十四話 剣士は二度死ぬ
フジテレビの展望台には連れてこられたヒカリとファントモンの姿があり、やがて展望台の天井にコウモリが沢山現れるとそこからヴァンデモンが現れた。
「娘、お前は何故自分から名乗り出たのだ? 私が何をするのか分かっているのか?」
ヴァンデモンはヒカリの目の前に立ち、何故自ら名乗り出たのか理由を問う。
「なんとなく・・・・」
ヒカリは泣き叫びたい恐怖を必死に押さえ込んでヴァンデモンに答える。
「では何故?」
「みんなを・・・・苦しめるから・・・・」
「何!?」
「あなたが、みんなを苦しめるから!!」
「フッフッフ、向こう気の強い娘だな・・・・テイルモン、何故自らのパートナーの顔を見ない?」
「そんな娘・・・・知らない・・・・」
テイルモンはヒカリから顔を背け、白を切りヒカリを知らないという。それはテイルモンなりの最後の足掻きだった。
「成程・・・・ならば・・・・」
ヴァンデモンは指をパチンと鳴らす。
すると、
「きゃあ!」
展望台にヒカリの悲鳴が響いた。
ピコデビモンが足でヒカリの髪の毛を乱暴に引っ張ったのだ。
「い、痛い・・・・」
「ヒカリ!・・・・あっ!」
テイルモンはつい反射的に自身のテイマーの名を叫んでしまった。
「そうか、その娘の名は『ヒカリ』と言うのか?」
テイルモンの顔色は青くなった。
その頃、展望台を目指していたヤマトたちは展望台のすぐ下まで来ていた。
「展望台はこの上だ」
「ありがとうな、オヤジ!!」
「私も行く」
ウィザーモンはまだ完全にダメージを回復していないにも関わらず、戦場となりえる展望台へと向かうと言う。
「む、無理しないほうが・・・・」
そんなウィザーモンに裕明はここでもう少し休んでからの方がいいと思い声をかけるが、ウィザーモンの意志は固かった。
「大丈夫だ・・・・」
裕明にそう言ってウィザーモンは展望台に続く階段を駆け上がって行った。
展望台ではテイルモンはヒカリを守るようにヴァンデモン達の前に立ちふさがっていた
。「ヒカリ・・・テイルモン・・・・覚悟はいいだろうな?・・・・デッドスクリー・・・・」
ヴァンデモンがヒカリとテイルモンを亡き者にしようと、技を繰り出そうとしたその瞬間、
テントモン進化
―――――ガブテリモン―――――
「ムッ!?」
「
メガブラスター!!」「フラウカノン!!」
「ふんっ・・・・はぁ!」
ヴァンデモンは吐息だけで、カブテリモンとリリモンの技を吹き飛ばしてしまった。
「うるさくなってきた、場所を移そう」
ヴァンデモンはヒカリとテイルモンを連れ、展望台の外へと移動する。
ファントモンとピコデビモンもヴァンデモンの後に続く。
「ま、まて!! たのむ、ワーガルルモン!!」
ロータリーではワーガルルモン、ズドモン、ガルダモンの三体がタスクモン、スナイモンをノックアウトし、ワーガルルモンはその爪と強力な腕力と脚力を生かし、フジテレビの壁を登り、ヴァンデモンの前に立ち塞がった。
そしてガルダモンはズドモンを持ち上げながら向かって来る。
しかし、ヴァンデモンは未だに余裕の笑を浮かべていた。
「フッフッフ」
「笑っている余裕なんか無いわよ!!」
ガブテリモン超進化
―――――アトラーガブテリモン―――――
「アトラーカブテリモン!! ヒカリさんを助けてください!!」
「ホーンバスター!!」
「ふんっ」
ヴァンデモンはアトラーカブテリモンをワーガルルモンのほうへ弾き飛ばしてしまった。
アトラーカブテリモンの思わぬ体当たりを受けたワーガルルモンはフジテレビの屋上から落ちそうになったが、辛うじて両手で屋上の床を掴み、落ちることだけは何とか避けられたが、そこを見逃すヴァンデモンではなかった。
「ブラッディーストリーム」
ヴァンデモンの鞭のような攻撃を受けて、ワーガルルモンは地面へと落ちていった。
「ワーガルルモン!!」
「時間の無駄だ・・・・グハッ・・・・なに!?」
ヴァンデモンの背後から、ウィザーモンが攻撃していた。ヴァンデモンの一瞬の隙をつき、ウィザーモンは、
「ヒカリ、受け取れ!!」
ヒカリに向かって紋章を投げ渡す。
「ウィザーモン!!」
「生きていたのか・・・・?」
「借りは返さないと気が済まないタイプなんでね・・・・」
「黙れ!・・フンっ!」
ヴァンデモンは手のひらから魔力球を出すとそれをウィザーモンにぶつける。
「グハッ!!」
ウィザーモンは展望台へと打ち付けられた。
「ウィザーモン!」
「娘それを渡せ!!」
「嫌!!」
「いい気になるなよ!!」
ヴァンデモンがヒカリに手をかざす。
その時、
「「待て!!」」
「あ、お兄ちゃん! 良介君!!」
グレイモン超進化
―――――メタルグレイモン―――――
「いけ!!メタルグレイモン」
「ギガデストロイヤー!!」
「ホーンバスター!!」
「ハンマースパーク!!」
「シャドーウィング!!」
「フラウカノン!!」
完全体デジモンの必殺技を繰り出すものの、ヴァンデモンはそのことごとくを消し去ってしまう。
「つ、強い・・・・強すぎる・・・・」
ヤマトが完全体デジモンの必殺技をことごとく消し去ったヴァンデモンを見て震えた声を出しながら改めてヴァンデモンの強さを認識する。
(ヴァンデモンめ、この結界の影響からか、本来の強さに戻りつつあるのか・・・・)
良介は渋谷で戦った時と比べ、ヴァンデモンが格段に強くなっている事に気づく。
「これで終わりか?それでは・・・・」
ヴァンデモンはまず、最初にテイルモンとヒカリを処理にかかろうとしたが、
パタモン進化
―――――エンジェモン―――――
「し、しまった!!」
「ヘブンズナックル!!」
「ブレイズソニックブレス!!」
「がぁぁぁ!?」
「うぎゃぁぁぁ!!」
エンジェモンと上空で完全体に進化し、待機させておいたウイングドラモンの必殺技はヴァンデモンに直撃し、近くにいたファントモンにも命中。
ファントモンは粒子となり消え、ヴァンデモンは膝をついた。
多くの女性の生き血と霧の結界によって徐々に本来の力を取り戻しつつあるヴァンデモンであったが、やはり闇属性のデジモンであるヴァンデモンに光属性のエンジェモンの技は効果が抜群だった。
「ヴァンデモン観念しろ!」
「ぐっ・・・・まだだ!! ナイトレイド!!」
ヴァンデモンは死なばもろともの覚悟なのか、必殺技をヒカリに向け放った。
コウモリの大群がヒカリたちへと迫ったそのとき、
一つの影が、ヒカリたちの前に飛び出た。
「小僧・・・・邪魔しよって・・・・」
「くっ・・・・」
ヒカリとテイルモンの前に飛び出したのは良介だった。
良介は袖に仕込んでいた術式が施されているトランプを迫るコウモリに向かって投げ、ヒカリとテイルモンをヴァンデモンの攻撃防いだが、コウモリの数が多く、両腕や肩、脇腹に深い傷を負った。
「「リョウスケ!!」」
「良介君!!」
良介はその場に倒れた。
やがて良介の傷口からは夥しい量の赤い血が流れ出す・・・・。
(くそっ、こんな筈じゃ・・・・俺はこんな所で・・・・畜生・・・・まだ、クイントを救っていないのに・・・・ギンガにもスバルにも会って居ないのに・・・・)
「リョウスケ!!」
「良介君、死んじゃだめ!!死なないで!!」
ウイングドラモンとヒカリが倒れた良介の下に駆け寄る。
(大丈夫だ・・・・俺はこれくらいでくたばるものか・・・・俺はクイントやギンガを救うって決めたんだ・・・・運命を変えてみせるって決めたんだ・・・・これくらいの・・・・傷なんかで・・・・・)
しかし、良介の視界は霧がかかったように段々とボヤけていき、等々真っ暗となった。
良介は静かに目を閉じ、息を引き取った。
(いや、嫌!?)
(なんで・・・・どうして良介君が・・・・)
ヒカリは涙を流し、良介を抱きしめる。
「嫌ァァァァァ!!」
そしてヒカリが叫ぶと、突然ヒカリの紋章が光出した。
そして・・・・。
テイルモン超進化
―――――エンジェウーモン―――――
ヒカリの紋章が輝き出したのと同時にテイルモンの体も光を放ち、テイルモンの姿は八枚の白い翼を持った女性天使へと変わった。
エンジェウーモン 完全体 大天使型デジモン 属性 ワクチン
美しい女性の姿をした大天使型デジモン。
特徴として、成熟期の天使は6枚の羽を持ち、完全体の天使は8枚の羽を持っている。性格はいたって穏やかだが、まがったことや悪は許しておけず、相手が改心するまで攻撃の手を緩めることはない。その精神とパワーから、デジタルワールドの女神的存在と言われている。
必殺技の強力な雷撃『ホーリーアロー』は別名「天誅」ともいわれ、また、美しさと優しさの詰まった必殺光線『ヘブンズチャーム』は、デジモンの悪しき力が強いほど効果を発揮する。
「ヴァンデモン、お前は人間界まで進出し、大勢の罪なき人々を苦しめた、そして、ヒカリの友、リョウスケまでも手にかけた・・・・その罪の大きさを知れ!!」
「この世界を全て闇へと塗り替え、デジタルワールドと融合し、全てを統べる王となるため、私は私の成すべきことをしてきたまでだ!!」
「・・・・」
「ヴァンデモン、罪を悔いるつもりは無いのだな?」
「ふんっ、デッド・・・・」
「セイントエア!!」
「なっ、ぐぅぅ・・・・」
エンジェウーモンの手から放たれた光が辺りを包み、ヴァンデモンの動きを止める。
そして、
「力がみなぎってくる・・・・」
「いまだ!」
「エンジェウーモンにパワーを!!」
「ホーンバスター!!」
「フラウカノン!!」
「ハンマースパーク!!」
「カイザーネイル!!」
「シャドーウィング!!」
「ギガデストロイヤー!!」
「ヘブンズナックル!!」
「ブレイズソニックブレス!!」
エンジェウーモンの作った光の輪の中にデジモン達の必殺技が入り、光の矢に変換された。
エンジェウーモンはその矢を腕にある弓へと番える。
「や、止めろ・・・・!!」
「ホーリー・・・・アロー!!」
そして、矢が放たれ、ヴァンデモンに突き刺さる。
「が、ああ、あああああああああああああぁぁぁぁあああああぁぁあ!!」
断末魔の叫びをあげ、ヴァンデモンは苦しむ。
そこへ、
「良介の仇だ!!死ね!!ヴァンデモン!!」
ウイングドラモンが苦しんでいるヴァンデモンにとどめと言わんばかりに自らの逆鱗を自分で触り、暴走技であるジ・シュルネン
-Vを放ち、その技をくらったヴァンデモンは跡形もなく消え去った。
ゴゴゴゴゴ・・・・
戦闘の影響が出たのか、フジテレビの展望台が崩れ始めた。
「いけない、崩れるわ。早く脱出しましょう!!」
みんなはデジモンたちに乗り、フジテレビから降りた。
皆が退去した直後に、大きな音をたてて球体展望台は転がり地面へと落ちていった。
「「良介!!」」
「「良介君!!」」
ロータリーに横たえられた良介に太一、ヤマト、空、ヒカリの良介と交流の深い四人は駆け寄る。
良介の服や顔には血が着き、眠るように目を閉じ、死んでいる良介。
「そんな・・・・こんなのって無いよ・・・・」
ミミは涙ぐんで良介の死を受け入れられていない様子。
「丈さん、何とかなりませんか?」
光子郎が丈に尋ねる。
丈の家は医者の家系で、丈も将来は医師になるように親に言われ、勉強している。
しかし、丈は血を見るのが苦手で、血まみれになっている良介を直視出来ないでいる。
「そうは言われても、この状況じゃ手の施しようが無いよ・・・・」
良介の死という絶望と悲しみの中、
「まだ手はある・・・・」
ウィザーモンが声をあげる。
「本当か!?」
「どうするんだ!?」
ウィザーモンの言葉に太一とヤマトが食いつく。
「以前、私が彼と接触したとき、彼の中から不思議な力を感じた。・・・・私の魔術とエンジェウーモンとエンジェモンの奇跡を使えばあるいは・・・・」
「それで、良介は生き返るのか!?」
「完璧な確証があるわけじゃないが・・・・」
「それでも・・・・それでも良介君が生き返るかもしれないならお願い・・・・」
ヒカリは涙が浮かんだ上目でウィザーモンに頼む。
「ウィザーモン、私からも頼む」
エンジェウーモンもウィザーモンに頼む。
「・・・・分かった・・・・・やってみよう・・・・」
ウィザーモンは良介の周りに魔方陣を描く。
「私にも何かお手伝い出来ることはある?」
ヒカリがウィザーモンに尋ねると、
「それならば、彼の事を強く思ってくれ。強い祈りや思いは奇跡を増幅する源になる」
「わかった」
「それじゃあ・・いくぞ!!」
ウィザーモンは目を瞑り、何やら呪文を唱えている。
(やはり彼の中には魔力が存在する・・・・その魔力を一気に増幅させ、奇跡と融合させれば・・・・)
「エンジェウーモン!!エンジェモン!!」
「うん」
「わかったわ」
エンジェウーモンとエンジェモンが良介に手をかざすと、良介の体が光だし、血まみれだった体が治りっていった・・・・。
「ナイトレイド!!」
ヒカリとテイルモンに向かって無数のコウモリが襲いかかる。
俺はヒカリとテイルモンを守ろうと、ヒカリの前に立ち塞がり、袖に仕込んでおいたトランプを迫るコウモリに投げつけるが、数が余りにも多かった。
体のあちこちを引き裂かれ、血が流れ出る・・・・。
体中を激痛が走る。
そして激痛が去ると今度は急激に襲ってくる眠気・・・・。
ヒカリとウイングドラモンが涙を流しながら駆け寄り何か言っているようだが、何を言っているのか聞き取れない・・・・。
(・・くそっ、こんな筈じゃ・・・・俺はこんな所で・・・・畜生・・・・まだ、クイントを救っていないのに・・・・ギンガにもスバルにも会って居ないのに・・・・)
(大丈夫だ・・・・俺はこれくらいでくたばるものか・・・・俺はクイントやギンガを救うって決めたんだ・・・・運命を変えてみせるって決めたんだ・・・・これくらいの・・・・傷なんかで・・・・・)
起き上がろうとしたが、体に力が入らない・・・・。
そこで、俺の意識はまるでテレビの電源を切るかのようにブラックアウトした。
目が覚め意識を取り戻すと、あれだけ重かった瞼や体が嘘のように軽くなっていた。
(この感覚・・・・まるで俺が後世に生まれ変わった感覚と似ているな・・・・)
それにしてもこの後世でもヒカリと相棒を泣かせて、逝くとは我ながらどうしようもない奴だ・・・・。
前世ではギンガとスバルを泣かせ、この後世でも同じような事をしたのだ・・・・。
やっぱり半端モンの俺には誰かを守ることなんて・・・・・。
運命を変えること何て出来なかったのか・・・・。
すまねぇ・・・・クイント・・・・・
すまねぇ・・・・ギンガ・・・・・
すまねぇ・・・・ヒカリ・・・・
すまねぇ・・・・お袋・・・・親父・・・・・。
親よりも先立つ不幸を許してくれ・・・・・。
自嘲めいた笑を浮かべていると、
「なに笑っているの?」
と、懐かしい声がした・・・・。
「よぉ、久し振りだな・・・・」
俺の傍には前世で救えなかったもう一人のお袋の姿が・・・・・クイントの姿があった。
「まさか、クイントが案内人とはなぁ・・・・」
俺は「やれやれ」と少し呆れ気味に言う。
「こら、ちゃんとお母さんと呼びなさい!!」
「だから、何度も言っただろ、アンタの息子になるつもりはないって。それにこの後世にはちゃんと俺の母親は存在するっつうの!ったく馬鹿は死ななきゃ治らないって、ありゃ嘘だな」
「コラ!お母さんになんて口の効き方をするの!!」
ゴチンと音をたてて俺の頭に拳骨が振ってきた。
懐かしいくも・・・・そして慣れた痛みだった。
「痛ぇ!って、なに笑ってやがる!?」
俺がクイントに殴られた頭に手を置いて文句を言うと、クイントは嬉しそうな笑みをこぼしていた。
「あら、良介君も笑っているわよ」
「えっ!?」
久々に前世で、彼女に追いかけまわされた時の事を思い出し、俺も自然と笑みを浮かべていたようだ。
「うるせぇよ。それよりさっさと天国に案内しろよ」
「今まで散々悪さばっかりして、ちゃっかり天国に行くつもりなの?」
「前世じゃ、ギンガを正気に戻したし、今回はヒカリを守っての大往生だぜ?それに比べたら今までの悪戯くらいチャラになるだろう?」
「でもね、良介君・・・・」
クイントは何か言いたそうな顔だった。
「さぁ、いつまでもこんな所で立ち話してないで、早く天国に・・・・」
俺はクイントと一緒に天国へ行こうとしたが、
脳裏に浮かぶのは前世で最後に見たギンガとスバルの泣き顔・・・・。
そしてヒカリとウイングドラモンの泣き顔・・・・。
大切な友人連中を最後に泣かせといて天国に逝くなんて虫が良すぎるな・・・・。
俺は自嘲気味に笑をこぼすと、
「・・・・すまん、やっぱり地獄に案内してくれ」
と、クイントに地獄までの道のり聞くことにした。
「あら、どうしたの?いきなり天国じゃなくて地獄に案内してくれなんて?」
「前世じゃ、アンタの娘達を泣かせて、この後世じゃ、ヒカリやお袋に迷惑をかけたんだ、とてもじゃないが天国になんぞ逝けない・・逝けやしないぜ・・・・それにギンガもスバルも・・・・そしてヒカリも死後は天国確定だろうからな、永遠と追いかけまわされちゃたまんない。それなら地獄で鬼相手に鬼ごっこか喧嘩していた方がマシだぜ・・・・」
俺は顔を俯かせる。
そんな俺にクイントは言い放った。
「残念だけど、良介君。私はどっちにも案内しないわ」
「はぁ!?」
クイントの言葉に俺は思わず声をあげる。
「約束を破った馬鹿息子をどうして案内しなきゃいけないの?それに運命を変えるんじゃなかったの?あなたの世界の私やギンガを救うんじゃなかったの?」
「救いたいさ・・・・救いたかったさ!!でも、俺はまた死んじまったんだよ!!もう、お前やギンガを救う事が出来ないんだよ!!」
そう・・・・死人にはもうなにも出来ない。
この後世に転生出来たのも一種の奇跡なんだ。
そう何度も奇跡なんて起きやしない。
「鈍いわね。だから私が来たんじゃない。ほら、さっさと生き返りなさい」
しかし、そんな悩みを吹き飛ばす、クイントのとんでもない一言。
「無茶言うな!!これ以上の奇跡なんて起きる訳が・・・・」
「あら、やって見なくちゃ分からないでしょ。それとも、何の手も打たず、諦めちゃうわけ?良介君、貴方いつからそんな腰抜けになったの?」
「なんだと!!」
「悔しかったらやってみなさい。全力で・・・・全力全開で無理にでも起こしてみなさい、奇跡を!!」
クイントに此処までボロクソ言われたので、悔しくなり俺は意識を集中させた。
すると、辺りに虹色の魔力光が浮かび上がる。
「どうやら成功したみたいね。それにしても後世の世界でも良介君はよっぽど皆から好かれているみたいね?」
「どういうことだ?」
「そのままの意味よ。良介君を思う皆の思いが強ければ強いほど、法術は強力になるわ。それに、ここはあの世よ。神様の近くにいるなら、現世よりも奇跡が起こりやすいわ」
「そんなアホな事が・・・・」
戸惑う俺にクイントはあっけらかんと答える。
「さて、そろそろお別れの時間ね」
「えっ!?」
クイントがそう言うと、だんだんと周りの景色がぼやけてきた。
「お、おい、これはどういうことだよ?」
「此処は死者の世界よ。生者は此処に居られないわ」
「なっ!?」
「それじゃあバイバイ、良介君。貴方の世界の私とギンガの事・・・・頼むわね・・・・」
「あ、ああ。任せろ。必ずこの世界のお前もギンガも救ってみせるからな」
「ええ、ありがとう。・・・・ああ、後一つお願いがあるんだけど・・・・」
「なんだ?」
「上手くいったら、良介君、ギンガかスバルを貰ってくれない?」
(ったく、こいつは・・・・)
心の中で良介はクイントのお願いに呆れる。
「馬鹿か、あいつらと一緒になったら、俺が不幸になっちまうよ。それにまだ十歳にもなっていないガキに何言ってんだよ!?」
「失礼ね〜」
そう言う彼女も分かっているのか、口元には笑顔が浮かんでいる。
「ギンガを助ける頃には良介君もギンガもお似合いの年頃でしょう?スバルは・・・・ギリギリかしらね・・・・」
「でも、この世界のギンガとお前の知っているギンガは別人だろうが!!」
「そうかしら?貴方の世界の私が生きていたらきっと同じことを言うと思うけどな?」
「・・・・それでもやっぱり、抵抗はあるかな・・・・・」
前世で散々ギンガに追いかけまわされた経験から俺は言葉を濁す。
「まぁ、いいわ。とりあえず今は貴方を待つ友達の下へ帰りなさい・・・・」
彼女の輪郭がぼやけ始めてきた。
やがて彼女は、とても嬉しそうに笑って、光の彼方へ消えていった・・・・。
クイント・・・・必ずこの世界の運命を変えてみせるからな・・・・・。
ギンガとスバルの件については・・・・ノーコメントで・・・・。
良介がこの世界での未来を必ず変えようと強く決意している中、周りの光で気がつかなかったのだろう。良介の紋章も眩い光を放っていた・・・・。
それはまるで良介の思いに共鳴するかのように・・・・。
あとがき
久しぶりに良介君の視点が多めな話を書く事が出来ました。
後半は名無し
ASさんに事前に許可をいただきユメノツヅキをモチーフに書きかました。許可を出していただいた名無し
ASさんありがとうございます。