七十七話 続 サイレンのナルヒ 生存者達
良介と竹内の二人が廃屋で見張りをしながら一夜を明かしている時、
この村にある唯一の小学校、羽生田村小学校折部分校では、一人の女性教員とこの小学校に通う一人の女子児童が学校の図書室で恐怖に震えていた。
「先生、春海・・怖いよ・・・・皆どうしちゃったの?」
「大丈夫よ。もう少ししたら校長先生が助けに来てくれるから、それまで頑張りましょう。ねっ?」
女性教員は女子児童を励ますが、自分も体験した事のないこの現実に当然恐怖を抱いていた。
その証拠に懐中電灯を握る手は小さく震えているが、女子児童にそれを見せまいと必死に努力していた。
女性教員の名前は、高遠 玲子
.この羽生田村出身者でこの小学校の教師を務めており、今目の前に居る女子児童、四方田 春海のクラスの担任である。
何故、二人が夜の学校にいるのかと言うと、二人は学校の行事である「星を見る会」の準備をしていた際に、今回の異変に遭遇してしまったのだ。
高遠はかつて、村の外で結婚し、暮らしていたのだが、過去に海難事故で一人娘を亡くした経験があり、それがきっかけで旦那とは離婚し、出身であるこの村に戻ってきた。そしてこの小学校で教師を務めている最中、この学校で出会った春海に死んだ娘の姿を重ねていた。
故に彼女は人一倍、春海を気遣っていた。
そして、この女子児童こと、四方田 春海は、羽生田村小学校折部分校の小学四年生。
担任である高遠と共に深夜の学校で行事「星を見る会」の準備を手伝っていた際、今回の異変に巻き込まれた。
彼女も高遠と同様に落雷事故で両親を亡くしており、それ以来、叔母夫妻の元で暮らしている。
家族を失った共通の悲しみがあるためか、春海は高遠には心を開いていた。
そんな彼女達に屍人達の脅威が迫ろうとしていた。
幾ら待っても校長先生や村人が太助に来る気配は無い。このまま此処に居てもいずれは屍人に見つかるのは、目に見えている。
高遠は意を決し、学校からの脱出を決行した。
まず、図書室を出ると、階段の近くで壁をトンカチで叩いている屍人がいた。
しばらく様子を見ていたが、その屍人は振り返る事無く、一心不乱に壁をトンカチで叩いていたので、高遠と春海はしゃがみ歩きをしながら屍人の背後を通り抜けた。
通り過ぎる際も、この屍人は振り向くことも無く、堂々と自分の後ろを通っている高遠と春海の存在には気がつかなかった。
次に一階と二階を結ぶ階段の踊り場へと来ると、階段付近にも一体の屍人が徘徊していた。
高遠はその屍人の動きを観察し、そいつが階段と反対側にあるトイレの方を向いている隙に、春海と共に階段を降り、近くの三、四年教室へと入った。
この羽生田村小学校折部分校の教室は教室内のドアから隣の教室へと移動できる構造となっており、高遠と春海はそのドアを使い、隣の一、二年教室へと移動する。
一、二年教室へと到着した高遠は、ドアを少し開けて、廊下の様子を窺う。
すると、先程階段付近を徘徊していた屍人が近くを歩いていた。
徘徊屍人は一、二年教室の前まで来ると、クルリと方向転換し、また階段の方へと向かって歩いていく。
高遠と春海は、その隙をついて、教室から出て、正面玄関まで行くが、玄関は屍人達がバリケードを構築し、塞がれていた。
しかもバリケードはきっちりとした造りで、そう簡単には壊せそうもない。それに大きな音を立てれば、屍人にきづかれてしまう。
いずれにしても此処にいてはまた廊下を徘徊しているあの屍人に見つかってしまう。
高遠と春海は、正面玄関口の右側にある職員室へと入った。
正面玄関もそうだが、教室の窓も全て屍人が板と釘で塞いでいた。
しかし、職員室の窓の一箇所だけ、釘の打ち込みが甘く、雑に作られている箇所があった。
高遠がそこを調べると、道具さえあれば、何とか釘と板は外せそうだった。
「これ、何か道具さえあれば・・・・先生、コレを壊す道具を取りに行ってくる。だから春海ちゃんは此処で待っていてね。すぐに先生は戻ってくるから」
春海の肩に手を置き、要件を伝える高遠。
「うん・・・・春海・・・・待っている・・・・」
春海は職員室の隅にある机の下に膝を抱えながら隠れた。
高遠は道具のありそうな体育館倉庫のカギを手にし、職員室を出た。
高遠は視界ジャックを駆使して、徘徊屍人の目を上手く、回避し、高遠は体育館倉庫へと辿り着いた。
そこには高遠の予想通り、バールが置いてあり、バリケードの釘を緩めるのと同時に武器にもなりそうであった。
高遠はそれを拾い、春海の待つ職員室へと向かった。
倉庫から体育館へと入った瞬間、校内放送のスピーカーから、突然春海の声がした。
「先生〜助けて〜先生〜早く来て〜」
春海は独りでいる恐怖のあまりに思わず、職員室にあった校内放送用の機材を作動させ、校内の何処かにいる高遠に対して、一斉放送をして、早く自分の下に戻ってきてほしいと、伝えたのだ。
しかし、この行為は自分で自分の首を絞める行為と何ら変わりなく、これで屍人達は校内に人間が居るとハッキリと認識してしまった。
高遠は春海に危機が迫っていると思い、急ぎ春海の居る職員室へと向かおうとする。
その途中、体育館に転がっていたバスケットボールが足に当たり、ボールはコロコロと体育館の出口の方へと転がっていく。
「あっ・・・・」
高遠が転がっていくボールを目で追っていると、やがて、ボールは誰かの足に当たり、転がるのを止めた。
高遠が顔をあげると、そこに立っていたのは・・・・。
「はっ!?こ、校長先生!?」
そう、其処に立っていたのは、この小学校の校長で、自分達を助けに来てくれると信じていた羽生田村小学校折部分校校長の名越 栄治だった。
羽生田村小学校折部分校校長、名越 栄治は、他の同級生と馴染めない四方田 春海を思いやり、担任の高遠 玲子が「星を見る会」というイベントを立ち上げようと提案した時、参加生徒が春海一人であるにもかかわらず校庭の深夜使用を許可した、度量の深い教師でもある。
性格は温厚であり、持ち前の優しさから多くの生徒や教諭から慕われている。
そして、春海が高遠に次ぐ、村で心を許している人物でもある。
しかし、今、高遠の目の前に居る名越は目から血を流し、顔じゅうが青白く、血走った目をギョロっとさせ、手には懐中電灯とバットを握りしめた姿で、その様子から既に彼が人間ではない事が窺えた。
「うおぉぉぉー」
名越は高遠の姿を見つけると、声をあげ、高遠に襲い掛かって来た。
しかし、名越は屍人になってまだ間もないのだろう。
動きが他の屍人と比べる、鈍かった。
高遠はこれでも体育大学卒だったので、屍人になりたてで、動きの鈍い名越では、高遠の相手にならず、あっさりと彼女に返り討ちにされた。
校長とついでに廊下を徘徊していた屍人を倒した高遠は春海の待つ職員室へと無事に辿り着き、バールで窓に設けられたバリケードの一部を壊し、脱出口を作ると、春海と共に小学校を脱出した。
怪異に巻き込まれたこの村で、何人かの生存者がそれぞれこの絶望的な状況に果敢に抵抗している中、羽生田村の財源の一つである、錫の採掘場である合石岳の鉱石集積場近くにて、一人の女性が彷徨っていた。
「やだ・・・・さっきも見た・・・・コレ・・・・」
懐中電灯の明かりに照らされたお地蔵さんを見て、彼女、豊島 みちこは震えながら呟く。
豊島 みちこ・・彼女は短大在学中から清涼飲料水(麦茶)のキャンペーンギャルとして活躍し、「みっちゃん」の愛称で呼ばれる報道関係者である。
現在はレポーターだけでなく、ナレーション、声優業など、幅広い分野に挑戦中の若きテレビレポーターだ。
そんな彼女は『羽生田村を求めて』と言うオカルト系テレビ番組の企画のため、この羽生田村へと取材にきていたのだ。
羽生田村はパソコンのチャット内で最近、オカルトや都市伝説が好きな若者にその名前が良く出てくるため、番組製作会社がこの村にスポットを当てたのだ。
その目玉はやはり、人を生贄にする儀式が今も続いていると言う都市伝説を解明しようとするのが目的だった。
取材はまず、村の外れにある廃村区から始まり順調に進んでいたのだが、山の天気は変わりやすいのか、突如、辺り一帯を濃霧が包み込みこんだ。
これでは、取材は一時中断だと思っている中、みちこは一人、他の取材スタッフと逸れてしまったのだ。
その後はこの濃霧の中を一人彷徨いながら一緒に村に来たテレビスタッフを探し回っていた。
「同じところをグルグルと・・・・これってドッキリじゃないですよね?何処かでカメラをまわしているとかそんなオチじゃないですよね?」
辺りに確認するかのように尋ねるが、みちこの問いに答える者は誰も居ない。
「うぅ〜」
一人、夜の闇、見知らぬ不気味な土地、これらの要素がみちこの恐怖心を一層増長させる。
しかし、この場にとどまっている訳にもいかず、足を踏み出すと、
ズルっ
「えっ?」
足が滑った感覚が一瞬あったかと思うと、
ズササササササ・・・・
「きゃぁぁぁぁぁー!!」
みちこは道を踏み外し、土手の斜面を滑り落ちた。
「いった・・・・」
打ち付けたお尻を手で撫で、目尻には涙を浮かべながらみちこは立ち上がる。
「うっ・・・・」
そして、頭を手で抑える。
どうも先程から断続的に頭痛と幻覚らしきモノが見える・・・・。
それはまるで自分の視線ではなく、他人の視線が見ている視線の様な感覚だった・・・・。
「さっきから何なのコレ?」
みちこが謎の幻覚に戸惑っていると、
「うおぉぉぉー」
「ひっ・・・・」
何処からともなく、男の人の声っぽい唸り声が聞こえてきた。
「何?今の・・・・」
ここが何処なのか?
この幻覚は何なんなのか?
戸惑いや疑問はあるが、今はこの場から逃げた方が良さそうだった。
そっと物陰から辺りを窺うと、懐中電灯の明かりらしきモノがチラチラ見えた。
人が居るのかと思ったのだが、うっすらと見えたその人影は人間には見えなかった。
肌全体が普通の人間ではありえないくらいに、青白く、着ている服はボロボロで彼方此方に血がついている。
そして、手には懐中電灯の他にトンカチやシャベル、鶴嘴等を持って徘徊しており、とても真面な人間には見えなかった。
「ど、どうしよう・・・・」
目を閉じると、自分の視界ではなく他人の視界の様な幻覚が見える。
「コレってもしかして・・・・」
みちこは今、自分が見ている幻覚が幻覚ではなく、あの不気味な人(屍人)が見ている視界なのではないかと思った。
それから意識を集中してみると、他にもこの場所には多数の屍人が居る事がわかった。
その中で気になる視界が一つあった。
他の多くは、荒い息をして、周囲を徘徊しているだけなのだが、その屍人は、
「かぎ・・・・鍵・・・・カギ・・・・・」
と、鍵と言う言葉を連呼しながら、坑道の中をウロウロしていた。
その様子からこの屍人は何かの鍵を探している様なのだが、屍人が歩き回っている足元で鍵らしき物がチラッと見えたのだが、その屍人は落ちている鍵に気が付かないらしく、落ちている鍵の周りを「鍵、鍵」と言いながらうろついていた。
みちこはこの鍵は何か重要な所の鍵ではないかと思い、この鍵が落ちている坑道を探るため、この屍人の動きをジャックしていたが、この屍人、鍵を探しているらしく、中々顔をあげない。
屍人の行動に恐怖よりも少しイラつきを感じた時、ようやく屍人が顔をあげた。
顔をあげた屍人は辺りを見回す。
その時、壁に大きく
3と書かれていたのをみちこは見逃さなかった。やがて、屍人は顔を下げ、再び鍵を探し始める。
「
3・・・・3の坑道ね」みちこは早速、行動を開始した。
物陰から今度は、外を徘徊している他の屍人の視界をジャックして、
3号坑道の位置を確認する。
3
号坑道の場所を屍人の視界から盗み見て、3号坑道の場所を突き止めたみちこ。みちこは早速、
3号坑道へと入ると、例の鍵を探している屍人がいた。相変わらず、地面に落ちている鍵をスルーしている。
みちこは屍人の隙をついて、鍵に近づき、地面に落ちていた鍵を拾うと、
3号坑道を後にした。そして、拾ったこの鍵が何の鍵なのかを確認すると、鍵には『管理小屋』と書かれた札が付いていた。
取り敢えず、みちこはその管理小屋とやらを目指した。
まず入ったのが、
3号坑道に隣接する建物だったのだが、この部屋は管理小屋ではなく、サイレン小屋だった。目指す管理小屋は何処なのかと思ったが、そのサイレン小屋の壁に、この鉱山の見取り図があり、みちこはその見取り図から管理小屋の位置を確認し、今度こそ、管理小屋を目指した。
そして、屍人の目をかいくぐり、ようやくお目当ての管理小屋へと着いた。
早速鍵を使い中に入ってみると、そこには、鉱員達が撮った記念写真の他に、短銃が机の上に置いてあった。
連中に拳銃が通じるか分からないが、丸腰の状態よりもはるかしマシだ。
しかし、一般人が拳銃などと言う武器を使えるのかと思うが、みちこは幅広い分野で活躍するテレビレポーター・・・・。
彼女は以前、とあるテレビ番組で企画されたサバイバルゲームの番組に出演した経験があり、その中で、サバイバルゲームの熟練者から銃の手ほどきを受けた事が有る。
その時、使用した銃は、当然本物ではなく、モデルガン(発火モデルではなく、エアガンやガスガン、電動ガンを指す)であったが、銃の構造上、そんなに変わりはない。
放たれるのが
BB弾か鉛弾の違いぐらいだ。みちこは銃と弾を持って、鉱山を後にした。
村のとある大きな街道にて多数の屍人達が屯していた。
すると、突然一発の銃声が響き、一体の屍人が倒れる。
残りの屍人達は突然鳴り響いた銃声と倒れた仲間を見て、慌てだす。
一体は近くにあった廃屋の中へと飛び込むが、何分廃屋の為、壁は穴だらけ。
スナイパーはその壁の穴を通す様に廃屋の中へ入った屍人を銃で撃ち抜く。
次々と謎のスナイパーによって倒される屍人達。
そしてとうとう最後の一体となったのは、良介と圭一が最初に出会ったあの警官屍人であった。
警官屍人は物置のドアを開け、その中へ入り、スナイパーをやり過ごそうとするが、スナイパーの射撃は精密で、物置のドアの留め金の部分を撃ち、ドアは地面へと倒れる。
自分を隠してくれるドアが無くなったのを知ると、警官屍人はホルスターから拳銃を抜き、果敢にも反撃をしようとするが、今度はそのスナイパーによって拳銃を撃たれ、警官屍人は拳銃を手放してしまった。
慌てて拳銃を拾おうとした警官屍人をスナイパーは一発で頭を撃ち仕留めた。
しかし、倒したと言ってもそれは一時凌ぎに過ぎず、屍人はある一定の時間が経過すると再び起き上がる。
やがて、一番最初に倒した屍人が起き上がろうとした時、スナイパーがその姿を現し、起き上がり、復活しそうになっている屍人の背中に足を乗っけると、今度は至近距離でその屍人の頭を撃ち抜く。
頭を撃たれた屍人は再び蹲り活動を停止させる。
しかし、この屍人もまた一定の時間が経つと復活する。
「ふん、死んでも死にきれないとは報われないな。心臓を貫かれたとしても、頭を撃ち抜かれたとしても、それでも・・・・?」
スナイパーはまるでゴミを見るかのような目で倒れている屍人達に向かってそう台詞を吐いた。
その直後、
「いや!!」
近くで少女の悲鳴が聞こえた。
ふと、視線を悲鳴がした方にやると、自分が居る位置から、下の街道で少女が一体の屍人に追い掛け回されていた。
「そんな調子じゃ逃げきれないですよ。梨花様」
そう言ってスナイパーは梨花と呼んだ少女を追いかける屍人に照準をつけ、引き金を引いた。
少女は後ろから追いかけてきた屍人が倒されたことを知らず、夜の村を走り続ける。
「死ぬなんて嫌・・・・絶対に嫌・・・・」
夜の村の街道に少女の絶望に抗う声がこだました。
赤い謎の修道女、八尾と共に教会へと避難した圭一は教会の礼拝堂にて、仮眠をとり、やがて目覚めた。
現実にはにわかに信じられない様な出来事があった村での一夜が明け、昨夜体験した事は夢なんじゃないかと圭一は思ったが、残念なことにコレは夢ではなく現実だった。
「頭がおかしくなりそう・・・・」
圭一はこの非現実的な現実に頭を抱えていたが、いつまでもそうしてはいられない。
「とりあえず。これからどうするんですか?」
圭一はこれからの事を八尾に尋ねる。
此処まで一緒に来た良介の事も気になるし・・・・。
「求道師様が戻られるまで、此処に避難してくる人を待つつもりよ」
「求道師?それにしても・・・・」
圭一は辺りを見回す。
自分の知っている教会と今、自分が居る教会とは何かが違う気がしたのだ。
「奇妙に見えるかもしれないけど、これが私たちの信仰なの」
「あっ・・・・俺、こう言うの・・あまり詳しくないんで・・・・」
圭一は都市伝説やオカルト系な話題は好きだが、宗教に関しては全くのノータッチであった。
「他所から来た貴方が、幻視が出来る様になったのも、何かのお徴かも・・・・」
「はぁ・・・・」
とりあえず、圭一も八尾と共にこの教会で避難してくる人を待っていると、
「いや!!」
外から少女の悲鳴が聞こえてきた。
「はっ!?」
八尾がその悲鳴を聞き、ハッとした表情で椅子から立ち上がる。
「あっ、俺が見てきますよ。八尾さんは此処で待っていてください」
その様子に圭一が椅子から立ち上がり、自分が見てくると言って教会から外へ出ていった。
教会の下に広がる田園にて、圭一は足もとがおぼつかない様子の少女を見つけた。
少女は遂に小さい小石に躓き、その場に倒れてしまった。
「おいっ!!」
圭一は急いでその少女の下へと駆け寄った。
「大丈夫か?あっ!?アンタは・・・・」
少女の顔を見た圭一は思わず声をあげた。
彼女の顔は、昨夜の、儀式で殺されそうになった時の少女の顔と瓜二つ・・・・と言うか、本人であった。
圭一が驚いていると、
「梨花。此処で何をしている?まだお前の役目を果たしていないだろう?」
圭一たちの前に一人の青年が現れた。
青年の態度を見て、
(何だ?此奴?何か偉そうな態度をとる奴だな)
圭一は青年に対し、少し不快感を感じた。
「お前が居なければ、続きが始められない」
(続き?・・・・それってあの儀式の事か?)
圭一の脳裏には、あの人を生贄にする黒魔術的な儀式の様子が蘇った。
「ふん、義妹が世話になったみたいだな。とりあえず礼を言うよ」
青年は圭一の姿を見て、鼻で笑い、『礼を言う』とか言っているわりには、ちっとも礼を言っている態度には見えない。
「いもうと?」
圭一はこの青年と少女の関係に疑問を抱いていると、
「ふんっ!」
少女が太めの木の枝で青年の頭を叩いた。
「私は・・私は生贄なんかじゃない!!」
突然の奇襲に青年は一発でノックアウトされた。
「お、おい」
「早く連れて行け!!」
「えっ!?何処に?」
倒れている青年の態度も偉そうであったが、この少女の態度もどこか偉そうだった。
この謎の少女を連れて歩くことになった圭一であるが、彼女があの儀式の生贄と言う事は、このままこの少女を連れてあの教会に戻るのは危険だと判断した圭一は彼女を例の屍人と教会関係者から守るため、村を彷徨う事となった。
おまけ
ガチャガチャ
良介とヴィータがまだ海鳴に住んでいた頃、ある日二人は映画を見ようと、映画館を目指していた。
はやての家から映画館までの道のりの途中にある一軒の駄菓子屋の前でヴィータが足を止めた。
「おっ?こ、これはっ!?呪ウサストラップじゃねぇか!!」
ヴィータは駄菓子屋の店先に置いてあるガチャガチャを見て、思わず声をあげる。
「呪ウサストラップ?何だ?それ?」
良介がヴィータに尋ねると、
ヴィータが呪ウサストラップについて熱く語りだした。
それによると、呪ウサストラップとは、ヴィータが夢中になっている呪いウサギのストラップで、本来は両目を開けているのだが、日によっては片目を閉じていたり、両目を閉じていたりするらしいストラップだそうだ。
良介が、(それ本当に呪われているんじゃね?)と、思っている中、ヴィータは財布から
100円玉を取り出し、早速ガチャガチャをやる。100
円を入れ、ハンドルを回すと、景品が入ったカプセルが出てくる。カプセルを開けたヴィータはワクワクしながら中を覗いたが、カプセルの中の景品を見た途端、表情が怪訝なモノへと変わる。
「あれ?何だ?これ?・・えっ?何だ?これ?」
「どうした?」
「良介、アタシ今、呪ウサストラップのガチャガチャをやったよな?」
「ああ」
「えぇー?おい、オッサン!!オッサン!!」
ヴィータが店に向かって叫びながら店主のオッサンを呼ぶ。
しかし、店主はなかなか姿を現さない。
「あれ?オッサン!!」
ヴィータが一際大きな声で叫ぶと、
「はいはいはいはい。何じゃ?騒々しい」
漸く店主のオッサンが出てきた。
「いや、騒々しいじゃねぇよ!!マジで、コレどういうことだよ!?」
ヴィータが先程カプセルの中から取り出した景品を店主のオッサンに見せる。
ヴィータの手の中にあったのは、呪ウサストラップではなく、よくスーパーやコンビニの弁当の中に入っているビニール製の葉っぱの形状をした奴だった。
「コレ、弁当の中に入っている葉っぱじゃねぇか!!どういう事だよ!?」
ヴィータが店主のオッサンを問い詰めるが、
「・・・・」
店主のオッサンは終始無言。
「いや、黙ってねぇで何とか言えよ!!アタシは呪ウサストラップを買ったんだぞ!!」
ヴィータはガチャガチャの商品が違うと店主のオッサンにクレームをつける。
すると、
「自分の思い通りにならんこともあるじゃろが」
店主のオッサンが漸く喋りだした。
「は?」
「当たり外れがあるのが、人生の醍醐味じゃないんか?そうじゃろう?」
「・・・・何言ってんだ?オメェ?ちげぇよ!!だったら、呪いウサギの柄が違うとか、ポーズが違うとかの当たり外れは兎も角、之は反則だろう?」
「あ〜ぁ儂が子供の頃なら大喜びしとったがのぉ〜。今の子はやれテレビゲームやらなんやら・・・・」
(嘘くせぇ)
店主のオッサンの言葉を聞き、良介は心の中で疑いの眼差しで店主のオッサンを見る。
「いやいや、いくらオッサンが子供の時でもよぉ、この葉っぱはねぇだろう!?大体なんだよ?この葉っぱは?」
「知りたいか?」
「は?」
「それが何なのか知りたいかと聞いとるんじゃ」
「オッサンは知っているのか?」
「それは『バラン』と言うんじゃ」
「「へぇー」」
葉っぱの名称を知り、良介も思わず感心した声をあげる。
「一つ賢くなって良かったのぉ・・・・」
そう言って店主のオッサンは踵を返し、店の中へと戻って行く。
「いやいや、良くねぇよ!!何か適当に誤魔化されるところだった。オッサン!!おい!!」
「親分、もう放っておいて映画館に行きましょうよ」
「あの野郎・・・・」
ヴィータは唸り声をあげながら店の奥を睨む。
結局、ヴィータは
100円を損してしまった。
登場人物設定
高遠 玲子
羽生田村出身の小学校教師。体育大学卒。四方田 春海がいるクラスの担任である。学校の行事「星を見る会」の準備をしていた際に、春海とともに異変に遭遇する。
過去に海難事故に遭った一人娘を救うことができずに死なせてしまい、それがきっかけで離婚しており、出身である村に戻ってきた。春海に死んだ娘を重ねており、この異変から命を賭けて守り通すことを誓う。
容姿 原作の
SIRENに登場した高遠玲子と同じ。イメージ
CV細川 聖可
四方田 春海
羽生田村小学校折部分校の小学
4年生。深夜の学校で行事「星を見る会」の準備を手伝っていた際、異変に巻き込まれる。
事故により両親を亡くしており、それ以来、叔母夫妻の元で暮らしている。異変後、高遠 玲子と共に学校を脱出しようとしたが、心細くなり校内放送をかけ、高遠を呼んだことにより、かえって屍人を呼び寄せる結果となってしまった。
容姿 原作の
SIRENに登場した四方田 春海イメージ
CV小南 千明
豊島 みちこ
心霊番組のレポーターとして羽生田村の取材に訪れ、濃霧により他の取材スタッフと逸れ、異変に巻き込まれる。
原作では、
SIREN:New Translation「羽生蛇村を求めて」「エピソード0」に登場した人物。北海道出身。短大在学中から清涼飲料水(麦茶)のキャンペーンギャルとして活躍。愛称は「みっちゃん」。現在はレポーターだけでなく、ナレーション、声優業にも挑戦中。
容姿 プリンセスソフトより発売された
SAKURA 〜雪月華〜の登場人物、酒桝 十和子イメージ
CV豊嶋 真千子
あとがき
豊島 みちこは、
SIREN:New Translation「羽生蛇村を求めて」「エピソード0」に登場した人物で、フリーアナウンサーの西島 まどかさんが演じていました。この世界では二次のイメージとして、プリンセスソフトより発売された
SAKURA 〜雪月華〜の登場人物、酒桝 十和子を採用しました。では、次回にまたお会いしましょう。