「んー、やっぱりデスクワークは疲れるなー」
それでもなんとか今日の分の仕事も早く終わったんだけどね。
さてと、今日のお勤めも終了したから自主練でもしようかなっと。
「お〜い、ミユキ〜」
仕事部屋から出ようとしていた時、白に近い灰色の髪、穏和そうな中に知的な品を残す男性――ゲンヤ・ナカジマ部隊長が私を呼び止めた。
「はい、何でしょうか、ナカジマ部隊長」
何の用だろ? 私、ちゃんと自分の分の仕事を終らせたはずなんだけどな?
「ちとハガネを見てみろ」
少し困ったような顔をしている部隊長に言われてハガネを見てみる、するとそこには……。
「俺は……肉体労働は……得意なんだが……頭を使う仕事は……駄目なんだ……!」
ハガネが負のオーラ全開でデスクワークをしていた。
不屈少女パワフルミユキ
第二話
「ワクワクしちゃう!」
………またなの。
「終わったんならあいつの手伝いでもしてやれよ、同じ小隊の仲間だろ?」
108部隊は所属している魔導師が比較的に多い、そのため、小隊が多数存在する。
で、その小隊の一つに小隊長のスカイを筆頭に私とハガネ、そして後に編入されたなのはのフォーマンセルで組まれたストーム小隊があるわけである。
「あれでもハガネの分はかなり減らしたんですよ? 実際、ハガネの量は私の四分の一ぐらいです、ですからこれ以上ハガネを甘やかしてはいけません」
ハガネは脳ミソが筋肉で出来ているせいかは知らないが、どうもデスクワークとかが苦手らしく効率も悪い。
そのためハガネに回される仕事は少なくなっていて、その残りは私に回されている。
実際、ハガネに回される量は私の四分の一ぐらいしか無いし。
「しかしなぁ、あいつが出してる負のオーラのせいで回りの雰囲気が悪くなってるんだが……」
「それはそうなんですが……」
ハガネの名誉の為に言うが、何も毎回こういう事が起こっているわけではない。
しかし、時々こういうことが起こっているのだ。
で、大抵はハガネが一人で終わらせるか、私やスカイ、それになのはの三人の内の終わってる奴(まあ、大抵は私だが)が手伝うかの二択だ。
………はぁ、しょうがないか………。
「私が手伝ってきます……」
「おう、頼んだ」
スカイやなのははまだ終わって無いみたいだから私が手伝うしかない、か……。
んなわけでハガネの所に来たのだが……、どうやら残りはざっと四分の一ぐらいみたいね。
これならすぐに終わるかな?
「ハガネ、頑張ってる〜?」
「あう?」
ちょっと、死んだ魚のような目をこっちに向けないでよ。
思わず引いちゃったじゃない。
「私ができる分を私の端末に回して、手伝ってあげるから」
「本当か!」
もう、手伝ってあげるって言った瞬間、さっきまで死んだ魚みたいな目を輝かせるんだから。
あ〜あ、自主練したかったんだけどな〜……。
さっさと早く終わらせようっと。
「ありがとう!」
ええい! いくら嬉しいからって抱きつこうとするな!
まずは抱きつこうとしている右手を掴み、そのまま体を反転、そしてそのまま掴んだ右手を背負うようにしてハガネをブン投げて下に叩きつける!!
第97管理外世界の地球という場所にある柔道という武術の投げ技の一つ。
その名を一本背負い。
これでちょっとは頭も冷えたでしょ。
「………いくらなんでも酷くないか?」
「いきなり抱きつこうとしてきたアンタが悪い」
これだけ暴れたのに回りはたいして騒ぎになってないのは普段から私達がこういう風にしてるせいなのか。
……………ハァ。
◇
えーっと、これはこうで……。
「なぁ、ミユキ……」
「何よ?」
ああもう、デスクワークはめんどくさいな。
ここはこうっと……。
「明日は俺らの小隊は休みを貰ってるだろ?」
「貰ってるわねー」
月に何度かはある隊ごとの休みがあるのだが、明日は私のいるストーム小隊が休みを貰っているのだけど……。
「その、よかったらなんだが……お、俺とデ、デートをしな――「あ、ごめん無理」――ですよねー」
これはこれにして、ああもう……。
「明日はもう予定が出来てるのよ」
「そ、そうだったのか。もしよかったらでいいんだが……、その用事を教えてくれないか?」
「別にいいけど……、明日は私、ナガシマ部隊長の家に行くのよ」
「………え゛?」
正確にはナガシマ部隊長の奥さんのクイント・ナカジマさんに用があるんだけどね。
何でもナカジマ部隊長が私の話をクイントさんに話したら私に興味津々らしく、ぜひぜひナカジマ部隊長の家に遊びに来て欲しいとのことだ。
それにしても……。
「楽しみだなぁ」
曲がりなりにも騎士の方に分類される私にとってS・A(シューティング・アーツ)という格闘技術の使い手であるクイントさんに会うのは非常に楽しみなわけよ。
早く明日にならないかな〜。
「さてと、私ができる分は終わったから後は自分で頑張りなさいよ?」
何でか知らないけど燃え尽きてるハガネに声を掛けて、私は仕事場所から出ていった。
◇
「準備は出来た、ティアナ?」
「うん」
で、休日になったからナカジマ部隊長のご自宅に行こうと思ったんだけど、家に一人お留守番させるのもあれだなって思った私はティアナも一緒に連れてくことにした。
それにしてもやっぱりティアナは可愛いなぁ……。
胸元にリボンのアクセントが付いた白いワンピースがティアナの可愛さを一層を引き出して……ティアナタソハァハァ。
……はっ、いけないいけない。
さて気持ちを切り替えて、電気は消したし、窓もすべて鍵を掛けた。
さて、最後に鏡を見ながら身嗜み再確認。
まず上着は赤色のブラウスで下は黒色のミニスカート、そして黒のオーバーニーソックスっと。
うん、我ながら完璧!
後は靴を履いて玄関を出てから鍵を掛けて。
「それじゃあ行こうか?」
「うん」
私はティアナと手を繋いで、歩き出した。
◇
んで、ナカジマ部隊長が奥さんを迎えに行かせるから隊舎近くの駅で待ってろって言ってたから来たんだけど……
ここ、隊舎の近くこの駅はエルセア地方で一番の規模を持つ大型の駅であり様々な人々がここを利用している、つまり……。
人がごったがえして誰がナカジマ部隊長の奥さんかが分かんないってわけなのよ……。
とりあえず……。
「ティアナ、はぐれないように手を繋ごうか」
「うん」
これでティアナとはぐれる心配は無いわね。
駅の改札口前で待ってればいいとも言ってたんだけど……。
「あの、すいません」
「はい?」
「ミユキ・トウサカさん……でしょうか?」
「はい、私はミユキですけど……」
誰、この青みがかった紫髪の美人?
………もしかして。
「……もしかしてナカジマ部隊長の奥様の……… ?」
「はい、私はゲンヤ・ナカジマの妻のクイント・ナカジマです、よろしくね」
うっは〜、何この美人。
本当にナカジマ部隊長の奥さんなの?
「こちらこそ。 ほら、ティアナ挨拶して」
「は、初めまして、ティアナ・トウサカです、よろしくお願いします」
「よろしくね、ティアナちゃん」
それにしても本当にびっくりだわ、ほんの少し老けてるナカジマ部隊長の奥さんがこんな若くて綺麗な人だったとは。
「あの、ミユキさん」
「はい?」
「ここで話すのもなんですからとりあえず駅から出ませんか? 外に車を置いてますからそれに乗って家に行きましょう」
「あ、はい分かりました」
◇
「……でねぇ」
「へぇ〜、そうなんですか」
クイントさんが運転するワゴン車の中にて、ナカジマ家へと向かっているわけなのだが、クイントさん、私と話してるうちに砕けた話し方になってきている。
まぁ、私がクイントさんの方が年上ですから砕けた話し方してもいいですよって言ったからだけど。
ティアナは緊張ぎみなのか背筋伸ばして座ってる。
その様子をバックミラーで見たクイントさんはクスリと笑う。
「可愛らしい子ね、ティアナちゃん」
「ええ、私には過ぎた妹なんですけどね、私が家をあけるのが多いせいか今や家事をマスターし、料理の腕も私に追い付いてきちゃって」
「あらあら、そっちもなの」
「そっちもという事は」
「ええ、私のところも私と主人が両働きだから娘たちを置いてちゃってるからね、上の娘がしっかりしてくれて非常に助かってるのよ」
罪悪感を感じちゃうけどね、とクイントさんは苦笑気味に答える。
私も複雑なのよねぇ、職業柄しようがないとはいえ、家を開ける事が多いせいでティアナに家事とかを押し付けちゃってるのは。
それにしても、やっぱり両親が共働きとかの理由で不在だと子供はしっかりするものなのね。
◇
こちらから攻撃を放つがそれをカウンターされ、逆に向こうの攻撃は防いでもそれがフェイントだったりで更に強力な一撃に襲われ、追撃でダウンする。
さっきからこれの繰り返しだった。
全く、予想はしてたけどここまで実力が放れてるとはねー。
それにしても、なんでこうなったんだっけ……。
ああ、ナカジマ家に着いて少し話した後、クイントさんが模擬戦を申し込んできたからだったわね。
っていうかクイントさん反則的なくらい強すぎ!
確かに私は魔力無いから身体強化も疎かだけどさ、もうそんな次元じゃないもの!
下手したらなのはも勝てないじゃないのかしら?
勝てるとは思ってなかったけど、このままやられっぱなしってのも癪だ、絶対に一矢報いてみせるわよ!
◇
ミユキちゃん雰囲気が変わった、と分かった。
さっきまではなんといったらいいのか……そうね……、訓練モード?みたいな雰囲気から今度は真剣な雰囲気に変わった。
それからミユキちゃんは目を閉じ、右腕を前に突き出して深呼吸……、そしてその右腕を引いた構え。
……あの右腕……あれは何……?
魔力を使った感じもしない、それなのにあの右腕から強いプレッシャーを感じる。
そしてミユキちゃんは一歩を踏み出し……。
とんっと。
一気に私の懐に入られた!?
くっ、まずいまずい! あの振りかぶっている右腕は私の勘があれに当たるなって告げてるのに回避――間に合わない、防御――間に合わない……!
「覇王……!」
やられる……!?
「内あ……![ピロピロピロ!]」
スカッ。
ミユキちゃんの攻撃は突如鳴り出した通信音に集中力を欠き、空振りで終わった。
……なんかあっけない幕引きだったわね〜……。
◇
……非常に不完全燃焼です。
せっかく私の奥の手を二つも使ったってのに通信音に妨害されちゃうし……。
まあ、クイントさんがあの通信音を聞いて急いで家に戻った事から何か重要な事は分かるけど……。
はぁ〜、次からはどうせ通じないようになるんだろうなぁ……。
「姉さん!」
あら、ティアナじゃない。
確かさっきまでクイントさんの娘のギンガちゃんとスバルちゃんと遊んでたはずなんだけどこっちに来てたみたい?
しかもどうやらご立腹みたいです、まあ怒ってる原因はわかってるんだけどねー。
「姉さん……」
「な、何かしら?」
「姉さん、またアレを使ったでしょ?」
あちゃ〜、やっぱりバレてるか。
ティアナが怒ってるのはさっきから痛みが止まらない右腕のことだろうけど……。
でも私はしらを切る!
「はて、私には何のことかわからな……「えい」わきゃー!?」
いたたたっ! 右腕を突かれて痛いーー!?
「ほら! やっぱり使ったんでしょ! えいえいっ!」
「いたたた! 使いました、使ったって認めるから突かないでー!?」
「もう、あの技を使ったら腕が一日使い物にならなくなるんだから使わないでって言ってるのに」
「あたたた……、い、いやね、一矢報いてやろうかとつい思っちゃってね」
まあ、結局は報いれなかったんだけどねー。
それにしても不謹慎だと思うけどむくれてるティアナは和むなぁ……。
あ、クイントさんが戻って来た。
ん? 何やら慌てた様子みたいだけど……。
「ごめんなさい、今緊急の連絡が着ちゃって……!」
「あ、そうなんですか」
やっぱりか〜。 って事はそろそろ帰ろうかね。
「それじゃあ私達は失礼させてもらいますね」
「本当にごめんなさい! 駅まで送って行くからちょっと待っててね!」
そうして私達のナカジマ家訪問は終わったのでしたっと。
色々得るものもあったし、何よりティアナに友達が出来たみたいだったから良かったけどね。
うん、来れたらまた来よう!
◇
さて、再び駅前に来た訳なんですが……。
まだ時間はあるなぁ……。
「……まだ日もあるし少しそこらへんをブラブラみる?」
「うん……あれ?」
「どうしたの、ティアナ?」
ティアナの見ている先を見てみると……。
後ろ姿しか見えないけど金髪をピンク色のリボンでツインテールにした女の子が困ったようにキョロキョロしている。
……あ〜、だめ、なんか見てられない、少し声を掛けてみよう。
「何か探してるの?」
「ふぇっ!?」
いきなり後ろから声を掛けられたからか少女は慌てて振り返り……。
「「………え?」」
私と少女はお互いに硬直する。
なぜなら相手の顔がまるで鏡のように自分と同じ顔だからだった……。