七十話 サイレンノナルヒ 不死なる者達

 

 

「な、なんだ?あいつら・・・・?一体どこから来たんだ?」

突如、島中に鳴り始めたサイレンに似た奇妙な音・・・・。

その音にまるで引き寄せられるかのように現れた異型な形をした大勢の人のようなモノ達・・・・。

動いているからには恐らく生きているのだろう。

生憎と今の地球・・・・表の世界ではガジェットの様な高性能ロボは作られていない為、連中が自動人形の類とは思えない。

学校にいる皆は突然の出来事に訳が分からなかった。

しかし、先程美耶子から言われた

『サイレンの鳴る夜は外へ出てはいけない・・・・光を絶やしてはならない・・・・』

その言葉が良介の脳裏をよぎり、

「あ、明かりだ!!早く学校中の明かりをつけるんだ!!」

皆は急ぎ学校中を走り回り、明かりという明かりをつけた。

「こ〜〜〜い・・・・・」

「こっちへ・・・・・」

「こ〜〜〜い・・・・・」

校庭に集まった頭部が異型な形に変形した人のようなモノ達は明かりがさすギリギリのラインで止まり、同じ言葉を繰り返している。

「こ〜〜〜い・・・・・」

「こっちへ・・・・・こ〜〜〜い」

 

軽トラで学校に突っ込んできた志村と東はトラックから降り、学校の中へと避難していた。

「痛っ・・・・・」

「す、すみません!すぐに済みますから・・・・」

美耶子は怪我をした志村の手当てをしていた。

「いや、助かるよお嬢さん。・・・・・しかし、意外だな・・・・君の様な女の子が血を見ても驚かず、テキパキと手当てを出来るなんて・・・・」

美耶子の手際の良さに意外性を感じる志村。

「私、赤ん坊の時、この島で拾われてそれ以降、物心がつく前から施設で育って・・・・今では同じ施設に居る子供達のお姉さんみたいな存在になって色々面倒を見ているんです。皆やんちゃな子たちばかりで怪我をしたり泣いたりすると、真っ先に私の下に来るんです・・・・そうしている内に私も色々と覚えちゃって・・・・」

「・・・・・」

「でも、私は子供達が大好きですから、好きでやっているんです」

「そうだったのか・・・・それで君がこの島に来たのはやはり行方不明になった両親を探しに?」

「それもあるんですけど・・・・でも、本当に探したい人は別にいるんです」

「別?それはどんな人なんだい?」

「姿は分からないんですけど、何時も私を助けてくれる人なんです・・・・辛い時、悲しい時、怖い夢を見つ時・・・・いつも幼いころからずっとその声が私を励ましてくれて・・・・その人の事を想うと生きる力が湧いてくるんです」

美耶子の若干惚気が入った言葉を志村は黙って聞いていた。

 

「ちょ、・・・・ちょっと・・・・な、何なのよ?あの気持ち悪い連中?」

「光を恐れているようで近づいてこない」

美耶子と志村以外の皆は窓から校庭に集まっている異型の人達を見ていた。

「ちょっと!!何なのよ!?あの連中!!なんでここに集まっているのよ!?アンタ探偵なんでしょう!?何か知らないの!?」

美保子が良介に怒鳴りながら尋ねると、良介は冷静に答える。

「恐らく『海還り』と呼ばれる人間のなれの果てだろう?」

「海還り?」

「ああ、この島には『海送り』『海還り』と呼ばれる民俗行事があった・・・・現世での穢れを洗い落とし、海の向こうにあると信じられている不老不死の世界・・・・神の世界の住人となり、神と一体化する信仰だ」

(あの人魚伝説が紆余曲折したものか?それともこの信仰を人魚伝説に置き換えたものか、そのどちらかだろう・・・・)

良介の脳裏には本土の図書館では分からなかったこの島の民俗行事から島の異様性が浮き彫りになってきた。

「そして『海送り』で帰ってきた人間は不老不死の肉体を得た特別な人間・・・・神の恩恵を受けた人間として天界へ帰る日まで島民に厚遇されたらしい」

「あの化け物どもが神の恩恵を受けた人間!?どう見ても地獄がお似合いの奴らだぞ!!」

良介の説明を聞き東が声をあげる。

「確かに」

説明しておいて何だが、良介も東の意見には賛同した。

見た様子、神の恩恵・・・・不老不死の体を得たかもしれないが、体は異型に変形し、知能は獣並みに低下している。

とても神に近い存在とは思えない。

しかし、神の姿など本当に見た人間などいるわけも無く、様々な世界の壁画や本に描かれている神の姿は所詮人間の想像図なわけであり、もしかしたら神の本当の姿と言うのは校庭に集まって来ているあの異型な人間同様化け物に近い姿なのかもしれない・・・・。

最もミッドでは自分達こそが神、または神に近い存在だと思い込んでいる管理局の高官も存在するが、この状況では、そんな局員連中の方がまだ可愛い方だった。

「た、探偵さん、教えてくれ!!十五年前、蒸発した島民は皆あの化け物になってしまったのか?どうなんだ?」

「確証はありませんが、その可能性もあります」

志村が突然良介に掴みかかり、十五年前の島民蒸発事件に『海送り』『海還り』が関係しているのか尋ねる。

良介本人も明確な確証が有るわけではないが、本に書いてある伝承と目の前の非現実的な現実を照らし合わせるとそう考えざるを得ない。

「・・・・・あの化け物どもの中に・・・・まさか・・・・そんな・・・・・」

志村は良介から離れると窓の外を見ながら小声で呟いた。

 

っている・・・・

 

狙っている・・・・

 

狙っている・・・・

 

光を・・・・・

 

守れ・・・・

 

奴等から・・・・守れ・・・・・

 

光を奴等から・・・・

 

守れ・・・・・

 

「うっ・・・・」

突如、美耶子の頭の中に例の声がし、美耶子は膝をつく。

「美耶子?どうした?大丈夫か!?」

「はぁはぁ・・・・はぁはぁ・・・・み、宮本さん・・・・またあの声が・・・・あの人からの声が・・・・奴等から光を守れって・・・・」

「光を・・守れ?っ!?ま、まさか・・志村さん!!」

「い、いかん!!」

東と志村は美耶子の言葉の意味をいち早く理解した。

そして志村は急いで鍵の付いたロッカーへと向かい、鍵を開け、ロッカーの扉を開けた。

開かれたロッカーの中には狩猟用のライフルと弾丸の入った箱が入っていた。

志村はライフルに弾を装弾し、何時でも撃てる状態にした。

「奴ら、発電機を壊すつもりだ!!役場の方も同じ方法でやられた」

「ちょ、ちょっと何でそんなモン持っているのよ!?」

美保子が突然出てきたライフルに驚く。

そりゃあ普通の生活の中でライフル(銃)を真近で見る機会なんて早々無いからである。

「わしは猟友会のメンバーでもある。この島には何度か狩猟に来ていた事がある。まさかこんな化け物島だったとは思いもよらなかったがな」

「俺も行こう!!発電機が壊されたら終わりだからな」

良介も愛刀と港湾事務所で見つけた二十六年式拳銃を手に発電機の下に行こうとする。

「わ、私は行かないわよ!!そう言うのは男の仕事でしょう!?江戸!!アンタも行きなさいよ!!」

「な、なんで俺が!!」

美保子は外に出るなど危険極まりない事は男連中に任せ、その男手の一人としてカメラマンの江戸にも行かせようとしたが、江戸も行きたくない様子。

しかし、良介達が発電機の下に向かう前に学校の電気が全て消えた。

どうやら連中の方が良介達よりも一歩早かった様だ・・・・。

「くそっ、やられた・・・・」

良介は苦虫を潰したかのように顔を歪めた。

「うわぁぁー!!もうダメだ!!」

「落ち着け、懐中電灯が置いてある!!」

「早くつけろ!!奴らが来るぞ!!」

皆は暗闇の中、手探りで懐中電灯を探す。

そして美耶子が懐中電灯を探り当て、明かりをつける。

「貸しなさいよ!!」

美保子が美耶子から懐中電灯をひったくる。

「皆、ちりじりになるな!!一か所に固まるんだ!!」

教室の中心で皆は背中を会わせながら固まる。

すると、暗闇の中から、カサカサと言う音が何処からともなく聞こえてきた・・・・。

やがてその音は自分達に近づいてくるようだった・・・・。

「な、何よ!!何の音よ!?一体何なのよ!?」

美保子が騒ぎながら辺りを懐中電灯の明かりで照らす。

そして、天井を照らした時、天井に虫のように張り付いた一体の異型人がいた。

「きゃぁぁぁぁぁー!!」

その姿を見た美保子はパニックになり、教室から出て行ってしまった。

「ば、バカ!!何処へ行くつもりだ!?」

「戻らんか!!」

良介と志村が声をあげるが、パニックに陥った美保子には聞こえていない様子だった。

「連れ戻してきます!!それまではこれで何とか・・・・」

良介はジッポイターの火をつけると、志村に渡し、美保子の後を追った。

 

恐怖のあまりパニックになり教室を出て廊下を走っていた美保子は突如、誰かにぶつかった。

「だ・・・・誰?」

恐る恐る懐中電灯の光をぶつかった人物に当てると、そこに居たのは役場の発電機を壊した木暮であった。

「ひぃ!!」

木暮は手に持ったバールを振り上げると、

「お前も・・・・なれ・・・・仲間に・・・・なれ・・・・・」

美保子に振りおろそうとした時、

「伏せろ!!」

間一髪良介がその場に到着し、バールを振りおろそうとしている木暮の両腕と頭を抜刀術にて切り落とした。

「早く戻れ!!」

「ヒィ〜・・・・」

良介が声をあげると、美保子は慌てて教室へと戻っていたった。

美保子が教室も戻るのを確認した良介も教室に戻ろうとし、ふと木暮を見ると、先程切り落とした頭と腕からなんと新しい腕と頭が生えてきた。

「な、なんだ?この再生力は・・・・ナ○ック星人もビックリの再生力だぞ!?こいつら本当に不死身なのか・・・・?もし、そうならいくら銃や刀があっても・・・・」

再生してく木暮を見ながら良介の脳裏に最悪の考えが過った。

しかし、この場にいて再生した木暮に襲われたくはないので、良介は急いで教室へと戻った。

教室では懐中電灯とジッポライターの明かりだけではとても奴らを退ける事は出来なかった。

等々奴等は窓を破って室内に入り込む寸前だった。

「うわぁぁぁー ど、どうにかしてくれ〜!!」

「・・・・っ!?そうだ!!志村さん!!車だ!!車を撃ってくれ!!」

「車?・・・・そうかっ!!」

志村は良介の言葉の意味を瞬時に理解し、校庭に横倒しになっている軽トラに照準を合わせ引き金を引く。

すると、銃弾を受けた軽トラはガソリンに引火して爆発を起こした。

群がってきた連中は軽トラから出た炎の明かりでワラワラと校舎から離れた。

「よしっ、今の内だ!!皆、窓から外へ出ろ!!」

「ここから手渡しで火にくべる物を運ぶんだ!!燃える物なら何でもいい!!なんとしてもこの夜を持ちこたえるんだ!!」

 

燃える軽トラを背に時折、燃える物をくべながら夜が明けるのを待つ良介達。

すると、美耶子が丘の上に明りが灯っているのを見つけた。

「み、宮本さん、丘の上に明りが・・・・まだ電気のついている所があります」

「なにっ!?」

「あそこは確か南田先生の研究所・・・・」

志村が明りのついている施設の心当たりを言う。

「段々火が弱くなって奴ら近づいてきたっス」

流石に一晩を焚火で過ごすのは無理があったか、もう燃やす物も無く、一度校舎に取りに戻らねばならないが、すでに校舎の中も連中が占拠している状況で、とても燃やせる物を取りに行ける状況ではなかった。

「こうなれば校舎を燃やそうぜ、そうすればデカイ明りを確保出来るじゃねぇか」

この学校は木造校舎で出来ているので、この火を学校に放とうと江戸は言うが、

「バカを言うな、そんな事をすればすさまじい炎と熱でわしらも近寄れなくなるぞ」

と、志村は江戸の提案を却下した。

そして事態は最悪な方向へと進む・・・・。

突如、雨が降り出したのだ。しかも通り雨のようで物凄く勢いが強い。

短時間で止むだろうが、その短時間が良介達にとっては命取りなりかねない時間であった。

「み、宮本さん・・・・」

「ちょ、ちょっと・・・・ウソ・・・・でしょう?・・・・ウソだっていってよぉ〜!!」

美保子は空を見上げ降りしきる雨に対し絶叫する。

「あ、雨だ・・・・」

「くそっ、よりにもよってこんな時に、火が消えたらコイツら一斉に襲いかかってくるぞ」

「こ〜〜〜い・・・・・」

「こっちへ・・・・・こ〜〜〜い」

「段々近づいてくるっスよコイツら・・・・」

「み、宮本さん」

美耶子が良介の体にしがみつく。

「・・・・コイツらはおそらく俺達を引き込もうとしているんだ・・・・・・」

「引き込む?」

「ああ、永遠に続く不死の体の苦しみに一人でも多く仲間を増やし道連れにしたがっているんだろう・・・・」

「冗談じゃないわよ!!あんな化け物の仲間入りなんてまっぴらゴメンよ!!」

美保子は怒鳴りながら言うが、この状況では連中の仲間入りはもはや時間の問題であった。

雨は未だに止む兆候を見せず、燃やす物も無く、断続的に降る強い雨に火も消えそうであった。

とうとう至近距離まで迫って来た異型人達。

その中の一人が美耶子に噛みつこうと跳びあがってきたが、そこを良介が刀でバッサリと首を落とす。

しかし、それは無駄な足掻きで切り落とした頭はまた暫くしたら再生する。

それでも諦めることなく良介は近くにいる異型人は刀で手や足そして頭を切り落とし、届かない異型人には拳銃で応戦し、志村もライフルを撃ちまくる。

そしてとうとう連中の手が届く範囲まで追い詰められた。

「み、宮本さん」

美耶子は良介の胸板に顔をうずめる。

「くそっ・・・・ここまで・・・・なのか・・・・・ギンガ・・・・桜花・・・・アリサ・・・・ミヤ・・・・」

ミヤを連れてきていないので、魔法を上手く使うこともできない。それに紫電一閃などの攻撃力が高い魔法の場合、魔力を貯めるため、意識を集中しなければならず、その間にやられてしまうので、良介は魔法も法術も使いたくても使えない状況だった。

「ぎゃぁぁぁ助けてぇ!!」

一体の異型人が江戸の足に噛みつく。

「たとえ体はくれてやっても魂だけはお前達に奪わせはしない・・・・」

志村は銃口を自らの顎の下に直接つける。

誰もが最後の時が来たのだと諦めたその時、

山の向こう、雲の切れ間から朝日の光が差し込んだ。

「しめた!!日の出だ!!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁー!!」

「ひかり・・・・ひかり・・・・」

「うぎゃぁぁぁぁぁー!!」

雨が止み、雲の切れ間から太陽の光が辺りを照らし始めると、異型人は奇声をあげながら大急ぎでその場から散っていき、太陽の光がささない家の中や下水道、トンネルの中へと大慌てで逃げていった。

朝日が差し込む小学校の校庭は何事もなかったかのような静寂に包まれた。

誰もが当初、唖然としていたが、その内誰かが呟いた。

「た・・・・助かった・・・・のか・・・・?」

校庭に残った皆は呆然とした表情で異形人が逃げ散って行った校門の方角を見ていた。

 

恐怖の一夜が去った後、良介達はまず学校の裏に設置してある自家発電機が修理可能か見に行ったが、発電機は役場同様、修復が不可能なまでに壊されていた。

それから皆は学校の倉庫から武器になりそうな物を探しまわった。

徹夜したのにもかかわらず、眠気はちっとも襲ってこなかった。

まぁ、あれだけの恐怖体験をしたのだから寝る気など起きる筈も無い。

島から脱出しようにも定期便が来るにはあと二日あり、この島にあった漁船は島民が行方不明になった後、盗難防止の為に、既に撤去されており港には、船は一隻も無く、船での脱出は不可能・・・・。

そして、また今日の日没にはあの恐怖が再び襲いかかってくるのだと思うと一分一秒も惜しい。

「えっと・・・・使えそうなのが・・・・鉱山用のダイナマイト数本にスコップ、バット、そしてツルハシに鎌、バール、火掻き棒か・・・・」

「とてもあの人数相手に太刀打ち出来ないっスよ・・・・」

良介、東、江戸が集めた武器を見て連中にどう立ち向かうか考えるが、あの人数・・・・そしてあの再生力を考えると、目の前の武器では心許無い。

精々ダイナマイトで連中の体を再生不能にするぐらい木端微塵にしないかぎり、連中は死なないだろう。

しかし、ダイナマイトの数も限りが有り、とても連中全てを滅することは不可能だ。

そんな中、美耶子は異型な姿に変わり人間から化け物に成り下がってしまった人達のことを考えていた。

「それよりもあのかわいそうな人達をなんとか救いだせないでしょうか・・・・生きているだけで苦しそうでした・・・・」

「か、かわいそう・・・・かわいそうですって!?あの化け物共が!?あんた何言っているのよ!!かわいそうなのはこっちのほうよ!!見なさいよ!!この髪も爪もボロボロなになった姿を!!こんなチンケなテレビ番組のためになんでトップモデルだった私がこんな目にあわなきゃならないのよ!?ふざけんじゃないわよ!!」

と、美耶子に当たり散らす美保子。

正直言って大人げない。

「それでどうするのよ!!船がくるまであと二日もあるのよ!?その間にやられてしまうわ!!」

「たしかに・・・それと美耶子・・・・多分あの人達を救う事は出来ないだろう・・・・人ならざる者となってしまった人を元に戻すことは・・・・恐らく出来ない・・・・・彼らを救う手はただ一つ・・・・再生が追い付かない程、体を木っ端微塵にするしかない。それよりも夜のために光源を確保しなければならないな・・・・」

「・・・・」

元に戻せないと言う良介の言葉を聞き、美耶子は悲しそうに俯く。

「光源・・・・そ、そうだアイツだ!!」

良介の言う光源の確保と言う言葉に東が反応した。

そして良介自身も光源の確保先はもうあそこしかないと悟った。

「南田・・・・先生・・・・・か・・・・・・」

良介は丘の上に建つ南田医師の住居兼研究所を見ながら呟いた。

 

とりあえず、皆は夜間の光源確保のため、丘の上にある南田医師の研究所へと向かう事となった。

そんな中、志村は一人、校庭に生えている一本の木の幹に左手を置き、右手に何か小さな紙の様なモノを持ち、目に涙を浮かべていた。

「し、志村さん・・・・あの・・・・大丈夫ですか?」

美耶子が恐る恐る志村に声をかける。

「ああ、大丈夫だ・・・・それよりも早く行こう・・・・わしが近道を案内しよう・・・・この島の地理には詳しいからな・・・・」

志村は袖で目元を拭うと南田医師の研究所まで案内すると言った。

こうして皆は志村の案内の下、南田医師の研究所へと向かった。

しかし、そこでは予想もしない事態が待ち受けていた・・・・。

 

 

おまけ

 

NG集

 

take1 バナナ

 

地上本部と六課の隊舎を襲撃し、ヴィヴィオを手に入れたスカリエッティは、古代の戦艦『ゆりかご』を浮上させ、管理局に決戦を挑んで来た。

その最中、地上本部の襲撃にて、敵に連れ攫われてしまったギンガは、恐らくスカリエッティの手によって洗脳されてしまったのか、敵の戦闘機人達と行動を共にしていた。

その様子を妹のスバルは、驚愕と悲しみに満ちた表情でモニター越しに見ている。

ギンガを始めとする敵の戦闘機人は地上本部を目指して、進撃して来る。

その最中、ギンガの針路上にバナナの皮が落ちていた。

ギンガはそのバナナの皮に気づかず、ソレを避ける事無く・・・・

 

ムニュっ!!

 

踏んだ・・・・。

 

「えっ?」

すると、バナナの皮で滑りバランスを崩したギンガは・・・・

 

「きゃぁぁぁぁぁぁー!!」

 

キキキキィッという甲高い音と共に・・・・

 

ドカーン!!

 

グシャ!!

 

盛大にスッ転んだ。

「カット!!カット!!」

ギンガがバナナの皮で盛大にスッ転ぶと、突然、メガホンを持った人物が、大声で叫び、

ギンガの近くに居たノーヴェ、ウェンディ、ディードの三人はその場に立ち止まり、ギンガの傍には、スタッフと書かれたトレーナーを来た人達が数人駆け寄った。

「ギンガちゃん大丈夫?」

「ケガは無い?」

「あぁ〜あぁ、コンタクトが片方取れちゃっているよ・・・・」

スタッフの言う通り、ギンガの目は片方が本来のエメラルドグリーンでもう片方が金色のカラーコンタクトが付いている状態だ。

「痛ったぁぁ〜」

盛大にスッ転んだギンガは涙目になり、ぶつけた頭をさすりながら、

「誰よ!?もぉ〜!!こんな所にバナナの皮を捨てたのは!?」

と、バナナの皮を持ちながら大声で犯人が誰なのかを尋ねる。

どうやら、ケガは無いようだ。

スタッフもその場に居たノーヴェ、ウェンディ、ディードも苦笑している。

その様子をモニター越しで、『アースラ』の管制室セットで見ていた六課の面々は、

「あはははは・・・・バナナの皮でスッ転ぶなんて余りにも古典的やろう?・・・・あははははは・・・・」

はやては腹を抱えながら、大爆笑し、

「ギン姉・・・・ぷっ、くくくくくく・・・・」

スバルは自分の姉を見ながら、笑いを必死に我慢している様子だった。

「ちょっ・・・・皆・・・・笑っちゃ、悪いって・・・・フフフフフフフフ・・・・」

フェイトが大爆笑をする皆にそう言うが、

「そう言うフェイトちゃんも笑っているよ・・・・くくくくくく・・・・」

なのはの指摘を受けたフェイトもやはり笑いを必死に堪えていた様だが、やはり我慢出来なかった様だ。

 

コース上を綺麗にして、演出スタッフとギンガ達が台本を見ながら打ち合わせを行い、

「それじゃあ、今のシーン18のB、もう一回ね・・・・」

メガホンを持った人物が、ギンガ達に指示を出し始めた。

その後、リリカルなのはStrikerSの撮影は再開された。

 

 

take2 秘密兵器

 

 

ジェイル・スカリエッティの手に落ち、ナンバーズの13番目となったギンガ・ナカジマ。

いつも追い回され、何度も馬鹿な争いをした女性の変わり果てた姿に、孤独の剣士は彼女を救う決意を固める。

機動六課からの誘いを蹴り続けた孤独の剣士と、姉を救う為に降り立つ少女。

しかし二人の言葉は届かず、躊躇いのない攻撃に膝をつく。

「ギン姉ぇ・・・・」

「ギンガ・・・・っ」

涙を流す少女、唇を噛み締める剣士。

その時、風が吹き、女性の髪と…リボンを揺らす。

それを見て、遠い記憶が蘇る剣士。

「・・・・」

「宮本さん?」

突然黙り込んだ良介に怪訝そうに首を傾げるスバル。

「・・・・これだけは使いたくなかったんだが、仕方が無い・・・・・」

「宮本さん、何か手が有るんですか?」

「ああ、これを使えばギンガは元に戻る筈だ・・・・しかし・・・・」

良介はギンガが元に戻ると口にすると、スバルは、

「だったらお願いします!!ギン姉を助けて下さい!!」

スバルにそう言われると、良介は、一冊のノートを取り出した。

(ノート!?あんなモノでギン姉が元に戻るの!?あっ、もしかしたら、秘密の呪文が書かれているのかも!!それでギン姉の洗脳がとけるのかもしれない!!)

と、スバルは、良介の奥の手に期待する。

一方、ギンガは良介の動きに警戒しているのか、距離をとって構えている。

そして、良介がノートを広げ、中に書いてある内容を読み上げ始めた。

すると、ノートに書いてあったのは秘密の呪文などではなく、ポエムの様であった。

しかも、聞いているだけでもめちゃくちゃ恥ずかしい内容だった。

(み、宮本さんなにやっているんですか!?こんな時に!!)

姉を助けてくると言うから頼んだのに、その内容が恥かしいポエムの朗読。

ふざけているのか?

と、問いたくなった。

(いくら恥ずかしくても、そんなの何の解決にもならないでしょう!!今のギン姉はスカリエッティに感情を消されちゃっているんですよ!!ギン姉が恥ずかしさで悶える筈が・・・・)

そう思っていたスバルだったのだが、良介が恥ずかしいポエムを朗読していくと、ギンガに変化が現れた。

最初はこちらの動きに警戒していたギンガが、段々と口を引き攣らせ始めた。

そして、遂にポエムは一番の見せ場になったのか、聞いているだけで蕁麻疹が出そうなくらい恥ずかしい場面に達すると、

「それ以上読まないで!!」

突如、ギンガが感情を爆発させ、顔を赤くして、良介の手からノートをひったくると、ノートを抱えながら蹲った。

「ぎ、ギン姉?」

スバルが恐る恐るギンガに声をかけた。

すると、

「スバル!!」

悪戯をして怒られた時と同じような口調でギンガがスバルの名を口にして、彼女に詰め寄る。

「は、はい!!」

「今、聞いた内容は全部忘れなさい!!良いわね!?ぜ・ん・ぶ・よ!!」

「う、うん・・・・」

危機迫る様な声と表情でスバルに詰め寄るギンガに、スバルは、

(スカリエッティに洗脳されていた時より怖い)

と、心の中で思うのと同時に、ある疑問が浮かび上がり、ギンガに尋ねた。

「ね、ねぇ・・・・そのノートってもしかしてギン姉の?」

「・・・・////

スバルの問いにギンガはスバルから、視線を逸らす。

ギンガのその行動でそのノートは自分のモノですと言っているも同然だった。

 

「どうやら、元に戻ったようだな?」

ギンガとスバルの様子を見ていた良介が声をかけた。

「宮本さん・・・・そう言えば、ギン姉元に戻りましたね」

スバルも先程のギンガの様子から洗脳が解けた事が窺えた。

すると、ギンガは良介をキッと睨みつけ、今度は良介に迫った。

「良介さん!!何で貴方が、私のノートを持っているんですか!?って、言うか何で!?私がポエムを書いているのを知っているんですか!?」

「いやあ、昔クイントから聞いていたんだよ」

「お母さんに?」

「ああ、ギンガが内緒で恥ずかしいポエムを書いているって教えてくれた事があったんだよ・・・・」

「・・・・」

自分が書いていた恥ずかしいポエムが何年も前から母にバレていた事にショックを受けているギンガ。

「クイントから口止めされていたけど、ギンガとスバルを守ってくれとも言われていてな、やむを得ず今回、此処に来る前にギンガの部屋から一冊拝借して来た訳だ」

何はともあれ、ギンガは救われたのだが、恥かしいポエムを書いていた事とその内容が妹にバレ、精神的にダメージを受けたギンガに笑いながら今回の救出劇のタネを言う良介の姿にギンガは、腹が立ったのか、

「良介さん・・・・」

底冷えするかのような冷たい声で良介に声をかける。

「な、なんだ・・・・ギンガ・・・・」

良介もギンガのただならぬ様子に、後退る。

「助けてもらった事には感謝しますが、やっぱり納得がいかないので・・・・」

「いかないので・・・・?」

「一発殴らせてもらいます!!」

ナックルを凄い勢いで回転させ、良介に迫るギンガ。

「なぜだぁー!!」

「待ちなさいっ!!」

悲鳴を上げながら逃げる良介と追うギンガ。

スバルの目の前では、普段と変わらない光景があった。

(でも・・・・決戦時の大変な時にこんな事をしていていいのかな?)

普段と変わらない姉が戻って来てくれた事は嬉しいが、スカリエッティとの決戦時に悠長に追いかけっこをしていて良いものかと首を傾げるスバルであった。

 

 

あとがき

光源確保の為、南田医師の研究所へ向かう良介達。

日没と言う迫りくるタイムリミット。

良介達は光源を確保することが出来るのだろうか?

異形人の姿形はSIRENシリーズに登場した頭脳屍人、蜘蛛屍人をイメージして下さい。

おまけのtake2はアヌビスさん作『ユメノオワリ』のIF展開です。

では、次回にまたお会いしましょう。




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