十一話 お台場の妖精
「うふふ、久しぶりに腕がなるわねぇ〜♪」
宮本家ではさくらが嬉しそうに木刀を二、三度振った後に木刀を正眼に構える。
「か、母さん・・・・」
どうやらお袋も周囲の異変に気がついたようだ。
なにせ、外からは沢山の人達の叫び声や悲鳴が聞こえる。
「良介・・・・・」
「わかっている・・・・・」
デジモンの気配に敏感なドラコモンも当然気が付いている。
周囲からは邪悪な気配が漂っているし、やる気満々のお袋を止めることも俺には無理だったし、止めるつもりもない。
ついでに言うと俺とドラコモンもやる気満々である。
「ヴァンデモン様だ・・・・・ヴァンデモン様が遂に動き出したんだ」
「うん。戦いが・・始まる・・・・俺たち殺されるかも・・・・」
パンプモントゴツモンがお互いに抱き合い震えながら言う。
そこへ、
ピンポーン
インターフォンが鳴る。
「お前ら、腹を括れ、そして・・・・死ぬなよ」
俺自身も竹刀を構え、パンプモンたちに覚悟を決めさせる。
「「「お、おう!!」」」
やがて、ドアが開くと、そこからバケモンがなだれ込んできた。
しかし、
「へっ?」
自分達の姿を見て怯え逃げ惑うかと思っていたバケモン達であったが、玄関から入ると、そこでまっていたのは、
「ようこそ」
「「「「宮本家へ・・・・」」」」
木刀と竹刀を構えた大人の女と子供、そして三体のデジモンたちだった。
しかも皆口元を三日月型にしたイイ笑顔を浮かべて自分たちを見ていた。
「「「「ど、どうも〜」」」」
バケモン達は反射的に挨拶をするが、その数秒後には断末魔の悲鳴をあげた。
ちょうどその頃、太刀川家の家族三人もバケモンの突然の奇襲を受け、自宅から逃げ出した。
「もう、大丈夫だ」
エレベーターに逃げ込んだミミの父、ケースケが妻と子を安心させるかのように呟く。
「何なのよ、アレ?」
初めて見たデジモンに妻のサトエは混乱気味。
「ママ、あれはね・・・・」
ミミがバケモンのことを説明しようとしたとき、エレベーターのドアが開き、そこから沢山のバケモン達がなだれ込んできて、ミミ達、太刀川親子は全員バケモンに捕まった。
「マジカルファイヤー!!」
空の家でも同様の事態が起きており、ピヨモンが必殺技のマジカルファイヤーにて襲いかかってきたバケモンを撃退する。
「あ、あなた・・ぬいぐるみじゃなかったの?」
震えながら淑子は空がキャンプから持ち帰ってきたヌイグルミ(ピヨモン)を指さして言う。
「サッカー部の朝練はどこでやっているの?」
「しょ、小学校の校庭・・・・」
「急なきゃ・・・・空が危ないの・・・・」
「えっ?」
淑子とピヨモンは急ぎ、空が朝練をしているお台場小へと向かった。
お台場全体を霧で囲み、バケモン達を使って街の人々を捕らえ始めたヴァンデモンは、捕らえた人々をビッグサイトへ連行させた。
「大人と子供を分けたら、全ての子供達をテイルモンに会わせろ。首実検にかけるのだ」
「そんな手の込んだ事をなさるより皆殺しすれば早いでしょうに」
ピコデビモンがヴァンデモンに意見するが、
「それでは私の美学にそぐわない・・・・しかし、分かっているな?お前がシラをきれば皆殺しもやむを得ないということを・・・・」
ヴァンデモンは両手を吊るされたテイルモンに問うと、テイルモンは悔しそうにヴァンデモンを睨んだ。
「何があったのか説明してくれよ」
ヤマトはバケモンが自宅を襲撃する前になんとか無事にギザモンから逃れた父、裕明の手でフジテレビ近くの建設中のビルへと避難していた。
「俺にもわからん。・・・・が、とにかくお前たちはここに隠れていなさい」
「親父は?」
「局に行く。なんとか外と連絡をとってここで起きていることを知らせたい。ガブモン君、ヤマトを頼む」
「分かりました」
「気をつけろよ」
「ああ」
裕明はそう言ってビルを後にし、フジテレビへと向かっていった。
「いいの?ヤマト?」
「親父を信じよう・・・・」
ヤマトとガブモンはフジテレビへと向かう父の背中を見送った。
アグモン進化
―――――グレイモン―――――
アグモンは成熟期のグレイモンへと進化し、太一とヒカリのお母さんを助けようとした。
しかし、ファントモンの鎌で腕を刺され深手を負った。
「ゴメン、太一・・・お母さんは後で必ず助けるから、今は僕と逃げて・・・・」
グレイモンは太一とヒカリを連れて逃げだすので精一杯だった。
ピヨモンと共に空を助けにいった淑子であったが、お台場小学校の校庭にはサッカーボールが辺りに散らばっているだけで、教師も生徒の姿も・・・・そして空の姿も無く、代わりに空の帽子が落ちているだけだった。
「遅かったわ・・・・・」
「空・・・・」
バケモンに捕まった空を案じるかのように淑子は霧で覆われた空を見上げながら呟いた。
宮本家でも最初は攻勢に出ていたが、バケモンが手ごわい人間とデジモンがいると、連絡を送り、次々に増援を繰り出し、良介達は段々とジリ貧となってきた。
「くそっ、ドラコモン!!」
「う、うん」
ドラコモン進化
―――――コアドラモン―――――
ドラコモンを一度ベランダの外に出し、空中でコアドラモンに進化させ、
「母さん!!パンプモン!!ゴツモン!!こっちへ!!」
皆をコアドラモンの背中に乗せ、宮本家の全員は家から脱出した。
その途中で、グレイモンに乗っている太一とヒカリに合い、皆はヴァンデモンに占領されたお台場を当てもなく逃げ回った。
ビッグサイトではバケモンがあちこちと飛び回り、捕らえた人々を見張っていた。
その捕らわれた人達の中には空の姿があった。
空はこれからどうしようと、顔を俯かせ考えていると、
「空さん」
背後から聞きなれた声がした。
「ミミちゃんも捕まったの?」
空が声のした方を振り向くと、そこには寝巻姿のミミがいた。
そして、
「アタシ進化したほうがイイ?」
ミミの腕の中には毛布に包まれたパルモンが居て、空に尋ねた。
空は一度周りを見渡し、
「周りは敵だらけだし、もう少し様子を見ましょう」
「ええ」
と、静観することにした。
ビッグサイト内を歩き回っていると、裕子が泣きながら太一とヒカリの身を案じていた。
そこを空が優しく慰めた。
その頃、外ではバケモンに似せた布を被った淑子とピヨモンが空を探し回っていた。
「空は何処にいるのかしら?」
「今度は中を探しましょう」
「ええ・・・・あ、ピヨさん。変な事を聞くようだけど、空は私の事を『嫌い』だって言っていなかった?」
自分家の流派である華道を継いでもらいたい一身からであるが、淑子は空との間に確執のようなものを感じていた。
しかし、ピヨモンはそれを否定した。
「全然、空こんなことを言ってたよ・・・・」
ピヨモンはかつてデジタルワールドで空が言っていた母の愛情について話した。
その頃、ビッグサイト内で捕らわれていた人々は意を決し、ビッグサイトからの脱出を敢行した。
太一の父、進が先頭に立ち、男性陣は皆、鉄パイプや資材などでビッグサイト内にいる見張りのバケモン達に殴りかかり、バケモン達が怯んでいるその隙に裕明の部下の一人、ユキが女性と子供達を外へ避難させる。
玄関ホールを出た直後に外の見張りをしていたバケモン達が人々に襲いかかってくるが、そこを空が、
「これでも聴きなさい!!」
ラジカセを掲げた。
空が掲げたラジカセの中に入っているテープには般若心経が録音されていた。
これは裕明の部下の一人、櫻田がストレスや疲れが溜まっているときによく聴いているもので、かつてデジタルワールドで丈と共にバケモンと対峙したときに丈が御供を読んでバケモンを弱らせた経験から、バケモンは御供に弱いと判断し、実行したのだ。
般若心経を聴いたバケモン達はバタバタとその場に倒れた。
玄関ホールを無事に出た人々であったが、そこへダークティラノモンが姿を現した。
すると、ミミの父ケースケが電動カートに跨り、ダークティラノモンへ突っ込んでいったが、あっさりと跳ね返された。
「パパー!!」
父がはねとばされた光景を見たミミが叫び、デジヴァイスが光った。
パルモン進化
―――――トゲモン―――――
パルモンが進化し、成熟期のトゲモンとなり、ダークティラノモンの顎にアッパーを食らわせ、ダークティラノモンは倒れた。
その隙にミミとサトエはケースケの下に向かう。
「大丈夫?あなた?」
「大丈夫だけど、格好悪い・・・・」
「そんなことない。とっても格好良かったわ」
「ほんと?」
「ほんと」
こんな状況で、人目も気にせずイチャつくミミの両親であった。
「そんな事、している場合じゃないでしょう!!」
まだ完全に危機を脱していないにもかかわらず、イチャつく両親にツッコムミミ。
「いいじゃないか、今日ぐらい」
「いつもでしょう」
ミミの両親がイチャツク中でもトゲモンとダークティラノモンの戦いは続いていた。
ダークティラノモンはトゲモンを持ち上げ、地面に叩きつけると、必殺技の『ファイヤーブラスト』をトゲモンに吐きかける。
「トゲモン!頑張って!!」
「頑張っているんだけど・・・・」
植物系デジモンなだけに炎攻撃は思いのほか効果があり、トゲモンは深刻なダメージを受けはじめていた。
「どうして・・・・どうしてこんなことをするの・・・・・私はあのデジモン達を許さない!!」
パートナーや大勢の人々が苦しんでいる現状を見て、涙を流しながらミミが叫ぶと、ミミの紋章が突然光り出した。
トゲモン超進化
―――――リリモン―――――
リリモン 完全体 妖精型デジモン 属性 データ
美しく咲いた花弁から生まれた妖精型デジモン。
見た目は人間の子供のような姿をしているが、計り知れないパワーを秘めている。
背中に生えた4枚の葉状の羽で空を飛ぶことができ、リリモンが飛んだ後は、さわやかなそよ風が吹くという。
必殺技は両腕を前に突き出し、手首の花弁を銃口にして、エネルギー弾を撃ち出す『フラウカノン』。
「トゲモンが進化した」
進化したトゲモン(リリモン)を見て、ミミは唖然としながら言う。
「はぁ〜い、ミミ。アタシ趣味悪い?」
リリモンはミミに完全体へ進化した自分の姿についてミミに問う。
実はパルモンは昨夜、ミミに「ヌイグルミの振りでもいいんだけど、趣味の悪いヌイグルミを持っていると思われるのは嫌だ」と、言われたのでその言葉を返上させる為にミミに聞いたのだ。
「ううん。そんなことない。とっても綺麗で可愛い」
「サンキュー」
そんなリリモンにダークティラノモンは襲いかかるが、華麗に空をステップするように攻撃をかわすリリモン。
「私を捕まえられて?」
「そいつをやっつけて!!」
ミミは父に酷い目をあわせたダークティラノモンを許さず、「倒して」と頼むが、リリモンは、
「ねぇ、ミミ。私を完全体へ進化させたのはミミの純真な涙・・・・その心を大事にしないと・・・・だから・・・・」
「どうするの?」
「見ていて」
リリモンはダークティラノモンの首の辺りを飛ぶと、
「花の首飾り」
ダークティラノモンの首に花で出来た首飾りをとりつけた。
「悪質なウィルスを花の力で除去したの。だからもうこの子は敵じゃなくなったわ。いい子ね、坊や」
リリモンは自分に懐いたダークティラノモンの頭を撫でる。
「凄い・・・・」
あんなに凶暴だったダークティラノモンを手懐けたリリモンの実力を見て、ミミは改めてリリモンの力に驚く。
そこへ、
「小賢しいマネを・・・・ブラッディストリーム」
ヴァンデモンが現れ、ダークティラノモンをいとも簡単に削除した。
「なんてことするのよ!!」
自分の部下をためらいもなく殺したヴァンデモンにリリモンは声をあげる。
「フン、粗大ゴミを処分しただけだよ。次はお前だ!!」
ヴァンデモンとリリモンの戦いが始まった。
その頃、水上バス乗り場に来ていた丈であったが、水上バスもやはり霧のため、運航を見合わせていた。
「船もダメか・・・・あの霧どうしたら突破出来るんだ?」
水上バス乗り場で項垂れる丈。
「丈、塾で習わなかったのか?」
項垂れる丈にゴマモンは問う。
「習う訳無いよぉ〜。火の起こし方も皿の洗い方も・・・・・そういうのは塾じゃ教えないんだ」
デジタルワールドで経験したサバイバルもバイトもどれもこれも普通は学習塾で習う事などでなはい。
当たり前だけど・・・・。
「ん?じゃあ何教えているわけ?」
ゴマモンにとってはご飯のため、食材を採る方法も作り方も教えないその学習塾という施設がいった何のためにあって何を教えているのか不思議だった。
「なんだっていいじゃないか。それよりあの霧だ」
丈はお台場方面を被っている霧を見た。
裕明は無事にフジテレビの局内に入ることが出来、どうやって外部と連絡を取ろうかと考えていた。
(衛星放送を使えば何とかなるかもしれない・・・・)
そして衛星放送の機材が有る部屋へと向かった。
宮本家のメンバー+太一・ヒカリ+
αは建設中のビルに潜伏中のヤマトと合流した。その頃、ビッグサイト内で逃げ回っていた空はファントモンの鎌で切り札とされる御供入りのラジカセを壊され、ピンチに陥った。
「今度は貴様が極楽浄土へ行けるように念仏でも唱えるんだな」
ファントモンが鎌を構え、バケモンが空の両腕を抑える。
「お前の命貰った」
「そうわさせない!!」
「そうわさせないわ!!」
「何!?」
空の両腕をつかんでいたバケモンが体を覆っていた布を取ると、それはバケモンではなく、空の母、淑子とピヨモンだった。
ピヨモン進化
―――――バードラモン―――――
バードラモンはバケモン達を風圧で吹っ飛ばす。
「逃げなさい、空」
淑子は空の帽子を渡し、空にこの場から逃げるように言う。
「お母さんも」
空は母をこの場に残して逃げるなんてことは出来なかった。
その間にも体勢を整えたバケモン達が再び空と淑子に襲いかかろうとしていた。
登場人物紹介
太刀川ケースケ
ミミの父親。
主にロック系ミュージックのフリーのミキサー。穏やかな性格ながらもやるときにはやる。ダークティラノモンに襲われそうになった際、ビッグファイト掃除用の車両で特攻する勇気をみせた。
妻サトエとは自身の娘、ミミが呆れるほどのラブラブぶりを発揮する。
CV
櫻井孝宏
太刀川サトエ
ミミの母親。
ミミと同じようにかなり個性的な味覚をしていてキムチチャーハンに生クリームと苺をのせていた。夫とは未だに新婚気分でラブラブ、性格はミミより自己中心的で幼く天真爛漫で、ミミさえも呆れていた。
CV
徳光由香
八神進
太一とヒカリの父親。
職業はサラリーマン。
ビッグサイトの脱出に同じく捕まった人々をまとめて活躍。
いざというときに頼りになるところを見せた。
CV
千葉進歩
あとがき
バケモンが宮本家に侵入した際の模写はヘルシングのバレンタイン兄弟の弟、ヤンが円卓会議場へ侵入したときの場面を意識して描きました。
なんとかオリジナリティーを出したい所ですが、やはり難しいです。
でも、頑張って行きたいと思います。
では、次回にまたお会いしましょう。