞の言動に苦笑しながら、

「そうだな。今日は思う存分デートを楽しもうぜ。」

と言った。

「はい!」

元気良く栞は答え、二人は公園を後にした。

―同時刻

同じ公園内のある場所でそんな二人をじっと観察する影が・・・

「栞・・・。もし相沢君に変な事されそうになっても、必ずお姉ちゃんが助けてあげるからね。」

そう言ったのは勿論シスコン香里だった()

「ふふふ・・・。相沢君。私の目の黒い内は栞に変な真似はさせないからね。覚悟してなさい。」

「おい、美坂。いい加減止めた方がいいんじゃないか・・・?これ以上あいつらの邪魔したら本当に嫌われるぞ。」

そう言ったのは香里に告白したがあっさり振られ、それを弱みに、今は香里の

部下になってしまった北川だった。

「黙りなさい。例え嫌われることになっても私は栞を守るのよ!」

そう言って硬く拳を握り、熱く燃えている香里。

「はぁ・・・。どうしてオレは好きになってしまったんだろうか・・・。」

そう言って肩を落とす北川。

無論祐一達は気付いていない。

「あっ!二人が公園を出てどこかに行くわ。追うわよ。ついてらっしゃい、部下A!」

「はいはい・・・。」

そう言って、二人は後をつけていった。

 

公園を出た後、祐一と栞はデートのお決まり映画を見にいった。

「この映画ずっと見たかったんですよ、私。早く行きましょう、祐一さん。」

「おいおい、そんなに慌てるなよ。映画は逃げないぞ。」

「でもでも、とっても楽しみなんですもん。」

そう言って満面の笑みを浮かべる栞を見て祐一は苦笑した。

「わかったよ。ちょっと早いけど席を取っとこうか?」

「はい!」

元気良く答えた後、栞は祐一の腕に自分の腕を絡めた。

「し、栞・・・。」

「うふふ・・・。」

初め恥ずかしそうにしていた祐一も、その幸せそうな横顔を見て何も言えなくなった。

「まあ、たまにはいいか・・・。」

そう呟き二人は一緒に中に入っていった。

一方・・・

「栞〜〜。『東鳩』なんてラブロマンス映画を何であの甲斐性無しと見るの。見たいんだったらお姉ちゃんがいくらでも付き合ってあげるのに。」

「はあ、もうやめようぜ。尾行したってあの二人のバカップルぶりを見て疲れるだけじゃないか。」

「うるさ〜い!何が起こるかわからないでしょう、デートは。特にあの娘、昨日は夜遅くまで作戦練ってたし・・・。」

「作戦?」

「そうよ。『ここをこうすれば・・・。ふふふ、これで明日祐一さんは正真正銘私の彼氏になるのね。そして、いずれはダンナ様に・・・。既成事実さえ作ればこっちの物だし。』そうあの子は言ってたのよ。何もない分けないでしょう!」

「・・・。なあ、美坂。お前どっちが心配なの?」

「栞に決まってるでしょう(即答)

「普通は相沢の方を心配するだろう・・・。相沢、骨は拾ってやるからな。」

そう言いあいながら二人も中に入っていった。

 

映画を見た後二人はそのままショッピングに出かけた。

「祐一さん、こっちです。」

「ああ、そんなに急ぐとこけるぞ。」

「大丈夫です―アッ!」

栞は叫び声とともに見事にこけた。

「言ったとおりだろうが。」

「えへへ、ちょっと失敗しちゃいました。」

そう言って舌を出す彼女を見て、知らず知らずの内に顔がほころんでいた。

「む〜、何笑ってるんですか。失礼ですよ。」

「悪い悪い。」

「全然悪いって顔してません。そんなことする人嫌いです。」

「すまなかった、本当。あまりに栞が可愛かったもんだからつい、な。」

「・・・。そういうことならアイスクリーム三つで許してあげます。」

そう言って怒った顔を笑顔に戻していた。

「わかりました、お姫様。」

そして二人は季節外れのアイスを食べに行った。

 

「二人が行っちゃうわ!追いかけるわよ!」

「・・・。」

「ふふふ・・・。」

「・・・。」

もはや疲れて何も言えない北川だった・・・

 

夕方になって日も暮れ出した頃、駅前に二人はいた。

「今日はどうもありがとうございました、祐一さん。本当に楽しかったです。」

「礼を言う必要なんてないぜ。オレ達は恋人同士なんだからな。」

「はい!祐一さん・・・。」

「何だ?」

「私、今幸せです。とってもとっても幸せです・・・。」

そう言う栞をそっと抱き寄せ、祐一は静かにキスをした。

「オレもだよ、栞。これからも、いっぱいいっぱい幸せになろうな。」

「はい・・・。」

そう言って、二つの影は再び一つになった。

―おまけ

「おかしいわねぇ・・・。確かにデートの前日に『既成事実』とか言ってたはずなのに。どうしたのかしら・・・?」

「ふふふ・・・。それはね、お姉ちゃんが尾行してたからよ♪」

「あ、そうなんだ・・・・、って、えっ?」

「こんばんは、お姉ちゃん♪」

「し、栞・・・。どうしてここに・・・?」

「尾行下手だったね。すぐわかったよ。そんなに私の幸せを邪魔したいの?確か言っといたよね、私。邪魔したらどうするか・・・。」

「お、落ち着いて。ね、栞。私は心配だったから尾行しただけなのよ。」

「言い訳は無用だよ、お姉ちゃん(にっこり)

「許して〜〜〜!」

その夜、街には香里の悲鳴が響き渡った。

ちゃんちゃん♪

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