魔法少女リリカルなのは Crossing of the Fate 
Stage6「戦闘訓練と穏やかな日常」

side - Emiya Shirou

時刻は夜8時。俺は現在なのはの部屋に招かれている。

普通に考えて、女の子の部屋(しかも夜)に入室するなんて、言語道断だが今回は特別だ。

魔法少女なんて言葉の響きはともかく、実際問題とてつもなく危険な少女と出会ったのだ。

対策に加えて、なのはからお願いされたなのはの戦闘力強化プログラムを考えなくてはならない。

「まず、あの『死神風味な金髪少女』の戦闘力は」

「あの・・・もうちょっとわかりやすい名称にしてくれないかな」

「わかった。じゃ、少女Aね」

「犯罪者みたいだよ!?」

金髪少女だとアリサと被るし。死神少女にしようかと思ったが、なんか人道的にまずそうな気がする。

少女だけだと誰だかわからんし、これが妥当だと思っておこう。

なのはのツッコミは気にしない。

「せめて・・・少女にしてあげようよ」

「わかりづらいから、少女Aでいいって。まぁ、速度は大したものだけど、技術はイマイチだな。
 あれなら、恭也さんの方が遥かに強いし」

「えっと・・・お兄ちゃんはそこまで人外じゃないんだけど」

「何!? 俺なら『少女Aと恭也さんどっちを相手にする?』って聞かれたら、迷いなく少女Aと戦いを選ぶぞ!」

うん。間違いない。恭也さんと決闘なんて金輪際断る。

あの人と決闘なんてしたら、間違いなく死闘になるし、剣だけでは絶対に勝てん。

決して、俺の趣味で対戦相手を選んだのではないので、あしからず。

「まぁ、今のなのはじゃ普通に勝てないな。あっちは戦闘訓練まで積んでるし、どうみても魔法の扱いに慣れてたし」

「で、でも・・・」

「はいはい。勝てるようにプログラムを組むから、話を最後まで聞く。
 とりあえず不利な条件を幾つかに挙げるから、それで戦えないというなら、諦めてくれ」

と言うと、なのはは神妙な顔をして頷いた。

よほど、決意が固いようだ。

「まず、運動能力の時点で違うな。あの速度を制御しきれてないとはいえ、出せる時点で相当だ。
 逆にこっちは、何もない所で転びそうだし」

「う・・・」

なのはの運動神経が切れてるのは、すでに周知のことだ。

「接近戦じゃ万に一つも勝ちはない。かと言って、遠距離戦の魔法もあっちは種類豊富みたいだし」

現時点で、確認できた遠距離魔法は2種類だが、なのはに向けた魔法弾(フォトンランサー)を見る限り、
幾つかのバリエーションがありそうだ。

今回は収束して放つことと通常仕様だったようだが、他にもあるかもしれない。

加えて、なのはが使える砲撃魔法「ディバインバスター」と同種の魔法もあるかもしれないとユーノは言っていた。

鎌状の魔法を飛ばせる以上、攻撃の制御はかなりスゴイらしく、ありえるとのことだ。

「で、ユーノ。攻撃魔法や防御魔法以外にどんな魔法があるんだ?」

「そうだね・・・バインドっていって、相手を捕縛する魔法とかが一般的かな。多分、相手はそれが使えると思う。
 他にも、速度強化とか色々だよ」

「・・・むぅ。あのスピードが更に速くなるのか? そんなの使われると本当に俺以外対処できないじゃないか」

補助魔法にしても、空を飛べるという魔法は相手も当然のように使えていたため、アドバンテージにならない。

やはり、あの少女の魔法技能はなのはよりも上である。

「う、うう。ほ、本当になんとかなるの?」

「なるじゃなくてする。まぁ、任せろ。とりあえず、この中で一番魔法に詳しいユーノに確認したいことも多々あるしな」

「いいけど・・・どんな訓練するんです?」

「とりあえず、接近戦は心得と回避するための戦術以外はなし。基本は遠距離戦でいく」

これはすでに俺の中では確定事項だ。疑問点はユーノが挙げてくれるから、解説もラクチンである。

「なぜです?」

「はっきり言って、時間がない。接近戦は反射で行えないと意味がないから、最低限のものを覚えさせるのに、最低1ヶ月はかかるし、
 それ以後も継続しないと意味がない」

「なるほど」

「それになのは感覚で『ディバインバスター』を組んだ魔導師だ。それ以外の魔法に関しても、ある程度習得が早いはずだ」

今の段階では、なのはは基礎も全くない更地の状態だ。

ならば、得意分野の基礎を構築した上で、苦手なものを埋めていった方がいいだろう。

「とりあえず、覚えてほしいのが、少女Aが使っていたフォトンランサーと同種の魔法。これは最優先で頼む。
 牽制で4つ展開してたから、こっちもそれぐらい。できればそれの2倍展開できれば、心強い。
 回避用の飛行パターンを幾つかレイジングハートと研究。防御はユーノが硬いシールドのプログラムの見本を展開してくれ。
 それらをなのはの感覚で魔法を組んでくれ。
 あと優先順位は低いが、補助魔法のバインドもできれば欲しい。できるか?」

「なのはは魔法についての癖が全くないから、基本はすぐに覚えられると思う。だけど、操作性や制御の向上に時間がかかるかも」

「魔法を覚えたら、それらは実戦で向上させる。相手は俺だ」

「ふーん・・・って、ええ!?」

なのはが驚きの声をあげる。だが、急ピッチで仕上げるのだから、これぐらいは当然だ。

「訓練と実戦では入る経験値が全く違う。急ピッチで行く」

「で、でも・・・いきなり士郎くんなの!?」

「いきなり、少女Aと戦闘するつもりか? 無理だろ?
 それに実戦の空気で必要最低限の心構えも平行して教える。時間がない以上、密度を濃くする」

できるなら今日から始めたいが、ジュエルシードの封印を行っている以上、難しい。

「それと、伝えておく。最初の1、2回・・・いや、3回ぐらいは負けることを覚悟しろ」

「え、ええ!?」

「ちょ、士郎!?」

「時間が足りなすぎる。俺との実戦訓練でもどこまで補えるかわからない。
 だから訓練の実戦ではなく、本当の実戦でも感じ取れるようになってくれ」

たぶん、絶対に1回は負けると思っている。現在の差はそれほど大きい。

だが、負けは確実に現在の自分をスケールアップさせる。相手が強いなら尚更だ。

「だから、なのはが負けたと判断したら即座に俺やユーノのサポートに回ること。
 あと、こっちで負けだと判断したら、勝手に乱入するからあしからず」

心理的に決定的なダメージを与えないためでもある。仲間の大切さをよく叩き込んでおこう。

仲間を介してでも勝ちは勝ちなのだから。

負けを俺が判断した場合は、逆により高い上昇を見せる可能性もあるしな。

「とりあえず、だ。なのは」

右手中指を親指で引っ掛け、額の前方に突き出した。まぁ、デコピンの体勢である。

「にゃ!?」

「・・・目を瞑るな」

なのはが目を瞑ってしまった。俺はデコピンの体勢を解き、解説した。

「今日は魔法訓練はなしだ。とりあえず、戦闘時の心構えその1.目は自分から絶対に瞑るな。
 相手の動きから読み取れる情報・・・今回は最悪でも魔法が発動するかは読み取れる。それを捨ててはいけない」

「う、うん」

「あ、そうだ。実戦訓練で目を瞑ったら1回につき、訓練とは別にデコピンかしっぺ一回ね」

「ええ!?」

「あと、もう一つ。もし戦闘中に体勢を崩されたり、倒されてもすぐに元に戻すこと。
 絶対に崩れた体勢のまま戦おうとはしない。敵の攻撃が凄くて戻れなくても、戻せるように考えて行動することだ」

とりあえず、大原則だけはまず教えておこう。

本当に平和な日常を謳歌していたのだから、荒事は何も知らないと思っておくべし。

「この二つは戦う以上、絶対原則だから、注意して実戦すること」

「はい!」

「それと、なんだかんだで呼吸も大事だから、今から教える呼吸を練習しておいてくれ。これは必ず毎日行う。
 学校の授業中でも可能な限り行っておくこと。常に意識しておいてくれ」

なのはは神妙に頷いた。

「あと、それと無茶な訓練は認めん。睡眠時間を削ったりは絶対にしないこと。
 日に日に訓練メニューは強化していく方針だから、訓練の効率も悪くなるしな」

なのはがやはり不満そうな顔をしている。

・・・ならば、体を使わない訓練を行おう。

「どうしてもしたいなら、イメージトレーニングだ。俺が今日、あの赤い狼の顎を跳ね上げた時の攻撃を思い出して、
 自分があたりそうになるイメージを持て。それで、目を瞑らないというイメージを行うこと」

とりあえず、俺からの現時点でできる訓練を教えておいた。

ユーノとレイジングハートを交えた魔法修行に関しては、魔法の習得にプラスして、マルチタスク(同時思考)の訓練を行うこととなった。

魔力負荷(別名、魔導師養成ギブス)はなし。今はジュエルシードの回収もあるため、魔力の負荷はリスクが大きいため、見送りとなった。



謎の少女とのジュエルシードを巡る戦闘。

そのための土台作りが始まった。



   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



今日から魔法訓練。

講師は当然ユーノ。デバイスであるはずのレイジングハートも気合十分のようだ。

見ていて思ったのだが

「・・・呆れるばかりだ」

昨日、言っておいた『射撃魔法』を即座にプログラムしてみせた。

ユーノ曰く、細かく区分すると『フォトンランサー』と違うんだけど、大別すると同系統ですよ。とのことだ。

その理由から、本当に自分で考え、今すぐ即興で組んだらしいことも伺える。

だって、練習してたなら普通に『フォトンランサー』と全く同じ(電気は別にして)もの作ってるはずだし。

ちなみに、魔法名は「ディバインシューター」。現在は2つ顕現させており、無理すれば3ついけるとも聞いている。

さて、実戦開始と。

「じゃ、始めるぞ。とりあえず、両手両足に5kgの重りつけてるから、『ディバインシューター』で俺に攻撃すること。
 俺への攻撃回数は最大10回。フェイントは当然認める。結構、遠くにいるから細かな制御ができないと当たらないぞ」

ちなみに5kgにしたのは、俺はどちらかというと防御を重点的に行うが、同時に可能なら回避もするからである。

腕の重りは、腕の動作や受け流すための動作を遅くするための措置であり、足の重りは回避運動を極力抑制するためのものだ。

回避できないのに、魔法弾を当てられなければ、これからが話にならない。

所謂、初心者のための訓練である。

「う、うん。でも、大丈夫?」

「気にするな。それと油断するなよ? 俺もこの」

と言って、取り出したるは吸盤付きの矢を数点。

「矢で攻撃するから。額にくっつかないようにしっかり防御すること。あと、昨日言った罰は当然有効だから」

「は、はい!」

少し緊張気味だが、これぐらいで緊張してたら話にならない。

・・・教えるつもりはなかったが、ペナルティも教えておこう。

さらに、ガチガチになるか、それとも逆に緊張がなくなるか。二つに一つ。

「それと・・・結構吸い付きがきついから、今日一日は額が赤くなるから。・・・ま、恥ずかしい思いをするだけだ」

「は、はじめて聞いたよ!?」

「今、言ったからな」

なのはが文句を言っているが、聞こえなーい。

少しぐらいはメリットがあってもいいだろうに。(主にからかい関係で)



ちなみに、結果はなのはの魔法弾の制御向上を認め、最後の訓練で俺の防御をすり抜け、
腕に掠らせる(ちょっとおまけした)ことに成功した。

・・・ただし、なのはは代償として、額がもの凄く赤くなり、左腕の一部が赤くなり、ヒリヒリしているが・・・まぁ、余談である。




   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




訓練開始から3日。

そろそろ、日常生活と混同してくる時期でもあるので、日常は日常として、訓練は訓練として過ごすようにと伝えている。

日常に魔法のことを持ち込むと雑念が入るし、逆も効率が悪くなる。

特になのはは悪いことを考えるとそのまま迷い込む傾向にあるので、精神のケアは入念にしなくてはならない。

新たな訓練と今までの訓練の難易度強化Verも同時に行っていた。

ちなみに、目を瞑るなという教えに関しては、もうほとんど大丈夫だ。

よほど、しっぺやデコピンが痛かったらしく、よっぽど危険なことがない限りは平気になった。



・・・濃度が濃い塩水を一滴だけしっぺした腕に垂らしてみたのが、よほど効果的だったのだろう。



あと、呆れるばかりだったなのはの魔法の才能だったが、やはり天井知らずだ。

俺に直撃させるのはまだ無理だが、それでも現在5発の制御に成功しており、操作も手慣れてきている。

紆余曲折はあったが、攻撃に関してはいい出来に仕上がってきた。

追加訓練は、ディバインシューターの有効活用方法の教育とバスターの併用も同時に考えなくてはならない。

防御は構成する時間を短縮する方法はもとより、時間をかけて、かなりの強度になる防御プログラムを現在練習中だ。

飛行パターンは連日の実戦訓練をもとに、レイジングハートが都度修正を行っている。



・・・ていうか、1、2回は負けるから。と言ったことを撤回してよろしいでしょうか?

想定外だが、初回から勝ってしまうかもしれん。



そんなこんなの訓練模様だが、俺の聖祥の入学が正式に決定した。

来週の月曜日であり、転校記念も連休の温泉旅行で並行して行うとのことだ。

ちなみに、発表場所は『翠屋』の厨房である。(転校初日まで、お手伝いをすることにした)

それはいいのだが・・・

「じゃ、士郎くん。制服を作りに行くわよ」

「・・・あの、言う前からわたくしめは捕まっているのですが・・・」

なんだったのだろうか。あの速さは。

気がついたら、桃子さんに捕まっていたという、非常に不条理な結果が今の俺を包みこんでいる。

「えー。だって言ったら士郎くん、勝手に行って、勝手に作って帰ってきちゃうでしょ?」

「いや、普通はそうだと思いますよ?」

「それじゃ、楽しくありません。今日は士郎くんのお洋服を買いますからね」

・・・やばい、ある意味、遠坂や恭也さん以上の天敵である。

しかも、遠坂たちのように悪意があれば、少しは反撃できるが、完全に善意だから何もできないのである。

「・・・とりあえず、運動しやすい格好にしてください」

ならば、諦めて謳歌しようじゃないか、こんちくしょう。



替えのジーパンとシャツ、その他の服も数点買ってもらった。

ちなみに、桃子さんのセンスはかなり良かったので、動きやすいが格好いいという二つを両立するコーディネイトだった。

「うーん。恭也は絶対に黒にしちゃうから、選び甲斐がなかったのよね。士郎くんは何色がいい?」

「あ、できれば上は赤っぽいのでお願いします。それがなければ・・・」

・・・誰だ。趣味がアーチャーだと言うやつは。

セイバーのイメージである白もいいかと思ったが、俺に白は似合わないしなぁ。

「なんか、シルバーがアクセントになってるやつ、または黒をアクセントにしてください」

そうだな。セイバーは他に銀のイメージがあるし、それにしよう。

なんだかんだで、黒も好きだし。

・・・絶対に金色なんて、悪趣味なものは選ばないぞ。子供Verはともかく大人Verは今でも嫌いだ。

「はーい」

桃子さんが非常に楽しそうだし、買い物に来てよかったと思うことにしよう。



   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



とりあえず、一通りの買い物が終わり、あとは帰るだけだったが、桃子さんの主婦仲間に捕まってしまった。

桃子さんは翠屋のチーフでもあるので、主婦からの人気は絶大だ。

非常に楽しそうに、談笑している。

なぜか桃子さんと主婦全員が俺を見て、笑っていたりしたが、どういうことだろう?

「あ、先に帰りますね」

「うーん・・・しょうがないか。ごめんね」

「いえ、気にしないでください。ただ、なんで俺見て笑ってたんですか?」

「ふふふー。内緒」

非常に楽しそうな笑顔だったので、これ以上の追求はできそうにない。

・・・ちょっと、見惚れたのは俺だけの秘密である。



まぁ、そんな感じで俺は帰ろうとしたのだが

「何故に俺は図書館に足を運んでいるのだろうか?」

まぁ、あれだ。

こちらに来て、俺は図書館とスーパーしかまともに見学していないのが、主な理由だろう。

魔法の調査を行う必要はほぼ無くなってしまったのだが。

ユーノに確認したのだが、この世界に魔法と呼ばれる技術はないという結論を貰っている。

だが、所謂『裏の世界』では魔法に似た技術が幾つかあるとも同時に聞いている。

あくまでも似ているだけとのことなので、俺は気にしていないのだが・・・

(とりあえず、裏がどれだけ強大かわからないので、今はパスだ。それよりも、ユーノに魔法関係を調べて貰った方がいいだろう)

現実問題として、いつかは関わることになるかもしれないが、それでも現在の肉体では難しいだろう。

ぎりぎり一般人(だろう・・・うん。きっと)のはずの恭也さんがあれだけの実力者だ。

相当に危険だということは予想がつく。

しかも、魔術を見られでもしたら、科学者の玩具になる可能性も高いし。

だから、今は準備する。俺の実力が高くなるまでは

とりあえず、伝記でも読むか。

元の世界とこちらの世界の違いを確認してみるのも面白いかもしれないし。



   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



伝記のコーナーに移動中だが、危なっかしい車椅子の少女がいた。

(足が悪いのかな? 本を取りづらそうにしているし、手伝うか)

とりあえず近づいて、目当てのものと思われる本を棚から抜き、少女に手渡した。

「はい」

「おおきにな。これが読みたかったんよ」

関西圏のイントネーション。

だが、特有の語気の強さはなく、むしろ包み込むような暖かさを持っている。

せっかくだから、話しかけてみるか。

「そのアーサー王の伝承が読みたかったのか?」

「えへへ。やっぱり、アーサー王ってかっこいいやん。円卓の騎士とかもな」

・・・俺の世界では女の子で暴食王で、祖国の料理で難しい顔をしてますよ。とは言わないでおこう。

絶対に信じられないだろうし、もし事実だとわかっても、憧れ具合が深ければ、精神に多大なダメージを与えるかもしれん。

「騎士に憧れてるのか?」

「うーん。やっぱり、女の子である以上、一度は自分にだけ仕えてくれる騎士とか従者に憧れるもんなんよ」

「そうか」

色々あって、女の子の幻想は吹き飛んでいたが、こういう反応もあるのか。

なのはにも何故か頭頂部にレイジングハートで叩かれたため、こっちの女の子も同類化と思っていたのだが・・・



・・・お兄さんは嬉しい。



「そうか。そのままの心を持って、大きくなってくれ」

「あれ? なんで泣いてるん?」

「気にしないでくれ。俺の知り合いと対比すると、君から後光が見えるくらいだから」

「ちょ!? いきなり、仏扱いなんか!?」

うん。中々ナイスなつっこみだ。

ツッコミがドツキツッコミでは無いのが好感触。

「とりあえず、冗談はこれくらいにして、他に何か取ってほしい本あるか?」

「・・・ほんとに冗談やったんか? 切実な匂いを感じたんやけど」

「気にするな。俺はアルスター伝説の話でも読むか」

誤魔化しておこう。

日本ではマイナーだが、欧州では非常にポピュラーな話であり、確認したいこと−というよりもランサーの部分−を読むことにしよう。

「あるすたー伝説? どんな話なん?」

「ああ。ケルト神話でな。クー・フーリンって聞いたことある?」

「それなら聞いたことあるわ。なんでも、槍の達人でその槍は必ず心臓を貫いたって」

「あ、よく知ってるな。あんまり、日本じゃメジャーじゃないのに」

重ねて言うが、日本では本当にマイナーな部類に入っている。

ランサーは気にしていなかったが、欧州で聖杯戦争を戦っていたらと思うと、ゾッとする話である。

「うちの生活を支援してくれる小父さんが欧州の人でな。その関係で小話もしてくれるんや」

「生活の支援? じゃぁ・・・」

「・・・うん。あたしな一人暮らしなんよ」

「・・・ごめん」

またしても、余計なことを言ってしまった。

ぼかしていたが、親がいないのだろう。ただし、少女が手を思い切り横に振って

「気にしないでええて。一人暮らしやけど、病院の人たちだって、優しいし。近所の人も優しい。
 援助してくれる人もおるしな。それに・・・いつかは慣れてしまうんや」

そう言って、黙ってしまった。

周りの人たちは優しいから。だから、自分は大丈夫だと。

だけど、認めるわけにはいかない。

「そんなの嘘だ」

「えっ」

「親が死んだって言って、慣れるなんてことあるもんか・・・絶対に」

俺自身、言ってて語気が強かったと思う。

言い終わって、思い切り歯を食い縛って、これ以上の言葉は発しないようにする。

少女は微笑んで

「そうやね・・・そんなこと言っちゃダメやし、思ってもダメやね」

俺を見る目が、とても優しかった。

なんとなくだが、俺の境遇も悟られたっぽいな。

だけど、一人の少女が納得してくれてよかったとは思う。

だって・・・親との思い出は残して置くべきものだし、その死が慣れることは許されない。

慣れてしまったら、大切な何かがが消えてしまうはずだから。

「・・・ありがとな。えっと・・・」

「士郎。衛宮士郎だ」

「じゃ、衛宮くん。ストレートに言われた衛宮くんの言葉で結構傷ついたんや」

「う・・・それはすまん」

うう。俺は言葉をストレートに言ってしまうため、結構傷つけることがあるとよく言われる。

それが、こんな状況でも発動するとは

「じゃ、お願いがあるんやけどな・・・今日一日。あたしの読みたい本を取ってきてくれんか」

人差し指を上げ、にっこりと微笑んだ。

なんというか、包み込むような笑顔をする少女だ。

「あたしの名前は、はやて。八神はやてや」

当然、そのお願いは引き受けるつもりだが、なんと答えるべきだろうか。

検索をかけてみて、あっさりと答えが出た。

「お手伝いさせてもらいます。お嬢様」

少女のささやかな願いぐらいなら、叶えよう。

なんだかんだでルヴィアの執事の真似事をしていたため、作法もバッチリだしな。

きょとんとしていているが、すぐにまた笑い出した。

「あはは・・・なんやの、それ?」

「む? 騎士とか従者に守られるような存在に憧れてるんだろう?だったら、今日一日だけ、俺は八神の騎士でも従者にでもなるさ」

「普通に名前でええよ。衛宮くん」

「ならそっちもだ。はやて」

俺とはやても口元に笑みが浮かんでいる。

ま、こんな出会いもいいだろう。

俺たちは名前で呼び合いながら、図書館で本の内容について、語り合い、読み合った。



   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *



俺はというと、現在帰路についている。

はやてに関しては伝記だけではなく、栄養学の本も読んだりもしたため、結局はやてにも俺は料理好きという認識が広まった。

・・・俺は本当に料理人か執事に転職したほうがいいのかもしれない。

とりあえず、伝説の類についてはそんなに違いがない。

少なくとも、大元は一緒のようだ。細かい伝承は若干違うようだが、それは本が悪かっただけの可能性もあるし。

要調査事項である。

さて、と。

「この場所に留まることになりそうだし、本格的に散策しようかな」

敵方の魔法少女と戦う可能性はかなり高い。

ならば、場所を確認する必要がありそうだな。

と言って、俺は近くの公園に入った。




   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *   *




自然も多く、実にゆっくりとできる広さを保つ公園。

すぐそばで海も見え、実に素晴らしいロケーションである。

出店もやっているようで、近くにたいやき屋が開店している。

少し奥に行けば、釣りスポットまであるというとんでも公園。

さぞかし、地元でも人気の公園だろう。だが・・・




この明らかに険悪空間を作り出している、赤い狼を引き連れた金髪の少女と俺が対峙してなければな。




「な、なんでさ・・・」

「・・・それはこっちの台詞です」

金髪の少女が俺の驚愕の声に合わせて、丁寧なツッコミをくれた。

・・・うん。さっきと違って、全く嬉しくないね。

やはり、先程の魔法少女との戦闘と思ってしまったのが悪かったのだろうか。

俺ってこういう時は絶望的に運が悪いし。

ちなみに、少女は黒い洋服と白いスカートを履いている。

「はぁ・・・っていうか、何してるんだよ」

「それはこっちの台詞です。アルフがあなたの匂いを感じた時は、この場から逃げようと思ったくらいです」

「じゃ、なんであんたから話しかけてきたんだよ?」

「・・・確認したいことがあったからです」

非常に不本意そうな顔をしながら言っているあたり、相当に嫌われているようだ。

まぁ、使い魔を一時的に戦闘不能にした挙句、少女自身も投げ飛ばしたりしたのだから無理もないが。

「先日の質問をもう一度だけします。あなたは何者ですか?」

「いや、なのはの・・・あの白い女の子の協力者だよ、俺は」

「・・・あなたの魔法は私たちの魔法・・・『ミッドチルダ式』じゃない。全く違う魔法体系です。答えてください」

真っ直ぐな瞳で俺を射抜いてくる。

クールそうに見えるのだが、結構な熱さもあるのかもしれん。

「悪いけど、あまり俺の魔法は人に見せるわけにはいかないんだ。俺の魔法はかなり特殊なんでね」

「・・・ごちゃごちゃ言ってないで! さっさと教えな!」

と、赤い狼が俺を罵倒してきた・・・って、はい?

「えっと・・・この狼喋るのか?」

「そうです・・・アルフ、今晩はお肉抜きだから(ボソッ)」

がーん、と狼―アルフだったか―がショックを受け、闇が見える。

まぁ、迂闊だったからなぁ。一般人に見られたり聞かれていないのが、せめてもの救いか。

狼はかなりの直情傾向で口が悪いと。

そんな使い魔を見ずに、少女の質問は続く。

「あなたの目的は?」

「これも、この前言った通りだ。あれ以上の理由はない」

「・・・では、あなたの見返りは?」

「え? 特にはないぞ?」

少女が唖然とした表情をした。

むぅ・・・傷つくなぁ。

「あ、違うな。時間が空いたら、ちょっと調べてほしいことがあるから、その調査を依頼したくらいだな」

「・・・それだけのことで・・・あなたは危険に飛び込んでいくんですか?」

「君にとっては、それだけのことかもしれないけどね。
 まぁ、実質見付かるかどうかもわからんことだし、見つからなかったら、別の方法を考えるさ」

ユーノが知らない以上、他の人が知っているかは、かなり怪しいのではないか。

俺たちの世界の魔術師にしても、平行世界の移動について方法はともかく、どのような結果をもたらすかは知っているのだ。

だが、この世界の魔法の住人―しかも、考古学者―が知らない以上、普通の手段では見つからない可能性が高いと思っている。

「わかりません・・・あなたの行動理由が」

「・・・ま、気にしなくていいよ。で、俺からも質問があるんだけど」

「なんでしょうか」

「俺の目的を聞いた以上、そっちも答えてもらえないかな」

まぁ、ダメもとで聞いてみた。

行動を起こす以上、答えてもらえないとは思うが、聞くだけ聞いてみよう。

「あなたに言う必要はありません」

「だと思った。・・・じゃ、あと一つだけ。今、俺たちは対峙しているけど、これからどうする?」

はっきり言って、今すぐに戦闘が始まってもおかしくない状況だ。

いや、むしろなのはやユーノがいない以上、ここで俺を戦闘不能にする絶好の好機だ。

襲わないほうがどうかしてる。だが

「・・・襲いません。あなたと戦うのはもの凄く危険ですけど、わたしはあまり人を傷つけたくないんです」

ふむ。ジュエルシードを封印して回収するのは絶対だが、その時以外は人を傷つけたくないのか。

ちょっぴり、好感が持てる。

「不器用に動くなぁ。今なら、誰にも邪魔されずに2対1なのに」

「・・・それでもです。ただ、ジュエルシードに関しては諦めませんから」

「ああ。わかった・・・でも、そういう不器用な娘、俺は好きだ」

「な!?」

うん? どうしたんだろう? 顔が赤いんだが

「と、とにかく! こ、今度会ったときは負けませんから!」

「あ、今度君と戦うのは、なのはだから」

「・・・あの娘では勝てませんよ?」

「勝てなかったら、俺が戦うさ。次回から、俺は基本サポートに回って、負けたら俺の出番なんだ」

少女が考え事をしている。そういえば

「なぁ、名前を教えてくれないか? 俺たち、君の名前知らないから、適当な呼称をつけて呼んでるんだ」

「どんな呼称なんです?」

「えーと、俺が命名したのは『少女A』でな。ちなみに他の案として『死神風味な金髪少女』とそのままな・・・」

「絶対にやめてください!? なんなんですか!? それは!?」

「あれ? 死神ってわかるの?」

意味分かるのか? いや、わからなくても物騒だとは思ったのだろう。

と、思ったが

「この世界に来る前に勉強しました! ほ、他はどんなのつけたんですか!?」

「いや、他はないぞ。ちなみに『少女A』はこっちでいう未成年の『犯罪者』の呼称でな。そのままだろ」

「うう・・・な、泣いていいかな、アルフ、リニス」

表情の動きは少ないが、感情の動きは大きいみたいだな。

それと結構泣き虫かも。

「あとな。なのはには言わなかったけど、君のバリアジャケットは露出が多いから、色っぽく見えるぞ」

「ううう・・・」



――神ならぬ俺では知りようがないが、今日のこの出来事が原因で、後にフェイトのバリアジャケットの露出が少なくなったのだろう。



「まぁともかく、今の呼称がいやなら、名前を教えなさい」

「・・・フェイト。フェイト=テスタロッサです」

「フェイト、か」

名前もわかったからよしとしよう。それにいい名前だ。英語で『運命』か。

この娘の親のことは知らないが、きっと『運命』に負けないような娘に育ってほしいから、こんな名前にしたのかもな。

「フェイト、ね。いい名前だし、いい響きだ・・・うん。やっぱりよく似合ってるぞ」

そう言って、ちょっと背伸びして(フェイトの背は俺どころかなのはよりも高い)頭を撫でてみた。

そうしたら、顔を赤くして・・・そして、何故か懐かしむような顔をした。

この癖も矯正しないといけないな。

学生時代はイリヤによくやっていたが、今の年齢でやると違和感がかなり大きいことだろうし。

「つ、次に会うときは、戦いの場で会いましょう」

「ああ。じゃ、またな」

そうして、俺は背を向けて歩き出した。



ちなみに、夜の訓練中になのはに相手の名前と使い魔の名前が分かったことを伝えた。

そのさいに・・・

「ねぇ・・・もしかして名前を聞いて、よく似合ってるとか言わなかった?」

「あれ? なんでわかったんだ?」

なのはは黙ってしまったが、少しして小声で

「やっぱり、お兄ちゃん属性なのかな?」
 

って言うのが聞こえた。



だからなんでさ




 魔法少女リリカルなのは Crossing of the Fate Stage6 「戦闘訓練と穏やかな日常」 End
 Next Stage 「フェイト=テスタロッサ」




タイガー道場!! Stage6!!




注:)基本的に恐ろしくギャグ空間です。
   拒否反応がある方は読まないでください。



イリヤ:よい子のための、救済道場・・・じゃなくて、前回よりお城になってしまいました。

大 河:あはは。いやー、ここって本当にいいところね。

イリヤ:師匠・・・なにワインをらっぱ飲みしてるんすか?

大 河:え? うーん。ワインもいいけど、あたしの個人的な意見では日本酒が欲しいんだけど

イリヤ:そうじゃないっす!? なんで飲んでるんですか!?

大 河:えー? セラちゃんが「お客様は大事にする」って言って普通にくれたわよ

イリヤ:うう・・・本当にこのままだと乗っ取られちゃうんじゃ

大 河:(無視)さてと、本日のゲストは『冬木の大食い王』ことセイバーちゃんです。

セイバー:呼んでいただきありがとうございます・・・で、今の紹介文はなんですか?大河?

大 河:駅前のジャンボラーメン・・・(ぼそっ)

セイバー:!?

イリヤ:ホテルアラクネのケーキバイキング・・・(ぼそっ)

セイバー:!!?

大 河:焼肉バイキングでの大食い大会・・・まだ続ける?

セイバー:申し訳ありませんでした(土下座)

大 河:さて! セイバーちゃんが納得したので、続きを始めましょう。

イリヤ:えー。質問がありましたので、お答えしたいと思います。

・エクスカリバーの使用条件で体力が70%以上とありますが、これは、ラインを繋いだときだけなのか、
 それともアヴァロンの全接続の時も同様の条件で、体力が70%に回復する迄は使えないのかです。

大 河:アヴァロンの全接続時は、いつでも使用は可能です。
    ただし、前述した体力で使わないと、ペナルティーが増加する仕様になっています。

イリヤ:アヴァロンの全接続時は体力の回復も常時促されているので、そこまで深刻になる必要はありませんが、
    ここでもペナルティーありとなっています。
    ちなみに全接続時はスパ○ボで言うなら、『HP回復(大)』もついています。

セイバー:そうですね。やはり凛はシロウのことをよく考えている。

大 河:え? そう? 考えてるんだったら、ペナルティーを薄くしたりとかしない?

セイバー:それは違います。シロウは無茶をしますから、ペナルティーを薄くすると、それこそ見境なしに使用します。
     そんな事態にしたくないから、きつくしているんでしょう。

イリヤ:なるほどね。だから、自分だけの力じゃアヴァロンの全接続を不可能にしてるんだ。

セイバー:本人は認めないと思いますが、間違いなく。

大 河:本当に士郎のことを大事にしているのねー。だけど、それだけだと不安だから、最終安全装置みたいな形にしてるんだ。

イリヤ:こんな感じです。わかっていただけましたでしょうか。

大 河:まだまだ、質問は受け付けますからね!

セイバー:では、本日は

全 員:ご清聴ありがとうございました!!


・・・END?



大 河:で、セイバーちゃん・・・焼肉の大食い大会の決着・・・つけない?

セイバー:望むところです

イリヤ:って、ちょ!?相手って師匠だったんですか!?



終わっとけ



あとがき

今回、無印では直接関係ないのに『夜天の主』がついに登場しました。

ちなみに、士郎は魔力量についてはまだ確認してないです。(ここらへんは迂闊です)

今回より、ついにフェイトフラグまで立て始めやがりました。

この朴念仁はどこまでいくのでしょうか。

フェイトの心情描写は後の話で書くことになると思います。
(状況によっては、本編から削る可能性がありますが、形を変えてでも書きたいと思います)

ちなみに、現在すずかフラグの案まで考えていますが・・・どうなることやら。

なのはは強化プログラムの関係で、早期に悪魔または魔王化してしまう可能性が出てきてしまいましたが・・・本当にどうなるんだろ?

長々と後書きと本文を読んでいただき、誠にありがとうございました。





作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板

に下さると嬉しいです。