三十九話 再会

 

 

残り少ない春休みの期間中、良介は何度もあの廃墟に足を運んではアリサを呼び続けたが、やはりアリサは良介の前に姿を見せなかった。

(どうしてだよ?アリサ・・・・何で出て来てくれないんだ?見ず知らずの俺が名前を知っていて警戒しているのか?)

今日も空振りに終わり、海鳴の街を歩いていると、良介の目の前に図書館があった。

(図書館か・・・・たしか前世ではよくはやてが行っていたな・・・・)

図書館を見ながらふと前世の居候先の少女の事を思い出した。

彼女の事が懐かしくなり、

「もしかして、いるかな」

と、良介ははやてが居るかもしれないと思い図書館の中へと入った。

しかし、残念な事に図書館にはやての姿はなかった。

(そう、なんでもかんでも上手く行く訳ないか・・・・)

そう思いつつも、良介は図書館の中を歩き回った。

そして地下の書庫に降りた時、昔の新聞や雑誌が保管されているのを見て、良介はそれを調べ始めた。

特に海鳴の地方紙を中心に・・・・。

地方紙なら、アリサの事件が乗っている筈・・・・

そんな考えの中、アリサの事件が起こった年の地方紙を全て見たが、アリサの事件は紙面には掲載されていなかった。

(新聞にも載っていない・・・・何故なんだ?まさか、アリサの死体は今現在も見付かっていないとでも言うのか?それとも、アリサはまだ生きているのか・・・・)

アリサはまだ生きているかもしれない・・・・

そんな考えが良介の脳裏をかすめた。

その一番の例がなのはの父、高町士郎だった。

彼は、前世で良介は海鳴に来る前に既に故人となっていたが、この後世では今もちゃんと存命している。

ならば、アリサもこの後世の世界ではまだ生きているかもしれないと言う希望があった。

もし、アリサがこの世界でまだ生きていると言うのであれば、当然アリサも助けたいという思いが良介の中に芽生え始めた。

アリサが生きているかもしれないと言う希望を抱いて図書館を出ようとした時、良介は思いもよらない出会いをした。

良介の視線の先には車いすに乗り、高い位置の本に手を伸ばしている茶髪でショートカットの女の子が居た。

(まさか・・・・はやて?)

女の子は自分に背中を見せているため、女の子の顔は確認できないが、海鳴で車いすに乗り、茶髪でショートカットの女の子と言えば、はやてぐらいしか良介には思い当たる子は居なかった。

そこで、良介は確かめるために車いすの女の子に近づいた。

「・・・・ん?もうちょっと背があれば届きそうなんやけどなぁ」

必死に手を伸ばして本を取ろうとしている女の子の視線に別の人の手が映り、その手は自分が取ろうとしていた本を取ると、自分が取れる位置まで本を運んでくれた。

「えっ?」

「ほれ、これだろう?取りたかった本」

「あ、ありがとうございます」

女の子の視線の先には自分と同い年くらいの黒髪の男の子が映った。

 

良介は車いすの女の子が取ろうとしていた本を取り、手に取れる位置まで持っていく。

すると、驚きの表情をした女の子の顔が自分の視線に映った。

(っ!?やっぱり・・・・はやてだったか・・・・)

車いすの女の子は良介が予想した通り、前世で居候先を提供してくれた少女、八神はやてだった。

「あ、ありがとうございます」

本を取って貰ったお礼にはやてがお礼を言ってきた。

「いや、いいよ。困った時はお互い様だし」

「そ、そうですね・・・・あっ、私は八神はやていいます。女の子なのに変な名前やろ?えっと・・・・君はなんて名前なん?」

「良介・・・・宮本良介」

「年はいくつなん?見た所、私と同じくらいに見えるけど・・・・」

「今度の四月で小三」

「それじゃあ私と同い年や。もっとも私は学校には行ってへんのやけど」

「・・・・不登校児か?」

「ちゃ、ちゃうねん!!私、この通り、足が悪ろうてな、通信教育を受けとんねん」

「そうか・・・・」

それから良介とはやてはテーブル席へ移動し、世間話をした。

良介としては前世の記憶を引き継いでいるが、この後世の歴史は自分の知る歴史といささか違う所があるので、海鳴に在住のはやてから自分が来る前の海鳴の情報を少しでも聞き出したかった。

恭也や忍、士郎や美由希では相手が年上なため、聞きにくい点もあったが、はやてならば今は同年代だし、はやて自身が同年代との語らいに飢えている様子だったので丁度良かった。

「そうなんか、最近ここへ引っ越してきたんか」

「ああ」

「前はどこに住んどった?」

「東京のお台場」

「へぇ〜東京からか・・・・」

はやてはまだ自分が出た事のない海鳴以外の外の世界に興味があるようで、良介に様々な質問をしてきた。

 

「私、両親おらんねん」

話の中で家族についての話題になり、はやては自分の両親はもういない事を話す。

(やっぱり前世同様、はやての両親は既に他界していたか・・・・)

予想はしていたとは言え、やはりなのはの父の事もあり、もしかしたらと思ったのだが、はやてについては前世と同じ境遇だった。

「それじゃあ今は親戚の人と暮しているのか?」

「いや、私だけや」

「え?一人で暮らしているの?その年で・・・・?」

前世と同じと言う事で知ってはいるが、ここは驚いた振りをする良介。

もしかしたら、この後世は親戚の人と暮しているかもしれないと思っていたからだ。

「私の親戚のおじさんが両親の遺産管理とかしてくれているおかげで、お金の方はなんとかなっているんやけど、おじさんはなんや仕事が忙しいらしくて、今まで会った事がないんよ」

「あった事が無い?それじゃあ家事とかどうしている?ヘルパーとか頼んでいるのか?」

「元々料理とかは得意やし、バリアフリーの家にリフォームしてあるから一人でも生活はちゃんと出来とる」

「いやいやいや、あり得ないでしょう!?一人暮らししている事自体が問題だから。 そのおじさん、はっきり言っておかしいよ!!ホームヘルパーを寄こすなり、自分の所に呼ぶなりして世話をするのが普通でしょ!? ちゃんとお金とか見とかないと騙されるよ? 昨今、親戚と名乗っていたいけな老人から年金を騙すくらいの酷い輩はいるんだから!!」

実際そのおじさんの正体を良介は知っているのだが、やはりここではやてを見捨てる訳にはいかない。

「・・・・確かに。 どないしよう・・でも、私連絡先知らんねん。イギリスにおるって事は分かっているんやけど・・・・」

「いや、お金も大事だけど、もう少しお前、自分の体を大切にしろよ」

もしこの場にドラコモンが居れば「ソレ、良介の言えるセリフか?」と突っ込んでいたかもしれない。

「もし、具合が悪くなって倒れても誰も助けに来ないんだぞ。そうなればお前、孤独死決定だぞ」

「うぅ〜確かに言われてみると・・・・」

今まで大怪我や病気と言った経験が無かったようだが、良介に指摘され、不安げになるはやて。

「はやて、家にこないか?」

「えっ!?」

前世ではやてに世話になった良介はこの後世ではやてに恩返しをしようと思ったのだ。

「でも・・・・良介君の家の人に迷惑ちゃうか?」

「俺の家のお袋を舐めるなよ。器でいったら、太平洋の水が入っても溢れるくらいでかいんだぞ」

「でも・・・・」

「ええい、ぐずぐず言うな!!」

「ちょっ!!良介君!?」

良介ははやてが遠慮している中、強引にはやてを自分の家に案内した。

(前世ではジュエルシードの影響で迷惑をかけちまった・・・・知らず知らずの内、お前を傷つけてしまっただが、この後世ではお前に恩返しをさせてくれ・・・・)

 

「ただいま母さん」

「おかえり・・・・・あら?どうしたのその子?」

「ど、どうも・・・・」

さくらは自分の息子が連れてきた車いすの少女に首を傾げた。

 

「そう、そう言う事・・・・」

さくらが良介からはやての事情を聞き、はやての現状を理解した。

「それで母さん・・・・」

「分かっているわ、はやてちゃん・・・・でいいのよね?」

「は、はい」

さくらに名を呼ばれ、少し緊張な面持ちのはやて。

「はやてちゃんが良ければこの家で私達と一緒に暮らしても良いのよ」

「・・・・ほ、ホンマに・・・・ホンマにええんか?」

「ええ・・・・それに私をお母さんと思ってもいいのよ」

そう言ってさくらははやてをギュっと抱きしめる。

「お、おかん・・・・う・・うわぁぁぁぁぁー!!」

はやてはこれまで我慢していた涙をここで流した。

両親が死んで一人になり、足が不自由なため、親しい同年代の友達もおらず、一人で図書館に通う一人孤独な日々の中で、久しぶりに感じた家族の温もり・・・・母親の温もりを感じ、はやての涙線が崩壊したのだ。

 

 

その日の夕食はさくらと共にはやては一緒に料理した。

夕食後、良介ははやてにもう一人・・・・というか、もう一体の居候?を紹介した。

「はやて、実はお前に紹介したい奴が居るんだ・・・・俺が学校に行っている間、一緒に過ごす事になる奴なんだが・・・・」

「えっ?まだ誰かおるん?」

「・・・・見て、驚くなよ」

「?」

「ドラコモン」

良介がドラコモンを呼ぶと、良介の部屋からドラコモンが姿を見せた。

「ど、どうも・・・・ドラコモンです」

「・・・・」

ドラコモンを見たはやては目を見開き固まる。

「あ、あの・・・・」

「か・・・・」

「か?」

「かわええ!!めっちゃかわええ!!」

はやては目をキラキラさせ、ドラコモンをギュッと抱きしめる。

「それにしても良くできたロボットやな?」

はやてはドラコモンをロボットだと勘違いしているようだ。

「あ、あのはやて、ドラコモンはロボットじゃないぞ・・・・デジモンっていう生物だ」

「・・・・デジモン?」

はやては自分の聞いた事のない生物名を聞き、首を傾げた。

「ああ、デジモンっていうのはな・・・・・」

良介はドラコモンと出会った事、去年の夏、お台場って起こった事をはやてに話した。

「あれは、テロか自然災害とちゃうんかったんか?」

「世間では表向きそのような事になっているが、実際はデジモンの仕業だったのさ」

「そうか・・・・今、私達がこうして生きて居られるんは皆、良介君達のおかげやね、ありがとう」

小学生の空想話かもしれない内容なのに、はやては良介の話を信じ、礼をいってくれた。

それから夜は家族みんなで一緒に寝た。

はやての寝顔はとても満足そうであった・・・・。

ちなみにお風呂ははやてはさくらと一緒に入ったのだが、入浴の際、はやてはさくらの胸を揉んでいた。

さくらはその事に関して特に気にする様子は無く、

「母親の愛情に飢えていたのね」

と、思っていた。

一方のはやては、

「さくらさんエエ乳しとるなぁ・・・・」

と、さくらの胸を絶賛していた。

 

 

翌日、はやての家からはやての着替えや必要なものを取りに八神家にはやて、良介、さくらの三人の姿があった。

服やお気に入りの本などを鞄や段ボールの中に詰め込んで、車へと乗せて行く作業を進めて行く内、書斎であの本を見つけた・・・・。

前世ではやての家の中でジュエルシードが暴走した中、偶然に出会った・・・・。

(ミヤ・・・・)

良介はかつての相棒の名を心の中で呼んだ。

会いたいと思う中、良介はその本を手に取り、無意識に気を送りこんだ・・・・。

すると、本の表紙が光、それはやがて形を形成していく・・・・。

現れたのは、手の平サイズの女の子――

童話の妖精を想像させる美少女がそこに居た・・・・。

透き通った銀色の髪と一本のリボン、真紅の瞳。

不可侵の気品を感じさせる繊細な容姿と、可憐な顔立ち。

レースをふんだんに使い、胸元には深い編みこみ、幻想的でありながら、ダークなイメージを与えるゴシックなドレスを纏っている。

前世とは違う形、違う時期だが、良介の目の前にいる小さな少女は紛れも無く、前世の自分の相棒、ミヤだった。

少女はゆっくりと目を開け、良介の顔を見上げる。

すると、涙を滲ませて、の可憐な表情を――怒りに滲ませて。

「何て事するですか〜〜〜!!」

「うわっ!?」

飛び上がって、良介の耳元で叫ぶ。

「どうしてくれるんですかぁ!? 責任取って下さいですぅ!」

少女は必死の形相で叫ぶ。

「マイスターと切り離されちゃいましたぁ・・・うー、うえ〜〜〜〜〜ん!!」

少女はポロポロ涙を零して、大袈裟に泣き喚いている。

「まだ目覚める前なのにぃー、ふ、ふえ〜〜〜〜ん!!何もかも滅茶苦茶ですぅ〜〜〜!!酷いですぅ! 私が一体何をしたって言うんですかぁ!?ぜんぶ、ぜんぶ、ぜーーーんぶ、貴方のせいですぅ!」

出会い方は違うが、前世で出会った時と同じセリフを吐く、手の平サイズの少女に良介は懐かしさを感じ、苦笑してしまう。

「なに、笑っているんですか!?私は貴方のせいで切り離されてしまったんですよ!!皆と離ればなれになってしまったんですよ!!」

「ごめんごめん、それでお前名前は?」

「えっ?」

「名前だよ、名前」

分かっていながらも聞かずにはいられない。

一応、礼儀だからな。

「そ、それは、その・・・・無いです・・・・」

気まずそうに少女はポツリと呟く。

「無いんです!私は貴方のせいで切り離されてしまった書の一部でしかないんですからぁ!」

「はぁ・・・・」

「そ、そうです!貴方が責任を取って、可愛い名前をつけて下さい!!」

「じゃあ・・・・チビスケ・・・・」

「えぇー」

不満そうな声をあげるチビスケ(仮)。

「可愛い名前って言ったじゃないですかぁ!?」

「可愛いじゃん、チビスケって。きっと愛称でチビちゃんとか呼ばれるぞ」

「もっと、違う名前にしてくださいですぅ〜〜」

(泣いて頼むほどの事か!?まぁ、すでにお前の名前はすでに決まっているのだが、ここはやっぱりお約束と言う事で・・・・)

「分かった、分かった。なら、俺の名前を一個やるよ。宮本良介の「宮」で、名前はミヤ。これでいいだろ?」

「ミヤ・・・・」

(返答を聞かなくても分かるぞ。お前の、そんな嬉しそうな顔を見ればな――やっぱり世界は違ってもお前はミヤのままなんだな・・・・)

良介はこの後世で再び出会えた相棒を見ながらそう思い、名前をもらって喜んでいるミヤを見つめていた。

 

「良介君、誰か来とるんか?」

他の部屋で荷造りをしていたはやてがミヤの声を聞きつけた良介に聞いてきた。

「お前がピーピー喚くからバレたぞ」

「ピーピーって元はと言えば良介が悪いんじゃないですか!!」

ムゥーっと膨れっ面をするミヤ。

「ともかく、事情を説明しないとな」

良介はミヤを連れてはやてとさくらの下へ向かった。

 

「魔法の本・・・・コレが・・・・」

はやてはミヤが出てきた本を手に取り、ジッとその本を見つめる。

「はいですぅ。私はどういう訳か、他の皆とは切り離され、一つのデバイス体として生まれてしまいました。本来は、私はその本の全体を管理するプログラム体だったのですが、こうして分離してしまいました・・・・」

ミヤがしょぼんとすると、二人の良介に対する視線が痛い。

「親元から子供を強引に引き離した感じやな」

「ちょ、表現が悪いぞ!!はやて」

慌てて弁解する良介。

「それで、他の皆というのは?」

さくらが、ミヤに質問する。

「その本には管理プログラムの他に防衛プログラム・・・・つまり、本の主を守る守護騎士達が存在します」

 

ヴォルケンリッターのリーダ― 烈火の将 シグナム

 

鉄槌の騎士 ヴィータ

 

ヴォルケンリッターの参謀 湖の騎士 シャマル

 

盾の守護獣 ザフィーラ

 

「この四人がヴォルケンリッター、守護騎士と言われるメンバーです」

(やっぱりシグナム達か・・・・)

「そのシグナム達にはいつ会えるん?」

「今年のはやてちゃんの誕生日に機動予定でしたから、はやてちゃんの誕生日の日の午前零時に彼女達ははやてちゃんの前に現れます」

「それじゃあその時は、はやてちゃんの誕生日と家族が増える御祝いを盛大にしましょう」

話を聞いたさくらがはやての誕生日会の提案をすると、

「ほ、ホンマか!?さくらさん?」

はやては目をキラキラさせてさくらに問う。

「ええ」

「誕生日なんてもう何年も祝って貰った事があら辺からに楽しみや」

はやては待ち遠しそうに自分の誕生日。そしてヴォルケンリッター達の・・・・新しい家族達が出てくるのを待った。

 

 

登場人物紹介

 

八神 はやて

前世同様、海鳴に住んでいた足の悪い少女。

その実、ロストギアの闇の書の主。

イギリスに居る叔父がお金を管理していた為、一人で住んでいたが、この世界では。良介の計らいで宮本家に住む事になった。

 

ミヤ

闇の書のプログラムの一つ。

管理世界では珍しいユニゾンデバイスに属する。

前世同様、良介の法術により、闇の書から切り離されてしまい、稼働予定よりも早く生まれた。

 

 

あとがき

はやてとミヤに再会した良介君。

前世の経験からこの後世では、はやてとアリサに対する過ちを正そうとする良介君。

まだまだ良介君の奔走は続きます。

では、次回にまたお会い致しましょう。

 




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