これは、「魔法少女リリカルなのは」と宮沢賢治先生の作品「銀河鉄道の夜」を合わせた作品です。
尚、本編とは一切関係ありません。
そしてこの物語に登場する宮本良介もリョウさんの作品
To a you sideの宮本良介とは異なる人物です。では、どうぞ・・・・
番外編 リリカルな銀河鉄道の夜 最終夜
新世界交響楽
りんごの森を通り抜けると男の子は再び眠くなったのか眠ってしまい、汽車もトンネルに入ったのか、窓の外は真っ暗になった。
起きているなのは、良介、少女は会話もなくただ無言で座っていた。
時々少女がなのはと良介に視線を向けたが、なのはは気まずいのか視線をそらし、真っ暗な窓の外を見ていた。
やがてトンネルを抜けると、太陽は高々く上がっており、そして空は青く澄み渡り、地上波は辺り一面トウモロコシ畑だった。
トウモロコシ畑の中を走って行くと、前方に小さな建物が見えてきた。
「あれ駅だね」
良介が建物を見ながら言った。
やがて汽車はトウモロコシ畑にひっそりと建つ小さな無人駅に停車した。
なのは達が乗る客車の目の前には大きな振り子がついた時計があり、カッチ、カッチと、振り子を揺らし、時刻を刻む音を鳴らしていた。
辺りに聴こえるのはその振り子の音だけだったのだが、暫くすると、どこからか音楽が聴こえてきた。
「新世界交響楽だ・・・・」
少女は流れてくる音楽の名前を知っていたようで曲名を言った。
なのはも曲名は知らなかったが、流れてくる音楽には聞き覚えがあった。
それは今流れている音楽は下校の時刻になると学校の放送で流れてくる音楽と同じだったからだ。
ドボルザーク 交響曲第
9番「新世界より」第2楽章Northern Lights
(家路)
Goin' home, goin' home, I'm a goin' home;
Quiet-like, some still day, I'm jes' goin' home.
It's not far, jes' close by,
Through an open door;
Work all done, care laid by,
Gwine (or: Goin') to fear no more.
Father's waitin' too;
Lots o' folk gather'd there,
All the friends I knew, All the friends I knew.
Home, I'm goin' home!
ここでの停車時間は短く、乗る人も居なければ降りる人もおらず、出発時間になり汽車はすぐに走り出した。
トウモロコシ畑を抜けると、空模様は夕焼け空となった。
そして窓の外には公園が映り、そこには兄らしき男の子と姉らしき女の子の間で幸せそうに微笑んでいる5歳くらいの女の子がいた。
「あっ!?」
その三人を見てなのはは思わず声をあげた。
公園にいたのは紛れも無く、昔の自分と兄と姉だったからである。
「あら?」
そんな兄妹を見て、少女も声をあげる。
「どうしたの?」
二人が突然声をあげたので、何があったのかを良介が尋ねる。
「女の子が居たの・・・・公園でお兄さんとお姉さんの二人と仲良く歩いていたわ」
「そう」
「私、あの子を知っているわ・・・・」
「私も知っている」
「きっと何処かで会っているんだね」
良介が二人に聞くと、
「うん」
「ええ」
なのはも少女も満足そうに頷いた。
さそりの火 アンタレスの炎
「今この辺を走っているのね」
「そうだよ」
夕焼けの空模様の世界を抜けた汽車は再び真っ暗な空間をひた走る。そんな中、少女が良介の持っている地図を見ながら尋ねる。
「あれ?あれはなんだろう?」
なのはが、窓の外に見えた赤い光を見つけ声をあげた。
「あれはサソリの火だな」
良介が地図と窓の外の光を見比べながら言った。
「サソリの火なら知っているわ」
少女が言った。
「サソリの火って何?」
なのはが少女にサソリの火のことを尋ねる。
「サソリが焼けて死んだのよ。・・その火がいまでも燃えているの」
少女がサソリに火を説明した。
「サソリっていい虫じゃないよ。尾に毒があって刺されると死ぬって先生に聞いたよ」
起きた男の子は三人の会話を聞いていたのか、自分の知っているサソリについて言う。
「そうよ。だけどいい虫だわ。私、お父さんから昔聞いたことがあるの・・・・」
少女は昔父から聞いたサソリの話をした。
「バルドラの野原で虫を殺し食べてきた一匹のサソリがいたの。そのサソリがイタチに追いかけられ井戸に落ちたとき、言ったの『ああ、わたしはいままでいくつのものの命をとったかわからない、そしてその私がこんどイタチにとられようとしたときはあんなに一生けん命にげた。それでもとうとうこんなになってしまった。ああなんにもあてにならない。どうしてわたしはわたしのからだをだまってイタチにくれてやらなかったろう。そしたらイタチも一日生きのびたろうに。どうか神さま。私の心をごらん下さい。こんなにむなしく命をすてずどうかこの次にはまことのみんなの幸のために私のからだをおつかい下さい。』そうしたらサソリは自分の体がまっ赤なうつくしい火になって夜の闇を照らしているのを見たんですって・・・・」
みんなは少女の話を黙って聞いていた。
恐らくみんなの中でサソリの印象は毒を持つ怖い虫から優しい虫だと変わったことだろう。
そして黒マントの灯台守の姿が消えていたことには誰も気がつかなかった。
南十字(サザンクロス)
「さぁ、もうじきサウザンクロスです。降りる支度をして下さい」
青年が少女と男の子に言う。
「僕も少し汽車へ乗っているんだ」
男の子が駄々をこねながら言う。
良介の隣の少女はすっと立ちあがって支度をはじめましたけれどもやっぱりなのは達と別れたくないような様子だった。
「ここで降りなければならないのです」
そんな男の子の様子を青年は困った表情で言うと、男の子は
「イヤだい。僕、もう少し汽車に乗ってから行くんだい」
と、なのはの腕を掴みながら更に駄々をこねる。
「だけど私達はもうここで降りなければいけないのよ。ここは天上へ行くとこなんだから」
少女が寂しそうに言う。
他の乗客たちもいそいそと立ち上がり、荷物を持って下車する準備をしている。
やがて汽車はそのスピードを徐々に落とし、シューと蒸気を吐いて停車する。
「さぁ、降りますよ」
青年が少女と男の子に下車を促すと男の子は諦めたのか、なのはの腕から手を離し、三人は下車するために歩き始めた。
「それじゃあ・・・・さようなら」
少女が振り向き、良介となのはに別れの挨拶をする。
「さようなら」
「・・さようなら」
二人は寂しそうに三人を見送った。
なのはと良介が窓から見ると、窓の外にはあらゆる光でちりばめられた十字架がまるで一本の木という風に川の中から立ってかがやき、その上には青白い雲がまるい環になって後光のようにかかっていた。
汽車から降りたみんなはつつましく列を組みその十字架を目指して歩いて行った。
やがて汽車は動き出し、ふりかえって見るとさっきの十字架はすっかり小さくなってしまいほんとうにもうそのまま胸にも吊されそうな大きさになり、さっきの少女や男の子、青年たちがもう天上へ行ったのかぼんやりして見分けられなかった。
終着駅
サザンクロスは出た汽車は次に大きなドーム状の屋根のある駅に停車した。
外は大きな山や林があり、空気はとても澄んで清々しい気分にさせてくれる。
二人はそこで森林浴を楽しんだ。
やがて発車時刻になり、発車のベルが駅構内に鳴り響く。
なのはは、先程まで自分の近くにいた良介の姿が見えず、辺りを見回すと、良介はまるで誰かと話しているみたいに時折頷いていたり、何かを語っている。
しかし、良介の向かい側にも傍にも誰もいない。
「良介君!」
なのはが声をあげる。
「あっ、なのは、先に乗っていて!」
「う、うん」
何か嫌な予感というか不安を抱きつつもなのはは汽車に乗った。
発車のベルが鳴り終わると、客車のドアが閉まり、汽笛を一声鳴らし、汽車は動き出す。
なのはがふと窓の外を見ると、そこには汽車には乗らず、駅のホームでなのはを見送るように立っている良介の姿があった。
「良介君!?」
良介の姿を見て、なのはは思わず席を立つ。
汽車がどんどんスピードを上げてゆき、良介の姿もどんどんと後ろへと下がる。
なのはは後ろの車両へと走りながら良介の姿を追った。
やがて最後尾の展望車車両まで来ると、展望車の扉を開けようとするが、カギが掛かっているらしく開かない。
「良介君!!」
声をあげるなのは。
良介は駅のホームの隅でなのはの乗る汽車を見送っている。
さようなら・・・・なのは・・・・・
君はまだ、ここへ来るべきではない・・・・・
この先辛いこともあるだろうけど、その分良いこともきっとあるだろう・・・・・
そしてその中で多くの出会いと別れを繰り返しながら友達や君を想い大切にしてくれる人が現れるだろう・・・・・
短い時間だったけど君と一緒に星の海を旅したことを僕は忘れない・・・・・
忘れない・・・・・
さようなら・・・・・なのは・・・・・
・・・・さようなら・・・・・・・・
「良介君!!」
なのはの声が遠ざかる駅に向け木霊した・・・・。
「・・・・のは・・・・・・なの・・・・・・・なのは!!」
自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、なのはは目を覚ました。
目を開けるとそこは汽車の中ではなく、汽車に乗ったあの公園だった。
なのはは公園のベンチで眠っていたのだ。
(夢・・・・?だったの?)
眠りからさめてまだ頭が働かないなのは。
あれは夢だったのか?
それとも現実だったのか?
それさえ、今のなのはには判断がつかない。
そんななのはに、
「バカヤロウ心配したんだぞ」
兄の恭也がなのはに抱きつく。
「ごめんなさい・・・・」
兄を・・・・家族を心配させてしまった事になのははか細く恭也に謝る。
「いや、謝るのは俺たちも同じだ・・・・なのは・・・・今まだで寂しい思いをさせてすまなかった・・・・」
兄の恭也はなのはに深々と頭を下げた。
「私もごめんね、なのは・・・・」
姉の美由紀も頭を下げ、なのはに謝る。
「ううんいいの・・・・皆が大変な時に私一人我儘は言えないから・・・・・」
「そんなことはないぞ。お前はまだ九歳なんだ・・・・困ったことがあれば遠慮なく、何でも言って良かったんだ・・・・」
「兄さんの言うとおりよ。これからは困ったことがあったら何でも言っていいのよ。なのは」
「う、うん。でもいいの?私が我侭を言っても?」
「当たり前じゃないか。俺達はみな家族なんだから・・・・家族は助け合うものだろう?」
「うん・・・・」
なのはは涙を浮かべながら満面の笑を浮かべながら言った。
「それとさっき病院から連絡があってお父さんの意識が戻ったって、もう心配いらないって」
「本当!?」
「ああ、もう少ししたら家族皆一緒だ」
「うん・・・・」
なのはは兄と姉の間に入り、三人は家路についた。
それはあの時、汽車で見た幼い頃の自分達と同じだった。
道を歩いているとき、
ポォォォォォー
なのはには汽車の汽笛の音が聞こえた気がした。
なのはは思わず空を見上げたが、そこには汽車の姿は無く、満天の星空が広がるだけであった。
バイバイ・・・・良介君・・・・・また何処かで会おうね・・・・
なのはは夜空を見上げながら良介に別れとまたの再会を心の中で誓った。
それからなのはの父、高町士郎は無事退院し、ボディーガードの仕事を辞め、母親である高町桃子と共に喫茶店「翠屋」のマスターとなった。
なのは自身も学校で月村すずか、アリサ・バニングスという無二の親友と出会い、更にその後、魔法と言う未知の力とも出会い、この後、数多くの人達と運命的な出会いをすることとなった。
魔法という不思議な力に出会ったのだ。
それならばきっとまた良介と会える日が来る・・・・。
なのははそれを信じ、多くの友と共に今日も少し変わった日々を過ごしていった・・・・・。
余談ではあるが、後になのははとあるアメリカ映画監督の作品をアリサとすずかの三人で見に行った。
その映画は実際に起こった海難事故をモチーフにしたラブロマンス映画で、その映画を見たなのはは劇中に登場した船があの時、汽車で見た船と全く同じ形だったのを見て、声には出さないが、心の中で驚きの声をあげた。
そしてラストのシーンでアリサ、すずか同様主人公の青年が息絶え、海に沈んでいくのを見て、泣いた。
one night
I am waiting for you
探してる月夜の記憶香る花は打ち寄せる波のほとり
and nothing but you
残された風をまといSo I can see the sky
I wanna show you
叫んでる海ぬらす雨飾られた夢はいつしか砂の中
and don't cry for you
色づいた瞬間をまといSo I can see the sky
Melody
奏でる刹那を届けたいだけ小さな手を包み込むように
あなたさえいれば風は吹くの
いつか
stand alone・・・時に迷った夜Let me tell you
おどけてる水面の光染められた心は見えぬ星の輝き
and I think of you
止められた過去をまといSo I can see the sky
Melody
奏でる刹那を届けたいだけ小さな手を包み込むように
あなたさえいれば風は吹くの
いつか
stand alone・・・時に迷った夜
I am waiting for you and lookiong for truth
but not a sound is heard
Whenever you need any help and my voice
please let me know
Can I sing for you or cry for dream?
Let the wind blow
So I can see the sky
I am waiting for you
探してる月夜の記憶香る花は打ち寄せる波のほとり
and nothing but you
残された風をまといSo I can see the sky
So I can see the sky
So I can see the sky
あとがき
これにて番外編は終了です。
良介君となのはの別れのシーンは松本零士先生の作品「さよなら銀河鉄道999」のラストで鉄郎とメーテルの別れのシーンをイメージしました。
時系列としては原作(アニメ・無印)の少し前と言う設定です。
イメージエンディングはプラネタリウムで公開された銀河鉄道の夜、挿入曲の「
one night」です。You
tube等にうpされているので聴いてみてください。