七十八話 続 サイレンのナルヒ 生存者達 その二

 

 

圭一が女の子の悲鳴を聞いて教会を出て、どこか偉そうな態度の青年と儀式で生贄にされそうになった少女と邂逅して村を彷徨っている頃、城聖大学の講師、竹内とその大学に通っている依子と出会った良介は、村の一角にあった廃屋にて、目が覚めた。

この廃墟に入ってから、二、三時間おきに竹内と見張りを交代して一夜を凌いだ良介。

結局、休んでいる最中、屍人からの襲撃は無かった。

その間に良介の服も乾き、着替えを済ませた良介と竹内はこれからどうするかを検討している中、

(あ、あれ?学生証が・・・・)

依子がポケットを探ると、この村に来る前、ジーンズのポケットの中に入れていた学生証が無い事に気が付いた。

(ど、どうしよぉ〜どこかに落としちゃったのかな?)

依子は良介と竹内が話し合っている中、そっと廃屋を抜け出し、落とした学生証を探しに出た。

 

夜実島に居た異形人は光に弱いため、日中は太陽が出ていたので、現れなかったが、この羽生田村に居る屍人は日の光が弱いと言う訳ではない。

故に日中の太陽の下でも屍人は外を普通に出歩いている。

もっとも今、この村は異界に飲まれており、空模様も太陽の光が照りつけない薄暗い環境となっている。

そして、依子は屍人の存在を知らなかった。

依子の中ではただ変な村と言う認識しか抱いておらず、まさか村が異界に飲まれ、村人が人であらざる者に変化しているとは思ってもみなかった。

故に廃墟から出た依子はあっさり、屍人に見つかり追いかけられた。

「いや!!何なのあの人!!」

屍人の顔、行動を見て、訳が分からなくなる依子。

そりゃ、目から血を流し、顔が青白く、鉈や鎌を手にいきなり自分を追い掛け回してくる不審者がいたら、普通は誰でも逃げるしおっかながる。

「いや!!来ないでよぉ〜」

必死で屍人から逃げる依子。

すると、一発の銃声が響き、依子を追いかけていた屍人が倒れている。

「あれ?」

依子は突然倒れた屍人を見て、首を傾げる。

そこへ、依子に近づく人物がいた・・・・。

 

場面は、時間を少し巻き戻し、依子が屍人に見つかり追い掛け回されている所まで遡る。

「余所者?この怪異に巻き込まれたのか?運のない奴だ・・・・」

火の見櫓から屍人に追い掛け回されている依子の姿を見つけたその人物は手に持っていた連装式の狩猟用散弾銃の照準を屍人へと向け、引き金を引いた。

 

ダンッ!!

 

放たれた弾丸は見事屍人の頭部に命中。

屍人はのたうち回った後、その場に蹲る。

銃を撃った人物は、火の見櫓から降り、依子に近づいた。

 

一方、廃屋にて、竹内と話をしていた良介は、依子の姿が居ないのに気が付く。

「あれ?そう言えば、生徒さんの姿が見えないような・・・・」

良介の指摘に竹内も気が付き、慌てて廃屋内を探すが、依子の姿は見つからない。

「まさかっ!?あいつ外へ!?」

「ええっ!!」

良介と竹内は慌てて外へと出た。

外へ出て依子を探している最中、良介は依子の学生証が落ちているのを見つけそれを拾った。

その直後、辺りに一発の銃声が響いた。

「今のは!?」

「銃声だ!!」

「急ぎましょう!!」

「ああ」

屍人の中には銃で武装している者もいたので、そいつに依子が撃たれたのかと思い、二人は銃声のした方へと向かった。

 

そして、時系列は元に戻る。

火の見櫓から依子を追いかけていた屍人を撃った人物が依子へと近づく。

近づいて来た人物を見て、依子はホッと一息ついた。

「よかった。普通の人がいたんだ」

銃は持っているが、その人物は、目から血を流していないし、肌の色も普通の人と変わらない。

その様子からこの人はまだ普通の人間なんだと依子は判断した。

「アンタ、なんでこんな所に?」

猟銃を肩に担ぎながらその人物は依子が何故村に居るのかを尋ねる。

「学生証を落としちゃって、探していたら襲われちゃって・・・・えっと・・ありがとうございます」

「一人で来たのか?」

「いえ、大学の先生と・・・・」

依子が連れの竹内の事を言うと、

「安野!!」

そこへ、竹内と良介が来た。

 

「このバカ、あれほど私の言う事を聞けといっただろう!!」

依子と再会した竹内はまずは、依子を叱った。

「す、すみません・・・・」

叱られた依子の方はシュンとする。

「ま、まぁまぁ、無事だったから良いじゃないか」

良介が竹内を宥める。

そして、

「そうだ。コレ、アンタのだろう?此処に来る途中で落ちていたぞ」

依子に学生証を渡すと、

「っ!?中、見ました!?見てないですよね!?」

依子は慌てて学生証を受け取ると、良介に尋ねる。

「いや、見てないが・・・・何かマズイものでも入れているのか?」

依子の慌て具合を見て、学生証の中に他人には見られてはマズイモノが入っているのかと尋ねる良介。

「い、いえ・・そんなんじゃありません。ただプライバシーに関係するので・・・・」

何か誤魔化している様にも見える依子の態度であった。

しかし、良介はあえてそこには深く関わらなかった。

 

「それで、アンタらは何でこの村に来た?」

依子を屍人から助けた人物が良介たちにこの村に来た要件を尋ねる。

「私は大学の民族学者で、この村にはある調査で来た。こっちは私の教え子なのだが、勝手について来てしまった」

「ど、どうも・・・・」

「俺は人を探しにな・・・・それで、アンタは?この村の人なのか?」

「ああ、私はこの村で医者をしている犀賀 省悟だ。それにしても災難だな。この村に来るのもあともう少し遅かったらよかったものを・・・・」

どこか皮肉を込められた言葉だが、あながち犀賀の言う事も最もである。

 

「さて、それじゃあ俺は探し人がいるので、探してくる」

良介はここで皆と別れる事とにした。

「そんな、一人じゃ危ないですよぉ〜」

そんな良介に依子が単独行動は危険だと言う。

先程、単独で行動し、屍人に追い掛け回されたので、その危険は身に染みて分かっている。

「大丈夫だ。ちゃんと武器(刀)を持っているからな」

依子に儀式の最中どさくさに紛れ、奪ってきた刀を見せる良介。

「それじゃあ探し人が見つかったら・・・・または、見つからなさそうだったら病院に来てくれ。私はそこに居る」

「ええ、竹内さん達も出来たらそこで待っていてください」

「分かった。だが、気をつけろ」

「ええ・・・・」

良介はそう言い残し、再び異界の村を走り回った。

犀賀に竹内達を託し、村の中を走り回っている中、

(ん?そう言えば、リスティに聞かせてもらったテープの中に『犀賀』って苗字が出てきたな・・・・そしてさっき会った医者の苗字も犀賀・・・・それに医者・・・・病院・・・・あの医者何か知っているかもな・・・・)

テープと手紙の主の行方を先程出会った犀賀医師が知っているかもしれないと言う思いを抱きながらも、良介は圭一と手紙の送り主の行方を捜した。

 

 

村の住宅地である大字粗戸・・・・。

その住宅地を一人の男がトボトボと歩いていた。

男はキリスト教等の聖職者が着るキャソックと言う服を纏っている事からこの人物が、村の聖職者、または宗教関係の人間であることが窺えた。

「八尾さん・・・・皆、どこに・・・・」

男は怯えるような口調で、辺りを見回しながら歩いている。

その直後、

「うっ・・・・」

突如、激しい眩暈が襲ったと思ったら、一瞬自分以外の視界が映った。

「こ、これは・・・・」

男が、困惑した様子で立ち止まっていると、

「おい、そこのアンタ」

突然、背後から声をかけられ、

「うわぁぁあっ!!?」

男は自分でも驚くくらいの叫びを発して振り返る。

 

男が振り返った先には、腰に日本刀をぶら下げた男(良介)が居た。

良介の方も、男が上げた声にビックリしている様子だった。

「あぁ!ご、ごめんなさいっ!」

「い、いえ・・・・」

慌てて謝る牧野に良介は平然とした態度で答える。

「失礼、人の気配を感じたので、声をかけたのだが・・・・どうやら人間の様だな」

「あ、あの・・・・」

男が良介に何かを言おうとした時、男の顔が恐怖に引き攣った。

先程の男が上げた声に誘きだされたのか、屍人達がこちらに向かってきた。

「ひっ!に、逃げ・・・・」

「ふん、死にぞこないの化け物どもめ・・・・」

男が逃げようと言う前に、良介は向かってくる屍人達を睨みつけ、屍人達に向かって走っていく。

屍人達も、

「うおおおぉぉぉー!!」

と、一声あげ、手に持った鎌や鉈、トンカチを振り上げ、良介に向かって走って行った。

そして間合いに踏み込んだ瞬間、刀を抜刀し横薙ぎに振ると、一度に三人の屍人の胴体が切断された。

続いて半瞬遅れ、屍人の腕や首、足が次々と舞っては、ボトボトと地面に落ちる。

切り口から真っ赤な体液を吹き出させながら屍人達は倒れた。

「さてと・・・・もう大丈夫だぞ」

屍人達の体液がついた刀を振り、良介は何事もなかったかのように男に話しかけた。

しかし、男の方は腰を抜かす寸前で逃げ腰状態だった。

 

「へぇーアンタ、この村の求道師なんだ」

「は、はい。牧野 慶と言います」

良介が出会い、屍人の連中から助けた男はやはりこの村の聖職者であり、名を牧野と名乗った。

探し人の圭一ではないが、此処で普通の人間を見捨てるのも酷なので、良介は一先ずこの求道師の牧野と行動を共にする事にした。

「そう言えば、アンタ・・・・」

「はい?」

「昨日の夜のあの怪しい儀式のときに居た神父だよな?」

良介は昨夜、森の中で見た人を生贄にするあの怪しい儀式の中、神父らしき人物が居たのを見ており、その時の神父が今此処にいる牧野ではないかと尋ねる。

「・・・・」

良介に尋ねられると、牧野は黙り込んでしまった。

「別にあの儀式が何なのかとか、アンタらを逮捕ないし、脅そうとかそういう事で聞いたんじゃない・・・・ただ確認したかっただけだ・・・・言いたくなければ言わなくていい・・・・」

「・・・・」

気まずい空気が良介と牧野の周囲に漂った。

 

それから良介は牧野と行動を共にしている途中、屍人に追われていた村の少女、前田 知子を保護し、三人で薄い霧が立ちこめる村の街道を歩く。

やがて、村の外へと続く道へと出ると、三人は足を止めた。

村から出られるはずなのに何故、三人は足をとめたのだろうか?

その理由は簡単であり、その先に道がなかったからである。

「そんな・・っ、村が・・消えている・・・・!?」

村から出る街道の道と村の一部が途中から切り取られているかのように、存在していなかったからである。

眼前の光景を見て、牧野が青ざめながら呟く。

「海だ・・・・」

知子がポツリと眼前に広がる光景を見て呟く。

山間部の村に海などある訳がないのだが、切り取られた道の下には真っ赤な海が広がっていた。

そして・・・・。

「求道師様・・アレ・・・・」

知子が何かに気付いたのか赤い海の方の一部に指をさす。

そこには赤い海に向かう何人もの人間(屍人)達の姿があった・・・・。

三人が赤い海の彼方へと歩いていく人間(屍人)達の姿を見ていると、

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

再びあのサイレンが鳴り響いた。

「この音怖い・・・・何かの鳴き声みたい・・・・。私達どうなっちゃうの?」

今にも泣きだしそうな知子に、耳障りなのか苦い顔をする牧野。

しかし、良介の方はと言うと、特に気にした様子は無かった。

(何かの鳴き声・・・・やはり、あの人魚の奴か?それともそれと類似する魔物か・・・・どちらにせよ、そいつを倒さなければ、この村からは出る事が出来ない様だな)

知子の言葉を聞き、このサイレンの音がやはり人工的、自然的になっているサイレンではなく、魔物の類の鳴き声だと結論付けた良介は、赤い海に消えていく人間達を見下ろしながら目を細めた。

 

村が異界に飲まれ、脱出が出来ないと分かった三人は、とりあえず、犀賀や竹内らが居る犀賀医院へと向かう事にした。

「どうしよう・・・・」

牧野が情けなく呟いた。

犀賀医院へ向かうには、この蛭ノ塚と呼ばれる道を通らなければならない。

しかし、そこには当然奴らが居た。

牧野はウロウロと歩き回り、時折立ち止まっては周囲を見回す。

「悩んでいても解決はしない。とにかく進むしかないだろう」

良介が牧野にそう諭し、一歩踏み出した瞬間、

「危ない!」

急に知子が叫んだ。

咄嗟にしゃがみ込むと一瞬後に近くの木に銃弾が命中した。

「くっ」

良介は弾丸の飛んできた方を見やる。

すると、そこにはライフルを構えた屍人がいた。

次の弾が発射される前に良介は物陰へと隠れる。

「だ、大丈夫ですか?」

牧野が心配そうに尋ねる。

「ああ、問題ない。助かったよ。でも、どうして分かった?」

良介が牧野に自分が無傷だと伝えると、次に知子へと顔を向け、何故あの時、危険だと分かったのかを聞く。

「その・・・・急に、目の前が赤くなって・・多分、私の視界じゃなかった・・・・。そしたら、宮本さんの姿が見えて・・・・」

知子も良く分かっていないらしい。それでも一生懸命に説明しようとしている。

「そっか、ありがとう。助かったよ」

そう言って微笑みながら、良介は知子の頭に手を乗せる。

すると、知子の頬が紅潮し、照れたように、「うん」と、頭を振った。

その後、良介は「やれやれ、面倒だ」と、思いながらも再び抜刀し、

「少し、此処で待っていてくれ」

と、言い残し、器用に岩場を昇って行った。

やがて、何発かの銃声と屍人の叫び声がしたが、それもすぐに収まった。

「ったく、手間取らせやがって」

良介は倒れている屍人を見下ろしながら忌々しそうに呟く。

そして、屍人から奪ったライフルを手に取る。

「このライフル・・・・やっぱり・・・・旧日本軍が使っていた九九式短小銃か・・・・」

今、良介の手に握られているのは、紛れもなく、第二次世界中、日本軍が開発、使用していたライフルであった。

銃身に刻まれた日本軍兵器である証の天皇家の「菊の紋章」は削られていたが、銃自体は、何の改良も施されていない状態だったため、職業上、銃器に詳しくなった良介にはすぐに分かった。

(大石さんの言う通り、この村には旧日本軍の武器が溢れていたな・・・・恐らくその武器も殆んどが、連中の手の中にあるんだろうな・・・・)

屍人からライフルと弾丸が入ったカバン(ショルダーバッグ)を奪うと、

「もう、出てきていいぞ」

と、隠れていた牧野と知子に声をかける。

良介の声が聞こえ、牧野が恐る恐る顔を出すと、そこには、ズタズタに引き裂かれ、地面に倒れた屍人の姿と右手に刀、左手にライフルとカバン(ショルダーバッグ)を持った良介の姿があった。

その姿は武装したテロリストっぽく見える。

 

「ホレ」

「えっ?」

良介は屍人から奪ったライフルと弾薬の入ったカバン(ショルダーバック)を牧野に押しつける。

「武器が無いと不便だろう?」

狼狽える牧野に良介は不敵にニッと笑みを浮かべる。

「で、でも・・・・」

良介は未だにライフルを手に狼狽している牧野に背を向け、

「二人は先に病院へ行け」

「えっ!?宮本さんは!?」

知子が不安げに聞く。

すると、辺りには屍人の声が聞こえてきた。

それも、一人や二人ではない。

恐らく先程の良介とライフルを持った屍人との戦闘の音を聞きつけて、近くにいた屍人達が集まり始めたのだろう。

「これだけの数相手に、三人で動いていたら誰かがやられちまうかもしれないだろう?俺が囮になって奴らを引き付ける・・・・」

良介がそう言っている間にも屍人達は距離を縮めてくる。

刀を振り、刃についていた屍人の体液を振り払う。

「早く行け!!」

「で、でも・・・・」

「いいから!!早く!!」

尚も食い下がる牧野に良介は思わず怒鳴る。

「っ!?」

良介に怒鳴られ、牧野はそれ以上何も言わなかった。

そして、牧野が黙ると、今度は先ほどの怒鳴り声とはうってかわって冷静な声で、

「牧野さん・・・・」

牧野に声をかけた。

「は、はい」

「求道師なら・・・・男なら・・・・女の一人を全力で守れ!!その子を今、救えるのはこの世界でアンタだけなんだからな・・・・」

牧野は少しの間良介の背中を見ていたが、やがて意を決したように頷くと知子の手を握る。

「・・宮本さん・・・・分かりました。行こう知子ちゃん!!」

「えっ!?きゅ、求導師様っ!?」

牧野に引きずられるように、知子は何度も良介を振り向いていたが次第にそれも見えなくなるくらい離れていった・・・・。

背後での牧野の言葉を聞き、良介は

(なんだ、やれば出来るじゃないか・・・・)

フッと口元を緩めた。

そして、

「さぁ、お前らの相手は俺だ。精々楽しませてくれよ・・・・化け物ども」

自分に迫ってくる屍人達に向け、不敵な笑みを浮かべる良介だった。

 

良介が牧野と知子を屍人から逃がして居る頃、

この羽生田村にある唯一の病院、犀賀医院で、

偶然、村であった生存者たちが待ち合わせの場所として指定した場所・・・・。

その待ち合わせ場所の院内で、三人の影があった。

診察室で休息を取っているのはこの病院の医師である犀賀省吾、城聖大学の講師、竹内 多聞、その大学の生徒であり、竹内の教え子の安野 依子。

「来ないな・・・・」

竹内が腕時計を見ながら呟く。

良介と別れてからかなりの時間が経つ。

病院の場所は別れる際に教えたので、迷う事はない筈だ。

まだ探し人を探しているのか?

あるいは屍人に殺られてしまったのか?

竹内が良介の身を案じていると、

「そう言えば、何者なんですか?彼は?」

犀賀が竹内に良介の事を尋ねてきた。

「私も彼とは、この村で会ったばかりなので、詳しい事は分かりませんが、探偵で、なんでもこの村にある人を探しに来たとかで・・・・」

「ある人?」

「ええ、詳しく内容は守秘義務とかで、教えてくれませんでしたけどね・・・・」

「そうですか」

竹内の言葉を聞き、犀賀は手を顎に当て、考え込む仕草を取る。

その時、病院の玄関口のドアをバンバンと叩く音がした。

犀賀が警戒しながら窓から窺うと、そこにはライフルを片手に持ち、前田 知子を連れた牧野の姿があった。

此処に来たのが人間だと分かると、犀賀は玄関口まで行き、牧野と知子を院内へと招いた。

「牧野さん、無事だったんですね」

「はい、途中である方に助けられまして・・・・」

「その方は?」

「・・・・」

犀賀の問いに黙ってしまう牧野。

「だ、大丈夫ですよ、求道師様。宮本さんは強いですから、きっと此処に来ます!!」

知子が牧野を励ます。

「兎に角、中で休んでください」

「はい・・・・」

二人が完全に院内に入ると、犀賀は扉を閉めた。

 

牧野と知子は竹内と依子が居る部屋へと案内された。

バラバラでいるよりも、皆で一塊になっている方が、この場合安全だと思ったからだ。

依子と知子は大学生と中学生と言った年齢の差はあるが、同じ女子と言う事で気が合ったのか、二人は和気靄々と話をしていた。

そして、残る男性陣、竹内、牧野、犀賀の三人も同じように話をし、現在の村の状況を確認しあっていた。

「それでは、宮本さんと会ったんですか?」

「はい・・・・もしかして御二方も?」

「ええ、何でも探し人がいるとかで・・・・」

「全く。どこをほっつき歩いているのか・・・・」

呆れたような口調だが、蔑んでいる訳ではないと気付いたのは同じ村に住む牧野だけだった。

 

三人の男性陣が話し込んで居る頃・・・・。

「ど、どうしよう・・・・」

「よ、依子さん・・・・」

壁ぎわに追い詰められた依子と知子。

二人に迫るのは、血塗れのナース服を着た女性の屍人。

 

あの後、暫くして依子と知子はお手洗いに行ったのだが、その際、犀賀が「二人だけで大丈夫か?」と尋ねてきた。

そりゃ、少しは怖いが、二人は花も恥じらう乙女・・・・。

用を足している姿は例え、お手洗いの外で見張っていてもらってもやはり恥ずかしい。

そのため、二人は「大丈夫」と言って、お手洗いに向かった。その帰りに病院内に侵入したこの屍人に見つかってしまったのだ。

「と、知子ちゃんは下がっていて・・・・こ、此奴は私が何とかするから・・・・」

震える手で近くにあった杖を握り、屍人に向かって構える依子。

「下がっていて」と言われた知子であるが、このまま何もせず、守られるだけで、依子を見殺し何て出来ない。

そんな知子の目に非常ベルが映った。

知子は急いでプラ版を剥がし、非常ベルを押し、

「助けて!!」

大声をあげた。

 

突如、病院内に鳴り響いた非常ベル。

そして知子の悲鳴。

二人の身に何かあったのは明白だった。

竹内、牧野、犀賀は悲鳴が聞こえた方へと走る。

三人の目に映ったのは、血塗れのナース服を着て、手にはスコップを持った女性の屍人がいた。ただこの屍人は、今まで見てきた屍人と少し違っていた。

今まで見てきた屍人は目から血を流し、肌が青白い事以外は普通の人間と同じような姿を保っていたが今、目の前にいる屍人は頭部にタコの様なモノが乗っている様な姿で不気味さがパワーアップしていた。

「この!!」

犀賀は薬品の入った瓶を屍人に投げつける。

瓶は屍人にぶつかり、中に詰まっていた液体が降り注ぐ。同時にジュッと肉の溶ける様な音がし、屍人の身体からは、白い煙があがり、絶叫をあげながら屍人はその場から逃げ出した。

目の前の脅威が去った事で、犀賀以外の全員が安堵の息をつく。

「すみません。助かりました・・・・」

依子は犀賀にお礼を言う。

そして犀賀は屍人が逃げた方を見やる。

「奴の後を追ってみます。竹内さんと牧野さんは彼女たちを・・・・」

犀賀はライフルを手に先程の屍人の後を追って行った・・・・。

 

 

登場人物・登場兵器

 

 





犀賀 省吾

村にある唯一の病院。「犀賀医院」の若き医院長。

村の暗部を担う人間であり、村や儀式の弊害になる人間を秘密裏に始末する役割を課せられてきたせいか、どこか人間的な感情が欠落しており、怪異の中にあっても醒めた反応を見せることが多い。

原作のSIREN:New Translationでは、SIRENに登場した宮田 司郎の立ち位置の他、牧野 慶・志村 晃・神代 淳などの複数の旧作キャラの役割を持つ。

この物語の世界では、宮田と志村の立ち位置という設定。

容姿 原作のSIREN:New Translationに登場した犀賀 省悟と同じ。

イメージCV服部 整治

 

 





牧野 慶

羽生田村の教会の主。“求導師(きゅうどうし)”と呼ばれる眞魚教(まなきょう)の祭司。立場上、村人から尊敬と信頼を寄せられているが、本人はそのことを重荷に感じている。

気弱な性格のため、異変後は武器を取って屍人と戦うことが出来ず、方々を逃げ回っていた。

容姿 原作のSIRENに登場した牧野 慶

イメージCV満田 伸明

 

 





前田 知子

羽生田村に住む中学二年生。

些細なことで両親と喧嘩をして家出を決行、異変に巻き込まれる。

異変に巻き込まれ、村を彷徨っていた所を良介と牧野に出会う。

原作のSIRENでは、屍人を前に臆した牧野に見捨てられてしまい、最終的に屍人となってしまうが、この世界では良介に喝を入れられた牧野によって見捨てられることなく、無事に生存者たちがいる犀賀医院まで辿り着いた。

容姿 原作のSIRENに登場した前田 知子

イメージCV井出 杏奈

 

 





九九式短小銃

1930年代後期に開発・採用された大日本帝国陸軍の小銃。

長らく帝国陸軍の主力小銃であった三八式歩兵銃(三八式小銃)の後継として開発・採用された小銃。

第二次世界大戦当時の列強各国軍における同世代の主力小銃と比較しても互角以上の性能と信頼性を備えていた。太平洋戦争開戦当時は、新式小銃とも称され先に装備した部隊の士気は高まったという。

羽生田村において、軍の施設から村人が秘匿した武器の一つ。

 

 

あとがき

異世界生活二日目の良介君。

原作では悲惨な最期を迎えたSIRENのキャラ達。

この作品では、できるだけ助けていきたいと思っております。

では、次回にまたお会い致しましょう。

 

 




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