八十八話 マダサイレンガナッテイタヒ

 

 

再び海姫島に上陸した良介とミヤはまず、島の周りを回った。

昨日の様に船を港につければ良いではないかとミヤは思ったが、良介は「それだと旧海姫島の連中に船を破壊されてしまう危険がある」と言って港とは別の場所に船を停めようとしていた。

流石の良介でも海姫島〜亀石野島までの距離を泳いで帰るのには無理があり、ミヤとユニゾンして帰れない事はないが、魔法が正式に認知されていない地球では極力魔法の使用を抑えたい。

そして、島の港の反対側の海岸線に運よく止められる様な場所が見つかり、良介はそこに船を停め、島へと上陸した。

上陸した良介達は昨日行ったあの怪しい洞窟へと向かう。

しかし、洞窟前に設けられた柵の近くには体格の良い男が立っていた。

(ありゃ、見張りだな・・・・)

(どうするですか?良介)

(此処で奴が何処かに行くのを待つのもただ時間の無駄だし・・・・奴を倒している最中、他の仲間が来ても厄介だ)

(じゃあ・・・・)

(回り道をするぞ)

(回り道?・・ですか?)

(ああ、行くぞ)

(りょ、了解ですぅ)

良介とミヤは、島を海岸線に沿って一周し、柵のある反対側へと来た。

幸いにも反対側には見張りは立っておらず、二人は柵の向こう側に立っている見張りに気づかない様に、洞窟へと入った。

「また柵か」

洞窟の入り口の近くには、またもや柵があった。

しかし、見張りも罠らしきものも見つからなかったので、難なく柵を乗り越え、洞窟の奥へと進む二人。

やがて奥からはバシャ、バシャと水泳をする際に出る水を掻き分けたり、手で水面を叩くような音が聞こえてきた。

「な、何の音でしょう?」

「水音・・みたいだな・・・・」

二人が水音のする洞窟の奥へと向かうと、そこには・・・・

「あ、あれはっ!?」

「に、人魚ですぅ!!」

そう、其処には、絵本や御伽噺に登場する姿の人魚の姿があった。

しかも人魚は一体ではなく、確認出来るだけでも四、五体はいた。

その顔立ちはどの個体も若く、人間で例えるならば中学生ぐらいの顔立ちをしていた。

洞穴の水辺で戯れていた人魚達は自分達の姿を見ている良介とミヤの姿に気づくと、一斉に視線を向けてきた。

その目つきは絵本や御伽噺に登場する様な神秘的で優しさや知性が溢れる様な目つきではなく、血に飢えた猛獣の様な目つきだった。

「あ、あれ?あの人魚さん達の目、何か怖いんですけど・・・・」

ミヤも人魚の異常な目つきに気づき、本能的に逃げ腰である。

「あ、ああ。確かに・・・・」

良介も今まで潜って来た修羅場の経験からこの人魚達の異常さに気づく。

「ひ、ひとまずこの洞窟から出た方が良さそうだな」

「そうですね」

良介はミヤを抱え、洞窟の入り口へと戻るが、人魚達も水の中を泳ぎながら、良介達を追ってくる。

「良介、あの人魚さん達も追ってくるですよ!!」

「くそっ、もう少し可愛げのある化け物ならともかく、こんな血に飢えた様な化け物に追いかけられるのは嫌な気分だぜ」

良介は顔を歪ませ、悪態をつきながら、ひたすら出入り口を目指す。

そこへ、

 

ウ〜〜〜ウ〜〜〜

 

ウ〜〜〜ウ〜〜〜ウ〜〜〜

 

サイレンが鳴り響いた。

「良介、このサイレン・・・・」

「ああ、早く出ないとまずいかもな・・・・」

このサイレン、あの海姫島の宮司が言うには満潮を知らせるサイレンだと言う。

それが鳴り始めたと言う事は、満潮の時刻が迫っていると言う事だ。

満潮になれば、出入り口は海へと沈む。

最悪の場合はミヤとユニゾンして脱出しようかと良介は思った。

そして、間もなく出入り口と言う所で、良介は止まる。

「どうしたですか?良介」

「海水が・・・・もう潮が満ちている・・・・」

「えっ!?」

良介の言う通り、海水は既に洞窟の出入り口の柵の半分以上の高さまで迫っていた。

(やむを得ない。ここはやはり、ミヤとユニゾンして脱出するか・・・・)

良介がミヤとユニゾンして脱出を図ろうとした時、

 

ウ〜〜〜ウ〜〜〜

 

ウ〜〜〜ウ〜〜〜ウ〜〜〜

 

洞窟内に一際甲高くサイレンの音が鳴り響いた。

「良介、あそこに人が!!」

ミヤが指さした方向を見ると、洞窟の上の方に海姫島の宮司ともう一人、男が立っていた。

そして、その傍にはサイレンの音を出しているスピーカーがあった。

(成程、出入り口はあそこだけではなく、他にもあったわけだ・・・・)

宮司を見上げながら、出入り口が一つだけではない事を知った良介。

やがて、宮司はサイレンの音を止めると、良介を見下ろしながら喋り出した。

「あれだけ、警告したにも関わらず、此処まで辿り着くとは全く愚かな連中だ」

宮司は呆れた様子で言う。

「これも一応、依頼の内でね、島中を隅々探さないと見つかるモノも見つからないんで」

「そうか。それで探し物は見つかったかね?」

「いや、まだだ」

「それは残念だ。だが、もっと残念なのは、君達はその探し物を見つける事は永久にいなくなる事だ」

「それはどういう意味ですか!?」

ミヤが少し、怒った様子で宮司に尋ねる。

「そのままの意味だ。見たまえ」

宮司は良介とミヤに迫ってくる人魚達を指さす。

「彼女たちは今、物凄く腹を空かせている。ああ見えて彼女達は物凄い大食でね、普段から与えているエサでは満足できんのだよ。だが、今日は久しぶりに、彼女達の空腹を満たせそうだ」

「それってつまり・・・・」

「そう、君達には、ここで彼女の餌になってもらう」

「そうかい・・・・もしやと思うが、以前にもこんな事があったんじゃないか?・・・・そう、三年前と二十年前にも?」

良介は宮司に今回の依頼主である太田静江の息子、辰男ももしかしたら、此処で人魚に襲われたのではないかと思い尋ねる。

ついでに二十年前に行方不明になった辰男の姉も同様だ。

「三年前と二十年前?ああ、あの姉弟か」

良介の言う三年前と二十年前と言う言葉に宮司は思い出した様子だった。

「あの姉弟もバカな連中だったよ」

(やはりな)

宮司の素振りから良介は自分の予想が当たっていた事を確信した。

「あの姉弟の内、弟の方は幼少期の折、姉と共にこの洞窟に入り、その姉が彼女らに食べられた事を目の当たりにし、あまりのショックのために、記憶の奥底に封じていた。それが突然断片的に蘇った様で、フラリとこの島に戻ってきて、島の彼方此方を嗅ぎまわり、此処へ辿り着いた・・・・」

やはり、静江の息子太田 辰男はこの島に来ていたのだ。

「そして、この洞窟での出来事の記憶を取り戻したようだが、既に遅かった・・・・今の君達と同じ、出入り口が満潮により塞がれ、逃げ場を失ったあの男は彼女らの昼食となったわけだよ」

「随分と詳しいじゃないか。その口調では、まるでその場面を見ていた様だが?」

「もちろん。私はこの場から見ていたのだからね。そう今の君達を見下ろしているのと同じように」

「なっ!?人魚に襲われている所を見て、その人を助けなかったですか!?」

「彼女達の存在はこの島の中では重要な秘匿事項だ。それを見た人間を生かして帰すと思っているのかね?」

宮司の話を聞き、良介とミヤは胸糞が悪くなる思いとなった。

「で?その重要な秘匿事項であるこの化け物共を何故飼っている?市場には人魚の肉なんて出回っていないと思うが?」

「好奇心は猫を殺すと言う言葉を知らんのかね?まぁ冥土の土産として教えてやろう」

宮司は優越感に浸っているかのように何故この島で人魚を飼っているのかを話した。

それによると、

この人魚達は昔、夜実島の近くに住んでいた人魚の末裔たちだと言う。

そして、飼っている理由として、彼女らの血肉が目的である。

人魚の血肉には昔からの伝承の通り、不老不死ないし、不老長寿の効能があるとされている。

人間は誰でも老いてやがては死を迎える。

だが、権力者と言うのはその老いや死を何よりも恐れる。

そんな権力者にとって不老となりうる人魚の血肉は喉から手が出る程欲しがる一品である。

それを手に入れるためならば、連中は幾らでも金は払うだろう。

だからこそ、宮司達は此処で人魚の養殖をしていた。

しかし、人魚の発育と言うのは、他の生物と違い物凄く遅い。

それが人魚達が不老不死、不老長寿と言われる所以なのだろう。

文献で見ても、人魚は年頃になっても子供を産むのは十年に一度と出産する回数も少なく、育成には年月もかかる。

故に現存する人魚では、あっという間に品切れとなってしまう。

だからこの島の宮司達、一部の人間は先祖代々から秘匿しながら人魚を養殖してきた。

とても時間と年月がかかる計画だが、それでもいつかは自分達の子孫には莫大な財産を残せる。

引いてはその権力者達とコネを作る事も出来る。

それを見越しての人魚養殖計画だと言う。

 

(成程、あの夜実島を舞台にした人魚の話・・あの話に出てきた人魚は此奴らの先祖か・・・・それにしても此奴らも哀れだな。やがて迎える結末は先祖と同じ何て・・・・まぁ、それは俺がこの島に来なかったら・・の話だがな・・・・)

迫り来る人魚を見ながら良介は、小さく不敵に笑みを浮かべる。

「それとそのサイレン、疑問に思ったんだが、本当にそれは満潮を知らせるためのサイレンか?満潮を知らせると言うのは、あくまで表向きで本当は、別の目的のサイレンなんじゃないか?」

良介が、サイレンについての疑問をぶつけると、

「はははははっ、なかなか鋭いな、君は」

宮司はよくぞ見破ったと言いたげな表情でサイレンについての意味を良介に教える。

「その通り、満潮を知らせると言うのはカムフラージュにすぎん。本当の意味は彼女達に食事を知らせるための合図だ。サイレンの元々の語源はセイレーンからきている。そのセイレーンとは美しい歌声で船乗りを惑わす人魚とされている。まさに彼女達にピッタリの合図ではないか」

「あっそう」

サイレンの謎が解けた時点で良介にはサイレンの語源など、どうでもよかった。

「さて、お話は此処までだ。では、そろそろ彼女達の成長の糧になってくれたまえ」

宮司が人魚養殖計画の全容とサイレンの意味を話すと、タイミング良く?人魚達は水面から上がり、良介達に襲いかかろうとした。

しかし、

「ミヤ!!ユニゾン行くぞ!!」

「りょ、了解ですぅ!!」

「闇の一部よ、我が下へ集え。ミヤ、ユニゾン・・・・・」

ミヤの体が良介に吸い込まれるかのように融合していく。

すると、良介の体が光り出す。

「な、何だ!?」

突然見慣れない光景を目の当たりにした宮司と傍に居た男はうろたえる。

それは今まさに良介に襲いかかろうとした人魚も例外ではなかった。

やがて、光が収まると、其処に居たのは、背中から烏の様な真っ黒い翼を生やし、髪の毛が銀色となった良介の姿だった。

「い、一体何が!?そ、それに一緒に居た小娘は何処に消えた?」

管理外世界の人間がユニゾンなんて現象を初めて見れば、そりゃあ混乱するのは当たり前である。

宮司も傍に居る男も状況が理解できない状態だ。

「さあて、取りあえず、化け物を先に始末するか・・・・」

ミヤとユニゾンした良介は自分に迫ってくる人魚達に狙いを定めた。

「っ!?いかん!!アイツの狙いは彼女達だ!!撃て!!撃ち殺せ!!」

宮司の命令を受けた男は懐から拳銃を取り出し、その銃口を良介へと向ける。

しかし、

「ブラッディ・ダガー!!」

良介は手に精製した血の色のナイフ、ブラッディ・ダガーを男の・・・・。

正確には男の持っている拳銃の銃口に向け投げた。

良介の投げたブラッディ・ダガーが男の持つ拳銃の銃口に当たるのと、男が銃の引き金を引く瞬間が重なり・・・・。

 

バン!!

 

洞窟に一発の銃声が鳴り響いた・・・・。

「ぐっ・・・・がぁぁぁぁぁー!!ゆ、指が・・・・!!」

そして、男の悲鳴が洞窟内に絶叫した。

しかし、この男の声は良介の声ではなく、拳銃を持っていた男の方である。

銃口にブラッディ・ダガーが突き刺さった状態で銃を撃ったため、銃が暴発したのだ。

男は既に原型を留めなくなっている拳銃を落とし、血にまみれた手を押さえながら、痛みに悶絶していると、

 

ズルっ

 

「うわぁぁぁぁぁぁー!!」

足を滑らせ、水辺に落ちた。

男は手が銃の暴発で、傷つき、上手く泳げず、溺れている。

すると、良介に迫っていた人魚達は、クルリとその身を翻し、水辺に落ちた男の下へと迫って行った。

「ヤバい!!」

人魚達の様子を見た良介は急ぎ、翼をはためかせ溺れている男に近づき、引き上げようとしたが、人魚達は溺れている男を水中へと引きずり込んだ。

「くっ!?」

あと一歩の所で良介は間に合わず、水面には夥しい量の血が浮いて来た。

「アイツら人魚じゃなくてピラニアかよ・・・・」

良介は顔を引き攣らせ、人魚を見た。

しかし、この人魚達の様子を見ると、先程宮司はこの人魚達は夜実島近海に生息していた人魚の末裔・・・・。

それはつまり、良介が以前退治したあの人魚の子孫と言う事になる。

だが、この人魚達・・・・知性のかけらもない。

夜実島の人魚はあの夜実島に伝わる人魚伝説のモデルとなった人魚である事は良介の知る事実であり、あの伝説を見ると、人間と同じ知能を持ったように描かれており、夜実島の島民に復讐すると言う、人間らしい感情もあった。

だが、この人魚達は、顔立ちは中学生位にも関わらず、あるのは肥大化した食欲だけで、言葉も話さない。

まぁ、宮司の方としても下手な知識をつけられるよりも、獣同然の知能のままでいられた方が都合がいいのかもしれない。

だから敢えて知性をつけさせない様にしているのかもしれない。

 

だが、凶暴な化け物である事には変わらない。

それに此奴らをこのままの状態でいれば、後々面倒な火種を生みそうな事は目に見えている。

よってこの人魚達の殲滅は良介にとって決定事項である。

水辺に落ちた男を食い尽くした人魚達は続いての目標を良介に戻し、迫って来た。

しかし、知性もない化け物に負ける良介ではない。

一体の人魚が水面から跳ね上がり、良介に襲い掛かって来たが、

「ふん!!」

良介は慌てず、恐れることなく、その人魚を脳天から縦に真っ二つに切り裂いた。

仲間が目の前で殺され、怒り心頭したのか、それともただ自らの腹を満たしたいだけなのか、残りの人魚達が次々と良介に襲い掛かる。

しかし、夜実島の人魚と違い、異能力を有している訳でもない人魚達は次々と、良介の焔薙によって切り刻まれていく。

「何故だ?何故、貴様に彼女達を斬れる?」

宮司にとって良介が人魚を斬れる事が信じられない様子だった。

「彼女達の体は、普通の刀などでは斬れない筈・・・・それこそ、長年の法力によって強化された刃でなければ・・・・」

どうやら、この人魚達は、知性は無いが、体の表面は柔肌に見えて実は物凄く堅い様だ・・・・。

「へぇー此奴らの体ってそんなに堅いのか?」

人魚達を斬っていた良介が一度その手を止める。

宮司に人魚達の体は堅いと言われたが、実際に斬ってみると羽生田村で斬って来た屍人と大して変わらない。

「何故だ!?」

「それだったら、一つ・・心当たりを教えてやるよ」

良介自身も宮司同様、何故人魚を容易く斬れるのか分からないが、一つの可能性を宮司に教える事にした。

「この刀・・・・焔薙って言う銘なんだけどな、この刀は神をも殺す神武なんだよ・・・・そのご加護かもしれないな」

「神武!?そうか、それで・・・・」

宮司は苦虫を噛み潰したような顔で良介と焔薙を睨みつける。

「で?どうする?もう、お前さんらが育ててきた愛しの人魚ちゃん達はもう居ないぜ・・・・」

良介の言う通り、彼の周りには無残に切り刻まれた人魚の肉片が散らばっていた。

「むぅ〜」

忌々しそうに良介を見る宮司、しかし、人魚は死んだが、その肉片はまだある。

これだけでも十分な利益は出ると思った宮司であったが、その考えは次の良介の行動でその思いは吹っ飛ばされた。

良介の持つ刀、焔薙の刀身が淡い虹色の光が包み込むと、

「ふん!!」

良介はその刃を地に刺したりすると、辺りに散らばっていた人魚の肉片は青白い炎に包まれ、燃え始めた。

「なっ!!何てことを!?」

燃えていく人魚の肉片を見て、宮司は慌てた声を出す。

「新たに争いや災いの種になりそうな芽は今のうちに摘んでおかないとな」

青白炎に照らされながら不敵な笑みを浮かべる良介。

何故か人魚の肉片を焼いている青白い炎に良介本人は熱さを感じていない様子。

何代も前から受け継がれてきた秘宝ともいうべき人魚達・・・・。

その人魚達が一人の男の手によって人魚もそしてその肉片までもが消滅させられてし合った。

先祖から受け継いできた秘宝を失った宮司は・・・・。

「ぐっ・・・・」

突然持っていた短刀で自らの腹を刺した。

所謂切腹、またの名を腹切り。

宮司はソレを、行った。

「「なっ!?」」

突然、短刀で自分の腹を刺した宮司の行動に良介も、そしてユニゾンしていたミヤも驚きが隠せない。

「先祖から受け継がれてきた彼女達をまさか、貴様の様な余所者の若造に・・・・儂は・・・・責任を取らねばならん!!」

そう言って宮司は、次にボタンが一つあるリモコンを取り出し、そのボタンを押した。

宮司はボタンを押した直後、洞窟内が揺れ始めた。

「なっ!?お前、一体何を!?」

「ふっ、間もなくこの洞窟は消え去る・・・・私と我が先祖の野望と共に・・・・」

そう言って宮司は倒れ、その身体は人魚達が泳ぎ回っていた水辺へと落下した。

「くっ、ミヤ。脱出するぞ!!」

「りょ、了解ですぅ!!」

良介は、翼をはためかせ、崩れていく洞窟から無事に脱出した。

洞窟は完全に崩れ、もう二度と、入る事は出来ないだろう。

恐らく宮司達が使ったもう一つの道も今の爆発で崩れただろう。

連中、いざと言う時の為に、洞窟内に大量の爆薬を仕掛けていた様だ。

 

外へ出ると、既に日は西の彼方に沈んでおり、辺りは夜の闇が覆っていた。

「ふぅー・・・・疲れた・・・・」

「ですぅ・・・・」

ユニゾンを解除して、その場に座り込む良介とミヤ。

依頼は果たしたが、やはり辰男の死亡と言う好ましくない結果に、依頼主に説明しにくいな、と思う良介。

そんな良介を黙ってジッと見つめるミヤ。

すると・・・・

「ん?」

突然良介が立ちあがり、辺りを見回す。

「ど、どうしましたか?良介」

「いや、何か今聞こえなかったか?」

「・・・・何も聞こえませんでしたけど・・・・・」

良介の言葉を聞き、ミヤは耳を澄ませるが、聞こえてくるものと言えば波音ぐらいで、特に変わった音は聞こえない。

「いや・・・・今、確かに・・・・」

「こ、怖い事言わないで下さいよ」

良介の只ならぬ言葉と顔に少し怯え気味のミヤ。

そして・・・・

「うわぁぁぁぁぁゎゎー!!」

まるで子供が泣いている様な声をあげながらソイツは突然、海から現れた・・・・。

防波堤ブロックを乗り越え、出てきたソイツの姿は・・・・。

「かお!!カオ!!顔!!おっきな顔ですぅ!!」

ミヤは思わずソイツの姿を見て、叫ぶ。

 

ミヤの言う通り、ソイツの姿は小学生三、四年生くらいの男の子の顔にヤドカリまたは蟹の様な手足を生やした様な姿で、その顔にはフジツボや海藻、苔の様なモノがこびりついていた。

「ちきしょう、結局こんな展開かよ!!」

大きな顔の化け物、堕彗児を見ながら、良介は悪態をつく。

「ミヤ、もう一度ユニゾンだ!!」

「た、戦うですか?あんな大きな顔の化け物と!?」

「あの化け物をこのまま放置するわけにもいかんだろう」

「わ、分かりました」

良介とミヤはもう一度ユニゾンをし、堕彗児へと立ち向かった。

「このっ!?」

焔薙で切りかかると、堕彗児の体(顔)はゼラチン質の様で、刃がめり込みダメージを与えられない。

「くそっ、ブラッディ・ダガー!!」

続いてブラッディ・ダガーを数本顔に突き刺し、爆破させても、これまた堕彗児は直ぐに再生を始める。

「これもダメか・・・・」

これまでの攻撃が効かず、顔をしかめる良介。

すると、堕彗児はローリングしながら良介に迫って来た。

顔の横に生えている手足で動くよりも、転がる事により、移動速度が増していた。

「うわぁ!!」

慌てて空へと逃れる良介。

「気持ち悪いですぅ」

確かにミヤの言う通り、あんな気持ち悪い顔が猛スピードで自分達に向かって突っ込んで来たら、気持ちが悪い事この上ない。

「どうするですか?良介」

「うーん・・・・」

良介が堕彗児の攻略を考えていると、彼の目に燃料タンクらしきタンクが目に映る。

「あれは・・・・」

空から降り、そのタンクを調べると、中にはまだ船の燃料となる重油が沢山詰まっていた。

「これは使えるかもしれないぞ」

良介がタンクを見ながら口元を緩めると、堕彗児がまた良介目がけてローリングアタックをしてきた。

「よっと」

再び良介は堕彗児を引きつけ、空へ飛び上がると、堕彗児は燃料タンクへと正面衝突した。

堕彗児のローリングアタックはかなりの威力があったのだろう。

タンクは大きく凹み、其処からは重油が溢れ出し、堕彗児は重油塗れになる。

そこへ、

「ブラッディ・ダガー!!」

堕彗児の体の至る所にブラッディ・ダガーが突き刺さり、

「これで終わりだ!!化け物!!」

良介が突き刺さったブラッディ・ダガーに魔力を込めると、

 

ドカーン!!

 

爆発が起こり、その爆発によって生じた火花が堕彗児の体についていた重油に引火し、たちまち堕彗児の体は炎に包まれる。

「ぎぇぇぇぇええー!!うわぁぁわぁぁぁゎゎー!!」

堕彗児はしばしの間、炎に焼かれもがき苦しんでいたが、突然特撮戦隊ものの怪人や怪獣の様に、大爆発をして、消滅した。

「終わった・・・・のか?」

「・・・・そう・・みたいですね・・・・」

堕彗児が居た場所には、堕彗児の爆発によって飛び散った火がまだ辺りに燃えていたが、堕彗児の姿は完全に消えていた。

 

堕彗児を倒した良介とミヤは、無事に亀石野島へと戻れたが、海姫島の関係者にまた命を狙われてはかなわないと思い、早々に海鳴へと戻った。

そして、依頼主である太田 静江にあの洞窟内で、ICレコーダーに録音しておいた宮司との会話を聞かせた。

「・・・・」

静江は聞き終えた後、沈んだ表情のままでいた。

もしかしたら、彼女は万が一の奇跡を信じ、息子の生存を信じていたのかもしれない。

しかし、宮司との会話により、息子と娘の行方不明の真相を聞かされ、二人の子供達が、人魚の餌となってしまったと言う結末をそう簡単に受け入れられるはずが無かった。

「それじゃあ・・・・俺はこれで・・・・」

「はい・・・・ありがとうございました・・・・」

報告を終え、良介はその場を後にする。

そんな良介に静江は深々と頭を下げた。

依頼を果たし、ミッドへと戻る良介であったが、その背中はとても寂しそうにミヤは見えた。

 

 

あとがき

これにてSIRENシリーズのボスは全て倒した良介君。

これまで戦ってきたボスの内、彗星児は一番弱いイメージがあるので、今回はサクッと良介君に倒されました。

では、次回にまたお会い致しましょう。