四話 超進化 天竜VS翼竜

 

 

俺は小学生一年の春休みにお袋と一緒にキャンプと言う名の山篭りに来ていた。

その時の山篭りでお袋は本当にただの人間か?と、思うぐらい強かった。

何せ、魔法や法術も使わず、空中戦抜きの試合で、木刀のみで、成熟期のコアドラモン相手に勝ってしまったのだから・・・・。

成長期に戻ったドラコモンが、「さくらさんは本当に人間なのか?」と首を傾げるくらいだった。

 

キャンプに来てから俺は毎晩同じ夢を見てうなされた。

夢の中に出てくるそいつの姿はプテラノドンと呼ばれる翼竜に似た姿をしていて、翼や体の一部がロボットのような機械で出来ていた。

コアドラモンに進化したドラコモンが空でそいつと戦っている。

空は暗い、恐らく夜なのだろう。

場所は木々が生い茂る山中の空・・・・。

まさに今、良介達がいる場所と何ら変わりない。

次第に追い詰められていくコアドラモン。

やがて相手の尖った鼻先がコアドラモンの体を貫いた・・・・。

そこで夢はいつもさめる・・・・。

「ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・」

あまり良い夢とは言えず、俺の呼吸は乱れ、体は寝汗だらけである。

「どうしたの?良介?大丈夫?」

ドラコモンが心配そうな表情で俺の顔を覗き込む。

「あ、ああ何でもない・・・・大丈夫だよ。ドラコモン」

俺は取り敢えず、大丈夫だとドラコモンに伝えた。

(大丈夫だ・・・・たかが夢じゃねぇか・・・・)

そう自分に言い聞かせ、俺は再び眠りについた。

しかし、まさかこのとき見た夢が現実に起ころうとはこの時の俺は知る由も無かった。

 

キャンプに来て、いよいよ明日は最終日と言う前の日の夜。

夏休みの時のキャンプ同様、空にオーロラの様な光が起こり、やがて夜空が歪み始めた。

そしてそこからソイツは出てきた・・・・。

まさに夢に見たのと同じプテラノドンに似た姿のデジモンだった。

 

プテラノモン 翼竜型デジモン アーマー体 属性 フリー

翼を持つデジモンの中でも、最も高い高度で飛行することができるデジモンで、敵を察知して相手の姿を見せずに爆撃することができる。別名「蒼い爆撃機」と呼ばれている。

必殺技は遥か上空から垂直落下して鋭い鼻先で貫く『ビークピアス』と両羽に装備されている、ミサイルを発射する技、『サイド・ワインダー』

 

アーマー体と言う未知のクラスだったが、あれからずっと修行していたドラコモンの方が強いと思っていたが、そいつは成熟期に進化したドラコモン(コアドラモン)よりも飛行速度と飛空能力が上でドラコモンを翻弄し、翼の横に着いているミサイルでドラコモンを着実に追い込んでいった。

「コアドラモン!!」

そして奴が止めと言わんばかりに上空から急降下し、その尖った鼻先でコアドラモンの体を貫いたとき、俺は目を見開き、頭が真っ白になった。

目の前の状況はまさにキャンプ中に見た夢の通りとなった。

 

アイツは俺の大切なコインや小遣いの小銭を勝手に食べるが、決して悪い奴じゃない・・・・

 

俺がキャンプのとき、あの黒い竜にやられそうになったとき、自らの弱さに嘆き、怒り、そして俺を守ってくれた。

 

そんなアイツに俺は何もできないのか?

 

俺は足で纏なのか?

 

アイツは俺の大切な相棒じゃないか・・・・

 

この後世に転生して、出来た最初の相棒じゃないか・・・・

 

その相棒があんな機械モドキの鳥に・・・・

 

あんな鳥なんかに・・・・

 

「俺は・・・・俺は・・・・俺はアイツの為に何も出来ないのかよ!?くそっぉぉぉぉぉー」

流石に空を高速で飛び回る相手に今の俺は余りにも無力だった。

俺が力一杯叫ぶと、突然俺のデジヴァイスと首にかけていたペンダントが光り出した、そしてあの鳥ヤロウに貫かれているコアドラモンの体も光り出した。

突然、光り出したコアドラモンに驚きソイツは急いで鼻先をコアドラモンの体から抜くと、距離をとった。

 

コアドラモン超進化―――――

        ウイングドラモン―――――

 

ウイングドラモン 天竜型デジモン 完全体 属性 ワクチン

大きく発達した翼を持ち、自由自在に空を飛ぶことの出来る天竜型デジモン。翼の鱗は重力を遮断することが出来るため、羽ばたくことなく飛翔することが可能である。

飛行速度はマッハ20を超えるといわれており、ウイングドラモンと空中戦を行って生き残れるデジモンは少ないとされる。

必殺技は音速を超えた速度で口から放つ灼熱のブレス『ブレイズソニックブレス』と最大速力まで加速して敵に急降下し、背中の槍を打ち付ける『エクスプロードソニックランス』。さらにウイングドラモンは高速移動するだけで速度が音速を超えてしまうため、『ウイングブラスト』と呼ばれる衝撃波が発生してしまう。そのため、ウイングドラモンの必殺技をかわしたとしても無傷ではいられない。

ドラコモン、コアドラモン同様「逆鱗」といわれるウロコを持っており、ここに触れてしまうと怒りのあまり意識を失い、頭部の角を激しく発光させた後に口から放つ拡散レーザービーム『ジ・シュルネン-V』を無差別に放つ。

 

光が収まるとコアドラモンの体は更に大きくなり、姿も若干変化していた。

そしてプテラノモンに刺された腹の傷口も塞がっていた。

ウイングドラモンがプテラノモンに向け咆哮すると、本能からからプテラノモンは恐怖を感じその場から逃げようとしたが、完全体に進化し、空を高速で飛び回れるウイングドラモンから逃げることは出来ず、

「ブレイズソニックブレス」

プテラノモンはウイングドラモンのブレスを食らい墜落していく。

そこへウイングドラモンは追撃の手を止めず、落下していくプテラノモンに対し、

「エクスプロードソニックランス」

背中の槍をその体に突き刺した。

まるでさっきのお返しと言わんばかりに・・・・。

「ギャァァァァァァァー」

プテラノモンは苦しそうな叫び声と共にデータ粒子となり消滅した。

 

プテラノモンが消滅すると、ウイングドラモンの体が再び光ると、ウイングドラモンはベビドモンまで退化して、ヘロヘロになって地表に落ちてきた。

良介はベビドモンが地面に落ちる前にベビドモンをキャッチして、地面との衝突を防いだ。

「つ、疲れた・・・・」

「お疲れ、ベビドモン・・・・全く無茶しやがって・・・・心配したんだぞ?」

「良介の無茶ばかりをする性格が移ったかな?・・・・良介、泣いているの?」

「バカヤロウ。本当に心配したんだからな・・・・お前が・・居なくなっちまうかと思ったんだからな・・・・本当に・・・・お前って奴は・・・・」

良介は柄にもなく目に涙を浮かべベビドモンを抱きしめた。

「う、うん・・・・ごめんね・・良介・・・・」

「さぁ、戻って休もうぜ・・・・相棒・・・・」

「うん・・・・」

テントに着く前にベビドモンは良介に抱かれながらその腕の中で静かに寝息を立てていた。

こうして夏のキャンプ同様ドラコモンにとっては辛い経験ながらも完全体への進化と言う形でキャンプは終わった。

 

 

俺が小学二年に進級したこの年、世界各国では異常気象が起こっていた。

東南アジアでは大規模な干ばつ。

中東では大洪水。

北米では夏にも関わらず、大寒波が襲い大雪となっている。

「大丈夫かしら?」

世界の異常気象を知らせているニュースを見ながらお袋が心配そうに呟く。

「なぁに一時的なものさ、すぐに元に戻るよ」

と、親父は心配させまいと笑いながら言う。

「そう言えば、良介、今年も夏休みにあるサマーキャンプ参加するの?」

お袋がサマーキャンプの知らせが書いてあるプリントを見せながら俺に尋ねる。

「うーん・・・・どうしようかな?」

俺はプリントを見ながら参加するかしないか悩んでいたが、

「今年はいいや」

と、参加しないことにした。

「あら、どうして?」

お袋は参加しない理由を俺に聞く。

「だって、サマーキャンプの期間が剣術の練習日と重なるから」

と、理由を話した。

あれから俺は剣術と法術の鍛錬を欠かさず行なっていた。

来るべき日に備えてどちらも十分に使いこなせる状態でないと誰も救えないからだ。

そんな中、呑気にキャンプなんて行っているわけにはいかなかったからだ。

「そう、それじゃあ不参加に丸をつけるけど、本当にいいの?」

「いいの」

「そう、分かったわ」

こうして俺は夏休みのサマーキャンプは不参加することとなった。

決して去年のキャンプに良い思い出が無かったからではない。

 

 

「ええっ!?良介君キャンプにいかないの!?」

翌日、俺はヒカリと学校に行く際、今年の夏休みのサマーキャンプに行かないことを話すと、ヒカリは驚きの声をあげた。

「うん、剣道の練習日とキャンプが重なっていてね、それで今回はいかないことにしたんだ」

「そっか・・・・」

ヒカリは俺が不参加だと知ると残念そうな顔をした。

「そんな顔するなって!俺が居なくても太一さんや空さん達、今年も参加するんだろう?」

「うん、多分」

「だったら皆で楽しんで来い、そんで面白おかしな土産話をしてくれや。特に太一さんのポカ話とかな」

良介がニッと笑いながらヒカリに言う。

「うん」

ヒカリは頷くが、やはり残念そうな表情は隠しきれなかった。

 

 

今日は終業式の日だったので、学校に着くとすぐに教師と生徒全員が体育館に集まった。

「え〜ですから、夏休みだからといって・・・・・」

前世同様相変わらずこういう式での校長の話は長い。

扇風機もクーラーもない体育館と言う密閉空間に閉じ込められて汗が額から滴り落ちる。

「早く終われよ」と、皆の心の声が聞こえたような気がした。

ようやく拷問のような終業式が終わり、教室に帰ると、先生から通信簿が配られる。

前世では適当にやっていた学業も、良介はこの後世ではしっかりと勉強している。

一応精神は大人(ある意味では子供)であったため、小学生の問題如き出来なければ恥ずかしかったし、

それ以上の理由として少しでも悪い成績をとると良介の小遣いが減らされる。そしてなによりも地獄なのがさくらからの長々としてお小言地獄が待っているからである。

一度、「今更、小学生のお勉強なんてやってられるか」と、手を抜いて悪点をとった事があるのだが、その時は足の感覚がなくなるのではないかと思うぐらい長時間正座をさせられた事があるので、もうあんな経験はこりごりだった。

そして今年も何とか、さくらの満足する成績を叩き出し、お小言地獄を回避した良介であった。

 

 

キャンプの日が近づき、俺はキャンプに行かない代わりに太一さんやヒカリがキャンプに使う日用品の買い物に付き合った。

クスリや洋服、消耗品などを買い、デパートの食堂で昼食を食べ、また買い物をする。

一日中ショッピングを行なった俺達は太陽が沈みかけた頃に買い物を終え、自宅のマンションへと向かった。

その帰り道に俺はヒカリの顔が何となく赤いのに気が付いた。

(ヒカリの奴、妙に顔が赤いな・・・・そう言えばデパートに居る時も時折咳をしていたな・・・・まさかヒカリの奴・・・・)

そう思い、俺はヒカリに声をかけた。

「なぁ、ヒカリ。お前少し顔赤いけど大丈夫か?」

「えっ?」

言われたヒカリ本人も気がつかなかった様だ。

「ホントだ。ヒカリお前顔赤いぞ」

太一もヒカリの顔をのぞき込むようにして、ヒカリの顔を見た。

「そう言えば、デパートの中でも少し咳をしていたな。こりゃ早く帰って寝たほうがいいぞ」

「うん・・・・そう言えばなんか、頭が少し痛いかも・・・・」

「夏風邪を引いたな。・・明日のキャンプ休んだほうがいいんじゃねぇか?」

「そうだな。キャンプ場で倒れたら大変だもんな」

俺の意見に太一さんも賛成の様子。

しかし、ヒカリは最後まで太一と共にキャンプに行きたがっていた。

その日の夜、ヒカリは高熱を出し、翌日には熱は何とか下がったが、風邪のため、キャンプは不参加となった。

 

 

8月1日、サマーキャンプ当日、この日は剣道の練習日では無かったので、俺は八神家にお邪魔していて、ヒカリの面倒を見ている。

お袋はパートに行き、ヒカリのお母さん、裕子さんは所用が出来て、今日の昼間は留守であるためだ。

ちなみに俺の親父は今、イギリスに行っている。

なんでも日本のお偉いさんが今、ロンドンを訪問中なので、その護衛に駆り出された。

話を戻し、太一さんは出発間際まで、キャンプに参加するかどうか迷っていたが、ヒカリが「自分の事は気にしないで行ってきて」と、言ったため、キャンプに参加した。

ヒカリのお母さんである裕子さんも心配そうにしていたため、お袋が「良介、今日は道場の稽古休みでしょう?それなら、ヒカリちゃんの看病してあげなさい」と、言ったので、日頃ドラコモンがお世話になっているから俺はヒカリの看病をすることにした。

「ゴメンね、良介君。迷惑かけちゃって」

風邪のため、顔を赤らめたヒカリが謝ってきた。

自分の事よりも他人のことを第一に考えるあたり、ヒカリとなのはは似ているなと俺はそう思いつつ、もう少し、我儘や自分の事を思ってもいいんじゃないかとも同時に思った。

「謝るなよ。困ったときはお互い様だぜ、それにヒカリにはドラコモンの奴が日頃世話になっているからな」

「う、うん。ありがと・・・・」

ヒカリは毛布で顔を半分隠しながら礼を言った。

「取り敢えず、俺は隣のリビングにいるから、何かあったら呼んでくれ」

「う、うん・・・・」

俺は太一さんとヒカリの部屋から出て、リビングのソファーに腰をおろすと、踵に何かがぶつかった。

「ん?なんだ?」

俺は足元にある物体を手でまさぐり、ソレを拾った。

「これは、デジヴァイス!?」

何と、俺の手の中には俺の持っているデジヴァイスと同じ型のデジヴァイスがあった。

(なんでコレがここに?)

(俺のじゃないよな?)

(俺のデジヴァイスは、確か部屋の机の上の置いてある筈だし・・・・)

(うーん・・・・となると、ヒカリか太一さんのものか?でも、ヒカリも太一さんもパートナーデジモンを連れていないし・・・・うーん・・・・)

俺は偶然拾ったデジヴァイスを見ながら唸っていると、

 

ピンポーン

 

と、インターフォンが鳴った。

「はいはい」

俺は宅配便かと思い、とりあえず、床で拾ったデジヴァイスをポケットに入れ、玄関に向かいドアを開ける。

するとそこには予想外の人物が立っていた・・・・。

 

 

登場人物紹介

 

八神裕子

太一とヒカリの母親。

さばさばした性格をしており、毎日家族のため、元気に家事をこなしつつパートもこなしている。

CV水谷優子

 

ウイングドラモン

ドラコモンが完全体に進化した姿。

進化した際、良介はデジヴァイスと一緒に送られてきた紋章入りのタグも何か関係があると思い一緒に持っていた設定です。

「ジ・シュルネン-V」は作者の勝手な設定ですが、ドラコモン、コアドラモンにあって、ウイングドラモンに無いのは変だろうと思い、追加設定しました。

イメージCV加藤英美里

 

 

あとがき

02から登場したアーマー体ですが、02当時は主人公達側にしか、居なかったのに、02以降はモブ敵として数多く登場したので、後世の世界ではちょっと早かったかもしれませんが、敵役として登場させました。

プテラノモンとウイングドラモンの設定上どちらが強いのか不明でしたが、良介君のパートナーと言うことで、今回はウイングドラモンに軍配が上がりました。

そしてようやくデジモンアドベンチャーの原作に入りました。

クイントさん似ということで、さくらさんを少し人間離れした設定にしてしまいましたが、後悔はしていません・・・・・。

それに良介君の親ならこれくらいの能力は有る筈・・・・多分・・・・。




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