三十三話　究極の闇と負の想い

突如、スパイラルマウンテンの頂きが消え、子供たちは暗黒の空間へと落ちていった。パートナーデジモンたちもそれを追いかけていく。

やがて、底に着いたのか動きが止まった。

「止まった・・・・」

「ここは？一体・・・・」

光子郎が辺りを見回すが。あるのは闇、闇、闇そのまた闇で、永遠に光の指さない暗闇の空間であった。

そのとき、ゲンナイからのメールが来た。

「ゲンナイさん！！」

「おそらく、この闇に終わりはないじゃろう・・・・」

「おい、一体どうなっているんだよ！？」

「ダークマスターズは全員倒したのに！！」

「まだ、背後に控えていた根源のような奴が倒せていないんじゃろう」

「「「「「ええ！？」」」」

（やっぱりな・・・・）

「火の壁からやってきた暗黒の元」

「火の壁？」

「古代の碑文じゃ、碑文にはこうあった・・・・」

太古の昔、デジタルワールドには火の壁があって、その向こうから何かがやってきた。

その生き物は存在するだけで時空をゆがめる存在であって、世界は崩壊の危機に見舞われた。

デジモンたちではソイツを倒すことが出来ず、現実世界から子供たちを招き、そいつを倒したとある。

「ええ！？　ということは・・・・」

「僕達の前にもえらばれし子供がいたのか！？」

「じゃあ、私たちが戦う敵っていうのもその火の壁から来たの？」

「碑文には予言も書かれておっての、『やがて大きな闇が火の壁からやってくる』って書いてあっての・・・・」

「大きな闇・・・・」

「この闇の事か？」

「じゃあ、この周りの闇がそいつの正体だって言うのか？」

「そうともいえる。じゃが、実体もあるじゃろう。心してかかれよ・・・・」

そして、ゲンナイの通信が切れた。

「か、肝心なところで・・・・」

「でも、そいつをたおせば本当に終わりなんだな！！」

「ああ、前の選ばれし子供たちだって倒すことが出来たんだ。俺達だって」

ヤマトが皆を鼓舞している中、

「あああぁぁぁぁあああぁぁぁああ〜・・・・あぁぁぁぁああああぁぁぁあああ〜・・・・」

その時、何処からともなく不気味な声が響いてきた。

「何この声！？」

「気味が悪い・・・・」

声は全方位から怨念の様に聞こえてくる。

「・・・を・・・・む・・・・・念・・・・を・・・・・」

「何か言っているぞ・・・・」

たしかに太一に言うとおり、声の主は何を呟いていた。

「そうだ・・・・我々の無念を・・・・」

「無念？」

「誰だ！？」

やがてソレは子供達の前に姿を露わした。

闇の中から正十二面体の物体がゆっくり来たと思ったら、そいつは子供達の前で変形をし始めた。

「これが、火の壁から出てきたデジモン・・・・」

「なんなんだ、アイツ・・・・」

「本当に、デジモンなのか？実態があるようで無い・・・・なにか念で出来た集合体のようだ・・・・それにしても・・・・なんかアイツの声がピエモンに似ている様な気が・・・・・」

良介は目の前に出てきたデジモン？の存在にアレが本当にデジモンなのか判断がつかずにいた。

ついでにアイツが発している声についても何処かで聞いた事のある様な声だと思った。

アポカリモン　属性　不明

存在自体がデジモンなのかそうでないのか全く解析が出来ない存在。

ただしその力は世界を歪ませるほど、強力な力を持っている。

必殺技は全てを無にする「ダークネスゾーン」

「フフフフフ、私を醜いと思うか？」

姿を露わしたアポカリモンが子供達に自分の姿について聞いてきた。

「「「「「「「・・・・・」」」」」」」」

「いや、独創的だと思うぞ・・・・」

良介を除く、他の子供達はアポカリモンの問いに答える事が出来なかったが、良介自身は肝が据わっていると言うか、前世の様々な体験もしていることから、アポカリモンの問いに何とか答える事が出来た。

「・・・・そうだろう。・・・・所詮我々は進化の過程で道を阻まれたもの・・・・」

（無視しやがった！！）

アポカリモンは良介の感想を無視して自らの出生を語り出した。

「進化の過程？」

「デジモンたちは長い年月の中で進化を繰り返してきた・・・・その中で消えていったものがいるのを知っているか？」

（地球で言う恐竜を始めとする古代生物の集合体のような存在か・・・・？）

「進化の過程で消えていく種があるのは仕方のないことです、やはり環境に適応できずに・・・・」

「だまれぇ！！！」

光子郎が自然の摂理的な意見を返すと、アポカリモンは大声をあげた。

「仕方のない？　その一言で全てを済ませる気か！？」

光子郎の言葉にアポカリモンは物凄く不機嫌な様子。

「何が言いたい？」

「お前は、我々が生き残る資格のない種だと決め付けるのか？」

「い、いえ、僕は決して・・・・」

（おいおい、酔っ払いの絡みかよ？ま、言いたい事はなんとなくわかるけど・・・・）

「我々は進化の過程で消えていったデジモン達の無念や怨念から生まれた集合体だ」

アポカリモンは自身の正体を暴露する。

「そうか、だから一人称の中で我々が入っているのか・・・・」

「選ばれし子供たちよ、そしてそのデジモンたち、私はお前達に出会えるのをずっと楽しみにしていたのだ」

「なに！？」

「どういうことだ？」

「いいか、我々が暗く、冷たい暗黒へ葬り去られる時、その傍らで楽しく笑いながら暮らしているお前たちがいる・・・・何故だ！！」

感情が高ぶっているアポカリモンの体から電撃の様なモノが吹き出て、みんなを吹き飛ばす。

「みんな、大丈夫か！？」

「ええ、平気よ」

太一が皆の安否を確認し、空が太一に報告する。

「我々が一体何をしたというのだ！？」

「っ！？」

アポカリモンは突然自分の体に爪を立て、自身の体を引き裂く。

爪で引き裂かれた体からは緑色の血が流れ出す。

「何故、我々が泣かなければならないのだ！？」

「イヤァ！！見たくない・・・・」

その残酷なまでの姿にミミは声を上げ、目をそむけた。

演説している最中アポカリモンの体の傷はみるみる内に消えていった。

（その言葉、管理局員が聞いたら、１００％お前をスカウトしているな・・・・まぁ、お前が言いたい事やお前の無念も分からない訳じゃあない・・・・でも、悪い意味で言えばあまりにも自己中心的で、他者に八つ当たりしているだけじゃないか・・・・それじゃあ今までの闘いで散っていったレオモンやチューモンの存在も無意味だと言いたいのか！？）

「そうだ！！この世界は我々が支配する！！我々の居場所を確立するのだ！！光あるところに呪いあれ！！」

アポカリモンの触手の一つが形を変えていく。

（他者を踏みにじって自分達の居場所を確立するだと！？やっぱりお前は自己中心的だ！！友情や愛、正義を語りたいならばなぜ、歩み寄ろうとしない！？世界のために役立ちたいなら、なぜ共存の道を探そうとしない！？）

良介が心に思った問いをアポカリモンに言おうとした瞬間、

「アルティメットストリーム！！」

触手の先がメタルシードラモンの頭部に変形し、そこからメタルシードラモンの必殺技だったアルティメットストリームをヒカリに向けて撃ってきた。

「ガァァァ！？」

「エンジェウーモン！？」

アポカリモンのアルティメットストリームからヒカリを庇ったエンジェウーモンがくらった。

「心優しい子供達よ、今のは、我々の友情の印だ。次は愛！！ブラッティーストリーム！！」

次はヴァンデモンに変化し、攻撃目標をミミへと変更してきた。

「キャァァァ！！」

「ミミ！！」

リリモンはエンジェウーモン同様、ミミを庇い、アポカリモンのブラッティーストリームをくらう。

「リリモン！！」

「正義！！　ムゲンキャノン！！」

三度目はムゲンドラモンに変化し、ムゲンキャノンを空へと撃ってきた。

そこをガルダモンが庇う。

「空！！アアアア！！！」

「ガルダモン！！」

「もしかしたら、今まで倒してきたデジモンの技を全部使えるんでしょうか？」

光子郎がアポカリモンの攻撃を見て、アポカリモンの能力を予想する。

「でしょうね、死んでいったデジモン達の中で、バグを起こしてデジたまになれなかったデジモンも『生きたい』という執念があった筈ですから・・・・」

良介が光子郎の予想が当たっていると推測する。

「それって、今までのデジモンを全部相手にするのと同じじゃないか！？」

「それじゃあ、勝ち目が無いってこと！？」

「みんな、惑わされるな！！体勢を整えるんだ！！」

「ええ、アイツが今まで戦ってきた相手・・・・アイツの言動からして今まで倒してきたデジモンの技を使えるとしてもあいつ自身は一体だけですから！！」

弱気になりそうな皆を太一と良介が励まし、鼓舞する。

「私の恐ろしさはこんなものではい！！　デスエボリューション！！」

アポカリモンの触手がデジモン達に伸び、食虫植物が虫を捕らえるかのようにデジモン達を捕獲する。

「お前達に、進化の過程で消えていく我々の気持ちを分からせてやる・・・・」

触手が開き、解放されたデジモン達は成長期、エンジェウーモンはテイルモンにそれぞれ退化させられた。

「そ、そんな・・・・」

「みんな、戻っちゃった・・・・」

「タケル、ごめん」

「謝ることないよ、パタモン」

「でもこのままじゃ・・・・」

退化させられた事で勝率がグッと低くなったことにヒカリは弱気になるが、

「諦めちゃダメ！！」

テイルモンがヒカリを励ます。

「大丈夫、まだまだ戦える！！」

「進化さえできれば・・・・」

「そうだ！皆進化してくれ！！」

「ああ、分かっている」

「お腹がちょっとすいているけど・・・・」

パルモンがお腹を押さえながら言う。

「大丈夫、気合いを入れろ！！」

そんなパルモンにアグモンが声をかける。

子供たちがもう一度、デジモン達を進化させようとすると、

「デス・クロウ！！」

アポカリモンの触手からデビモンの手が生えて来て子供達の紋章を奪い、消滅させてしまった。

「そんな！！紋章が・・・・」

「とられた！？」

「紋章がないと進化できない・・・・」

「どうだ、これで進化できなかった我々の苦しみが分かっただろう？」

「なんて事だ、紋章が壊れてしまうなんて・・・・」

「進化出来ないままで、アイツに勝てるの？」

「無理です。全てのデジモンの力を合わせ持ったデジモンを成長期のデジモンが倒せるわけありません」

子供達が絶望的な状況な中、アポカリモンは何かの呪文のようなものを呟き始めた。

「う、うわぁぁぁ！？」

突如、丈が悲鳴を上げた。

それもそのはず、足が消えていっている・・・・いや、この場合、分解されていると言った方が正しい。

そして他のみんなの体も同じように分解されていく・・・・。

「大変です、デジタルデータに分解されているんだ！！

「なんだって！？」

「「「「「うわぁぁぁぁぁ！？」」」」」

子供達とデジモンの体は完全に分解され、後には何も残らなかった。

気がつくと、皆は真っ白な空間に０と１の数字が浮かんでいる奇妙な世界にいた。

「ここは・・・・？」

「データの世界です。僕達分解されてデータにされてしまったんです」

「分解！？それじゃあアタシたち、どうなるの！？」

「分かりません・・・・」

「もうだめなのかしら・・・・」

「分からない。こんなこと初めてだし・・・・」

「俺達負けたのか・・・・」

「もう・・諦めるしか・・・・」

皆が負けて、データに分解され、もう打つ手はないと諦めかけている中・・・・・。

「何を！！弱気になっているんです！！」

良介が声をあげる。

「良介！？」

「俺は諦めませんよ！！ここで諦めたら、今まで消えて行ったみんなはなんだったんですか！？レオモンやチューモンは一体何のために死んでいったんですか！？絶対に俺は諦めませんよ！！絶対にここから出てアイツを倒します！！」

「そうだよ、太一、太一の勇気はどうしたの！！」

「アグモン・・・・」

「ヤマト、希望を捨てちゃだめだ！！」

「空、今までもなんとかなってきたじゃない！！」

「ガブモン、お前・・・・」

「ピヨモン・・・・あなた」

「でも、こんな時にどうしたらいいのかわからないのに」

「ほんなら光子郎はんは今までの戦いでどうしたらいいのかわかっておったんですか？」

「そうだよ、冒険はいつでも初めてのことばっかり」

「いままで仲間達を信じてきてここまで来たんだよ」

「そうよ、私たちは信じてここまで来た」

「そうだ……最初は怖かったけど色々なことを経験できたよ・・・・」

「そう、みんなのおかげで私強くなったと思う・・・・」

「タケル、僕はタケルに会うまでは進化しなくていいって思っていた・・・・でも・・・・」

「うん、僕もパタモンに出会って戦うことも大切だって気がついたんだ」

「私、ここにこれてよかったって思っているわ。みんながいて、ピヨモンがいて大切なことに気がつけた」

「空・・・・」

「そうですね、みんな、デジモンたちに出会えて大切なことを教わりました」

「光子郎はん・・・・」

「ガブモン、お前のおかげで友情がなんなのか分かった気がする・・・・」

「ヤマト・・・・」

「いつも、俺を支えてくれてありがとうなガブモン」

「うん！！」

「太一、いろいろあったけど僕と太一はいいコンビだと思わない？」

「なに当たり前のこと言ってんだよアグモン！！」

「へへ」

「せっかく会えたのにここで終わるわけにはいかないよね、テイルモン」

「ああ、それではなんのためにヒカリを探し続けていたのか分からなくなるからな」

「ドラコモン・・・・お前は後悔していないか？」

「当たり前だ！！それに僕が居ないと良介はいっつも無茶ばかりするからね、そりゃあ喧嘩とかするけど、良介をパートナーに選んだのは僕が決めた運命なんだから」

皆の中で、デジタルワールドを旅した事、パートナーと一緒に生活してきた日々の日常の事がまるで走馬灯のように蘇った。

「もし、みんながいなかったら・・・・」

「もし、デジタルワールドに来なかったら・・・・」

「僕達は今の僕達じゃなかった」

「この世界に来たから今の俺達があって」

「みんなで進んできたから今の俺達があるんだ！！」

「そうだ、ここで終わりには出来ない！！」

「私たちの冒険をここでなかったことなんかにしない！！」

「デジタルワールドの仲間達のためにも！！」

「地球で私たちを信じてくれている人たちのためにも！！」

「諦めちゃだめなんだ！！」

「心の光を絶やさない！！」

「信じた運命を進む！！」

諦めない心

未来への希望を絶やさない心

自分達が信じた運命を突き進む心

皆がそう強く願った時、

子供達の紋章が再び出現し、光輝き始めた。

「な、なんだ！？」

「そうか、心だ！！紋章はみんなの心のことだったんだ！！」

「心？」

「そうか、僕の中の知識、丈さんの中の誠実というように、みんなの心の特性が強く現れれば紋章は不要なんですね！？」

「いや、違う・・・・俺の中の紋章が勝手に輝いたんじゃなくって、みんなの友情が俺の中に入って輝いたんだ！！」

「そうだ、一人の紋章はみんなのために、みんなの紋章は一人のために！！」

「私の光はみんなの光！！」

「みんなの希望が僕の希望に！！」

「知識！！」

「純真」

「誠実」

「愛情」

「友情」

「勇気」

「運命」

デジモン達は超進化し、そして、子供達とデジモンたちはデジタルの世界を突破した。

「な、なんだと！？」

分解した筈の子供達とデジモンが再び自分の目の前に現れたことにアポカリモンは驚きを隠せなかった

「お前の思い通りにはならないぞ！！」

太一がアポカリモンに宣言し、皆もアポカリモンを睨む。

世界の運命をかけた戦いはこれで仕切り直しとなった。

あとがき

いよいよデジモン編無印の最終編であるアポカリモン戦へ入りました。