九話 ケンリョクシャノラクジツ ヨチョウ
「ミッドよ!!俺は帰ってきたぁー!!」
次元航行船発着場で両手を天高く伸ばし叫ぶ男、宮本良介。
「はいはい、バカなマネはそこまでにして帰るわよ」
そんな良介の行動を呆れた様子で言う助手のアリサ。
「つ、疲れたですぅ〜」
長旅と度重なるユニゾンで魔力がスッカラカン状態のユニゾンデバイス・ミヤ。
彼女は指定位置となっている良介の上着のポケットの中で既にウトウトし始めている。
ミミズ退治のため、一ヶ月以上ミッドを離れていた宮本家御一行がようやく無事ミッドに帰還した。
ミッドにある自宅兼事務所に帰った宮本家一行は、疲労の為、流石のアリサも夕食を作る元気は無く、そこで夕食はコンビニの弁当やインスタント食品で早々に済ませて、明日からの仕事にそなえ、今日は早めに寝ることにした。
翌日、アリサが空間パネルを操作して、メールのチェックと情報収集を行っていると、気になる掲示板の記事があった。
「ちょっと、良介、これ見てコレ!!」
「なんだ?アリサ?なにか変な依頼でもきたのか?」
「コレよ!コレ!」
アリサが声をあげながら空間パネルに表示されている掲示板のある記事を指さしている。
「ん?」
良介が指差されている記事を読んでいくと、次第に良介の表情が険しいものに変わっていった。
「なんだ!?これは!?」
「酷いと思わない?」
掲示板にはギンガに対する誹謗・中傷の記事が書かれていた。
『108部隊のギンガ・ナカジマは無抵抗の一般市民に暴力を振るう最低の局員だ!』
『皆さんは考えられますか?こんな最低な奴がなぜ正義の時空管理局局員をやっているのかを!?』
『殴られた絵描きの
A氏は語る「ちょっと文句を言っただけで、思いっきり殴られました。あんな暴力的な局員を見るのは初めてです」』
『衝撃!!ギンガ・ナカジマの正体は人間ではなく実は機械人形だった!!』
『ギンガ・ナカジマは実は広域犯罪者、ジェイル・スカリエッティと密かに内通しており、彼の脱獄と
J・S事件の再来を起こそうとしている!!』
などと、書かれており、コメント欄にも
「サイテー」
「死ね!!」
「それでも局員か!?」
「さっさと辞めちまえ!!」
「こんな奴さっさと逮捕しろよ!!」
「俺が天誅を下してやる!!」
などの誹謗・中傷の嵐。
「一体なんだよ、これは!?どういうことだ?何でギンガが!?」
余りにも酷い記事の内容に声をあげる良介。
「わからないわよ!!でも、先月の終わりごろから掲示板に書かれ始めているの」
「ギンガがあの変態ドクターと内通しているだと?バカバカしい!!」
「それが、状況証拠だけでは一概にそうともいえないの・・・・」
「はぁ!?それはどういうことだよ!!アリサ!?」
アリサは自身がまとめた情報と、この掲示板に「これが証拠の事実だ」と書かれた記事を元に以下の事を良介に説明した。
ギンガの出生が管理局の忌み子ともいわれる戦闘機人であること。
J
・S事件の際、洗脳されていたとはいえ、スカリエッティ側についていたこと。(ただし洗脳されていた事実は記事には書かれておらず、スカリエッティ側の戦闘機人と行動を共にしていた事と、その画像写真が掲示板に掲載されている)
J
・S事件の事件終息後、ギンガが刑務所に収監されたスカリエッティに面会へ行っていること。(面会に行った事実は記事に書かれているが、面会内容は書かれていない。しかし、明らかに隠し撮りしたかのような面会写真が掲示板に掲載されている)
現在、ギンガがスカリエッティ側だった戦闘機人「ナンバーズ」の更生担当官を務めていること。
(場所は明記されていないが、これも明らかに隠し撮りされた写真が掲示板に掲載されている)
J
・S事件後の混乱で情報管制が甘くなり、一部の情報が外に漏れていたのだ。それにギンガが決戦時、数の子達と行動を共にしていた映像はスカリエッティが大々的に管理局へ流していたため、誤解を生む大きな要因の一つをなっている。
これらの情報を知った、事情を全く知らない一般人から見ればギンガがスカリエッティと内通していると思い込むのも無理はなかった。
更にギンガが露天商の絵描きを殴ったのは動かしがたい事実。
当時、ギンガの精神はやや不安定だったのだが、被害者側にとってはそんなの関係なかった。
自分達がミッドを留守にしている間にこんなことがあったなんて・・・・ギンガは!?ギンガは今どうしている!?こんな記事を書かれて平然としていられるだろうか?
掲示板の記事で此処まで書かれているのだ。
恐らくギンガ自身にも何かしらの誹謗・中傷が直に有った筈だ。
そう思った良介はギンガの事が心配になり、居てもたっても居られず玄関へと走る。
「ちょっと!!良介、どこ行くの!?」
突然走り出した良介にアリサは慌てて行き先を聞く。
「ギンガの所だ!お前はこのデマを書いた奴をつきとめておいてくれ!!」
「分かったわ!!」
アリサは引き続きこの中傷を書き込んだ情報源を探るべく、空間パネルとキーボードを操作し始めた。
一方、家を飛び出した良介はギンガが所属する部隊、
108隊舎に来ていた。この目でギンガの状態を把握するには、此処に来るのが一番早いと判断したのだ。
何せ、父親のゲンヤが部隊長を務めている部隊だからだ。
しかし、
「だから、ギンガに会わせてくれって言ってんだろう!!」
「ですからナカジマ陸曹はただ今任務中で此処には居ません」
「だったらその任務先ってのを教えろ!!数の子共の世話をしてんだろう?」
良介はギンガからナンバーズの更生担当官になることは聞いていたが、その更生場所までは知らなかった。
「一般の方にお教えすることは出来ません」
「俺はギンガの知り合いだ!!ギンガの奴とはこれまで何度も一緒に任務をこなしてきている!!」
「それでは嘱託証明書を提示してください」
「そんなもの持ってねぇ!!」
「では、お教えすることはできません」
「ぐぬぬぬぬ〜」
隊舎の受付で足止めを食らっていた。
しかもギンガは此処には居ないと言う。
こうなれば、ギンガでは無く、父親であるゲンヤに話を聞こうとして、今度は受付の局員にゲンヤを読んでもらおうとしたその時、
「何を騒いでいるのかね?」
受付に誰かが現れた。
「あ、カミンスキィー一佐、こちらの方がナカジマ陸曹に会わせてくれとしつこくて・・・・」
受付の局員は困りましたと言う感じの口調でその場に来たもう一人の局員に事情を説明する。
「ふぅ〜ん・・・・誰だい君は?ギンガ君に何か用が有るみたいだったけど?」
妙にキザったらしい男性局員が良介に近づいてきた。
「そういうお前は?人に名を聞くときはまずはテメェから名乗るのが筋だろう?キザ野郎」
良介は気が立っているし、この目の前の男性局員が何となくだが、生理的に受け付けないと言うか、気に食わない感じがした。
「おっと、それは失礼。僕はナギ・カミンスキィー、ここの部隊には研修と言う形で所属している。で、君は?」
「俺は今、急いでんだよ。名前なら今度ゆっくり聞かせてやる!!」
「まぁ、別にいいけどね・・・・」
ナギは良介を小馬鹿にした視線で言い、良介がここに来た理由を尋ねる。
「確か、ギンガ君に会いに来たって言っていたね。ひょっとして君もギンガ君に何かひどい目にあったのかい?彼女はすぐ手が出る凶暴な女だからねぇ」
「はぁ?何言ってんだ?お前?」
良介は「こいつバカか?」と思いつつ目の前のナギという男を睨む。
(同じ部隊にいるにも関わらず、コイツ、ギンガの事を守ろうともしていないのか?それどころか反対に貶めようとまでしていやがる・・・・それに馴れ馴れしく『ギンガ君』なんて呼ぶなよキザ野朗)
良介が今まさに心の中で思った事を言おうとしたその時、
「受付で何を騒いでいる?」
騒ぎを聞きつけたのか、部隊長でもあり、ギンガの父親であるゲンヤが受付のロビーに現れた。
「やぁ、ゲンヤさん。この人がどうしてもギンガ君に会いたいと騒いで居るんですよ」
ロビーに居る良介とナギを交互に見た後、ゲンヤは、
「・・・・良介、とりあえず今日は帰れ」
と、良介を門前払いした。
「なっ!?どうしてだよ!!とっつぁん!!」
「お前は、アポも取っていなければ、嘱託証明書も持ってねぇ。つまり今日のお前は完全な一般人だ。一般人を無闇やたら局の施設に入れとくわけにはいかねぇ。・・帰れ」
「くっ・・・・見損なったぜ、とっつぁん・・・・」
この場でこれ以上もめても面倒だと判断した良介はゲンヤに捨てセリフを吐き、渋々隊舎を後にした。
108
部隊隊舎を後にした良介は何時ぞやギンガと食べ歩きをした屋台通りのベンチに座り、ボンヤリと空を眺めていた。そこへ、
「みぃ〜やぁ〜もぉ〜とぉ〜さぁ〜ん!」
「ぐはっ!!」
突然後ろから声をかけられ、抱きつかれた。
良介が振り返るとそこには私服姿のスバルがいた。
「なんだ、スバルか・・・・」
「えへへへ、お久しぶりです宮本さん。いつミッドに帰って来たんですか?」
「昨日・・・・」
先程のゲンヤの態度が許せなくぶっきらぼうに答える良介。
「ねぇ、良介さん今日暇?暇ですよね?」
「お、おい!」
「実は私、今日は非番なんですよ。ですから今日は私に付き合ってください!!」
良介の腕をとり強引にベンチから立たせるスバル。
(こいつ何考えてんだ?ギンガが大変な時に)
スバルに連れられ、ギンガの時と同じように食べ歩きに参加させられる良介。
最初は先程のゲンヤの態度とスバルの行動に理解できず、イライラして分からなかったが、やがて冷静さを取り戻していくと、いつものスバルとどこかが違っている違和感に気がついた。
顔は笑顔を浮かべているのだが、それが無理をしている様に思えた。
根が正直者なスバルなので、隠し事など無理があったのだ。
「おい、スバル」
「ん?なんですか?宮本さん」
テーブルに向かい合い特大のホットドックに齧り付いているスバルに良介は単刀直入に聞く。
「お前、何を隠している?・・何を無理している?」
「えっ!?な、なんのことですか?」
確信を突かれ、動揺を露にするスバル。
顔からは汗が一筋流れている。
これは明らかに自分は何かを隠していますと言っている様なものである。
「惚けるな。お前とは、一体何年の付き合いになると思ってんだ?お前はすぐに顔や態度で出るから丸分かりなんだよ」
「・・・・・・」
良介に自分は隠し事には向いていない体質だと指摘されスバルは気まずそうに黙る。
「やっぱりギンガのことか?」
良介の口から出た「ギンガ」という名前を聞き、ビクッとスバルの体が震える。
この事からスバルが無理に普段通りの体裁を保っている理由は十中八九、ギンガの事だと良介は確信した。
「正直に・・包み隠さず話せ・・・・俺がミッドに居ない間に何があったのかを全てだ・・・・」
全てを射抜くような鋭い良介の視線にさらされ、スバルは全てを語った。
「う、うん・・・・実は・・・・・」
スバルの話を聞き、良介は必死に物に当たる怒りの衝動をなんとか抑えた。
スバルから聞いた話ではさっき108部隊隊舎で会ったキザ野郎こと、ナギがしつこくギンガにアプローチをかけてきたこと、そしてある時、ナギが、言い放った一言がギンガを憤慨させたことだった。
それはいつものようにナギがしつこくギンガにアプローチしていたとき、
「そんな安物のペンダントなんかより、僕がもっと君に似合うジュエリーをプレゼントするよ」
と、以前良介から買ってもらったペンダントをバカにし、
「噂で聞いたんだけど、君、ある男に好意を持っているらしいじゃないか。でもその男、魔法センス、ゼロのアウトロー気取りのロクデナシだそうじゃないか。やめときなよ。そんな奴。僕ならそんなクズとは違い、財力も権力もある。そんなクズなんかよりも君を幸せにできるし、一生贅沢だってさせられるよ」
と、キメ顔で口説いたナギであったが、良介のことを何も知らないくせに一方的に良介を馬鹿にされたことで、今まで溜まっていたナギに対する鬱憤が爆発し、ギンガは思わずナギを殴りつけ、ナギを罵った。
そして・・・・
「お前!僕にこんなことをして、タダで済むと思うなよ!!」
と、捨て台詞を吐き、ナギはギンガにされた仕打ちを逆恨みし、親の権力と部下を使い徹底的にギンガの事を調べ上げたという。
おそらくあの掲示板の記事を書き込んだのは奴だろう。と、スバルの話を聞き良介はそう直感した。
「お父さんやカルタスさんも何とか頑張ってくれているけど・・・・・・その人の方が、階級や権力が上で上手くいかないみたいで・・・・」
「とっつぁんがか?」
「うん、実は今日、私が宮本さんに会いに来たのもお父さんに頼まれたからなんだ・・・・隊舎だとあのナギって人に盗聴される恐れがあるからって・・・・それで、他の部隊に所属している私に伝言役を頼んだの・・・・『良介ならなんとかしてくれるだろう』って・・・・」
スバルの言うとおり、108部隊は今やナギに影から支配されつつある状況であった。
その理由はやはり、ナギの親が本局中将なのと、ナギ自身が部隊長のゲンヤよりも階級と保有する権力が上なためである。
「・・・・・」
「宮本さん、ギン姉を助けてあげて!!このままだとギン姉は・・・・ギン姉は・・・・」
涙を流しながら良介に縋るスバル。
「分かった。クイントとの約束があるんだ。ギンガは必ず俺が守ってやる・・助けてやるから・・だからそんな顔をするな・・お前はバカみたく笑っている方が似合うからな」
良介は椅子から立ち上がり、ニッと笑みを浮かべながらグシャグシャとスバルの頭を撫でる。
「う、うん。ありがとうございます。宮本さん。でも、バカっていうのはヒドイですよ〜」
スバルは涙を浮かべながらもぎこちない笑みを浮かべる。
「とにかく、俺はまず、あのキザ野郎の情報を片っ端から集める、お前も何か動きがあったら連絡しろ」
「うん!!」
良介は自宅に戻るため、歩き出す。
帰り道の途中で、ふと、立ち止まり空を見上げる。
(とっつぁん、さっきの言葉は撤回するぜ。・・・・クイント、生き返ったからには俺はお前との約束を守り続けるぜ・・・・ギンガ、待っていろ必ずお前を助けてやるからな・・・・)
再びギンガを救う決意を胸に宿し、良介は歩きだした。
あとがき
ミッドに帰ってきた良介に休息の時間はない。
再びギンガを救うため、良介は動き出す。
次回はこの物語の一つの山場を迎える予定です。
では、次回でお会いしましょう。