七十五話 続 サイレンのナルヒ リスティの依頼
この日、良介は先日の夜実島の一件のお礼として翠屋でリスティにケーキやパフェ等のスイーツを奢っていた。
満面の笑みで、翠屋特製のケーキやパフェ、シュークリームを食べているリスティ。
(こいつ、奢りだからって遠慮がねぇな・・・・)
笑みを浮かべながらケーキやパフェを食べているリスティをジト目で見る良介。
そして、今日持ってきた財布の中の持ち合わせで足りるだろうか?と財布の中を確認する。
そんな中、彼女は途中で何かを思い出したかのようにパフェを食べていた手を止め、
「良介」
「ん?」
「実は警官として、探偵のあんたに頼みごとが有るんだけど・・・・」
「ん?頼み事?何だ?」
良介もリスティの頼み事が有ると言う事で、財布をポケットにしまい、コーヒーを一口飲み、カップをソーサーの上に置き、リスティの頼みとやらを聞く事にした。
「依頼は之の事なんだけど・・・・」
リスティはショルダーバッグの中から一通の封筒とカセットテープがセットされたテープレコーダーをテーブルの上に置く。
「コレは?」
(今時、カセットテープなんてアナログだな)
「実は・・・・」
リスティの依頼の内容は、リスティがまだ新米刑事だった頃、お世話になった先輩刑事からリスティに頼まれた事だった。
その先輩刑事は海鳴署でリスティの教育が終わると、他県の興宮という警察署へと転属となり、先月定年を迎えたのだが、その直前にこの奇妙な手紙とカセットテープがその先輩刑事の下へと送られてきた。
どういった経緯で自分の下に送られて来たのかをその先輩刑事も調べたのだが、結局は不明で、念のため、中身を確認したのだが、その内容が内容で、既に定年を迎えた自分にはその内容を捜査する権限も体力もないため、手塩に育てた愛弟子とも言えるリスティにその調査を頼んだのだ。
しかし、リスティ本人もここ最近、仕事が立て込んでいるため、手紙の内容を調査する事が出来ず、こうして良介に依頼してきたのだ。
まず、良介は封筒から中身を取り出すと、そこには古びてボロボロになった便箋が一枚入っており、便箋には走り書きで以下のような内容が書かれていた。
たのむ、院長に気づかれぬようにこの手紙を持ち出してくれ。
そして村の外の人間にこの手紙をわたして欲しい。
決してあの女にだけは見つからぬように気をつけろ。
あいつにだまされるな。
あいつはオレの口をふうじるためにオレをここに閉じこめた。
カセットテープにその証拠が録音されている。
テープを聞けばあいつが・・・・
早くしないと、オレは・・・・・
それ以上先は何が書いてあるか分からなかったが、手紙の内容から察するに、この手紙を書いた人物が助けを求めている内容だった。
次に良介がテープの中身を聞こうとすると、リスティはテープレコーダーにイヤホンを着け、
「この内容は、あまり他の人に聴かせられないから」
と言って、イヤホンを良介に渡す。
そんなにやばい内容なのかと思いつつ、良介は恐る恐るイヤホンを耳に入れ、テープレコーダーの再生スイッチを入れた。
テープは最初、ザー、ガ―と言う雑音しか聞こえてこなかったが、やがて、男の怯えた様な声が聴こえてきた。
「そうだよ・・・・お 俺はわかっているんだぞ!!お前が何なのか分かっているんだ!!」
「・・・・・・」
「俺は騙されないぞ!!」
「・・・・・・」
「村の奴らはみんなお前の前では呆けちまうが俺は違う!」
「・・・・・・」
「お前は・・・・ずっと・・ずっと昔からこの村にいるんだ!!」
「・・・・・・」
「この村のいたるところにお前の印がある」
「・・・・・・」
「何十年 何百年 ずっとこの村を見張っている」
「・・・・・・」
「お前は・・・・お前は・・・・化け物だ!」
「・・・・・・」
「な 何だよ どうする気だ? 俺をどうする気だ?」
「・・・・・・」
「犀賀の病院に俺を放り込んで閉じ込める気か?」
「・・・・・・」
「あそこじゃ、どんな叫び声も外には聞こえないからなぁ」
「・・・・・・」
「おい 俺が大人しくあそこに入るなんて思うなよ?」
「・・・・・・」
「あんまりなめるんじゃ・・・・おい 何だよ!」
「・・・・・・」
「何で笑っているんだよ?」
「・・・・・・」
「く 来るな・・・・来るなぁ!!・・・・・・・・・」
テープの内容から男が、誰かを問い詰めている内容が窺えた。
しかし、問い詰められている相手側の声が全くしなかったので、問い詰められている相手が男なのか女なのか、分からず、名前も分からない。
だが、先程の手紙を書いた人物とこのテープの男が同一人物ならば、おそらく相手は手紙に書かれていた例の女。
そして、テープの内容には気になる単語が幾つか出てきた。
「何十年、何百年、村を見張っている」
「化け物」
「病院に閉じ込める」
テープの内容と手紙の内容から、この男が村にとって知ってはならない秘密を知り、病院に閉じ込められる寸前に助けを求める為に手紙とテープを村の外に送ったのだと見て、間違いはないだろう。
「それで?俺にどうしろと?」
「良介にこの村へ行って、この人を見つけ出して欲しいの」
「でも、ただの精神異常者かもしれないぜ」
「それが、そうでもなくてこの村っていうのが、色々いわくがある村でね・・・・」
「どういう事だ?」
リスティは次にこの男が住んでいる、村について話した。
村は○×県鹿骨市雛見沢三隈郡に有り、
名前を羽生田村と言う。
その村はリスティに手紙とテープを送ってきた先輩刑事が務めていた興宮と言う町のすぐ近くにある村だった。
最も直ぐ近くと言っても車で一時間はかかる距離だが・・・・。
この羽生田村は、周りの三方を深い山々に囲まれた三角形の盆地に位置し、その中心を縦断するように流れる川を中心にして田畑や集落が広がっている一見のどかな村らしい。
しかし、近隣の他の町や村との関わりをあまり持たない閉鎖的な村であり、村民のほとんどが独自の風習と宗教を信仰している。
村の産業は主に錫を多く含む鉱石の産出と林業なのだが、
1970年代から高齢化が進んでいて農地の大半が耕作放棄の状態にあり、また北の山間部を学区域とする村立羽生田小学校折部分校では、二学年一クラスという極めて小規模な編成となっているなど、人口流出による過疎化も進んでいた。また昔から大飢饉や土砂災害、大地震が頻発したいわくつきの様な土地で、戦後の高度経済時代には、この村にダムの建設が計画されたが、その際、村人と建設業者、国との間で過激な反対運動が起こり、現地入りしていた建設業者との間で多くの乱闘による流血騒ぎがあった。
更に当時の建設大臣の孫が何者かに誘拐されるという事件が起き、警察は真っ先に村人の犯行ではないかと疑った。
と言うのも、当時の建設大臣がダム建設の推進派の筆頭だったためである。
そこで、警察は公安の人間を密かに村へと送り込み、調査させたが、犯人に関する手掛かりはつかめず、誘拐から二週間後に大臣の孫は羽生田村から遠く離れた場所で無事に保護された。
警察が大臣の孫に犯人について尋ねると、大臣の孫はここ二週間の記憶が曖昧で誘拐事件に関する事は一切覚えていなかった。
そしてこの誘拐事件を皮切りにダム計画を中止させる事件が起こった。
それは、ダムの建設業に携わっていた現場監督が何者かに殺された事だった。
現場監督の遺体はバラバラに切断され、現在も腕が一本見つかっていない。
警察は村人そして作業員からも事情を聞くと、事件の夜、作業員の宿舎で現場監督が突然、奇声をあげ、近くに居た作業員達に突然殴りかかってきた。
他の作業員達も加わり現場監督止めようとしたが、現場監督は作業員達の腕を振りほどき、そのまま夜の村へと走っていき、翌朝、川べりでバラバラ遺体となって発見された。
バラバラにされた遺体を詳しく調べたところ、遺体の彼方此方に殴られた跡があり、多数の人間が集団暴行で被害者を殺害した後、遺体をバラバラに切り刻んだと言う結果が出た。
現場監督自身、村人からの妨害行動や建設会社の上役からの度重なる催促で、精神的にも肉体的にも疲れていたという作業員からの証言もあり、作業員に暴行を行ったのは、精神に異常をきたしたのではないかと思われた。
小さな村の中で起こった殺人事件。
それ故当初、警察はこの事件は早く解決すると思っていたのだが、意外にも現場監督の殺人事件の捜査は難航した。
村人の誰かが犯人だと分かってはいるのだが、村人同士の結束が強いこの村では、村人同士がまるで示し合わせたかのように互いのアリバイを証言したり、証明したのである。
警察としては歯痒い思いだが、村の駐在警官までもが、「夜間パトロール時、村人は誰も出歩いていなかった」と、村人のアリバイを証言し、反対に作業員達の中に犯人がいるのではないかと指摘してきた。
結局、現場監督を殺害した犯人は現在に至るも捕まらず、現場監督の殺害と言う事態と度重なる村人と作業員達との間で起こる騒乱に作業員も建設会社もダムの建設を辞退し、羽生田村でのダム建設は白紙にされた。
そしてその年の夏、台風によってまたも大規模な土砂災害が村を襲い、村人に多くの犠牲者を出した。
「この現場監督の事件は、結局どうなったんだ?」
良介が現場監督殺人事件の顛末を尋ねる。
「犯人不明で、時効が成立。つまり迷宮入りね」
「村人連中の意見はともかく、村の駐在も同じ意見だったんだろう?警官が言うなら・・・・」
同じ警察が・・・・しかも村に在中する警官が言う事ならば、少しは信憑性があるのだと思いリスティに尋ねる良介。
「それがそうでもないの」
しかし、リスティの意見は否定的だった。
「ん?それはどういう事だ?」
「この村の駐在って言うのが、羽生田村の出身者なのよ」
「なっ!?」
村に在中していた警官までもが、村の出身者・・・・。
それでは村全体がグルとなっていてもおかしくは無かった。
「でも、そんなに都合よく村出身の警官を出身地であるその村に配属できるのか?」
数多く居る警官の中から小さい村の出身の者を偶然出身地の村に配属できるものなのかと言う疑問が良介にあった。
良介の疑問にリスティは一度、首を左右に振り、他人に聴こえていないかを確認した後、良介の顔に自らの顔をズイッと寄せて声を低くしてそのカラクリを言う。
「実は、羽生田村の何処かに隠し銀山があって、村の権力者は政府や警察上層部にその銀を賄賂として渡していたみたいなの」
「本当か!?それ?」
「噂程度だけどね。でも、そうでもしないと、村出身の警官が都合よく出身の村に派遣されるわけがないわ」
「・・・・」
日本にありながらも、まるで一つの国の様に独立している・・・・さながらイタリアのバチカン市国のような村だと良介はそう思った。
村の概要を目にし、説明を聞いた良介にリスティは次にその村に伝わる幾つかの言い伝えや民謡などが書かれた資料を良介に差し出した。
「コレ、どうしたんだ?」
仕事で忙しいと言う割には、村の情報をちゃんと掴んでいるリスティに良介は、「ちょっと矛盾しているのではないか?」
みたいな感じでリスティに尋ねる。
「先輩刑事が、集めてくれたの。先輩、前々からあの村の事を不気味に思って、何か犯罪を犯しているんじゃないかって疑っていたから。それに殺されたダムの現場監督って言うのが、先輩の麻雀仲間だったらしいの」
「ふーん」
良介はとりあえず、納得し、渡された資料に目を通した。
羽生田村民話集
天魚を喰いし女
むかしむかし、日照りが続き、ひどい飢饉が村をおそった。
一人の女が、天に祈ったところ、面妖な魚のようなものが空から降ってきた。
魚のようであり虫のようであるそれを、女がこらえきれず口にしたところ、
たちまち天が曇りて大きな音が鳴り響いた。
女は悔いて謝り、代わりにこれから珍しい実をひとつずつ返すので許して欲しいと天に乞うた。
木花咲耶姫伝承
迩迩芸命は天降った折り、木花咲耶姫を見初め結婚を申し込んだ。父、大山津見神は大変喜び、姉の石長姫を副えて送った。
すると迩迩芸命は、石長姫に込められた永遠の命に心奪われ、木花咲耶姫を送り帰してしまった。花のような繁栄の願いが込められた木花咲耶姫を邪険にしてしまったせいで、迩迩芸命の子孫たちは、闇に閉ざされ二度と日の光を浴びる事は無くなったという。
羽生田村郷土誌
羽生田村ニオケル来訪神信仰
古来、羽生田村ハ常世ノ境ニ位置シテイルト信ジラレテイタ。
ソノ為、外カラ寄リ来ル存在ヲ神ト仰グ来訪神信仰ノ起源ハカナリ古クマデ遡ル事ガデキル。
最古ノ来訪神伝承ニオイテハ、
美耶古トイウ名ヲ与エラレタ依巫ガ来訪神ニ祈リヲ捧ゲテイタト伝エラレテイル。
シカシアル時期ヲ境ニ来訪神信仰ハ影ヲ潜メ、
新タナ来訪神ヲ仰グ眞魚教ガ村ノ信仰ノ主トナッタ。
眞魚教ノ教エハ、御蚕子様ガ我ガ身ヲ犠牲ニシテ村ヲ救ッタトイウ伝承ヲ主軸ニシテイル。
コレハ異教ノ影響デアルトハ思ワレルガ、ソノ子細ハ不明デアル。
眞魚教ハ異教トノ習合ニヨリ新タナ宗教感ヲ村ニ植付ケタガ、
アル時期ヨリ、権力者ノ弾圧ニ遭イ、ソノ教エハ秘教ノ様相を呈シテイッタ。
シカシ異教解禁後、羽生田村一ノ豪農デアッタ犀賀家ガ眞魚教復興ニ尽力シ、
再ビ御蚕子様信仰ハ復活シタ。
十尺ノ異人ノ事
合石岳という所に、天上より身の丈、三メートルの大男が落ちて来た。
その男は異様な風体で長身であった。
落ちて来た男は、村人達に得難い説法を説いたが、あまりに酷い悪臭を放っていたため、其の臭いを嗅いだ者達はその場に倒れてしまった。
羽生田村ノ信仰
元来、外から来る存在を神と仰ぐ来訪神信仰は、異教との習合により新たな宗教観を村に植付けた。
我が身を犠牲にして村を救ったという異教の伝承が、我々には馴染みのあるものであったのも大きな誘因にもなった。
来訪神を中心にした信仰自体は、かなり古い起源まで遡る事ができる。古代から村では眞魚岩を礼拝場として祈りを捧げていたと伝えられている。
しかし、時に、権力者の弾圧にあい、又、異教との習合によりその教えは秘教の様相を呈していった。
天地救之伝
果報ノ御告げノ事
天の使い、村娘の下に降り給えば、「祝福也、神王の分身、天下らせ給う」と伝えん。
木る伝ノ事
燃えさかる炎の剣と共に楽園を守りし天の獣有り。
獅子の相、雄牛の相、人間の相、鷲の相に四対の羽の姿なり。
理尾や丹の事
海の底に住まいし其のもの混沌と仇を為すものなり。大いなる尾を打ち振るいて天を曇らす光を発す。
末世過乱ノ事
末世には、地鳴り、台風、豪雨、虫などの自然の猛威による被害と、人々の心の乱れが長く変わりなく也。
又、今も昔もひとつとなり、すべての水は神王の血により赤く染まらん。
赤い水を得しものは生きているもの、死んでいるもの残らず現れ出で、神王大いなる力で魂を元の肉体に蘇らせん。
資料の目を通した良介は、この村が以前に、依頼を受けて、赴いた夜実島に似た環境から、この村に何かあると確信めいたモノを感じ、リスティの依頼を受けることにした。
良介がリスティの依頼を受け、羽生田村へ行く決意をした頃、
とあるマンションにて一人の青年がパソコンのあるサイトを見ていた。
サイトの名前は、オカルトランド。
このサイトには全国の都市伝説や未確認生物の目撃情報、オカルト情報が集まるサイトで、ホラー、オカルト好きの愛好者たちが日夜交流をしているサイトだった。
その中で、青年が興味を引いたのは、「血塗れの集落」と題された記事だった。
記事には山間部に囲まれた羽生田村では、人間を生贄とした儀式が今でも行われていると言う内容の記事だった。
また、その村で村に対する危険思想を持つ者は村にある病院の地下病棟に永遠に隔離されるか人体実験の検体にされる。
と、言うのもあった。
事実、例のダム工事の際、村人全員がダムの建設に反対したわけでは、無かった。
国側は、村人に対し、一人一人に多額の立ち退き料を支払うと説明した。
それは今では考えられないほどの額で、バブル経済真っ盛りだった頃だからこそ、成し得た額だった。
そしてその立ち退き料目当てにダム工事を推進する村人も現れたが、反対運動の最中、ダムの工事を推進した村人は皆、不慮の事故にあい事故死、病気にかかり病死、または行方不明になる者が多発した。
そうした事例が村に対し危険思想を持つ者を監禁すると言う都市伝説が生まれた要因にもなっていたのだ。
だが、これは本当に偶然だったのだろうか?
その他にも羽生田村にはツチノコや空魚(スカイフィッシュ)等を始めとする未知の未確認生物が数多く生息していると言われていたり、
UFOの目撃情報が度々寄せられるなど超常現象がよく起きるミステリースポットでもある。特に全国でブームを巻き起こしたツチノコは、羽生田村でも村おこしの一環として、村役場ツチノコ委員会から
100万円の懸賞金がかけられていたりしており、当時その懸賞金目当てに多くの人が村に足を踏み入れたと言う。また、ツチノコの他に、空魚(スカイフィッシュ)と呼ばれる空想上の生き物記録もしっかりと残されている。
空魚‐くうぎょ‐
三隅の国に合石という山があった。
山に入ると原因のわからない切り傷ができると云われていた。
羽生田村の男が、合石山で空を飛ぶとんぼを地に打ち付けてみたところ、それは棒に魚の鰭のようなものがついた奇妙な生き物だった。
村の年老いた翁が、「これは空魚というものだろう。この空飛ぶ魚が切り傷の災いの元であったのであろう」と伝えたと云う。
その空魚と呼ばれる古びた写真もこのサイトでは掲載されているが、一部では合成なのではないかと言う批判的な意見もある。
また村の歴史においても明治時代、一人の青年の手によって村人が三十三人殺された事件が起きたとも言われており、それらの伝説や事実はホラー、オカルト好きにはたまらない情報であり、青年は、それが本当なのか確かめに行くため、書き込みの欄に、
「これからその村に行ってきます。詳細は後ほど書き込みます。
MBK」と、書き込むと、彼はリュックサックにサバイバルに使えそうな荷物を詰め、マウンテンバイクにまたがり、羽生田村を目指した。
良介とこの青年が出会うとき、物語は始まる・・・・。
それは絶望か?
それとも希望か?
それはまだ、誰にも分からない。
おまけ
塔
とある晴れた日、クラナガンにある公園の一本の植木の前にヴィータ、良介、ヴァイスの姿があった。
三人は目の前の植木をジィッと見ていた。
別にこの植木が珍しい木だとかではなく、植木はどこの公園でも植わっているごくごく変わらない普通の木。
では、その木に珍しい鳥がとまっている・・・・などではなく、木には何もとまっていない。
では、何故、三人は植木をジィッと見ているのかと言うと・・・・。
「どうしてこんなことに?何か良いことでもあったのか?」
植木を見ながら良介がヴィータに尋ねる。
「・・・・」
しかし、ヴィータは良介の問いには何も答えず、植木をジィッと見ている。
三人の視線の先には、木の枝・・・・しかも割と高い所に、ヴィータのお気に入りの一つ。
呪いウサギのポシェットが引っかかっていた。
「ひょっとして、ヴィータ三尉って普段からテンションが高かったんですか?」
隊舎内では、子ども扱いされた時以外、ヴィータはその見た目から考えられないくらい、落ち着いた雰囲気があり、ヴァイスはそのギャップを感じていた。
「・・・・
//////」ヴァイスに指摘され、ヴィータは頬を赤く染め、俯いた。
「宮本さん、貴方が映画に行く前にコンビニに行きたいって言うからこんな事に遭遇するんですよ」
ヴァイスは口を尖らせ、良介に愚痴る。
「兎に角、取らないといかんな」
良介は、ヴァイスの愚痴をスルーして、この事態の収拾を図ろうとする。
「でも、ヴィータ三尉、空戦特性があるじゃないですか。セットアップして飛べばすぐ終わるじゃないですか」
「そ、それが、アイゼンがあのポシェットの中で、今のアタシはセットアップどころか、空を飛べねぇんだ」
良介も今、ミヤを連れていないため、空を飛べない。
ヴァイスは元々空戦特性を持っていないので、飛べない。
そして、ヴィータの説明通り、今のヴィータは良介同様、デバイスを持っていないので、セットアップをする事も飛ぶことも出来ない。
そこで・・・・・
「気をつけろ。俺、重いぞ」
肩車をして取ろうとしたのだが、良介がヴィータの上にあがった。
「って、ちょっと待て!!なんで、ナチュラルにアタシが下なんだよ!?」
良介に乗られたヴィータが声をあげる。
そりゃ、普通に考えれば、良介がヴィータを肩車するのが普通だろう。
しかし、
「いや、だって。絶対スカートの中見ないでよ。とか、失礼な事言われたくないし・・・・」
良介は、自分が上になる理由をヴィータに話す。
いつもならハーフパンツやスパッツを履いているヴィータであったが、この日は運悪く、スカートを履いていた。
「言わねぇよ!!・・・・うりゃあああああああー!!」
良介に踏まれるのは屈辱だが、お気に入りのポシェットを取るため、やむを得ず、良介を肩車するヴィータ。
しかし・・・・
「全然届いてねぇじゃねか!!」
届かなかったことに腹が立ったらしく、良介に張り手をくらわすヴィータ。
「それじゃあ俺も手伝おう」
今度はヴァイスも手伝うことになり、一番下にヴィータ、真ん中に良介、一番上にヴァイスが肩車する形になった。
「無理に決まってんだろう!!」
あまりにも無茶な体制に声をあげるヴィータ。
しかし・・・・
「でも、上げた・・・・」
なんとヴィータは成人男性二人を肩車で持ち上げたのだった。
しかし、こんな無茶な体制が長く続くはずもなく。
「う、うわぁぁぁぁぁー!!」
「「おわぁぁぁぁぁあー!!」」
崩れた。
「・・・・もうあれしかないな・・・・」
「そうだな・・・・ぶつけて落とすか・・・・」
そして・・・・
木の枝の上には呪いウサギのポシェットの他にも・・・・
「ヘルプー!!」
ヴァイスのデバイス、ストームレイダーがライフルモードの状態で助けを求める状態で木の枝に引っかかり、
「・・・・」
良介の刀も吊り紐が木の枝に絡まった状態で木の枝に引っかかっている。
「「「・・・・・」」」
事態はなお、悪化しただけだった・・・・。
三人は何も言えず、ただ黙って植木を見ているだけだった・・・・。
その後、ヴァイスのデバイスもヴィータのポシェットも偶々通りかかったなのはにセットアップしてもらい、取ってもらった。
あとがき
以前、
SIREN2のネタのクロスをかいたので、今回はPS2ソフトSIRENとPS3ソフトSIREN NTのクロスを書きました。登場人物や展開等では、原作と同じ部分や違った部分もあります。
では、次回にまたお会いいたしましょう。