コソダテノヒ 二日目 宮本夫妻の子育て奮闘記

 

 

唐突だが、ここで時系列は過去へと跳ぶ。

場面は良介とギンガが結婚(出来ちゃった婚)をした辺りから始まる。

 

「ただいま」

良介が仕事から帰り、玄関の扉を開けると、

「おかえり〜」

台所の奥からアリサの声が聞こえた。

「あれ?ギンガは出掛けているのかな?」

普段ならば、良介が帰って来た時、非番または、良介よりも先に帰って来ていたギンガが出迎えてくれるのだが、ただ最近ギンガは玄関に姿を現さなくなった。

首を傾げつつも、良介は靴を脱ぎ、家の中に入った。

「おかえりですぅ良介」

「あ、ああ・・ただいま」

リビングでは、少女モードのミヤがアリサと共に夕食の手伝いなのか、テーブルの上に食器類を並べていた。

「ギンガはどうした?出掛けているのか?」

良介は玄関口で疑問に思ったギンガの行方をアリサに尋ねた。

「ギンガなら、部屋に居るわよ」

「部屋に?何やっているんだ?」

「勉強中」

「勉強?アイツ、何か新しい資格でも取るのか?」

「はぁ〜良介、女心が分かっていないですねぇ〜」

深いため息をつき、やれやれと言った様子のミヤ。

「えっ?」

ミヤからの言葉に戸惑う良介。

「いいですか、良介。ギンガは今、お腹の中に良介の子供を宿しているのですよ。つまり、ギンガはこれからお母さんになるです!!」

「あ、ああ・・そうだな・・・・」

何を当たり前の事を聞いているんだ?と、言いたげに首を傾げる良介。

「・・これだけヒントを出しても分からないですか?」

「えっ?・・・・ヒント?・・・・全然わからんが?」

良介はミヤが何を言いたいのか、分からない。

「あぁ〜もう、つまり、ギンガにとって初めての出産と子育てがこの先待っているのです!!ギンガは今、そのための勉強をしているのです!!わかったですか!?良介!!と言うか、良介もちゃんと子育ては手伝うですよ!!だから今からちゃんとギンガと一緒に子育ての勉強をしておくですよ!!良いですね!?良介!!」

答えを言いながらビシッと良介に指を突きつけるミヤ。

「あ、ああ」

ミヤの勢いにタジタジな良介。

(そっか・・子育てか・・・・)

ミヤに言われ、ギンガの現状を思い返す良介。

(そうだな、ギンガはもうすぐ、一児の母になるんだよな・・・・その前に出産か・・・・それも初めての・・・・不安とかあるだろうな・・・・これじゃあ、ギンガの旦那失格だな・・ミヤに言われるまで気づかないなんて・・・・)

「ただ・・・・」

先程、良介に熱弁していたミヤが180度変わって冷静に言葉を濁らせる。

「ただ?・・なんだ?」

「ただ、最近、ギンガの様子が少し変なんです」

「変?」

「何か思いつめているようにも見えるです」

「・・・・」

「良介、何か心当たりはないですか?」

「い、いや・・・・特に思いあたらない・・・・」

良介がここ最近のギンガの動向を思い出しても、特に変わった様子は見られなかったからだ。

変わった事と言えば、ギンガが先に帰っている時や非番の日に良介を出迎えなくなった事ぐらいだが、結婚して月日が過ぎて行けば、玄関で出迎えなくなるのも当たり前だと思っていた良介は特に気にしていなかった。

「良介、もうすぐで夕食だからギンガを呼んできて」

「あいよ」

アリサに頼まれ、ギンガの部屋へと向かう良介。

「ギンガ、晩飯が出来たぞ」

部屋の扉を数回ノックし、要件を伝える良介。

すると、中から、

「あっ、はい・・・・」

ギンガの返事が聞こえてきた。

「入ってもいいか?」

「どうぞ」

返答を聞き、良介がギンガの部屋へと入ると、ギンガは部屋の中にあるデスクで本を読んでいた。

「ん?何を読んでいるんだ?」

「コレです」

ギンガが良介に見せた本は出産関係の本だった。

デスクの上には同じく出産関係や子育て関係の書物が数多く置かれていた。

ギンガはミヤの言う通り、子育て系列の本を読みふけっていた。

そしてその他にも、マリエルに頼み込んで、平均的な原寸大の乳幼児の人形を使ってオムツの交換などの練習をしていた。

マリエルに頼んで作ってもらったこの乳幼児人形、『リアルベビー君一号』は、オムツの交換の他にも、モードによっては、泣き出し、上手くあやすと泣き止むと言う無駄なスペックがあり、あやし方の練習もしていた。

ちなみに『リアルベビー君二号』はナカジマ家に置いてある。

これはチンクがマリエルに頼んで作って貰った物だったりする。

チンクもギンガの産む子供、自分にとっては姪の子育て支援、そして将来産むかもしれない自分の子供のために、ギンガ同様練習を行うために用意したのだ。

その他にも、ギンガの部屋にはぬいぐるみや幼児用の玩具が沢山置いてあった。

「おいおい、ギンガ。これ(玩具やぬいぐるみ)はまだ少し気が早いんじゃないか?」

良介がぬいぐるみの一つを手に持ちながらギンガに尋ねると、

「それ・・・・実は父さんが・・・・」

「とっつぁんが?」

「はい・・・・父さん、この子が生まれるのをとても楽しみにしていて・・・・」

ギンガはもう一つの命が宿っている自らのお腹の下腹部を撫でながら部屋に置いてある玩具がゲンヤからのプレゼントなのだと良介に言う。

「とっつぁんも案外爺バカだな」

良介は苦笑しながら玩具を眺めた。

そう言う良介は後に親バカとなる。

 

その後、夕食、入浴を終え、ギンガと良介は共に寝室のベッドで横になっていた。

宮本家には皆の部屋があるが、良介とギンガの部屋には寝具は無く、寝具はちゃんと専用の寝室があり、宮本夫妻はその寝室で一緒に眠っている。

ギンガはスタンドライトの光の中でまだ本を読んでいる。

「ギンガ、まだ読んでいるのか?ちゃんと寝られるときは寝ておいた方が良いぞ」

「はい・・・・でも、もう少しでキリが良いので・・・・」

「あまり根を詰めるなよ。今のお前はお前一人の体じゃないんだぞ」

「・・・・不安なんです」

「えっ?」

ギンガは読んでいた本をパタッと閉じると、ポツリと呟く。

「良介さんも知っての通り、私は普通の人間でなく戦闘機人です・・・・そして、戦闘機人の中でも妊娠が確認されたのは私が初めてです・・・・」

「そう・・だな・・・・」

「だから・・・・それが不安なんです。怖いんです・・・・ちゃんとこの子は生まれてきて来るのかが・・・・」

ギンガは良介との間に子供が出来た事、結婚出来た時には幸せの絶頂だったが、マリエルと共にかかりつけの産婦人科医の診断を受けていく内に幸せから180度変わり不安を抱き始めた。

「大丈夫だろう?マリエルも戦闘機人とはいえ、出産機能は普通の女と変わらないって言ってたじゃないか」

「前例があれば、私も多少は安心できました・・・・でも、その前例となるのが私なんですよ・・・・私だってこの子を産みたい・・・・良介さんとの間にできたこの子を・・・・」

ギンガは起き上がり、お腹に手を当てながら少しムキになった様子で言う。

その様子からギンガは初めての妊娠で戸惑っているのが窺える。

「それに・・・・」

「それに?」

「私の出産の成否が今後のスバル達の出産にも大きく関係して来るんです」

「・・・・」

「チンクは将来、自分の子供を産みたがっていました。それが、私の前例でダメと分かると、戦闘機人は出産出来ない存在と思われてしまい、チンクはショックを受けてしまうかもしれません」

ギンガの言う通り彼女が普通の女性ならば、それだけなのだが、如何せん、彼女は普通の人ではない・・・・その事実が彼女の不安を更に増大させている。

「・・・・」

ギンガの様子を見て、良介は、今の彼女に優しさも、温かな言葉も気休めにもならない。

逆に優しくすればするほど、温かな言葉をかければかける程、今の彼女には毒でしかなかった。

彼女の不安を取り除く方法として良介は・・・・。

「ギンガ、お前確か有給の残りあったよな?」

「は、はい。ありますけど・・・・」

「明日から有給とれ、それで少し外へ出るぞ」

「そ、そんなっ!?何を無茶な事を!?」

「あのな、仕事先でもオフィスに詰め、非番は家に籠って読書、そんな生活して居れば気が滅入るわ!!」

ギンガはまだ目立つほどお腹が大きくなってきていないため、産休を取っておらず、普段通り108部隊の隊舎に出勤している。

しかし、妊娠中とのことで、動き回ったり、危険が及ぶかもしれない捜査官任務からは離れ、オフィスで事務員としてデスクワークを行っていた。

そして、仕事帰り、非番の日にはこうして外へは出ずに出産や育児関係の本をひたすら読んでいた。

「でも・・・・」

突然有給を取って、外へ出ろと言われて、戸惑うギンガ。

 

「あぁ〜もしもし、とっつぁんか?俺だ、良介だ。夜分遅くにすまねぇ。あのな、明日からギンガ、有給を使うわ」

ギンガの戸惑いを半ば無視し、いつの間にか携帯でゲンヤに連絡を入れ、強引にギンガを有給休暇にさせる良介。

「そうなんだよ。ギンガが・・・・ああ、そうだ。そうか、わかった。それじゃあ・・・・」

ピッ、と携帯の電源をきる良介。

その顔は、悪巧みが成功した時の様に人を食ったような笑みを浮かべていた。

「電話してみたら、とっつぁんもギンガの有給に賛成してくれたぞ。とっつぁん本人もお前の事、結構気にしていたみたいだからな」

「もう、強引なんですから・・・・」

ギンガは少し恨めしい目で良介を見る。

しかし、良介の言う通り、ギンガの父、ゲンヤもギンガの事は気にかけてきた。

オフィスでデスクワークしているギンガは、一見坦々と仕事をしている様だが、どこか上の空の様な姿だった。

それは、良介が一度死に、彼が復活するまでの間のギンガと同じ様子だった。

だからこそ、ギンガがまた感情を爆発させてしまうのではないかと懸念していた。

そんな中、良介がギンガに有給を与え何処かに連れ出すと言ってきたため、ゲンヤはその案に賛同し、突然だが、ギンガに有給を与えたのだった。

 

そして、翌日・・・・。

「外ってミッドじゃなかったんですね」

海鳴の町に良介とギンガの姿があった。

「ああ、ミッドだとお前がすぐに『家に帰る』とごねそうだったからな」

「・・・・」

良介の言葉に否定できないギンガ。

確かにここがミッドならば、良介の言った通り、ちょっとクラナガン辺りを一周したら家に帰っていたかもしれない。

 

「取りあえず、美味しいスイーツでも食べて、気分転換でもしようぜ」

そう言ってギンガを連れてきたのは・・・・

「ここって・・・・」

「そう、なのはの実家の翠屋だ」

良介はギンガをなのはの実家に連れてきた。

「お前さんにも紹介したい人がいるからな」

そう言ってギンガの手を握り翠屋に入る良介。

「いらっしゃいませ」

店に入ると、なのはの母、高町桃子が二人を出迎える。

「あら?」

「こんにちは、桃子さん」

「良介君、久しぶりね。あら?そちらの方は?」

「以前、話した俺の大切な人だ。・・・・そして、俺の女房」

「あら、そうなの?初めまして。高町 桃子です」

「は、はじめまして・・・・宮本・・ギンガ・・です」

なのはの母親と言う事で少し緊張気味な様子で桃子に自己紹介するギンガだった。

 

「まぁ、それじゃあ、ギンガちゃんは今妊娠中なの!?」

ギンガの現状を聞き、驚く桃子。

「は、はい」

「そっか、良介君も遂にパパになるのね・・・・」

良介と十年の付き合いから、昔の良介の事を思いながらしみじみとした様子の桃子。

「それで、ギンガちゃんの方は少し優れない顔色だけど、大丈夫?」

「あっ・・は、はい・・・・問題ありません・・・・大丈夫です・・・・」

桃子の問いに視線を逸らし、俯き加減で答えるギンガであるが、その様子はとても大丈夫とは言い難い。

「・・・・不安・・・・なのね・・・・」

「えっ!?」

ギンガの様子を一目で見抜いた桃子に、ギンガはバッと顔をあげ、桃子を見る。

「ギンガちゃんの今の顔・・なのはが、まだお腹に居る時の私と同じ顔をしているもの・・・・」

「・・・・」

「私もね、当時不安だったわ・・・・なのはがお腹の中に居ると分かった時は、嬉しかった・・・・でも、その後で、士郎さん・・・・私の旦那さんが仕事中に死んでしまってね・・・・その後、女手一つで育てたれるのか不安だったわ・・・・当時は恭也も美由希もまだ幼かったから・・・・」

「・・・・」

桃子の経験談をギンガは黙って聞いていた。

「最悪、中絶しようかとさえ、思ったわ」

「えっ!?」

中絶と言う言葉にギンガは驚いた。

恐らくこの事実はなのは自身も知らなかった事だろう。

もし、桃子が中絶をしていたら、管理局のエース・オブ・エースは誕生して居なかったのだから・・・・。

「でも、なのはは士郎さんが残してくれた最後の忘れ形見だったから、やっぱり諦めきれなかったの・・・・その後、恭也や美由希にも苦労をかけちゃったけど、なのはは無事に生まれてきてくれたわ・・・・」

「・・・・」

なのはの誕生の裏にもしかしたら、生まれなかったかもしれないと言う事実を知り、ギンガは言葉をなくしていた。

そこへ、

カラン、カラン

と、客の来店を知らせる扉に設置されたベルが鳴る。

「いらっしゃいませ」

桃子は接客の対応に行く。

「あれ?侍君?」

「忍?」

来店してきたのは、桃子同様海鳴で色々世話になった女、月村 忍だった。

彼女は、桃子の息子、恭也の妻でなのはにとっては義理の姉で、桃子にとって義理の娘にあたる。

そして、今の彼女は一児の母でもある。

「いつ地球に帰って来たの?」

「今日、ついさっき」

義理の妹(なのは)が魔導士で居住先が異世界であると言う事を知っている忍は当然、良介も今は異世界に住んでいる事を知っているし、異世界(ミッド)の事も認知している。

「ふぅ〜ん。で、そちらの女の人は?誰?」

「ん?ああ。俺の女房」

「へぇ〜侍君の奥さんなんだ・・・・・へぇー・・・・・・って、えぇぇぇぇぇぇぇー!!侍君の奥さん!?侍君、結婚していたの!?」

「あ、ああ・・・・つい最近だけどな・・・・」

「いつ!?いつ結婚したの!?」

忍のオーバーリアクションに若干引き気味な良介。

 

それから落ち着きを取り戻した忍は良介とギンガが居る席に座る。

「もう〜何で結婚してたら、連絡してくれなかったの?それにどうして結婚式に呼んでくれなかったのかな?」

ジト目で良介を睨む忍。

(やべぇ・・忘れていたなんて言えねぇ・・・・)

「そ、それにしても、お前、今は一児の母だろう?子供の世話を放っておいていいのか?」

良介はサラリと話題を逸らす。

見たところ、忍は一人で翠屋に来ており、旦那である恭也とその旦那の間に出来た子供、月村 雫の姿は無かった。

「大丈夫よ。ノエルに任せてきたから」

と、忍は胸を張って言うが、

(それって任せてきたと言うより、ノエルに押し付けてきた様な気もするが・・・・まぁ、いいか)

良介自身も丁度、忍に用があったので、手間が省けた。

「なぁ、忍」

「何?」

「ちょっと相談事が有るんだが・・・・」

「侍君が私に?何?」

「いや、相談に乗ってもらうのは俺じゃない。ギンガの方だ」

「えっ!?私?ですか?」

突然、忍に相談しろと言われ、戸惑うギンガ。

一体何を彼女に相談すると言うのだろうか?

「ん?どういう事?」

「実はなぁ・・・・」

どういう訳か、ギンガは良介の知り合いの忍に相談事をする事となってしまった。

忍の方は、最初はなんでこの様な事になってしまったのか、分からなかったので、良介が概要を説明した。

 

「改めて紹介する。俺の女房の・・・・」

「宮本 ギンガです」

「はじめまして、私は月村 忍。侍君・・もとい良介君とは十年来の付き合いになるわ」

「はぁ・・・・」

「それで相談事って?」

「ああ、実は今、ギンガの腹の中には俺とギンガの子供がいるんだ」

「えっ!?そうなの!?おめでとう!!いや〜侍君も遂に家の恭也と同じくパパになるんだ」

と、祝福の言葉をかける忍。

「それでだ、その事でギンガが少し不安を抱いてな・・・・」

「不安?」

「あ、ああ・・・・この事は他言無用にしてほしいんだが・・・・」

「いいよ。こう見えて私は結構口は堅い方だから」

確かに忍は家柄状、他者の秘密を他人にベラベラ喋る人ではない。

だからこそ、良介も今回の相談事を言える。

最も、その他にも理由はあり、それは忍の出生に関係が有るのだが・・・・。

「実は、ギンガはこう見えて普通の人ではないんだ」

「りょ、良介さん!!」

ギンガは自分の出生を気にしており、いくら十年来の付き合いがある人物だからと言って簡単に自分の出生を喋ってしまう良介に少しムッとした表情となり、思わず声をあげてしまうギンガ。

「ギンガ、忍の方も、ああ見えて実は普通の人間じゃない。もちろん魔導士でもない」

「えっ!?それってどういう・・・・」

「それについては私が話すわ」

良介に代わり、忍はギンガに自らの正体を話す。

「私はこう見えて、夜の一族・・・・簡単に言えば吸血鬼と呼ばれる種族なの」

「きゅ、吸血鬼!?」

ギンガも吸血鬼は知っていた。

ミッド以外の管理世界には吸血鬼が住んでいる世界もあった。

しかし、吸血鬼は基本、危険な人種として一般的に知られている。

その吸血鬼が今、ギンガの目の前に居る・・・・。

だが、目の前にいる自称吸血鬼(忍)と自分の知る吸血鬼とはえらくギャップがある。

忍は世間一般で知られている吸血鬼と自分達夜の一族との違いを説明した。

そして、自分の妊娠・出産談をギンガに話した。

忍の正体を聞いたギンガも自らの正体を話した。

自分が、今は亡き母(クイント)をベースとしたクローンから生まれた戦闘機人である事を・・・・。

そして、それを踏まえて、

「貴女は不安にならなかったんですか?」

忍の妊娠・出産談を聞いて自らの正体を明かしたギンガは忍に質問する。

「不安?なんで?」

「その・・・・普通の人じゃないのに、妊娠して・・・・その子がちゃんと生まれてくるのか?・・とか・・・・お相手は普通の人なんですよね?」

「ならなかったわよ」

ギンガの質問、引いては今、ギンガが抱いている不安・・人外である自分達がちゃんと子供を産むことが出来るのか?と言う不安を忍は抱かなかったと言う。

「どうしてですか?」

「う〜ん・・それはやっぱり、自分の子を信じていたから・・かな?」

「信じる?」

「ええ、愛する人との間にできた子供だもの。ちゃんとその子も生まれてくるって信じていたから。だから不安になる事なんてなかったわ」

「そう・・ですか・・・・」

「・・・・貴女のお腹の中にいるのは侍君の子供よね?」

「は、はい」

「だったら、何も不安がる事なんてないじゃない。侍君・・良介君は、殺しても死なない様な人よ。そんな人の間に出来た子供だもの。きっとその子だって良介君と同じ、強い子よ。母親になる貴女自身が自分の子供の事を信じないでどうするの?」

まさか、一度自分が良介を殺したなどとは言えないが、確かに忍の言う事にも一理ある。

自分の旦那は、奇跡さえも起こせる男、不可能を可能にする男なのだ。

そんな男との間に出来た子供なのだから、忍の言う通り、今、自分のお腹に居る子はきっと強い子だ。

そして、母親となる自分がこの子の事を信じないでどうする?

無意識にギンガはもう一つの命が宿る自らのお腹の下腹部に手を添える。

桃子と忍の体験談、アドバイスを受け、今まで感じていた不安は消え、逆に今まで不安を感じていたことがバカらしくなった。

「あ、ありがとうございます」

「ん?」

「その・・・・忍さんや桃子さんの言葉を聞いていたら、悩んでいた自分が恥かしくて・・・・それは私自身がこの子の事を信じていない様にも感じられたので・・・・お二人の言葉を聞いて、何だか大丈夫って言う気になってきました」

「そう。それは良かったわ」

忍はニッコリとギンガに微笑む。

 

その後、宮本夫妻は何日か海鳴で過ごし、その間ギンガは桃子や忍と交友を深め、育児についてや、料理やお菓子作りを教わり、海鳴に来た当初の不安な表情は消えていた。

そして・・・・

「色々お世話になりました」

ギンガの有給期間が終わり、ミッドに帰る日となった。

「こちらこそ、楽しかったわ」

「元気な赤ちゃん産んでね。侍君もちゃんと奥さんを支えないとダメだよ」

「分かっているよ」

桃子と忍に見送られて、ミッドへと帰った。

 

それから月日は流れ・・・・。

ギンガのお腹はすっかり大きくなり、本格的に産休へと入った。

病院に入院したギンガの下には日替わりでナカジマ家の皆や旧六課の関係者らが見舞いに訪れる。

更生施設時代、子供がどのように生まれてくるのかを知った数の子たちは、興味津々でギンガのお腹に優しく手を当てたり、耳を当て、新たな命の誕生を待ちわびている。

それはなのはの養子となったヴィヴィオも同様で、自分とは違う、本来の生まれ方に興味がある様子だった。

ただその中で、ヴィヴィオが発したこの一言がその場の空気を凍らせた。

「なのはママとフェイトママは何時子供を産むの?ヴィヴィオも弟か妹が欲しい」

と、言う質問と願望に辺りは何とも言えない空気となった。

その理由は、二人には未だに彼氏が居ないためであった。

そんな二人に「まだ、彼氏が居ないから当分先だよ」と言える勇者はこの場には居なかった。

しかし、赤ちゃんがどの様に生まれてくるのかを知ったヴィヴィオであったが、どの様な過程で赤ちゃんがお母さんのお腹で誕生するのかは、分からず、女の人ならば何れ赤ちゃんを産むものだと思っている子供らしい純粋な質問だった。

なのはとフェイトは顔を引き攣らせながら、「その内ね・・・・」とお茶を濁らせた。

 

旦那の良介は、ほぼ毎日ギンガの見舞いにやってくる。

中には、既に面会時間が終わっているにも関わらず、ギンガの見舞いに来て、看護師に見つかり、注意を受ける時もあった。

しかし、看護師の方も、良介の愛妻ぶりは知っており、そこまで厳しくはしなかった。

そしてこの日も・・・・。

「大丈夫なのか、その・・お腹の方は・・・・」

「はい、大丈夫ですよ。良介さんや大勢の皆が居てくれるんですから」

今のギンガにはもはや何の不安も恐怖も無い様子だ。

「私は今、とても幸せなんですよ・・・・良介さんは、随分早くから私やスバルの身体の事をお母さんに聞いていたと思いますけど・・・・今までの人生の中で、私の事を知った人は・・・・皆、態度を変えました。気持ち悪がる人、怖がる人、いたましいと慰める人。誰も、前と同じでは居てくれなかったんです」

ギンガはひどく寂しそうに語る。

その表情を形作る思いは、蓄積された悲しみの記憶なのだろう。

彼女たちの秘密を知って、変わらずに居られる人間が一体どれほど居るだろうか?

良介はそんな数少ない人の一人なのだ。

「ティアナの様にスバルと変わらず付き合える人間も居るだろう」

「私が会えたのは良介さんくらいですよ?」

それだけでどれほど救われたかと、憂いの色の瞳を見せる。

 

「えいっ!!」

言葉に迷った良介をギンガは無理やり引き寄せて膝枕する。いや、膝枕というよりも下腹部に耳を押し当てる格好になっていた。

「良介さん、聞こえますか?」

とくん、とくんという・・・・彼女の心音にまぎれて、ほんの少し雑音が聞こえる。身じろぎした音だろうか。

「動いている。・・・・生きている音が・・する」

「はい。私達にはもう一つ、守らなくちゃいけないものが、また増えるんです」

「ああ、そうだな・・・・」

日に日に育つ、命という証がそこにある。

「私はこの子には、良介さんみたいに育ってほしいんです」

「おいおい、それは困るだろう?こんな自他ともに認めるこの変人に、自分の子供もさせる気か?」

「そこじゃなくて!・・・・その・・誰も差別しない、真っ直ぐに相手を見る事の出来る人になってほしいんです」

自分を救ってくれたようにと。

「真っ直ぐに相手を見るのは、ギンガの方だと思うが?」

話すとき、じっと目を見て話す。真正面から相手を見るその視線が好ましいと語る。

「そういう意味じゃないんですけど。わざと言っていますね」

「もちろんだ」

くすり、と微笑で流す。

「俺としてはこの子にはギンガに似てほしい」

「真面目が取り柄だけの可愛げの無い子になっちゃいますよ?」

「そんな事は無いさ。ギンガは十分に奇麗だし、可愛らしい・・・・それに家族、命の事を何より分かっている」

臆面も無く言い切る良介に、流石の彼女も朱を散らす。

 

時計を確認すればもう日付が変わる時刻。

当然面会時間は当に終わっている。

それでも良介は、帰る気配を見せずに、ギンガの手を引き、ベッドに寝せる。

大きくなりつつある下腹部からの負担、下腹部への負担を考えて彼女は横向きに寝る。こういった時重宝するのが抱き枕なのだが、彼女はその役目を良介に求める事があった。

彼が面会時間を守らない理由の一つである。

「愛しています・・・・良介さん・・・・」

ギンガは良介に聞こえない小さな声でそう呟き、ぎゅっと、その手を握って、彼の身体を抱きしめた。

 

やがて、ギンガは予定出産予定日を迎えた。

「お医者さんが言うには今日か明日中には生まれるそうです」

ギンガからの報告を受け、良介、ゲンヤ、マリエルの三人は早速ギンガが入院している病院へと向かった。

病室では緊張した面持ちでギンガは見舞いに来た良介とゲンヤ、マリエルの三人に先程の医師の知らせが確かなモノだと報告する。

「そ、そうか・・・・いよいよか・・・・」

良介とゲンヤも・・そしてマリエルも緊張した面持ちである。

「そ、そうだ。折角だし記念写真を撮ろうぜ」

良介が緊張を紛らわすため、写真を撮ろうと言う。

それから良介は急いで売店へ行き、インスタントカメラを買って病室に戻って来た。

そして、四人は記念写真をとった。

当初、マリエルは家族団欒の中に自分が入っていいのかと思ったが、そんな事は気にせずに入って構わないと三人に言われ、写真の中に入った。

ゲンヤとギンガの親子のツーショット。

良介とギンガの夫婦のツーショット。

ギンガとマリエルのツーショット。

看護師さんに頼んで、四人で一緒に撮った集合写真。

ギンガ、一人を被写体にした写真などを撮っていた・・・・。

そしてカメラの中のフィルムを使い果たした時にそれは来た・・・・。

「うっ・・・・!!」

ギンガが突然お腹を押さえながら苦しみだしたのだ。

「ギンガ?ま、まさかっ!?」

「うっ・・・・産まれ・・・・そう・・です・・・・」

お腹を押さえ、苦痛で顔を歪ませながら陣痛が始まった事を知らせるギンガ。

額には玉の様な汗が沢山浮き出ている。

「良介、ナースコールだ!!急げ!!」

「お、おう!!」

良介はベッドに備え付けられているナースコールのスイッチを押すと、すぐに看護師が来た。

「宮本さん。どうかしましたか?」

「ぎ、ギンガが産気づいちまって・・・・ど、どうしたら?」

「落ち着いてください。直ぐに対処しますから」

そう言うと看護師はPHSでギンガの担当医と連絡をとり、担当医と数名の看護師が病室へとやって来た。

看護師達と担当の医師は慣れた手つきでギンガをベッドからストレッチャーに乗せ、分娩室へと運んだ。

史上初の戦闘機人の出産と言う事で、マリエルもその場に立ち会った。

そして陣痛と難産の痛みと戦いながら、無事にギンガは女の子の赤ちゃんを産んだ。

 

出産後、暫くは入院生活が続いたが、やがて退院の日を迎え、ギンガが生まれた我が子を抱き、良介が荷物を持って夫妻はミッドの宮本家へと帰った。

そしてその日の夜・・・・。

 

びぇえ――――ん!!

 

宮本夫妻の寝室のベビーベッドから突如、赤ん坊の泣き声が響いた。

「ぬおっ!?何だ?」

寝室に鳴り響いた赤ん坊の泣き声に驚いて起きる良介。

「あらあら、起きちゃった様ね」

ギンガは特に驚く様子もなく、ベッドから降り、泣きわめく我が子が居るベビーベッドへと向かう。

そして、ベッドから我が子を抱き上げると、あやし始める。

「これが夜泣きってやつか・・・・」

泣いている我が子を見ながら赤ん坊の現象を口にする良介。

「良介さん、明日も仕事があるのですから、先に寝ていていいですよ」

「えっ、でも・・・・」

この大音量の泣き声の中、眠れるのか?

ギンガ一人に任せっきりにして良いのか?

そんな思いが良介にあったが、

「大丈夫です。あらかじめ、良介さんの部屋にお布団を敷いてあります。今夜はそっちで寝てください」

ギンガは良介が寝不足にならないようにちゃんと夜泣き対策は講じていた。

「いや、大丈夫だ。俺も付き合う」

「でも・・・・」

「俺の体力を舐めるなよ。一晩くらい寝なくても平気だよ」

しかし、ギンガの気遣いよりも、このままギンガ一人に任せっぱなしは悪いと思い、付き合う事にした良介。

「すみません・・・・」

こうして良介も夜泣きをする我が子をあやす手伝いをし、夫妻は翌日完全な寝不足となった。

その後も夜泣きをする我が子に対し、宮本夫妻は二人三脚で面倒を見たが、

「アンタ達、ちゃんと寝れているの?」

と、アリサに問われ、

「まぁ・・・・」

「少しは・・・・」

二人とも目の下に隈をつくり、終始あくびをして眠そうな様子。

「アンタらは・・・・」

どう見ても大丈夫そうでない宮本夫妻の様子にアリサは呆れ、

「少しは人を頼りなさい。これでも私は宮本家のメイドなのよ」

と言って、まず良介に対しては夜泣きには完全に不参加となり、暫くは別室で布団を敷き、其処で寝る事となった。

夜泣きにはギンガとアリサが交代で行う事となり、一方が夜泣きしている子供の世話し、もう一方は就寝。

日が昇れば、交代し、夜泣きを担当していた方は、昼寝をし、就寝していた方は子育てと言うローテーションを組んだ。

 

そんな生活が続いている中、

子供が生まれてから赤ちゃんの存在、子育てに興味があるのか、チンクがよく訪れるようになった。

その中で、チンクは授乳と言う行為に物凄く驚いていた。

後日、彼女は授乳について間違った知識をつけそうになったらしい。

その後、アリサとギンガが授乳についての正しい知識をチンクに授け、彼女は将来子供を持つのを楽しみにしていた。

まぁ、その前に彼氏をゲットしなければならないが・・・・。

 

出産後、ギンガはちゃんと、出産前に悩んでいた自分に様々なアドバイスをくれた忍と桃子に出産報告を忘れなかった。

翠屋に生まれた我が子を連れて行ったときには、桃子と忍は心からギンガの出産を祝った。

「なのはが小さかった頃を思い出すわ」

桃子がギンガから赤ん坊を受け取ると、あやしながら、そして懐かしむかのように言う。

「私もです。雫にもこんな頃があったと思います」

まだ小さな赤ん坊を桃子と忍は我が子の様に接してくれた。

「この子も侍君の血を受け継いでいるならきっと、強い子になるわね」

「そうね。良介君とギンガちゃんの子供だもの」

「・・はい。私もそう思います。この子はこうして無事に生まれてきてくれましたもの・・・・」

「ギンガちゃんもすっかりお母さんね」

「えっ!?そうですか?」

「ええ、すごく優しくていい顔してたよ今」

「そ、そうですか・・・・/////

ベテランママさんと先輩ママさん二人に言われ少し照れるギンガであった。

 

そんな感じで子育てをしていく日々が過ぎ、ある日はやてから宮本夫妻に新婚旅行をプレゼントすると言われ、最初は渋った夫妻であったが、アリサやミヤの勧めもあり、二人は旅行へと出かけた。

宿泊先の旅館で、夫妻ははやてに預けてきた我が子の夜泣き対策に少々の不安を感じたが、家事に精通しているはやてならば大丈夫だと思い、その場の雰囲気に流されたのか、この日を境に夫婦の・・男女の営みが解禁された・・・・。

この後、二人は幾度となく体を重ねる事となった。

 

 

そして、時間は現在へと戻る・・・・

 

「・・・・」

「ん?どうしたんだ?ギンガ?」

「あっ、良介さん」

ギンガは不意に良介声をかけられた。

「コレを見ていたんです」

ギンガは見ていたのは先日の蔵掃除で出てきたアルバムだった。

どういう経緯で蔵の中にはいったのかは、不明であるが、ギンガは蔵から出てきたアルバムを蔵から出し、リビングの戸棚の中にしまっていた。

その後、改めてアルバムを見直し、少し前の思い出にふけっていたのだ。

「どれ?」

良介もアルバムをのぞき込む。

「あの時は色々あったな・・・・」

「そうですね・・・・でも、何もかもが今となっては懐かしい思い出です」

「そうだな・・・・」

夫妻は暫くの間、アルバムを見ながら互いに思い出話にふけった。

 

 

あとがき

今回は良介君とギンガの思い出話を描きました。

出産・子育ての裏ではこんな事があったという設定です。

では、次回にまたお会い致しましょう。

 




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