四十話 アリサ
春休みが終わり、良介ともう一人の転生者、北郷一刀はなのは達が通う聖祥小学校へと転入した。
小学三年生に進学した高町なのは、アリサ・バニングス、月村すずかはこの日もいつもどおりにバスに乗り、学校へと向かった。
壁に貼ってあるクラス分けの紙を見ると、三人とも同じクラスだった。
新しい教室へと向かい、教室に入ると去年同じクラスだった子や初めて見る子など様々だった。
クラスメイト達は担任の先生が来るまでは自由にしており、友達同士で談笑している子や一人で読書をしている子がおり、なのはもアリサとすずかの二人と談笑をして過ごした。
やがて、教室のドアが開いてこのクラスの担任だろうと思う教師が入って来て、皆、席に着いた。
先生は自分の自己紹介をした後、
「皆さん、新学年となり、初めての人もいるかもしれませんが、皆さん、仲良くこの一年を過ごしましょう」
『はい!!』
教師の言葉に生徒達は元気よく返事をする。
「それと、早速ですが、実は今日、この学校に新たな生徒がこのクラスに転入します。皆さん、仲良くしてあげて下さいね」
と、転校生の紹介をした。
「転校生だって」
「どんな子なんだろう?」
と、クラスメイトは転校生に興味津々の様子。
「それじゃあ入って来て」
先生が廊下で待っている転校生に入ってくるように促すと、一人の男子生徒が教室に入って来た。
「転校してきた北郷一刀です。よろしく。(ニコッ)」
一刀は前世で多くの女性を魅了してきたスマイルを向ける。
一刀は表面上では美少年なのだが、裏では何かを企んでいるような笑顔に人一倍、人の気配を読むのが上手いアリサは嫌そうな顔をし、すずかは表面には出さないが、警戒している様子だった。
勘の良いなのはも、なんとなくだが、この転校生の男子生徒には深く関わらないようにしようとした。
その後は、どこから来たのとか、趣味や特技などは何かの質問コーナーを行い、
「何か彼に質問とかはありますか?」
粗方定番の質問を終え、先生がクラスを見渡し、クラスメイト達も特に質問する様な内容が無くなると、
「あぁそうだ、最後に一言」
質問されていた一刀が、クラスメイト達を見回し、宣言するように言った。
「このクラスの男子全員に言っておく!!高町なのは・月村すずか・アリサ・バニングスは俺の彼女だから手を出したら許さねぇぞ!!彼女達は将来俺の嫁になるんだからな!!」
一刀の爆弾発言に先生もそしてクラスメイトも一瞬、彼が何を言ったか理解できなかった。
皆が黙った事を良い事に彼はついでのように、もう一言言い放った。
「まぁ、他の女の子たちも気が向いたら俺の彼女か愛人くらいにはしてやるぜ」
この発言を聞き、一番に再起動を果たしたのが、アリサだった。
しかもかなり憤慨している様子。
「転校初日にいきなり何訳のわからない事いってのよ!?何で、私達が見ず知らずのアンタのお嫁さんにならないといけないのよ!?大体アンタ、なんで私やなのは、すずかの名前を知っているのよ!?」
アリサは一刀に指をさしながら、声をあげて言う。
お嫁さん候補にされたなのはとすずかもアリサと同意見なのか首を縦に振る。
「ははは。ヤキモチかアリサ(ニヤッ) 丈夫さ、何人彼女や愛人が出来ようとも俺はお前の事を捨てたりなんかしないから安心しろよ(ニコッ)」
アリサの文句をどう勘違いしたのか、一刀はアリサがヤキモチを焼いているのだと錯覚していた。
その後、アリサは一人熱くなって色々と文句を言っているのだけど、一刀は全て、
「やっぱりアリサはツンデレだなぁ」
の一言で済ましていた。
教室内が騒がしくなり今まで傍観していた先生が
STOPを掛けて、この場はとりあえず収まった。
一刀がクラスで爆弾発言をして、アリサの機嫌が最高潮に悪くなっている頃、同じくなのはの隣のクラスでは、
「東京の・・・・お台場から・・引っ越してきた・・み、宮本・・・・良介です・・・・よ、よろしく・・・・」
良介も同じく転校の挨拶を行っていた。
しかし、転校なんて前世でもした事のない経験から柄にもなく緊張しまくっている良介だった。
(なんで俺こんなに緊張してんだ?もしかして俺って実は本番に弱いタイプの人間だったのか?)
そんな風に思っていると、隣のクラスから突然女子生徒の怒鳴り声がしてきた。
(なんか、隣のクラスうるせぇな・・・・初日から喧嘩か?)
隣が五月蝿いなと思いつつ良介はクラスメイトからの質問に答えていった。
それから何日かが過ぎた頃、
昼休み、一刀はノートに何かを書き込みながらニヤニヤしていた。
その姿があまりにも不気味だったので、他のクラスメイト達は近づかない様にしていた。
最もこのクラスで彼に近づくクラスメイトなど、あまりいないのだが・・・・
やはり転校初日の挨拶での爆弾発言で一刀はクラスの男女からあまり良い印象を受けていないのだが、彼はそれさえも勘違いしていた。
男子は嫉妬のため、女子は恥ずかしがっているので、自分になかなか近づかないのだと思い込んでいた。
一刀 視点
やっぱりなのはが一人さびしくしている時に声をかけられなかったのは痛かったよな・・・・でも、まだまだチャンスはある。
なのはが魔法少女になった日に俺が颯爽と現れなのはを助ける。そうすればなのははきっと俺に惚れ直すだろう。
そんで、一緒にジュエルシードを探していく内に仲をグッと縮めていこう。
A
‘Sの時はヴィータに襲われている所を助ければ良いか、あとなのはが11歳の時にガジェットに襲われた時も、助けて、その後はゆっくりと俺と一緒に静養させるか。
アリサとすずかは温泉旅行のイベントで一気に勝負をかけるか、一緒に温泉旅行に行ってなのは達と同じ風呂に入る・・・・今の年齢は
9才だから女湯に入っても何の問題もない最初はなのは達も恥ずかしがるだろうけどすぐに俺に全てをさらけ出してくれるだろう。夜、なのははフェイトと戦っているだろうけど、俺はアリサとすずかの二人と布団の中で戦うぜ・・・・。
まさか、
9歳で童貞卒業とはな・・・・。二次小説とかでよくある誘拐イベントがあれば、そこをヒーローの如く助ければ更にアップできるな・・・・。
フェイトはあの
KY野郎が来た時に逃がしてやって、なのはとの決闘の時に、なのはに負けて海に落ちそうになった所を俺がかっこよく助けて、プレシアがフェイトに『大嫌い』と言ってフェイトが崩れた時を狙うのが一番だな。自分の信じていたものに裏切られて心を閉ざしてしまったフェイトを俺が慰めてやるんだ。
その後は時の庭園になのは達と乗り込んで傀儡兵をあの
KY野郎より先に俺が圧倒的な威力の魔法で全て消し去ってやる。するとそれを見たなのははきっと俺の事を惚れ直すだろう。
あの淫獣野郎なんか目じゃないぜ・・・・本当はすぐにでも殺してやりたいが、あの淫獣がなのはにレイジングハートを渡さないと原作が始まらないから、それまでは我慢しよう。
そんで、プレシアの所に行って虚数空間にプレシアが飛び込みその近くでプレシアを助けるのに失敗し、自分も落ちてしまいそうになっているフェイトを、原作だとなのはが助けるんだけど、俺はここをあえて原作ブレイクしてなのはの代わりに俺がフェイトを助けるんだ。
そして『おかあさんは残念だったけど、大丈夫だ、フェイトには俺がいる・・・・俺がずっとそばにいてやる・・・・』そう言って抱きしめてやれば、フェイトはもう完全に俺に惚れるだろう。
フェイトを落とせばアルフも付いてくる。
はやては、闇の書が起動する前に交流を持とう。
そうなると図書館が一番ベタァだな、はやてが本を取るのに手間取っている時、俺が手助けしてやって、はやての身の上を聞いてやり、ここで俺がフェイトの時同様、抱きしめて慰めてやれば、はやても俺に惚れるだろう。
そしてはやての誕生日になれば、闇の書が起動するから、前日にはやての家に泊まって、はやてと一緒に闇の書
の起動を見る。シグナムにヴィータにシャマルは、一緒に蒐集に行ってポイントを稼げばいい。
はやてのために頑張っている所を見せれば自然と好感度アップだからな、フヒヒ・・・・。
おお、そういえばアリアとロッテのことを忘れていたぜ。 あの二人は、闇の書完成前に邪魔してくるから捕まえて優しくしてやりゃ落ちるだろう。あとは原作通りにやればいい。
ただ問題はリィンフォースなんだよな・・・・あの銀髪ボイン姉ちゃんと、ゆかなボイスのロリッ子妖精・・・・どちらか選ばないといけないんだよな・・・・。
くっ、苦渋の選択だぜ・・・・。
シグナム達ははやてが俺に惚れていれば、シグナム達もすぐに俺に惚れるだろう。
あの空気犬(ザフィーラ)はいらねぇけどな・・・・。
s
tsは、死ぬはずのスバルとギンガの母親のクイントを助けてやろう。それだけで、スバルとギンガの好感度は最高になるだろう。ティアナはホテルアグスタでのミスショットの後、彼女に色々親身になって相談にのってやろう。
そして模擬戦でなのはに落とされた後、なのはの教導の意味を教えてやって、慰めつつ、なのはとの仲の仲介役を務めれば、ティアナはきっと俺に惚れるだろう。
上手くいけば、その日にティアナの初めてを頂けるかもしれない。
スバルは空港火災で女神像が倒れてくる所を助けて、なのはに預ける前にギンガを必ず助けると約束し、好印象を残す。
そして地上本部の襲撃の際には数の子連中にあえてギンガを攫ってもらい、傷ついているスバルを優しく慰める。
そして姉のギンガは空港火災で螺旋階段から落ちる所をフェイトに代わり、俺が助け印象を残す。
そしてあのマッドサイエンティストとの決戦時にスバルに代わって俺がギンガの洗脳を解いてやれば、スバルは俺に惚れ直すし、ギンガもきっと惚れる。
事件が解決した後、姉妹丼も良いし、ギンガにナンバーズの衣装を着せたコスプレプレイも楽しめるぜ・・・・。
数の子連中はギンガと一緒に更生プログラムに参加して惚れさせていけばいいか。
それにギンガを助けたとなれば、スバルはもちろんクイントさんも俺に惚れるだろう。
だいたい、クイントさんはあの中年オヤジのどこが良いんだ?
あんな、中年じゃ、ベッドの中で満足出来ないだろう。
年齢はともかく、若い俺の体で満足させてやるぜ。
キャロはsts時にはまだ十歳だから、フェイト繋がりで最初は兄妹のような関係を築いた後、さりげなくエリオから遠ざけつつ、食べごろ・・・・いや、半熟でいいか、ともかくその時が来たら、兄妹の関係から男女の関係へ・・・・フヒヒヒ・・・・。
ヴィヴィオとは当然親子関係になり、俺の事をパパと呼ばせる。
そして食べごろがくるまで男から遠ざけて、その時が来たら、なのはとフェイトの特性親子丼を食べるか・・・・。
流石にアリサやすずかと違って十年後にキャロやヴィヴィオを食べちゃあただの変態だからな、この二人は少し時間を置いて熟させるか・・・・。
その他にも当然、アルトやシャーリーとかの隊員達も俺のハーレムに加える。
カリムやシャッハもな・・・・。
いやぁー、俺の人生、すでにバラ色人生だ!!
この世界ならあの戦乱の時代とはかけ離れているし、今度の俺には戦う力も備わっているからな。
十年後が楽しみだぜ。フフフフフ・・・・・・・
一刀が怪しげな笑みを浮かべながら、ノートに自分の未来設計図、北郷一刀、ハーレム計画を描いている時、隣のクラスにいる良介は机の上にタロットカードを広げ、法術のトレーニングをしていた。
カードの並びで運命を読みとったりと、意外に集中力と術の繊細さが求められるトレーニングだった。
良介がタロットカードで訓練をやっていると、
「あれ?宮本君、それってタロットカード?」
クラスメイトの女子が良介に声をかけてきた。
「えっ?・・・・ああ、うん・・・・・」
「へぇ〜宮本君ってタロット占い出来るの?」
「最近始めたばかりで、まだかじった程度だけどね」
「すごーい!!ねぇ、私の事占ってくれる?」
「ん?まぁ、いいけど・・・・」
良介はこれも訓練だと思い、何気なくそのクラスメイトを占った・・・・。
そして翌日、
「宮本君、昨日の占い通りだったよ!!ありがとう!!」
「いや、たまたまだよ・・・・」
昨日ためしに占ったクラスメイトの占いが当たった。
「え?何?何の話?」
「昨日、宮本君にタロット占いをしてもらったの」
その日の内に良介の占いはクラス中に知れ渡った。
休み時間になれば、クラスメイト達が良介の下に集まり、良介に占ってもらった。
タロットの他にトランプを使った占いもしたし、やり方を教えてほしいと言うクラスメイトにはやり方を教えた。
それから数日後、
昼休みにいつものように占いにくる生徒を占っていると、
「すみません、ここで占いをやっていると聞いたのですが・・・・」
少しナヨナヨした声がした。
視線を上げると、良介の目が大きく見開いた。
(す、すずか!?)
今、良介の目の前に居るのは月村忍の妹で前世では一時期剣の振れなくなった自分の護衛をしていた少女だった。
ただ前世のすずかよりも感情は多少豊かであった。
「あ、あの・・・・」
「えっ!?あ、はい。やっていますよ」
「当たるって聞いたので・・・・」
「い、いえ、たまたまですし、当たるもはっけ、はずれるもはっけですよ」
「それでもいいので・・・・あの・・・・占って欲しい事がありまして・・・・」
「いいですよ・・・・」
良介はすずかを占った。
「ありがとうございます」
「あくまで占いですので、外れるかもしれませんよ?」
「い、いえ、占ってもらって少し気が楽になりました」
すずかは良介に一礼して自分の教室に帰っていった。
次の日、すずかが良介の下にお礼を言いに来た。
どうやら、昨日の占いが当たったようで、「これからも何度か占ってくれませんか?」と、言ってきたので、良介は「構わない」と言ってすずかと前世では違う形で交流を持った。
それから数日後、
「ホントなの?」
「うん、本当だよ。宮本君の占い、結構当たるんだよ」
すずかは自分の二人の親友の内一人を連れて良介のクラスへと向かった。
もう一人の親友は先生に手伝いを頼まれて、この場にはいない。「私はいいから二人で行ってきて、また今度誘ってね」と言われ、すずかはもう一人の親友と共に二人で向かった。
「で、誰なの?」
すずかのもう一人の親友、アリサ・バニングスはその占いをしている生徒の姿を探す。
「ほら、あの子だよ。あの黒髪の男の子」
「へぇ〜なかなかの顔立ちじゃない。でも、外見で騙されちゃダメよすずか。ウチのクラスのあの男みたいな奴はこの世には何人もいるのよ」
アリサは苦虫を潰したような顔をした。
あの男と言うのは、他ならぬ一刀の事を指しているのはすぐに分かった。
「宮本君はそんなんじゃないよ」
知り合ってから短いが、良介は一刀とは違うと、すずかは良介を弁護する。
「どうかしらね」
「ともかく占ってもらうんでしょう?」
「えっ、あっ、ちょっと、すずか」
そう言ってすずかはアリサの手を引っ張って良介の教室へ入っていった。
「宮本君」
教室の入り口から聞きなれた声を聞き、良介がその方向を見ると、良介はすずかと出会ったとき以上に、驚き、思わず手に持っていたカードを落としてしまった。
「大丈夫なの?彼?」
カードを落としてしまった良介を見て、半信半疑の様子のアリサ。
「宮本君、今日は私の親友を連れてきたの」
「へ、へぇ〜・・・・」
「アリサ・バニングスよ。よろしく」
(アリサ・バニングス!?・・・・アリサと同じ容姿、そして名前を持っているが、声と苗字が違う・・・・でも、目の前のアリサがこの世界のアリサなのか?・・・・アリサ・・・・この世界ではまだ生きている・・・・よかった・・・・)
「えっと、今日はその・・・・アリサ・バニングスさんを占えば良いの?」
「うん」
「分かった。じゃあ、そこの椅子に座って・・・・」
良介とアリサが対面する形で座り、良介は手慣れた手つきでタロットカードを切った。
そして占いの結果が出た。
結果は正位置の死神のカード・・・・つまり「死」を暗示しているカードだった。
「で、結果はどうなの?」
アリサが占いの結果を聞いてきた。
「ご、ゴメン。カードを切る場所を間違えちゃって・・もう一回いいかな?」
「もう、ちゃんとしてよね」
「ごめんごめん」
良介は何かの間違いだと思い、もう一度、占ったが、やはり出た結果はまたも正位置の死神のカードだった。
結局三回やって三回ともアリサの占いの結果は正位置の死神のカードだった。
それはつまり近々アリサの死を予見させるカードだった。
これ以上はごまかせないと判断した良介は、
「思いもかけない怪我に注意・・・・だって・・・・」
と、少し曖昧にアリサに結果を話した。
まさか、死相が出ているとは言える筈がない。
「そう、まっ、せいぜい気を付ける事にするわ」
「あ、ああ・・・・あっ、そうだ。バニングスさん」
「何?」
「コレ、お守り。気休め程度で良いんで、持っていて、占いを手間取ったお詫び」
良介は和紙で出来ている女の子の人形を小さな巾着に入れ、アリサに渡した。
「わぁ、アリサちゃんいいな」
すずかが羨ましそうな声で言う。
「ま、まぁ、貰えるなら頂こうかしら
//////」アリサはテレ隠しをしながら良介から巾着を受け取った。
その後、二人は自分達の教室へと戻って行った。
二人の後姿・・・・正確にはアリサの後姿を見送った良介は、
(アリサ・・・・この世界のお前には前世のアリサの様な目に遭わせないからな・・・・絶対に・・・・)
と、アリサも救う決意をした。
アリサの運命の分岐点はすぐそこまで迫っていた。
そしてその運命の日が訪れた。
その日、アリサを迎えに行く予定だった車が突如、エンジントラブルを起こし、使用不能になった。
すでになのはもすずかも先に下校しており、家族は誰か迎えによこそうか?と連絡してきたが、アリサは自分一人で帰るといって、一人で下校した。
バス停までの通学路を歩いていると、途中黒いワンボックスが止まると、中から数人の男たちが飛びだし、アリサの体を押さえつけると、クロロホルムを染み込ませた布を使い、アリサを気絶させ、そのままアリサを連れ去って行った・・・・。
アリサを乗せたワンボックスは町はずれの廃墟に停まると、男たちは未だ気絶しているアリサを抱え、廃墟の中へと入っていった。
ただその時、誰も気がつかなかった・・・・。
アリサの鞄の中の巾着から和紙で出来た女の子の人形が飛び去って行った事を・・・・。
良介はあれからアリサの事が気がかりとなっていた。良介の占いは人間故、必ずしも当たると言う訳ではなかったが、アリサの場合三回やって三回とも死のカードが出る事態だったのと、前世のアリサの事から近いうちにアリサの身に危険が迫ると言う事を予期していた。
しかし、その日が何時なのかは分からなかったため、連絡用の式神を巾着に入れ、御守りとしてアリサに渡していた。
アリサを占ってから暫く立つが、式神からの連絡が無い事から前世と違いアリサの事件は起こらないのかと思っていたが、良介の下にアリサに渡した式神が現れると、良介の表情は強張った。
良介は式神の案内の下、ドラコモンと共にアリサの下へと急いだ。
そして案内されたのは例の廃墟だった。
あの廃墟は何度も来た時と同じように世間から忘れ去られるかのように佇んでいたが、いつもと違う点を上げるとしたら、廃墟の近くに黒いワンボックスカ―が停められていて、中から人の気配がすることだった。
良介は入口から、そしてドラコモンは二階から侵入し、中の様子を覗った。
そしてアリサと誘拐犯の姿が見える物影へと身を潜ませた。
やがて薬の効果が切れたアリサが目を覚ますと、自分は見知らぬ廃墟に居り、手首は縄で縛られ、口はガムテープで塞がれていた。
「へっへっ、目が覚めたようだなお嬢ちゃん」
自分を誘拐した男たちのうち、リーダー格の男が下種な笑いを浮かべながら話しかけてくる。
「まさか、こんな幸運が舞い降りるなんて思いもよりませんでしたね」
「ああ、張り込んで機会を覗っていた甲斐があったもんだ」
「大金をせしめて、早くバラしちまいますか?」
「そう慌てるな、まだ始まったばかりじゃねぇか」
誘拐犯達は良介が聞いていることも知らず、呑気に話している。
そして誘拐されたアリサ自身も泣くことなく、むしろ愉快犯たちを威嚇している。
「怯える処か、威嚇しているのか?流石、バニングス家の娘だ。 だが、その白い肌にタバコの火でも押し付けられれば少しは恐怖に変わるだろうな」
そう言ってリーダーの男はゆっくりとアリサにタバコを近づけていく。
ちりちりと赤い火のついたタバコを皮膚に押しつけられれば、確実に傷跡が残る火傷を負う事になる。
「・・・・・・・」
「ほぅ・・・・?それでも恐怖はしないのか?」
誘拐犯のリーダーはアリサの皮膚まで1p程まで近づけたタバコを離す。
「だが、内心は恐怖で叫びたかったのだろう?くっくっくっくっ・・・・」
誘拐犯のリーダーは再び下種な笑いを浮かべ、タバコを口にする。
(いや、違うな・・・・アリサは見抜いていたな・・・・あの男が自分に火傷を負わせる気がなかったことに・・・・)
良介はアリサと誘拐犯のやり取りを見て、もし、あのアリサが前世のアリサと同じような器量を持っていればそれくらいの判断は出来るだろうと思っていた。
「バニングス家の電話番号は控えてあるな?」
「はい、いつでもかけられます」
「よし、大事な商品だ・・・・見える所に傷をつけるつもりはない・・・・そう、見える所にはな・・・・それにしても、お前も不運だな。親父のライバル会社のやつが親父を蹴落とすために娘を誘拐して来いなんて頼むもんだからこんな目に会って・・・・しかも、この後は知りもしねえ外国の腹の肥えたオヤジどもに調教されて、性欲の捌け口か、薬漬けにされちまうかもな・・・・可哀そうに・・もう、元の生活には戻れないだろうさ」
「っ!?」
可哀そうとか言いつつ、全然そう思ってない事が表情から伺える。
周りの連中もリーダーと同じような下種めいた笑みを浮かべている。
やがて、誘拐犯がアリサの家に電話する。
証拠と言わんばかりに、捕まっているアリサの姿を携帯の写真機能で写真に取り、バニングス家のパソコンへ転送する。
バニングス家の者達も転送されてきた写真を見て、アリサが誘拐されたのだと認識した。
そして、アリサのために身代金を用意し、犯人の指示に従った。
「・・・・そうだ、そこに金を置いておけ。サツに知らせたらガキの命はねえからな。・・・・ボス、どうやら金を指定の場所に置いたようです」
部下からその連絡を聞きリーダーの目が先程よりさらに下卑た物になる。
「お前も聞こえただろ?これでお前の役目はお終いだ。後はお前をクライアントに渡せばオレ達の仕事は終了。報酬と仕事料はお前の親父さんが払ってくれたからな。これで、当分は遊んで暮らせる。お前は変態オヤジたちに可愛がられるだろうが、まぁこの場で殺されなかっただけ、ありがたく思いな」
自分のこの先の人生を知らされた少女は等々恐怖にかられ涙をこぼす。
「お、なんだ、ちゃんと泣けるんじゃなねぇか。そうしてれば可愛いのによ」
誘拐犯の一人がうすら笑いを浮かべながら涙をこぼしているアリサに言う。
「オヤジに犯されるのは嫌か? それなら、俺達がお前の始めてを頂いてやろうか?オヤジよりも若い俺達に奪われた方が嬉しいだろう?なにより練習になるからな・・・・」
言葉の意味は分からないが、自分が酷い事をされるのは分かる。ニヤニヤして、ズボンのベルトを緩めながら近づいてくる男を見れば一目瞭然だ。
アリサは暴れようと動くが縛られていることと迫りくる恐怖から上手く動けない。
誘拐犯達の言葉を聞いた良介は、激しい怒りに包まれていた。
(あいつらがアリサを・・・・!!あのゴミ屑どもがアリサを・・・・!!)
前世では結局アリサを強姦し、殺した犯人を突き止める事が出来なかったが、この後世では今、自分の前に犯人がいる。
こいつ等を全員地獄へ送り込む事が出来る・・・・。
前世で果たせなかったアリサの仇を討てる・・・・。
しかし、怒りに任せて、犯人の前に飛びだそうとする衝動を良介は飛びだす寸前で抑えた。
(落ち着け・・・・俺・・・・)
仇を討ちたくても今の自分は小学三年生の体・・・・。
しかも相手は大人で此方よりも数が多い。
ここは正攻法でなく、絡め手でいき、戦力を分散させるのが得策だった。
良介は早速ドラコモンへ合図を送った。
合図を受けたドラコモンは二階から声をあげた。
「そこまでだ!!全員動くな!!」
ドラコモンの声を聞いた誘拐犯達は浮足立った。
アリサはその隙を見逃さなかった。
両手、そして口を封じられているにも関わらず、火事場の馬鹿力を出し、迫りくる男に体当たりをかまし、男を突き飛ばすと、一気に出口へと駈け出した。
「くそっ!!」
アリサの思わぬ行動と突然の乱入者の声でリーダーの感情が弾けたのか、懐に腕を伸ばす。
(マズイ!?まさかアイツ拳銃を持っているのか!?)
このまま犯人達の前に飛びだしヒーローの様に登場・・・・なんて事をすれば、野菜の名前の様な戦闘民族でない限り、そのままあの世行き・・・・。
人間とは意外に脆い生き物なのだ。
幸いアリサは良介の方向へと逃げてくる。
良介は自分の脇を駆け抜けようとするアリサの身体を自分の方へと引きずり込んだ。
「っ!?」
その瞬間、アリサの頭スレスレの位置を銃弾が掠めた。
「ボス、今の見ましたか!?」
「ああ、ネズミが紛れ込んでいるらしい」
「ムー!!ムー!!」
「静かに」
良介は口元に貼られていたテープを剥がす。
「あ、あんた、確か隣のクラスの・・・・」
「そこにいるのは誰だ?お嬢ちゃんの他にもいるんだろう?」
リーダーの男が拳銃を構えながらゆっくりと近づいてくる。
「俺達が大人しいうちに出てこないと死体になっちまうかもな」
「よく言うぜ、どの道殺すつもりなのによ」
「どうする気?相手は拳銃を持っているのよ?」
「いや、奴らは既に詰んでいる・・・・それよりも手を頭の上に乗せてかがめ」
「はぁ?ちょっとあんた、こんな時に何言ってんの?」
「いいから」
「ちょ、ちょっと・・・・」
良介が強引にアリサをかがめ、自身もアリサを守るかのようにアリサの身体に覆いかぶさると、
「ジ・シュルネン!!」
廃墟がピカッと光ったと思ったら、突如、天井の一部が崩落し、そこから小さな竜の姿をした生物・・・・ドラコモンが頭部の角を激しく発光させ、口から無差別にビーム弾を吐きまくる。
突然の奇襲を受け、誘拐犯達は成す術もなく、ドラコモンのビーム弾の餌食となった。
もちろんドラコモンは力を加減して居るので、誰一人殺してはいない。
突入する前、良介はドラコモンから、
「誘拐犯は自分が片づけるから、良介は捕まっている女の子を助けてあげて」
と、言われていた。
たしかに誘拐犯の人数と今の自分の体型からそれがベストだと判断した良介はドラコモンのたてた作戦通りに動いた。
そして、現在、誘拐犯は全員伸びている。
後は警察に引き渡せばいいだけなのだが、
「ドラコモン、先にその子と一緒に外へ出ていてくれ・・・・」
「良介は?」
「俺は・・・・やる事がある」
「?」
良介のやる事に疑問を感じつつ、ドラコモンはアリサと共に外へ出る。
アリサ達が外へ出たのを確認すると、良介は懐からナイフを取り出した。
「アリサの仇だ・・・・お前らここで全員・・・・」
振るえる手でまずはリーダーの男の心臓を刺そうとした時、
「テイルスマッシュ!!」
先に外へ出た筈のドラコモンの尻尾がナイフを持った良介の手に辺り、衝撃と痛みで良介はナイフを落としてしまった。
「っ!?・・ドラコモン・・・・」
良介は苦虫を潰したかのような顔でドラコモンを睨む。
「良介、お前、今何しようとした?」
「・・・・」
「何しようとした!?」
「止めるなドラコモン!!こいつ等は前世でアリサを強姦した挙句に殺して、この世界でも同じ様な事をしようとしたクズ共なんだ!!殺されて当然な奴らなんだよ!!俺がこの手で殺さなきゃいけないんだよ!!」
「よせ!!良介!!お前は警察官である親父さんに迷惑をかける気か!?」
ドラコモンが良介の身体に飛びつき、良介を止める。
「目撃者は俺とドラコモンだけだ!!お前が黙っていればそれでいい事だろうが!!」
良介はドラコモンを振り払おうと暴れる。
そこへ、
パンっ!!
廃墟に乾いた音が響き、良介とドラコモンの怒声がピタリと止み、廃墟に再び静寂が訪れた・・・・。
あとがき
この世界では、ひとまずアリサを救う事が出来た良介君。
しかし、前世でのアリサの仇をとろうとして修羅道に落ちかけました。
では、次回にまたお会い致しましょう。