六十九話 サイレンノナルヒ 始まった悪夢

 

 

良介と美耶子が宿泊所であるこの島の小学校に着くと良介は美耶子に宿泊室にある風呂を薦め、自らは図書室へと向かいこの島に伝わる伝承が載っている本を探しに行った。

ちなみに、良介達と共に、この島に来たレポーターの美保子とカメラマンの江戸は既に今日の分の取材を終え、小学校へ来ており、美保子はもう、風呂に入った後で、江戸もテレビカメラの整備をしていた。

そんな中、

「江戸!!お腹がすいたわ!!何か食べ物ないの!?」

テレビカメラの整備をしていた江戸に美保子が食糧の在処について尋ねる。

「さ、さぁ・・・・調理場に行けば、何かあると思いますが・・・・」

「だったら、ボサッとしてないでさっさと見つけてきなさいよ!!」

「は、はい・・・・」

と、江戸を相変わらずパシリにしている美保子であった。

一方、美保子にパシリにされた江戸は部屋を出て、廊下を慌てて走って行ったが、途中で立ち止まり、美保子がいる部屋を後ろ目で見ると、

「ケッ、落ち目の元グラビアアイドルがいっぱしに女王様気取りかよ・・・・」

と、人知れず美保子の陰口をたたいた。

 

 

その頃、夜実島役場に居る開発業者の志村と東は医務室にて木暮の容体を確認しに来ていた。

ライフラインである海底ケーブルが切断されたため、救援を呼びたくてもすぐには呼べない状況になりつつあったため、頭部を負傷した木暮の様子が気になったのだ。

彼は少なくとも後三日はこの島に滞在しなければならないかもしれないのだ。

同僚として心配になるのは当然だった。

「木暮の奴もだいぶ落ち着いたみたいっスね・・・・」

運び込まれた時よりも木暮の容体は、落ち着いており、医務室のベッドで大人しく横になっている。

「そうだな、南田先生のおかげだな。そういえば先生は何処へ?」

「自分の研究所へ戻って行きました。『容体に急変が無い限り心配ない』って言っていましたけど・・・・」

「そうか」

木暮を診察、処置した後、南田は早々に役場を去っていた。

「そういえばあの先生一体何の研究をしているんですか?あの先生の研究所って行った事無いんっスよね」

「・・・・なんでもこの島の島民たちは未知のウィルスか病原菌によって集団ヒステリーになって海へ身投げをしたのではないかという仮説があってな・・・・先生の研究目的はそのウィルス、病原菌の発見だとか」

「み、未知の・・・・病原菌・・・・」

未知の病原菌によるバイオハザードでこの島の島民が消えたのでなないかという仮説を聞き、うろたえ出す東。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ・・・・き、聞いてないっスよ・・・・そ、そんな・・・・話・・・・あ、あいつ・・・・木暮の奴!!その病原菌に感染しておかしくなったんじゃないんですか!?今すぐに隔離した方がいいっスよ!!隔離!!」

慌てて東が木暮を指差すが、医務室の寝台の上で寝ていた筈の木暮の姿は既に無かった。

二人が木暮から目をはなしたほんの僅かな間に彼は医務室から消えていた。

「なっ!!」

「っ!?」

昼間は起き上がることのできなかった筈の木暮が何時の間にか消えていた事に東も志村も驚きが隠せなかった。

「こ、木暮の奴がいねぇ!!何時の間に!?」

「い、一体どこへいったんだ!?」

二人が木暮の寝ていた寝台に近づいてみると、ベッドのシーツには赤いに染みの様なものがあった。

「な、なんっスそれ?血が・・・・血の跡がべっとりじゃないっスか」

「・・・・」

志村は恐る恐るベッドに残る赤い染みを指でなぞり鼻に近づけ、臭いをかいでみる。

「いや、これは血ではない・・・・何か分からんがこの赤い水は・・・・別の・・何かだ・・・・」

赤い液体からは血独特の鉄臭い臭いは一切しなかった。

その為、この赤い液体が血では無いと志村は言う。

「う、ウソだろぉ・・・・」

未知の病原菌による集団ヒステリー

突如消えた木暮(同僚)

そしてその現場に残っていた謎の赤い液体

それらの要素で完全に怯えている東。

そんな中、

 

ガシャーン!!

 

遠くで窓ガラスを割るような大きな音が聞こえた。

「な、なんっスか?今の音?」

「ガラスが割れる音の様だ・・・・まさか木暮の奴、本当にヒステリーを起して・・・・」

「か、勘弁してくださいよぉ〜志村さん・・・・」

相変わらず、怯える東。

志村は木暮の身柄を確保しようと、消えた木暮を追いかけようとした。

その時、突如、役場の電気がフッと消えた。

「へ? な、なんで・・・・?電気が・・・・?」

「まさか、裏庭にある発電機が・・・・」

突然の事態にますます怯える東と辺りを警戒する志村だった。

 

役場で突然の停電が起きた頃、宿泊所であるこの島の小学校の職員室で、良介は図書室から持ってきた本を読んでいる。

やはり本土の図書館よりも島の図書館の方が、伝承等が掲載されている本の揃えが良かった。

 

 

夜実島古事ノ伝−奇しき印顕す縁−

 

奇しき印顕す縁

古の者、闇に閉ざされし地の底より悪しき念を送りて人心惑わす。又、人の目を通じ現を覗き見するなり。
其の念に感応する者あれば奇しき印顕れ、其の者、幻に苛まれん。此は古の者の仕業なり。

 

 

夜実島古事ノ伝−光に追われし古の者−

 

天地未だ分かれずして混沌とする様は鶏子の如し。

闇が淵の面に在り、蠢く者等、水の面を覆いけり。

天之御中主神、光在れと詔らせ給えば光生まれたり。

混沌に蠢く者等、光の洪水を畏れ地の裏へ逃れけり。

逃れた後、其の身闇に溶け合い一つに成れり。

逃げ遅れし者等、深き海底に潜り凝り固まれり。

闇に閉ざされし者等、現へ還らんとする願い叶わず。

現へと使い女を飛ばし其の時を待ちわびぬ。

 

 

夜実島郷土誌

郷土民俗・文化・歴史 夜見島郷土史研究会 昭和三十八年早春発表

 

夜実島の歴史

夜実島という名の由来には、忌み島、黄泉島、闇島であるという説もある。
夜実島はその説が示すが如く、外部との交わりを持つことを良しとしない閉鎖的な島であった。

(略)・・・・島独自の伝承や因習により、余所者を寄せ付けない気風だった夜実島だが、石炭の掘が盛んになった事により本土からの移住者も増え、島の様相は大きく変化を遂げた。

伝統行事

海送り

夜実島に古来から伝わる民俗行事。旧暦の大晦日に、黒装束に身を包み、夜実島湾に身を沈め、一年の罪やけがれを祓い清める。この後に行われる儀式は海還りと呼ばれている。

海還り

夜実島に古来から伝わる民俗行事。旧暦の大晦日から年明けまでの間、海送りで夜実島湾に身を沈めていた人々が年明けと同時に岸辺に上がる。穢れを洗い清めた人々は、常世の神の恩恵を受けたとされ村人達のもてなしを受ける。

 

 

夜実島民話集

 

夜実島民話集

夜実島民話研究会編纂
昭和
42年出版

 

海辺より穢れ這い寄り仇為す事

島の老女の語りしには蒼ノ久の浜に貧しき漁師の夫婦あり。ある日、子を孕みし妻、海辺にて夫の帰りを待ち侘びぬ。

妊婦、海に入らば必ずや災いを宿すという伝えの禁を犯し、夫恋しさに海に足を踏み入れたり。

其の夜、夫は此事を知りて大いに怒り妻涙を流し許しを乞う。

生まれし子は切り刻みて一升樽に入れ、土中に埋めるが決まりと太田の某が伝えたるが、妻其れを守らず。

赤子育ち、或る年、穢れの依り代となりたる証し現したり。

太田の某、神木を用い其れを祓いたれば、忽ち、穢れ消え失せ天に昇り去れり。

 

 

太田家伝書

 

夜実島の封印を守りし一族を太田と称す。
太田の家の者は、次にあげる命を守り続けるが大事と肝に銘じよ。

一、古の地を犯すべからず

一、光を恐るる者は古のものの使いなり、誑かされるべからず

一、海に潜みし穢れに用心し、妊み女を決して海にいれるべからず

一、赤子生まれしときには、滅爻樹に名を書き連ねよ

一、人死にの際には、葬儀において滅爻樹を用いること忘れるべからず

 

 

超学習別冊「お話玉手箱」

 

 

【盗まれた少女】

戦時中、日本の海沿いの町で起きた話である。

ある少女が海に海草を採りに行き行方不明になった。

家族は必死に少女を探したが結局見つからなかった。

少女は波にさらわれて溺れ死んでしまったのだろうと家族はお葬式をあげることにした。

お葬式当日、玄関で大きな物音がした。

家族が様子を見に行くと、そこには行方不明の少女がぼんやりとした表情を浮かべ立っていた。

家族はあまりのことに驚きながらも、無事を喜び少女を家にあげようとしたところ、家族で一番年長の祖母が「姿形は一緒だがあの子と違う」と呟いた。

それを聞くと、少女の体はいきなり溶け出し玄関には少女の着ていた服と水溜りだけが残った。

祖母は「この海には人の姿形を盗む怪物が棲んでいる。海で死んだ人が帰って来ても決して家に上げてはいけない」と語った。

今でもその町では、海で死んだ人の遺体を家に上げず火葬してしまう風習が残っているという。

(帰ってきた少女は一体何者だったのだろうか?)

 

 

「・・・・・・・」

これらの本を良介は真剣な表情で読んでいた。

それと同時に志村達が役場から戻ってきたら、山間部で座礁している『ブライトウィン号』について聞いてみようと思っていた。

「宮本さん、宮本さんもお風呂に入って来てはどうです?私と美浜さんはもう入りましたから」

「ん?あ、ああ・・・・」

美耶子に風呂を薦められても良介は本から目を離さなかった。

美耶子は職員室の窓から外の様子を眺めた。

「外はもう真っ暗・・・・でも、ここはちゃんと電気が通っているんですね」

美耶子の言う通り、この学校は明かりが灯っているがそれ以外は全て暗闇がこの島を支配していた。

「うむ、学校の裏庭に自家発電機を設置しているらしい。だから此処(小学校)とあの役場だけは何とか文明圏を保っている」

「それで・・・・郷土資料からあの塔に関する事、なにか分かりましたか?」

「う〜ん・・・・まだ何とも言えないが、やはりあの塔は灯台ではないようだ・・・・だが、何の目的で作られたのかも詳しく書かれていない・・・・」

「書かれていない?」

「いや、正確に言うと、あの塔についての記述が書かれているページが破られているんだ・・・・これが偶然か、それとも誰かが故意に破いたのか・・・・・」

「・・・・」

真剣な表情で本に目を通す良介に反し、美耶子は少し不安そうな表情をした。

(明日は、団地を中心に美耶子の実家を探し、あの塔の調査をするか・・・・)

良介は明日の予定を脳内でシミュレートしながら、もう一度夜実島の郷土資料へ目を通した。

 

 

その頃、突然停電になった役場では志村と東が暗闇の中、何とか備え付けの懐中電灯を見つけ、停電の原因を探りにいった。

役場の裏庭に設置されていた自家発電機はバチバチと火花が散っていた。

その様子から自家発電機が修復不能になっていることは明らかに分かった。

そして壊れた発電機の前には一人の男がバールを持って立っていた。

「あそこにいるのは木暮の奴じゃないっスか・・・・」

東が発電機の前に立っている男が木暮なのではないかと志村に確認するかのように尋ねる。

「うむ、どうやらそのようだな・・・・・おい、木暮!!貴様か!?発電機を壊したのは!?」

「・・・・・」

志村は発電機を壊した木暮に対し、大声で怒鳴るが木暮は何も言わず、ただ火花を上げて壊れている発電機を見ているだけである。

「おい!木暮!!何とか言ったらどうなんだよ!?何とか!!どうして発電機をぶっ壊した!?」

「・・・・」

東も声をあげ、怒鳴るが相変わらず木暮は何も言わず、ただ壊れた発電機を見ているだけ・・・・。

「・・・・おい!!木暮!!返事ぐらいしたらどうなんだよ!!」

怒鳴っても何も言わず、此方を振り向こうともしない木暮に対し、東は業を煮やし、懐中電灯の光を木暮に向ける。

すると、木暮ようやくは振り返るが、

「「っ!?」」

振り返った木暮の顔を見て、志村も東も息を飲んだ。

木暮の目は麻薬中毒者のようでとても常人の目つきしておらず、頬の肉をゆるみきったように口を開けており、しかも目元や口からは血を出していた。

「こ、木暮、お前・・その顔・・・・」

「・・・・」

東が血を流している木暮の顔を見て震え、志村の方も何も言えない状況だった。

やがて木暮が二人の方を見ると、

「ひ・・・・光・・・・光・・・・・う、うわぁああああううううう〜」

木暮は二人が持っている懐中電灯の光に急に怯え出し、そのまま駆け足でその場から逃げ去っていった。

「な、なんだったんっスか?今の・・・・それに木暮の奴・・・・・本当にヒステリーを?」

「と、とにかく今は学校に向かい無線で隣の島と連絡をとった方が良いようだ・・・・幸い無線機は隣の亀石野島にすぐ繋がる様になっている」

「そ、そうっスね・・・・」

二人は木暮の身を案じつつも、その場から急いで離れ、役場の前に止めてある軽トラックに飛び乗り、学校を目指した。

志村と東が役場から学校に向かっている時、突然静寂を保っていた島が急変した。

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

ウウウウウウウウウウウウウウ〜

 

突如、サイレンの様な音が島全体を包み込んだ。

「み、宮本さん、さ、サイレンが・・・・島中にサイレンの音が・・・・!!」

「ああ、なんて大音量だ・・・・それにこのサイレン一体どこから鳴っているんだ!?役場からか?」

事実、志村達はまだ役場から戻っていない。

それに小学校に設置されているスピーカーからはサイレンは鳴っていない。

故にこのサイレンは電力が保たれている役場から鳴っているものと思ったが、其処にも不自然を感じる。

役場に居る志村達が一体何の為、サイレンを鳴らしているのか?

この島は現在、良介や美耶子、テレビ関係者の美保子と江戸が居るが、普段はほぼ無人島に近い状態の島だ。

そんな島で一体何の為にサイレンを鳴らすのだろうか?

本当にこのサイレンは志村達が役場から鳴らしているのか?

 

職員室で良介と美耶子が突然鳴り始めたサイレンに驚いている中、別の部屋で休んでいた美保子と江戸は突然鳴りだしたサイレンに驚いている様子はなかった。

意外と太い神経の持ち主なのかもしれない。

「うっさいわねぇ〜今度は何?消灯時間の合図〜?」

アンテナが無く、テレビは映らず、携帯も圏外のため、暇を持て余していた美保子の視線の先にある機材が映った。

「ん?な〜んだ。こんな所にラジオがあるじゃん。ちょうどたいくつだったのよねェ〜」

美保子はその機材に手を伸ばした・・・・。

一方、職員室では、

「宮本さん、私このサイレンの音、聴いた事あります・・・・・」

美耶子はこの謎のサイレン音に聴き覚えがあると言う。

「どこで?」

「夢の中です・・・・夢の中で怪物達がいる世界でいつもこれと同じサイレンの音が鳴っているんです」

「なんだって!!」

「それに、私が保護された時、傍に『サイレンの鳴る夜は外へ出てはいけない・・・・光を絶やしてはならない・・・・』 そんな内容が書かれたメモがあったらしいんです」

「・・・・何か嫌な予感がする・・・・美耶子、急いでこの学校中の電気をつけるんだ!!あの二人にも協力してもらおう!!」

「は、はい!!」

良介と美耶子は急ぎ職員室から出た。

 

 

突如、大音量のサイレンの音が流れだした夜実島の道を一台の軽トラックが猛スピードで走っていた。

志村と東を乗せた軽トラである。

彼らも突然鳴りだしたこのサイレンに当初は「なんの音だ?」と思ったが、今は一刻も早く学校に向かい無線で救助を呼ぶ事に専念した。

十五年前の島民失踪事件からこの島は無人島同然だったので、志村はかなりのスピードを出し、学校に向かっていた。

どうせ、スピード違反で捕まる事もないし、人が横切る事も無いだろう。

そう思って志村はスピードを出していた。

すると、突然彼らの乗る軽トラの前を人が横切った。

「うわっ!!あっ・・危ない!!」

志村がブレーキペダルを踏むが、車は急には止まれない。

 

キィィィィィー!!

 

ドガッ!!

 

軽トラックは停止することなく、目の前を横切った人を轢いてしまった。

軽トラが止まったのは人がいた地点から五、六メートル先だった。

あの時出していたスピードからとても助からないだろう・・・・。

志村と東の脳裏に最悪なケースが過ぎった。

「た、大変だ・・・・」

東が窓を開け、恐る恐る後ろを確認する。

もしかしたら、今日この島に来た誰かだと思ったからだ。

しかし、東が見たのは今日島に来た人物ではなく、ボロボロの服を着た見慣れない人物で、その人物は、あの猛スピードの軽トラで撥ねられたにも関わらず、四肢の骨をバキ、ボキっと鳴らしながら骨格が変形して四つん這いに起き上がったと思うと物凄い勢いでその場から立ち去っていった。

「な、なんだよ?今の?じょ、冗談だろう・・・・?」

あのスピードで轢かれたにも関わらず、生きていた事さえ不思議なのに人間とは思えない動きであの場から去って行った謎の人物に恐怖を覚える東。

「し、志村さん!!出して!!早く!!」

東は志村に車を発進させるように頼むが、志村は茫然とした表情で前を見ていた。

「ど、どうしたんだよ!?志村さん!!」

「わ、わしは・・・・わしは夢でも見ているのか・・・・? な、なんだ?こいつら・・・・」

「?」

志村の言葉を聞き、東も車の正面を見る。

すると、志村と東の視線の先には無人島だった筈のこの島にボロボロの服を身に纏った、大勢の頭部が様々な形態に変形している人の形をした何かがワラワラと此方に近づいてくる光景が広がっていた。

「志村さん!!頼むよ!!出してくれ!!し、志村さん!!ヤバいって!!マジで!!」

志村が呆けている間に突然現れた人達は軽トラに集まり出している。

その中には鉈や鎌と言った武器?を持っている者もいた。

東が急いで開いている窓を閉めるが、その窓を鉈で叩き割ろうとする奴がいた。

「ヒィ〜!!し、志村さん!!」

窓が割られる音を聞き、志村がハッと正気を取り戻すと、

「つ、つかまっていろぉ!!」

志村はアクセルペダルを踏み込み、前にいる人らしきモノを躊躇なく轢きスピードをあげて学校を目指した。

 

 

その頃、志村達が目指していた学校では、

「な〜〜によぉ。明りをつけたいなら勝手にやりゃいいじゃん。私はラジオの調整でいそがしいのぉ〜」

良介は美耶子を連れ、美保子と江戸に学校中の明りをつけるのを手伝って貰おうと来たのだが、美保子は部屋に有った機械をいじり、江戸は食料を食べている。

美保子のいじっている機械は調子が悪いらしく、スピーカーからはピィーッ ガガガーッー っとノイズが鳴っている。

「ラジオ?」

良介が怪訝な表情で美保子がいじっている機械を見て目を見開いた。

「バカ!!下手にいじるな!!それは・・・・」

「何よ!!私が先に見つけたのよ!!チャンネルは私が選ぶわ!!」

「それはラジオじゃない!!無線機だ!!外部との連絡・・・・救助を呼ぶための最後の頼み綱だ!!」

「えーそれじゃあ早く連絡して、もうこんなしけた島居たくないわ」

「すぐ使えるようにチャンネルを合わせてあった筈だ!!何処だ?チャンネルは何処に合わせてあった!?」

良介はチャンネル調整のダイヤルを廻すが相変わらずスピーカーからはノイズが鳴り響くだけである。

「し、知らないわよぉ〜テキト―に合わせてよぉ〜」

「そう簡単にいくか!!くそっ」

良介が無線機と格闘している時、美耶子がふと窓の外を見ると、校庭にいつの間にか大きな赤いチャンチャンコを来て手には壊れた傘を持った女の子が立っているのが見えた。

「? お、女の子・・・・み、宮本さん!!あ、あそこに!!」

美耶子が声をあげ、窓の外を指さす。

良介は一度、無線機をいじっていた手を止め、無線機の下を離れ、窓の近くまで移動する。

良介が窓の所へ行ったので、無線機の調節は美保子が行った。

すると、

「く・・・・・・の・・・・・の・・・・・」

スピーカーから人の声らしき音が聴こえてきた。

「な〜〜によすぐに見つかったじゃない。ねぇ、聞こえる?どこに繋がっているの?」

美保子が返答すると、

「く・・・・る・・・・・みんな・・・・・」

無線が繋がった先の人は美保子の返答には答えず、意味不明な事を言っている。

「ん?」

さすがに美保子も怪しいと思ったのか、段々と怪訝な表情になる。

「あなた・・・・あなたも・・・・くるの・・・・この島から・・・・・出られない・・・・みんな・・・・生まれ変わって・・・・・・・私と・・・・・一緒・・・・・・くるの・・・・・」

ようやく聞き取れる感度になってくると、スピーカーからは不気味な声が流れてきた。

「くるの・・・・・・みんな・・・・・・みんな・・・・・くるの・・・・・くるの・・・・・」

無線機からはひたすら同じセリフが流れてくる。

そして、

 

ガシャ

 

美保子が恐怖かそれともスピーカーから流れ出てくる声に不快感を抱いたのか無線機を持ちあげ、思いっきり床に叩きつけた。

それにより無線機は完全に壊れ、送受信が出来なくなってしまった。

「何をする!?外部との連絡ができなくなっちまったじゃないか!!」

壊れた無線機を指さしながら良介が怒鳴ると、

「もう、たくさんよ!!こんな嫌がらせ!!あんたもグルなんでしょう!?」

美保子はこれがテレビ番組でよく芸能人や有名人に仕掛けるドッキリ番組なのだと思い込んでいるらしく良介に向かって怒鳴り返す。

「はぁっ!?これが悪戯やドッキリだと思っているのか!?どうかしているぞアンタ!!」

「これ以上付き合ってられないわ!!早く帰して!!すぐに帰して!!」

美保子はパニックを引き起こしかけているようでヒステリックに喚き叫ぶ。

すると、学校の校門に一台の軽トラが物凄い勢いで突っ込んできた。

トラックは門にぶつかり失速し、校庭の真ん中あたりで、横倒しの状態となり、其処でようやく止まった。

「な、何!?今度はなんなの!?」

「あれは・・役場に有ったトラックだ」

「み、宮本さん・・・・な、何かが大勢学校に集まってきています」

トラックの後を追いかけてくるかのように壊れた校門からは大勢の頭部が様々な形態に変形してボロボロの服を着ている人のようなモノ達がワラワラと校庭になだれ込んできた。

「な、なんだ?あいつら・・・・?一体どこから来たんだ?」

良介が震える声で校庭になだれ込んできた人のようなモノ達に疑問を抱いた。

彼らが体験する非現実的な現実と恐怖はまだ始まったばかりであった・・・・。

 

 

おまけ

 

女子局員と怪談 (乙女らしからぬ行動があります)

 

夏真っ盛りなミッドのある日、スバルの実家であるナカジマ家のスバルの部屋には、夏季休暇中のティアナとこの部屋の主であるスバル、そしてノ―ヴェの三人の姿があった。

「この間、仕事で本局に行ってさ、お昼は本局の食堂で食べたんだけど・・・・」

入道雲が見える窓を開け放ち、手を添えながらスバルが突然言葉を発した。

「ん?」

「なんだ? 急に?」

「どこの部署かは分からないけど、すっごいイケメンな局員の人がいてね」

「「へぇー・・・・」」

「その人、日替わりランチを食べていたな・・・・アタシは本局の食堂メニューを全部制覇したけど」

(うぇ・・・・)

スバルの言う本局の食堂メニュー制覇と言う言葉を聞いて想像するだけで胸やけを起こしそうになったティアナ。

しかし、ノーヴェの方は元々スバルやギンガとは遺伝子が同じで、ノーヴェ自身もよく食べる方なので、気分を悪くしている様子はない。

「しばらくして、その人は席を立ったんだけど・・・・きれいに平らげられたその食器の上には・・・・」

「上には・・・・?」

続きの言葉が気になり皆が息を呑む、そして次に発したスバルの言葉は・・・・

「何故か箸が三本あったんだよ・・・・」

しん、と辺りが一瞬静寂に包まれた。

「突然怖い話をするなー!!」

ノ―ヴェがスバルに声をあげた。

「怖い?この話?」

スバルは首を傾げる。

そして続けるよう今度はノ―ヴェがしんみりとした雰囲気で、

「アタシが験した怖い話はねぇ・・・・」

と、何時の間に怖い話大会となり、先程、スバルに声を上げた筈のノ―ヴェが語り出した。

「いや怖い話大会じゃなくてさ」

スバルがノ―ヴェにツッコム。

彼女としては何故食器に箸が三本あったのか、皆の意見を聞きたかったのかもしれない。

「こないだ風呂場で、洗顔フォームを使って顔を洗っていたんだよ・・・・その時は結構勢いよく両手で洗っていてな・・・・」

スバルとティアナの脳内でノ―ヴェが洗顔している様子が思い描かれる。

「そしたら、ザックンって音が脳に響き渡ってね・・・・」

ノ―ヴェの右手の薬指が勢いよく鼻の穴の中へと挿入された。・・・・イメージがスバルとティアナの脳内に浮かぶ。

「うわぁ・・・・やっちまった・・・・って思ったら鼻血がポタポタと落ちた、ところが・・・・だ。二、三秒血が流れたところでピタッと止まっちまったんだ、鼻の中にもう血はなく痛みもなく結局・・・・もう何もおこる事はなかった・・・・」

ノ―ヴェはその時の事を思い出したのか身震いしている。

「ってちょっと!!ノーヴェ!!それは、怖い話じゃなくて痛い話でしょう!!」

ノ―ヴェの話を聞き、珍しくスバルがまたもやツッコム。

「私が体験した怖い話はね・・・・」

すると、その場のノリなのか、ティアナが語り出した。

「いや、もういいって!」

スバルはどんどん話の主旨が違う方向へと向いていき、この話題を切り上げようとするが、

「えぇー折角だから聞いてみようぜ」

と、ノーヴェは折角のだからと言う理由でティアナの話を聞く気満々の様子だ。

仕方なく、スバルもティアナが体験したと言う怖い話?を聞く事にした。

「この間、フェイトさんやシャーリーさんと一緒に飲みに行ってさ・・・・」

「「うんうん」」

「シャーリーさんが、途中で悪酔いしたのか、青い顔しちゃって、私が洗面所まで連れてって介抱したんだけど・・・・」

「だけど・・・・?」

続きの言葉が気になり、スバルが最後の部分だけを聞き直す。

「シャーリーさんの吐瀉物の中に何か動く物があったのよ・・・・」

「「・・・・・・」」

静寂が辺りを包み込む、そしてティアナが話のオチを言う為、言葉を口にする。

「それがさ、なんとその動くモノの正体は生きたムカデだったのよ」

「「っ!?」」

一瞬にしてその場の空気が固まった。

ティアナの言葉を聞き、スバルとノーヴェの中で何かが崩れる音がした。

「あれ人間恐れないから寝ている時とかに口の中から入っちゃうんでしょうね・・・・はい、じゃあまたスバルの番ね」

ティアナがスバルの番だと振るが、当のスバル本人とノ―ヴェはスッと立ち上がる。

二人とも心なしか顔色が青い。

「ティア、ちょっと待って」

「こ、この話はここまでにしとこうか・・・・」

「えー」

「ゴメン、アタシちょっとトイレに行って来る・・・・」

「あ、アタシも・・・・」

フラフラした足取りで部屋から出ていくスバルとノーヴェ。

そして、部屋から出た二人は、

「マジで・・・・?」

「マジで・・・・?」

そして二人が真っ先に向かったのはトイレだった、そしてガチャリとトイレの扉を開けると、其処には・・・・。

「おええええええええええええええぇぇ!」

「うわっ!!ウェンディぃぃー!!

「話聞いていたな・・・・」

便器に向かって嘔吐するウェンディの姿があった。

続いてスバルとノーヴェも自分の指を喉の奥に突っ込んで、

「よし、アタシたちも行くぞぉぉぉぉぉ・・うおぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇ!」

「よっしゃぁぁぁぁー!!うおぇぇぇぇぇぇええええぇぇぇ!」

トイレの便器に向かって嘔吐しだした。

それを影から見つめる一つの影があった。

(今更作り話とは言いづらいわね・・・・)

ジリ汗をかきながら、トイレの方を見ているティアナ。

まさか、自分の考えた作り話を真に受け、それを確かめようとするとは、思ってもみなかったのだ。

ティアナが引き攣った顔を浮かべる中、トイレでは、

「いた?」

「いやいない!」

「これか!?」

「それ、アタシのひじきっス」

と、姉妹三人が嘔吐を繰り返し、ひたすら居もしないムカデを探していた。

 

 

あとがき

サイレンが鳴り島は変貌を遂げる。

サイレンの音にまるで誘われるかのように現れた人々・・・・。

何気ない日常が一気に地獄の様な非日常へと変貌していく・・・・。

良介はこの地獄の中でこの謎を解くことが出来るのだろうか?

では、次回にまたお会いしましょう。

 




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