二十話 混沌の竜騎士
ドラコモン暗黒ワープ進化
―――――カオススレイヤードラモン―――――
「さあ、貴様たち・・・自らの罪を悔いて、そして死ね・・・・」
太一達の目の前に現れた突然現れた暗黒竜人型デジモン。
良介は手には仕込み竹刀を持ち、どす黒いオーラを纏って叫びながら、カオススレイヤードラモンの肩に乗ってピエモンを攻撃している。
「ば、バカな!?人間がこれ程の力を出せるのか!?」
ピエモンは、カオススレイヤードラモンの攻撃を紙一重で避けながら叫ぶ。
流石、究極体となった時間が長いため、フラガラッハから放たれる瘴気もなんとか避けている。
良介とカオススレイヤードラモンはチューモンの殺したピエモンに攻撃を集中しているが、リーダーの危機を拱いているダークマスターズではなく、残るメンバーは良介とカオススレイヤードラモンに攻撃をしかけるが、リミッタ―が外れているカオススレイヤードラモンはそれらの攻撃を避け、適当にいなす。
良介とカオススレイヤードラモンの狙いはあくまでもピエモンに集中していた。
「こしゃくな!トランプソード!!」
ピエモンが剣を投げつける。
すると、
「ブラッディー・ダガ―!!」
良介は親指を噛みちぎり、血を流すと、即座にブラッディー・ダガ―を生成し、迫り来るトランプソードを迎撃した。
「な、なんだよ・・・・あれ?」
「ど、どうなってんだよ!?良介達はどうしちまったんだよ・・・・?」
突然の出来事に戸惑いが隠せず、太一とヤマトは目の前の戦いを見ながら震える声で言う。
魔力が体の外に滲み出ている事からウィザーモンに何か心当たりは無いかと、テイルモンはウィザーモンに視線を向けるが、ウィザーモンにも分からないのか、首を横に振る。
しかし、一人だけ違った反応をした人物がいた。
選ばれし子供の中で比較的良介といる時間が多かったヒカリだった。
「良介君・・・・悲しんでる・・・・」
理性を無くしかけている良介を見ながら呟いた。
「ヒカリ、それはどういう事なんだ?」
ヒカリの横にいたテイルモンが、真剣な顔をしながらヒカリに聞いた。
「今の良介君、心の中が真っ黒・・・・チューモンが死んで、悲しんでる・・・・チューモンを守れなかった自分に悔しがっている・・・・そして怒っている・・・・」
「な、何を言ってんだよ、ヒカリ!俺達だって悲しいんだぞ!!悔しいんだぞ!!俺が聞いているのは、何で良介達があんなになっちまったかその原因が知りたいんだ!!」
太一は大声を出してヒカリに問い詰めるかのように言った。
「それは私が説明するッピ!!」
突然声がするかと思ったら、そこには手に小さな槍を持ち、ピンクの体に、白の羽根を持った小さなデジモンがいた。
ピッコロモン 完全体 妖精型デジモン 属性 データ
魔法を操る妖精デジモン。
別次元の高度なプログラム言語を唱え、魔法の様な奇蹟を起こす事ができる。
この不思議なデジモンはあらゆる場所、時間、空間に出現することができ、体は小さいが、その特殊な能力で敵の能力を封じ込め、強力な一撃で相手を粉砕する。
必殺技はコンピュータウィルスを凝縮させた超強力な爆弾『ビットボム』。
ピッコロモンは選ばれし子供達の周りに強力な結界を張り、子供達に語りかける。
「「「「「「「「「「「「「「ピッコロモン!!」」」」」」」」」」」」」」
ヒカリを除く選ばれし子供とウィザーモン、テイルモン、パンプモン、ゴツモンを除くパートナーデジモンがピッコロモンの名を叫んだ。
「久しぶりだな、選ばれし子供達!!よく戻って来てくれたッピ!!」
「あ、ああ・・・・それよりピッコロモン、良介達に一体何が起こったか分かるか!?」
太一は直ぐに良介達の異常についてピッコロモンに聞いた。
「あれは太一、お前が以前行った行動に似ているッピ!!」
「お、俺がか!?」
ピッコロモンは愛槍、フェアリーテイルで太一を指しながら言った。
「そうだっぴ!!お前は以前、エテモンの罠に掛かりグレイモンを超進化させ様として、間違った進化をさせ、スカルグレイモンに暗黒進化させただろ?良介と言う少年は、それをさらに悪化させた状態だっぴ!!元々彼には不思議な力が宿っていたッピ。その力と彼の負の感情が爆発し、今の状態となったわけだっぴ!!」
ピッコロモン曰く、目の前で起こったチューモンの死という現実により良介は負の感情が溢れだし、ドラコモンを暗黒進化させ、良介自身も体の中に存在する魔力が暴走し、あの状態になったらしい。
ピッコロモンの説明を聞き、良介の中の魔力をしっていたウィザーモンは納得した。しかし、良介を元の状態にする方法は分からなかった。
「今のドラコモンはカオススレイヤードラモンという邪竜系デジモンの中でもトップクラスの実力を誇るッピ!!その実力は世界を破壊する力を持っているんだッピ!!
だが、安心するんだッピ!!あのカオススレイヤードラモンによって、世界が破壊される事は絶対に起きないッピ!!」
「なんでそんな事が言えるんだよ?」
太一がピッコロモンに問う。
世界を破壊する力を持っているにもかかわらず、世界が破壊されることがないという矛盾があるからである。
「それは簡単だっぴ!!何故なら、究極体になったばかりのデジモンが、暗黒エネルギーの力を制御できるわけないッピ!!・・・・しかし・・・・」
ピッコロモンは皆に一通り説明を終えると、急に言葉を詰まらせた。
「しかし・・何なんだよ?」
太一はピッコロモンが急に言葉を詰まらせたので、少し不安な顔をしながらピッコロモンに聞いた。
「しかし、あの良介という少年をこのまま放っておけば、廃人か最悪の場合は死ぬッピ!!」
『っ!?』
ピッコロモンから余りにも驚愕の事実を告げられたので言葉を失った。
「暗黒エネルギーは、強大な力を得る代わりに大きな代償が付くんだっぴ。デジモンなら死んでもまたデジタマになって蘇れるが、人間の場合は・・・・」
ピッコロモンはそこで話すのを止めた。
もうその先を話さなくても皆理解できている様子だったからだ。
「ピッコロモン、どうすれば良介を止める事はできる?」
ウィザーモンがピッコロモンに尋ねる。
「具体的な解決方法は、ダークマスターズを倒すか、良介という少年の意識を奪うしせるしかないッピ・・つまり気絶させるしか手はないッピ。でも、今の状況でダークマスターズを倒すのは恐らく不可能だッピ。それならば、あの少年を気絶させるしか手は無いッピ」
「そうか・・・・分かった」
ウィザーモンは戦場となっているコロッセオへ向かおうとした。
「ど、何処に行くんだよ?ウィザーモン」
すると後ろに居るヤマトが、戸惑った声で私に聞いてきた。
「決まっている。良介を助けにいく」
「な、何を言ってんだよ!!究極体同士の戦いだぞ!!巻き込まれればひとたまりも無いんだぞ!!」
ヤマトは驚いた声でウィザーモンに言ってきた。
「だからどうしたと言うのだ?良介は今も一人で苦しみ、悲しんで、戦っている。目の前で苦しんでいる仲間を救うのが本当の仲間なのではないのか?」
「そ、それは・・・・」
ウィザーモンに指摘を受け、それ以上何も言えないヤマト。
「それに魔術に関して言えば、私はその道のプロだ」
ウィザーモンがヤマトにそう言うと、ヒカリとテイルモン、パンプモンとゴツモンが私に近付いてきた。
「ウィザーモン、私達も行く!!良介君は私の大事な友達だもの!!」
「ヒカリ、それにテイルモンも・・・・・・・・」
「俺達も一緒に行きます!!」
「良介にはヴァンデモンから命を助けてもらった恩があるし」
ヒカリとテイルモン、パンプモンとゴツモンの言葉を聞いてウィザーモンは頷き、ウィザーモン達は一緒に外に向かった。太一達が後ろで何か叫んでいたが、ウィザーモン達は無視して外に出た。
その間にも良介達とダークマスターズの戦いは続いていた。
暴走する黒魔術の浸食は次第に良介の体を蝕んでいき、腕や頬に黒紫色の刺青のような模様が浮かび上がってきたが、良介は気にすることなく、ダークマスターズに向かっていく。
ウィザーモン達が良介達を助ける為に自ら結界を出て戦場へと向かった。
ウィザーモン達が出て行った後、皆の脳裏にはウィザーモンの言った言葉が繰り返し思い出されていた。
(良介は今も一人で苦しみ、悲しんで、戦っている。目の前で苦しんでいる仲間を救うのが本当の仲間なのではないのか?)
(本当の仲間なのではないのか?)
(確かにウィザーモンの言う通りだ・・・・悲しんでいる時や苦しんでいる時、そういう辛い時こそお互いに支えてやるのが仲間だ。・・・・こんな時に助けないで何が仲間だ!何が友情の紋章だ!)
ヤマトは首から下げている自らの紋章・・・・友情の紋章を握りしめた。
ふと、隣にいる太一を見ると、太一もヤマトと同じ気持ちなのか、太一も紋章を握りしめていた。
しかし、太一は震えていた。
ベテラン究極体デジモンの実力をこの身で見て、体験し、さらに目の前で暴れているのは自分達の知っているスレイヤードラモンではなく、破壊竜となっているデジモンだ。
止めに入って巻き添いを受けないなんて保証はなく、むしろ、巻き添えを受ける可能性の方が断然に高い。
そうなれば待っているのは・・・・。
そんな考えが頭から離れず、太一は震えて、動けないままでいた。
(俺だって、良介達を救いたい・・・・でも、足が・・・・足が震えて動かない・・・・ 幾ら動けと頭の中で命令しても、震えている足は動いてくれない。クソッ!!動け・・・・動いてくれ!!こんな時に動かなくて何のための勇気の紋章だ!クソッ!!)
震える太一にヤマトは手を差し伸べる。
「ヤマト?」
「太一、俺達は仲間だ。だから、一人で無理をすんじゃねぇ。俺だって正直怖いさ・・・・でも、一人より二人で行けば怖くない・・・・だろう?」
「ヤマト・・・・」
「まったく、太一は何時も一人で無茶して終わらせようとする。私達は仲間なのよ!だから、もっと私達を頼ってよ!」
「空・・・・」
二人の言葉を聞いていたら、何時の間にか足の震えは止まっていた。
「よしっ!!」
「行くッピか?」
「ああ、良介は俺達の仲間だ。俺達は必ず良介達を救ってみせる!!」
太一達は強い意志を持った瞳でピッコロモンを見て戦場へと赴く。
「分かったッピ。必ず無事で帰って来るッピよ!!」
「ああ」
ピッコロモンは心配な顔をしながら太一達にそう言ってきたので、太一達に大きな声で返事をして外に出た。
「うぁぁぁぁぁ」
「小癪な!!トランプソード!!」
「ブラッディー・ダガー!!」
「アルティメットストリーム!!」
「ブリットハンマー!!」
「∞キャノン!!」
「・・・・カオス・シュルネン・・・・・」
太一達が結界の外に出ると、コロッセオはもはや原形を留めておらず、ダークマスターズと良介達の間で最終戦争のような光景が行われていた。
ウィザーモンはダークマスターズ達を押さえ、エンジェウーモンとヒカリはカオススレイヤードラモンと良介の下へ向かい、ヒカリは何かを叫んでいる。
「アグモン、エンジェウーモン達の方を頼む!」
「分かったよ、太一!!」
「ガブモンはウィザーモン達を!!」
「うん!!」
「アグモン・・・・」
「ガブモン・・・・・」
「「進化だ!!」」
太一とヤマトがそう言うと、デジヴァイスと紋章が光り出した。
アグモンワープ進化
―――――ウォーグレイモン―――――
ガブモンワープ進化
―――――メタルガルルモン―――――
アグモンはウォーグレイモンにワープ進化すると、エンジェウーモン達の所に向い、ガブモンはメタルガルルモンにワープ進化すると、ダークマスターズと戦っているウィザーモン達の下へと向かって行った。
すると皆もデジヴァイスを取り出して、デジモン達に向けた。
『皆も進化だ(よ)(です)!!!』
『おう(うん)(はいでんがな)(分かった)!!!!』
皆もパートナーデジモン達を超進化して、エンジェウーモン達とウィザーモン達の援護に向かった。
「死ねぇー!!」
「良介君!!お願い!!元に戻ってよ!!!」
良介とヒカリの叫び声が聞こえ、太一達は良介の所に向かった。
まず、ウォーグレイモンがカオススレイヤードラモンに体当たりをし、良介とカオススレイヤードラモンを離した。
「うがぁぁぁぁ・・・・離せぇ!!・・・・」
そして太一は暴れる良介を羽交い絞めにし、説得しているが、良介は一行に正気に戻らない。
しかも体から出ている魔力オーラによりいつ吹き飛ばされてもおかしくなく、太一も必死に良介を抑え込んでいる。
「良介!!辛いなら辛いって俺達に言えよ!!悲しいなら悲しいって俺達に言えよ!!何もかもすべて一人で抱え込むなよ!!俺達は仲間なんだぞ!!!」
「良介君!!貴方がこんな事をチューモンが望んでいると思ってるの!?皆を心配させて、貴方はそんな力を望んだの!?答えて、良介君!!」
「良介君!!お願い!!いつもの良介君に戻ってよ!!」
ヒカリは良介を抱き締めて、泣きながら良介にそう言った。
しかし、
「うぁぁぁぁぁ離せ!!殺す!!アイツら全員ぶっ殺してやる!!」
皆の説得も空しく良介は未だに狂気の中にいた。
「しかたねぇ・・・・許せ、良介・・・・・」
ヤマトが一言そう言うと、
「ふんっ!!」
ドカっ
「ぐっ・・・・がっ・・ぁ・・・・・・」
ヤマトが良介の鳩尾に拳を打ち込んだ。
ヤマトからの渾身の一撃により、良介は目を閉じて意識を失った。
良介が意識を失ったことにより、体から出ていたオーラは消え、体に浮かびあがっていた刺青のような模様も消えた。
そして・・・・
「ぐがぁぁぁぁぁぁぁ・・・・」
カオススレイヤードラモンも良介が意識を失ったことにより、究極体の形状を保つことが出来ず、また暗黒パワーの副作用からか、足元から粒子となっていき、やがてデジタマになった。
それは良介とヒカリ以外の選ばれし子供たちがファイル島で見たデビモンとの戦いでエンジェモンが自らの命をかけて、デビモンを倒しデジタマになったときと似たような感じであった。
「全部終わったんだな・・・・」
気絶した良介を羽交い絞めにしたまま太一が呟いた。
「ああ・・・・」
ヤマトもホッとした様子。
ヒカリや空は心配そうに良介を見ている。
ウィザーモンはドラコモンのデジタマを持ち、太一達の下へ合流する。
選ばれし子供とデジモン達の間に安心感のような空気が流れたとき、
「はぁ・・・・はぁ・・・・未だ・・・・終わっていませんよ・・・・」
ピエモンの声を聞き、バッと振り向く一同。
そこにはウォーグレイモン達を倒しているが、体中ボロボロになっているピエモン達が立っていた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・まさか此処迄・・・・僕達が追い詰められるとはね。少し甘く見ていたよ・・・・」
ブリットハンマーを杖代わりにしながら太一達を睨むピノッキモン。
「確かに追い詰められたが、カオススレイヤードラモンはもう居ない・・・・」
「オマエタチニノコサレタミチハ・・・・
“シ”ダケダ・・・・」メタルシードラモンもムゲンドラモンも睨みつけながらジリジリと太一達に迫る。
まさに絶対絶命のピンチに陥った太一達。
そこへ、
「ビットボム!!」
ピッコロモンが小さな爆弾をダークマスターズに投げつける。
「ピッコロモン!!」
「ここはワタシが
くいとめるッピ!!その隙にスパイラルマウンテンに向かうッピ」「くいとめるって、ピッコロモン、お前、相手は多少ダメージを負っているとは言え、全部究極体なんだぞ・・・・」
「なーに、いくらでもやり様はあるッピ・・・・だから、えらばれし子供たち、足りない何かを見つけて必ず奴らを倒してくれッピ・・・・・・あとの事は任せたッピ」
「っ!? ピッコロモン!!」
「さあ、いくッピ!!お前たちならきっと見つかるッピそうすれば必ず奴らに勝てるッピ」
ピッコロモンは再び太一達を結界で包み込むと、その結界を愛槍のフェリアテールで叩くと、結界は物凄い速さで戦場から遠ざかった。
「この世界に・・・・平和を取り戻してくれッピ・・・・」
ピッコロモンがそう、呟くと
「ピッコロモンでしたね?」
追いかけてきたピエモンがピッコロモンに尋ねる。
ピッコロモンの前にはダークマスターズが全員ピッコロモンを睨んでいた。
「完全体で私達に勝てるとお思いですか?」
「舐めていると痛い目に遭うッピ!!」
ピッコロモンも負けじとダークマスターズを睨む。
その直後、眩い光と爆音が響いた。
一つの命がまた消えて、運命を見る子供は体に傷を負った。
大きな犠牲を払いながら選ばれし子供達はスパイラルマウンテンへ辿り着いた・・・・。
ダークマスターズとの戦いはまだまだ、始まったばかりである。
あとがき
ダークマスターズ編の序章はこれにて終了です。
次回から、アニメ通りメタルシードラモン編へ突入します。
歴代のデジモンアニメの主人公の中で、暗黒進化をさせた主人公がちらほらいたので、良介君もそれにあやかり、ドラコモンを暗黒進化させました。
では、次回にまたお会いしましょう。