五話　真昼の遭遇

「た、太一さん！？な、何で此処に？キャンプに行った筈じゃあ・・・・？」

ドアの前にはキャンプに行った筈の太一さんがいた。

手にはピンク色のスライムみたいな生物？人形？の様なものを持って・・・・。

「あ、ああ・・やっぱり、ヒカリの様子が気になってな。途中で帰ってきたんだ。あ、あははははは・・・・」

太一さんはピンク色のスライムもどきを持っていないもう片方の手で頭を掻きながら、笑って俺にそう言ってきたが、それが苦しい言い訳だと俺はすぐに分かった。

大体途中で引き返すくらいならキャンプには行かないだろうし。

「太一、この子がヒカリちゃん？」

ピンク色のスライムもどきが突然人語を話し始めた。

そこで俺は何となくデジャブを感じた。

そう、プチモンが初めて喋った時と似たデジャブを・・・・。

　「バカ！！何普通に喋ってんだよ！！」

俺がデジャブを感じていると、太一さんがピンク色のスライムもどきの口を押さえつつ動揺しながらも俺を見てきた。

「す、凄いだろ！俺さ、ヒカリを喜ばせる為に腹話術を練習したんだぜ」

俺は太一さんの見え見えの嘘に何か見ていて可哀想になってきた気もするし、玄関前で騒いでいるのも何なので、俺は取り敢えず、太一さんを家の中に入れることにした。

「分かりましたから、取り敢えず家の中に入ってください。太一さん」

太一さんとリビングに向かっていると、

ガチャッ

「良介君、誰か来たの？」

　太一さんとヒカリの部屋の扉が開いて、部屋からヒカリが出てきて俺に聞いてきた。

「・・・・ヒカリ」

「太一、あの子がヒカリちゃん？」

太一さんがヒカリの姿を見てヒカリの名前を言うと、ピンク色のスライムもどきがヒカリを見て太一さんの顔を見ながら確認するかのように太一さんに聞いた。

それにしてもまた人語をしゃべったよこのピンク色のスライムもどきは・・・・。

「ば、バカ！！喋んなよ！！ヒカリ、コイツはな！！」

「コロモンも一緒に来たんだ。」

太一さんがピンク色のスライムもどきの口を押さえてヒカリに弁解しようとしたら、ヒカリが壁に体を預けていた太一さんとピンク色のスライムもどきにそう言った。

「ヒカリ・・・・何でコロモンの事を？」

「だって、コロモンはコロモンでしょ？」

太一さんがヒカリに聞くと、ヒカリは太一さんに質問を質問で返すような感じで言った。

幼年期デジモンであるボタモンが進化して、表面を覆っていた産毛が抜け、体も一回り大きくなった小型デジモン。活発に動き回れるようになったが、まだ戦うことはできない。口から泡を出して敵を威嚇する。

（へぇ〜あれがコロモンなんだ・・・・それにしてもヒカリ、『コロモンはコロモンでしょ？』じゃあ、伝わらないと思うぞ、ていうか、太一さん、ヒカリの言うとおり光が丘での事を本当に覚えていなかったのか・・・・）

俺は八神兄妹のやりとりをチラッと見た後、以前にヒカリが言っていたコロモンをまじまじと見た。

どう考えてもこのピンク色のスライムもどきがあの時見たオレンジ色の恐竜になるとは思えなかった。

プチモンの場合はその姿形から何となくではあるが、竜の姿が連想できたからである。

俺がコロモンを見ている間に太一さんはヒカリの言葉を聞いて、何も話さなくなった。

暫しの沈黙が八神家のリビングを包んだ。

「あ、あの〜そろそろ昼ご飯の時間だから、先に昼ご飯を食べましょう」

あまりにも気まずい空気だったので、俺は昼ご飯を薦めた。

丁度、昼ご飯には頃合の時間だったし・・・・・。

俺が昼ご飯の用意をしようとしたら、太一さんが「俺が作る」と言うので、ここは太一さんに任せ、俺とヒカリはソファーの上で昼ご飯が出来るのを待った。

ちなみにコロモンはヒカリの膝の上にいる。

「お昼ご飯は何だろう？」

昼ご飯を待っている中、コロモンが涎を垂らしながら俺達に聞いてきた。

「多分、オムレツかオムライスだろう」

俺はティッシュを箱から何枚か取り出して、コロモンの口から流れている涎を拭きながら言った。

コイツも食事のことに関してはドラコモン同様、スバルを思わせる奴だった。

「何でわかるの？」

俺がコロモンに今日の昼ご飯の予想を言うと、ヒカリが顔を傾けながら俺に聞いてきた。

「さっき太一さんが、冷蔵庫から卵を沢山出していたから・・・・卵をあんなに沢山使う料理はオムレツかオムライスぐらいだと思ってね」

「そうなんだ・・・・」

「おーい、昼飯が出来たぞぉ！！」

暫くしてから太一さんが昼ご飯を作り終えたみたいなので、俺はヒカリとコロモンと共にテーブルに向かった。

（あっ、そう言えばドラコモンの昼ご飯まだだった・・・・あいつ空腹で暴れていないといいけど・・・・）

ドラコモンには家から不用意に出ないように言ってあり、それをアイツはちゃんと守っている。

だから例え俺がお隣の八神家にいても訪ねてくることはなかったが、そうなると、もう一つの不安要素が出てきた。

（はっ！？アイツ、まさか俺のコインとか食ってないよな・・・・）

テーブルに座り、家に置いてきたドラコモンとコレクションのコインの心配をしていると、

「良介君の言う通りお昼ご飯はオムライスだ」

ヒカリは、俺とオムライスを交互に見ながら驚いた声で言った。

「それじゃあ！」

「「いっただきまーす！！」」

「「いただきます。」」

俺達は手を合わせ、“いただきます”と言って太一さんが作ったオムライスを食べ始めた。

「美味しい。・・・・お兄ちゃん料理出来たの？」

ヒカリは、太一さんが作ったオムライスを一口食べてそう感想を言った。

「向こうの世界でヤマトに教えてもらったんだ」

（向こうの世界？）

太一さんはまるで異世界にでも言ってきたような口ぶりで言う。

「コロモン」

「何？」

「私のも食べて良いよ」

ヒカリはまだ風邪が完治していないため、食欲もあまり無く、残りのオムライスをコロモンにあげた。

「本当！？ありがとう！！」

コロモンはヒカリのオムライスをもらうと、凄い速さでオムライスを食べ終えた。

（ドラコモンといいコロモンといい、食べるの速ぇな・・・・）

俺は目の前のコロモンの食いっぷりを見ながらオムライスを食べた。

「「「ごちそうさま！！」」」

昼ご飯が終わった直後、突然コロモンが震え出した。しかも顔色は少し青い。

「コロモン、どうしたんだよ！？」

コロモンが突然震えだしたので、太一さんは動揺し出した。

（ヤバっ、あの仕草、まさかっ！！）

そう思い、俺は急いでコロモンを抱えると、トイレへと行き、コロモンを便座の上に座らせ、トイレのドアを閉めた。

その直後、トイレから物凄い音がした。

どうやら間に合ったようだ・・・・。

「良介、お前何でコロモンがトイレだって事が分かったんだ？」

俺がトイレの扉を閉めると、太一さんが俺の前に来て聞いてきた。

「食後の後に気分を悪そうにしたので、そこから予想できるのは、食べ過ぎて気持ち悪くなり、吐きそうになったか、お腹が痛くなったのかのどっちかだと思いましてね」

「成程」

太一さんは俺の説明で納得してくれた様子だけど、俺自身プチモンで経験があったからだ。

「ふぅ〜良介、ありがとう」

暫くしてコロモンが耳で器用にトイレのドアを開けると、コロモンは申し訳なさそうな顔をしながら俺にお礼を言ってきた。

「全く、トイレに行きたいなら行きたいって言わないと分からないぞ。今度から気をつけろよな」

太一さんはコロモンに注意しつつコロモンの尻をトイレットペーパーで拭いている。

しかし、コロモンはこの後、同じような失敗をすることとなる。

太一さんが帰ってきたと言うことで、俺は太一さんに「ペットのトカゲにエサをやりに行ってきます」と言って、ドラコモンに昼ご飯をあげるために、一度自分の家に戻った。

玄関のドアを開けるとその先にいたのは・・・・。

「リョ〜ウ〜ス〜ケぇ〜」

腹を空かせ、凶暴化した一匹の竜だった・・・・。

「がぁぁぁぁぁ！！」

「うわぁぁぁぁ！！」

凶暴化したドラコモンは俺の頭に噛み付き、

「がぅぅぅ〜お腹すいたぁ〜良介、お腹すいたぁ〜お昼ご飯！お昼ご飯！」

と、昼ご飯を強請ってきた。

「イテテ・・・・わかった。わかったってば！！今作るから！！」

ドラコモンに昼ご飯を食わせた後、俺は再び八神家に行った。

リビングに上がると、太一さんはテレビを見たまま唖然としていた。

テレビの画面を見ると、そこには炎を纏った人間や海蛇のように長い体を持った竜の様な生き物、熊の形をした雪だるまの姿がうっすらと映っていた。

メラモン　成熟期　火炎型デジモン　属性　データ

全身に紅蓮の炎を纏った火炎型デジモン。

その身を包む炎のように激しい気性を持っており、触れるもの全てを焼き尽くそうとする。

必殺技は両腕を燃え上がらせ、相手を殴りぬける『バーニングフィスト』。

シードラモン　成熟期　水棲型デジモン　属性　データ

大蛇のような長い体を持った水棲型デジモン。

この長い体を使い、襲い来る敵に体を巻きつけ、敵が息絶えるまで締め上げる。元来、知性というものを持ち合わせておらず、本能の赴くままネットの海を泳ぎ回っている。

しかしこちらから手を出さなければおとなしい。

必殺技は口から絶対零度の息をはきだし、水を瞬時に凍らせて敵に放つ『アイスアロー』。

ユキダルモン　氷雪型デジモン　属性　ワクチン

雪と氷の結晶にからだを覆われた氷雪デジモン。

見た目の冷たさとは裏腹にとても温厚であたたかい性格の持ち主。

ゆったりとした動きと、かわいらしい仕草で見ているものの心を和ませるデジモンで、ユキダルモン自体は戦うことを好んでいない。

戦闘を好むデジモンの中でも、特にメラモンが大の苦手である。

必殺技は大きな体から繰り出す『絶対零度パンチ』。

「メラモン・・・・シードラモン・・・・ユキダルモン・・・・異常気象のせいなんかじゃない・・・・デジモンたちの世界の歪みがこっちの世界にも影響しているんだ・・・・」

「お兄ちゃんにも見えるようになったの？」

ヒカリがポツリと呟き、驚いた表情でヒカリに顔を向ける太一。

「ヒカリ・・・・アイツらが見えるのか？」

「ずっと前からよ・・・・だって見えるって言っても信じてくれないんだもん」

ヒカリが呟いた直後、テレビの電源が突然消え、クーラーの電源も消えた。

そして電源が切ってあるパソコンの画面が突然つくと、そこには太一の後輩である泉光子郎の姿があった。

ただ光子郎の眼は虚ろでまるで心が無いようにも見えた。

『た・・・・・いち・・・・・さん』

『太一・・・・・さん・・・・・今、どこに？』

「家だよ。元の世界に戻ったんだ。コロモンも一緒だ」

『そう・・・・・ですか・・・・・じゃあ此処には・・・・・』

「おい、光子郎。よく聞こえない」

『戻ってこない・・・・でください・・・・』

光子郎がそう言うとパソコンの画面が消えた。

消えた画面を太一さんは何とも言えない表情で見ていたが、その表情には迷いがあった。

恐らく太一達は何処か別の世界・・・・そう、デジモンが生息する異世界へ行き、そこでコロモンと出会ったのだろうと良介は推測した。

朝、キャンプに行く直前まで、太一さんはコロモンを持っていなかったし、キャンプ場にいる筈の時間帯にひょっこりお台場の家に戻ってきたのも腑に落ちなかったからである。

そして異世界へ迷い込んだのは太一さん一人ではなく複数いるということも先程の光子郎との会話から推察できる。そしてその世界にはまだ太一達さんの友達が残っていることも今のパソコンのやり取りから分かった。

異世界にいる光子郎達を助けたいでも、元の世界に戻ってこれた・・・・。

凶暴なデジモンに襲われることのない世界。

何の危険もない世界。

寝るときは何時でもベッドで眠れる。

お風呂にも入れる。

好きな食べ物もある。

家族もいる。

そんな安全な・・・・元の世界に帰ってこれたんだ・・・・。

もう一度異世界（デジタルワールド）に戻ったらもう二度とここへは帰って来れないかもしれない・・・・。

友達を見捨ててこのままこの世界にいるか？

それとも異世界（デジタルワールド）に残した友達の下へと行くか？

太一の葛藤がその表情から伺えた。

良介が太一に声をかけようとしたその直後、

ドッカ――ン！！！

外から大きな爆発音がしてマンションが揺れた。

「な、何だ！？」

太一さんは慌ててベランダに行き、俺は倒れそうになったヒカリを抱き、倒れないように支えた。

「お前等は此処で待ってろ！！」

太一さんはベランダから戻り、コロモンを持って慌てた様子で外へ飛び出していった。

「お兄ちゃん・・・・」

心配そうに呟くヒカリ。

俺はヒカリにカーディガンを羽織らせると、ヒカリの手をとって太一さんを追いかけた。

やっぱり太一が妹思いであるのと同時にヒカリも兄思いの子なのだ。ヒカリなりに太一のことが心配なのだろう。

「お兄ちゃーん！！」

「太一さん！！」

「っ！？な、何で来たんだよ！！俺は『家で待っていろ』って言っただろ！！」

「急に出ていったら誰でも心配しますよ」

俺が追いかけた訳を話すと、

「太一！！あれ！！」

コロモンが叫ぶと、太一さんは横断歩道の先を見た。

「っ！？オーガモン・・・・」

横断歩道の向こう側には緑色の鬼の様なデジモン、オーガモンがいた。

オーガモン　成熟期　鬼人型デジモン　属性　ウィルス

必殺技は巨大な両腕から繰り出される『覇王拳』。

やがて信号が青になるとオーガモンは俺たちめがけて突っ込んできた。

俺は咄嗟にヒカリを庇うように抱くと右へと跳び、オーガモンの突っ込みを回避した。

ドッカ――ン！！！

「コロモンどこだ！？」

「あそこ」

コロモンはマンションや周辺の建物の壁を器用に登っており、オーガモンはそんなコロモンを追いかけていく。

コロモンは果敢に口から泡を吐き攻撃しつつオーガモンを太一達から引き離そうとしている。

「コロモン、一人で戦うな。いつも一緒にやってきたじゃないか」

「太一・・・・」

コロモンが太一の方へと視線を移す。しかし、その隙をオーガモンは見逃さず、手に持った棍棒でコロモンを叩いた。

オーガモンの棍棒攻撃を食らい、コロモンは瓦礫と共に落ちていく。

「コロモン！！」

すると、太一の手の中にあったデジヴァイスが光り出した。

コロモンは成長期デジモンであるアグモンに進化した。それと同時に上空に歪みが発生し、近くの瓦礫がその歪みに吸い寄せられていく。

アグモンはオーガモンに必殺技の『ベビーフレイム』を放ってオーガモンを上空の歪みへと飛ばした。

「アグモン！！」

「太一、ヒカリ、良介・・・・バイバイ・・・・」

「アグモン、待って、俺も・・・・」

太一さんが行こうとしたので、俺は太一さんの服を掴んだ。ヒカリは顔を俯かせている。きっと今にも泣きそうな心境だろう。

「行って・・・・しまうんでうすか？」

「ああ・・・・俺、アグモンと一緒に皆の所へ行くよ！！」

「・・・・そうですか・・・・きっと・・・・きっと帰ってきて下さいね・・・・・ヒカリが心配しますから・・・・」

「ああ、俺が帰るまでヒカリの事を頼むな。良介・・・・」

「はい・・・・」

俺は太一さんの服を離した。すると、太一さんの体は空へと浮かんでいった。

「お兄ちゃん！！」

「ヒカリ！必ず帰るからな！風邪・・・・早く治せよ」

そして、太一は再び向こうの世界・・・・デジタルワールドへ向かっていった。

空に消えた太一を見送り、感動的な別れをしつつも、

「なんだか、太一さん・・・・すぐ帰ってくる気がする・・・・」

俺はそんな気がしてならなかった。

「どうしたの？良介君？」

「いや、なんでもない・・・・家に帰ろうか？」

「うん」

俺とヒカリは何事もなかったように家へと戻った。

登場人物紹介

アグモン　成長期　爬虫類型デジモン　属性　ワクチン

コロモンが進化して二足歩行出来るようになった爬虫類型デジモン。

両手両足には固い爪が生えており、怖いもの知らずな性格。

必殺技は口から火の玉を吐く『ベビーフレイム』

光が丘で太一達が会ったコロモンとは別個体。

デジタルワールドで太一達と出会い、以来太一のパートナーを務めている。

進化順は以下の通り。

幼年期　ボタモン

成長期　アグモン

成熟期　グレイモン

完全体　メタルグレイモン

究極体　ウォーグレイモン

八神太一

五話時点でお台場小学校五年。

サマーキャンプに参加し、そこでデジタルワールドへと迷い込み、そこでコロモンと出会う。

多くの冒険の後、現実世界へコロモンと共に戻ってきたが、再びデジタルワールドへと旅立っていった。

デジヴァイスの色　オレンジ

紋章　勇気の紋章

泉光子郎

太一や空と同じサッカー部に所属している。

性格は知的で理論派。一つの興味に集中すると周りが見えなくなることがある。

パソコンなどの電子機器に詳しい。

太一同様サマーキャンプに参加し、デジタルワールドへ迷い込んだ。

パートナーデジモンはテントモン（成長期）

デジヴァイスの色　紫

紋章　知識の紋章

あとがき

空腹状態のドラコモンは「とある」のインデックスをイメージして書きました。

原作ＤＶＤを持っていないので、若干話の内容が違いますが、ご了承ください。

書いていて良介君の性格がどんどん原作と違う性格になっていってしまう気が

する・・・・・。

丸く、まじめな良介君もアリでしょうか？

コロモンのトイレの失敗は原作でお台場に帰る途中の車の中での出来事を指しています。