十二話 お台場への道とお台場での奮闘
「フラウカノン!!」
リリモンは両腕を前に突き出し、手首の花弁を銃口に変えて、エネルギー弾をヴァンデモンに向けて撃ち出す。
しかし、リリモンの必殺技をヴァンデモンはガードして、ダメージは全く受けていない。
「フン、大人しくしていれば可愛いものを・・・・デットストリーム」
「うっ、あぁぁぁぁぁー!!」
「ナイトレッド」
リリモンはヴァンデモンの攻撃を受けると、体が灰色になり、まるで石像のように固まり、地面に落ちた。
「リリモン、しっかり!!」
倒れたリリモンにヴァンデモンは止めをさそうとするが、そこをバードラモンが間一髪助けることに成功した。
「空さん、リリモンを連れて早く逃げて!!」
「逃げるのよ、空」
「でも・・でも、お母さんが・・・・」
「何しているの!?早く」
淑子は空を逃がすため、バケモンへと立ち向かっていく。
(お母さん・・・・)
空は母の行動を無駄にしまいと、手すりを乗り越え飛び降りる。そこをバードラモンがタイミング良く空を掴み、回収したリリモンと共にビッグサイトから遠ざかっていく。
「お母さん!ミミちゃん!必ず助けに戻るから!!」
空の叫びが空しくビッグサイトに響き、ミミと淑子はバケモンに捕まった。
その頃、建設中のビルに潜伏している太一達はというと、これからの事をどうするか話していた。
「何だって!?お台場全体が隔離されている!?」
「ああ」
ヤマトは父から聞いた話を皆に話した。
「くそっ、ヴァンデモンの仕業か・・・・」
「恐らくそうだろう」
「アイツ、残りの選ばれし子供を探し出すためにお台場を封鎖したんだ」
「大人も子供も見境なしにな・・・・」
「くそっ!!」
太一は悔しさからそばに落ちていた空き缶を蹴った。
「私のせいなの・・・・?」
太一とヤマトの会話を聞き、ヒカリは自分の一人のせいでお台場に住む多くの人々がこんな目にあったのだと思い太一達に尋ねた。
「ひ、ヒカリ!?」
「私のせいでお母さんが捕まっちゃったの?」
「ち、違うよ。ヒカリ・・お前が悪いんじゃない、ヴァンデモンのせいだ」
太一は自虐するヒカリを慰める。
「そうよ、ヒカリちゃん貴女は何も悪くないわ」
さくらもヒカリの頭を撫で、不安がらせないようにする。
「あとの事はお兄ちゃんたちに任せてココでじっとしているんだ」
「絶対にヒカリのお母さんやテイルモンを助け出すから」
「さくらさん、ヤマト、パンプモンたちと一緒にヒカリを守ってくれ」
「ああ、分かった」
「太一君はどうするの?」
さくらが太一の言葉を聞き、太一が此処から離れるのだと察し、どうするのか尋ねる。
「捕まった人たちを探しに生きます。・・七時半か・・・・さくらさん、もし二時間経って戻らなかったらヒカリをつれてお台場を脱出してください・・・・ヤマトも頼むぞ」
太一がデジヴァイスにある電子時計で時刻を確認し、さくらとヤマトにヒカリの事を頼む。
「それじゃあ僕らも太一さんと行きます。・・・・流石に太一さんとアグモンだけじゃあ戦力不足でしょう」
「良介・・・・」
「良介君・・・・」
「大丈夫だよ、母さん、ヒカリ・・・・それじゃあ・・・・行くぞ、ドラコモン」
「ああ」
「行くぞ、アグモン」
「えっ、あ、うん」
太一・アグモンペアーと良介・ドラコモンペアーは外へ飛び出していった。
三軒茶屋の自宅からようやく水上バス乗り場に着いたタケル達であったが、
「えぇ〜原因不明の濃霧の影響で水上バスは運航を見合わせております。みなさまにはご迷惑をおかけいたしまして申し訳ありません」
水上バスは濃霧のため運航をしておらず、係員が水上バスの運行状況を拡声器で乗り場に集まった人々に説明をするが、
「一体何時になったら動き出すんだ!?」
「早く何とかしてくれ!!」
集まった人々は運休の不満を係員にぶつけていた。
「困ったわね、どうしよう。・・水上バスも動いていないんですって・・・・」
奈津子はタケルに言い聞かせる。
「昼までにどうしてもお台場にいかなきゃなんないんだよ!!」
「ゆりかもめもレインボーブリッジもダメなんだ!!」
「何とかしてくれ!!」
「お、落ち着いてください!!押さないで!!」
バス乗り場には次第に人が集まりだし、混乱が生じ始めた。
「ママ?ママ!?」
「タケル?タケル!?」
押し寄せてきた人波に呑まれタケルと奈津子は、はぐれてしまった。
その頃、光子郎の家では・・・・
光子郎はこのお台場の異変はヴァンデモンが絡んでいると睨み、何か情報はないかと、パソコンを起動させると、
「ゲンナイさんからのメールだ・・・・」
画面には老人が封筒を持って届ける映像が流れた。
「ハロー・・・・などと言っている場合ではないなぁ・・・・」
「せや!せや!」
テントモンもゲンナイの意見に同意する。
「緊急事態じゃからもっとも大事なことから言うぞ、まず、ただちにデジタルバリアを張れ」
「デジタルバリア!?」
「急いで添付したプログラムを別のところにダウンロードするんじゃ!!」
光子郎はノートパソコンとデスクトップの両方のパソコンを使い、デジタルバリアを張りにかかる。
「それを張ればとりあえずは安全じゃ」
「光子郎はん! 急がないと奴らがもうそこまで来てまっせぇ!?」
テントモンが外の様子をチラッと見て、バケモン達がすぐそこまで来ていたので、光子郎を急かす。
「わかっています!!早く・・・・早く・・・・」
パソコンの画面を見ながら光子郎は念仏のように唱える。
「大変よ、光子郎」
「早く逃げないと・・・・」
そこへ、光子郎の両親が光子郎の部屋に来た。
護身用のためか父親は手にゴルフクラブを持ち、母親はフライパンを持っている。
「いえ、此処に居たほうが安全です」
「何言っているのよ!? 化け物がすぐそこまで迫っているのよ!?」
「あとちょっとなんです!!」
「何言っているのよ。光子郎。パソコンなんて放っておいて、早く・・・・」
光子郎の母、佳江は椅子に座ってパソコンを操作している光子郎を強引に立たせようとする。
「待つんだ・・・・信じよう、光子郎を・・・・私たちの・・息子を・・今までそうしてきたじゃないか」
「貴方・・・・」
しかし、光子郎の父、政実は光子郎の言葉を信じ、この場にとどまる事にし、佳江もそれに同意した。
「よし、デジタルバリアON!!」
光子郎が操作を終えると、パソコンの画面が光り出した。
それと同時にファントモンとバケモンが光子郎の家の中へ入って来た。
しかし、バケモンたちには光子郎達の姿が見えないらしく、宙に浮いているフライパンとゴルフクラブにキョトンとした表情で瞬きをするが、やはり光子郎達の姿は見えていない。
「なんだ、留守か・・・・」
人の姿が見えない以上、ここに留まる理由は無いのでファントモン達は光子郎の家を後にした。
「「はぁ〜・・・・」」
バケモン達が出ていったのを見て、安心したのか、光子郎の両親はその場に座り込んだ。
「光子郎はん!!大成功でっせぇ!!」
デジタルバリアの成功に思わず、声を出してしまったテントモン。
「「ヒイッ!?」」
突然、人形だと思っていた大きなてんとう虫が喋った事に両親は驚きの声をあげ、テントモンへ視線を向ける。
「あ、あのワテ、テントモンいいます」
バレてしまっては仕方なく、テントモンは光子郎の両親に自己紹介をするが、佳江は突然の出来事で失神してしまった。
「あっ、母さん!!」
政実は失神してしまった妻に声をかけ、光子郎はテントモンの行動に呆れていた。
その頃、ビッグサイトでは・・・・
リリモンがヴァンデモンに敗北したことにより、脱出しようとした人々は再び捕らえられてしまった。
「私たちをどうするつもりなんだ?」
「子供たちに会わせて!!」
大人たちはピコデビモンに文句を言う。
「ヒヒヒヒ・・・・お前たちはヴァンデモン様の餌となるのだ。それまで大人しく眠っていてもらう」
そう言ってピコデビモンは催眠術をかけ、人々を深い眠りの底へと誘った。
「ヒヒヒヒ・・・・・」
眠る人々を見て、ピコデビモンは邪悪な笑をこぼした。
また別のフロアーでは・・・・
「違う・・・・違う・・・・」
ヴァンデモンによって囚われの身となったテイルモンはヴァンデモンが連れて来た子供達と一人一人顔合わせをさせられている。
「わかっているだろうな・・・・」
顔合わせをさせられているテイルモンの背後にヴァンデモンが姿を現した。
「ウソをつけば子供達は皆殺しだぞ!!」
(グッ・・・・今の私はあまりにも無力だ・・・・ヒカリ、どうか無事でいてくれ・・・・)
テイルモンはまだ捕まっていないヒカリの身を案じた。
その頃、水上バス乗り場では・・・・
「ちょっと皆さん冷静に!?・・うわぁぁぁぁ!!」
水上バス乗り場で人波にのまれながらも、何とか人混みから脱出した丈。
「はぁ〜死ぬかと思った・・・・」
乱れた呼吸を整えている丈に聞き覚えのある声がした。
「丈さん!!」
「タケル君」
「丈さん、お台場じゃなかったの?」
「塾にいっている間にこの騒ぎさ・・・・」
「ねぇ、あの霧ってやっぱり・・・・」
「ああ、恐らくヴァンデモンの仕業だろうね」
二人は霧がかかっているお台場方面を見ながら言う。
「きっと今頃お台場は・・・・」
お台場の惨状を予想している丈。
「お兄ちゃん・・・・」
そしてお台場にいる兄の身を案じるタケル。
「僕はお台場に行くつもりさ」
珍しく真剣な表情で自分の決意をタケルに言う丈。
「僕も!・・・・でもどうやって?」
「コレさ・・・・」
丈は自らが持っているスポーツバッグをタケルに見せる。
「えっ?」
タケルが怪訝そうな顔でバックを見ると、
「ばぁ〜!!」
バックからゴマモンが顔を出した。
「ゴマモン!!」
「ふぁー、苦しかったー」
長時間バックに押し込められていたゴマモンは深呼吸をする。
「頼むよ、ゴマモン!!」
「
OK。任して」
ゴマモン進化
―――――イッカクモン―――――
イッカクモン 成熟期 海獣型デジモン 属性 ワクチン
ゴマモンが成熟期に進化した姿。
分厚い毛皮と頑丈な体は、極寒の地でも耐えられるような構造をしている。鋭い角はレアメタルの一つ「ミスリル」でできており、毛皮の下の体皮も同等の硬度を持っている。足先の爪にあたる部分は、自分の意思で高温を発することのできるヒートトップ。そのため氷上では、ガッチリと足場を確保できるが、あまり素早く動くことはできない。
必殺技は再生可能な角を射出する『ハープーンバルカン』。
「タケル
! タケル!!」「ママ・・・・」
「えっ?」
桟橋から一人の女性がイッカクモンに向かって走ってくる。そう、タケルの母、奈津子だった。
タケルとはぐれた後、突然桟橋の近くで大きなアザラシのような怪獣(イッカクモン)が現れしかもその怪獣の背中に自分の息子が乗っているのだから、心配しないわけがない。
「危ないから早く降りてらっしゃい!!」
「大丈夫だよ、ママ。これはイッカクモン。友達だよ」
「あの、始めまして。僕は六年の城戸丈といいます。タケル君は責任をもって僕が面倒を見ますから!!」
「タケル!!」
「ママ、心配しないで、僕大丈夫だから」
「タケル!!」
「お兄ちゃんやパパの所に行ってきまーす!!」
手を振りながら遠ざかっていくタケルの姿を見て、奈津子は
「あなた・・・・あの子達を守って・・・・」
お台場にいる元夫に息子たちを託した。
「デジタルバリアは無事張れたようじゃな?」
「はい」
お台場の光子郎の家で、バケモンの襲撃をデジタルバリアにて退けた光子郎はゲンナイとコンタクトをとっていた。
「では、よく聞け。お台場を覆っている原因不明の霧はヴァンデモンの結界じゃ」
「やっぱり・・・・」
「てことは、ワテら籠の虫でっか!?」
「そうじゃ、結界の中心はここじゃ、ここを破壊して結界を破壊するのじゃ」
パソコンの画面に出た結界の中心点はフジテレビだった。
「フジテレビだ。急ぎましょう!!」
「はいな!!」
光子郎はノートパソコンのフタを閉じ、カバンに詰めると、その鞄を背負って、
「お父さんお母さん、奴らまたいつ戻ってくるか分かりません、ひとまずココでじっとしていてください。この家の中に居れば安全ですから」
そう言って光子郎は部屋を飛び出そうとするが、
「光子郎・・・・」
部屋の出口付近で佳江に呼び止められる。
「気をつけて、必ず無事に帰ってきてね、私たちのところへ・・・・」
「はい。行ってきます」
「あっ、待っておくんなはれ」
光子郎は涙をぐっと堪えてテントモンと共に家を出ていった。
「ふぅー。人使い・・いや、バケモン使いが荒いんだから全く・・・・」
ガードレールの上で一休みをしている一体のバケモンがいた。
そんなバケモンの背後から忍び寄る一団が居た。
「「「どりゃあぁぁ!!」」」
「ぐぇっ!!」
「みんなをどこへやった!?」
「早く白状しろや!!」
「「「「オラオラオラオラオラオラ!!」」」」
太一、良介、アグモン、ドラコモンは一斉にバケモンにスタンピングを始めた。
「太一!!・・って、貴方達まるでチンピラよ!?」
バケモンにスタンピングをしている太一達の様子をバードラモンにつかまりながら飛んでいた空はしっかりと見ていた。
その様子はまさに集団で一人に殴りかかっているチンピラそのものであった・・・・。
そして地上に降りると、バケモンにスタンピングをしている太一達に呆れながら言う。
「空、無事だったのか!?」
「ひ、ヒィィィー!!」
皆の注意がバケモンから逸れ、空に視線が集中した瞬間の隙をついてバケモンは逃げ出した。
「あっ、逃げた・・・・」
逃げていくバケモンを見て、ドラコモンがつぶやくと、
「逃がすか!!」
太一はバケモンを追いかけようとする。
「まって、みんなはビッグサイトよ!!みんなヴァンデモンに捕まっているの!!」
「なんだって!?」
「ビッグサイトに?」
「そう、ミミちゃんも・・・・太一のご両親もよ」
「くそ・・ヴァンデモンめ・・・・」
「早く行きましょう!!」
「ああ、だけど、その前に空はヤマトを連れて来てくれ。ヒカリにさくらさん。それにパンプモンとゴツモンって言うデジモンと一緒にアクアシティに居る」
「分かったわ!」
太一たちはビッグサイトへ向かい、空は再びバードラモンの足につかまり、ヤマト達の下へと向かう。
その様子を観覧車のゴンドラの上から太一達に気づかれずに見ている奴がいた。
「ヒヒヒヒ・・・・」
それは、鎌を持った死神の様なデジモン・・・・ファントモンだった。
登場人物紹介
泉政実
光子郎の養父。
光子郎の実の両親が交通事故で亡くなったのと生まれた実の子供が病死したのをきっかけに光子郎を引き取ることにした。
数学者であった光子郎の本当の父とは遠縁にあたる。
同年代の他の子供と比べ、変わった所の多い光子郎にも理解を示し、個性と受け止める包容力を持っている。
CV
菊池正美
泉佳江
光子郎の養母。
光子郎が養子であることに気がついているのではないかと、女の勘で薄々気がついていた。
しかし、光子郎のことを本当の子供のように接していた。子供としてもう少しワガママを言ってもらいたいと思っており、光子郎がいつまでも他人行儀で心を開かないことを気に病んだりもした。
CV
荒木香恵
あとがき
やっぱり世界が変わっても良介君の中にはチンピラ精神は宿っていました。
原作では太一がバケモンにグーで殴っていましたが、この世界では人数が多いのでスタンピングの嵐となりました。
では、次回にまたお会いしましょう。