魔法少女リリカルなのは シャドウダンサー外伝





       其乃二  八神はやて

          ある夏の日の想い




季節は八月に入り、全国のどこかで最高気温がマークされる季節。
セミが所構わず鳴き続けるものだから、時には鬱陶しささえ、感じてしまう
すなわち夏である。


それはここ、海鳴市も例外ではなく、今日もまた空には雲一つ無く、干した洗濯物も瞬く間である。



逃げ水の起こる住宅街のアスファルトを、一台の軽トラックが通る。
荷台にはダンボールを持った白猫が描かれている。

運送会社『白猫通運』のトラックである。




ドライバーは帽子を脱ぎ、汗を拭う。
車内は冷房が効いているといっても、事在る毎に降りる為、全く涼む事ができない。
連日続く猛暑に、体力も気力も削ぎ落とされていく。

「はぁ〜……あっちぃ〜…」
ついつい、口をついて零れてしまう。

窓の向こうに子供の集団が見える。背負ったバッグを見るに、これからプールにでも行くのだろう。

それを羨ましく思いながら、彼は車を進ませるのだった。





やがて着いたのは一軒の民家。
彼は車を停めて降りると、荷台の扉を開けて荷物を取り出した。

電柱の番地と、この家の表札を確認する。
「っと……八神…と。合ってるな」
表札の周りを見るが、呼び鈴は無い。
仕方なく、彼は門を開け、敷地内に足を踏み入れた。

玄関の脇の呼び鈴を押し、しばし待つ。
ほんの数秒いるだけで、全身からジワジワと不快な汗が滲み出てくる。

その不快さからちょっとでも逃げようと、彼は思考を巡らせた。

(この家って結構大きいよなぁ……どんな人が住んでるんだろ?
……やっぱり、会社とか経営してる人とかか?サラリーマンじゃ、この家は無いよな……)

暑さからちょっとだけ逃げられたものの、今度は別の不快さが胸の奥に産まれてしまった。

(俺の家は風呂無し、トイレ共同の築二十五年の物件だというのに……何だ、この貧富の差は!?)


段々と外より内側が熱くなってきた、その時だった。

「は〜い、何方ですか〜?」
パタパタと軽い音がドアの向こうから近付いて来る。
そして、ガチャリとドアが開かれた。

その瞬間、彼の思考は停止した。

ふわりと輝く、セミロングのブロンドヘアー。
ライトグリーンのワンピースに、フリルの付いた白いエプロン。

優しげな顔立ちの、例えるならば、陽光に煌めく湖面の如き美しさの女性。


そんな美女が、日本の一軒家のドア向こうから現れ、彼は一瞬にして思考が停止してしまった。

魂が抜けたように呆ける彼に、女性は怪訝そうな表情を浮かべた。
「あの……大丈夫ですか?」
「―――へ?…へぁ!は、はいっ!!大丈夫であるますです!!」
我に返り、彼は珍妙な声を上げ、その上もの凄く噛んでしまった。
恥ずかしさに顔が真っ赤に染まる。

そんな彼を見て、彼女はクスッと笑う。
「…それで、どのような御用ですか?」
「え?は、はい!こちら……八神はやて様宛の御荷物です……受領の判子かサインをお願いします……!」
「えっと…ちょっと待ってて下さいね?」
そう言い残し、彼女は奥に行ってしまう。
ふわりと漂う残り香に、彼はとろけた顔を浮かべてしまう。

(うわ〜、すっげー美人さんだ〜…日本語上手いし、綺麗だし……優しそうな上、ベッピンさんだし……何つーか、超好みなんですけどッ!!)

軽く頭が混乱し、同じ意味合いを繰り返すぐらい、彼は彼女に心を奪われていた。

しばらく呆然としていて、そして気が付いた。

表札には【八神】とあった。
八神。どう考えても日本人の苗字だ。
そして、彼女はどう見ても外人である。
(国際結婚かぁあああああああああああああああっっ!?!?!?)

一秒で辿り着いた結論であった。

「あんな美人の金髪のブロンド美人を………何処のどいつだ、クッソォオオオオオオオオッ!!!」

彼は天に向かって叫んだ。

しかし、サンサンと照る太陽は彼の慟哭など知った事かと、大地を焼くのに夢中だった。


と、再び彼女が現れた。
「はい、判子……どうかしました?」
「…………いえ、何でもありません」
彼女が首を傾げて尋ねるが、彼は情けなさに嘆き、首を振るばかりだった。


彼女から判子を受け取り、印欄に押す。
「……では、御荷物の方…確かにお渡ししましたので。それでは……」
まるで溜め息でも吐くかのように、彼は彼女に背を向けた。


幾ら好みの美人―――しかもブロンド美女だとしても、相手が人妻では何の何を何する訳にも行かない。

陰鬱な気分のままだが、仕事はまだ残っている。
彼が道路に出ようとした、その時だった。

「あの、ちょっと待って下さい」
不意に掛けられた声に振り返るが、彼女の姿は無い。
何事だろうかと首を傾げていると、すぐに彼女は帰ってきた。

サンダルを突っ掛けて、彼の所まで。
「暑いですから…これ、どうぞ飲んで下さい」
そう言って彼女が差し出したのは、ペットボトルのお茶だった。
「あっと……ありがとう…ございます……」
彼がお礼と言うと、彼女はニッコリと笑って家に帰っていった。

「…………」
しばし呆然としながら、彼女の消えたドアと手の中のペットボトルを交互に見る。

やがて、その顔がニヤケ顔に変わる。
どれぐらい酷いかと言うと、この顔で駅前を歩けば三十秒で交番行き決定と追うぐらいだ。

「ひゃっほ〜い!人妻がなんじゃ〜ッ!俺は、今猛烈にノッてるぜ〜ッ!!」
意気揚々と車に乗り込んで、発信させるべくアクセルを踏んだ。









数分後、電柱に突っ込んだ車が発見された。
ドライバーの青年は、事故のダメージで全治2ヶ月となった。

その原因が突如襲った原因不明の腹痛だという事は、只の余談である。






そんな事を知らない女性は玄関に置いた荷物を持ち上げ、真剣な面持ちをしていた。
伝票には【八神 はやて様】と書かれているが、送り主の所に記載がされていなかった。

箱自体は軽くて小さく、80cm四方といったところだろう。

「――――クラールヴィント」
女性がそう言うと、その細い指に嵌められた指輪が光り輝いた。





八神家のリビングに車椅子の少女が現れた。
「ん…?シャマル、何やっとるんや」
この家の主である少女、八神はやては箱を前に難しい顔をしている女性――シャマルに声を掛けた。
「え…?あ、はやてちゃん!?いえ、別に何もしてませんよ!?」
「………それは何かしとるって、言ってる様なもんやよ」
「あはは………ごめんなさい」
「それで、何をしとったん?」
はやてが車椅子を進ませると、テーブルの上に箱が置かれてあった。
包装紙は既に剥がされてあった。

「何や、小包……シャマル?」
「は、ハイッ!!」
「この伝票……わたし宛やない?」
「は、ハイ!!そうですねっ!!」
「どうして、開いてるんか………説明してくれるな?」
ニッコリと笑うはやて。しかし、その背には言い表せない様な黒い湯気のような物が漂っていた。

シャマルはガタガタと震えるしかなかった。




数分後、ハァハァと息を荒くしながら、シャマルは事情を説明した。
「ハァ…ハァ……送り主の…名前が無いので…ハァ…怪しいな〜って思って…」
「ほうほう、それで…?」
「えっと……それで……、クラールヴィントで調べたんですけど……特に異常は無くて……」
「ほほう……?」
「で、でも…!もしかしたら、万が一という事を考えて………開けてみようかなって。
も、もしかしたらはやてちゃんを亡き者にしようとする組織がいるかもしれないですから!!
こ、こういうのって…開けたらいきなりドカーーーーーーン!!ってなるってテレビでやってましたし!!」
「アホかぁああッ!!」
リビングにスパーーーーン!という小気味良い音が響いた。その手にはいつの間にか伝説の突っ込みウェポン【覇裏閃】が握られていた。
「そういうのはえらい政治家先生の家か、金持ちの社長の家とか相場が決まっとるやろ!?
それにシャマルの言うとるテレビって、この間やっとった○村○太郎サスペンスの事やないかッ!?
こんなごく普通の……とは言えんけど……一般家庭やで!?そんな危険物が届く訳無いやろ!?」
「そ、そういう危機回避能力の低下が危険を呼ぶんですっ!!いいですか、はやてちゃん!!」
「話題を擦り返るなぁあああッ!!」
もう一発、小気味良い音がリビングに響いた。


シュウシュウと、頭から白煙を上げて倒れるシャマルをそのままに、はやては箱を手に取った。
「――にしても……これ、何やろ?」
蓋に手を掛けて、ゆっくりと開ける。
そして、中に入っていた物は―――――――。












日が頂点を過ぎ、傾き始めた頃。
八神家の玄関がガチャリと音を立てた。

「ただいまーっ!」
「ただいま戻りました、主はやて」
リビングに繋がるドアを開けて現れたのは、桃色の髪をポニーテールに束ねた女性。
その後ろに続くように赤い髪を二つの三つ編みにした少女と、リードを繋げられた青い毛並みの大型の犬―――否、狼であった。


――――――チリーン。


「――む?」
「何の音だ?」
二人が入ると同時に微風が吹き、そして涼やかな音が響いた。
「あら、お帰りなさい…シグナム、ヴィータちゃん、ザフィーラ」
キッチンから聞こえた声に二人と一匹が振り返った。
見れば、キッチンではシャマルがお茶を淹れていた。
「今、二人の分もお茶淹れるから」
「あぁ、すまない。ところで……あれは、何だ?」
シグナムと呼ばれた女性が、窓の方に視線を送った。

カーテンレールから吊るされた、黒光りする物。
窓から吹く風に揺れて、再びチリーン、と音を鳴らした。
「あぁ、あれは風鈴っていう物よ。昔は空調設備が無かったから、こういう涼しい音で涼を取ってたんだって」
「ほぉ、こんな物がこの家には有ったのか………?」
「御中元で贈られてきたのよ。きし麺と一緒に」
「御中元……?」
三度音が鳴り、ザフィーラの耳がピクリと動いた。
「だが、風鈴とやらはガラス製ではなかったか?あれは…鉄製だろう?」
ザフィーラが突然言葉を発した。しかし誰も驚く事もなく、当然の事とそれを受け止めている。

「良く知っているわね、ザフィーラ?」
「昨日、主とテレビを見ていた時にな」
「はやてちゃんが言うには、確かにオーソドックスなのはガラス製で、鉄器製ってちょっと珍しいみたい」
シャマルがお茶を淹れながら答える。
「で、主はやてはどちらに?」
シグナムがリビングを見回すが、どこにもはやての姿は無かった。
「自室よ。一緒に入っていた手紙がはやてちゃん宛で……差出人を見て凄くビックリしていたわ」
「手紙……?主宛にか…?」
シグナムの問い掛けに、シャマルはニコリと笑った。
その手からお茶を受け取る。

「私の勘だと……男の子からじゃないかな〜って」
「―――どうして、そう思う?」
眉毛がピクリと吊り上がり、シグナムの表情が若干険しくなる。
会話に加わらなかったヴィータの表情も、もの凄い不機嫌なものになっていた。
そんな二人の様子に、予想通りの反応だとシャマルはクスクスと笑う。
「だって、最初は驚いて目を見開いていたのに、段々顔が赤くなって、涙まで浮かべちゃって……。
あれは間違いなく恋する乙女の瞳だったわ!!」
ググッと拳を握るシャマル。そんな話を聞いて、ますます二人の――否、ヴィータの機嫌は悪くなった。
シグナムは複雑な思いを誤魔化すようにお茶をすすった。



「――――――――――ブヘッ!」
そして噴いた。
「ちょっとシグナム、大丈夫!?」
「ゴホ、ゴホ!お前…これは何だ!?」
「何って……お茶よ?」
「どうしてお茶が……甘辛酸っぱいんだ!?」
「えぇっ、そんな!?この間作った特製のシャマルブレンドよッ!?」
「それか原因はッ!!」
「原因って……そういう言い方酷いじゃない!」
「酷くないだろう!?」


そんなやり取りを横目に、ヴィータはザフィーラに言った。
「いるか、ザフィーラ?」
「いらん」
そしてヴィータは、こっそりとお茶を流し台に捨てたのだった。








自室の机で、はやては手紙を読んでいた。
書かれている文章の全てに目を通して、そしてまた最初から読み返す。

すでに十回も読み返していた。

『拝啓 八神はやて様

暑中お見舞い申し上げます。
あれから二月が過ぎましたが、そちらは御変わり無いでしょうか?

と、慣れない挨拶は抜きにして。
俺の方は、怪我はどうにか完治に向かっている。
というかダメージが抜け切らないままに、修行の日々を送っていたりするわけで。
都会の夏は暑いと聞くけど、海鳴も例外ではないだろうか?』
「せやなぁ…今日も凄く暑かったなぁ〜。にしても、忍者の修行か……やっぱり竹を跳び越えたりするんやろか?」
ピョンピョンと竹を跳び越える連音の姿を想像し、ちょっと笑ってしまう。
『こっちは暑いことは暑いが……こう暑いなら海で泳いだりとかをしてみたかったな。
そっちに行くのがもうちょっと後だったら良かったのにとか思ったりしている。
まぁ、冷たい川で泳いだり、清流釣りをやったりしながら夏を満喫してるけど』
「う〜ん、冷たい川かぁ〜。良ぇなぁ〜……」
陽光を受けてキラキラと光る小川と、それを囲む森を想像し、溜め息を吐く。

その他、書かれている内容は他愛の無い物だった。
他人が読めば普通の手紙。
しかし、送り主の事を知っている人間が読めば、また違った顔を見せる内容だった。
修行の事。怪我の事。里の事に、自分の仲間の事。


この手紙を送る事が、忍としてどれだけのリスクを伴っているか、想像に難くなかった。

そんなリスクを負ってまで、自分にこの手紙を送ってくれた事がはやては嬉しかった。



「―――っ?」
気が付けば、はやての手に熱い雫が零れ落ちていた。
「あ、あれ……何で……?」
目元を擦り、涙を拭う。しかし、涙はどんどんと溢れ出してきた。

ハンカチを取り出し、顔を覆う。
「逢いたいなぁ………連音君………」


遠き地にいる友達を想い、いつの間にか、はやては声を殺して泣いていた。









泣き腫らした瞳がようやく落ち着いたのを確かめて、はやてはリビングへと向かった。

リビングに足を踏み入れると、シグナムらが何やら揉めていた。
「だから、こんな物を作り置くなッ!」
シグナムは2?のペットボトルを持ちながら、シャマルに詰め寄っている。
「こんな物って何!?健康を考えて作ったのに!!」
フルフルと首を振りながら、シグナムに反論するシャマル。
「こんな物が健康に良い訳無いだろう!?主はやてが誤って口にされたら、どうするつもりだッ!?」
「大丈夫よ!さっきだって配達の人にあげたもの!」
「被害を広めるなッ!」
「被害って何ッ!?」
喧々囂々と言い合う二人にはやては唖然としていた。
と、ここまで黙っていたヴィータが思い出したように言った。

「そういや帰ってくる時、配達用のトラックが事故ってたな……?」
「あぁ……突然ドライバーが意識を失ったとか言っていたが……」
と、ザフィーラ。

「……………………シャマル」
「シクシクシク………」
こうして魔のシャマルブレンドは、自然の循環に還ったのだった。

「うん、いつも通りやな」
うむうむと、はやては頷いた。



晩御飯は、連音の送ったきし麺だった。
はやてはきし麺に合いそうな付け合わせを色々と作り、どれが合うなどと言いながら賑やかに時間は過ぎていった。







夜の住宅街は思いの外暗く、星が良く見える。
はやてはシグナムに抱き抱えられてバルコニーに出ていた。

「う〜ん、涼しくなったなぁ〜」
「そうですね。あの茹だる様な暑さが丸っきりありませんね」
この星空を、遠くにいる大切な友人も見ているのだろうか。
そんな事をはやては思ってしまう。

「そういえば、主はやてのご友人ですが」
「へっ!?な、何や…いきなり?」
「いえ…どのような方なのか、気になったものですから……それが何か?」
余りに絶妙なタイミングに思わず動揺してしまったが、すぐに立ち直る。
「う〜ん、そうやなぁ〜……。一言で言うなら………フラフラしとるな」
「フラフラ……ですか?」
「うん、フラフラや。ちょっと目ぇ放すと、どっかに消えてしまって……すぐに怪我したりするんよ。
ほんまにどうしようもないやつなんよ……甲斐性無しっちゅうか、ダメ男っちゅうか……」
本人がいないのを良い事に、言いたい放題でのはやて。
シグナムも、ちょっと苦笑いを浮かべている。

「―――せやけどな」
「…?」
「今、わたしがこうしていられるんは……皆、連音君のおかげや。
危ない所を助けてもらって……。もし、連音君が居らんかったらこうして皆にも会えんかったんよ……。
連音君と出会うてからは……ほんまに楽しかった。
会う度に驚かされたり……知らん事を知れたり……自分の今までを根っこから引っくり返されたみたいやった」
「主はやて……?」
シグナムは気が付いた。主と呼ぶ少女の瞳に浮かぶものがある事に。

「ご、ゴメン……なんや、目にゴミが入ったわ……」
はやては慌てて涙を拭う。
「主はやては、そのご友人……辰守連音でしたか……彼に会えない事が寂しいのですか?」
思った事をシグナムは口にした。
「え、あ……まぁ……せやけど、寂しくは無いよ。お父さんもお母さんも…もうお星様やけど、援助してくれる小父さんはいるし」
「確か、御父上のご友人……でしたか」
「うん。離れて会えん友達も居るけど……こっちでできた面白い友達は一杯いるし……それに、な」
はやてはシグナムの首に腕を回し、ギュッと抱きついた。
「――っ!?」
いきなりの事にシグナムの顔が崩れ、驚きに紅潮する。
「今は……皆が居るからな……!」
そういって、はやてはシグナムの胸に顔を埋めた。


「―――主はやて」
「何……?」
「本当に…宜しいのですか?我らはあなたの命令さえあれば、すぐにでも収集を行います。
そして、書が完成すればあなたは大いなる力を得られる。この足もきっと治るでしょう……。
そうすれば……きっと、ご友人にも会いに行けます」
シグナムがそう言うと、顔を埋めたままはやては首を振った。
「それはあかん。自分の為に人様に迷惑を掛ける事は良くない事や。
前にも言うたやろ。現マスター八神はやては、闇の書には何も望みは無い、て」
「………」
はやての言葉に、シグナムは沈黙する事しかできなかった。
腕の中の小さな少女の、大きな心が温かく、未だ戸惑う自分に気が付いたからだ。
「シグナムは皆のリーダーやから、約束してな。わたしがマスターの間、そんなんはお休み。
この家で仲良く過ごす事。それが今のお仕事や。約束できる…?」
顔を上げたはやてをしばし見つめ、シグナムは優しく微笑んだ。
「―――誓います。騎士の剣に懸けて」


「はやて〜っ!」
突然、リビングからヴィータの元気の良い声が届いた。
「何や、ヴィータ?」
「冷蔵庫のパイ食って良い?那美の持ってきたヤツ!!」
「お前……あれだけ夕食を食っておいて、まだ食う気か…!?」
シグナムが呆れた声を出すと、ヴィータは口を尖らせた。
「良いだろ別に……育ち盛りなんだよ!それに、何かすぐ腹減るんだもん……素麺みたいに」
「む……それは確かに」
「あはは……ああいうんは消化が良えからなぁ〜。しゃあない、一切れだけやで?」「おーっ!」
はやての許可を貰うと、ヴィータはドタドタとキッチンに向かった。

「全くあいつは……申し訳ありません、主はやて」
「良えって。わたしらもお茶にしよか?」
「―――はい」
チリン、と風鈴が音を鳴らす。
その音色を聞き、シグナムは思った。
(辰守連音か……。いつか出会う時が来るならば……礼を述べねばな)
はやてを救ってくれた事。そのおかげで、自分達は大切な人に巡り会えた事。

真実を伝えても理解されないだろう。
だが、それでも。

ありがとう、と伝えたい。

シグナムは心で、もう一つの誓いを立てた。




















時は穏やかに過ぎていく。

残酷なる運命を告げる瞬間まで。







舞台は一面の銀世界。
激突するは鋼の刃。


「我が名はシグナム。夜天の守護騎士、ヴォルケンリッターが一人……剣の騎士、シグナムだ……貴様の名は?」



「忍に名を尋ねる事は愚行だ……。だが只一つ、これだけを刻め」



「………」
「竜魔。それが、貴様を殺す存在だ……!」











「夜天の守護騎士、ヴォルケンリッター……ついに動き出したか」
光無き世界で彼女は呟く。
その手にあるのは一人の少女の写真。

「今代の夜天の王……そして刻見に記されし、最後の王か」

その中で微笑む、車椅子の少女。

「八神はやて………お前は如何なる終末を与える……?」








そして、幕は再び上がる。








では、拍手レスです。



※シャドウダンサー感想 
青龍が曲がるウォーターカッター、玄武が捕縛、白虎が近接打撃ってどうでしょう?
やっぱ四聖獣を統べるのは麒麟でしょ。


ウォーターカッター……凄そうですねw
白虎の近接打撃は、実は考えていました。玄武の捕縛……凄い大規模になりそうですねwww

五行説だと土行は黄龍か麒麟なんですよね。(五獣だと黄麟。五竜だと黄龍とも)
作品中では五行に対して、青龍、朱雀、黄龍、白虎、玄武で行きたいと思います。

麒麟も格好良いので、四霊の方で何とか……。後、ウォーターカッターもw

アイデアの方、ありがとうございました!


※犬吉さんへ 
青龍、朱雀、玄武、白虎の次にあえてつけるとしたらやはり麒麟ですかね?
4聖獣は東西南北を守護して中央に皇帝が立つものですから・・・。
麒麟は確か聖人ひいては皇帝が誕生するときに現れるはずですからまああっているはず。
ただ、五行の残りは雷関連の攻撃になると思うんですが、関係ないんですよね、麒麟・・・。


まさかの麒麟二票!?麒麟大人気ですかっ!?www
確かに麒麟には、瑞獣としてそういった話がありますね。
黄龍の代わりだったり、【天上の黄龍、変じて地上の麒麟】といった風に同一視されたりしています。
あ、木行は風と共に雷も担っています。(作品中はそういう事になっています)


※犬吉さんへ 
たとえ嘘の記憶でも、それを感じるキミの心は本物なんだからフェイト、
キミの思い出はキミだけのモノだよ。


植え付けられた偽りの記憶も、今は大切な記憶に。
一時でも、プレシアと過ごした時間も掛け替えのない思い出です。
フェイトの為に残された想いを胸に、彼女も旅立ちます。

待ち受ける苦難も、きっと乗り越えられるでしょう。






拍手の方は、管理人であられるリョウさんの手によって分けられております。
引き続きまして、何方宛か分かる様にご協力をお願い致します。

そしていつもご協力の方、感謝いたします(ペコリ)









作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。