七十二話 サイレンノナルヒ 人魚の島
「本当に今回の事件を解くカギがあの塔にあると? そこでこの事件を終わらせる事が出来ると探偵さんは言うんですか?」
あの謎の塔へと向かいながら志村が良介に尋ねる。
「それについてはまだ、何とも言えません。ともかく日が有る内に着かないと調査も出来ませんから・・・・」
「心配いらずとも、もうすぐ着くさ、もっとも日没までそう時間がないようだがな・・・・」
志村が沈みかけて来た太陽をチラッと見ながら言う。
それからすぐに三人は例の謎の塔のすぐ下まで着た。
しかし、太陽も間もなく水平線の彼方へと沈もうとしていた。
辺りからは、例の化け物ども(異型人)の気配がちらほら窺える。
「こ、これは・・・・」
良介が塔を見上げながら声をあげる。
「一体・・・・何時、誰がこんなものを・・・・」
志村も驚きながら塔を見上げている。
「ん?・・・・これは・・・・まさか、この塔・・・・」
良介は塔の壁を触りながら驚きの声をあげた。
一方、島から脱出を図ろうとしている美保子達三人は坑道の入口まで無事に辿りついたが、問題はこれからだった。
三人の目の前にはどこまでも続く暗黒のトンネルがあり、そこに連中が潜んでいるのは明白であった。なにしろトンネルの奥からは、「うごごご・・・・」「うぅ〜・・・・」等と連中の声が聞こえて来ているのだから。
「さぁ、着いたわよ!!いつまで此処でボサッと立っているつもりよ!?」
日が傾き始め、外も安全で無くなるのは時間の問題。
入口で何もせず立ったままでは恰好の餌食になる。
美保子は男二人に声をあげて問う。
そして、志村からライフルを貰った東に、
「あんた銃持っているんだから、先頭を切って道をつくりなさいよ!!」
と、東に先陣をきるように言う。
すると、東も、
「バカか!?お前の持っているライトが一番あいつらに効くんだ!!だったら、そのライトを貸せ!!」
と、美保子が持っている懐中電灯を寄こせと言う。
「ら、ライトの係りは私よ!!渡すもんですか!!」
美保子は東の言うと通り、自分の持っているライトが連中のもっともな弱点だと既に知っているので、切り札を早々他人に委ねようとはせず、ライトを自らの体で隠すようにして、東に渡すのを拒否する。
二人が言い合いをしている最中、江戸がふと坑道の近くで何かを見つけ、声をあげた。
「あ、あれだ!!た、助かる!!俺達助かるぞ!!」
江戸の視線の先に有るモノを美保子と東も見ると、確かに江戸の言うとおり、自分達は助かるかという希望が浮かび上がった。
「早く突破するのよ!!もうすぐ日が暮れるわ!!」
三人は急いで視線の先に有るモノを坑道のレールにセットし始めた。
三人が島からの脱出準備をしている頃、良介は塔の壁を触り驚きの声をあげ、塔の材質を美耶子と志村に教える。
「これは木だ!!この塔は幾つもの木が土や石を取り込んで、ねじ曲がり、変形して塔の様な形を形成したんだ!!少なくとも人の手で作られた物ではない」
「そんなことが・・・・」
塔の素材が木や土石で出来、しかも人の手で無く、自然な形で形成されたものだと知った美耶子はとても信じられなかった。
人の手によって木や石を使って塔の形をしていると言うのであれば、納得できるが、一切、人の手を使わず、自然と塔の形に育っていたのだから・・・・。
美耶子自身も塔の壁に触り、木の感触をたしかめ、耳を当てると、中からヒューという風を切るような音が聞こえた。
「宮本さん、中から風の通る音が・・・・この中は空洞になっているようです」
「・・・・もしかして『海送り』の儀式はこの塔の内部で行われているのかもしれない・・・・」
「内部?」
「ああ、儀式を行うには祭壇がなければならない、しかし、周りに祭壇らしきものがなければ、この塔のどこかに内部へと通ずる入口が有る筈・・・・おそらくそこに儀式の場が・・祭壇が有る筈、それさえ壊してしまえば・・・・」
良介は塔の周りを調べ、どこかに入口となる穴がないかを調べる。
「宮本さん、上の方に人が入れるくらいの穴があります!!」
美耶子が塔の上の方を指さすと、そこには確かに人一人が通れるくらいの穴があった。
「よし、行ってみよう」
良介は塔にしがみつくと、そのまま塔を登り始めた。
美耶子も良介と同じく塔を登り始めたが、上に行けば行くほど、海からの強い風が吹き、思わず落ちそうになる。
「美耶子、君は一端降りろ!!上の方は風が強くて危険だ!!」
良介は美耶子に一度塔を降りるように言うが、
「下もあまりオススメ出来んぞ、探偵さん・・・・」
塔の下に残っていた志村が辺りを見回しながら降りる事を止めようとする。
「あと、数十秒でここも奴らに埋め尽くされそうだ・・・・」
「っ!?」
「こ〜〜〜い・・・・・」
「こっちへ・・・・・」
「こ〜〜〜い」
志村の言うとおり、辺りからは塔を目指してあの異型人が集まりだしてきた。
「くそっ、もう来やがった・・・・志村さん、そこは危険だ!!早く塔の上に避難するんだ!!」
良介は未だに塔の下に残っている志村に塔へ登るよう声をかける。
「志村さん早く!!」
美耶子も声をあげて志村に避難を促す。
ところが、
「いや、わしはここでいい・・・・」
「は?」
志村は塔へは登らなかった。
それどころか間もなく化け物で覆い尽くされる塔の下で良いとさえ言った。
「志村さん何で!!」
美耶子が声をあげ尋ねると、
「言っただろうお嬢ちゃん。わしにはわしなりの理由があると・・・・十五年前、島民が蒸発したあの日、ちょうどこの島に観光に来ていたわしの女房と息子も一緒に蒸発した・・・・わしが・・・・わしが薦めたんだ・・・・この島を・・・・何度か狩猟に来て、この島の事を知っていたからな・・・・まさか、こんな事が起きて巻き込まれるなんて・・・・」
志村は俯きながらポケットから一枚の写真を取り出した。
その写真には十五年前に蒸発した志村の女房と息子の姿が写っていた。
「ま、まさか、志村さんの奥さんと息子さんが・・・・あの中に・・・・?」
良介が恐る恐る志村に尋ねると、
「ああ、おったよ・・・・昨日の学校襲撃の時にもな・・・・そして今もあそこに来ておる・・・・。随分と姿形は変わってしまったが・・・・今はちゃんとわかる・・・・あんな姿になってもちゃんと二人一緒に来ておるよ・・・・」
「パ・・・・パ・・・・・」
「ア・・・・あ・・な・・た・・・・」
志村の視線の先には写真と同じだが、ボロボロになった服を着て仲良さそうに手を繋いだ女の異型人と男の子の異型人がいた。
「志村さん!ダメ!!こっちへ!!お願い!!」
美耶子は志村が連中の仲間入りをしようとしているのではないかと思い声をあげ、引き止める。
「美耶子の言うとおりだ!!あれはもう、魂の入っていない動く肉の塊だ!!そいつらと同じになるつもりか!?」
良介も美耶子同様止めに入る。
「フッ、もちろんあいつらの仲間入りなんてゴメンだ。・・・・でも、女房と息子を放ってはおけん」
女房と子供のことを言われて、良介も分からない訳ではなかった。
もし、自分が志村と同じ立場ならば自分も同じ事を思っていただろう。
「わしが出来ることと言えば女房と息子をこの苦しみから解放してやることだ・・・・再生できないぐらいバラバラにしてな・・・・」
そう言う志村の手には火の着いたダイナマイトが握られていた。
「み、宮本さん!!志村さんが、ダイナマイトを!!」
「なっ!?志村さん・・アンタ、まさか自爆する気か!?」
「探偵さん、頼んだよ・・・・ここで少しだけ時間を稼ぐからよ、どうかこの島の呪いを解いてやってくれ・・・・・」
志村が両手を広げると、親子の異型人は志村へと近づく。
「あ・・・・な・・・・・た・・・・・あ・・・な・・・・た・・・・・も・・・・・・こっ・・・・・ち・・・・・へ・・・・・」
志村はその二人をギュっと抱きしめた・・・・もう二人を引き離さないくらい強い力で・・・・。
「すまなかったお前達・・・・父ちゃん、迎えに来るのが遅くなっちまって・・・・・」
「ぱ・・・・ぱ・・・・・パ〜〜パ・・・・・」
「あ・・・・な・・・・た・・・・も・・・・こっ・・・・ち・・・・へ・・・・・」
そして女の異型人が志村に噛みつこうとした瞬間、
カッ!!
ドォォンー!!
「ギャァァァ!!」
「ギィー!!」
志村の持っていたダイナマイトが大爆発を起こし、志村一家の他に近くにいた異型人も何人かはその爆発に巻き込まれた。
当然、爆心地に居た志村一家はバラバラに吹き飛んだ。
「いやぁぁー!!」
美耶子は志村の自爆を目の当りにし、悲痛な声で叫び、
「・・・・・」
良介は志村を救えなかった己に対する怒りと無力さに歯をグッと食いしばった。
その頃、坑道では・・・・。
「一気に行くぞ!!船着き場はすぐそこだ!!」
美保子、東、江戸の三人はトロッコに乗って一気に坑道を走りぬこうとしていた。
あの時、江戸が見つけたのは整備用のトロッコ(周りに壁が無く、鉄板に車輪がついたタイプのトロッコ)だったのだ。
「いいぞ!!下りでスピードが出てきた!!」
「奴ら前にいるわよ!!撃って!!線路をふさいでいるわ!!早く!!」
美保子が懐中電灯で前方を照らすと異型人二体が線路の前に立ち塞がっていた。そこを東がライフルで撃ちながら進んでいった。
「ギッ」
「ギャァァァ」
「このバケモノめ!!死ね!!死ね!!死ね!!死ねぇ〜!!」
東は異常者の如くライフルを乱射し、異型人を撃っていく。
ライフルという強力な武器と自分は助かるという信念によって東は今、物凄い興奮状態であった。
彼の脳裏には本土で自分を待っている妻の顔だけであった。
それが今の彼には唯一の支えとなっていた。
しかし、
「ちょっと、上よ!!上にもいるわ!!」
美保子が天井を照らすと、一体の異型人が天井に張り付き、鋭い爪の生えた手を伸ばしてきた。
咄嗟の事で東は対応が遅れ、照準を合わせると同時に東はその異型人に顔を切り落とされた。
東の死体はトロッコから振り落とされ、ライフルを持ったまま坑道の暗闇の中へ消えていった。
「死・・死んでたまるものですか!!私はこんな所で絶対に死なないわよ!!」
物凄い形相で前を睨みながら懐中電灯を照らし続ける美保子。
ライフルと言う武器が無くなった今、最後の頼みは今手に持っているライトだけなのだ。
そして、
「うわッ つッ・・・・つかまれた!!」
今度は江戸が異型人に足を掴まれ、トロッコから引きづり降ろされそうになっている。すでに彼の下半身がトロッコの外へ出て轢きずられている状態である。
「た、助けてくれ!!」
江戸と異型人が轢きずられ、江戸と異型人の二人の体がブレーキ代わりになっているのか、トロッコのスピードは徐々に落ち始めた。
「スピードが落ちている・・・・これじゃあトロッコが止まるわ!!」
スピードが落ちてきた事により焦りを感じ始める美保子。
「な、何言ってんだよ!?助けろよ!!おい!!」
「トロッコが止まれば終いだわ!!絶対に止めさせたりはしないわ!!」
「お、お前・・・・まさか・・俺を・・・・・」
焦り始めている様子の美保子に嫌な予感を抱く江戸。
そしてその予感は不幸にも的中した。
「早く離しなさいよ!!バカ!!トロッコが止まるでしょ!!」
事もあろうに、美保子は江戸を助けようとはせず、逆に江戸を見捨てる選択肢を選び、江戸の顔に足蹴りをくらわす。
江戸をトロッコから振り落とそうとしているのだ。
「離せ!!この・・この・・離せ!!」
一方の江戸も必死にトロッコにしがみつくが、徐々に江戸の体はトロッコの外へはみ出る面積が増えていく・・・・。
「しぶといわね!!コイツ!!」
「お、お前ぇ〜・・・・お、お前こそ・・・・ほ、本物のバケモノだ・・・・」
江戸のその言葉にキレ、今までにない強烈な蹴りを江戸の顔面にくらわせると、江戸の体は完全にトロッコの外へと消えてゆき、坑道の暗闇の中から江戸の悲痛な悲鳴と、肉を引きちぎる音や骨をへし折る様な音が坑道内に響いた・・・・。
「冗談じゃないわ!!こんな・・こんな惨めな所で死んでたまるもんですか!!私はもう一度、浴びるのよ!!あのスポットライトを!!そして返り咲くのよ!!沢山のファンの前に・・・・もう一度!!」
美保子の他人を犠牲にしてまで生きようとする信念の叫びが終わったのと同時にトロッコは坑道の外へと出た。それと同じく、トロッコも等々止まってしまった・・・・。
そして美保子の目の前には彼女のファンでは無く、大勢の異型人が彼女を待ち受けるかのように立っていた。
「・・・・」
ガチャッ
唖然とした美保子の手からスルリと懐中電灯が落ちた・・・・。
美保子が夜空を見上げると、そこには見事な満月が夜空に登っており、それはまるで彼女が願っていたスポットライトの様に彼女を照らしていた。
「あっ・・・・きれい・・・・・」
それが、彼女の・・・・美浜 奈保子の残した最後の言葉だった・・・・。
島からの脱出を図ろうとした美保子達のグループが全滅したと知る由もない、良介達は塔の天辺に近い所まで着ていた。
目指す穴までほんのあと一息と言った所まで着ていた。
「あと少しだ!!頑張れ!!」
良介が美耶子に片方の手を伸ばす。
美耶子が息を切らしながら塔へ登っていると、突然、美耶子の目の前の壁に変化が現れた。
「見・・・・つ・・・・け・・・・たぁ〜〜〜」
突然、美耶子の前に人の顔の様なモノが浮かび上がると、次に手まで生えて来て美耶子をの体をガッチリと掴む。
「つ〜〜〜かぁ〜〜〜まぁ〜〜〜え〜〜〜たぁ〜〜〜もう、逃がさない〜〜〜」
「きゃぁぁぁ」
「しっまた!!美耶子!!」
「み、宮本さん!!」
美耶子は壁から突然生えてきた顔と手に捕まり、そのまま壁の中へ溶けるかのように連れていかれてしまった。
すると、塔の上部に開いていた穴も徐々に閉まり始めた。
「『儀式の邪魔をするな』ってか?ふざけるなよ!!」
良介は穴に向かって急ぎ登りだし、穴が閉まる前に塔の内部へ侵入することに成功した。
塔の内部に侵入すると良介はジッポライターで辺りの様子を覗う。
すると、
「っ!?」
壁に一人の青年が磔にされていた。
青年は両手の掌、腕、両足に杭を打ち込まれ、顔には何か術式と紋章が書かれた布を被せられていた。
「コイツが、美耶子の言う夢に出てくる人物か・・・・」
美耶子の話では夢に出てくる声の主は塔に居り、いつも自分を助けてくれるのだと言っていたため、良介はこの青年は敵ではないと判断し、青年に撃ち込まれている杭を全部外した。
「おい、大丈夫か?生きているか?」
良介が青年に声をかけると、
「うぅ〜・・・・」
青年は良介の声に反応して呻き声を出す。
しかし、青年は呻き声をあげるだけでピクリとも動かない。
「この布・・・・何か術式めいたものが書いてある・・・・まさかこの布で封印されていたのか・・・・?」
良介が青年の顔を覆っている布を取り外すと、青年の杭が刺さっていた部分の傷が塞がっていった。
「傷口が再生・・・・やっぱりお前もあの連中の仲間だったのか!?」
良介が警戒しながら刀に手をやると、
「あの連中・・・・? ああ、あの化け物達のことですか・・・・確かに貴方達普通の人間にとってはそうかもしれませんが、異界の世界の住人にとってはこれが普通なんです」
「異界の世界?」
「この次元とは別の次元にあるもう一つの世界です。あの赤い水はその世界で湧き出ており、その世界に肉体を適合させる役割があるんです」
「あの赤い水が異世界の水だって!? だったらその異世界の水がなんでこの世界に湧き出ている!?それにこの世界の人間を異型に替え、何をしようとしている?」
良介はこの青年は今回の事件の黒幕を知っているのではないかと思い、赤い水が異世界の水だと知ると、何故その水が自分達の世界に湧き出ているのか、そして島の住人を異型に替えて黒幕は一体何がしたいのかを聞いた。
「詳しいことは分かりませんが、恐らくは人間に対する復讐・・・・特にこの島にいる人間に関しては、奴は物凄く憎悪のような感情を抱いています」
「奴?君は、今回の黒幕の正体をやはり知っているのか?」
「はい・・・・」
良介が思った通り、この青年は黒幕を知っていた。
「教えてくれ、黒幕は一体誰なんだ!?」
「貴方はこの島に人魚伝説があるのを知っていますか?」
「人魚?・・・・まさかあの話は本当にあったことなのか!?」
「え、ええ・・・・」
「それじゃあ美耶子は島の出身者という理由でその人魚に苦しめられてきたのか?」
「いえ、それは少し違います」
「違う?」
「アイツの目的はこの島にいる人間の復讐と同時に人間になる事なんです」
「人間に・・・・」
(御伽噺でも王子に恋した人魚が海の魔女に頼んで、人間にしてもらう話だったが、今回の人魚も同じか・・・・ただ王子様は登場していないがな・・・・)
人魚のもう一つの目的が人間になると言う事を聞き、昔読んだ人魚の御伽噺を思い出す良介。
しかし、良介にはもう一つ腑におちない事があった。
目的が人間になる事ならば、どうして美耶子を攫ったのかと言う事だった。
「その人魚の目的が人間に対する復讐と人間になる事ならば、その人魚は何故美耶子を確執に狙う?美耶子がこの島の出身で十五年前の島の生き残りだからか?」
「奴が人間に生まれ変わるにはある特殊な条件が必要なんです」
「条件?」
(そういえば御伽噺の人魚も海の魔女に自分の声を差し出して人間になっていたな・・・・)
「美耶子さんの家は代々強い霊力を持つ家系でその中でも美耶子さんはその力が強い方なんです。奴が人間になるにはその霊力を持つ者の体に自らの魂を乗り移らせる・・・・つまり美耶子さんの体を乗っ取ると言う事なんです」
「何だって!!」
「行きましょう!!奴が美耶子さんの体を乗っ取ったらもう、美耶子さんは美耶子さんでいられなくなる。それに奴が島を出たら外の世界で何をしでかすか分からない」
「ああ」
良介は青年の案内の下、儀式がおこなわれる場所へと急いだ。
青年は床をコンコンと叩き、床が脆くなっている箇所を探し、そこを見つけ出すと、足でガッガッと蹴り、床に穴をあけた。
「よし、これで地下道へけるぞ」
「地下道?この塔の下にはそんなものがあったのか?」
「はい、儀式はその奥の母胎の間で行われる筈です」
青年と良介は地下道へと降りると、進んでいくと島の地下とは思えない空間が広がっていた。
天井は地下にも関わらず、どこまでも続く広い空間で紅茶色の水で満たされていた。
それは母の母体で回りの水は女性の子宮に満たされている羊水の様であった。
そして地上に設置されている石の祭壇の様な所に美耶子が横たえられていた。
「美耶子!!」
「美耶子さん!!」
良介と青年が美耶子に近づこうとした時、上から不気味な女の笑い声が聞こえてきた。
「うふふふふふ・・・・・あははははははは・・・・・」
二人が上を見上げると、紅茶色の海を優雅に泳ぐ一体の大きな人魚がいた。
しかし、その外見は一般的に知られている人魚とは程遠い外見をしており、顔は確かに人間の女性の顔をしているが、体は薄桃色の鱗に覆われている蛇のような体をしており、その姿は、人魚と言うよりもインド神話に起源を持つ、蛇の精霊あるいは蛇神とされるナーガに近かった。
最も神話の中のナーガは、釈迦が悟りを開く時に守護したとされ、仏教に竜王として取り入れられて以来、仏法の守護神となっているが、目の前に人魚はとても守護神には見えず、人間に害を成す化物だ。
「あ、あれが・・・・人魚・・・・」
実際の人魚を見て思っていたイメージと違う事にギャップを感じる良介。
「君は美耶子を頼む!!」
良介は愛刀を鞘から抜き、青年に拳銃と弾薬を渡し人魚の注意を自分に向けさせた。
紅茶色の水から出てくると急降下アタックで人魚は良介に掴みかかろうとしてきた。良介は横へかわすと、人魚は薙ぎ払うかの様に尻尾で攻撃してきた。
「ぐはっ・・・・」
人魚の尻尾アタックをくらい、跳ね飛ばされる良介。しかし良介が人魚の相手をしている間に青年は美耶子の救助に成功した。
「美耶子さん。しっかり!!」
「う・・・・ん・・・・・」
青年は美耶子に声をかけるが、美耶子は目覚めない。良介を尻尾で跳ね飛ばした人魚は祭壇の上に安置していた新しい自分の体が持ち運ばれたことに怒りを感じ、二人の下へ迫った。
聞こえるかい?美耶子さん・・・・
君の力を・・・・君の力を僕に貸してほしい・・・・
青年の方も美耶子程ではないが、彼も何らかの力を持つ術者のようで、意識の無い美耶子に必死に声をかけた。
美耶子さん・・・・僕に・・・・力を・・・・・!!
青年がカッと目を見開くと、自分達に迫って来た人魚の動きがピタリと止まった。青年は人魚の隙を見逃さず、良介から手渡された拳銃を人魚に向けて撃った。
予想もしない反撃を受けた人魚は上昇し、また紅茶色の水の中へ逃げ込んだ。
人魚が体勢を立て直そうと紅茶色の海へ逃げ込んだのと同時に美耶子の意識が戻った。
「う・・・・ここは・・・・」
さっきまで自分が見ていた景色と違う景色が映り、戸惑う美耶子であったが、自分を支えてくれる青年を見て、次第に嬉し涙が込み上げてきた。
「あ・・ああ・・・会えた!!ようやくあなたに会えたのね!!」
「そうだよ・・・・僕もようやく君に会えた・・・・」
美耶子が歓喜まわって青年へと抱きつく。
「お二人さん、感動の再会はいいけど、今はあの化け物をなんとかしないといけないんじゃないかな?」
そこへ、良介が脇腹を抱えながら話しかけた。
良介も空気を読みたかったが、良介の言うとおり、今の優先目標はあの人魚を倒す事だった。
「そ、そうですね
//////」「あぅ〜・・・・
//////」二人の顔は有事である状況下にも関わらず赤かった。
人魚は今度、海の中から三人のいる下に何かを大量に落としてきた。
それは全体が白く、まるで硫酸をかけたて溶けかかったような人の形をしている何かだった。
「な、なんだ?こいつら?」
戸惑う良介に白い奴らはゆっくりと近づいてきた。しかもガバッと大きな口を開けて。
こいつらも切っても無駄なんじゃないかと思いつつもこのまま何もしないで食われるのはゴメンなので、良介は動く白い物体に斬りかかった。すると、白い物体は悲鳴をあげると、地面に溶けていった。
(こいつらはあの連中とは違うのか・・・・?)
青年の方も拳銃で応戦している。そして白い物体の数が減ると、人魚は下半身を海から出すと、体からまた白い物体を産み落とす。
(くそっ、このままじゃジリ貧だ。拳銃の方も弾は無限じゃないし・・・・一か八かやってみるか・・・・)
良介は刀で左手の手のひらに一筋の切り傷をつける。
そしてぐっと力を入れ、傷口から血を出し、機会を覗う。
やがて地上にいる白い物体を全て倒すと、人魚はまた白い物体を産もうと海から下半身の一部を出す。
(今だ!!)
「ブラッディダガ―!!」
良介は左の血から血液色のナイフを生成すると、人魚の下半身目掛けて投げつけた。
投げられたブラッディダガ―は見事に人魚の下半身に刺さると、爆発を起こした。
「ぎゃぁぁぁぁぁー!!」
ブラッディダガ―の爆発をくらい、人魚は海からボトリと落ちてきた。
「これで終わりだ!!バケモノぉぉぉー!!」
亜空間一杯に響く程の良介の大きな声と共に人魚の
首へと白刃を振り下ろした。人魚の首が見事に斬り落とされ、地面へと転がる。
「ハァハァハァハァハァ・・・・」
良介は息を切らしながら人魚の死体を見ていると、人魚の死体はピクリと動き始めた。
「まさか・・・コイツも再生できるのかよ・・・・」
折角倒したのにまたコイツが再生するのかと思うと絶望感が湧き出てくる。
そこへ、
「大丈夫です」
あの青年がポケットから琥珀色の石の様なものを取り出した。
「それは・・・・?」
「闇那其と呼ばれる不死の生物を倒すことのできる武器です」
青年がそう言うと、琥珀色の石が光輝くと、石の形だった闇那其は青竜刀の様な形となり、青年は再生を始めている人魚の体にそれを突き刺した。
突き刺された人魚の体は最初はビクッと痙攣するように動きまわったがやがてピクリとも動かなくなった。
そして、人魚の体はみるみるうちに溶けていった。
人魚の体が滅びるのと同時に地震の様な揺れが襲った。
それはこの世界の終焉を意味している。
三人は地下道を通って脱出すると、地下道の先は海へと繋がっており、三人はそのまま海へと脱出した。
異世界の崩壊は元の世界にも多少影響を及ぼし、あの塔を破壊し、島の地下に溜まっていたメタンガスに引火し、次々と誘爆を繰り返し、島の八割が焦土とかした。
「悪夢が光と共に終わって行く・・・・」
「これで全てが終わった・・・・」
三人は海に浮かびながらようやくこの島が人魚の呪いから解放されたのだと思った。
既に日は上がり、生き残った異形人はまたも暗闇の中へと避難していった。
その後、三人は南田医師が密かに使用していた船を見つけ、無事本土へと戻った。
南田はこの船で時折本土へ戻り、生活物資を調達していたようだ。
まぁ、考えてみればあの島に定期船が来るようになったのは開発事業が開始された時であり、それ以前から島に住んでいた南田はこうして個人の船がなければ必要な生活物資を調達できなかっただろうから。
本土へ戻る途中、良介は青年の正体について聞いた。
すると、青年の正体はなんと、あの民話に記されていた人魚を最初に助けた青年の子孫だった事がわかった。
祖先の愚かな行いのために大勢の人に迷惑をかけた事をすまなそうに言っていたが、彼は美耶子のために様々な助力をしてきたのだ。
少なくともこの青年は人一人を助けたのだ。
それにすべての罪は人魚を裏切った先祖にあるのだから子孫である青年には本来何の罪もないのだが、先祖の罪は子孫である自分が償わなければならないとい言い、
それならば、これから別の方法で償う事が有る筈だと良介が言うと、美耶子も頷く。
青年は涙を流し良介と美耶子に頭を下げた。
本土に戻った後、良介はまず、忍に二人の後見人になってくれるように頼んだ。
夜の一族程ではないが、彼らもまた異能の力を持っている者だったからである。
なぜ管理局ではなく、忍に頼んだのかと言うと、管理局に報告すれば二人の力を利用しようとしてくる輩がいるに違いないと判断したためである。
辛い経験をした二人には今後、静かに地球で生活してもらいたいと思い、良介は二人について管理局には一切報告をしなかった。
またリスティに事の次第を報告し、まだ島には例の異型人が残っている可能性があるので、異型人の殲滅が終わるまで島には人を上陸させないように頼んだ。
リスティのおかげで表向きは島には有毒ガスがあちこちに吹き出て危険なので許可が出るまで島への立ち入りを何人も禁止にするという事となった。
そして残念だったのが、島からの脱出を図ったあの三人が未だに行方不明だったことだった。
あの状況で行方不明と言う事はおそらく脱出に失敗したのだろうと良介はそう判断した。
あの時、南田の船の存在に気がついていれば、もしかしたら、あの三人は助かったのかもしれないと思うと良介の心は痛んだ。
美耶子達の後見と島への立ち入り禁止等の事後処理を終えた良介は早速ミッドに戻ると、はやてに島であったことを話した。ただし、美耶子とあの青年の事は省いて・・・・。
そしてまだ島に残っている異型人の殲滅を手伝ってほしいと依頼した。
当初、はやて達は異型人の話を聞き、そんな奴らが管理外世界である地球に居るわけないと笑い飛ばしていたが、良介が「本当は怖いんだろう?」と挑発すると、簡単に良介の挑発に乗り、はやて、ヴィータ、シグナムは夜実島へと向かった。
そして夜になると島にはやはり良介の睨んだ通り、異型人がまだ残っていた。
異型人は学習しないのか、ワンパターンなのか、はやて達の姿を見つけると、襲いかかってきた。
最初、異型人を見たはやて達はその姿にブルっていたが、ミヤとユニゾンした良介といち早く正気を取り戻したシグナムが先陣を切って異型人の殲滅に取りかかった。
ただ、はやては異型人の正体が元はこの島の住人だということで、消極的で残った異型人の殲滅は良介とシグナムが主にあたった。
殲滅が終わると、島は空しいほどの静寂が訪れた。
良介達は殲滅が終わると、犠牲となった人達のために鎮魂の祈りを奉げたのだった・・・・。
島はこうして、人魚からの呪いから解放されたが、その代償は余りにも大きく、良介にとっては何とも後味の悪い結末で終わった・・・・。
登場人物設定
人魚
民話に登場したと思われていたが、実際に存在していた幻獣生物。
金と死にたくないと言う人間の欲の為、無残な最期を遂げたのだが、その思いが余りにも強く、あの世とこの世の境界線の異界を彷徨い続け、長い年月をかけて、霊体から実体化し、夜実島の人間に復讐を企てた。
一度目の復讐で夜実島に居た全ての人間を異形人へと変えた後、次は人間全てに復讐しようと企てた。
しかし、人魚の体のままでは、異界・・夜実島から出る事が出来なかったので、島の出身者で、霊力が高い美耶子の体を乗っ取り、島の外へと侵出しようとしたが、闇那其の力によって滅された。
あとがき
これにて
SIRENシリーズは終わりですが、今回の内容はSIREN2のネタ+オリジナルだったので、次はSIRENのネタで書くかもしれません。では、次回にまたお会いいたしましょう。