八十一話 続サイレンのナルヒ デラックス来襲

 

 

鼻持ちならない兄貴こと、古手 淳を気絶させた後、彼を放置した良介達は竹内らと合流し、村からの脱出を目指して歩いていた。  

入り口が有ったのだから出口も必ずある。

彼らはそれを信じて異界とかした村を歩いていた。

 

 

その頃、良介達とは別行動をしていた犀賀は合石岳に来ていた。

ただ、彼が今いるのは、みちこが以前拳銃を手に入れた集積場よりも更に奥の方にある錫の採掘場だった。

「運命に抗うか・・・・」

犀賀がポツリと呟くと、前方から一人の女性の屍人が犀賀に向かって走って来た。

それは、病院にいた幸江だった。

ただ、この時幸江の姿は顔の彼方此方にイソギンチャクの様なモノをぶら下げており、その姿から彼女が通常の屍人から第二形態へ進化している事が窺えた。

幸江は犀賀に近寄ると、

「どうして〜一緒に居てくれないのぉ〜」

と、不気味に尋ねながら、手を上げ犀賀をひっかこうとする。

そんな幸江を犀賀は容赦なく、そして戸惑うことなく手に持った散弾銃で撃つ。

至近距離で散弾銃をくらった幸江はその場に倒れ、蹲る。

蹲る幸江を尻目に犀賀は採掘場へ足を踏み入れた。

その採掘場にある工作室にて、犀賀は散弾銃の銃身を鋸で短く切った。理由は狭い坑道内では長い銃身を振り回すにはあまりにも不利だからだ。

銃を改造した後、エレベーターのブレーカーを上げて、エレベーターを起動させる。

すると、いつの間にか復活した幸江が工作室へと入って来た。

犀賀はまたも散弾銃で幸江を撃ち、様子を窺うが、なんと幸江は一分もしないうちに再び起き上がり、犀賀に襲い掛かって来た。

当然犀賀は散弾銃でまた幸江を撃つ。

「本当にしつこい女だな」

これ以上幸江にムダ弾を使う訳にもいかないので、犀賀は工作室を後にした。

 

犀賀は導かれるように採掘場の下へ・・・・坑道の奥へと進む。

採掘場の坑道の中には、普通の屍人ではなく、四つん這いになり、虫の様に天井に張り付き、心なしか体系が少し変形した屍人もいた。

この屍人は武器を持ってはいなかったが、上下左右の全方位からの攻撃が可能となっている。

しかも、暗闇の中でも目が効く様だった。

そんな虫(蜘蛛)屍人を倒しつつ、採掘場のクレーンが有るところに、工具箱が有り、その中に大き目な杭があった。

犀賀が幸江の視界をジャックすると、やはり幸江は復活し、犀賀を探しながら採掘場を彷徨っている。

(ドラキュラではないが、今の幸江は少々厄介だ)

散弾銃を至近距離で受けながらもほんの一分足らずで復活する幸江はこれまで犀賀が遭遇して来た屍人とはひと味違った。

このまま幸江の相手をしつづけては散弾銃の弾がすぐに底をついてしまう。

杭を一見し、犀賀は行動に映る。

工作室へと戻った犀賀は幸江の逃げ道を絞るため、まずエレベーターの電源を落とし、今度は幸江を探す。

その幸江は坑道のエレベーターの中で、必死にボタンを押しながら何かを呟いていた。

「せんせぇ〜は・・私が居ないとだめなんだからぁ〜」

「せんせぇ〜になら、何されても平気ですぅ〜」

これが人間ならば、危ない人、ヤンデレ、またはストーカーの類に入るだろう。

犀賀は幸江の言動に呆れながらも幸江の下へと行き、散弾銃の弾を撃ち込み、更に起き上がれない様に彼女の胸に、先程拾った杭を打ち込む。

「せんせぇ〜!!」

杭を打つ込まれた幸江の断末魔が坑道内に響く。

やがて、幸江はピクリとも動かなくなった。

すると、あの虫の様な屍人達も銃弾を受けたわけでもないのに、突然その場に蹲り、動かなくなった。

(急に動かなくなった・・・・もしかしてこの虫の形をしている屍人は、ある特殊な屍人によって感覚を繋いで支配されていたのか?それが、幸江だった・・・・)

犀賀は杭を打ち込まれ、動かなくなった幸江を見下ろす。

 

しつこい屍人(幸江)と虫屍人を沈黙させた犀賀は再び採掘場の下へ・・・・奥へと進む。

やがて、最深部へと到達すると、人一人がどうにかやっとくぐり抜けられる隙間の下へとやってきた。

その隙間からは青白い光が漏れていた。

犀賀はその隙間を縫って入り込むと、その向こうには小さな社と一本の剣が突き刺さっていた。

まず、犀賀は剣を抜くと、その剣は長い年月放置され続けられたせいか、ボロボロと崩れ去った。

次に社の扉を開けると、そこには青白く発光する小さな土偶の様な置物があった。

犀賀がその土偶を手にすると、光が消えた。

「葬られた古の力・・・・か・・・・」

犀賀はその土偶を上着のポケットに入れ、地上を目指し、その場を後にした。

 

 

犀賀は採掘場で屍人と戦い、謎の土偶を手に入れている時、良介達は・・・・

「いまいち地理が分からん・・・・」

この異界の出口を求めて未だに村を彷徨っていた。

太陽の光がささず、薄らと霧が立ちこめる村は静かで不気味だった。

時々、遠くに屍人の姿を認めるが避けられる遭遇は避けるために迂回や物陰に待機をするなどでかなり時間が経過していた。

次第に皆には疲れが見え始める。

(流石にこれ以上の行軍は無理か・・・・どこかに休めるような場所は・・・・)

良介は皆の様子を見た後、辺りを見回す。

すると、前方に一軒の廃屋が目に入った。

「竹内さん、高遠さん。皆疲れている様子ですし、取りあえず、あの廃屋で休憩しましょう」

「そうだな、そうしよう」

「中に何もいなければいいけど・・・・」

良介の意見に竹内と高遠は賛成したが、この状況である。

あの廃屋の中に屍人が居ないと言う保証はどこにもない。

高遠は心配そうに呟き、傍らの春海の手を握った。

先に廃屋に飛び込んだのは良介と竹内だった。

竹内が持っていた銃と先程良介が警官から奪った銃を構えながら辺りを警戒する。

動くものがあれば容赦なく引き金を引くために・・・・。

しかし、幸いなことにその廃屋には屍人はおろか猫一匹存在しなかった。

「どうやら此処は平気な様だな?」

「そうですね」

屍人の気配が無いと分かり、ホッと一息をつく二人。

その後、外で待っていた皆に安全であることを伝え、皆はその廃屋の中に入る。

廃屋ゆえに中は当然荒廃していた。

一階では見つかる可能性があると、二階に移動してから皆休息を取る。

良介は竹内から弾薬を何発か分けてもらった。

警官から奪った銃は幸運にも竹内が所持していた拳銃と同じ38口径のリボルバー拳銃だったため、弾薬が共有できた。

皆が休憩をとっている中、

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

再びあのサイレンが響いた。

サイレンの音を聞き、皆の間に緊張が走るが、良介と竹内は特に動じる事もなく、腕時計を見る。

「昼の十二時か・・・・」

良介が呟き、竹内が何か思い当たることがあるのか考えるように指を顎に当てる。

「このサイレン、決まった時間に鳴るな。まるで昼や夕方に流れる放送やサイレンと同じように・・・・」

「決まった時間?」

「あぁ、一日に六時間置きに聞こえるんだ・・何か意味があるのか・・・・?」

竹内はそれが気になったのか、手帳にペンを走らせている。

このサイレンの音が普通のサイレンの音ではないと分かっていたが、そのなる時間は普通のサイレンと変わらない事に気が付いた。

良介と竹内がこのサイレンについて考え込んでいる時、圭一は窓のはめ込まれていない窓枠に腰掛けながらふと外を見て目を見開いた。

二階から見下ろした道路。そこを、こちらに背を向ける形で佇む何かがいた。

それは人のようだが人ではない姿をしていた。

非常な巨体に長細い手足、芋虫を思わせる肌の質感で、例えるならば、肥大化した芋虫から人間の細い手足を生やして頭の代わりに人間の顔を取り付けたような、胴と首が異様に長い奇怪な姿をしているが、人間が芋虫の着ぐるみを着込んでいるような滑稽な姿にも見える。

そして、肌の色は他の屍人が青白いのに対し、そいつは真っ白な肌をしていた。

「な、何だ?あれ?」

圭一は思わず呟く。

呟きが聞こえた知子が近寄り、同じように外を見て恐怖に固まった。

「やだっ!何あれ!?」

「うわっ!!キモッ!!」

口を押さえて後退る知子、依子の二人と入れ違いに良介が隣に立つ。

「何だ?ありゃ?巨大な芋虫か?」

他の皆も気になるのか、そっと窓の外を見て、巨大な芋虫の様な屍人の姿を見て固まる。

幸いあの屍人はこちらに気付いていない。

だからといって逃げられるチャンスではない。

アレが遠くに立ち去るまで良介達は此処から動けなくなったのだ。

「大勢で見ていると気づかれる」

竹内がそう指摘すると、皆ゆっくりと窓から離れる。

良介は最後まであの屍人の動向を窺っていたが、不意にその屍人が後ろを振り返り、素早く身を引っ込める良介。

「見つかったか?」

「・・・・いえ、どうやら平気みたいです」

竹内の問いに再び顔を覗かせた良介は、こちらを見ていない屍人を見て首を横に振る。

(どうやら小休止が長い休憩になりそうだ)

良介は再び窓の外へ視線を向け、あの屍人動向を窺いながら心の中でそう思った。

 

 

「そういえば・・・・」

廃屋で休憩している中、良介は何かを思い出したように呟く。

「どうしたんですか?」

良介の呟きに圭一が反応した。

「梨花の声、何処かで聞いたことがある気がしたと思ったら、なのはの声と似ていたんだ」

「なのは?」

「ああ、俺の・・・・まぁ、妹的な奴だ」

「そんなに声が似ているんですか?」

「ああ、同じセリフを言われたらどっちが言ったのか分からんくらいだ・・・・」

そう言って、良介はおもむろに携帯を取り出し操作する。

当然通話もメールも圏外となっているので、使えないが、フォルダーの中に以前、録音したなのはのボイスを再生させる。

梨花本人も自分と同じ声を持つ人物に少し興味があるのか、近づいて来た。

やがて携帯のスピーカーから、

「少し、頭冷やそうか?」

OHANASHI・しようか?」

聞くだけで何か寒気がする様な声が聞こえてきた。

「た、確かに・・・・」

「私の声だ・・・・」

なのはの声を聞き、圭一も梨花も驚いていた。

最初に聞かせた声は低い声だったが、その後は、明るいなのはの声を聞かせ、

「梨花もこんな声を出せるんじゃないのか?」

圭一が梨花に提案する。

「む、難しいかも・・・・」

明るい声・・・・。

それは今まで人を拒絶してきた梨花にとって難題であった。

「そ、それじゃあまずは笑顔だ。梨花、笑ってみろ」

今度は梨花に笑顔を強要する圭一。

梨花は必死で笑みを浮かべようとするが、逆に顔が引き攣ってしまう。

「・・・・余計怖くなったわ」

良介が本音をポツリとこぼすと、梨花は良介の頭にチョップを入れ、

「良介、少しOHANASHI・する?」

と、言ってきた。

「いや、そっち(魔王モード)は似なくていいから!!」

慌てて良介は梨花にツッコム。

梨花の先程出した声と顔は魔王モードとなったなのはにとてもよく似ていた。

 

それから時間は過ぎて行き・・・・。

「すっかり暗くなったな」

圭一がぽつりと呟く。

昼にあの化け物の姿を見てから、良介達はずっと廃屋の二階に立て篭もっている状態だった。

幸い、あの化け物はどこかに行ったが、まだ遠くに行ったとは限らない。

事実、奴は何度かこの辺りを巡回していた。

そこで暗くなるまで行動は控えようという事になったのだ。

夜陰に乗じてあの化け物をやり過ごそうと言う事になったのだ。

「さて、そろそろ行きますか?」

良介が一同を見回して問い掛ける。

必要ならば、まだ此処にいてもいいという選択肢の意味を込めて。

しかし彼らは一人も首を横に振らなかった。

このおかしな村から逃げ出すにはこれ以上一分一秒も無駄には出来ないと思ったのか、それとも此処にこれ以上いたくないという恐怖なのかは分からなが、兎も角一同は、本来の目的でもある休息もたっぷり取れた様子なので、廃屋からの脱出を決めた。

廃屋から出ると周りの気配に集中する。

いつ何処で闇に紛れて襲って来るか分からない緊張の中、嫌な静けさに包まれている道を歩く。

見つかるリスクを避け、一同は懐中電灯の明かりを消している。

そして、普通の屍人であれば連中、夜間はご丁寧に懐中電灯をつけて徘徊しているため、すぐに分かる。

不意に一番後ろを歩いていた良介が止まる。

良介の前を歩いていた梨花も怯えた様子で圭一の腕を引っ張る。

「梨花?どうした?」

「・・・・来る・・・・・アイツが・・来る・・・・」

その視線は真っ直ぐ、今から皆が進むべき道に注がれている。

良介自身もこの道の先から禍々しい気配を感じていた。

そこで、

「下がれ!!来るぞ!!」

良介は声をあげて、皆を下がらせ、自らは前に出て正面を睨む。

すると、次第に足音が近くなる。

それは普通の人間よりも大きな足音で、ドシン、ドシンと音を立て、朽木を押し倒す音まで聞こえてきた。

やがて、闇の中、浮き上がる白い巨体・・・・。

それは、間違いない。

いや、間違えようが無かった。

それの姿がはっきりと肉眼で確認出来るまで近くなった時、誰もが言葉を失った。

まるで巨大な芋虫を思わせるような体系。しかしそれは虫ではなく二足歩行の人間・・・・いや、正確に言うと、紛れも無く人間だったモノ・・・・。

元が人だと分かっても、ここまで姿形が残っていなければ恐怖や嫌悪もまだマシだったであろう。

(あの島の異形人やハエ男が可愛く見えてくるぜ・・・・)

良介はその白い芋虫の様な巨人を見上げながら顔を引き攣らせる。

「せ、先生、何なんですかアレ?!」

依子は、唖然としたままの竹内に叫ぶ。

「わ、わからん・・・・だが、連中が何らかの影響で変化したモノ・・・・としか言いようがない」

依子の叫びを聞き、我にかえる竹内は銃を巨人に構える。

同じくみちこも震えながらもライフルを巨人へ向ける。

「せ、先生・・・・」

「大丈夫よ、春海ちゃん」

縋り付く春海に、高遠は気丈に微笑んだ。

残念ながらそれは引き攣ったもので、しかなかったが、彼女は気丈に振舞い、春海を怖がらせまいと必死だった。

皆が突如現れた巨人に恐怖する中、

「邪魔だ。○子デラックス!!」

良介が両手に鉈を構え、巨人に歩み寄る。

「み、宮本さん!?」

圭一が慌てて呼び止めるが良介は歩みを止めない。

ある程度、巨人に近づくと、良介は地面を蹴った。

「さあ来い!!松○デラックスもどき!!俺が相手だ!!」

どこか嬉々とした口調で良介は巨人の足を鉈で切り付けた。

すると、巨人の足からブシュッと言う音と共に赤い液体が付吹き出る。

巨人は切り付けられた事に怒ったのか、標的を良介一人に絞った。

道に十分な余裕が出来る。

「今だ!!行け!!」

良介が皆に向かって叫ぶ。

その叫びに素早く反応したのは竹内だった。

迷わず、近くにいた依子の手を引っ掴むと走り出す。

続いて牧野も知子の手を掴み走り出す。

圭一も梨花の手を掴み、高遠も春海の手を掴み走る。

「あ、あの・・先生、宮本さんが!!」

依子が叫ぶが竹内は構わずに走り近くの民家の廃屋に駆け込む。

「大丈夫だ。ここならすぐに助けに行ける」

良介を除く皆が同じように駆け込んできてから竹内は呟いた。

今、この場には良介と巨人の二つの影しかない。

「さあデラックスもどき、楽しませてくれよ」

巨人を前に良介は不敵に笑みをこぼした。

 

それから暫くして・・・・

 

 

「くそっ、ペッ・・・・」

口の中に鉄の味が広がる。

唾液を吐き出すと、口の中を切ったのか、吐き出された唾液には血が混じっていた。

それを吐き出して立ち上がった良介に、容赦ない一撃が飛ぶ。

回避も間に合わず、良介はまともに喰らうと地面に叩き付けられた。

「ぐはっ・・・・ごほっ・・・・はぁはぁはぁはぁ・・・・」

軽く咳き込むと再度立ち上がり正面から化け物を見据える。

あの化け物は、動きは緩慢だった。

まぁあの巨体なのだから無理もないだろう。

しかし、その分、奴はその体を生かした戦い方を知っていた。

第一に、力が半端なく強く、平手一発で良介の体は払われた羽虫同然に吹き飛ばされる。

第二に、その体つきだった。

足は普通の人間や屍人と同じだが、上半身は、見ての通り肥大化した芋虫の様になっているが、その身体は分厚い皮下脂肪で守られている様に皮膚が分厚かった。

銃弾も効かないであろうその皮膚に、刃物が役に立つ訳もなかった。

弱点である足は奴の間合い・・・・懐に飛び込む事となる。

そうなれば、一撃で奴を倒さなければならない。

もし、失敗すれば握りつぶされるかもしれない。

首をへし折られるかもしれない。

地面に叩き付けられるか放り投げられるかもしれない

どちらにせよ終わりだ。

良介が巨人の攻略法を考えていると、頭上からヒューと何かが落下してくる音が聞こえた。

咄嗟に後へ避けて良介は唖然とした。

「・・・・」

地面に派手な音と共に落下して来たのは赤いポスト・・しかも民家の玄関先に置いてあるモノでは無く、郵便局の前においてある回収用の郵便ポストだった。

気付くのが僅かでも遅れていたら、間違いなくポストの下敷きになり、大怪我では済まされなかった。

「あの細い腕でよくまぁ・・・・」

もはや人間離れした力に感心と呆れに思わず呟いていた。

良介が巨人の馬鹿力に呆れていると、巨人は道端に設置されていた道路標識を軽々と引き抜いた。まるで雑草を引っこ抜くかの様に・・・・・・。

それを振りかぶり、奴は躊躇いなく一直線に投げてくる。

飛んで来た標識の軌道から素早く逃げる良介は、そこで化け物の思惑に気が付いた。

「しまった!!」

跳んできた標識を避けた後、良介は巨人の思惑に気が付いた。

ポストと標識はフェイントだったのだ。

飛び退いた先には、巨人の細長く白い手が良介目がけて迫っていった。

 

ガシッ

 

ブン

 

巨人に掴まれた良介は放り投げられ、廃屋の壁に叩き付けられた。

「ぐはっ・・・・!!」

激しい衝撃と痛みに意識の飛びそうになった。

「はぁ・・・・はぁ・・・・くそっ、一瞬綺麗な花畑とクイントの奴が見えたぞ・・・・」

悪態つく良介であるが、体中は彼方此方切れて血塗れになった。

立ち上がろうとしたが、このボロボロの状態では腕に力を入れるが叶わない。

幸いなのは内臓や骨が無事な事だ。

しかし、状況は何ら変化しておらず、良介が不利なのは変わらない。

「はぁ・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」

苦しそうに呼吸をする良介であったが、その目からは闘志は失われていなかった。

 

「ど、どうしたら・・・・」

廃屋の中から見ていた依子が呟く。

その時、空が一瞬光った。

「ん?雷か?」

この異界でも雨は降っていたので、当然雷もあった。

竹内が空を見上げて呟く。

その直後、どこかに落ちたのだろう激しい轟音が響く。

そしてまたゴロゴロと言う音と共に空が光った。

「雷・・落雷・・・・そうだ!!」

圭一が何かに気付いた。

「よし!俺、ちょっと行って来ます。梨花の事、頼みます」

「圭一!?」

梨花が驚きに声を上げる。

いや、梨花だけではない。その言葉を聞いた皆が驚いていた。

「大丈夫。絶対に梨花を一人にしないから。一緒に・・皆でこの村を出るんだろう?」

「約束だぞ」

「うん」

まだ不機嫌そうな梨花に圭一は笑顔で頷いた。

火かき棒を手に廃屋から出ようとした彼を呼び止めた人物がいた。

振り返ると、そこには、警棒を手にした牧野が居た。

「牧野さん?」

「私も行きます」

今まで屍人の姿に震えていた牧野だったが、今の牧野は多少震えながらも、其処に立っていた。

「分かりました。行きましょう!!」

圭一と牧野は廃屋を出た。

 

「それで、どうする?」

「雷です。雷を奴に落とすんです。あのアンテナを使って」

圭一は牧野に作戦を説明し、急いでアンテナのある民家の廃屋を目指した。

そして、屋根からアンテナをもぎ取る。

下では、あの巨人が良介をいたぶっている。

巨人は良介を一思いに殺さず、敢えていたぶっているのだ。

まったく悪趣味な奴だ。

圭一と牧野はそれぞれ手にアンテナを持ち、空模様を窺いながら屋根伝いに巨人へと接近する。

そして、

「喰らえ!!化け物!!」

「ふんっ!!」

二人はアンテナを巨人に向け、投げると、アンテナは深く化け物の脳天に突き立った。

分厚い脂肪のように見えていた巨人の体であったが、以外にもその身体は柔らかい様でアンテナが上手い具合に突き刺さった。

そして空が眩い光に包まれると同時に、雷は落ちた。

アンテナが刺さったままの化け物の下へと・・・・。

落雷を受けた巨人はたちまち火達磨となった。

「そのまま燃え尽きちまえ!!」

屋根の上から絶叫して炎上する化け物を見ながら圭一は、ニッと笑みを浮かべた。

 

「宮本さん!!大丈夫ですか?」

巨人が燃え尽きると、圭一と牧野が良介の下へと駆け寄る。

「圭一に・・牧野さんか?あ、ああ・・・・何とかな・・・・おかげで助かったよ」

良介、圭一、牧野が巨人を倒し、ホッとしていると、

ドシン、ドシン、ドシンと先程まで聞き慣れた足音がして、三人の表情が固まる。

そして、バキバキと民家を破壊しながら現れたのは、先程倒した巨人と同じ姿の屍人がなんと二体も現れた。

「う、嘘・・だろう・・・・」

「マジかよ」

「あ、ああ・・・・」

一体でさえ倒すのに苦労したのに、其処へ立て続けに二体も巨人が現われた。

二体の巨人の出現にもはや絶望しか思い浮かばない三人だった。

 

此処で時間は少し巻き戻し、圭一と牧野が良介の援軍に向かっていた頃、

知子は先ほどから誰かの視線を感じていた。

しかし、辺りを見回しても自分をジッと見つめている人物は居ない。

そこで、知子は目を閉じ、視界をジャックしてみると、確かに自分達以外にこの民家の廃屋から此方(自分達)をジッと見つめている視界があった。

それはこの部屋にある押し入れの中からであった。

目を開けた知子は恐る恐る押し入れへと近づく。

「どうしたの?知子ちゃん?」

高遠が押し入れに近づく知子に声をかける。

「この押し入れの中に何か居るんです」

「なんだって!?・・前田君、私が確かめよう。君は下がって」

「は、はい・・・・」

この場に残った竹内が知子に代わり、押し入れへと近づく。

 

この状況で押し入れに居るとしたら屍人なのだろうが、屍人ならば押し入れに隠れる必要はないし、むしろ襲い掛かって来る筈だ。

ならば、自分達同様、村の生存者でこの押し入れに隠れているのかもしれないが、一応用心のため、竹内が押し入れを開ける代役を買って出たのだ。

片手で銃を構え、もう片方の手で押し入れの襖に手をかける。

そして、襖を開けた。

其処に居たのは・・・・

「きゃぁぁぁぁぁー!!」

押し入れの中一杯に蜘蛛の糸の様な繭に包まれた大きな緑色の顔だった。

顔は突然、襖を開けられ、悲鳴をあげる。

そして、その顔を見た女性陣も、

『きゃぁぁぁぁぁー!!』

悲鳴をあげた。

ただ大きな顔はただ悲鳴をあげるだけで、襲い掛かってくる様子はない。

と言うか、顔だけで体の部分は見当たらない。

顔だけでは襲い掛かろうとしても襲い掛かれない。

 

バンっ!!

 

「きゃぁぁぁぁぁー!!・・・・ぐぇぇぇぇぇ〜」

ライフルをもったみちこが大きな顔の額に銃弾を撃ち込んだ。

少なくともこの大きな顔は生きた人間には見えない。

と言う事は、この大きな顔も屍人に属する類だろうと思い、みちこは大きな顔の額に弾丸を撃ち込んだのだ。

弾丸を撃ち込まれた大きな顔は、舌をベロンと出してようやく黙った。

「うわぁ、キモっ!!」

依子が舌を出して、沈黙した大きな顔の屍人を見て、一言呟く。

他の皆も口には出さないが、表情から嫌悪感を出しているのが分かる。

見ていてあまり気持ちの良いモノではないので、竹内が再び押し入れの襖を閉めた。

 

廃屋にてみちこが大きな顔の屍人を沈黙させた頃、二体の巨人が迫って来た良介達は、死を覚悟した。

もう一度、屋根の上に上がり、アンテナをとって来る様な余裕はないし、恐らく巨人達がその様な事をさせる訳がない。

だが、巨人達は良介達に襲い掛かかろうとした直後、突然苦しみだすと、その場に倒れ、動かなくなった。

「動かなくなった・・・・」

「い、一体・・・・」

「何が・・・・」

突然倒れ、動かなくなった巨人を見て、何が起きたのか理解できなかったが、助かった事にはかわりなく、三人は安堵の息を着くと皆が待つ廃屋へと戻った。

 

 

登場人物(?)設定

 

 

蜘蛛屍人

赤い海へ海送りされた半屍人が変異する、いわば屍人の第二段階の一つ。

四肢を張るように伸ばした姿勢と、逆向きにねじれて複眼の現れた頭部が特徴で、頭脳屍人によって制御されて初めて行動することができる。

感覚器が鋭敏で、暗がりでの気配や微かな物音にも鋭く反応し、よじ登って壁や天井を自在に移動できるため、死角から忍び寄って奇襲を仕掛けてくる。しかし手が使えない為、扉の開閉や梯子の上り下りなどが出来ない。

 

 

怪力屍人

赤い海へ海送りされた半屍人が変異する、いわば屍人の第二段階の一つ。

その名の通り、片手で大きな物(ポスト等)を投げ飛ばしたりする。しかし、登場個体数は少ない。

巨体に見合った体力を持ち、銃撃や打撃などの通常の攻撃で倒すことが出来るが、相当の量の弾丸、器量を使うこととなる強敵。重い物を投げる攻撃は当たると即死する威力を持つ。

容姿 SIREN NTに登場した怪力屍人。

 

 

頭脳屍人:乙

屍人の変態の一種。

甲型と違い、人間の原型を留めておらず、作中に登場した押し入れの中にいた頭脳屍人は自ら動くことは出来ないが、甲型の頭脳屍人同様蜘蛛屍人、羽根屍人、怪力屍人を統率することが出来る。

今回登場した頭脳屍人は、SIREN NTに登場した押し入れに居た頭脳屍人をご想像下さい。

 

 

あとがき

今回犀賀が手に入れた宇理炎はPS2版の宇理炎をご想像下さい。

PS3版の宇理炎は大きすぎるのと形状が持ち運びにくそうなので・・・・。

NTに出てきた怪力屍人の顔・・何となくCMやバラエティに出てくるあの人に似ているんですよね。

良介君の携帯はシャーリーの御手製のモノなので、完全な防水加工が施されているので、小川に落ちた後でもちゃんと機能しているので、良介君は梨花になのはのボイスを聞かせる事が出来ました。

では、次回にまたお会い致しましょう。