九十話 ダイリノヒ 解決

 

 

翌日、ギンガの下にマリエルが訪れた。

「・・・・以上のモノを用意できますか?」

「うーん・・ちょっと難しいかもしれないけど、二、三日待ってくれないかしら?」

「分かりました」

ギンガはマリエルに何かを頼んだようだ。

「おはようございます。ギンガさん」

そこへ、シルビアが朝食を持ってきた。

ワゴンの上には大量の料理が乗っている。

「・・・・相変わらず、沢山食べるわね、ギンガ」

朝食の量を見て、マリエルが引きながら、ギンガに言う。

「これでもおさえている方なんですよ・・此処の料理美味しくないし・・・・」

此処(病院)の料理に不満を言いつつ、その料理を食べるギンガ。

(そう言いつつ食べるのね・・・・)

やっぱり、ギンガはギンガだと、マリエルはそう思った。

 

それから二日が経ち、再びギンガの下にマリエルが訪れた。

勿論この間、シルビアとギンガは何もしなかった訳では無い。

深夜には必ずあの部屋へと赴き、腎臓がストックされていないかをチェックを行い、シルビアはこの他にも、現在入院中の患者で、ギンガ以外の患者の中から、ターゲットになりそうな患者のチェックをしたり、理事長と医院長の二人の行動のチェックも行った。

しかし、未だに二人には、動きが無い。

「ギンガ、例のモノ何とか用意できたわ」

「そうですか、それじゃあそちらの方はよろしくお願いします」

「ええ、任せて・・・・でも・・・・」

「でも?」

「あの子に言わなくていいの?」

「仕方ありません。知っている人が多いと失敗する可能性もありますので・・・・」

「そう・・分かったわ」

(へそを曲げないと良いけどね・・あの娘・・・・)

マリエルとギンガの会話が丁度終わった頃に、シルビアがギンガの病室を訪れた。

「ギンガさん」

「どうしました?シルビアさん」

「五日後、この患者さんが腎臓の手術を受けるみたいなんです・・・・」

シルビアは患者のチェックを行っている中で、一人気になる患者が居た。

ギンガがその患者の情報を見せてもらうと、確かにシルビアの言う通り、その患者は、五日後に医院長が執刀する手術を控えていた。

ギンガが狙われているのは明白なのだが、理事長と医院長の二人は未だにギンガから腎臓を摘出する様な動きはまだ見えない。

もしかしたら、ギンガよりも前にこの患者から腎臓を摘出するかもしれないとシルビアはそう思っていた。

「ならば、この手術の現場をおさえるしかないですね」

「そうですね。必ずあの二人の悪事を暴いて見せます」

と、シルビアは決意に満ちた瞳でそう言った。

 

そして、その日の夜・・・・。

「なんですか?話って?」

ギンガは医院長の下に来ており、彼女に話があると言って近づいていた。

「実は・・・・」

ギンガが医院長と話を終えて暫くして・・・・

理事長の下に一本の電話が入った。

「はい・・これはこれはミスター」

電話の相手は何時ぞや高級バーで会っていた臓器密売のバイヤーからだった。

「すまないが、緊急で腎臓が必要な事態となった。直ぐに用意してくれ!!」

バイヤーは少し慌てている様な声だったので、相手の言う緊急事態と言うのが嘘ではないなと理事長はそう思った。

「分かりました。ですが・・・・」

「金ならばちゃんと用意する。勿論良い値をつけてだ!!急がせた分、元値の二倍は払おう!!」

「分かりました。では、直ちに準備いたします」

受話器を置いた理事長はニヤリと笑みを浮かべた。

そして、内線でシルビアを呼び出した。

 

「どうしたんですか?理事長?こんな夜更けに?」

「緊急手術が入った。手術(オペ)の用意を!!」

「緊急?外来の急患でも来たんですか?でも、そんな連絡は・・・・」

シルビアは理事長の様子に何か嫌なモノを感じた。

「ある意味、急患だ。直ちに腎臓の摘出手術を行う。患者は宮本 ギンガだ」

「えっ!?」

(そんなっ!?ギンガさんがっ!?・・でも、予定よりも早すぎる!!)

シルビアは内心慌てふためいていた。

少なくとも、五日後に腎臓手術を予定している他の患者までは時間があると思っていたからだ。

「えっ、でも・・宮本さんはそんな緊急を要する病状ではありませんし、現状は安定しているのですが・・・・」

「つべこべ言うな!!君は命じられた通りに動けばいいのだよ!!」

(た、大変・・・・何とかしてギンガさんに知らせないと・・・・)

「わ、分かりました・・では、手術の用意を・・・・」

(この隙に・・・・)

シルビアは、手術の用意をすると見せかけてギンガに危険が迫っている事を知らせようとし、理事長室を出ようとした。

その時、

「っ!?」

シルビアの首筋にメスが当てられた。

「その必要は・・ない・・・・」

シルビアが後ろを振り向くと、ニヤリと笑みを浮かべた理事長が立っていた。

 

シルビアは理事長にメスを当てられたままの状態で、ギンガの居る病室へと連れて行かれた。

その最中、

「お前が私の身辺を探っていた事に気がつかないとでも思っていたのか?」

と、シルビアに尋ねる理事長。

「・・・・」

「あの宮本 ギンガの正体もとっくにお見通しだ。何しろ、彼女はミッドでは色々な意味で有名だったからな・・・・つまりお前達は私の掌の上で踊っていた訳だ」

どうやら、シルビア達の行動は最初から理事長にバレて居た様だ。

この様子では、恐らく医院長も知っていたのだろう。

(ど、どうしよう・・このままじゃ、ギンガさんも腎臓を取られちゃう・・・・)

病室に着くまで、シルビアは何とかこの事態を抜け出せるチャンスは無いかと考えを巡らせたが、結局チャンスは訪れぬままギンガの居る病室へと着いてしまった。

病室の扉を開けると、ベッドには、ギンガが眠っていた。

理事長は病室のドアに鍵をかけ、ポケットからリモコンを取り出し、ボタンを押すと、天井から手術の際に手元を照らす照明が降りて来た。

「理事長・・まさか、此処(病室)で手術を・・・・?」

「そのための特別病室だ。心配いらん器具はちゃんと揃っている」

相変わらずニヤニヤ顔をする理事長。

その余裕たっぷりの様子から、手術の腕と此処(特別病室)の設備にはかなりの自信が有るのだろう。

「ぎ、ギンガさん!!起きて!!ギンガ・・・・ぐっ・・・・」

シルビアは大声をあげてギンガを起こそうとしたが、ギンガは起きず、シルビアは鳩尾に衝撃を受け、意識を失った。

理事長がシルビアの鳩尾に拳を叩きつけたのだ。

それからどれくらいの時間が経ったのだろうか?

シルビアが意識を取り戻した時、彼女は、ベッドに手足を頑丈なベルトで拘束され、声は出ない様に口にガムテープを貼られていた。

彼女は何とか脱出しようと、手足を動かすが、ベルトはビクともしない。

「いくらあがこうが無駄だ。そこで大人しく見ていろ」

術衣に着替えていた理事長が注射器を手に、ギンガへと迫る。

「むぅー!!むぅー」

(ギンガさん起きて!!ギンガさん!!)

シルビアは声が上手く出ない状況でも何とかギンガの目を覚まそうと、声をかける。

その願いが通じたのか、ギンガの瞼がゆっくりと開く。

「ん・・・んぅ・・・・」

「もう少し眠っていろ、捜査官殿」

そう言って理事長はギンガの腕に注射器を差し、中に入っている液体をギンガの体内へと注入する。

「うっ・・・・」

注射されたギンガは再び瞼を閉じ、眠った。

「強力な麻酔薬だ。いかに屈強な戦闘機人と言えど、そう簡単には目を覚まさぬぞ」

空になった注射器を自慢げにシルビアに見せつける理事長。

シルビアはギンガの承諾を得て、自分達姉妹の正体が普通の人間では無く、戦闘機人である事をマリエルから聞いていた。

理事長がギンガの正体を知っていたは、管理世界で広く知れ渡っていたJS事件の報道か、事件後にナギの行ったギンガに対する誹謗・中傷のネット記事を読んだのかのどちらかだろう。

 

「では、これより宮本 ギンガの腎臓摘出手術を行う」

理事長が手術の宣言をする。

何故、彼がこの様な行動を取ったのかと言うと、恐らく職業上の癖だろう。

そして、理事長の持つメスがギンガの腹部へと迫る。

(やめてー!!)

シルビアの悲痛な願いも虚しく、メスがギンガの腹部に刺さり、彼女の腹を開いていく・・・・。

理事長は手慣れた手つきで手術を進めていく・・・・。

(ごめんなさいギンガさん・・私がこんな依頼を頼んだばっかりに・・・・)

シルビアは、こんな事態になってしまった事に対して、後悔の念に駆られた。

自分が彼女の下を訪れなければ、ギンガは腎臓の一つを失う事はなかったのに・・・・。

そして・・・・

「ふぅー・・・・」

理事長が一息入れ、使用していた器具を置く。

「終わったよ」

「っ!?」

「手術は成功だ。宮本 ギンガの腎臓は無事摘出した。実に素晴らしい腎臓だよ。君も見たまえ」

「・・・・」

シルビアは首を逸らすが、

「さぁ、見るんだ!!」

理事長が彼女の頭を持ち、強引に振り向かせる。

「っ!?」

シルビアの視線の先には、保存液が満たされたポッドの中には腎臓が一つ浮いていた。

彼女はそれを見て、再び視線を逸らす。

「何、悲しむことは無い、君の腎臓も仲良くあそこに並ぶのだから」

「っ!?」

理事長のこの言葉を聞いて、シルビアは肝を冷やす。

しかし、この後の理事長の発する言葉を聞き、尚戦慄する事になる。

理事長は着ていた術衣と手袋を脱ぎ、用意していた新しい術衣と手袋を装着する。

その様子を見て、次は自分か・・・・。

自分も妹やギンガの様に腎臓を取られてしまうのかと思いきや、理事長は再びギンガの下に立つ。

そして、そこで彼は、一言呟いた。

「さて、それでは残りの腎臓も摘出してしまわねばな・・・・」

「っ!?」

彼のその一言にシルビアは大きく目を見開いた。

腎臓は一つでも生きて行く事は出来るが、二つ取ってしまっては、死んでしまう。

にも関わらず、理事長はもう一つの腎臓も摘出すると言う。

それは明らかにギンガを殺すと言う事である。

そんなシルビアの様子に気がついたのか、理事長はシルビアの方へ視線を向けると、今回の計画を語り始めた。

「元々、私達の秘密を知ったのだ・・生かしておくわけにはいかないだろう。しかし、ただ殺すにしては勿体ないので、貰えるものは貰っておこうと言う訳だ・・・・後のシナリオはこうだ『ある一人の看護師の医療ミスにて、宮本 ギンガは死亡・・その責任を感じ、医療ミスを起こした看護師は自殺・・・・』勿論その医療ミスをして自殺をする看護師は君だよ。シルビア君・・・・」

そう言い放ち、理事長は再びギンガの方へと向き、残りの腎臓を摘出しようとした時、

 

ガシッ

 

誰かが理事長の手を掴んだ。

「何っ!?」

「そこまでですよ。理事長」

何と理事長の手を掴んだのはギンガだった。

麻酔で眠っていた筈のギンガはしっかりと目を開き、理事長を睨んでいた。

しかも腹部を開かれたままの状態で・・・・。

その光景は一種のホラーの様にも見えた。

「ば、バカなっ・・・・」

戦闘機人ですら、深い眠りを誘う麻酔薬を注射したにも関わらず、ギンガはこうして起きている・・・・。

その理由が分からず、理事長は困惑している。

そこで種明かしでもするかのようにギンガはベッドから起き上がった。

当然ギンガの腹部は捌かれてはいない。

五体満足なギンガの姿を見て、理事長は更に困惑する。

「そ、そんなっ・・・・それじゃあ私は・・私は一体・・一体誰の腎臓を摘出したんだ!?」

「それは・・・・」

ギンガはベッドの上の布を取り払い、

「貴方の妹・・この病院の医院長よ」

理事長が腎臓を摘出した患者の正体を教える。

この手術が始める前、医院長と話をしていたギンガは隙を見て、医院長を眠らせ、彼女をこの病室に運び込んでいた。

そして、マジック等でよくある人体切断マジックのタネの様に体は医院長で顔だけはギンガはベッドの下から出して機会を窺っていたのだ。

「あっ・・・・・あっ・・・・」

ギンガからタネを明かされ、自分で自分の妹の腎臓を違法に摘出した理事長は慌てふためく。

更に自分は残った腎臓をもう一つ摘出し、妹を自分の手で殺してしまうかもしれなかった。

そんな現実を突きつけられ、理事長は過呼吸となり、目は焦点があっておらず、意識喪失手前となっている。

そこへ、ギンガが止めの一言を放つ。

「自分の妹の腎臓を切り取った気分はどうですか?・・・・今まで貴方に腎臓を切り取られた人やその人の家族の気持ちが分かりましたか?」

ギンガの言葉を聞き、衝撃を受け足取りもおぼつかない理事長は妹の腎臓が入っているポットにぶつかった。

彼がぶつかった事でポッドは倒れ、中に入っていた腎臓も保存液と共に床にぶちまけられた。

そして、理事長の目にはその腎臓が目に入った。

これまで何度も見慣れてきたはずの臓器にも関わらず、それを見た理事長は吐き気を催し、床に胃の中のモノをぶちまけた。

「自分の肉親が切り刻まれて、漸く御自分のやった事に気がついた様ですね・・・・愚かな・・・・」

ギンガは理事長に対し、そう吐き捨てると、拘束されていたシルビアを助ける。

助けられたシルビアは思わずギンガに抱き付く。

その後、理事長は駆けつけた管理局員の手によって逮捕され連行されていった。

そして、兄の手によって腹を捌かれた医院長は当直していた別の医師の手によって、閉腹された後、局員の監視の下、入院となり、病状が回復した後、逮捕される予定である。

マリエルが見た臓器バイヤーも理事長と医院長の二人が逮捕された後、すぐに逮捕された。

 

事件が解決した後、とある喫茶店にて今回の事件の関係者が集まっていた。

その中、シルビアは頬を大きく膨らませ、その様子から彼女が不機嫌である事が窺えた。

「えっと・・・・」

「あはは・・・・」

ギンガとマリエルが顔を引き攣らせている。

「むぅ〜あの夜、バイヤーからの電話はマリエル先輩からの電話だったなんて・・・・」

シルビアの言う通り、あの日の夜理事長の下にかかってきたバイヤーからの電話はマリエルがかけたものだった。

彼女はあの時、理事長とバイヤーとの会話をICレコーダーに録音しており、その中から、バイヤーだけの声を拾い、コンピュータにて編集し、理事長に電話をかけていたのだ。

つまり、あの時の緊急手術はギンガとマリエルの計画の内だった・・・・。

しかし、その件に関して、シルビアのみこの計画を聞いていなかったのだ。

そのため、シルビアは仲間外れにされた事に対し、不機嫌になっていたのだ。

「い、いや・・でも、『敵を欺くならまず味方から』って言うじゃない・・・・」

「そ、それにシルビアが知らなかったから理事長も騙せたわけだし・・・・」

「むぅ〜」

ギンガとマリエルの宥めにもシルビアは不機嫌のまま・・・・。

こうして二人はシルビアの機嫌をなおすのに、苦労した。

 

事件を解決させたギンガとマリエルはミッドへと戻った。

ギンガは今回の事件において、医療について警戒しなければならないと思ったのと同時に健康にも気を付けなければならないと思った。

そして・・・・。

「なんで俺が健康診断(人間ドック)にいかなきゃならないんだ?」

ミッドの総合病院にて、良介は健康診断(人間ドック)を受けさせられていた。

自分(良介)がミヤと共に仕事で地球に行っている間にギンガの方も他の世界で何やら自分の代わりに依頼を受けてきた様なのだが、その世界から帰って来たギンガに突然、「健康診断へ行け」と言われ、アリサとミヤもそれに賛同し良介は強制的に健康診断(人間ドック)を受診する羽目になった。

受診後、雑誌を読みながら結果を待っている時、

「うぅ〜酷い目にあったッス・・・・」

涙目のウェンディと呆れ顔のノーヴェがロビーに現れた。

「おっ?おーい!!ノーヴェにウェンディ!!」

良介が声をかけると、二人は良介の姿に気づいた様で近づいてくる。

「どうした?何故、ウェンディは泣いている?」

「あぁ〜・・・・ウェンディの奴、虫歯になってな・・・・」

「うぅ〜」

(戦闘機人でも虫歯になるのか・・・・)

「それなのに歯医者には行かないってごねてな・・・・」

「それで、ノーヴェが強引に連れてきたと・・・・」

「ああ。そんで治療はしたんだが・・・・」

「うぅ〜」

「治療が怖かったんだ・・・・」

「うぅ〜痛かったッス・・・・」

虫歯の治療が痛くて泣いているウェンディだが・・・・。

(虫歯の治療よりも今まで痛い目に遭ってきたような気もするのだが・・・・どちらかと言うとそっちの方が痛くないか?)

まだ、管理局と敵対していた頃、六課との戦闘におけるダメージの方が、痛いだろうと思う良介だった。

「うぅ〜今日は厄日ッス」

ウェンディの厄日発言を聞いた良介は、

「そういえば、ウェンディの誕生日はいつだ?」

ウェンディの誕生日を彼女に尋ねた。

「突然どうしたんッスか?」

「この雑誌に載っている占い・・結構当たるって評判なんだよ」

「ドクターによれば、アタシの稼働日(誕生日)は・・月の・・日って事になっているッス」

一応彼女達数の子のメンバーは稼働した日=誕生日となっており、それはギンガとスバルも同じだった。

「えっと・・・・」

ウェンディの誕生日を聞いた良介は、

「あっ、確かに今日のウェンディの運勢はあまりよくないな・・・・」

「えぇ〜!!マジっすか?」

「ああ」

証拠と言わんばかりに雑誌に載っている占いコーナーを見せる良介。

「あぁ〜本当ッス・・・・」

よく当たる占いで、今日の自分の運勢があまりよくない事に気落ちするウェンディ。

「何言ってんだ?占いなんて当たる訳ないだろう?」

と、強気なノーヴェ。

彼女は占いなんてものは信じてはいない様子・・・・。

「あっ、でもノーヴェの運勢も今日は良くないッスよ」

姉妹だけあってウェンディはノ―ヴェの誕生日もちゃんと知っており、自分の運勢を確認するのと同時にノーヴェの今日の運勢も調べた様子。

「だから!!アタシは占いなんて信じないって言っただろう!!ほら、もう帰るぞ!!」

「それじゃあ、リョウスケさんバイバイッス」

「おう。気を付けて帰れよ。それから、ウェンディはちゃんと歯磨けよ」

二人は病院から帰って行った・・・・。

 

スバルは明日からの休みを実家で過ごそうと隊舎から実家への帰宅の途についていた。

すると、スバルの前方にノーヴェとウェンディが立ち止まっていた。

「あれ?あそこに居るのは・・ノーヴェとウェンディだ。何しているのかな?」

二人はなにやら揉めているようだが、周りの目も気にせずにノーヴェがウェンディにいきなりキスをした。

因みにこの時、ノーヴェの口元にはスズメバチが止まっていた。

キスはスズメバチを通して行われたため回数的にはノーカウントである。

そしてウェンディとのキスによりハチは押し潰されて死んだ。

「ちょっ、ノーヴェ・・いきなり何するんッスか!?」

「すまん。パニくった・・・・」

ノーヴェとウェンディの間に不穏な空気が流れている。

そしてそれを横目から見ていたスバル。

「・・・・」

黙っているスバルの存在にノーヴェとウェンディは気づいた。

「す、スバル」

「ちょっと待って!!違うんだコレは!」

「だ、大丈夫・・誰にも言わないから//////

スバルは冷静に言うが、体は正直で軽く引いている。

「ハチがいたから! しょうがねえだろ!?」

「そ、そうッス!!ハチのせいだったッス!!」

ノーヴェとウェンディが必死に弁解する。

「わ、わかるよな!?」

「・・・・」

ノ―ヴェがスバルに尋ねると、スバルは無言のまま突然ポケットから財布を出し、そこからお札を一枚取り出すと、

「はい」

ノーヴェに差し出す。

「何故金を払う!?」

「意味が分からないッスよ!!」

スバルの行動に声をあげるノーヴェとウェンディ。

「ま、まぁよかったじゃん、ハチでカバーされて。多分、ファーストキスにはなってないと思うよ//////

スバルは取り出したお札を自分の財布へと戻し、先程見た光景を口にする。

「・・・・」

「・・・・」

ノーヴェとウェンディの間に沈黙が走る。

「状況がわかってんなら先に言えよ!」

「ぐはぁっ!!」

そしてノーヴェは拳を振り上げてスバルを殴った。

どうやら、スバルも今日は厄日だった様だ・・・・。

倒れている道端で倒れたスバルを放置して、家を目指すノーヴェとウェンディ。

「うぅ〜やっぱり今日は厄日ッス・・・・ノーヴェも厄日ッスね」

虫歯と先程のハチの件から改めて今日は占い通り、厄日だと実感するウェンディ。

「バカヤロー! あんなものただの偶然だ!」

あくまで占いは信じないと言うノーヴェ。

そこへ、

 

ブゥーン・・・・ピタっ

 

「あっ!?」

またしても、ノーヴェの口元にスズメバチが止まったのだ。

ノーヴェは黙ってウェンディに顔を近づける。

「だからなんで!?なんで!?こっち来るんッスか!?」

そんな中、

「・・・・」

買い物帰りなのか、今度はデェイチが買い物籠をぶら下げた状態で二人をジッと見ていた。

「っ!?」

「っ!?」

ノーヴェとウェンディがデェイチの存在に気付いた。

「・・・・」

デェイチは買い物籠の中から殺虫スプレーを取り出して、無言で二人に吹き掛けた。

その瞬間にノーヴェとウェンディの意見はリンクした。

((占いって怖いわぁ))

何とも言えぬ空気がナカジマ家の近くで渦巻いていた。

 

 

おまけ

 

グリフィス君

 

ある日の昼休憩の時間。

六課の食堂にはやて、ルキノ、シャリオの三人の姿があった。

「でな、この前グリフィス君とカラオケにいったんやけど、そこで困ったのが、グリフィス君、カラオケで童謡ばっかり歌うんよ」

はやてがこの前、仕事上の付き合いで行ったカラオケボックスでの出来事を二人に言う。

「えっ?何ですか其れ?ギャグ?」

「いや普通に好きらしいで」

「意味わかりませんね」

ルキノが呆れる様に言う。

「そういえば、グリフィス君ってさ、キウイが苦手らしいんですよ」

すると、今度はシャリオがグリフィスの苦手な食べ物を言う。

「キウイ?」

「えっ、なんで?」

「小学校の頃、初めて食べたらしいんだけど、なんと丸かじりして外皮の毛が口の中に残ってえらい事になったらしいですって」

「ハハハ・・・・アホや!!」

「確かにアホですね」

シャリオの話を聞き、爆笑するはやてとルキノ。

「以来キウイと聞くだけで口がこんな風になるらしいですよ」

シャリオはオチと共にキウイと聞いた時のグリフィスの顔真似をした。

「そういえば私、グリフィス君と小学校一緒なんですけど、初めて親に携帯買ってもらってすごい喜んでいたんですよ。でっ、何を思ったか部屋暗くして『今からこの携帯にかけろ』って言うんですよ」

「んで、どうなったん?」

「それで私が『何しているの?』って聞いたら、『見ていろ、ここに電気が走るから』って答えたんですよ。・・・・どうやら携帯の電波が目に見えるものと思い込んでいたようです」

「ハハハ・・・・アホだ!」

「底知れんアホや!ハハハハハハ・・・・」

ルキノの話を聞き、シャリオもはやても大爆笑。

「そういえば、以前グリフィス君にいたずらした事がありましたね・・・・」

シャリオが昔を思い出すかのように語り出した。

「え? 何々?」

「何やったん?」

「小学校の頃、クラスの女子の上履きとグリフィス君の上履きを交換したんですよ・・・・」

「うわぁ・・・・」

「ひどい事するなぁ・・・・」

「いえ、そこまではよかったんですけど・・・・」

「なんや?」

「実は・・・・二人とも気付かないまま卒業しちゃったんですよ・・・・」

「ハハハハハ!」

「流石、グリフィス君や!!」

「気づかないの!?」

「いや、ちゃうねん。いたずらが効ないんよ、アホだから!」

「ハハハハ・・・・」

そんな女子たちの会話を食堂の外でグリフィス本人が聞いていた。

自分の恥ずかしい過去、黒歴史を暴露され、笑いのネタにされていたことが悔しいのか、彼は握り拳を作っていた。

そして、グリフィスは握り拳を解くと、何食わぬ顔で食堂へと入ってきた。

「ど、どうも・・・・」

「どうも」

「お疲れ様です」

グリフィスには気まずい雰囲気があったが、女性陣にはそんな雰囲気など微塵も無く、普段通りの様子だ。

そんな中、

「あっ、そういえばグリフィス君のとっておきの情報があってさ!」

シャリオが思い出したかの様にグリフィスの話を再開し、

「えっ?何々!?」

「何ですか?」

はやてとルキノはその話を聞き入る。

そんな女性陣の態度に対し、

(本人、目の前にしてまだ続けるの!?)

と、心の中でグリフィスは突っ込んだのと同時に存在をスルーされた感でショックを受けていた。

 

 

あとがき

グリフィス君、本編でここまで弄られキャラではないと思いますが、影が薄いので、こんな設定もアリかな?と思って書きました。

では、次回にまたお会い致しましょう。