九十二話 ゴエイノヒ 失われた記憶と襲撃

 

 

黒服の男達からの襲撃から数日が経ったが、あの連中が再び襲撃してくる気配はなかった。

そのため、良介は最初の夜を過ごしたセカンドハウスから本宅へと戻った。

どうせノアの存命が知られ居場所だって知られたのだから今更コソコソ隠れる必要性を感じず堂々としていた。

というのは理由の一つで、もう一つの理由は、セカンドハウスは実質物置と変わらず、ノアが色々と注文をつけてきたので、本宅(宮本家)に戻ったのだ。

 

コッチ コッチ コッチ・・・・

「・・・・」

コッチ コッチ コッチ・・・・

「・・・・」

コッチ コッチ コッチ・・・・

 

宮本家に戻った良介はソファーでのんびりとし、ノアは紅茶を飲み、ノアの拾った子犬はドックフードを食べている。

「ふぁ〜」

良介が欠伸をすると、突然ノアがカップをソサーに置き、テーブルを叩き声をあげる。

「ちょっと!いつまでぐーたらしているのよ!いい加減仕事したら!?」

「やっているだろう?お前も知っているとおり今回の俺の仕事はお前の保護。この間だって黒服連中からお前を守ってやっただろう?」

「貴方、曲りなりにも探偵なんでしょう?事件の真相とか気にならないの?」

「真相ならはやての奴がなんとかするだろうさ」

「またそれ?」

ノアは呆れるように言うが、良介自身もこの事件の真相は気になると言えば気になるのだが、この前ノアが襲撃された事、情報がまだまだ足りないこと、ゴンゾウの本人の権力とゴンゾウのバックには管理局が関与している可能性から下手に動けない状況なのだ。

「お前こそ暇なら家の中の掃除をしてくれてもバチは当たらないぞ?」

「な、なんで私が・・・・それに、さっきからお前、お前って気安く呼ばないでいただけるかしら?」

ノアは微笑んでいるが少しマイナスオーラを出して良介に言う。

「じゃあ何て呼べばいい?」

良介が尋ねると、ノアは着ているワンピースを少し靡かせ、

「ノアお嬢様よ」

微笑みながら言う。

「・・・・」

(こいつ正気か・・・・)

「・・・・ノアオジョウサマ」

良介は呆れながらもノアが言う彼女の人称を口にする。

「片仮名の発言はいただけないわ。ちゃんと言いなさい」

「ノアちゃん」

良介が小馬鹿にしながら言うと、

 

ブスっ

 

良介はノアに目を突かれた。

「イッテェ!失明するだろうがぁ!!」

目を突かれた良介は両目を抑えつつ声をあげる。

「失言するからよ・・・・」

「なんだ!?その等価交換は!?」

「銅四十グラム 亜鉛二十五グラム ニッケル十五グラム 照れ隠し五グラム 悪意九十七キロで私の悪意は構成されているわ」

「ほとんど悪意じゃねぇか!!」

「ちなみに照れ隠しというのは嘘よ」

「一番抜けちゃいけない要素が抜けたぞ!?おい!?」

二人が言い合いをしていると、

「なんや?お二人とも随分仲良ぅなったみたいやな?」

「「良くない!!」」

突然の第三者の言葉に、二人合わせて自分たちが仲が良いなどとほざくその第三者にツッコムのと同時に顔を向ける。

「「あっ!?」」

「おおきに」

顔を向けた先にははやてが居た。

 

「ムサシ。それが貴方の名前よ?覚えた?」

ノアは拾ってきた子犬に「ムサシ」と言う名前を付け、自分の名前なのだと教えている。

ノアがムサシの相手をしている頃、良介は先日ノアを襲撃してきた黒服が落としていったバッジをはやてに頼み身元を調べて貰っていた。そして今日、その結果が出たので、はやてはそれを良介に教えに来たのだ。

態々赴かなくても電話で話せば良いのだが、電話では盗聴の恐れもあるとの事で直接来たのだ。

ちなみに良介自身も毎日この家に盗聴器がないか確認している。

「で?黒服連中がつけていた例のバッジの件。何か分かったか?」

「そのことなんやけど、これは管理局の警備課に所属する局員が付けとるバッジやった・・・・」

「管理局の警備課だって!?」

「せや。主に要人警護を専門に扱っとる課や。ヴィータも一時的に所属しとった頃がある」

「まさか、管理局が絡んでいるとはな・・・・確かゴウゾウは管理局には幾らか顔が利くんだよな?」

「そうや。恐らくゴウゾウが局の警備課連中に依頼したんやろうな」

次に良介はキザキ家の家系図を出し、はやてと情報確認行なった。

「今回の依頼はノアの母親エフィからのもので目的はノアの保護・・・・今のところノアを殺そうとしているのは父親のゴンゾウから守れと言うことだが、ここに管理局が絡んでくると厄介だ・・・・権力にモノを言わせノアの身柄を要求してくるかも知れないからな・・・・」

「それは今の所ミゼット提督が何とか抑えとるから大丈夫やけど、そう長くは無理かもな・・・・身内の揉め事・・・・そんな単純なことでは済まないかもな・・・・」

良介とはやての会話が聞こえたのか、ノアは俯き暗い顔をしている。

「・・・・それじゃあ私はこれで」

はやては出されてお茶を飲み干し、席を立つ。

「帰るんですか?」

ノアが不安そうに尋ねる。

「あ、そうや。良介」

「なんだ?」

「最近女っ気ないみたいやけど・・・・」

はやてはノアの背後に回ると、

「だからと言って純白の仔猫ちゃんに手を出したらアカンで」

ノアの胸を揉みながら言った。

「ちょっ・・・・」

突然胸を揉まれ、ノアは声をあげようとするが、声をあげる前にはやてに抱きしめられた。

「大丈夫や。必ず真相は暴いてみせるさかい。だから元気だしてな」

 

はやてを玄関まで見送り先程まで居たリビングに戻ると、ノアは良介が纏めた家系図や情報が書かれたメモを見ていた。

「へぇ、仕事。何もしていないと思ったけど、やっていることはやっているんだ」

「まあな。敵を知らなければ守りようが無いからな・・・・一つ聞きたいんだが・・・・」

「なに?」

「父親に殺害されそうになったとき。どういう状況だったんだ?」

「・・・・分からない・・・・・・」

「えっ?」

「分からないのよ」

「分からないって・・・・まさかお前・・記憶が・・無いのか?」

恐る恐る良介が尋ねると、

「・・うん」

ノアは首を縦に振った。

「どういう状況でこんなことになったのか、その場に誰が居たのか・・本当に父が私を殺そうとしたのかも・・・・」

「それじゃあ、事件の概要は・・・・」

「そう、後からニュースや八神さんから聞いただけ」

「ショックによるものか?それとも忘却の魔法なのか?・・・・」

「それで私、一度家に戻ろうと思うの・・・・もしかしたら何か思い出すかもしれないから・・・・」

「確かに現場百片って言葉があるしな・・・・事件の原点に戻れば何かわかるかもしれないな」

こうして良介とノアは今回の事件の現場でもあり、原点でもあるキザキ邸へと向かった。

既に現場検証も終わっていたので、門の所には立ち入り禁止のテープもなければ管理局の立ち番捜査官の姿もなく、二人は玄関先の植木鉢の中にある合鍵でキザキ邸の中へと入った。

「はやての話では現場はこのリビングらしい」

「・・・・・」

調書から得た情報で二人は犯行現場とされるリビングに入った。

リビングには血の後もなく事件前と変わらない清潔感が漂う何の変哲もないリビング空間がそこにはあった。

「・・・・だめ、やっぱり思い出せない」

ノアは頭を抱え、犯行現場とされるリビングを見つめていた。

すると、

「ノア?ノアじゃないか!?」

背後から声を掛けられた。

リビングと廊下に通じる扉のそばに一人の男が立っていた。

「叔父様!!」

ノアはその男を「叔父様」と呼びその男に飛びついた。

「良く無事で・・・・あの時、かなりの出血だったからダメかと思っていたよ」

「貴方は事件の時現場にいたんですか?」

「あ、ああ・・・・」

「あ、こちらは私の母の双子の姉、エヴァ叔母様の旦那様で私の叔父のハミルトンさん」

ノアから紹介された叔父のハミルトンは良介に一礼する。

「ノア、この人は?」

「こちらは母が私の保護を依頼した探偵さん・・ちょっと冴えないけど」

「冴えないは余計だ」

ノアから紹介された良介も叔父のハミルトンに一礼をする。

「ハミルトンさん。事件当日現場にいたと言うのであれば事情をお聞きしたいのですが」

 

良介達は邸内では盗聴の恐れもあるので、キザキ邸の庭で話をすることにした。

「アイツは・・・・あの男は血も涙も無い酷い男ですよ。実の娘を手にかけようとするのですあら」

「何故キザキ氏がそのような凶行に及んだのか心当たりはありませんか?」

「それが全くわからないんですよ。いつからか彼女たちを避けるようになって、あの日も珍しく自分の家に姿を表したかと思ったらあのような事を・・・・」

「そうですか・・・・」

ハミルトンの話を聞き、良介はそこで妙な違和感を覚えた。

「ノアは私の方で引き取りましょう。何時までも他の人のご迷惑になるわけにもいきませんから」

(彼女たち・・・・彼女・・たち・・・・達?まさかっ!?)

ハミルトンの言葉を聞き流し、良介は先程感じた違和感の正体が分かり、ハミルトンに問う。

「あんたさっき『彼女たち』っていったよな!?」

「あっ、いや、その・・・・」

「まさかゴウゾウはノアだけでなく、双子の妹のイヴまでも殺そうとしているのか?」

「・・・・あ、ああ」

ハミルトンは渋る様子でゴウゾウがノアの双子の妹イヴの殺害も考えていることを認める。

「取り敢えず、姪であるノアを心配する気持ちはわかりますが、今はまだ引き渡すわけにはいきません。この事件が解決するまで彼女を保護する・・それが今回の依頼ですので」

良介はノアを連れ、帰ろうとすると、

「きゃあああああ!!」

ノアの悲鳴が聞こえた。

「しまった!!」

良介が悲鳴の聞こえた方へ走ると、先日と同じ黒服連中がノアを無理矢理車に押し込んでいた。

「さっさと乗れ!!」

「嫌!!リョウスケ!助けて!!」

「待て!!」

良介は一歩間に合わず、ノアを乗せた車は走り去っていき、良介は急いで走り去った車の後を追った。

 

「痛い!!放しなさい!」

「おうおう小娘が随分と可愛らしい声で鳴くじゃぁねぇか」

「肌も白くてスベスベだ」

男達はイヤらしい笑を浮かべながらノアの体に手を這わせる。

「やめなさい!その汚らわしい手をどけなさい!!」

男達の手つきに不快感を感じ、ノアは声をあげる。

「汚らわしいだと!?コイツこっちが優しくしてりゃあ調子に乗りやがって」

すると、一人の男がノアの発言を聞き、それが気に食わなかったため、憤慨すると、ノアの服の一部を引き裂いた。

「おい、止めろ!そいつは貴重なサンプルなんだぞ」

後ろの男達の所業に運転する男が注意する。

そして運転している男の言葉の「サンプル」とい言葉にノアは疑問を持った。

(サンプル?それって一体どういうこと?)

「おい、例の探偵が来たぞ」

やがてノアを奪還しようと良介が運転する車が追いついてきた。

「くそっ始末してやる!!」

ノアの両脇を固めている男達が懐からデバイスを取り出し、良介の車めがけて魔力弾を撃って来る。

放たれた魔力弾を受け、フロントガラスは粉々に割れ、車はボロボロになるが、良介は止めることなく車を走らせ、相手の車に体当たりを食らわせ、強引に相手の車を止める。

ノアの両脇を固めていた男達は突然の体当たりの衝撃を受け、運転席と助手席の交後部に頭を強く打ち、気絶した。どうやら万が一ノアが逃げ出したとき、追っ手が来たときに迅速に対応できるようシートベルトを着けていなかったようだ。今回はその行為が仇となった。

ノアは拘束する意味も含めシートベルトを着けていたので無事だった。

運転している男もシートベルトを着け無事だった。

男はノアの護送よりも目障りな追っ手を先に始末することにし、運転席から車外へと出る。

「リョウスケ!!」

ノアも両脇を固めていた邪魔者が気絶したので、シートベルトを外し、車外へと出る。

「ノア、動くな。そこにいろ・・・・すぐに終わらせるから・・・・」

「うん」

争いに巻き込まないよう良介はノアにその場から動かないように言うとノアは素直に言うことを聞いた。

「何のために・・・・誰に頼まれこんなことをした?」

「プロならわかるはずだ・・・・依頼人の情報をそう簡単に言うと思うか?」

「フッ・・・・確かに・・・・」

「死ね!!」

男は懐にある拳銃型デバイスを出し、良介に魔力弾を撃とうとしたが、

「遅ぇー!!」

良介が何かを投擲すると、男は左肩から血を流し倒れた。

男の左肩には全体が血の色をしたダガーナイフが刺さっていた。

良介は先程のカーチェイスの際、ガラスで手を切ったがそれを利用し、自らのレアスキル『鮮血魔法』を発動させ、ブラッティーダガーにより相手を倒したのだ。

「リョウスケ!」

相手が倒れ、戦闘が終わったのだと判断したノアは良介に飛びつく。

「こんなことはもうたくさん・・・・私は知りたい・・・・どうして・・・・どうしてこんなことになっているのか、どうして父が私を殺そうとしているのか・・・・」

良介に飛びつき、堰きを切る様に声をあげて言う。

そして、良介から離れると、

「私、あなたに依頼するわ・・・・私の記憶を探して、この事件の真相を明らかにしてそして・・私を助けて!!」

「・・・・ああ。分かった」

良介はノアからの依頼を引き受けた。

そして依頼料はというと、今のノアは現金もカードも所持していない無一文状態。かと言って再び家に戻りカードを持ってきても、世間ではノアは故人になっているので、下手にノアのカードで現金を引き下ろせば色々厄介になりそうだ。

そこで良介は・・・・

「どうして私がこんなことを・・・・」

ノアは良介の家の掃除をしていた。

「いやぁ〜助かったよ。今、家のメイドが休暇中で家の掃除をする奴がいなくてさ」

良介はアリサが帰ってくるまで、または事件の真相が分かるまでノアをメイド兼アシスタントにするということで手を打った。

「おーい、ノアお茶をくれ」

「ちょっと今、私手が離せないの!!っていうかこれじゃあ、アシスタントというより家政婦かメイドじゃない!?」

「なら、体で支払うか?あ、でもしたくても年齢が足らないか?あと胸もちょっと・・・・」

「なっ!?リョウスケのバカー!!」

ノアは不機嫌になりながらも掃除を再開し、良介はそんなノアを小さく笑を浮かべながら見ていた。

そして必ずこの事件の真相を暴いてやると心の中で固く誓っていた。




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