三話 真夜中の戦い 古代竜
VS邪竜
ヒカリがドラコモンの事を知ってから、彼女はちょくちょく俺の家に来て、ドラコモンと遊んでいる。
ドラコモンが成長期と言う形態に進化して数ヶ月経ったが未だにそれ以上の進化はしていない。
腹の空き加減や体調の具合によっては偶に幼年期
Uのベビドモン退化することはあった。小学校に入学してから初めての夏休みに俺はサマーキャンプに参加した。
このサマーキャンプは毎年、俺の通うお台場小学校が行なっている一年生から六年生までの合同キャンプで参加は自由であった。
俺はお隣の八神さんに誘われて参加することにした。
カバンの中には着替え等の荷物の他、ベビドモンに退化させたドラコモンも一緒に連れてきている。
それに家に置いておくとまた俺の小遣いやコインを食べそうだからだ。それと自然の中で思いっきりリフレッシュさせてやりたいと言う思いもあった。
昼間は家の中に閉じこもりっきりで外に出る事の出来る夜間もマンションの中庭にある小さな公園しか出てこれないから、この際、この世界の山や森で伸び伸びさせようと思い連れてきた。
キャンプ場に着くと、予め決められた班に別れ、テントを張り、食事の用意となる。
「相変わらずヤマトは料理が上手いな」
ジャガイモの皮を切っているヤマトを見ながら太一が言う。
石田ヤマト。
太一と同学年でクールな印象を持つ男子生徒だ。
「まぁ、毎日親父のメシを作っていれば嫌でも上手くはなるさ」
ジャガイモの皮を切りながらヤマトは平然と言う。
「そう言えば弟のタケルは来ていないのか?」
ヤマトにはタケルと言う弟がいると良介は太一から以前聞いたことがある。しかも良介とヒカリと同じ学年とのことだ。
「あ、ああ・・・・家の事情で今年は参加出来なかったんだ」
ヤマトの家は何やら複雑な家庭事情らしい。
「良介君も上手よね。さっきもテント張り結構手馴れた手つきでやってたし」
そう言ったのは武之内空。
太一、ヤマトと同じ学年で、太一とはサッカークラブも同じで面倒見の良いしっかり者の女生徒だ。
「俺の場合はその・・・・親とよくキャンプとかに行きますんで・・・・」
苦笑いしながら言う良介。
実際良介は前世において野宿等の経験が豊富であるし、この後世でもさくらと共にキャンプと言う名の山篭りを幾度と経験しているため、テント張りやこうした野外料理は慣れている。
その日の深夜、テントの中で寝ていると、
「・・・・すけ・・・・・りょ・・・・・う・・・・良介・・・・」
ベビドモンが良介にこっそり話しかけてきた。
「どうした?」
「良介・・・・何か・・・・来る・・・・」
「えっ?」
ベビドモンと共にテントから出ると、近くの山の上にオーロラの様な輝きと共に空間が歪み始めた。
あの歪み・・・・
・・・・あの歪みを俺は一度見たことがある。
あれは忘れもしない。
あれはベビドモンのタマゴを拾った日に見た歪みと同じだった。
やがて歪みの中から一匹の黒い竜が姿を現した。
デビドラモン 成熟期 邪竜型デジモン 属性 ウィルス
「複眼の悪魔」と呼ばれ恐れられている邪竜デジモン。
ダークエリアより召喚された魔獣で、凶暴かつ邪悪なデジモン。ドラモン系のデジモンだが手足が異常に発達しており、長く伸びた両腕で相手を切り裂き、強靭な両足と翼で闇を飛び回る。性格は邪悪そのもので慈悲の心は持ち合わせていない。また、尻尾の先は開くと鉤爪状になっており相手を串刺しにすることができる。
必殺技は巨大な爪で相手を切り刻み、血祭りにあげる『クリムゾンネイル』
「あれは・・・・デジモン?」
「うん。それもかなり凶暴な奴だよ」
「どうする?」
「どうするもこうするもここで倒さないとここら辺一帯が焼け野原になっちゃうよ」
「分かった。行こう」
「ああ」
ベビドモン進化
―――――ドラコモン
―――――
ベビドモンはドラコモンに進化して、良介と共にデビドラモンの所へと向かおうとした時、良介達の背後から声をかける人物がいた。
「良介君・・・・ドラコモン・・・・・」
「「えっ!?」」
良介とドラコモンが振り返るとそこには不安そうな表情をしたヒカリがいた。
「ひ、ヒカリちゃん?」
「どうしたの?こんな夜遅くに?」
「何か・・・・怖いモノが来た・・・・コロモンのようでコロモンじゃないの・・・・」
(そうか、ヒカリはデジモンの気配に誰よりも敏感な子だったな。恐らく僕と同じ、デビドラモンの気配を感じ取ったのだろう)
「大丈夫だよ、ヒカリ。アイツは僕と良介で何とかするから」
ドラコモンはヒカリが何故不安がっているのかを察し、ヒカリを慰めるように言う。
「ドラコモンの言うとおり、俺たちこう見えても強いんだぜ。だから任せて」
「う、うん・・・・きっと帰って来てね・・・・・・」
「ああ、約束する。俺は、約束は破らねから。それじゃあ行ってくる」
「うん。いってらっしゃい・・・・必ず帰ってきてね・・・・」
ヒカリの言葉を背中から聞きつつ良介とドラコモンはデビドラモンの下へ向かった。
デビドラモンは当初、ここが何処なのか戸惑っていた様子だったが、すぐに本来の凶暴な性格を露わにした。
デビドラモンにとって此処が自分のいた世界だろうと異世界だろうと関係なかった様だ。
「やばいな、奴を絶対にキャンプ場に近づけるな!!」
「了解!!ベビーブレス!!」
ドラコモンはデビドラモンに攻撃を開始する。
ドラコモンの攻撃をデビドラモンは顔面に受けるが、成長期と成熟期の差からあまり効果が無かった。
ドラコモンは成長期の中では高い能力を持っているが、相手も同じドラモン系ということでデビドラモンの方も成熟期の方では能力値が高かった。
世代の差がこうして現れた訳である。
突然の攻撃を受け、デビドラモンも怒ったようで、必殺技クリムゾンネイルを繰り出す。
良介とドラコモンは互いに左右に跳び、クリムゾンネイルをかわす。
クリムゾンネイルを受けた場所は地面がザックリと抉れ、岩も木もズダズダになぎ倒された。
「あんなのを食らったら・・・・・」
「一溜りもないね・・・・・」
クリムゾンネイルの威力を見て、互いに冷や汗が出る。
デビドラモンは翼を使い空に舞い上がると、今度は急降下で良介たちにアタックを仕掛けてきた。
良介たちはアタックをかわすが、その後の風圧により反撃が遅れ、デビドラモンに攻撃することが出来ない。
「くそっ、僕が強かったら・・・・大きかったら・・・・もっと速く空を飛べれば・・・・」
ドラコモンは悔しそうにデビドラモンを睨む。
成長期に進化してからドラコモンは飛ぶ練習を行い、飛ぶことは出来たが、目の前のデビドラモンのように速く飛ぶことはまだ出来ない。
デビドラモンは再び急降下アタックをしてきた。
「おりゃぁぁぁ」
良介はタイミングを見て、先が尖っている木の棒をデビドラモンの体に突き刺したが、デビドラモンの鱗の方が固く、木の棒は折れた。
しかし、デビドラモンは良介の行なった攻撃にイラついた様で、尻尾を振り良介をなぎ払った。
「ぐはっ」
デビドラモンの尻尾の攻撃を食らい、飛ばされ、地面に叩きつけられた良介はその衝撃に苦痛の声をあげる。
「良介!!」
「くぅ〜・・・・だ、大丈夫だ・・・・ゴホっ」
起き上がろうとした良介は突然口から血を吐き出しその場に倒れた。
「良介・・・・良介が・・・血を・・・・・良介が・・・僕が弱いから・・・・弱いせいで良介が血を・・・・・くそぉぉぉぉぉっ!!」
ドラコモンは血を吐いて倒れた良介を見て、一瞬唖然としたが、悔しさのあまり目を瞑り、天に向かって吠えた。
すると、ドラコモンの体が光だした。
ドラコモン進化
―――――コアドラモン
―――――
ドラコモンを包んでいた光が消え去ると、そこにいたのはコアドラモンと名乗る青いドラゴン型のデジモンだった。
コアドラモン(青) 成熟期 竜型デジモン 属性 ワクチン
「ドラモン」の名を冠するデジモンにはデジコアの中に必ず竜因子のデータを有しており、その竜因子データの割合が高ければ高いほど体の形状が竜型になっていくが、コアドラモンの竜因子データ割合は
100%となっており、まさしく純血の竜型デジモンであり、背中の発達した翼で高速な飛行を行うことが出来る。必殺技は、青色に輝く灼熱のブレスを放つ『ブルーフレアブレス』と強靭な尻尾を使って相手に痛恨の打撃を与える『ストライクボマー』
ドラコモン同様に「逆鱗」といわれるウロコを持っており、ここに触れてしまうと怒りのあまり意識を失い、頭部の角を激しく発光させた後に口から放つ拡散レーザービーム『ジ・シュルネン
-U』を無差別に放つ。
デビドラモンは成熟期に進化したドラコモン(コアドラモン)よりも先程ダメージを与えた良介の方が先に倒しやすいと判断し、良介の方へと向かう。
「そうはさせるか!!ブルーフレアブレス!!」
コアドラモンはデビドラモンの側面から必殺技のブルーフレアブレスを当て、怯ませると、
「ストライクボマー!!」
自らの尻尾をデビドラモンに叩きつけた。
悲痛な声をあげ、地面に叩きつけられるデビドラモン。
そしてデビドラモンが地面から起き上がる前にコアドラモンはデビドラモンの尻尾を掴むと、
「お前は元居た世界へ帰れ!!」
と、デビドラモンを振り回し、空間の歪みの中へと放り投げた。
悲鳴をあげながらデビドラモンは空間の歪みの彼方へと消えていった。
それからすぐに空間の歪みは収まり、夜空には何事もなかったかのように星空が煌めいていた。
「良介!大丈夫か!?」
デビドラモンを空間の歪みの彼方へと飛ばしたコアドラモンが急ぎ良介の下に駆け寄る。
「あ、ああ・・・・何とかな・・・・それにしてもお前、竜らしくなったな・・・・頼もしいぜ・・相棒」
「ふん、良介みたいな無茶をするテイマーを持つと嫌でも強くならないとね」
「ぬかせ・・・・フフフハハハハハハ」
「ハハハハハハ」
良介とコアドラモンは互いに笑いあってお互いの絆を深めていった。
キャンプ場に着くと、ヒカリはテントに戻らず、良介達の帰りを待っていた。
コアドラモンはデビドラモンを空間の歪みの彼方に放り投げた後、ドラコモンに戻った。
「大丈夫?良介君?」
「ああ、何とかな・・・・それよりもずっと待っていたのか?」
「う、うん・・・・心配だったから」
「そっか、ありがとな」
良介は自分がケガをしたことを隠し、ヒカリをテントまで送ると、自分のテントに戻った。
ただ翌日、良介はケガが原因で昼間のイベントには参加できず、テントの中で寝ているだけしか出来なかった。しかもヒカリは良介の看病をする前、良介がケガを隠していたことに不満だった様で、思いっきりしみる傷薬を良介の傷口に塗った。
悲鳴をあげる良介にヒカリは「我慢して、ちゃんと塗らないとばい菌が入って大変なことになっちゃうよ」と、黒い笑を浮かべていた。
こうして良介とドラコモンのサマ―キャンプは、ドラコモンは成熟期への進化と言う大きな成果があったが、良介はケガとヒカリの荒治療と言う苦い思い出に終わった。
キャンプが終わって数日後、
「テメェ!また俺のコレクションを食ったな!?」
「良介こそ!また僕の鱗に触ったな!?」
良介とドラコモンはまたも喧嘩をしていた。
「こうなれば・・・・」
ドラコモンが進化しようとしたが、
「あれあれ?良いのか?こんなところで進化しても?」
「うっ!」
良介の言うことは的を射ていた。
もし、この狭いマンションの部屋の中で成熟期に進化すればこの階一体を破壊してしまうのは明白だった。
そうなればさくらの言葉では言い表せない程のお仕置きを受けるのも分かりきっていることだった。
そのため、ドラコモンはここで進化したくても進化出来ない状況だった。
「な、なんの!泣き虫良介の相手なんて今のままで十分だ!!」
しかし、成長期でもトップクラスの能力を持つドラコモンならば小学生低学年に遅れを取ることはなく、ドラコモンは成長期のまま良介と殴り合いをした。
そして、
「いい加減にしなさい!!」
良介とドラコモンの大声を聞き、さくらが部屋に入ってみると、良介とドラコンが殴り合いをしている姿を見て、さくらのカミナリが落ち、
結局、良介もドラコモンもさくらのお仕置きを受ける事となり、
良介とドラコモンは頭に大きなタンコブを作り、正座をさせられてさくらのお説教を聞かされた。
登場人物紹介
コアドラモン(青) 成熟期 竜型デジモン 属性 ワクチン
ドラコモンが成熟期に進化した姿。
数多く存在するドラモン種の中でも純血種であるデジモン。
デジタルワールドには青色のコアドラモンの他に緑色のコアドラモンも存在している。
緑色の方は地上生活が長く飛行能力が著しく低下しているが、その分脚力が発達している。
イメージ
CV 加藤英美里
八神太一
ヒカリの兄。
三話現在では、お台場小学校四年生。小学校ではサッカー部に所属している。
妹のヒカリに対して多少過保護な所がある。
機械の扱いが粗雑で図工が苦手。
光が丘に住んでいた頃、妹のヒカリと共にパソコンの画面から出てきたデジモンのタマゴ、デジタマから生まれたコロモン(生まれた当初はボタモン)との接触でデジモンという生物と関係をもったが、何故か本人はそのことを今は忘れている。
CV
藤田淑子
八神ヒカリ
太一の大切な妹で、三話現在では、お台場小学校一年生。
太一曰く、「辛くても絶対に辛いと言わない」等自分が苦しくても他人の事を気にかける程、心優しくも危なっかしい性格をしている。
最愛の兄太一にはずっと守られて、大事にされてきたせいか、彼への愛着が強い。
デジモンに対する気配等を感知するのは他の人よりも鋭い。
三歳の頃、パソコンの画面から出てきたデジタマを孵化させ、デジモンとの接触を初めてした。
兄の太一は光が丘での出来事を忘れているが、ヒカリ自身は未だに覚えている。
CV
荒木香恵
石田ヤマト
太一と同じお台場小学校の生徒で学年も同じ。
クールにも見えるが、それは自分の内面を他人に知られたくない思いからで、実際は慎重で熱い性格。
父・石田裕明と二人暮らしをしているため小学生男子ながら料理が上手い。
両親が離婚をしており、母親の方にはタケルと言う良介・ヒカリと同学年の弟がいる。
光が丘でグレイモンとパロットモンの戦いを見ていたが、太一同様今は忘れている。
CV
風間勇刀
武之内空
太一と同じお台場小学校の生徒で学年も同じで、太一とは幼馴染で所属しているクラブも同じサッカーをしている。
男勝りな一方で相手を思いやる繊細な心も持って、それ故に責任を感じ、嫌な事も自分の中にしまい込んで我慢してしまう時もある。
昔、光が丘に住んでおり、太一やヤマトと同じくデジモン同士の戦いを見ていたが、やはり太一やヤマト同様今は忘れている。
CV
水谷優子
あとがき
コアドラモン(青)になるには設定上高い山岳地域だけで採掘される「ブルーディアマンテ」と呼ばれる希少な宝石を多量に摂取しなければなりませんが、アニメのデジモンの進化でも多少、設定を無視している所もあったので、無条件で良介君のドラコモンもコアドラモン(青)に進化させました。
この話でもそうですが、デジモンアドベンチャーでの初めての成熟期への進化で、あてがわれたデジモンって完全にかませ犬だと思います。