続サイレンのナルヒ

 

 

辺りが闇に覆われ始めた頃。

一行が待つ交差点にて、圭一はそわそわと落ち着きがなかった。

途中、ライフルを持った牧野が戻って来た時、彼の口から良介は一人でダムへと向かった事を聞き、誰もが良介の安否を気にしたのだ。

その中でも圭一は自分も良介と共に行けば良かったと思っていたのだ。

やがて、皆の耳に遠くの方で轟音と、勢いよく流れる水の音が聞こえた。

「さっきの爆発音・・・・宮本さんだ、きっと」

圭一が呟く。

それに相槌を打ったのは途中まで良介と行動を共にしていた牧野だった。

「あぁ。恐らく彼が予定通りにダムを破壊したんだろう」

牧野が確信を持って言ってから暫くすると、闇の中からふらりと何者かが現れた。

竹内が拳銃をみちこがライフルを構えるが、その銃口は圭一の手によって『待った』がかけられた。

「待って下さい!!あれは・・・・!?」

「ただいま・・・・」

皆の前に現れたのは、煤に汚れてボロボロの姿をした良介だった。

 

一行と合流した良介は、ダムを爆破した事と、そのダムの底に居た人(屍人)達の事を伝えた。

「そんな事が・・・・彼らの魂が今度、安らかな眠りについたことを祈りましょう」

求道師の牧野が目を閉じ、彼らの安らぎを祈った。

ダムの爆破によって、屍人の巣が濁流に飲み込まれ、全てが終わり、後はこの村からの脱出だけだと思っていた一行だったが、

そこへ、

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

あのサイレンの音が鳴り響いた。

「バカな・・・・」

「まだ・・・・」

「サイレンが・・・・」

「鳴っている・・・・」

てっきりもう終わったのかと思っていた時にまだ終わっていないと自己主張するかのようにサイレンの音は鳴り響く。

「ったく、しつこい化け物だ」

良介は三八式歩兵銃を杖代わりにして立ち上がる。

「ちょっと、宮本さん!!」

「どこへ行くつもりだ!?」

「神を・・・・あの化け物を殺す」

「そんなっ!!」

「一人で!?無茶すぎるよ!!」

皆からは抗議の声を上げるが、良介は、手でソレをおしとどめ、皆に言う。

「俺はこの村がどうなろうと知らない。本来の目的も達成された・・・・」

良介は犀賀から渡された手帳の束を皆に見せる。

「だけど、生きる事を諦めてない貴方達とは関係がある・・・・。あの生簀かねぇ尼と神様気取りの化け物にこれ以上好き勝手させて堪るものか。俺はあの先生にコレを託された。それに牧野さんからも・・・・だから、俺が全てを終わらせる。この村の全てを・・・・」

良介は自分の意思を伝えた後、辺りには一時の静寂が流れる。

破ったのは意外にも梨花だった。

「手を貸して」

良介の正面に立つと、梨花は良介の手を取る。

そして徐に良介の腰にぶら下げている鉈を一本取ると、突然、良介の掌を切り付けた。

「っ!?」

突然掌に走る痛みに顔をしかめる良介と、梨花の行動に唖然とする周りの面子。

ボタボタと血が滴り落ちる良介の手に、同じように鉈で掌を斬った梨花が互いの傷を合わせる。

「これは、私の血の杯。罪の許しとなる、永遠の契約の血。・・・・ごめんね・・・・せっかく綺麗な血だったのに・・・・」

良介の手を離して梨花は申し訳なさそうに俯く。

しかし、良介はそんな梨花の頭に手を置いた。

「大丈夫だ、ありがとな。さっきよりも体が軽くなった気がするよ」

その言葉に、ジワリと梨花の瞳に涙が浮かぶ。

「っ!?何が大丈夫だ!私は呪われている!今のだって良介の体に私の呪いを・・・・」

そこまで言って、梨花の言葉は良介によって止められた。

「だからこそ、俺はこれからその呪いを解きに行くんだよ」

「良介・・・・」

「大丈夫だ。こう見えても俺は、死んだ人間を蘇らせた事もあるし、俺自身あの世から復活した事もあるんだぜ」

良介は過去の経験を語るが。この場に居る皆は、梨花を励ます為だろうと思った。

しかし、それと同時に彼ならば、あるいはとも思った。

「それじゃあ行ってきます。後でまた会いましょう」

「必ず戻ってきてね!!約束だよ!!」

知子が声をあげ、自分達から離れていく良介を見送った。

その良介は知子の声援に答えるかのように右手をあげ、去って行った。

知子や春海が不安そうに良介が去って行った方を見つめていると、

「大丈夫だよ、宮本さんは強いんでしょ?絶対帰ってくるよ。あっ、そうだ。ここから出られたら皆でお祝いしましょう。ファミレスとかで」

依子が笑顔で提案すると、傍らの竹内が盛大な溜め息を吐いた。

「気が早いぞ、安野。まだこの村から出れると言う保証はないのに」

「何言ってんですかぁ、先生!こういう計画は事前に立てて置いた方がいいんですよ!!」

「・・・・そうだな」

再度溜め息を吐いた竹内だったが、その顔は微笑んでいた。

 

ダムの濁流を受け、半壊した屍人の巣。

崩れた材木を避け、ピチャピチャと赤い水を踏みながら良介は進む。

そして彼は無人の祭壇に再度足を踏み入れた。

祭壇と言ってもダムの濁流を受け、オルガンも燭台も無くなり、祭壇があった場所と言った方が正しい。

ここで、三人の人間が死んだ・・・・。

梨花の姉である亜矢子。

その婚約者の淳。

そして、自分に宇理炎を託した犀賀医師・・・・。

その他にも大勢の村人が死んでいった・・・・。

皆、八尾の下らない自己願望のために、彼らは虫けら同然の様に消えた。

「逃がさねぇ・・・・必ず息の根をとめてやる」

呟いた良介の視線の先に、赤い水の張った三角形の大きな水溜りがあった。

迷わず其処に向かい、しゃがむ。

赤い水面には水たまりをのぞき込む良介の顔が映っている。

その後ろには、犀賀の姿が映っていた。

驚いて振り返るがそこには誰も居ない。

しかし水たまりには、彼の姿がはっきりと映っている。

「犀賀医師?」

「終わらせるんだろう?全てを・・・・」

「ええ」

「ならば、連れて行ってやる・・・・アイツらがいる所に・・・・」

「よろしく」

良介がそう言った瞬間、水鏡から眩しい光が溢れ、ドボンと音を立てて彼の身体は水鏡の中へと沈んで行った。

 

「っぷは!!」

ザバァと盛大な音を立てて、良介は水鏡から顔を出した。

水鏡から這い上がると息を整え、落ち着いてから周りを見た。

どこまでも続く赤黒い空に枯れた彼岸花と大きな石柱が六本立つ大地。

「犀賀さん、此処にアイツらがいるのか?」

良介は此処まで自分を導いた犀賀に確認するが、返事はなかった。

もう犀賀は傍にいないらしい。

彼は水鏡を開ける為に来ただけだったのかと思い、立ち上がって歩こうとした、まさにその時、

ざっ、と音を立てて彼の前に立ち塞がった者がいた。

足を止めてその姿を捉えた時、良介は目をスッと細めた。

彼の前に立つ塞がった者・・・・。

それは間違えようもない青年・・・・だった者・・・・。

「古手・・淳・・・・」

しかし、淳はもう人間ではなかった。

肌は血の気が失せ真っ青で、目からは他の屍人と同じに血を流している。

「ハ、ハハ・・・・ハハハハハハハハハッ!!」

突然、淳は良介の姿を見て高笑いをする。

その手には猟銃がしっかり握られていた。

「ホント、哀れだよ。お前は・・・・。あの女のせいで化け物に成り下がり、最後まであの女の駒にされたのだからな」

良介が挑発的に淳を嘲笑するのと、淳が銃口を良介に向けるのはほぼ同時だったが、それでも良介の方が行動に出るのが早かった。

素早くそこから跳び退き、銃口の射線から外れ、柱の陰に隠れる。

柱の陰から先ほどまで淳の居た場所を窺うが、そこに淳の姿は無い。

奴もどこかの柱に隠れたらしい。

良介は三八式のボルトハンドルを操作し、弾薬を見る。

弾はしっかり装填してあった。

予備の弾も多数ある。

銃をいつでも撃てる状態にした瞬間、頭の中に真っ赤な映像が流れ込んだ。

こちらが隠れている柱に何かが素早く接近している。

「狗では俺は倒せない 狗では俺は殺せないぞ・・・・駄狗め」

良介はニヤリと笑った。

 

「うぇっ!?」

淳は驚きで動きを止めた。

つい今まで確かに良介は此処に隠れていた。

しかし今はいない。

何処に行ったのかと頭を上げた瞬間だった。

 

ズドーン

 

一発の弾丸が淳の胴体を貫いた。

 

しかし、今の淳は屍人・・・・一発の銃弾を受けただけでは死なない。

淳は不気味な笑みを広げ猟銃を持ち上げ、引き金を引いた。

 

バキューン

 

「ちっ・・・・」

良介の左頬に一筋の赤い筋がツゥーと出来る。

「このっ!!」

 

ズドーン

 

良介も反撃と言わんばかりに淳に弾丸を撃ち込む。

 

昔の刑事ドラマか、映画の様に二人は互いの銃を撃っては隠れ、撃っては隠れの攻防戦繰り返していたが、

装備の点においては良介の方が優っていた様で、淳の方が先にライフルの弾切れが起きた。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・ふっ!!」

淳は弾の切れた猟銃を捨て、今度は一振りの日本刀を取り出し、切りかかって来た。

良介は切りかかって来た淳に対し、弾丸を撃ち込むが、淳は怯む事無く切りかかってくる。

やがて、良介の方も弾丸が切れ、銃を投げ捨てて、鉈で・・・・刃物で淳と斬り合う。

しかし、淳は剣道や居合の経験がないのだろう。

構えは兎も角、出鱈目に斬りかかって来る。

それを避けながら、付かず離れずの距離を保ちながらチャンスを伺っていた。

切り札は良介の上着のポケットに入っている。

不死の存在はおろか、神さえも殺す神の武器が・・・・。

 

イタチゴッコのまま進展しない状況に業を煮やしたのか、淳が刀を両手でしっかり握り、一気に駆けてきた。

人間ならば、決死の覚悟を決めた、一撃必殺の攻撃だろう。

しかし、

「かかったな、バカが!!」

良介が叫び、鉈を淳に投げつける。当然淳は、手にした刀で投擲されてきた鉈を弾く。

しかし、その間に良介は上着のポケットから手を抜いた。

良介の手にはしっかりと宇理炎が握られていた。

鉈を投げたのは淳を足止めする為だったのだ。

淳がそれを確認できたかは分からないが、眩い光と共に地面から炎の柱が出現すると、

次の瞬間、淳の身体は炎に包まれていた。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁー!!あぁぁぁぁぁぁぁああー!!」

絶叫しながら崩折れた淳はボロボロと焼け落ち、一片も残さずに消滅した。

 

淳が消滅し、後に残っていたのは、彼が持っていた一本の日本刀だけ・・・・

良介はその刀に近づき、それを拾った。

その刀の刃面には、こう彫られていた。

「焔・・薙・・?」

(草薙の剣の様なものか?)

しかし、神をも殺す筈の炎に包まれながらも燃え尽きなかったこの刀。

恐らくこの刀も宇理炎同様、普通の刀ではなく、神の武器に類する物だろうと、判断した良介は、それを手にしたまま嫌な気配のする方へと足を進めた。

 

「どうやってここに・・・・?」

八尾は目の前に現れた一人の男に驚きと怒りの眼差しを向けた。

対して良介は八尾に冷ややかな視線を向ける。

いや、正確には八尾と八尾の背後に居る堕辰子に対して・・・・。

堕辰子は目に見えて弱っていた。

宇理炎の炎を受けて傷つき、あの後で、応急処置とは言え、本来食さない筈の男性(淳)の生贄を食したため、人間で言う腹下しを起こしたのだろう。

そこへダムの決壊によって鉄砲水を喰らったのだから、堕辰子にとっては踏んだり蹴ったりだった。

「無様だな、化け物。今まで美食をしすぎてきたのが、仇となったな」

ひどく冷たい声色で良介は焔薙を構える。

「駄目!!やめて!!」

堕辰子を庇うかのように両手を広げる八尾。

必死に懇願する女・・・・。

それがただの女であったなら良介も心動かされたかも知れない。

そう“ただの”女だったならば・・・・。

しかし、目の前に居る修道女、八尾 比沙子はただの女ではない。

後ろで弱っている化け物同様・・この女も化け物だ。

良介は表情一つ変えず、堕辰子へと近づく。

傷ついていても八尾よりも堕辰子の方が厄介そうだったので、先に堕辰子を殺そうとしたのだ。

「この身を捧げます。天におわす主よ・・お力を・・・・」

良介が堕辰子を殺す事を諦めないと悟った八尾は此処で神に祈りをささげる。

すると、堕辰子の体は光を取り戻し、ボロボロだった体の傷はみるみる回復し、体つきも青白いタツノオトシゴから虫と埴輪を併せ持ったような体に変化し、体を宙に浮かせてた。

(身勝手な女に、身勝手な神<化け物>だぜ、まったく)

「面白い、化け物を殺すのはいつだって人間だ・・・・人間を舐めるなよ!!化け物!!」

不敵に笑い、良介は焔薙を構えて堕辰子から顔を逸らさない。

すると、堕辰子の身体が透け始め、遂には姿を消してしまった。

それを見て瞬時に良介は前に飛び出すように転がった。

良介が前に転がった瞬間、目に見えない何かが、良介の後ろ髪を数本切断した。

それが堕辰子の仕業であると良介には分かった。

「血に飢え、肥大化した食欲の気配・・・・やっぱりお前は神なんかじゃない・・・・醜い化け物だ。神の名を語る化け物だ!!」

良介は堕辰子を挑発するかのように辺り一帯へ聞こえる程の大声で、神である堕辰子を否定した。

 

それからどれくらいあの化け物と攻防を繰り返しただろうか。

ほとんど攻撃を防いでいた良介でも、無傷ではないし、堕辰子も神殺しの力を持つ焔薙ぎと宇理炎の炎をその身に受けている。

(どこにいる化け物)

堕辰子の気配を探る良介。

傷の為、集中力が少し欠け始めた。

「はっ!?・・くっ・・・・」

良介は振り向き様に焔薙を一振りして数歩後退した。

その瞬間、良介の左肩から右脇腹の斜めにかけて、血が霧状に噴出した。

「ごほっ・・・・」

腹の傷を抑えるが、逆流してきた血は口から吐き出された。

その場に膝を付くと、待っていたと言わんばかりに堕辰子が蜃気楼のように姿を見せた。

「くそっ、神様って言うのは、姿を消して背後から攻撃するしか能のない卑怯な奴の様だな・・・・最も、お前は神じゃなくて、化け物なのだから卑怯で当然か・・・・」

姿を見せた堕辰子を忌々しそうに見て呟く良介。

そんな言葉の意味を知ってか知らずか、堕辰子はスズメバチの攻撃態勢の様な態勢で、羽を振るいながら接近してくる。

一気に決着を着けるつもりなのだろう。

もし、奴が人間の言語を喋れるならば恐らく、

「うるせぇ、卑怯でもなんでも、勝てば良いんだよ!!勝てば!!」

と、でも言っていただろう。

堕辰子が良介を間合いに取ったその瞬間、

「この、化け物がァァアァ!!!」

唐突に良介は左手を堕辰子に向けた。

良介の手に合ったのは宇理炎。

青白い炎と虹色の炎が、堕辰子の身体を覆う。

「うぉぉぉぉぉぉー!!」

良介が法術の力を強め、宇理炎の威力を高める。

すると、

 

パキッ

 

土偶に罅が入り、

 

パリン

 

土偶が崩れた。

「なっ!?嘘だろう!?」

土偶が壊れた事により、宇理炎が使えなくなった。

しかし、法術で威力を上げた宇理炎を受けた堕辰子はかなりのダメージを受けた様で、

「うぎゅあぁぁぁーぎえぇぇっぇぇえー!!」

耳障りな金切り声を発した後、その身をドサッ、と地に落とした。

瀕死には間違いないだろうが、まだしぶとく生きていた。

だが、形勢は逆転した。

良介は立ち上がると足元でもがき苦しがっている堕辰子へと焔薙を掲げた。

「これで終わりだ。神を殺す!!」

後は刀を振り落し、此奴の首を切り落とすだけなのだが、

その時、良介の脳裏にある光景が広がった。

「っ!?」

(なんだ!?・・・・これは!?)

 

 

荒廃した地に大きな白い手と羽の生えた魚の様な生き物を生きたまま腹を掻っ捌き、その肉を貪る数人の人間達。

謎の生き物を食べている人たちの服は戦国時代の農民が来て居た様なみすぼらしい服を着ていた。

謎の生き物は生きたままその身をさばかれ、手掴みで自らの肉を引き千切られていく苦しみから、きゅーきゅーと悲鳴の様な声をあげている。

しかし、人間達は止めることなく、一心不乱にその生き物の血肉を食らう。

幾らなんでも生きたままの生き物?をその場で裂いて焼くことも煮る事もせず、一心不乱に食べている事から彼らが余程飢えていたのだと思われる。

やがて、限界に達したのか、その生き物は一際甲高い声をあげる。

その声は・・・・

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

あのサイレンの音だった。

突然、自分達が今まで聞いたこともない音を聞き、謎の生き物を食らっていた人間達は耳を抑える。

その中で、お腹を大きく膨らませた女性が一人居た・・・・恐らく妊婦なのだろう。

良介はその妊婦の顔を見て、目を大きく見開いた。

(あいつは・・・・!?)

妊婦の顔は髪型や着ている服は違うが、まぎれもなく、その妊婦は八尾 比沙子その人だった。

良介が、妊婦が八尾だと認識した時、目の前の光景は弱っている堕辰子の光景へと・・・・元の視界へと変わった。

(成程、あの人魚のお伽話同様、此奴の肉を食ったために、八尾はずっと若い姿のまま生き続けていたのか・・・・)

八尾の不老不死の謎が解けたところで、堕辰子はまるで、良介に縋る様に首や手を伸ばしてきた。

(・・そう言う事か・・・・どこまでもふざけた奴だ)

堕辰子の行動を見て、良介はますます目の前の化け物に殺意が湧いた。

先程見た光景は恐らく大昔、堕辰子が経験した出来事なのだろう。

そして、此奴が良介に何故あの光景を見せたのか、その真意は大体の見当がついた。

要するに、此奴は、『自分は悪くない。悪いのは八尾 比沙子なんだ』と良介にそれを教え、『俺は被害者なんだ。頼む、助けてくれ!!』と、傷つき弱って自分の形勢が逆転した途端、此奴は良介に対し、命乞いをしてきたと言う事だ。

「例え、お前が被害者であるとしても、お前はあの女と共に大勢の人間達を殺し、不幸にしてきた!!今更被害者ぶるな!!」

「ぎっ!?」

怒気が混じった声で良介は自分に縋り寄る堕辰子の首に向けて刃を振り下ろした・・・・。

 

 

おまけ

 

 

野郎共と雑煮

 

 

年の瀬が迫ったミッドにて、八神家では、毎年恒例の餅つきが行われた。

出来上がった餅は、はやて達、八神家が常日頃、お世話になっている方々や親しい者達へと配られた。

ついでに餅料理のいくつかのレシピも配られた。

しかし、この時配られた餅がまさか、あの様な事態を起こすとは誰も思ってはいなかった。

年が明けたハラオウン家。

台所では、クロノが一人、包丁で蒲鉾を切っていた。

鍋には、妻であるエイミィが作った八神家特製の雑煮用のだし汁がグツグツと煮えている。

トースターの中には、はやてから貰った二つの餅が丁度いい感じに焼けている。

クロノは、温まっただし汁の中に餅と先程刻んだ蒲鉾を入れ、雑煮を作ると、リビングのソファーに座り、テレビのリモコンを操作し、チャンネルを回す。

面白そうな番組のチャンネルにし、テレビを見ながら御椀のだし汁を一口啜り、餅を口に入れた途端、クロノは息を詰まらせた。

その行動で、お椀が手から滑り落ち、雑煮がリビングの床にこぼれる。

そしてクロノの身体は床に倒れる。

(しょ、正月に餅を喉に詰まらせてしまった!!た、助けを呼ぼうにも家族は買い物に出かけてしまっているぅ〜・・・・誰か助け・・・・宮本・・ミヤモトぉ〜)

クロノは良介に心の中で助けを求める。

 

一方、宮本家でも丁度同じ時間に良介が雑煮を食べていた。

クロノが心の中でSOSを発した瞬間、

「んっ!?」

良介も餅を喉に詰まらせた。

餅をのどに詰まらせた良介はクロノ同様、床に倒れる。

(も、餅が喉に・・・・だ、誰か・・・・ヴァ、ヴァイス、助け・・・・)

良介がヴァイスに心の中で、助けを求めた丁度その時、ヴァイスもはやてから貰った餅で作った雑煮を食べており、

「んっ!?」

ヴァイスが心の中で誰かに助けを求めようとした時、

「どりゃぁぁぁぁ!!」

「けほっ・・・・」

妹のラグナがヴァイスの腹に拳を叩き込み、餅を吐き出させた。

その後、良介もギンガによって、クロノも丁度帰って来た家族によって何とか一命を取り留めた。

 

 

登場人物・登場兵器

 





古手 淳 (享年18歳)

古手 亜矢子の許嫁。

入り婿のため、古手家の裏の秘密には亜矢子同然よく知らなかった。

そのため、妹の梨花にも手を出そうとしていた。

村の中で一番の権力を持つ古手家の跡取りであることを鼻にかけ、言動は非常に傲慢で執念深く、無抵抗の人間をいきなり銃撃しようとするサディスティックで卑怯な一面を持ち合わせる。

堕辰子の不完全な復活によって亜矢子を失い、自らも堕辰子の贄にされ、屍人化する。

「いんふぇるの」に現れた良介の前に立ちはだかるが、宇理炎によって滅ぼされた。

容姿 原作のSIRENに登場した神代 淳と同じ。

イメーCV土倉 有貴

 

焔薙

古手家の家宝。

外見は普通の日本刀であるが、打刀とは違い、柄の造りからどちらかというと太刀に近い造りをしている。

眞魚岩から採取された隕鉄を精錬して鍛えられた刀で、天の神の力が宿るとされており、鍔の部分には、マナ字架が透かし彫りにされている。

古手家に伝わる書「焔薙ノ事」によれば、かつて羽生蛇村が異教の弾圧にあった時、強力な神の武器とされる焔薙の力により、村は何度も救われたという。

 

 

あとがき

次回でこの羽生田村編も終わりです。

原作のSIRENをプレイしても今回の作中の様な印象を受けたので、文字にして現してみました。

あれは全部八尾が悪いですし、その後も生贄を求め続けた堕辰士も調子に乗り過ぎたと思っています。

では、次回にまたお会い致しましょう。




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