この物語の世界は「少年剣士とお姉さんな戦乙女」と同一の世界です。

少年剣士とお姉さんな戦乙女から幾年かの歳月が過ぎた設定です。

 

登場人物設定

 

ギンガ・ミヤモト・インテグラ

 

家族構成

リョウスケ・ミヤモト・インテグラ(旧姓 宮本 良介)とクイント・ミヤモト・インテグラ(旧姓 クイント・インテグラ)の間に生まれた、ミヤモト・インテグラ家の長女。

原作と違い、母親(クイント)の母胎から生まれているので、妹のスバル同様、戦闘機人ではない。

 

容姿

魔法少女リリカルなのはシリーズのギンガ・ナカジマと同じで、母親譲りのエメラルドグリーンの瞳をしているが、髪の毛は父親譲りの黒い髪の毛に紅いリボンを着けている。

 

デバイス・魔法

クイントが使うウィングロードは使えない代わりに飛行属性があり、飛行可能。

デバイスは日本刀の形をしている。

銘は「氷川丸」 由来は名前の通り、日本郵船所有の貨客船「氷川丸」から。

能力はBLEACHの登場キャラ日番谷 冬獅郎の愛刀「氷輪丸」の技から、

斬氷人形 氷で自身の分身を作り出す。

群鳥氷柱 敵に向けて大量の氷柱を放つ技。

氷竜旋尾 氷で形成された斬撃を敵に向けて放つ技

朽木 ルキアの愛刀「袖白雪」から、

樹白 刀で地面を刺した場所から地面を伝い、敵を凍らせる。

Fate/stay nightの登場キャラ、アサシンのサーヴァント 佐々木 小次郎から、

ツバメ返し まったく同時に3つの斬撃を繰り出す。

が、使える。

 

魔力色 

薄水色

 

バリアジャケットデザイン

戦国ランスの登場キャラ上杉 謙信のドレス甲冑(兜なし)

 

イメージCV 木川 絵理子

 

ギンガの明記

 

ギンガ・ミヤモト・インテグラはギンガ

ギンガ・ナカジマはギンガ・ナカジマと明記します。

 

 

では、本編をどうぞ・・・・

 

 

剣客少女と機人少女

 

 

「やぁ!!」

「たぁ!!」

威勢のいい掛け声が響く道場。

ここはミッドの南部にある、抜刀術天瞳流の道場・・・・。

今日も大勢の門下生達が汗を流しながら互いに剣を振り、己の剣の道を極めんと修行と鍛錬を行っている。

その中でも一際、目を引くのが・・・・

「やぁ!!」

「ぐはぁー!!」

剣技が相手に決まり、勝敗がつく。

「一本!!勝者!!ミヤモト・インテグラ!!」

審判が高々にそう宣言し、試合が終わる。

一方は屈強で大柄な男、もう一方は華奢な体つきをしていた。

そんなハンデも気にしないかのように大柄な男は敗北した。

試合が終わり、互いに礼をし、試合スペースから下がり、防具をとる。

「ふぅ・・・・」

面(防具)の下からはピンで纏め上げられた真っ黒の美しい髪が露わとなり、ピンを外すと、フワッと長い黒髪が宙を舞う。

その姿に年頃の男子門下生達はときめく。

「やっぱ、インテグラさん綺麗だな・・・・」

「ああ、しかも剣の腕はこの道場じゃかなりの上級・・・・」

「それに教え方上手いし・・・・」

「「「マジ、天使だよなぁ〜」」」

恋心めいたものを抱く少年門下生達。

しかし、普段ならば、彼らはこのような事を決して口走ったりはしない。それはもし、この場に彼女の父親がいたならば、

「つき合いたければこの俺を倒してみろ!!今日のムサシは血に飢えているぜ・・・・」

「お嬢に手を出すとはいい度胸だ、小僧ども」

と、彼女の父親とその父親の持つデバイスまでもが殺る気となり、地獄の鍛錬が門下生達を待っている。

幸い今日は彼女の父親が不在のため、彼女に抱いた恋心めいたセリフを堂々と吐けたのだ。

彼らの眼前にいる黒髪の少女の名前は、ギンガ・ミヤモト・インテグラ。

リョウスケ・ミヤモト・インテグラ(旧姓 宮本良介)とクイント・ミヤモト・インテグラ(旧姓 クイント・インテグラ)の間に生まれた、ミヤモト・インテグラ家の長女だった。

 

「そう、柄の握りは手でこうやって・・・・そう、そんな感じ・・・・力の入れ方は・・・・・」

自分の試合が終わると、ギンガは入門したばかりの門下生に基礎を教える。

母親のクイント同様、ギンガも世話好きの性格で、物腰が柔らかいので、門下生達も真剣で学んでいく。

 

「私の母さんは剣技じゃなくて、拳による打撃系なのだけれど、よくこう言ったわ。 『刹那の隙に必倒の一撃を叩き込んで終わらせるのが打撃系のスタイル。 出力がどうとか、射程や速度や防御能力がどうとか、自分と相手のどちらが強かろうが。 そんなの全部関係ない。 相手の急所に正確な一撃を入れる。 狙うのはただそれだけ・・・・』 って それは剣技にも同じ事が言えると私はそう思うの・・・・」

新人の門下生の前で、技や力について講義するギンガ。

その姿を道場師範 ミカヤ・シェベルは嬉しそうに弟子の様子を見ていた。

「師範、なんだか嬉しそうですね?」

ミカヤの傍に居た門下生の一人がミカヤに尋ねる。

「ええ、彼女はとても優秀だもの。彼女の父親同様、彼女達親子はこの道場を・・・・皆を家族のように扱ってくれる・・・・師範として嬉しいさ」

「そうですね・・・・」

ミカヤの言葉に門下生も笑みを浮かべる。

 

 

「はーい、皆、それじゃあ少し休憩しましょう」

「「「「はい!!」」」」

ミカヤが休憩時間を伝えると、門下生達は、防具を脱ぎ、武具を指定された場所へと戻していく。

「それじゃあ、皆、私からの差し入れ、翠屋ミッドチルダのシュークリームとケーキよ。手を洗い終わった人から食べてね」

「「「「やったー!!」」」」

ギンガが実家から持ってきた沢山のシュークリームやケーキが入った箱を見せると、少年、少女の門下生達は手洗い場へと走って行く。

「いつも、すまないわね、ギンガ」

ミカヤがおやつの準備をしているギンガに声をかける。

「いえいえ、私や父さんがお世話になっていますもの。このくらい当然です」

「でも・・・・」

「それに父さんも『菓子職人として良い修行になる』って言っていましたから、気にしないでください」

「ありがとう・・・・」

「さっ、ミカヤさんも食べて下さい。家の父さんご自慢のシュークリームです」

ギンガはミカヤにシュークリームが乗った皿を差し出す。

「ええ、いただくわ」

おやつの時間の時は、剣術道場とは思えぬ、まったりとした空気が道場に流れた。

しかし、休憩時間が終わると、再び、門下生達の威勢の良い声と、武具や防具が奏でる修行の協奏曲が道場に響き合った。

 

やがて夕方になり、門下生達も次々と帰宅の途について行った。

ギンガは最後の方まで道場に残り、道場の掃除や防具、武具の点検・補修を行っていたが、

「ギンガ、もうそのぐらいで良いわ」

「ミカヤさん」

「空模様も何か変だしそろそろ帰ってもいいのよ?」

ミカヤにそう言われて窓から空模様を窺うと、確かにミカヤの言う通り、空は暗雲が立ち込め、ゴロゴロと雷の音が聞こえる。

武具や防具の手入れに集中しており、気が付かなかった。

 

「・・・・それじゃあ、お疲れさまでした」

「ああ、お疲れ」

手入れをしていた武具や防具を片づけ、ギンガは道場を後にした。

「それにしても変な空模様ね・・・・時々紫電が走っている・・・・」

ギンガを見送ったミカヤが再び空を見上げると、空では時々紫色の稲光が光っていた。

 

「はぁ〜」

道場からの帰り道、ギンガの歩みは重かった。

正直に言うと、ギンガは今日、家には帰りたくなかったのだ。

だからこそ最後まで、道場に残り武具や防具の手入れを念入りに行っていたのだ。

家に帰る時間を一分、一秒でも遅らせるために・・・・。

ギンガが家に帰りたくない理由・・・・

それは、今日の朝まで時間を遡る。

 

その日の朝、ミヤモト・インテグラ家の朝食の席にて、

「あぁ〜もう!!バカスバル〜!! イチゴの無いケーキなんてもはやパンじゃん〜!! ただの甘いパンじゃん〜!!」

朝食のデザートで、ギンガが楽しみにしていたイチゴのショートケーキの上に乗っていたイチゴをギンガが少し目を離していた隙に妹のスバルが食べてしまったのだ。

食べ物の恨みは恐ろしい・・・・。

楽しみにしていたケーキを台無しにされたギンガは思わず、スバルをボコボコにしてしまった。

スバルの泣き声を聞き、クイントがスバルに何故泣いているのか尋ねると、スバルは「ギン姉に殴られた」と殴られた理由を説明せずに話したため、ギンガが弁解をする間も無く、一方的にギンガが悪い事になり、母クイントからギンガは叱咤された。

母から叱咤されたギンガは半ば癇癪を起した状態で家を飛び出て来てしまったのだ。

もしもであるが、もし、クイントが死んでしまっていたら、ギンガはスバルに対し、このようなことはしなかっただろう。

クイントが居ない世界では、ギンガはきっと、「自分はスバルの姉であり母でもあるのだから私がしっかりとスバルの面倒をみないと」と、思い、スバルを大切にしていただろう。

しかし、この世界ではクイントは存命しているため、この世界のギンガは、スバルの姉としては、スバルを大切にしているが、母の代わりとしての役割は担っていないため、クイントの居ない世界のギンガ程、スバルに甘くはなかった。

だが、ギンガが、スバルを嫌っているかと聞かれればそれはNOである。

やはり、仲の良姉妹同士・・・・ギンガ今朝の事を悔やんでいたが、スバルに顔を合わせ辛い。

妹のスバルの事を考え、注意が散漫になっていたギンガ。

彼女は自分の足元のマンホールの蓋が開いていた事に気が付かず・・・・。

「えっ?・・うわぁぁぁー」

マンホールの穴に落ちてしまった。

ちょうどその時、

 

ピシャッ!!

 

ゴロゴロ!!

 

一際大きな紫電がミッドに落雷した・・・・。

 

 

「うわぁぁぁー・・・・くっ・・・・」

マンホールの穴に落ちたギンガは落下中に何とか体勢を立て直し、無事に着地した。

「ふぅ〜・・・・酷い目にあった・・・・」

無事にマンホールの下、下水道に着地したギンガはマンホールに備え付けてあった梯子を登り、地上を目指した。

しかし、梯子を登りきったギンガが見たのは見慣れたクラナガンの街並みではなく。どこかの施設の地下だった。

「あれ?おかしいな・・・・」

自分は確かに落ちてきたマンホールを駆け上がった筈なのに、どうして駆け上った先が、クラナガンではなく、別の場所なのだろう?

ともかくギンガは、

此処が何処なのか?

出口はどこにあるのだろうか?

と、現状の確認と出口を探すため、この施設内を歩き回った。

施設内は停電でもあったのか、電灯は灯っておらず、非常灯が点いていた。

薄暗い通路を歩いていると、ギンガの視線の先に一人の人影が見えた。

その人影は自分よりも小柄で、近づくにつれ、その容姿が段々とハッキリしてきた。

そこに居たのは、小柄な銀髪の少女で、右目には黒い眼帯をつけ、グレーのロングコートの下に青いボディースーツを纏っていた。

一見怪しい恰好なのだが、もしかしたら、あのスタイルが彼女のバリアジャケットなのかもしれないと思い、此処が何処なのか?また、出口は何処なのか尋ねるためにギンガは少女に声をかけた。

「あの・・・・」

「むっ?」

ギンガが声をかけながら少女に近づくと、少女の方も、ギンガの声に気がつき、視線を向けてきた。

「えっと・・・・貴女も迷子なの?」

「は?」

少女に近づくと、その少女は小等部高学年くらいの背丈だったので、ここの関係者というよりも迷子なのではないのかと、ギンガはそう思い、迷子なのか声をかけた。

一方、少女の方はギンガの迷子発言に呆れ顔をしたが、改めてギンガの姿を見て、警戒感を露わにした。

「貴様、タイプゼロ・ファースト・・・・」

「は?」

いきなり少女から、コードネームみたいな言葉が出たため、今後はギンガが呆気にとられた。

「丁度いい、此処で貴様を回収させてもらう」

「えっと・・・・やっぱり迷子なの?それなら、お姉ちゃんと一緒に行かないかな?それより此処が何処なのか?知っている?」

ギンガは少女の言葉をちょっと間違えた捕らえ方をしていた。

「私は迷子なのではない!!もういい!!貴様を行動不能にして連れて帰る事にしよう・・・・」

そう言いうと、少女は袖からスティンガー・ナイフを取り出した。

「こらこら!!子供がそんな物騒な物(スティンガー・ナイフ)を持っちゃいけません!!」

スティンガー・ナイフを構える少女に恐れることなく、注意するギンガ。

「私は子供ではない!!これ以上時間を掛ける訳にはイカンので、力づくで、連れていかせてもらうぞ!!」

癇癪を起した少女はギンガに向けてスティンガー・ナイフを投げてきた。

ギンガはナイフをひょいとかわすと、

「危ないじゃない!!・・・・少し、O・HA・NA・SIが必要そうね・・・・」

管理局の白い悪魔と同じようなセリフを言ってスーッと目を細めると、

「氷川丸・・・・セットアップ!」

自らもデバイスを起動させ、蒼と白を着ようとしたドレス甲冑を模したバリアジャケットを身に纏った。

(むっ!?バリアジャケットのデザインが情報と少し違うな・・・・それに奴の戦闘スタイルはノーヴェやセカンド同様、ローラーブーツにナックルの筈なのだが・・・・)

バリアジャケット姿のギンガを見た少女は事前に知らされていた情報と違う事に少し困惑した。

情報では、ファースト(ギンガ・ナカジマ)のバリアジャケットは紫の半袖のジャケット、白いズボンに銀色の装甲を腹部、腰部、脚部につけており、武装は左手にリボルバーナックルを装備していると聞いていた。

しかし、今、目の前にいるファースト(ギンガ・ナカジマ)は蒼と白を基調としたベルカ騎士風のようなドレスに銀色の装甲を肩と腰部につけており、武装もナックルではなく、片刃の剣(日本刀)を装備している。

(情報に間違いがあったのか?それともこの姿こそが、奴の本当の姿なのか?)

困惑しながらも少女は、戦闘の構えと同時に、援軍を呼んだ。

「ノーヴェ、ウェンディ。此方、チンクだ。今、タイプゼロ・ファーストと戦闘状態に入った・・・・しかも奴は今、単独だ。回収する絶好の機会だ。そちらの戦闘を切り上げて、此方にきてくれ、場所は私のGPSで分かっている筈だ」

「リョ―カイ。すぐ行くぜ、チンク姉」

これで少女、いや、チンクの役割は援軍が来るまで、ファースト(ギンガ・ナカジマと思い込んでいる)の体力を削り、この場で時間稼ぎをするだけとなった。

 

 

ギンガ・ナカジマは、ひたすら地上本部の地下を愛機ブリッツ・キャリバーで疾走していた。

突然起きた多数のガジェットの襲撃で、魔法をはじめとして通信機能にも支障をきたしている。

そのため、ギンガ・ナカジマは急いで妹のスバル・ナカジマがいる六課のFW陣との合流を急いでいた。

すると、前方の方から爆発音が聞こえてきた。

「マスター、前方ノ方カラ魔力反能ガアリマス・・・・ドウヤラ戦闘ガオコナワレテイルヨウデス」

ブリッツ・キャリバーからの知らせにギンガ・ナカジマは、更に加速してその現場に向かった。

誰かが戦闘をしている。

相手は誰だ?

もしかしたら戦闘機人・・・・?

ギンガ・ナカジマの脳裏では、母、クイント・ナカジマの事が過った。

かつて、母は、戦闘機人事件を追っていた。

その過程で、自分達姉妹は保護された。

その後も母は、戦闘機人事件を追い続け、その過程の中、殉職した。

前方では、もしかしたら、誰かが・・・・スバル達が戦闘機人と戦っているのかもしれない・・・・。

もう、母の様に戦闘機人に誰かを殺される様な事態は真っ平ゴメンだ。

同じ戦闘機人である自分がこれ以上戦闘機人の被害者を増やさないようにしなければならない。

その決意がギンガ・ナカジマを現場へ急がせた。

 

 

「ISランブルデトネイター」

チンクが投げたナイフは突然爆発した。

「くっ」

爆発による衝撃波と破片がギンガを襲う。

(やり辛い・・・・紙一重でかわせば爆発の衝撃波と破片をモロに浴びるし、大きくかわせばかわした先に新たなナイフが襲いかかってくる・・・・接近戦闘に持ち込むにしても、その隙がなかなか見つからない)

(それにさっきっから魔力がどうも安定しない・・・・せめて此処が屋外ならば、もう少し魔力が安定するのに・・・・)

現在ギンガがいるのは屋内のため、AMFが蔓延しやすい状況となっていた。

それによりギンガは大技を繰り出せにくくなっている。

(これ、少しヤバいかも・・・・)

ギンガの頬から緊張の冷や汗が一筋流れる。

そこへ、更に

「またせたね、チンク姉」

「チンク姉、援軍に来たッスよ」

チンクと呼ばれた少女が着ている青いボディースーツと同じ型のボディースーツを着た赤髪の少女二人が来た。

三対一・・・・。

数においても絶対不利となった。

 

「そんじゃ行くぜ!!タイプゼロ・ファースト!!」

どことなく妹に似ている少女がローラーブーツを加速させ、ギンガに接近し、拳と蹴りのラッシュをお見舞いしてくる。

ギンガは刀や体をひねり、拳と蹴りをかわす。

すると、突然少女はギンガから距離をとる。

少女がギンガから離れた瞬間、強力なエネルギー波がギンガを襲った。

それはもう一人の赤髪の少女が手に持っている盾から放たれたものだった。

少女が持っている盾の先には砲門が付いており、攻守の両方を兼ね揃えた武器だった。

「だんちゃ〜くぅ〜」

ギンガに砲撃を加えた少女はしてやったりと言わんばかりに、にししと笑みを浮かべていた。

しかし、爆煙が晴れると、そこにあったのは傷ついたギンガの姿ではなく、分厚い氷の盾で守られたギンガの姿だった。

ギンガは咄嗟に防御魔法を展開し、直撃を回避した。

「なかなか、やるではないか。タイプゼロ・ファースト」

チンクが感心したように言う。

「しかし、ここまではあくまで前座・・・・本番は・・・・」

チンクがセリフを言いながらアイコンタクトで二人に指示を送る。

「これからだぜ!!」

ローラーブーツの少女が再びギンガに近接戦闘を仕掛け、頃合いを見て、離脱、次に今度はチンクがナイフを投げ、かわした先にもう一人の少女がギンガを砲撃してくる。

三身一体の攻撃にギンガの体力は削られ始めた。

「くっ」

ギンガは歯を食いしばりながら三人を睨む。

ギンガの頬には一筋の切り傷があり、そこからは血が流れ出ている。

頬の他にも腕や肩を負傷し、そこからも出血が見られる。

あまり、時間をかければ、出血のせいで意識を失うかもしれない。

この場から逃げようにも既にタイミングを逃した。

一対一の時ならばそれは可能だったかもしれないが、三対一となったこの状況では、逃げるにも、難しい。

何より相手がこちらに撤退する隙を与えないだろう。

相手を睨み、この状況を変える・・・・ないし、この状況から脱する考えを巡らせているギンガの耳に後方からローラーブーツの機動音が聞こえてきた。

(まさか、もう一人来たの!?まずい!!この状況では挟み撃ちにされる!!)

ギンガが驚愕しながら背後を振り返ると、

「大丈夫ですか!!」

そこに藍色の長い髪をした少女が飛び込んできた。

「「「「えっ!?」」」」

飛び込んできた少女の姿を見て、ギンガを含め、ボディースーツを着た三人の少女も唖然とした。

なぜなら飛び込んできた少女の姿がタイプゼロ・ファースト(ギンガ)の容姿とそっくりだったのだ。

「えっ!」

飛び込んできた少女も一反応遅れ、ギンガの容姿を見て唖然とした。

「た、タイプゼロ・ファーストが二人だと?」

「ど、どうなっているんッスか?」

皆が唖然としている中、一早く起動したギンガはありったけの魔力を込めると、

「樹白!!」

刀を床に突き刺した。

すると、突き刺した所から薄水色の魔力が床を伝いチンクを含め、ボディースーツを着た三人の少女の膝の部分まで凍らせた。

「わっ!!」

「くっ!!」

「足が!!」

突然の出来事に更に混乱した三人の少女の姿を見て、

「逃げるよ!!」

「えっ?ちょっ・・・・」

ギンガは自分の容姿が似た少女の手をとり、その場から撤退した。

もしかしたら、この少女もあの少女達の仲間なのかもしれないが、身に纏っているバリアジャケットがあの少女達と違う事から彼女が仲間ではないと判断し、あの場に置いて行けば、今度は彼女が傷つけられると思い、この場から連れ出したのだ。

それに連中の言動から自分とこの自分に似ている少女と間違えているフシがあったからである。

 

「ハァハァ・・・・ハァ・・・・ハァ・・・・・」

(血が・・・・意識が・・・・でも・・・・此処で寝ちゃ・・・・・・・)

ギンガと自分に似ている少女はあの場から急いで逃げると、彼女達が追ってこないのを確認し、ギンガは床に座り込む。

戦闘による出血と体力の消耗で意識を失いそうである。

「貴女は・・・・一体・・・・」

自分と容姿が似ている少女が恐る恐る声をかけてきたが、ギンガにそれに答える余裕は無く、ギンガはそのまま意識を失った。

意識を失い倒れた自分そっくりな少女をギンガ・ナカジマは背負い、妹達の合流を図った。

 

その頃、地下のとある通路では・・・・。

「スバル!!先行し過ぎよ!!」

地上本部の地下通路を青い短髪の少女が疾走している。

その後ろから栗毛色の髪をした女性に抱きかかえられて、空中を飛んでいるオレンジ色のツインテールの少女が声をあげる。

「ギン姉と通信が繋がらないんです!! まさか、あいつらと・・・・・」

彼女は、自分の姉の身を心配し、まわりが見えていないようだ。

後ろから宙を飛んで追いかけてくる彼女達を振り切ってスバルはどこまで続く通路を疾走していった。

すると、彼女の目の前にこちらに向かって歩いて来る人物が目に入った。

「ギン姉!?」

「スバル?」

自分達に近づいてきた人物は、今まさに自分が心配をしていた姉、ギンガ・ナカジマだった。

「ギン姉、無事だったんだね!!突然通信が繋がらなくなって心配したんだよ!!」

身の心配をしていた姉に無事に出会う事が出来、スバルは姉の体に抱きつく。

「ごめん、ごめん。こっちも急いで合流しようとおもったんだけど、防火シャッターとかが降りていたり、スバル達の位置が分からなくて・・・・」

「ううん、無事なら良かったよ。怪我とかしてない? 此処に来る途中、あいつらが居たから・・・・」

スバルの言うあいつらとは、他ならぬ敵側の戦闘機人をさしているのはすぐに分かった。

「うん、大丈夫よ。スバル」

「あれ?そう言えばギン姉、その人誰?」

スバルはここでようやくギンガ・ナカジマが背中に背負っている人物に気がついた。

「あ、うん・・・・この人は・・・・」

ギンガ・ナカジマが背中に背負っている人物について答えにくそうにしていると、

「えっ!?」

スバルはギンガ・ナカジマが答える前に背中の人物の顔を覗きこむ。

すると、スバルは唖然とする。

今、ギンガ・ナカジマが背負っている人物は自分の姉にそっくりの顔をしていたからだった・・・・。

 

 

「くそっ、あのヤロぉ〜」

足を凍らせていた氷を砕き、ローラーブーツを穿いた赤髪の少女は毒突く。

顔は悔しさのあまりに苦虫を潰したように歪んでいる。

「で、どうするんッスか?チンク姉?ファースト達、追いかけるッスか?」

「そうだぜ、あのダメージならそう遠くへは逃げられない筈だ。追いかけようぜ、チンク姉」

二人の赤髪の少女はギンガ達の追撃を意見し、やる気であったが、

「いや、あまりにも時間をかけすぎた。これ以上ここに留まるのは危険だ。それに本命の『聖王の器』の方は手に入れた様だ・・・・タイプゼロシリーズとFの遺産はあくまでそのついでだったから、問題は無い。ここは撤退だ」

「・・・・チンク姉がそう言うなら・・・・・」

完全には納得がいかない様子ではあるが、チンクの言う通り、これ以上ここに踏みとどまるのは危険であったため、彼女達はこの場から去っていった。

 

 

「う・・・・う〜ん・・・・」

ギンガが目を覚ましたのは、地上本部ビルとクラナガンにある機動六課隊舎が襲撃を受けた次の日の昼ごろだった。

目の前に広がるのは白い天井に白い壁、辺りには薬品の匂いが漂う空間・・・・。

ここが病室なのだとすぐに分かった。

何故、自分は病室にいるのだろうと、思ったが、次第に頭が働いてくると、意識を失う前、自分が体験したことを思い出した。

「そうだ・・・・私は、あの建物の地下で・・・・」

ギンガが地上本部の地下で体験した事を思い出していると、

コンコン・・・・

病室のドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい、どうぞ・・・・」

ギンガが入室を許可すると、病室に自分と同じ容姿を持つ少女と妹に似た少女、そして金髪の女の人が入って来た。

最も、自分達姉妹以外の金髪の女性は店の常連の一人と顔がそっくりだった。

 

「えっと・・・・あの時は、名前をきけなかったね・・・・私はギンガ・・・・ギンガ・ナカジマ・・・・こっちは妹のスバルです」

「ど、どうも・・・・」

「・・・・それで貴女のお名前は?」

自分に容姿が似た少女が妹と共に自己紹介をしてきた。

容姿も似ている事にも不思議だったが、名前も同じだった。

それに妹の名前も同じだった。

とりあえず、ギンガは名前を聞かれたので、自分も自己紹介をする事にした。

「私の名前もギンガ・・・・ギンガ・ミヤモト・インテグラ・・・・・」

「「えっ?」」

ギンガが自己紹介をすると、自分達姉妹に似た少女達が驚きの声と表情を浮かべる。

「インテグラって・・・・」

「お母さんの旧姓・・・・それに、ギン姉と同じ名前・・・・貴女は一体・・・・」

何とも言えない空気が病室を包み込んだ。

 

「そ、それじゃあ、改めて名前をもう一度教えてくれないかな?あ、私の名前はフェイト・テスタロッサ・ハラオウン。フェイトって呼んでね」

金髪の女の人、フェイトがもう一度、ギンガに名前を尋ねてきた。

「は、はい。私の名前はギンガ・ミヤモト・インテグラ。出身地はミッドチルダのクラナガンです」

「あ、あの・・・・」

妹に似た少女が恐る恐るギンガに声をかけてきた。

「ん?何かな?」

「あの・・貴女のお母さんの名前は何て言う名前ですか?」

「 ? クイント・ミヤモト・インテグラ」

妹に似た少女は母の名前を尋ねてきたので、ギンガは母の名前を言う。

「そ、そんな筈は・・ない・・・・だってお母さんは・・・・お母さんは・・・・」

ギンガが自分の母親の名前を言うと、妹に似た少女はワナワナと小さく震える。

「ん?お母さんがどうかしたの?」

「インテグラさん・・・・」

今度は自分と同じ容姿の少女、ギンガ・ナカジマがギンガに声をかける。

「はい?」

「私達の母、クイント・ナカジマは九年前に死んでいるの・・・・」

「えっ!?」

ギンガ・ナカジマの言葉にギンガは固まる。

「そ、それはどういう事ですか?九年前って・・・・私の母は今も存命ですし、第一ファミリーネームはナカジマではありません」

ギンガとナカジマ姉妹のクイントに関する事実が噛み合っていない事にお互いに困惑する。

そこへ、

「フェイトさん、ちょっと・・・・ギンガとスバルも・・・・」

病室の外からギンガ・ナカジマとスバル・ナカジマの身体をメンテナンスしているマリエル・アテンザ技術官が三人を呼び寄せる。

 

「ちょっとごめんね、インテグラさん少し待っていて・・・・」

一時、事情聴取を中断し、病室を出るフェイト達。

「それで、結果はどうでした?」

フェイトがマリエルに尋ねる。

「それが・・・・」

マリエルは手に持っていた書類をフェイト達に見せた。

「検査の結果、ギンガにそっくりなあの子は戦闘機人でも人造魔導士でも無かったわ・・・・れっきとした人間よ・・・・ただ、リンカーコアの反応があったから魔導士って事になるけど・・・・」

「そんな・・・・」

「まさか・・・・」

ギンガが戦闘機人でも人造魔導士(クローン)でもなく、普通の人間だという結果に唖然とするナカジマ姉妹。

 

ギンガの容姿がギンガ・ナカジマと瓜二つだったことから、フェイト達はギンガがギンガ・ナカジマ同様彼女も戦闘機人または人造魔導士ではないかと思い、フェイトはギンガが眠っている間に、マリエルに頼んで密かに検査してもらったのだ。

しかし、予想に反した結果にますます混乱に拍車がかかった。

「それと、彼女と管理局に残されていたクイントさんのDNAデータと照合した結果、そのデータとも一致したわ・・・・」

「それって・・・・」

「そう、彼女はまぎれもなく、クイントさんと血のつながった娘ってこと・・・・」

「そんなっ!?」

「母さんには私たち以外子供はいなかった筈・・・・」

「もう少し彼女の話を聞く必要があるようだね・・・・」

フェイト達は再び病室に戻り、ギンガからの事情聴取を再開した。

 

「えっと・・・・それじゃあ、インテグラさん」

「はい」

「まず生年月日を教えてください」

「生まれた年は新暦65年で、今年で十七歳になります」

「「「えっ?」」」

ギンガの生年月日を聞いて、フリーズするフェイト達。

そんなフェイト達の様子を見て、ギンガは首を傾げる。

(新暦65年に生まれて今年で十七歳?)

(この人、足し算出来ないのかな?)

意外と失礼な事を考えているが、次のギンガの発する言葉が無ければ、ギンガが足し算も出来ないバカなのかと、思っても仕方が無かった。

「えっと・・・・今年は新暦82年ですよね?」

「「「はい?」」」

またもギンガの言葉に唖然とするフェイト達。

「インテグラさん、今年は新暦75年ですよ」

ギンガ・ナカジマが、今年の年号を言うと、

「えっ?そんな筈はありませんよ・・・・えっと・・・・デバイス・・・・私のデバイスは?」

ギンガは自分の言う年号が正しいと言わんばかりに、自分のデバイスを探す。

氷川丸(ギンガのデバイス)にはカレンダー機能も備わっているため、今年の年号が新暦82年だと証明出来るからだ。

「貴女のデバイスは、一応こっちで調べているの・・・・特に問題が無ければすぐに返すわ」

「・・分かりました」

フェイトがデバイスの所在を明らかにし、ギンガのデバイスが来るまで、またも事情聴取は中断を余儀なくされた。

それから暫くして、マリエルがギンガのデバイス、氷川丸を持ってきた。

「特に問題は無いわ・・・・ただ、今の技術ではない珍しい技術で作られているのね?」

マリエルが首を傾げながらギンガにデバイスを返す。

「えっ?コレをつくったのは、マリーさんじゃないですか」

「えっ?」

ギンガの言葉にフェイト達同様マリエルも唖然とした。

「それじゃあ機動させますね・・・・」

唖然とするマリエルを尻目にギンガはデバイスを操作する。

すると、カレンダー機能で、今年の年号が表示される。

表示された年号は確かに先程ギンガが言った新暦82年と表記されていた・・・・。

「これって・・・・」

「どういう事・・・・?」

「そ、それじゃあ、貴女のお母さんの画像とか記録されていない?」

ギンガ・ナカジマがギンガに母の画像がないか、尋ねると、

「ありますよ・・・・えっと・・・・・」

ギンガが再びデバイスを操作すると、今度は家族皆で記録した一枚の画像が表示された。

「「「っ!?」」」

表示された画像を見たナカジマ姉妹とマリエルは息を飲んだ。

画像の中にはギンガの他にスバルにそっくりな少女と黒髪の男性、そして自分達の母、クイント・ナカジマの姿があった。

「お母さん・・・・」

スバルはクイントの姿を見て、涙目になる。

「これは・・・・」

「どういう事・・・・スバルにそっくりな子もいるし・・・・」

「あ、それは妹のスバルです。何故か、ナカジマさんの妹さんと名前が同じなんですよね・・・・私はナカジマさんと同じ名前ですし・・・・」

ギンガがたははと、笑みを浮かべながら言った。

「もしかして・・・・」

その後、マリエルが、とある仮説を立てた。

それは・・・・

「「「「パラレルワールド?」」」」

「そう、ありえたかもしれない世界・・・・それがパラレルワールド・・・・」

「それってどういう世界なんですか?」

スバルがパラレルワールドの事をマリエルに尋ねる。

「そうね・・・・簡単に言えば、インテグラさんの世界はこの世界と違い、クイントさんがゲンヤさんとは違う人と結婚して殉職しなかった世界ということかな?」

「・・・・」

「インテグラさん、お父さんの名前は何て名前ですか?」

「お父さんの名前ですか?お父さんの名前は、リョウスケ・ミヤモト・インテグラって名前で、旧姓は確か宮本 良介で、職業は菓子職人です。お父さんはミッドじゃ少し有名な職人なんですよ。フェイトさんも家の店の常連さんの一人なんですよ」

「わ、私が!?」

母親は自分達と同じ人物だったが、父親は違う人物・・・・

そして自分達の世界では殉職してしまった母は別の世界では生きている・・・・。

その事実が嬉しい様な、羨まし様な微妙な気持ちのナカジマ姉妹だった。

 

それから事情聴取が進むにつれ、現在ミッドで起こっている事件の状況を聞いたギンガは、自分が元の世界に戻るまで、六課に協力すると言った。

困っている人に手を差し伸べる所は両親譲りなギンガだった。

六課側としても、隊舎襲撃時に、隊員に多数の負傷者を出していたため、ギンガの協力はありがたかった。

六課部隊長八神はやては、隊舎が全壊してしまったため、急遽廃艦予定だった次元巡航艦『アースラ』を改修し、臨時の司令部兼隊舎とした。

 

だが、ギンガ自身まさか、並行世界の過去に来るとは思ってもみなかった。

JS事件当時、十歳で地下シェルターに避難していたが、今ならばこの世界の人達のために、自分も何かできると思って協力を買って出たのだ。

協力を申し込むと言う事で、ギンガはフェイトとナカジマ姉妹と共に、この機動六課の部隊長である八神はやての下へと案内された。

「どうも〜。話はフェイトちゃんから聞いておるよ。初めまして、私が機動六課部隊長の八神 はやてです」

「は、初めまして・・・・ギンガ・ミヤモト・インテグラです」

この世界では初対面となるが、ギンガの世界では、八神 はやても店の常連である。

「次元漂流して大変な中、協力をしてもらって私らとしては、感謝の念にたえへん。ありがとう」

「い、いえ・・困った人に手を差し伸べるのは当然の事ですから・・・・」

その後、はやてから自分の身柄の事、これからの事の説明を聞き、命令があるまで、自由にしてよいと言われた。

そして、事情聴取も終わりに近づいた頃、

「そういえば、フェイトちゃんから聞いたんやけど、インテグラさんは並行世界の未来から来たんよね?」

「はい」

「それじゃあ、インテグラさんの世界でも過去に今回の事件が起こったんやな?」

「はい。私が十歳の頃に今回の事件・・・・JS事件は起こりました」

「それやったら、スカリエッティはどんな手をつこうてきたか覚えとる?」

はやてはギンガからスカリエッティがこの後どんな手を使って管理局に戦いを挑んでくるのかをギンガから聞き、対策を練ろうとしたのだが、

「えっと・・・・すみません。事件当時私たちは地下のシェルターに避難していたので、スカリエッティがどんな事をしたかはよく知らないんです。私の世界の管理局はあまり情報を公開しなかったので・・・・」

「そ、そうか・・・・」

はやては残念そうに言う。

ギンガから情報を聞き出して、先手ないし、こちら(管理局)に有利に戦況を進められるかと思いきや、情報が無いと言う事で、頓挫してしまった。

「あ、でも後日談ならば、よく家のお店ではやてさん達が話していましたよ」

「後日談と言う事は、インテグラさんの世界の私たちは勝ったと言う事なんやな?」

「はい。確か、この事件の前に保護したヴィヴィオさんは、なのはさんが引き取り養女にしていました」

「へぇーなのはがヴィヴィオを・・・・」

「はい。そして私の世界では、ヴィヴィオは妹のスバルと一緒に母さんからシューティング・アーツを習っています」

「ヴィヴィオがスバルと一緒にシューティング・アーツを・・・・」

「ええ」

ギンガの話を聞き、あのヴィヴィオがシューティング・アーツをやっていると言う意外性と死んだ筈の母が生きており、その母からシューティング・アーツの教えを受けていると言う事で、ギンガの世界のスバルを羨ましく思うナカジマ姉妹だった。

 

話が終わり、部隊長室を後にしたギンガだったが、ただ、何もしないのも何なので、ギンガは氷川丸の動作と自分の体調チェックのため、『アースラ』の訓練場へと向かった。

 

訓練所にて、ギンガは一度目を閉じる。

思い浮かべるのは黒髪の剣士・・・・。

自分の父であり、剣の師匠の一人で、自分が越えなければならないと思っている最強の剣士・・・・。

動作チェックと言えど、鍛練には最適の相手・・・・。

そして、目を開けると目の前には黒髪の剣士が剣を構えて佇んでいた。

相手(敵)にとって不足無し・・・・、

ギンガは氷川丸を起動させ、舞い始めた。

 

 

シグナムはエリオに稽古をつけるため、エリオと共に訓練場へと向かっていたのだが、その訓練場では既に先客が居た・・・・。

「ん?」

「ギンガさん?」

シグナムとエリオの目の前にはギンガが舞っていた。

ギンガの事は既にはやてから六課の皆に伝わっているので、シグナムもエリオも特に不審がる事は無かった。

 

「あれは・・・・一体何を?」

エリオはシグナムにギンガの行動を尋ねる。

ギンガは相手も居ないにも関わらず、一人剣を振るっている。

「ふむ・・・・あの動き方は恐らく仮想の敵を作っての鍛錬であろう」

「仮想の・・・・敵・・・・?」

「そうだ。イメージで対戦相手を思い浮かべ、鍛練をしているのだ」

シグナムはギンガの動きを見ながらエリオの質問に答えた。

流れるような足運びと常に最速で描かれる銀弧の軌跡。

あまりにも速すぎて一つ一つの動作が霞んで見える。

エリオもシグナムに習うようにギンガの動きを見るが、まだまだ新人のエリオから見てもギンガの剣捌きは見ていて、とても美しかった。

無駄の無い動きとそれに続く銀の軌跡。

(きれい・・・・)

右から袈裟懸けに斬り落としてくるのを一歩左へと移動する事で避け、その首に一閃する。

黒髪の剣士は振り下ろした勢いそのままに剣を斬り上げてこれを防ぐ。

こちらも弾かれた切っ先を弾かれた力も利用してさらに速く首へと再び落とす。

先程からこの繰り返しの攻防が続いている。

(そろそろ頃合いかな・・・・?)

黒髪の剣士との距離を一旦離す。

(ふむ、どうやら大技を出す様だな?)

ギンガの様子を窺っていたシグナムはここで、ギンガが勝負に出て何か大技を繰り出すのだと判断した。

その読みは当たっており、ギンガは試作の技を繰り出そうとしたのだが、ふと、誰かに見られている気配を察知し、鍛練をとりやめた。

「あっ・・・・!?」

ギンガの視線の先にはピンク色の髪をポニーテールにした女性と赤髪の少年がいた。

「す、すみません。勝手に訓練場を使ってしまって・・・・今、開けますから・・・・」

そう言ってギンガはデバイス(氷川丸)を待機モードに移し、訓練場を後にしようとする。

「・・・・エリオ」

「はい?」

「お前に鍛練をつけるのを少し待ってもらえないだろうか?」

「えっ?それってどういう・・・・」

「あれだけの剣士が目の前にいるのだ・・・・その実力を知りたいというのは、騎士として・・・・剣士として興味を抱くのは当然の事だろう?」

「はぁ・・・・」

様は、ギンガと模擬戦をしたいと言う事なのだろう。

シグナムや自分の後見人であるフェイトがバトルマニアなのは薄々感じていた。

(強い人と戦う事ってそんなに楽しい事なんだろうか?)

大切なモノを守るためならば、戦う事も辞さないと決めているエリオであったが、自らすすんで戦おうとは思わない彼にしてみれば、シグナムやフェイトのバトルマニアの性格はよく分からなかった。

 

訓練場の訓練スペースまで降りたシグナムはギンガに模擬戦を申し込んだ。

(やっぱり、シグナムさんはこの世界でもバトルマニアだ・・・・)

ギンガの世界のシグナムも目の前にいるシグナム同様、よく道場に来ては、父(良介)や師範(ミカヤ)と模擬戦をするし、自分を始めとする門下生達にも稽古をつけてくれる。

別世界とは言え、もしかしたら根本的に性格などは変わらないのかもしれない。

ギンガはシグナムの誘いを受け、シグナムとの模擬戦を行った。

 

フェイトとキャロ、そしてナカジマ姉妹は、今、アースラの訓練室に続く通路を歩いている。

フェイトとキャロはエリオがシグナムと訓練をしていると言うので、その見学を、ナカジマ姉妹はその後で、訓練場を使おうと思い、訓練場へ向かっていたのだ。

訓練場を上から見ることの出来る展望室へと入ると、そこにはエリオの姿があった。

「あれ?エリオ君」

「あっ、キャロ。それにフェイトさんにスバルさん、ギンガさんも」

「どうしたの?シグナムと訓練するって聞いたけど・・・・?」

「まだ、シグナムさん来てないんですか?」

シグナムと訓練するはずだったエリオがまだ訓練場に居ない事から訓練相手のシグナムがまだ来ていないのかと思う四人。

「い、いえ。来てはいるんですけど・・・・」

エリオはチラッと横目で訓練場が見えるガラスの方を見る。

展望室のガラスは防音となっており、訓練場にいる者には、そこからマイクで要件を伝える仕組みになっており、音は展望室には漏れてこない。

エリオの仕草から訓練場には誰かが居て、訓練を行っている様子が窺える。

そこで、四人が展望室のガラス窓から訓練場の様子を窺ってみると、そこには・・・・

 

ガキィーン

 

キィーン

 

キィーン

 

ガキィーン

 

シグナムとギンガが互いに剣を交え、舞っていた。

 

シグナムが豪快に剣を振るうと、ギンガは柳の様に・・そして、時にはダンスのステップを踏むかのようにシグナムの剣筋をかわし、鋭い斬撃を見舞うが、そこはヴォルケンリッターの将、烈火の将の名は伊達ではないシグナムもギンガの斬撃をかわす。

そんな攻防が続いている。

「凄い・・・・」

スバルがポツリと呟く。

(あのシグナム相手に一歩も引いていないなんて・・・・)

シグナムの実力をこの場に居る中では一番よく知るフェイトもギンガの実力を認める。

そして、

(シグナムの後、私も一度手合わせしてみたい・・・・)

と、シグナムとほぼ互角で渡り合っているギンガを見て、シグナムと同じバトルマニアの血が騒ぐのか、うれしそうな顔をしていた。

またスバルも格闘家としての血が騒ぐのか、それともただあそこまで凄い戦いを見たのか、はたまた異世界の姉の実力をこの身で確かめたいのかわからないが、

(後で、あそこで戦っているギン姉と戦いたい)

と元気一杯の顔に書いてあった。

その一方で、

「・・・・」

ギンガの剣武を見て、ギンガ・ナカジマは複雑な思いを抱いていた。

ギンガとギンガ・ナカジマでは、戦闘スタイルがまるで違うが、別の世界の自分と今の自分・・・・。

シグナムを相手に此処までやれるだろうか?

母親が生きている世界・・・・。

六課の隊長陣とほぼ互角に戦える実力を持っている自分・・・・。

そんなもう一人の自分に対し、ギンガ・ナカジマは嫉妬感を抱くのと同時に彼女を羨んでいた。

 

「群鳥氷柱!!」

今まで剣撃での攻防をしていたのだが、ギンガが先に動き、氷系の魔法を使い、シグナムに仕掛ける。

大量の氷柱がシグナムを襲うが、

「火竜一閃!!」

シグナムも火系の殲滅魔法にて、自分に迫って来た大量の氷柱を一瞬のうちに蒸発させる。

「はぁぁぁぁー!!」

その際に起きた大量の蒸気の煙に紛れ、ギンガはシグナムに接近し、斬撃を浴びせる。

「くっ・・・・」

再びシグナムのレヴィンティンとギンガの氷川丸が剣撃の協奏曲を奏でる。

ギンガとしてはシグナムとは何度も剣を交えてきたため、彼女の魔法や剣筋はある程度、理解しているが、この世界のシグナムはギンガとこれが初めての手合わせなので、多少手こずっているが、負ける気など毛頭ない。

「飛竜一閃!!」

続いてシグナムが攻撃系魔法をギンガに仕掛けるが、

「氷竜旋尾!!」

ギンガもまた似た様な攻撃系の魔法でシグナムの魔法を相殺する。

 

此処まで、ほぼ互角で戦ってきたギンガであったが、徐々に体力的に追い詰められてきた。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・はぁ・・・・・ふぅ・・・・」

「ふむ、そろそろ体力的に限界の様だな?」

シグナムは一端ギンガから距離を置き、ギンガに尋ねる。

「そうですね・・・・やっぱり、現役の騎士様に勝つのは当分先の様です」

あっさりとギンガは自分が不利な事、そしてシグナムに勝てない事を認めた。

「でも、このまま負けを認め終わりと言う結末を貴女は望んでいないのでしょう?」

「当然だ・・・・」

ギンガもシグナムもフッと笑みをこぼすと、

「それじゃあ、最後に大技を出して終わりにしますか?」

「ああ、望むところだ」

ギンガは息を整え、静かにゆっくりと構える。

シグナムも目を閉じ意識を集中する。

 

「終局だね」

二人の様子を窺っていたフェイトがポツリと言う。

「えっ?」

「それはどういう・・・・」

「シグナムも・・もう一人のギンガも互いに大技を出して、この戦いを閉めるつもりなんだよ」

フェイトがエリオとキャロにまもなくシグナムとギンガの戦いに幕が降りる事を教える。

 

一見、隙だらけの様に見えるが、互いに隙など全く無く、二人は目を閉じ意識を集中している・・・・。

そして・・・・

二人が目をカッと見開いた瞬間、

「紫電・・・・」

「燕・・・・」

「一閃!!」

「返し!!」

眩い閃光と轟音が訓練場を覆う。

『うわぁぁぁぁー』

見学していた五人に轟音は聞こえなかったが、眩い閃光で思わず目を閉じ、悲鳴を上げた。

やがて閃光が収まると・・・・。

シグナムとギンガは互いに技を出し合った後の残心の構えを取ったまま動かない。

「ど、どっちが勝ったのでしょう?」

エリオが緊張した面持ちでフェイトに尋ねる。

「わからない・・・・」

フェイトは二人から目を逸らさずに、ジッと二人の姿を見ている。

『・・・・』

他の三人もジッとシグナムとギンガの姿を見ている。

やがて、シグナムの体がグラッと傾き、彼女は愛剣のレヴィンティンを杖代わりにして倒れそうな自分の体を支える。

「まさか・・・・」

「シグナム副隊長が・・・・」

エリオとキャロはシグナムが負けたのかと思い、声をあげるが、

「いや・・・・」

フェイトはそれを否定する。

「「えっ?」」

二人が疑問符を口にすると、

 

ドサッ

 

ギンガは氷川丸を手放し、背中から倒れた。

「・・シグナムの勝ちだよ」

ギンガが訓練場の床に倒れるのと同時にフェイトは呟いた。

 

模擬戦が終わり、シグナムが訓練場内にあるマイクで、シャマルを呼ぶように言うと、救急キットを手にシャマルが訓練場へと来て、ギンガの手当てを行う。

「まったく、いくら模擬戦だからと言って此処までやりますか?普通?」

模擬戦を行った二人に説教をしながら手当てを行うシャマル。

「すみません」

「許せ、シャマル。つい、ギンガの剣筋を見ていて熱くなってしまってな・・・・」

「『つい』じゃ、ありません!!まったくもう・・・・はい、終わりました」

「どうもありがとうございます」

ギンガはシャマルに礼を言ってその場を後にした。

 

「それでシグナム」

「ん?なんだ?テスタロッサ」

「インテグラさんが使った最後の技はどんな技だったの?」

フェイトがシグナムに燕返しがどんな技であったのかを尋ねる。

シグナムの紫電一閃はこれまで何度も見てきたが、ギンガの燕返しは閃光のためよく見えなかったので、その技を受けたシグナムにこうして直に聞いたのだ。

「・・・・」

燕返しがどんな技なのか尋ねられたシグナムは黙ってしまった。

「どうしたの?」

「いや・・その・・・・私の見間違えでなければ、あの技・・・・燕返しは、まったく同時に三つの斬撃を繰り出す技だった・・・・」

「三つの斬撃を一度に・・・・それも同時に?」

「あ、ああ・・・・」

フェイトは信じられないと言う表情をする。

「幸い威力は低かったが、もう少し威力があれば負けていたのは私の方だった・・・・」

シグナムから燕返しの実態を聞いたフェイトはますますギンガと戦ってみたいと言う意欲がわいた。

 

そのギンガは、今先程自分とシグナムが模擬戦をしていた訓練場を展望室から見ている。

現在展望室ではこの世界の自分と妹が模擬戦をしている。

「あ、あの・・・・」

そこにエリオが恐る恐る尋ねる。

「ん?どうしたの?」

「あ、いえ・・・・その・・・・インテグラさんはシグナム副隊長と同じく剣を使っていましたよね?」

「ええ」

「インテグラさんの世界のスバルさんも剣を使っているんですか?」

「ううん、私の世界のスバルはこの世界のスバル同様、シューティング・アーツをやっているわよ。コーチは当然母さんがやっているわ。私は父さんの影響を受けて剣術をやっているの」

「そうなんですか」

「君も剣術をやっているの?」

「いえ、僕のデバイスは槍型なんです」

「へぇ・・・・そうだ、後で私が訓練に付き合ってあげようか?」

「えっ!?いいんですか?」

エリオは思わず声をあげる。

「シグナムさんと本当は訓練するはずだったんでしょう?」

「えっ!?ええ・・・・まぁ・・・・」

「それじゃあ君には悪いことをしちゃったね」

「いえ、そんな・・・・」

こうしてエリオはギンガと訓練を受ける事となった。

(エリオ・・・・羨ましい・・・・)

フェイトはギンガと訓練をするエリオを羨んだ。

そして、本来エリオに教える筈だったシグナムはギンガとの模擬戦が思いの外時間がかかり、エリオに訓練をつける前に会議の時間となってしまったため、エリオに訓練をつけてやる事が出来なくなってしまったのだ。

こうしてギンガはエリオにお詫びを兼ねて、シグナムの代わりにエリオの訓練をつけてあげる事にした。

 

「はぁ、はぁ、まだまだ!!」

エリオは愛機、ストラーダを振りかざしギンガに切りかかる。

斬り、薙ぎ払い、突き、そしてその中にフェイントを混ぜたり、同時にシューティング・アーツとはいかないまでも、母直伝の体術を繰り出す。

模擬戦の中、ギンガは戦いながらエリオに、

「そこは、相手との距離を詰める!!」

「ここは、相手との距離をとって!!」

「突くときは、迷わず一点を集中する!!」

「薙ぎ払う時は、常に次の動きを意識して!!」

等のアドバイスをしながら行った。

「はあっ!」

エリオの繰り出した突きをいなし、エリオの手からストラーダを弾き飛ばす。

「はぁ、はぁ、はぁ、ま、参りました・・・・」

「ありがとうございました」

エリオが降参すると、ギンガは氷川丸を収め、エリオに一礼する。

「あんな戦い方が有るなんて想像もできませんでした」

模擬戦の後、食堂で先程の模擬戦で得た点と反省点をギンガとエリオが纏めていると、

「あら?」

「え?」

ギンガとエリオよりも先に模擬戦を終えたナカジマ姉妹が食堂に来た。

自分達同様先程の模擬戦の協議を部屋で行い、お腹が減ったので、食堂にきたのだろう。

ギンガも二戦交えた後なので、少し小腹が減った。

四人は思い思いの料理を手にテーブルへとついた。

小腹が減ったとは言え、普段からよく食べるナカジマ姉妹とエリオ、そしてクイントの遺伝子を純血で継いでいるギンガ・・・・。

この四人の料理の量は半端なく凄かった・・・・。

食事をしている中、

「ほら、スバル、口に着いているわよ」

ギンガ・ナカジマが紙ナプキンでスバルの口元を拭う。

その仲睦まじい姉妹の姿をギンガはジッと見ている。

「えっ・・・・?ど、どうかしましたか?インテグラさん」

妹と瓜二つの人からファミリーネームを言われたギンガは何か複雑な気持ちを抱くが、それはスバルの方も同じだった。

自分の姉と同じ顔、同じ名前を持つギンガを「ギン姉」と呼ぶとどちらのギンガの事を指すのかややこしくなるため、スバルはギンガの事をファミリーネームで呼んだのだ。

「うんと・・・・二人とも仲がいいなぁ・・・・と思って」

「そうですね。基本的アタシたちは仲が良いですよ。インテグラさんは違うんですか?」

「・・・・この世界に来る前にちょっと妹と・・・・私の世界のスバルとは喧嘩しちゃってね・・・・」

「えっ!?喧嘩・・・・ですか・・・・?」

ギンガ・ナカジマが意外そうにギンガへと尋ねる。

「・・ええ」

母であるクイントが生きている頃は、ギンガ・ナカジマとスバル・ナカジマの二人は何度か喧嘩はした事があったが、クイントが殉職した後は、ギンガ・ナカジマはスバルの姉でもあり、母親代わりとなったので、それ以降スバルとは一切喧嘩はしていない。

しかし、ギンガはギンガ・ナカジマと同じ十七歳・・・・。

ギンガの世界のスバルもスバル・ナカジマと同い年だと言う。

その十七歳のギンガがスバルと喧嘩した・・・・。

スバルとギンガ・ナカジマにとってその事実は意外だった。

「喧嘩の原因は何だったんですか?」

スバルが異世界の姉と異世界の自分の喧嘩原因を聞くが、

「・・・・そ、それは・・・・聞かないで・・・・」

ギンガは気まずそうにスバルから視線を逸らす。

まさか、喧嘩の原因が妹にケーキのイチゴを食べられたなんて恥ずかしくて言える筈がない。

「でも・・・・私も少し、大人気なかったし、スバルには酷い事をしちゃったな・・・・と思って・・・・」

ギンガは異世界へと飛ばされ、其処で見た仲睦まじいもう一組の自分達姉妹を見て、今になって妹と喧嘩した事を後悔した。

そして、これは罰なのかとも思った。

理不尽で大人気ない理由で妹に手を挙げた罰なのだ・・・・・と・・・・・。

そんな様子のギンガをナカジマ姉妹は心配そうな表情で見つめていた・・・・。

 

「ね、ねぇ。インテグラさん」

罪悪感に浸っているギンガにスバルが恐る恐る声をかけた。

「何かしら?」

「インテグラさんの世界の私やお母さんは、どんな人なの?」

スバルとしては、異世界にいるもう一人の自分や母親に興味がある様子。

そしてそれはギンガ・ナカジマも同様の様子。

「私の世界のスバルと母さん?・・・・そうね・・・・」

ギンガはスバルに自分の世界の妹であるスバルと母、クイント・ミヤモト・インテグラの話をした。

 

「それで、私の世界のスバルは今でも母さんの前では甘えん坊な一面があるわね。・・・・スバルは昔からお母さんっ子だったから。でも、訓練の時はちゃんとメリハリをつけているわね。私の方は、母さんの話ではお父さんっ子だったらしいわ。だからかな?私は父さんの剣術を、スバルは母さんのシューティング・アーツを習っているのは」

「へ、へぇ・・・・」

スバルは異世界の自分に対し、十五歳になっても母離れが出来ていないのかと思いつつ、やはりもう一人の自分が羨ましかった。

一方、ギンガ・ナカジマは、自分と異世界の自分を比較してみた。

自分は、どちらかというと、スバル同様、父親のゲンヤ・ナカジマよりも母の方にべったりだったような気がする。

その経験から父親にべったりだったという異世界の自分に意外性を感じた。

「それで家の母さんは・・・・」

ギンガから聞いたクイント・ミヤモト・インテグラ居ついては、明るく楽天思考で天真爛漫で優しい性格は、自分達の母、クイント・ナカジマと何ら変わらなかった。

ただ、自分達の知る母と違うのは、母がギンガの出産を期に管理局を退職し、今も元気に喫茶店のウェイトレスを行っている事だった。

それに自分達、戦闘機人の姉妹を救助する歴史もギンガの世界では無かった事である。

二人のギンガとスバルはそれからまるで本物の姉妹の様に、そして談笑の時を楽しんだ。

 

 

地上本部襲撃事件から数日後、事態は動いた・・・・。

「アインへリアルが破壊された!?」

はやてが、突然のアラート警報に、管制室へと入ったとき、それまで管制室にて指示を出していたグリフィスがはやてに報告した情報だった。

「はい、どうやら戦闘機人の襲撃を受けたようです」

「そうか・・・・なぁ、グリフィス君。君はこの状況をどう見る?」

「恐らく地上制圧において、まずは邪魔になりそうなアインへリアルを先に落としておきたかったのではないでしょうか。もし僕がスカリエッティの立場なら、そうしたと思います」

「同感や」

グリフィス君の考えは最もだが、肝心のスカリエッティの姿が見えないし、地上本部へと向かっている敵の戦闘機人は確認されている全ての戦闘機人ではない。

恐らく戦力分散をしたのだろう。

スカリエッティは他に隠し玉があるのだろう。

それが分かっているのであれば、六課の虎の子である隊長陣の投入は、今はできない。

そこへ、カリム・グラシアの義弟、ヴェロッサ・アコースから、スカリエッティのアジトを発見したと言う連絡を受けた。

そして、

「さあ、見ているかい?私のスポンサーたち、それに管理局の諸君。偽善の平和を謳う聖王教会の諸君。今から見せるものが、君たちが忌避しながらも欲した絶対の力だ!」

突然、テレビジャックをしたスカリエッティの宣言と共に古代ベルカ時代の戦艦『ゆりかご』が起動し、突如空へと舞い上がった。

 

はやても・・・・管理局、六課もこれ以上黙って見ている訳にもいかず、直ちに出撃し、スカリエッティの身柄の確保する組、『ゆりかご』を制圧し、そこに囚われている聖王のマテリアル、ヴィヴィオを保護する組、そして市街地へと接近してくる戦闘機人を撃破、捕縛する組へと分かれた。

近年まれにみる大規模テロ事件・・・・JS事件の最終章が幕をあげた・・・・。

 

 

『ゆりかご』へ突入する組は、なのはとヴィータの二人。

スカリエッティへのアジトに突入するのはフェイトとアジトの近くで既にガジェット交戦をしている聖王教会の修道女、シャッハとアジトを発見したヴェロッサの三人。

はやては『アースラ』からロングアーチの面々と共に全体の指揮を執り、FW陣とギンガは市街地に接近する戦闘機人の迎撃となった。

 

「君がアタシの相手?」

「ああ」

スバルは市街地の一角で自分の容姿に似た赤髪の少女と対峙していた。

「アタシは、機動六課スターズ分隊のフロントアタッカー、スバル・ナカジマ二等陸士!君は?」

「・・・・ナンバーズ9、ノーヴェ」

互いに名乗りあった瞬間二人はローラーブーツを加速させ、拳をぶつけ合った・・・・。

 

ティアナの方には赤い髪にフワフワと浮いているボードに乗っている少女と茶色い短髪で、一見少年の様にも見える少女と対峙していた。

「油断しすぎ・・・・」

茶色い短髪の少女、ナンバーズの8、オットーは、表情は変わらないが、やや呆れる感じで、赤髪の少女、ナンバーズの11、ウェンディに言う。

「う、うるさいっスよ!!オットー!!」

ティアナは当初、ウェンディ一人と対峙しており、彼女は単純に戦法を変えることなく、同じ攻め方でティアナを攻め続けていた。

そのため、FW陣でフロントアタッカーを務めていたティアナはあっという間に彼女の戦法を読み取り、ウェンディを攻略しかけていたのだが、そこへ、オットーと言う新たな増援が来てしまい、この先、ティアナは苦戦を強いられるなと思いながら、自らの相棒、クロス・ミラージュを強く握りしめた。

 

シグナムは地上本部へと空から接近する一人の騎士、ゼスト・グランツと対峙していた。

「中将に会いに行くのは、復讐のため、ですか?」

「言葉では言い表せんよ。道を、開けてもらおう」

「言葉にしてもらわねば、譲れる道も譲れません!」

烈火の将は愛剣レーヴァテインを構え、

騎士ゼストも同じく愛槍を構える。

そして二人の騎士はぶつかり合った・・・・。

 

エリオ、キャロの二人組は紫色の髪をして、自分達と同い年くらいの少女と彼女が召喚したであろう昆虫の様な召喚生物と対峙していた。

「どうしてこんなことを!!」

エリオとキャロは以前、この召喚師の少女、ルーテシアとはミッドの下水道で対面した経験があった。

彼女の行動から、彼女がスカリエッティに加担していたのは目に見えて分かるが、彼女自身、戦闘機人には見えず、エリオは何故、彼女がスカリエッティに協力しているのかが理解できず、声をあげて彼女に問う。

「・・・・・・」

しかし、ルーテシアはエリオの問いに答えない。

「黙っていたら何も変わらないよ!話せばわかり合えるよ!」

今度はキャロがルーテシアに説得を始める。

「ドクターの、お願いだから・・・・このお祭りが終われば私の探し物、レリックの11番を探すのを手伝ってくれるから・・・・」

ルーテシアは無表情のままで、スカリエッティに協力している理由を話す。

「そんなことのために?」

キャロにしてみれば、一つのレリックの為に、広域指名手配犯であるスカリエッティに協力する意味が分からなかった。

他人にとってはそんな事でも、ルーテシアにとっては、とても重要な事だった。

それは、自分達の後見人であるフェイトがかつて、海鳴の町で母親であるプレシア・テスタロッサの命令でジュエルシードを集めていた時と同じ位重要な事だった。

だが、そんな事を知る由もないキャロはこの何気ない一言でルーテシアの逆鱗に触れてしまった。

ルーテシアは今まで見せた事のない覇気を出し、そして大量の魔力弾をキャロに放った。

「きゃあ!」

「キャロ!」

耐えきれずに魔力弾を喰らい、弾き飛ばされたキャロに、

「あなたにとってはそんなことでも、私にとっては大事なこと・・・・。11番のレリックが見つかれば、お母さんが目を覚ますし・・・・私は不幸じゃなくなる・・・・」

ルーテシアは冷たい目でキャロとエリオを見る。

「そんな・・・・そんなの間違っているよ!!」

キャロは必死に訴えるが、

「あなたと話すの、嫌い」

ルーテシアはもうこれ以上話す事は無いと言わんばかりに、詠唱を始めた。

 

そして、二人のギンガは・・・・。

「また会ったな・・・・」

地上本部の地下で出会った銀髪で右目に眼帯をつけた少女と栗毛色の長い髪の少女と対峙していた。

「まさかまた貴女と戦うことになるとは思わなかったわ・・・・」

「同感だ。だが、今回も私が勝つ!」

「さあ、それはどうかしらね・・・・」

ギンガとチンクの両者の目からは火花が散っている様に見えた。

「ディード、私はこの黒髪のファーストと戦う・・・・お前は青髪のファーストを相手にしろ」

「わかりました。チンクお姉様・・・・」

ギンガとしてはチンクとしてのリベンジもしたいが、武器からディードと言われた、二刀流使いの少女とも戦って見たかったが、あの時の屈辱を晴らす事を優先した。

「行くぞ!!タイプゼロ・ファースト!!」

チンクは未だにギンガが戦闘機人だと思い込んでいた。

「私の名前は、ギンガ・ミヤモト・インテグラだ!!」

そんなチンクに対し、ギンガは名を名乗りながらチンクへと向かった。

IS発動!ランブルデトネイター!!」

チンクはナイフを投擲、爆発させるが、

「そんなもの効くか!!」

ギンガは爆発の衝撃波を物ともせず、チンクへと迫る。

地上本部の地下では、チンクの能力を知らなかったためと、周囲にAMFが充満して居た事、地下は限られた空間と言う状況下だったため、敗北、撤退を余儀なくされたのだが、今回は、周囲にAMFは、充満しておらず、しかも屋外と言う前回とは違う環境下なので、ギンガは思う存分に戦えた。

「バカが!!私の能力がナイフだけだと思うなよ!!」

「っ!?」

チンクはギンガの足元に転がっている廃材の鉄屑を爆破させた。

しかし、ギンガは爆発の僅か前に後ろに飛び退いた。

「・・・・成程、近距離は私の得意領域・・・・遠距離、中距離は貴女の領域ってわけね・・・・」

「確かにそうだな。・・・・だが!」

チンクは、今度先程投げたナイフよりも多い数のナイフを投擲してきた。

「私に接近などさせんさ!!」

ナイフはギンガの至近距離に着弾し、爆発。

確かにチンクのナイフはギンガを捉えた・・・・。

チンクは、油断せず、煙が張れるまで構えているが・・・・。

「い、いない!?どこへ・・・・!?」

すると、チンクの背後からは小さな羽音が聞こえた。

「ここよ!!」

「っ!?」

今度はチンクに大量の氷柱が襲い掛かった。

「ちっ!?」

戦闘機人故の身体能力によって、チンクはギリギリの所で氷柱を避け、ギンガとの距離をとる。

「はぁはぁはぁはぁ・・・・なかなかやるな・・・・」

「貴女もね・・・・」

二人の戦乙女は、お互いに一層警戒を強めることになった。

(こいつと私はほぼ互角・・・・。ならばその均衡を崩すしか勝機はないか・・・・)

チンクは、そう思い、ディードに念音で連絡を入れる。

(ディード、チンクだ。予想以上に此方のファーストが手強い。何とか今の戦線を脱し、此方に応援に来てほしい)

(チンク姉様、此方も現状で手一杯です!!此方のファーストも手強いです!!やはり、起動した年数と経験の差が・・・・)

(っ!?・・・・ならば、私がそちらに行く!!何とか戦線を支えていろ!!)

(りょ、了解)

チンクはディードを此方に応援として寄こすのではなく、自らがディードの応援に行く事にした。

「なっ!?逃げる気!?待ちなさい!」

ギンガは突然、撤退をしたチンクを追った。

(フフフフ・・・・そうだ、それでいい。そうすれば、この膠着した均衡は崩れる。例え、稼働年月と経験が、貴様らが優っていようとも、戦うためだけに生まれた私たち姉妹が負けるわけがない!!)

チンクはフッと口元を緩め、ディードとの合流を図った。

 

ギンガがチンクを追いかけている頃、ギンガ・ナカジマも対峙していた戦闘機人を追いかけていた。

そして追いかけていったその先には、あの地上本部襲撃事件の際、地下であった銀髪で右目に眼帯をした戦闘機人とであった。

「えっ!?インテグラさん?」

「ナカジマさん!?」

「これで、二対二。・・・・ディード、行くぞ」

「はい。チンク姉様」

どうやら彼女達の目的はこれだったようだ。

相手は姉妹と言う事で、自分達ナカジマ姉妹の様に息もピッタリ合わせられるだろう。

それに比べ、此方は異世界の自分同士・・・・。

息は合いそうだが、この決戦まで互いにチーム戦を行った事が無い。何しろ余りにも時間が無かったのだから・・・・。

本当にチームプレイを行う事が出来るのか?

ギンガ・ナカジマの中に不安要素が生まれた。

「・・・・ナカジマさん」

「はい」

「ナカジマさんは、確かシューティング・アーツをやっているのよね?」

「は、はい」

ギンガが、ギンガ・ナカジマに確認するかのように尋ねる。

「フッ・・・だったら、問題ないわ・・・・私の妹だってシューティング・アーツをやっているのよ。即席のチーム編成でも問題ないわ。インテグラの血を・・・・クイントの娘の実力を奴らに見せてやりましょう」

「インテグラさん・・・・はい!!」

ギンガ・ナカジマが抱いた不安をギンガはいとも簡単に吹き飛ばし、二人のギンガは同時に駆け出した。

 

即席とは言え、二人のギンガはなかなかのコンビプレイで、チンクとディードを攻めていく。

しかし、彼女達も戦闘機人、このままむざむざ敗北するようなヤワな相手ではなかった。

(ディード、三つ数えたら一旦後方に引け)

(はい)

チンクはギリギリディードを自分の能力に巻き込まないように爆発時間を調整したナイフを30個投擲。

IS・ランブルデトネイター!」

そして、ナイフが一斉に爆発する。

ギンガ・ナカジマとチンクの目には咄嗟にプロテクションを張ったギンガの姿が見えたが、急ごしらえのプロテクションでは防ぎきれなかったらしく・・・・

煙が張れると、ギンガは血塗れでその場に倒れていた。

「インテグラさん!!」

「フッ、このまま一気に決めるぞ!!ディード!!」

「はい」

ギンガの脱落により戦局は一気に変わった。

「くっ・・・・」

ギンガ・ナカジマは苦虫を噛むようにして迫るチンクとディードを睨んだ。

 

「この!!」

「そんなもの効くか!!」

「無駄ですよ」

ギンガは戦線離脱をし、二対一と、戦況が不利となったギンガ・ナカジマ。

「ファースト、貴様の抵抗もこれまでだな。よく粘った方だが、実力は私たちの方が上だったと言う事だ。あそこで寝ているファーストともども連れ帰るとしよう」

ギンガ・ナカジマは負傷した部分を手で抑えながら、未だに闘志を消すことなくチンクを睨んでいる。

「なぁに心配するな。ドクターが治療も行ってくれるし、戦闘機人に相応しい調整もしてくれるだろう」

調整・・・・それはつまり、戦闘機人ではなく、人として生きてきたギンガ・ナカジマに人間らしい感情を全て捨てさせ、兵器として洗脳するつもりなのだろう。

「じょ、冗談じゃないわ・・・・私は・・・・私は・・・・クイント・ナカジマとゲンヤ・ナカジマの娘よ。・・・・そんな兵器に成り下がるくらいなら、死を選ばせてもらうわ・・・・もっとも死ぬ気もサラサラないけどね・・・・」

「っ!?減らず口を!!もういい、ディード!!手足の一本は構わん!!機能を停止させてこいつを連れて行くぞ!!」

「分かりました」

ギンガ・ナカジマの言葉にキレたチンクがディード共々ギンガ・ナカジマに襲い掛かって来た。

(後ろに跳んで!!)

(えっ!?)

ギンガ・ナカジマが突然聞こえてきた念音の指示通り、後ろに跳ぶと、

「氷竜旋尾!!」

氷系で形成された斬撃魔法がチンクとディードを背後から襲ってきた。

「ちっ」

「くっ」

とっさに回避した二人だが、

「燕返し!!」

ディードに同時に放たれた三連撃の斬撃が襲い掛かった。

咄嗟の回避で体制を崩したディードに同時に放たれた三連撃の斬撃を回避する術は無く、

「うわああああああ!!」

ディードは吹き飛んだ。

「き、貴様・・・・いつの間に起きていた?」

今度はチンクが苦虫を潰したような顔でギンガに尋ねる。

「残念ながら、そもそも気絶なんてしてないわよ」

「「えっ!?」」

ギンガの言葉に思わずチンクとギンガ・ナカジマの声が被る。

ギンガが視線を移すと、それにつられ、二人も視線を移す。

視線の先には血塗れになって倒れているギンガの姿が有った。

「ど、どういう事だ?幻術か?」

「こういう事よ」

ギンガがパチンと指を鳴らすと、血塗れのギンガの体にピキピキとヒビが入り始め、やがて、

 

バリン

 

音を立てて崩れた。

「斬氷人形・・・・氷で自身の分身を作り出す氷系魔法よ・・・・で、これで形勢逆転だけど、どうするのかしら?」

吹き飛ばされたディードはバインドごと体を一部氷漬けにされており、身動きが取れない状況。

最も、ギンガの燕返しを食らった時点で意識を失っていた。

「舐めるな。私一人でも手負いのファーストを抱えたお前たち位なら・・・・」

「武器がなくても倒せる、と?素手で私たちに勝てる、と?いくら貴女が戦闘機人でもそれには少し無理があるんじゃないかしら?」

そう言いながらギンガが取り出したのはチンクが使っていたナイフ。

「い、いつの間に!?」

「さあ、どうする?降参する?」

「ま、まだだ!まだ・・・・」

「これでも?・・・・樹白!!」

ギンガは氷川丸を地面に突き刺す。

すると、チンクの首を残し、体を氷漬けにし、その上からさらにバインドでグルグルまきにした。

「さあ、どうする?これでも降参しない?」

身動きの取れないチンクの首筋にギンガは氷川丸の刃を押し付ける。

まだ抵抗するのであれば、首の頸動脈を切ると言わんばかりだ。

「・・・・分かった・・・・投降する・・・・」

チンクはガックリと項垂れる様に投降する意思をギンガに告げた。

 

樹白の氷は砕いたが、隙を突いて抵抗ないし、逃亡されたら厄介なので、ギンガはチンクのバインドを解かずに、首筋に手刀を入れ、気絶させた。

一連のギンガの行動を見ていたギンガ・ナカジマは、もう一人の自分ながら、ギンガの行動が少し卑怯な気がしたし、少々やり過ぎなのでは?という思いもあった。

ギンガがディードを担ぎ、ギンガ・ナカジマがチンクを抱き上げると、二人は近くでガジェットを相手にしている陸の部隊に彼女たちを引き渡し、防衛ラインの援護に向かった。

 

 

 

 

結果的にこの世界で起きたJS事件もギンガの歴史の知る通りの幕引きとなった。

スカリエッティの逮捕に向かったフェイトはそこでスカリエッティ本人と戦闘機人数名を逮捕し、『ゆりかご』へ向かったなのはとヴィータも戦闘機人数名と聖王化したヴィヴィオを元に戻し、保護、『ゆりかご』は管理局の次元航行艦隊のアルカンシェルの攻撃により消滅した。

ティアナ、スバル、エリオ、キャロのメンバーも交戦していた相手に勝利し、それぞれ逮捕、保護した。

 

事件は、スカリエッティの逮捕と言う事で終わったが、その後の事後処理等はまだ沢山残っていた。

しかし、民間協力者であるギンガの役目はすでに終わり、六課の敷地内で停泊しているアースラの食堂で今回の事件の記事が載った新聞を読んでいると、食堂にギンガ・ナカジマが来た。

彼女の手には、分厚いファイルが握られていた。

「なんです?そのファイルは?」

「ああ、コレ?これはね・・・・」

ギンガ・ナカジマ曰く、今回の事件で逮捕した戦闘機人たちの内、七人が、管理局側が提示した司法取引を受け、海上更生施設にて更生プログラムを受けるのだと言う。

ギンガ・ナカジマはその更生プログラムの担当官に自ら志願したのだと言う。

「あの子達と戦って、彼女達にも心が有るって分かったの。だからこそ、戦うためだけの存在じゃないって理解してもらうわ。私はスバルも同じ戦闘機人だけど、戦うためだけの存在じゃないって認識しているんだもの。彼女達もきっと理解してくれるはずだよ」

「・・・・そうですね・・・・ううん。きっと分かってくれますよ。ナカジマさんの気持ち」

その後、二人のギンガは、あれこれ意見交換をして更生プログラムを立案していった。

 

「ナカジマさん、これをどうぞ」

ギンガは、ギンガ・ナカジマに一つのメモリーカードを渡す。

「これは?」

「母が、纏めたシューティング・アーツに関する技や動きがこのメモリーの中には入っています。こちらのクイントさんは既に故人だと聞いたので・・・・」

「インテグラさんのお母さんが纏めたシューティング・アーツのデータ・・・・・・」

ギンガの母・・・・それは異世界の自分達の母であるクイントの事を指す。

その人が纏めたシューティング・アーツのデータ。

それは、この世界では、クイントの遺産とも言うべきデータだ。

「決戦前に差し上げても良かったんですが、一朝一夕で身に着けられるモノではないので・・・・」

ギンガの言う様に決戦前にこのデータを貰い、未だに自分達が身に着けていない技を身に着けようとしても、ケガの元にしかならない。

ギンガの行動はある意味正しいモノだった。

「今後の為に役立てて下さい」

「ありがとうございます。インテグラさん」

ギンガ・ナカジマはメモリーカードを両手に包み、ギンガに頭を下げ、お礼を言った。

 

その後、二人はある程度のプログラムの草案を完成させた頃・・・・。

「い、インテグラさん・・・・その身体・・・・」

突然ギンガの体が透明になり始めた。

「・・・・どうやら私の役目はこれで終わったみたいね・・・・」

透明になっていく体にギンガは慌てることなく毅然としていた。

「ねぇ、ナカジマさん・・・・」

「な、なんでしょう?」

「私、貴女に・・・・この世界の皆に出会えてとても良かったわ」

「わ、私もです・・・・」

ギンガ・ナカジマはギンガの言葉を聞き、目から涙が出てきた。

「ねぇナカジマさん。最後にリボンを交換しましょう」

「えっ!?」

「これが胡蝶の夢だとしても、互いにもう一人の自分が・・・・世界が有ったのだと言う思い出に・・・・」

「は、はい」

ギンガ・ナカジマは潤んだ目であるが、精一杯の笑みを浮かべる。

それはギンガも同じだった・・・・。

二人は、互いに髪をとめていたリボンを取り、交換する。

「さようなら・・・・もう一人の私・・・・」

「さようなら・・・・」

互いに別れの挨拶をすると、ギンガ・ナカジマの目の前に居たギンガの姿は跡形もなく消えていた・・・・。

まるで最初からギンガ・ミヤモト・インテグラと言う名の少女の存在など無かったかのように・・・・。

しかし、彼女が確かに存在したと言う証は今もこうしてギンガ・ナカジマの手の中にあった。

ギンガ・ナカジマは紅いリボンをギュッと握り、声を殺して泣いた・・・・。

 

 

 

 

「・・・・ねぇ・・・・ギン・・・・ねぇ・・・・ギン姉!!」

暗闇の中から声がする・・・・。

何処かで聞いた懐かしい声だ・・・・。

ギンガが目を開けていくと・・・・。

「ギン姉!!良かった!!気が付いたんだ!!」

ギンガの目の前には、自分の妹、スバル・ミヤモト・インテグラの姿があった。

目尻に涙を浮かべている事から、彼女は先ほどまで泣いていたのだろう。

ギンガが辺りを見回すと、そこは白い壁に白い天井、そして清潔感のある白いシーツとベッド。

辺りからは薬品の匂いが漂ってくることから、ここが病院なのだと、分かった。

そして今、自分は病室のベッドの上に寝ていた。

「お母さん!!お父さん!!ギン姉が目を覚ましたよ!!」

スバルが病室を出て両親を呼びに行く。

「ギンガ大丈夫か!?」

病室に父のリョウスケ・ミヤモト・インテグラが飛び込んできた。

「父さん・・・・え、ええ。大丈夫です」

「心配したのよ、ギンガ」

父に続き母であるクイント・ミヤモト・インテグラも病室に入ってくる。

「私・・・・何があったの?」

ギンガは自分の身に起きた事が理解できずに、両親とスバルに自分の身に何が起きたのかを尋ねる。

「覚えていないのか?」

「・・・・は、はい」

「ギンガ、貴女は道場からの帰りの途中、急に倒れたのよ」

「倒れた?」

「そうよ。偶々近くを通りがかった人が救急車を呼んで病院に担ぎ込まれたのよ」

「・・・・」

ギンガは先ほどまで自分がもう一つの世界の過去に跳び、そこで知り合ったもう一人の自分と共にJS事件に協力したのが夢だったのかと思った。

しかし、あの出来事は夢にしては余りにもリアルだった・・・・。

ギンガが考え込んでいると、

「あれ?ギン姉それ何?」

スバルが何かに気付いた様子で、ギンガに聞いて来た。

「えっ?」

ギンガの手には、藍色のリボンがあった。

「ギン姉、リボンの色変えたの?」

スバルがギンガに聞いてくるが、ギンガはその答えをすぐには言い出せなかった。

(これは、ナカジマさんの・・・・)

「・・・・ええ、大切な友達から貰ったのよ」

ギンガが微笑みながら答える。

「た、大切な友達・・・・まさかギンガ、男じゃないよな!?」

ギンガに対し、親バカなリョウスケがギンガに問う。

「コレばっかりは、父さんにも、な・い・しょ」

ギンガは人差し指を唇につける。

「うおぉぉぉぉぉぉー!!どこのどいつだ!?家のギンガを誑かしたのは!!」

リョウスケが叫ぶ。

クイントはそんなリョウスケの様子を見て、「もう、しょうがないんだから」と言った様子で呆れている。

リョウスケのそんな様子を見てギンガは苦笑している中、

「ギン姉・・・・」

スバルが気まずそうに声をかけてきた。

「ん?何?スバル?」

「その・・・・ケーキの事、ゴメン」

スバルが頭を下げてギンガに謝る。

ギンガの脳裏にはもう一つの世界で見た仲の良かったナカジマ姉妹の様子がフラッシュバックした。

「ううん、私もやり過ぎたわ。ごめんね、スバル」

「ギン姉〜」

スバルはギンガに抱き付いた。

 

こうしてギンガ・ミヤモト・インテグラの奇妙な体験と姉妹喧嘩は、終わった・・・・。

二人のギンガは互いに違う世界に生まれ、違う道を歩んで来た・・・・。

そしてこれからも違う道を進んでいくだろう・・・・。

だが、これからも先、二人のギンガは家族と共に明るく生きて行く事だろう・・・・。

 

 

あとがき

ミヤモト・インテグラ家のギンガがややチート化してしまいましたが、不可能を可能にする男、宮本良介の血を引くギンガならば、オリジナルのギンガ・ナカジマよりも強いと思いましてこんな形になりました。

一作目の桜花も成長したらこんな感じになるかもしれません。