八十九話　ダイリノヒ　捜査官ギンガ

時系列は、良介とミヤが地球で、昔良介が世話になったと言う施設長の友人の依頼を受け、調査に出掛ける日に遡る。

「それじゃあ、行ってくる」

「行ってくるです、ギンガ」

「いってらっしゃい、良介さん、ミヤさん」

玄関先でギンガは良介とミヤの二人を見送り、二人は調査先の地球へと向かっていった。

二人を見送ったギンガはアリサと共に家の掃除をしていた。

そこに、

ピンポーン

来客を知らせるインターフォンが鳴った。

「はい？」

ギンガが応対に出ると、そこには、

「こんちにはギンガ、良介君は居る？」

「マリーさん・・・・」

其処には、自分とスバルの定期メンテナンスを担当するマリエル・アテンザ技術官と一人の若い女性が居た。

マリエルが今日此処に来たのは、良介に依頼をしたいからだと言うが、ついさっき良介は出掛けたばかり・・・・。

いつ戻るかは依頼内容と良介の手腕次第・・・・。

その話を聞いたマリエルの連れの女性は、深刻そうな表情をしたので、ギンガは『取りあえずお話だけでも』と、マリエルとその女性を事務所に招いた。

「ギンガ、紹介するわ。学生時代の頃の後輩で、第五管理世界で看護師を務めている、シルビア・オルティアよ」

マリエルから紹介を受けた女性、シルビアはギンガにペコッと一礼する。

ギンガも同じくマリエルの後輩であるシルビアに一礼する。

「それで、マリエルさんの依頼と言うのは？」

「ああ、依頼をしたかったのは、私じゃなくて、シルビアの方・・・・」

マリエルがシルビアの方へと視線を向ける。

そして、シルビアは良介への依頼内容をギンガに話した。

「その・・・・実は、妹の・・・・妹の仇を討ってもらいたくて・・・・」

「「仇！？」」

シルビアの依頼内容に思わず声を上げるギンガとマリエル。

マリエルもまさか後輩の依頼が、妹の仇討ちとは思わなかった様だ。

「えっと・・・・どういう事なんでしょうか？」

いくらなんでも、良介に仇討ち・・・・つまり、人殺しはさせたくないと思っていたギンガは、シルビアから詳しく内容を聞く事にした。

「オルタリア総合病院？」

「はい・・・・」

シルビアは、自分の勤め先である総合病院の名前を出した。

「知っているわ。確か第五管理世界である意味有名な病院よね？」

「は、はい・・・・」

「ある意味有名？」

ギンガの質問にマリエルが答えた。

第五管理世界『アライメント』にあるオルタリア総合病院・・・・その管理世界でも最新の医療設備を誇る病院である。

ただし、その設備の維持費の為なのか、治療費がとんでもなく高いと言う。

「実は、昨年私の妹がその病院に入院したんです・・・・その・・・・虫垂炎で・・・・」

「えっ！？でも、その病院って治療費が高いんですよね？」

「はい・・・・でも、その病院が私の勤め先と言う事で、幾らかは割り引いてもらったんです・・・・」

シルビアの話では、本当は治療費の高い病院だが、そこの病院関係者と言う事で治療費が幾らか割り引いてくれて、普通の利用者と比べ、少しは安く利用が出来たみたいだ。

ならば、治療費に関係する問題では無い様だ。

すると、医療問題によくある手術ミスとかであろうか？

そう思い、ギンガはシルビアに尋ねた。

「もしかして、妹さんは手術ミスで命を落とされたとか・・・・？」

「いえ、手術事態は簡単なモノで、妹は命を取り留めました・・・・」

シルビアの話ではどうやら、手術ミス関係でもない様だ。

「では、妹さんの身に何が有ったんですか？」

「・・・・」

ギンガがシルビアの妹の身に何が有ったのかを尋ねると、シルビアは、俯いてしまう。

「シルビア、もし、言いにくいのであれば、宮本さんが居る時にまた出直す？」

マリエルがシルビアにそう語りかけると、

「いえ、大丈夫です・・・・」

シルビアは最後まで語る事にした。

「実は、妹は虫垂炎で入院したにも関わらず、健全な筈の腎臓を片方、取られたんです・・・・」

「腎臓を！？」

「はい・・・・うちの病院は、理事長と医院長が・・・・二人の兄妹で経営しているんですが・・・・実は、その二人が共謀して入院患者や外来の外科手術患者から健全な腎臓を勝手に摘出して、その腎臓を闇ルートで密かに売りさばいている噂が有るんです・・・・特に移植手術が盛んな病院とかに売りさばいて私腹を肥やしていると言う黒い噂が・・・・」

「臓器密売・・・・」

ギンガ自身も陸の捜査官を務めているため、そう言った犯罪の類はどんなものか知っている。

確かに臓器移植を必要とする患者の人助けになっているかもしれないが、犯罪は犯罪であり、しかもドナーでない患者から臓器を摘出し、私腹を肥やすとは医師の風上にも置けない行為である。

「病院のトップ二人が主犯のため、カルテは偽造され、証拠は何一つ出ないため、管理局の捜査官も手が出せないんです」

「成程・・・・」

シルビアの話はギンガが思った通りの展開だった。

「妹の他にも大勢の人が罪も無く体を切り刻まれて、健康な部位をとられているんです・・・・そして、そんな医者の風上にも置けない奴が弱い人を食い物にして私腹を肥やしていく・・・・それがどうしても我慢できなくて・・・・」

シルビアは看護師として、人を助ける仕事に誇りを感じていた。

それにも関わらず、同じ、医療に従事する医者が、本来助ける患者の身体を自らの懐を温めるために、切り刻むなんてとても許せることではなかった。

しかもその被害者の中には自分の妹が含まれているのだ。

それ故、シルビアは何としても理事長と医院長の悪事を解き明かしてほしいと思い、先輩であるマリエルに相談し、マリエルから良介の事を聞き、今日良介の下を尋ねて来たのだ。

しかし、その肝心の良介は、今日は留守で何時戻るかは分からない・・・・。

シルビアが落ち込むのも無理はない。

こうしている間にも、またどこかの誰かが、二人の身勝手な野望の為に、臓器をとられているかもしれないのだ。

それはギンガも同じく、シルビアの話を聞いて黙ってはいられなかった。

同じ姉として、妹の臓器がそんな下らない理由で奪われたのだ、ギンガもその理事長と医院長の二人に怒りがこみ上げて来た。

「シルビアさん！！」

「は、はい・・・・」

突然ギンガがシルビアの手を握り、彼女に詰め寄る。

「その依頼、私が受けさせて貰います！！」

「えっ！？」

「ちょっとギンガ、本気なの？」

「はい！！そんな悪党をのさばらせておくなんて管理局の捜査官として看過出来ません！！」

「は、はぁ・・・・」

「シルビアさん！！一緒にこの二人の悪事を暴きましょう！！」

と、ギンガはシルビアの依頼を受ける気満々であった。

シルビアとしても、あの二人の悪事を暴くため、依頼を受けてくれる事はありがたい事だし、目の前に居る管理局の捜査官（ギンガ）は調査をしてくれる気満々なので、この際、彼女に依頼しても良いかと思った。

何せ、目の前に居る彼女は管理局の捜査官らしいので、こういった犯罪捜査に関しては、自分よりもプロだろうと判断した。

こうして、二人の利害関係は一致し、ギンガはシルビアの依頼を受ける事なった。

そして、ギンガ一人だけでは心配だと言う事で、マリエルもギンガのバックアップ役につくことになった。

ギンガは事と次第をアリサに伝え、良介の代わりに自分が、第五管理世界へと向かう旨を話し、その間桜花の面倒を見てもらえないか頼んだ。

アリサもギンガの話を聞き、その二人が許せなかったのか、快く桜花の面倒を見てくれることになった。

そしてギンガは娘の桜花の事をアリサに託し、シルビアとマリエルと共に、第五管理世界『アライメント』へと旅立つことになった。

そして、出発当日・・・・。

「ごめんね、桜花・・でも、すぐに戻るから、アリサさんと待っていてね・・・・」

第五管理世界へと出発の日、ギンガはアリサに抱かれる桜花に暫しの別れの挨拶をする。

桜花はギンガがこれからどこへ行き何をするのか、理解できていない様で、ギンガに愛嬌を振り撒いている。

どうやら、以前頭を打ち、戦闘機人化したギンガとの一件は忘れてくれたようだ・・・・。

名残を惜しみつつ、ギンガは宮本家を後にし、マリエルと共に次元航行船乗り場へと向かい、シルビアが待つ第五管理世界『アライメント』へと向かった。

第五管理世界『アライメント』へと着いたギンガとマリエルは早速、行動を開始した。

まず、マリエルが作成した診断依頼書にて、ギンガをオルタリア総合病院へと潜入させた。

名目は検査入院と言う形だった。

医院長は、管理局の本局技術官のマリエルの肩書きにすっかり信用した様子で、怪しむことなくギンガの入院を許可した。

それから数日後・・・・。

「どうでしたか？先生？」

ギンガは診察室にて、医院長の診察を受けていた。

普通ならば、一般の外来患者であるギンガが、医院長自ら担当医になる事は無いのだが、医院長は女性で、ギンガも同じく女性・・しかも、管理局の本局所属の技術官からの依頼と言う事で少しでも管理局・・しかも海と呼ばれる本局へ少しでも売り込みたいと言う下心があった。

「そうですね・・・・特に、異常は認められませんでしたが・・・・」

「でしたが・・・・？」

医院長はやや深刻そうな顔をする。

「・・・・えっ！？」

医院長の話を聞き、ギョッとした表情をするギンガ。

そして、

「ど、どこです？どの部分が悪いんですか？」

ギンガが慌てて内臓のどの部分が悪いのか医院長に尋ねると、

「・・・・腎臓の部分がちょっと・・・・・」

医院長がギンガの質問に答えると、

（やっぱり来たか・・・・）

案の定、医院長はギンガの腎臓が悪いと答えた。

医院長の答えにギンガは内心、ニヤリと笑みを浮かべた。

どうやら、自分の腎臓は、医院長のお眼鏡にかなった様だ。

「うーん・・・こう見えても健康には自信が有ったんですが・・・・」

「えてしてそう言う方が危ないのですよ」

「はぁ・・・・」

「もしかしたら、ＪＳ事件の後遺症が今になって出てきたのかもしれません」

（そんな訳ないでしょう。しかも、後遺症が出てくるのが腎臓って、どんな後遺症ですか！？）

医院長は、患者を心配する優しい女医を演じている。

しかし、その態度にギンガは心の中でツッコム。

「分かりました。マリエルさんに連絡して、急いで検査の用意をしてもらいます」

ギンガがミッドで検査を受けようとする旨を伝えると、

「あっ、その点でしたらご心配には及びません。宮本さんの検査は全て当院が受け持ちます」

医院長が、この後の検査も此処で受け持つと言う。

折角見つけた極上である金の卵を逃したくはないと言う腹なのだろう。

しかし、それはギンガにとっても好都合の展開だ。

「えっ！？でも、延長なんてしたら、入院費が・・・・」

入院費の事を深刻そうにギンガは言う。

何事も相手の警戒心を緩めるため、相手からその警戒を解いてもらう・・・・そのための演技である。

しかし、この最初の入院費は、マリエルのポケットマネーから支払われているため、余りマリエルには出費を重ねさせたくはないと言うのも事実。

管理局員と言う事で、この病院関係者同様、やや割引されているが、それでも費用は大きく、これ以上かさむのはギンガとしても、やや心苦しい。

「大丈夫です。延長分の入院費に関しては、全て無料で結構です」

と、意外にも医院長は延長分の入院費は無料にすると言ってきた。

「えっ！？でも・・・・本当に良いんですか？」

ギンガは遠慮がちに尋ねる。

「構いません。当院としても、之を機に管理局との縁を深めたいと思いまして、宮本さんやアテンザ技術官から何卒お伝え願えませんでしょうか？」

「は、はぁ・・・・」

理由は兎も角、延長分の入院費を払うことなく、このままこの病院に居られると言う事で、ギンガは医院長の提案にのった。

「それじゃあ、オルティア君。宮本さんを病室に案内してあげて・・・・」

「はい・・・・どうぞ、宮本さん」

医院長の傍で控えていたシルビアがギンガを病室へと案内する。

病室へと向かう通路でシルビアとギンガは声のボリュームを押さえながら、会話をする。

「狙い通りですね」

「ええ・・でも、ギンガさん大丈夫ですか？」

シルビアが心配そうにギンガへと尋ねる。

「ん？」

シルビアの質問の意図が分からず首を傾げるギンガ。

「医院長・・ギンガさんを１００％、次のターゲットにしましたよ」

「でしょうね・・・・」

シルビアの質問の意図を理解し、次のターゲットが自分自身であると自覚があるギンガ。

「大丈夫なんですか？もし、失敗したら、ギンガさんの腎臓が取られてしまうかもしれないんですよ」

「大丈夫です。決してそんな事にはなりません」

と、ギンガは自信ありげにそう言うが、やはり不安が拭えないシルビアであった。

「ほぉ・・これは素晴らしい・・・・」

「長い事、医者をやり、様々な腎臓を見てきたが、こんなにも美しく、イキの良い強靭な腎臓は初めて見た」

理事長はギンガの腎臓の写真をうっとりしながら見て、その感想を述べた。

「でしょう？コレをみすみす見逃す手は無いわよね・・・・？」

「勿論だ」

「それじゃあ、彼女（ギンガ）には、私達のお小遣い稼ぎの為に、腎臓を一つ提供してもらいましょう。・・延長分の入院費をタダにしてあげたんだし、それくらいやっても罰は当たらないでしょう」

先程ギンガを診察した医院長は爪の手入れをしながら悪びれる様子も無く言う。

「この間の娘・・・・ホラ、家で働いている看護師の妹の腎臓・・・・あの腎臓を売ったお金でクルザーが買えたものね・・・・彼女の腎臓なら、高級車と別荘を買ってもおつりが来るんじゃないかしら？」

「高級車って、お前、今月の頭に買ったばかりじゃないか」

理事長が呆れた様な口調で言うが、

「でも、もう二週間も乗ったら、飽きちゃった」

医院長は古い玩具に飽きた子供の様な口調で言い放つ。

しかし、彼女（医院長）が今乗っている車は、一般庶民ではなかなか手に入らないオーダーメードの高級車なのだ。

それを一括払いしたにも関わらず、二週間乗って飽きたと言うのは、余りにも酷い。

だが、

「全くしょうがない奴だな、お前は・・・・」

兄である理事長は、それだけで、厳重に注意する事もしないし、車を買うのも止めようともしない。

この兄、昔から妹の医院長に甘かった。

「まぁ、腎臓は一つでも生きていられる。そして私達が摘出した腎臓で他の患者も助かる」

「おまけにお金にもなる。まさに一石二鳥ですね」

「所詮患者何て、医師のモルモットであり、病院は巨大な実験室であるのだ。そして、我々医者はその世界での神なのだ」

「その通りですわね、お兄様」

二人は、我が世の春を謳歌するかのように機嫌良く笑いあった。

翌日

シルビアとギンガの二人の姿は人気のない屋上の一角にあった。

「一晩入院してみていかがでしたか？この病院の実態は？」

「『酷い』の一言ですね・・・・夕方、一般病棟にも行ったのですが、どこもスシ詰め状態の病室ばかりでした」

「その他にも、ハッキリしない病名で患者を薬漬けにし、高額の入院費、それに看護師達の中では、理事長達、脱税をしているみたいなんです。その上、臓器の密売」

「おまけに食事はマズイですからね・・・・」

二人は屋上の一角でこの病院の愚痴を言い合っていた。

本来、ギンガは管理局の局員なのだが、その様子から同じ病院で働く看護師同士が愚痴を言い合っているう様にも見える。

それにギンガは「食事がマズイ」と言うが、彼女は昨晩の夕食と今日の朝の朝食を普段通りに・・・・成人男性でも完食出来るか分からないぐらいの量の食事を食べていた。

これには、理事長と医院長も予想外で、内心「アイツどれだけ食えば気が済む！？」と毒づいていた。

「それで、理事長の予定は調べられましたか？」

「はい、コレです」

シルビアはギンガに理事長のスケジュールが書かれたメモを渡し、ギンガはそのメモに目を通す。

「フム・・・・」

（呆れた・・毎晩のように高級クラブで飲んでいるわね・・・・どういう肝臓をしているのかしら？よくアル中にならないものね）

メモを見たギンガは、そこに書かれた理事長の予定を見て、呆れた。

しかし・・・・

「あれ？・・・・此処・・・・今日の夜は予定が入っていませんね・・・・」

ギンガが指さした日にち・・今日の夜の予定が空白になっていた。

「毎晩高級クラブで飲んでいても休肝日か家族サービスでもしなきゃ・・とでも思っているんじゃないかしら？　でも理事長の家族は自分達が裕福な理由が汚れたお金の御蔭だなんて夢にも思っていないでしょうね・・・・」

シルビアは理事長の家族に少々同情を覚える。

自分達のやっている事は最終的に理事長の家庭を壊す事になるのだ。

「・・・・でも、犯罪は犯罪です・・・・見過ごす事は出来ません」

ギンガは管理局の捜査官としての意見を述べた。

シルビアと別れた後、ギンガは電話コーナーにて、マリエルに連絡を入れる。

毎週、高級クラブで酒を飲んでいる理事長が今日だけ予定が入っていないのがどうしても気になり、今日の夜、もしかしたら、理事長は何かを起こすのではないのかと思い、もし、理事長が病院を出る際、何処かに寄るかもしれない為、マリエルには病院の外を張ってもらうよう頼んだ。

そして、その日の夜・・・・

理事長は何時もの様にハイヤーを呼び、その車に乗った。

そして運転手に行先を告げ、車を走らせる。

その様子を駐車場に停めていたレンタカーからマリエルがジッと窺っていた。

そして、理事長の乗ったハイヤーの跡を尾行した。

やがて、ハイヤーは高級バーの前で停車し、理事長はその店へと入って行った。

（変ね、ギンガからの情報じゃあ、今日は飲みに行く予定はない筈なのに・・・・）

不審に思いつつマリエルも近くの駐車場に車を停め、バーの中へと入って行った。

この時、マリエルはこんな事もあろうかとちゃんと変装していた。

変装したマリエルはまず、バーへと入ると店内を見渡した。

そして、理事長の姿を見つけると、彼が座っていた席の近くの席へと座り、聞き耳を立てた。

「ようこそミスター・・・・今宵はこの世界自慢の銘酒をご堪能ください」

理事長の会話から、どうやら彼は誰かを接待している様だ。

しかし、予定帳の中にその人物との面会予定が記されていない事から、急な接待か、それとも外部の目に晒させる恐れがある予定帳に敢えて書かなかったのかもしれない。

「ところでミスター・オルタリア・・実は近々私の伝手の有る大病院で腎臓移植の手術が予定されていてね・・・・」

「ほぉ・・・・それはそれは・・・・」

「その患者と言うのが、ある大物政治家の御息女でしてね・・・・クライアントからは、『金に糸目はつけない。最高級のモノ（腎臓）を用意してくれ』と、言われてね・・・・」

（成程、あの人物が、腎臓を売りさばくバイヤーね・・・・）

マリエルがチラッと理事長達の席を盗み見るが、肝心のバイヤーの顔が良く見えない。

「その件でしたら、私にお任せ下さい。今最上級のモノ（腎臓）を持つ患者が入院しております。しかも組織適合率も抜群です。きっと、ミスターのクライアントもご納得が出来る一品の筈です」

「そうか・・・・それは楽しみだ。クライアントにも満足のいける報告が出来そうだ・・・・必要になったら其方に連絡を入れる。ただしモノがモノです。輸送中に使い物にならなくなったでは、話になりませんぞ」

「その点に関してはご心配なく、私自慢の冷凍保存装置があります。いつでも新鮮な状態でお届け出来ます」

理事長は自慢するかのように、バイヤーに言う。

（冷凍保存装置・・・・そうかっ！？患者から摘出した腎臓は、切り取った後、何処かに保存しなければならない・・・・売り渡した時に使い物にならなければ、売り物として機能しないし、一銭のお金にもならない・・・・とすると、やはりあの病院の何処かに理事長の言う冷凍保存装置と患者から摘出した腎臓が保存されている筈・・・・それを見つける事が出来れば・・・・）

マリエルは、顔の見えないバイヤーの正体を探る事を断念し、ギンガとシルビアに先程、理事長から得た情報を伝えるため、バーを出た。

そして、今得た情報をギンガに伝えた。

翌日・・・・。

「えっ！？冷凍・・保存・・・・ですか？」

「ええ、昨晩理事長に張り付いていたマリーさんが、理事長がバイヤー相手に得意そうに話していたそうです」

「確かに、摘出した腎臓を保存するには冷凍保存が一番鮮度が保てますね・・・・」

「ですから、その保存場所を見つけて、ストックされている腎臓を見つければ、動かぬ証拠になる筈です。それにもしかしたら、其処には、摘出した患者のカルテもあるかもしれません」

シルビアも何処か納得した様子で、二人の方針は冷凍保存された腎臓の発見となった。

しかし、時間は限られている。

理事長と医院長はギンガの腎臓を狙っている。

二人が行動を開始する前に、何としてでも見つけなければならなかった。

その日の夜、シルビアとギンガの二人は夜の闇と静寂が支配する夜の病院内を歩き回っていた。

その目的は勿論、患者から違法に摘出した腎臓ストックの発見にあった。

まず怪しいのが標本室・・・・。

木を隠すなら森の中・・・・。

摘出した腎臓を標本サンプルとして堂々と置いて居る可能性があったからだ。

しかし、意外にも其処は外れで、腎臓らしき臓器の標本は置いて居なかった。

その後も、探せる場所は全て探した。

人気のない場所として一番の候補である霊安室。

そこは、遺体を一時保存するための冷凍設備もあるので、其処に同じく腎臓を冷凍保存するための機械もあるのではないかと思ったが、外れ・・・・。

次に調べたのが手術室。

患者から摘出した腎臓を即座に冷凍保存するため、何処かに冷凍保存装置が置いてある隠し部屋があるのではないかと思ったが、此処も外れだった。

「これだけ大きな病院だと探す場所が多くて、中々見つからないわね・・・・」

シルビアとギンガは一時、休憩をし、病院の配置図が書かれている地図を見ながら、次に探す場所の検討に当たっていた。

「うーん・・・・でも、幾ら大きな病院でも、やっぱり人目がつくのはマズイ・・・・シルビアさん」

「はい？」

「この病院の中で、理事長と医院長以外立ち入り禁止の部屋とかってありますか？」

「うーん・・・・思いつくのは、理事長室と医院長室ぐらいですけど・・・・」

「あの理事長と医院長の性格からして、自分達の部屋に摘出した腎臓は置かないでしょう・・・・」

「うーん・・・・そういえば、地下室の一角に立ち入りのプレートが掛かった扉が・・・・」

シルビアが思い出したかのように言う。

「多分其処です！！」

ギンガは確信めいた様に言って、二人は地下へと向かった。

そして、地下の一角・・・・。

扉の前には『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたプレートが付いている分厚い扉の前に来た。

「此処がそうです」

「電子ロック・・・・かなり厳重ですね・・・・でも、此処が怪しいですね・・・・」

ギンガが電子操作盤に手を触れようとした時、

階段を降りてくる足音が聞こえてくる。

しかもその足音は此方へと近づいてくる。

「ぎ、ギンガさん。誰か近づいてきますよ。ど、どうしましょう・・・・」

シルビアが慌てたようにギンガに尋ねる。

この一角は目の前にある扉以外部屋も無く、隠れられそうな場所も無い。

まさに絶体絶命のピンチである。

（くっ、こうなれば・・・・）

ギンガは意を決したような顔をし、

「シルビアさん・・・・」

「えっ？」

シルビアへと声をかける。

「ごめんなさい」

と、いきなりシルビアに謝罪をした。

そして・・・・

理事長と医院長の二人は、地下へ続く階段を降りていた。

その目的は、何かを不明だが、二人は一路、あの立ち入り禁止のプレートが付いている扉へと向かっていた。

そんな最中、二人は自分達以外の人の気配を感じ取った。

「兄さん人の気配が・・・・」

「まさかっ！？あの部屋にっ！？」

二人は急いであの扉の場所へと向かう。

そして、そこで目にしたのは・・・・。

「シルビアお姉さま・・・・んっ・・・・」

二人の女性が濃厚なキスをしていた。

濃厚なキスをしている二人の女性・・・・。

それは他ならぬギンガとシルビアであった。

シルビアは一瞬、自分が何をされたのか分からなかったが、

「き、き、き、君達は、此処で一体何をしている！？」

思わず理事長の声で現実へと戻り、状況を理解し、顔を赤くした。

ギンガも顔を赤くしながら此処に居た訳を言う。

（どうやら、例のモノをかぎつけたわけではなさそうだな・・・・）

（その様ね・・・・）

ギンガの言葉を聞き、理事長と医院長の二人はホッとした表情を浮かべる。

「と、兎に角此処は関係者以外立ち入り禁止だ。早く出て行きたまえ！！」

「は、はい・・・・」

「すみません」

ギンガとシルビアの二人はその場を後にするが、通路の角で隠れながら、理事長と医院長の二人の動向を窺う。

その最中、

「ちょっと！！ギンガさん突然何をするんですか！？」

シルビアはギンガに先程の行動（キス）について声を潜めながら、問い詰めて来た。

「あ、あの状況では仕方なかったんです！！変な言動で彼方に怪しまれる訳にはいきませんし・・・・現にこうして上手く逃げ切れたではないですか」

シルビアとしては、あの状況から上手く切り抜け、尚且つ理事長と医院長の二人に怪しまれずに済んだのは良かったのだが、何か納得がいかなかった。

二人が言い合いをしている間に理事長が電子操作盤に番号を押しているようだが、距離が有る為、シルビアにはよく見えない。

「くっ、番号が・・・・折角中に入れるかもしれないのに・・・・」

「あっ、私見えるから大丈夫です・・・・」

流石は戦闘機人のギンガ。あれだけ離れていても、ちゃんと見えていた。

「凄い視力ですね・・・・」

シルビアはそんなギンガを若干引きながらも褒めた。

「視力や聴力と言った五感には結構鋭いんです。私・・・・」

中に入る為の番号を押さえた二人は、一時、地下から出て、理事長と医院長の二人が出てくるのを待った。

そして、二人が地下から出て行ったのを確認した後、再び地下へと戻り、電子操作盤に先程盗み見見た番号を打ち込む。

すると、扉は開いた。

しかし、中には何もない・・・・。

「空っぽ・・・・やっぱり此処も外れなのかしら？」

シルビアが空の部屋を見て、不安そうに言う。

「いえ、あの二人の様子から此処で当たって居る筈です」

そう言ってギンガは壁や床を叩く。

すると、壁の一箇所だけ、他の部分とは違う音が反響した。

よく見ると、其処には小さな溝があった。

その溝に手を入れ引っ張ってみると、壁が開き、中には壁に埋め込まれたコンソールが出現した。

「これは・・・・」

シルビアは壁に埋め込まれたコンソールを見て驚いている。

ギンガが、キーを操作していくと、突如床が開き、其処から筒状の保存用ポッドが出現した。

「これです。これが多分冷凍保存装置です」

「それじゃあ・・やっぱり・・・・」

「ええ・・でも、肝心の臓器が入っていない・・・・これだけじゃあ、証拠にならないわ・・・・」

「そんな・・・・」

折角苦労して見つけたのに、証拠にならない・・・・。

しかもこの部屋にはカルテの類も、摘出した患者の情報が載っている書類も現物さえも見つからない。

シルビアが落胆するのも分かる。

（こうなれば、手術現場をおさえるしか方法は無さそうね・・・・）

ギンガは最終手段として自らを囮とする事を決意した。

あとがき

良介君が留守にしている間にこんなことがありました。

と言う展開で、ギンガ視点の話を書いてみました。

では、次回にまたお会い致しましょう。