八十四話 サイレンがナリオワッタヒ
「例え、お前が被害者であるとしても、お前はあの女と共に大勢の人間達を殺し、不幸にした!!今更被害者ぶるな!!」
「ぎっ!?」
怒気が混じった声で良介は自分に縋り寄る堕辰子の首に向けて刃を振り下ろした・・・・。
「ぐぉぁおぁおぁおぉー!!」
刃が首に当たった瞬間、堕辰子は悲鳴をあげる。
ブシュっ!!
堕辰子の首が良介の振るう刃によって見事に斬り落とされ、その首はゴロゴロと転がって八尾の元に向かう。
そして、八尾自身も・・・・
「きぇぇぇぇぇぇぇーぁぁぁぁぁぁぁー」
堕辰士に自らの命の殆どを与えたため、まるで早送りをするかのように年をとっていき、黒かった髪はみるみる内に白髪へと変わり、顔も比例するかのように皺のある老婆の顔へと変わっていった。
それは何時ぞや、八尾が堕辰子の首を赤い海で拾った時、光の向こうで、小さな船に乗っていた老婆と同じ姿だった。
そして、八尾は悟った。
今、自分の成すべきことは、別の時空に向かい、其処に存在するであろう、もう一人の自分にこの神の首を届ける事だと。
その世界の自分に儀式を成功させ、自分の罪を流してもらう事だと。
八尾が自身の役割を悟ったのと、同時に地震の様な揺れが襲った。
それはこの世界が崩壊へと進んでいる証拠・・・・。
グズグズしてはいられない。
何処かにあの時、自分が見たあの小さな船が有る筈・・・・。
それに乗れば、自分は助かる。
堕辰子の首を大事そうに抱き上げ、船を探そうと顔を見上げた時、彼女は、目を見開いた。
堕辰子の首を切り落とした男が・・・・・・
神を殺したあの男が・・・・・・
宮本 良介が今、自分の目の前に居たのだ。
「あ・・・・あ・・・・あ・・・・」
良介は冷たい目で自分を見ている。
逃げなければ、
この神殺しの力を持つ男から神と・・・・自分自身の身を守るため、逃げなければ・・・・。
幸いあの男は神との戦いで、ボロボロ、逃げ切れる自信はあった。
しかし、八尾は此処で大切な事を失念していた。
今の自分は不老不死の頃の若い体ではなく、老いた体だと言う事に・・・・。
突然老いた体になった為、八尾は上手く体を動かす事が出来ず、逃げ足も鈍足となった。
そんな老いた八尾に追いつくのは、ボロボロ状態の良介でも造作は無かった。
八尾に追いついた良介は、
「ふんっ!!」
ザシュッ!!
「ぎゃぁぁぁぁぁぁー!!」
八尾の背中を思いっきり切り付けた。
背中に走る激痛により倒れる八尾。
しかし、堕辰子の首だけは手放さなかった。
八尾が倒れている間に良介は八尾の側面へと移動する。
「ひっ、た、助け・・・・」
八尾は此処で良介に助けを・・・・助命を嘆願する。
しかし、良介はその嘆願を聞くことなく、無言のまま八尾の首に焔薙の刃を振り下ろした。
体が老い、更に背中を切りつけられた八尾に避ける術はなかった。
そして、良介は堕辰子同様、この村で多くの人達を殺し、不幸な目に合わせてきた目の前に居る自己中女を見逃す事も助けると言う選択肢も最初から持ち合わせていなかった。
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁー!!」
八尾の首は胴体と泣き分かれた。
それが不死の存在、村を影から支配していた八尾 比沙子のあっけない最期だった。
良介は地面で燃えていた宇理炎の残り火を手に宿した。
炎にも関わらず、宇理炎の炎はまったく熱さを感じなかった。
地獄の業火の残り火でも不死の存在を消滅させるには十分だった。
業火に焼かれ八尾も堕辰子の首も黒く炭化した消炭の様になってゆき、やがて一片の肉片も一本の髪の毛も残さず消滅した。
良介の行った所業はあまりにも残忍で、残虐非道と言われるかも知れないと良介自身も思ったが、アイツらはそれ以上の事を長きに渡り行ってきたのだ。
むしろ、これくらいじゃ生ぬるい位だ。
そこまで考えた時、フッと全身から力が抜ける感覚に襲われ、良介はその場に大の字で倒れる。
「あぁーやべぇ・・・・体中が痛いし、言う事もきかねぇ・・・・それになんだかとっても眠いわ・・・・」
どうやら、自分はこの世界から生きて戻れそうに無い・・・・。
どこか自虐的な微笑を浮かべながら、崩壊していく景色を眺める。
(すまねぇ・・・・みんな・・・・)
次第に意識が薄れ、良介は目を閉じた・・・・。
羽生田村全体が大規模な土砂崩れに巻き込まれた。
その情報を掴んだリスティはすぐに上司に頼み込み、現場への立ち入り許可をもらい、土砂崩れの現場となった羽生田村へと向かった。
現場では、災害救助のため、忙しそうに動き回りながら、村人の救助、捜索活動をしている自衛隊員や警察、消防の救助隊員を横目で見つつ、自らが依頼し、この村へと向かってもらった一人の男の安否を気に病んでいた。
こんな思いは彼が昔、ある事件で利き腕を負傷し、海外の病院へ治療に向かい、そこでテロ事件に巻き込まれ、死亡したと言う報道を聞いた以来だ。
最もその報道は誤報であり、彼は生きていたが、あの時の報道を見た自分や海鳴に居た彼と親しい者達はその誤報を信じ、心に大きな傷を負った。
自分も苦労して入った警察の仕事を退職しようとさえ思った。
彼が無事に日本に帰って来た時、関係を修復するため自分を含め、皆とかなりもめた。
そんな過去の思い出が脳裏を過っていると、
「あの・・・・」
リスティは声をかけられた。
「村の関係者の方ですか?」
リスティに声をかけたのは若い自衛官だった。
「いえ・・でも、友人が数日前にこの村に来て居まして・・・・」
彼女の言葉に、
「あ、あの・・・・俺、何て言っていいか分からないですけど・・・・」
自衛隊員は自分の足元を見てから、土に埋もれてしまった羽生田村を見た。
辛そうに顔を歪め、ギリッと拳を握る。
この状況では、村に居た人間の生存は絶望的なのは明らかだ。
仮に居たとしても、これだけの土に圧迫されてはどのみち長くは持たない。
「だけど・・・・」
再度口を開いた青年自衛官の瞳には強い意志があった。
彼女はこの目を何度も見てきた。
彼は・・・・宮本 良介という男はどんな過酷な状況でも、決して諦めない。
そんな時の彼の目を今、目の前に居る青年自衛官と同じ目をしていた。
「俺は諦めません!絶対に!!だから貴女も、諦めないで下さい!!必ず俺達が貴女の友人を探して見せますから!!」
「そうですね。あの人は決して諦めると言う事はしませんでしたから。それこそ奇跡を起こし、不可能を可能にする人でしたから」
「はい!!」
そう笑みを浮かべながら言うリスティは、もういつも通りの彼女の姿だった。
「宮本 良介・・・・」
「えっ?」
不意に呟かれた名に、青年自衛官はキョトンとする。
「私の探している人の名前です。見つかったら、教えて下さい」
「は、はい!!」
青年自衛官は笑顔になると敬礼し、仕事に戻ろうと走りかけ、再度リスティに向き直った。
「俺、永井といいます!!永井 頼人です!」
「永井君、ですね」
「はい!!」
永井は再びリスティに敬礼すると、今度こそ作業に戻って行った。
「永井君か、あの人も宮本君と似ているわ。・・・どんな絶望的な状況でも決して諦めないところが・・・・」
諦める事が嫌いで、負けず嫌い普段は飄々としているが、いざと言う時は、人一倍意志の強く、奇跡を起こし、不可能を可能にしてきた男、宮本良介がこんな事で終わる訳がない。
リスティの中で、どこか確信めいた希望が生まれ始めていた。
「うっ・・・・こ、此処は・・・・?」
気が付いたとき、圭一は瓦礫に埋もれていた。
幸い、自力で脱出できない程の瓦礫には埋もれていなかったため、体中が痛むが、それを無視して瓦礫の隙間から腕を突き出し脱出を邪魔する障害物を除けていく。
瓦礫の山から抜け出して、圭一が最初に見た物は目を疑うような光景。
大量の土砂や瓦礫で埋もれた羽生田村。
いや、村だった土地・・・・。
そして辺りを忙しそうに動き回る自衛隊員の姿。
そこに此処が羽生田村だったと言う形跡は全くない。
「な、何だよ・・・・コレ・・・・?」
思わず呟いた圭一の肩を誰かが掴んだ。
「君!大丈夫か!?」
振り向くと、此方を心配そうに見ている自衛隊員の姿。
「生存者一名発見!!」
彼は圭一から反応がないのを確認して近くの仲間に大声を張り上げている。
「皆は・・・・?」
圭一はポツリと呟く。
「えっ?」
呟かれた言葉に自衛官は険しい顔をした。
「皆は・・・・!!皆は何処に!?」
圭一は自衛官を押し退ける様に自分から遠ざけると、一心不乱に瓦礫を退かし、両手で土を掘り始める。
「一緒に・・一緒に逃げようって言ったじゃん!!なのに・・なのに何で俺だけ・・・・梨花や良介さん、竹内さんに、高遠さん、豊島さん、安野さんに春海ちゃんは何処に!?」
「き、君。落ち着いて!!」
自衛官は慌てて圭一の肩を掴むが、
「五月蠅い!!皆が!!皆が待っているんだ!!邪魔するな!!」
周りの自衛官達が止めに入るのも構わずに、圭一はひたすらに名を叫び、手を休めない。
体は休みを欲して居る筈なのに、今は皆を助けなきゃ、皆を探さなきゃと言う思いが占めていた。
その時だった。
不意に圭一の目が驚きに見開かれる。
瓦礫を退かした其処に、長い黒髪の少女が横たわっていた。
「梨花!!」
目を閉じたまま動かない梨花の身体を抱き起こし揺する。
「梨花!!しっかりしろ!!目を開けてくれ!!」
「うっ・・・・けい・・いち・・?」
まだ覚醒していない梨花に名を呼ばれ、圭一は何度も頷いた。
「ああ・・ああ!!そうだよ!!助かったんだ!!俺達助かったんだ!!」
圭一が梨花を抱きしめると、それが皮切りだったのか。
大量の瓦礫の中から、見知った顔が現れ始めた。
「うわっ!!何だこりゃ!!」
「辺り一面がぐちゃぐちゃ」
「うぇ〜服も泥だらけだ〜」
あの絶望の中、手を取り合った仲間の姿が、そこにはあった。
「あっ、圭一さん!!梨花さん!!無事だったんだ!!」
二人に気付いた彼らは各々の反応を示してくれた。
皆、泥だらけになりながらも、満面の笑みを浮かべたり片手を上げたり。
だがそこに、一人居ない事に気がついた。
「宮本さんは?」
知子のこの言葉に、誰もが頭の芯から冷える思いをした。
「良介さーん!!」
「宮本さん!!何処!!」
皆が良介の名を叫びながら辺りを見回す。
しかし、どこからも反応がない。
「そんな・・・・まさか・・・・宮本さんが・・・・」
誰もが良介の生存に切望を抱いたその時、
「うっ・・・・」
瓦礫の間から人間の手が突然牧野の足を掴んだ。
「うわっ!!」
突然足を掴まれた牧野は驚き、バランスを崩し、尻餅をつく。
「良介さん!?」
圭一が瓦礫をどけはじめると、皆がそれを手伝う。
そして、
「良介さん!!」
「宮本さん!!」
其処には、泥や血で汚れ、彼方此方が擦り切れたボロボロ状態の服を着た良介の姿があった。
「よ、よぉ〜皆・・無事だったか?」
弱弱しくもニッと笑みを浮かべる良介。
「良介君!!」
そこへ、リスティが駆け付けた。
「リスティ・・お前の依頼・・・・完全ではないが、ある程度はこなしてきたぜ」
そう言って良介は懐から犀賀から受けとった手帳の束をリスティに差し出す。
手帳の表面には泥や血がついていたが、肝心の中身は無事な様だ。
「ええ、お疲れ様、良介・・・・」
手帳をリスティに渡した良介はそのまま、眠りについた。
眠った良介は直ぐに自衛隊が用意していた担架へと運ばれた。
「っあぁー!!シャワー浴びたい!!」
急にみちこが両腕を空に伸ばして叫んだ。
その言葉に、クスクスと笑いが起こる。
良介もどうやら命に別状はない様で、あの異界からの脱出を果たし、ようやく極度の緊張と恐怖から解放されたのだ。
思いっ切り羽を伸ばしたいと言う気持ちは分かる。
「私も〜」
依子も汗で張り付いたシャツをパタパタさせながら同意する。
「お腹も空きましたね」
牧野も苦笑しながら続いた。
「うぅ〜眠い・・・・」
春海は物凄く眠く、とにかく眠りたいのか、頻りに目をこすっている。
しかし、知子は浮かない顔をしていた。
良介も無事で自身もあの異界の村から脱出できたのに何故、彼女は浮かない顔をしてるのか?
その理由は、さっきから自分の両親の姿が見つからないからだ。
この土砂崩れの規模だ。巻き込まれれば、生存率は低いだろう。
自分達が生きているだけでも奇跡に近いのだから。
それともあの異界に飲まれたあの村にいたあの化け物になってしまって、消滅してしまったのだろうか?
(こんなことなら喧嘩なんかするんじゃなかった)
村が異界に飲み込まれる直前、知子は父親とある事で喧嘩をし、家を飛び出し、あの異変に巻き込まれたのだ。
知子が後悔の念の囚われ、涙を堪えて俯いた知子だったが、すぐに懐かしい声に顔を跳ね上げた。
「知子!!」
「知子ぉぉっ!」
自分や皆と同じように泥だらけで、それでも彼女の両親は生きていた。
「お母さん!お父さん!」
泣きながら抱き合う前田一家。
「お父さん、ごめんさない」
知子は喧嘩した時の事を謝る。
「いや、父さんも悪かった。すまない知子」
と、前田家の親子喧嘩も終息した。
前田家の親子喧嘩も無事終息した時、
「おい、あれ豊島さんじゃないか!?」
「えっ!?本当だ!!豊島さーん!!」
「清水君、山口さん、尚人さん!!」
みちこが見たものは、取材に同行したスタッフ達だった。
自衛隊の許可をもらってから彼らはみちこに駆け寄る。
「俺達、丁度、村境に居て土砂の少ない場所に居たんですぐに助けてもらえたんです。でも豊島さんは全く見付けられなくて・・・・」
「でも無事でよかったです!」と言われ、みちこは深い溜め息を吐いた。
それはみちこ自身も同じことが言えた。
彼らが土砂崩れに巻き込まれなかった事、あの村の異変に巻き込まれて無かった事に対し、本当に良かったと思うみちこであった。
自衛隊に救助され、災害救助の本部が設置されたテントまで降りてくると、そこにはテレビ局や新聞社、雑誌社の報道陣がわんさかと来ていた。
「あっ、先生!!あれテレビカメラですよぉ!凄い!お父さん、お母さん、大学の皆、見てるー?」
依子がテレビカメラに疲れを見せない満面の笑みを浮かべ、手を振る。
「安野、はしゃぐな・・・」
依子の行動に呆れた様子で言う竹内。
生存者は望めないと捜索を断念しようとしていた矢先にこれだけの生き残りがいたということで、取材陣のテンションは可笑しいくらいに上がっている。
パシャ、パシャとフラッシュの嵐がして、眩しくて目を開けてられない。
警察や自衛隊の人が報道陣の人達を抑えている隙に、村の生存者達は次々と待機していた救急車へと乗り込んだ。
「全く君は毎度毎度、無茶な事をしてはケガをするねぇ〜・・・・」
海鳴大学附属病院の病室でフィリス・矢沢は呆れた様子で、ベッドに横になっている男に言う。
「まぁまぁ、フィリス、今回は私の依頼を聞いて、頑張ってくれたことだし、私に免じて許して」
「まったく・・・・」
最後まで呆れた様子のフィリスだった。
「それで、あの後どうなった?」
ベッドに横になっている男、宮本 良介は、リスティに自分が意識を失った後の事を尋ねる。
あれから、病院に担ぎ込まれた後、良介は三日間眠り続けたため、あの後の事が気になったのだ。
「良介から貰った手帳で、あの村の全貌・・・・とまではいかないけど、ある程度の事は分かったわ。やっぱり、あの村には隠し銀山があって、採れた銀を政治家や警察上層部に賄賂として貢いでいたみたい。賄賂を貰った連中の下にはもうすぐ特捜部の捜査が入るわ」
「他の皆は?」
良介は、あの村で生死を共にし、あの化け物と共に戦った仲間の事を尋ねた。
まず、圭一と梨花だが、
圭一は今回、村で起こった出来事は自分の胸に秘めて、パソコンサイトに投稿はしないと言っていた。
最も投降したところで、あの地獄の様な経験した者以外誰も信じないだろう。
梨花の方は、圭一と一緒に暮らしているらしい。
圭一が事情を話した所、彼の両親は梨花を家族として迎えると言って、ノリノリでもう一人分の食器やら服やらを買いまくっているらしい。
良介に自分の血を与えた影響なのか、彼女はもう異能力は一切使えなくなり、普通の人間となった。
他の皆も元の世界へ戻った途端、幻視の能力は使えなくなったと言う。
やはり、異界と現世では、人に与える影響が異なるためだろう。
高遠と春海も似たようなもので、身寄りを亡くした春海を高遠が養女として引き取ったとか。
竹内と依子は前と変わらず大学の講師と学生に戻り、みちこも再び多くのテレビ番組で見かけるようになった。
知子は両親と共に興宮での新しい生活を満喫していると言う。
「牧野さんは?」
牧野本人もあの村の求道師、あの儀式に無関係と言う訳ではない。
しかし、彼は人を殺していない。
犀賀の手帳の中にも村に居る不穏分子の排除は全てあの女(八尾 比沙子)が犀賀一族に銘じてきたことであり、牧野一族はそれらには一切関わりが無かった。
故に彼には何の罪もない。
だが、彼は求道師として、あの村で亡くなった大勢の人達のために、興宮の教会で残りの人生を全て、鎮魂のために捧げると言う。
本人曰く、
「もう、後悔したくなかったんだ・・・・」
と言っていた。
「あっ、そうだ」
リスティは思い出すかのように切り出す。
「ん?なんだ?」
「コレ、良介が救助された所の近くで見つかったって、自衛隊の人が持ってきてくれたの。コレ貴方のでしょう?」
リスティが布製の刀袋に包まれた一本の日本刀を出した。
「鞘の方はみつから無かったから、鞘は新しく作ってもらったわ」
「そ、それはっ!?」
良介は見せられた刀を見て、驚愕する。
今、リスティの手の中にある日本刀は、あの時、堕辰子の首を吹っ飛ばした焔薙に他ならなかった。
リスティは、日本刀と言えば、良介の物だと思って態々届けに来てくれたのだ。しかも鞘を新しく作って貰って・・・・。
元々、良介は帯刀許可証を持っているので、真剣の日本刀が彼のモノだと言っても可笑しくは無い。
「・・・・」
良介は如何したものかと思ったが、この刀も最後の最後で、協力してくれた相棒なので、
「実はその刀・・・・」
リスティのその刀の正体を伝えた。
「へぇーこの刀にそんな能力が・・・・」
「あ、ああ・・それで・・・・」
「本当なら、この刀は那美の所に行って封印してもらうところなんだけど・・・・」
「・・・・」
「まぁ、今回の事は、私が頼んだことだし、この刀自体、意思を持つ妖刀と言う訳じゃないから、良介に預けるわ」
良介に焔薙を預けるリスティ。
「ありがとな」
リスティの行為に感謝しつつ良介は焔薙を受け取った。
しかし、受け取った後、改めて焔薙の効果を思い出し、
(これ、シグナム相手には結構有効な、刀なんじゃねぇ?)と、思いつつも、その性能から、
(でも、ロストギアで没収されるかも・・・・)
そんな可能性もあった。
「うーん、ミッドに戻ったら早速はやてに所持の許可を出して貰うように頼むか・・・・」
と、焔薙を握りしめながら、所持の許可を探った。
リスティが帰った後、良介は焔薙を壁に立て掛け、ベッドの横になり、今回の出来事を振り返った。
犀賀・・それに古手淳・・梨花の姉貴の古手亜矢子・・・・。
少なくとも三人の人間を救う事は出来なかった・・・・。
それに今回の件で犠牲になった村人の数を入れればあまりにも多い・・・・。
「・・・・難しいな・・・・人を救うって・・・・」
片手で顔を覆う良介。
スバルやノーヴェもこんな気持ちを味わったことがあるのだろうか?
特別救助隊に所属する彼女たちは救助ミッションのエキスパート・・・・。
しかし、人を助けると言う事はこんなにも難しいのだ。
全員を助ける事が出来ず、気に病むのではないだろうか?
その時、彼女たちは大丈夫だろうか?
心を病んでしまわないだろうか?
「アイツらには俺の様な気持ちを抱いてほしくないものだ・・・・」
良介は、じっと目を閉じ、そのような事がこれから先、彼女たちの身に降りかから無い事を祈った。
こうしてリスティの依頼は終わり、羽生田村での非日常的な日常は終わった。
だが、またもや良介にとって苦い経験となってしまった。
しかし、彼が圭一、梨花、竹内、依子、高遠、春海、牧野、みちこの八人を助けたのは、紛れもない事実である。
彼らはきっと良介に感謝している事だろう。
自分達をあの絶望の世界から助けてくれた剣士に・・・・。
登場人物
八尾 比沙子
“求導女”と呼ばれる、求導師の補佐役。
村が異界に飲まれ、其処に迷い込んだ圭一を助けた。
穏やかな物腰と献身的な態度で、牧野をはじめ多くの村人達の信頼を集めている。
その正体は、大昔、村が飢饉に陥った時に、彼女は堕辰子の肉を口にしたことで不死の呪いを受けた。
このとき堕辰子の肉を口にした村人は比沙子を含め三人いたが、生き残ったのは比沙子一人であった。その理由は当時、彼女が妊婦であったためといわれる。その後は贖罪のために独り、悠久の時を生きてきた。
贖罪を終わらせ、堕辰子に楽園へと導いてもらうべく、自らの直系である古手家から代々娘を生贄として捧げ続けてきた。
その性格は普段の態度とは裏腹に儀式の為なら手段を選ばぬ残忍で、村や儀式に災いを成す者には容赦がない。また思い込みの激しい一面もある。
別の時空から現れたもう一人の自分から堕辰子の首を受け取り、儀式を行うが、肝心の梨花が居なかったため、儀式の成功を焦るあまり、本来の生贄ではない亜矢子を生贄に差出し、神(堕辰子)の怒りを買う。
最後は自分の
"実"(自分の不死の力)を捧げることで堕辰子を完全に復活させるが、堕辰子は良介の手によって倒され、堕辰子の首を別事件に運ぼうとしたその途中、自身も良介の手に掛かり、堕辰子の首諸共消滅した。
堕辰子完全体
八尾の不死の力を受け、完全復活した堕辰子。
"
いんふぇるの"にて良介と激突するが、宇理炎で再び身を焼かれ、最後は焔薙で首を落とされて敗北。八尾により、首を必要とする別の時代へと運ばれる途中、その首を持っていた八尾自身が良介の手によって消滅させられ、八尾の手の中にあった堕辰子の首も八尾と共に消滅したため、完全にこの世から消滅した。
永井 頼人
羽生田村災害現場で、生存者の捜索をしていた自衛隊員の一人。
階級は士長。
原作では
SIREN2に登場した自衛官。SIREN2
本編では夜見島に不時着した陸上自衛官。訓練成績は優秀だが、周りに流されやすい。上官の三沢岳明と共に怪異の原因を探るが、三沢の行動に疑問を抱き別行動を取る。永井は三沢のことを快く思っていなかった。
その後、矢倉市子に銃を突きつける三沢を射殺。闇人と化した沖田宏と闇人甲式となった三沢、堕慧児を殺す。
しかし、最終的には、母胎が地上奪還を成就した平行世界に堕とされ、二度と現世には戻れなくなり、発狂、錯乱し、闇人達に銃を乱射する結末を迎える・・・・。
と、言う悲劇な人物であるが、この世界では、既に夜実島の悲劇は既に良介の手によって終わっているので、仮に彼が夜実島に不時着しても原作の様な悲劇にはならない。
容姿 原作の
SIREN2に登場した永井 頼人と同じ。イメージ
CV蝦名 清一
堕辰子初期形態
大昔、羽生田村を襲った大飢饉を救う為、天から遣わされた神。
しかし、羽生田村の地へ降り立った時、村人に襲われ、その身を生きたまま引き裂かれた。
怒った堕辰子はその場に居た村人の内一人の妊婦以外を殺した後、生き残った妊婦には永遠の命を与えた代わりにその女の一族から自分に花嫁(生贄)を差し出す定めを与えた。
あとがき
羽生田村編はこれにて終了です。
良介君は焔薙をゲット。
炎を弾く刀ですからね、シグナムやアギトにとっては天敵の様な能力を有した刀の筈・・・・。
では、次回にまたお会いいたしましょう。