十話 攻勢に出たアンデッド王
「それで、お前は誰のパートナーデジモンなんだ?」
「えっ?」
ヴァンデモンが完全に撤退し、成長期に戻ったカブモンがウイングドラモンに尋ねる。
「タケルからお前が選ばれし子供のパートナーデジモンだと言う事は聞いている」
尋問するかのように尋ねるヤマト。
そこへ、
「俺のデジモンですよ。ヤマトさん」
戦場となった工事現場には何時の間にか、良介の姿があった。
「良介・・・・それじゃあ、お前が八人目か九人目の選ばれし子供だったのか?」
「はい・・・・それと、太一さんの妹のヒカリも選ばれし子供ですよ」
「なんだって!!」
良介が自分と同じ選ばれし子供だと言う事にも驚いたが、まさか、太一の妹のヒカリも選ばれし子供だったという事実はヤマト達に衝撃を与えた。
その頃、ヴァンデモンのアジトへヒカリの紋章を取りに行ったテイルモンとウィザーモンは、何とか、ヴァンデモンの部屋から光の紋章を手に入れたが、その帰りに運悪く渋谷から撤退してきたヴァンデモンと鉢合わせしてしまった。
ヴァンデモンに裏切りがバレ、そこで戦闘へと突入した。
渋谷でウイングドラモンとの戦闘をしてきたばかりであったが、成熟期二体の相手ならば対した苦労も無く、テイルモンとウィザーモンは追いつめられていった。
テイルモンたちが向かった方で雷が鳴り響いていた。
「何だ?あれ?」
突然鳴り響いた雷に太一が驚きの声をあげる。
「テイルモン達が戦っているんだ」
「テイルモン大丈夫なの?」
ベランダで、太一、アグモン、ヒカリは心配そうに雷が鳴る方向を見ている。
「アグモン、オレ達も行くぞ!!」
「ウン
!」「待ってヒカリも行く!!」
やはり、心配になったのか、太一はアグモンと共にヴァンデモンのアジトがあるとされる第三台場へと向かう。
ヒカリも着いて行こうとしたが、パートナーデジモンも紋章も持っていないヒカリを一緒に連れていくのはあまりにも危険だったため、
「ヒカリは危ないからお前は家で待ってろ!!」
と、今回はヒカリに強く言って太一とアグモンは家を出た。
太一とアグモンが第三台場に到着した時にはウィザーモンの姿は無かった。
ヴァンデモンに殺されたわけではないが、彼はヴァンデモンの使役する蝙蝠によって紋章を持ったまま海へと落とされたのだ。
「助けに来たぞ!テイルモン!!」
「太一!!」
「いけ、グレイモン!!」
太一は既に成熟期に進化させていたアグモン(グレイモン)に指示する。
「メガフレイム」
グレイモンの口から巨大な火の玉がヴァンデモン目がけて放たれる。
「ふんっ、そちらから御出ましいただけるとは光栄だな・・・・ブラッディストリーム!!」
ヴァンデモンはグレイモンの攻撃をあっさりと避けると、手に赤く光る鞭のようなものを出現させ、グレイモンを何度も叩いた。
「グレイモン進化だ!!」
グレイモン超進化
―――――メタルグレイモン―――――
「いけ、メタルグレイモン!!」
「ギガデストロイヤー!!」
メタルグレイモンは胸のハッチを開け、そこから二基の大型ミサイルを放つ。
ヴァンデモンはブラッディストリームで迫り来るミサイルを海へ叩き落とした。
「そんな子供だましが通用すると思ったのか?」
これまでの戦いや八人目と九人目の子供の捜索での疲れがたまっていたのか、メタルグレイモンはアグモンに退化してしまった。
「戦いが続いて疲れてしまったのか。しっかりしろ、アグモン」
「選ばれし子供がわざわざやってくるということは・・やはりテイルモンは選ばれし子供のパートナーデジモンか・・・・」
「な、なにを言っているんだ!!私はパートナーデジモンなんかじゃない!!」
テイルモンは誤魔化そうとするが、
「それはこれから分かることだ」
「どういうことだ!?」
突然、沢山のコウモリが現れて、テイルモンを連れ去ってしまった。
「テイルモンを囮にしてコイツのパートナーをおびき出す。子供達を集めてコイツとご対面というわけだ。紋章なんかなくともすぐ分かる」
「卑怯だぞ!!ヴァンデモン!!」
「また会おう」
「まてー!!テイルモン!!」
「太一!!」
ヴァンデモンとテイルモンの姿は夜の闇の彼方へと消えて行った。
アグモンがこれ以上戦えない現状では太一にはなすすべが無かった。
「テイルモン帰って来るよね・・・・?帰って来てね?テイルモン・・・・」
ヒカリはベランダから不安そうに自身のパートナーを案じた。
ヤマトさん達と共に三軒茶屋に着いた、俺はヤマトさんとO・HA・NA・SHI・・・・もとい、お話をしている。
話題はもちろん、俺が選ばれし子供だと言う事だ。
「それじゃあ、お前は光が丘でデジモンを見た後、すぐにパートナーデジモンを連れていたのか・・・・」
「は、はい。流石にあの時は見た事も無い生物だったので、公には出来なかったんです」
「確かに、事情を知らなけりゃ、俺だって化け物かモンスターだと思うもんな」
「酷いよ〜ヤマトぉ〜」
「あっ、ワリィ、ワリィ」
ガブモンがうる目でヤマトを見ると、ヤマトは苦笑いをしながらガブモンに謝る。
「それにしても何で今まで黙って居たの?僕らが光が丘に来た時、丈の言っていた竜ってドラコモンの事なんでしょう?それに東京湾の時や東京タワーの時も・・・・」
ガブモンはヤマトから俺に視線を移し、何故今までの戦いに参加しなかった事やみんなの前に現れなかったか、理由を尋ねた。
「光が丘の時は既に決着がついてしましたし、警察や消防がすぐ近くまで来ていたので、無用の混乱を避けるために、あの時はその場から立ち去りました。東京湾の時は不覚にも小さなコウモリのようなデジモンと戦って腕を怪我しまして・・・・」
ドラコモンの代わりに良介が参戦しなかった理由を話す。
「小さなコウモリのようなデジモン?それって・・・・」
「ピコデビモンか!?」
「それで、ケガの方は大丈夫なのか?」
良介がケガをしたと聞いてヤマトはケガの具合を聞く。
「ええ、一晩寝て何とか治りました」
「そうか・・・・」
「最後に東京タワーの時ですが、あの時はヒカリも一緒にいたので、敵のデジモンはウイングドラモンに任せ、ヒカリを連れて避難しました。でもこれからは皆さんと一緒に戦います」
良介はそう言って手を差し出す。
「そうか、よろしく頼む」
良介とヤマトはガッチリと握手をして、これからは共に戦う戦友の誓いを立てた。
「初めまして・・・・だね?パタモンのテイマー。俺の名前は宮本良介。良介って呼んでくれ」
「は、初めまして・・・・高石タケルです」
良介はタケルとも交友を深めた。
同じ学年同士と言うこともあって、良介とタケルが意気投合するのに時間は掛からなかった。
「それじゃあ太一達にもこのことを伝えないとな・・・・」
「あ、多分太一さんは俺が選ばれし子供だということを知っていると思いますよ」
「そうなのか?」
「はい、太一さんは俺とヒカリが八人目と九人目じゃないかと睨んでいましたし、今日の夕方にヒカリのパートナーデジモンが太一さんの家に来ました。そこからヒカリが太一さんに俺のことも話していると思いますから」
「リョウスケ、ヒカリちゃんのパートナーデジモンってどんな奴何だい?」
ガブモンがヒカリのパートナーを聞くと、
「確か・・テイルモンっていう猫に似たデジモンです」
「「「「テイルモン!?」」」」
テイルモンの名前を聞き、ヤマト達が驚きの声をあげる。
「ど、どうしたんですか?」
「良介、本当にヒカリちゃんのパートナーはテイルモンで間違いないのか?」
ヤマトがもう一度、問い詰めるかのように良介に確認をとる。
「は、はい。間違いありません。ヒカリのデジヴァイスにもパートナーとして登録していますし・・・・あの〜テイルモンと何かあったんですか?」
「テイルモンはヴァンデモンの手下なんだ・・・・」
「えっ?」
「アイツは俺たちがヴァンデモンを追いかけ、元の世界に帰ろうとしたときに妨害したんだ」
「へ、へぇ〜」
ヤマトの話を聞く限りでは、太一やヤマト達デジタルワールドへ行った選ばれし子供組みにとっては、テイルモンはそう簡単には信用する事ができないかもしれないが、既にヒカリとパートナー契約をすませており、パートナーデジモンが契約したテイマーに害を成すとは思えない。
テイルモンもこれからヴァンデモンと共に戦う戦友なのだから、なるべくはギスギスした空気にならないようにしなければならなかった。
タケルを三軒茶屋の自宅に送り届けた後、コアドラモンに進化したドラコモンはヤマトと良介そしてパンプモンとゴツモンを乗せて、お台場へと帰った。
玄関先では太一が良介の帰りを待っていた。
そこで良介は三軒茶屋でヤマトと同じく自分が選ばれし子供だったことを何故言わなかったのか、太一に聞かれ、同じ説明を今日の内に二度説明することとなった。
そして渋谷にてパンプモンとゴツモンの事
そして今回の黒幕であるヴァンデモンが現れた事を話した。
そして太一からも第三台場にて、ヒカリの紋章を取りに行ったテイルモンとウィザーモンは帰り際にヴァンデモンと遭遇し、ウィザーモンは海に落ちて行方不明、テイルモンはヴァンデモンに攫われた事を聞いた。
恐らくヴァンデモンは近いうちに攻勢に出るだろうとこの時、太一も良介もそう思った。
そしてヒカリは、やはりヴァンデモンに攫われたテイルモンのことが心配だったのだろう。
夜遅くまで窓の外をジッと見ていた・・・・。
ちなみに良介が家に連れ帰ったパンプモンとゴツモンは良介がさくらに同居を頼んだところ、さくらは「了承」の一言で許してくれた。
そして自分たちを快く受け入れてくれたさくらにパンプモンとゴツモンは抱きつき甘える。そんな二体を良介は睨みながら見ていると、ドラコモンから「良介、妬いているの?」と言われ、
「ち、違うわい!!あ、アイツらが母さんに変なことをしないか見張っているだけだ!!」
と、声をあげて、言っていたが、良介の態度からヤキモチを妬いているのは見え見えだった。
「もうすぐだ・・もうすぐ、霧の結界を張り終える。そして、この地は地獄と化す・・フフフフ・・・・ハハハハハハ・・・・」
その頃、ヴァンデモンはフジテレビの展望台の上におり、お台場周辺に霧の結界を張り巡らしていた。
お台場が霧に包まれ始めた頃、丈はお台場の外にいた。
「五十四点・・・・十一年生きてきた中で最低の点数だ・・・・」
塾で行われた模擬試験の結果にガックリと悄気る丈。
「元気出よ。人生山あり谷ありさ」
そんな丈をゴマモンは慰め、元気づける。
「今日は居残りだって、家に電話しなきゃ・・・・」
丈は携帯を使って家に電話を入れるが、繋がらなかった。
「おかしいな?繋がらないや・・・・」
不通の携帯を見ながら丈は首を傾げた。
ヤマトはガブモンと共に自宅でテレビを見ていたところ、急に映らなくなってしまい、
「くそ、せっかく良いところだったのに・・・・」
と、変なポーズをしながらリモコンを操作するが、その様子はまさに滑稽だった。
お台場にて、突如、全ての電子機器が使えなくなった。
そのため、お台場にあるフジテレビの放送電波も機器も全てダウンし、送信も受信も不能な状況となった。
また、深い霧のため、ゆりかもめも運行を見合わせた。
そのため、塾での居残りを終えた丈は他の帰宅困難者と共にお台場の自宅へ帰れなくなっていた。
フジテレビで働いているヤマトの父、裕明は仲間と共にこの霧の謎を探るべく、お台場を車で回っていた。
霧が発生している場所を地図で描き確認すると、霧はお台場全体をすっぽり覆っていた。
皆が地図を見ていると、霧の中からズシン、ズシンと何大きな音が聞こえてきた。
裕明が車のライトを消すと、黒いティラノザウルスのような生き物が車の横を通り過ぎていった。
ダークティラノモン 成熟期 恐竜型デジモン 属性 ウィルス
悪質なコンピュータウィルスに体を侵食された恐竜型デジモン。
もともとはティラノモン種のデジモンだったが、悪質のコンピュータウィルスに感染し、肉体を構成するデータがバグをおこし狂暴なデジモンへと変貌してしまった。
体は黒く変色し、腕もティラノモンよりも強靭に発達し攻撃力も増している。目に映るものは全て敵とみなし攻撃を仕掛けるような荒々しい性格になるほど、完全に狂暴化してしまった。
必殺技の『ファイアーブラスト』は超強力な火炎放射で、辺り一面を炎の海に変えてしまう。
裕明達が車から降りると今度は海から、オレンジ色の毛むくじゃらでカエルのようにピョンピョン跳ねるデジモンが裕明達に襲いかかってきた。
ギザモン 成長期 水棲哺乳類型デジモン 属性 ウィルス
手足に水を掻くためのヒレがついた水棲哺乳類型デジモン。
地上での生活よりも水中での生活に適しており、ヒレと強靭な後ろ足で水中をすばやく泳ぎまわるが、地上での移動は苦手でカエルのように飛び跳ねながら動き回る。
必殺技は鋭利な刃物のような背鰭で相手に襲い掛かる『スパイラルエッジ』。
「誰も逃がさない・・・・そう、もちろん選ばれし子供もだ・・・・フフフフフ・・・・ハハハハハハ・・・・」
ヴァンデモンは狂喜の笑を浮かべながら結界を張っていった。
翌朝、お台場は完全に深い霧で覆われ、町中には巨大な鎖鎌を持った死神のようなデジモンと、白い毛布を被ったオバケのようなデジモンが次々に人々を襲い始めた。
ファントモン 完全体 ゴースト型デジモン 属性 ウィルス
巨大な鎖鎌を持った死神のようなデジモン。
バケモンとは違い上級のゴーストデジモンで、ファントモンにとり憑かれたが最期、完全に死が訪れるだろう。
首からぶら下げている眼球の形をした水晶は、マンモンの紋章と同じく千里眼の力で全てを見通すことができるため、死期の近い者を見抜いてしまう。
体を覆う布の中身は別次元のデジタルワールドに通じていると言われている。
必殺技は巨大な鎖鎌で敵の魂をも切り裂く『ソウルチョッパー』。
バケモン 成熟期 ゴースト型デジモン 属性 ウィルス
ダークエリアから発生した幽霊デジモン。
ウィルスプログラムで作られておりコンピュータに取り付いて次々に破壊する。布の中はブラックホールだという噂がある。
必殺技は相手を地獄へ引きずり込む『ヘルズハンド』。
お台場が謎の霧で覆われ、外部と連絡も取ることが出来ず、お台場にいる人々の安否が心配されるニュースを見て、三軒茶屋に住んでいるタケルは兄と父を助けに行くと言って、タケルのその言葉と決意に母である奈津子もタケルと共にお台場へ向かう。
その頃、丈は結局、新橋駅で一晩を過ごし、ゆりかもめが動くのを待ったが、朝になっても未だにお台場行きのゆりかもめは動かなかったので、日の出桟橋へと向かった。
ゆりかもめは未だに霧のため運行はされていないが、水上バスならばもしかしたら動いているかもしれないと思ったからだ。
空は朝六時前に起き、着替えを済ませていた。
「こんな朝早くから何処行くの?」
ピヨモンが布団の中から眠気眼で空に聞く。
「サッカー部の朝練。太一ともこれからの事を相談したいしね。朝ご飯までには戻ってくるから大人しくしててね」
トレードマークの青い帽子を被り、空はサッカーの朝練に出かけた。
「行ってきます」
「・・いってらっしゃい」
(何時までサッカーなんて・・・・)
空の母、淑子は華道の家元で空には自分の後を継いでもらいたかったため、サッカーを辞めて、今のうちから華道の修行に励んでもらいたかった。
しかし、その思いは空に届いておらず、親子間の間にはどこか冷たい関係があった。
太一も空と同じくサッカー部の朝練に行くはずだったが、未だに自宅に居り、繋がらない電話に不審を抱いていた。
「おかしいな?」
「太一、朝練行かなくていいの?」
「それどころじゃないんだ」
「そうなの?」
ピンポーン
そこへ、インターフォンがなった。
「ほら、後輩が呼びに来たわよ」
裕子が応対のため、玄関へと向かう。
しかし、玄関先にいたのは後輩ではなく白い布を被ったオバケのようなデジモン、バケモンだった。
八神家に侵入したバケモンは太一達を捕まえようと迫ってくるが、
「ヘビーフレイム」
間一髪、アグモンが口から火の玉を吐き、太一とヒカリに襲いかかろうとしたバケモンを追い払う。
「「アグモン」」
「太一!ヒカリ!」
「母さん!!」
「お母さん!!」
太一とヒカリはアグモンが助けてくれたが、玄関先にいた祐子はバケモンに攫われてしまった。
登場新物紹介
石田裕明
ヤマトとタケルの父親。
フジテレビの報道ディレクターを務めている。取材には体を張って、挑むタイプ。
仕事に打ち込みながらも家族の事を大切に思っており、財布の中には今でも離婚前に家族四人で撮った写真を大事に入れている。
CV
平田広明
高石奈津子
ヤマトとタケルの母親。
夫である裕明と別れ、ルポライターをしながら三軒茶屋でタケルと共に暮らしている。
優しい心の持ち主なのだが、非現実的な事はあまり信じない。
ニュースでお台場の異変を見て、タケルと共にヤマトと元夫のいるお台場へ向かう。
CV
坂本千夏
武ノ内
淑子空の母親。
古く伝統のある華道の家元を勤めている。
話し方が厳しいため誤解される事こともあるが、本当は空を心から愛している。
CV
藤田淑子
あとがき
ヴァンデモン編がようやく始動しました。
良介君も太一達とこれからともに参戦しますが、オリジナリティーを上手く出せるか自信ないですが、お付き合いお願いします。
では、次回にまたお会いしましょう。