六十八話 サイレンノナルヒ 探索
夜実島の生命線(ライフライン)である海底ケーブルが何時の間にか切断しており、人知れず夜実島は孤立地帯となっている事を知る由もなく、良介と美耶子は島の住宅地を歩いていた。
「本当に人一人いないんですね・・・・」
美耶子が静寂に包まれた夜実島の住宅地を見渡しながら呟く。
「ああ・・・・たった一晩で島民全員が蒸発だなんて・・・・映画や漫画・アニメのような事だが、事実だ・・・・それにしても・・・・」
良介は辺りの住宅地を見ながら呟く。
「それにしても?」
「いや、此処(夜実島)に来る前にこの島の事を色々調べてきたんだが、この島の文化と言うのがどうもおかしい・・・・」
「おかしい・・・・とは?」
「一言で言い表せないが、何か・・・・異質な存在と関わったような形跡がある」
「異質な存在・・・・?ですか・・・・?」
「ああ、この島の伝承にはその昔、人魚と交流を持った青年の民話があったくらいだからな・・・・それに類似した事があったのかもしれないと俺はそう睨んでいる・・・・いや、本当に人魚と関わりをもったのかもしれないし、もしかしたら宇宙人とか、かもしれないぞ・・・・」
「人魚?人魚ってあの上半身は人間で下半身は魚のあの人魚ですか?それに宇宙人って・・・・どんな話だったんですか?」
「・・・・話の内容は血なまぐさいバッドエンドだったよ・・・・」
「・・・・」
内容も血みどろな内容だったため、良介は美耶子に話さなかったし、美耶子本人も血みどろのバッドエンドということで、深く内容を知ろうとは思わなかった。
「でも、人魚や宇宙人なんて本当に存在するんですか?」
「分からないぞ。地球にはまだまだ未知の生物が潜んでいる可能性だってあるんだ。人の目の届かない所にそう言った生物が住んでいても可笑しくは無い。それにアメリカでは、密かに宇宙人と交流を持っているなんて噂もあるからな・・・・」
「はぁ〜」
人魚や宇宙人の存在に美耶子は半信半疑の様だが、
異世界に住居を持つ良介は、
(それに、ミッドの人間も地球人から見たら、異星人だよな・・・・考えてみれば・・・・それに他の管理世界にはドラゴン等の幻獣生物だってちゃんと存在しているんだ。人魚がこの地球に存在していた、もしくは存在していると言われても不思議じゃないな)
と、人魚が存在したかもしれない、いや、本当に今も人知れず存在しているかもしれないと思いながら、良介は美耶子と共に夜実島の住宅地を歩いた。
二人は家の中には入ず、住宅地を見ながら歩き回ったが、手がかりらしきモノは一切見付からなかった。
また、美耶子の実家らしき家もどういう訳か発見する事が出来なかった。
(彼女の家があれば、其処には写真等詳しい情報が得られるかもしれないと言うのに・・・・妙だな・・・・島はあの島民蒸発以降、手は加えられていない筈なのに・・・・)
美耶子の実家が見つからなかった事に違和感を覚える良介。
しかし・・・・
(いや、もしかしたら、美耶子の実家は一軒家では無く、アパートか団地だったのかもしれないな・・・・確かこの島には鉱山労働者用に団地が建設されていた筈だ。もしかしたら、美耶子もその団地に住んでいたのかもしれない)
と、まだ美耶子の実家は残っている可能性も示唆した。
そんな中、美耶子の視線の先には先程、船から見たあの謎の塔が小さく映った。
「・・・・宮本さん・・私、どうしてもあの塔に行ってみたいんですけど・・・・」
「ああ、実は俺もあの塔は気になっていた・・・・だが、あの塔は何か不気味だ・・・・今日は一先ずこの島の地理を調べる事からやろう。 夜、この島にある学校の図書室ならば本土の図書館よりこの島の詳しい事が書かれた本が有る筈だ・・・・それを見ればあの塔が何のために作られたのか分かる筈だ・・・・。まずは情報を収集したい」
「は、はい・・・・」
島での滞在期間はあと二日ある。今日中に情報を集めれば明日にはあの塔を本格的に調べられる。渋々ながらも美耶子は良介の提案を了承した。
住宅地を抜け、海岸沿いを歩いて行くと、最初にこの島に来た港とは違うもう一つの港に出た。
港には当然船は停まっていなかったが、地面には数多くの線路が敷き詰められ、錆びつき朽ち果てたトロッコがあちこちに放置されていた。
その様子からこの港は鉱山から発掘した石炭や金を本土へと運ぶ鉱山会社所有の工業港だった事が窺える。
良介と美耶子は港湾事務所らしき建物の中へと入った。
鉱山の閉山により、多くの鉱山労働者達がこの島を出て行ったが、事務所の中の物は、重要書類は持っていったようだったが、その他の家具や食器類はそのまま残されており、埃を被り、朽ち果てた状態で放置されていた。
良介は作業机の上を調べると、引き出しの中から一冊の日誌帳が出てきた。
作業員が持っていくのを忘れたのか、それとも放置してもかまわなかったものなのかは定かでないが、兎に角、表面の埃を払い、日記帳の中を開いてみると、そこには夜実島炭鉱株式会社の作業員が記したと思われる日誌が書き記されていた。
五月二十七日
開発反対派が設置した看板は全て破棄。
代表の太田 常雄氏に対し厳重注意。
五月二十九日
職員の間で、二本足で歩く山猫の噂が広がっている。
妨害運動による心理的圧迫が生み出した幻想か?
五月三十日
本社から視察団一行が到着。
今年に入ってから採掘量が激減している件についての視察との事。
六月四日
本社協議の結果、採掘量の低下が著しく近日中に閉鉱との事。
夜実島鉱石港施設も閉鎖の準備に入る。
本日が最後の輸送船出港日。
もうすぐで、こんな薄気味悪い島とはおさらばだ。
正直言って清々する。
これで家族と一緒に本土に帰れる万歳!!
いくら団地を建てようが遊戯施設を建てようが無駄だ!!
こんな薄気味悪い島に人が居着くわけが無い!!
一通り日誌帳に目を通すと良介は日誌帳を閉じた。
この日誌には特に手がかりになるような事はなかった。だが、それもしかたがなかった。この島の炭鉱が閉山されたのは島民失踪事件が起きる随分前の事だからだ。
しかし、この日誌の内容から察するに、この島に来た炭鉱労働者達と島の島民達との間に様々な確執やトラブルが有った事が伺えた。
閉鉱し、職を失うかもしれないというのに、作業員からは喜びの愚痴が日誌帳に書かれているぐらいなのだから、よほど島民との間に深い溝があったのだろう。
もしかしたら、家族全員が島民から陰湿な嫌がらせを受けていたのかもしれない。
事務所の壁に貼ってあった島の地図を拾い、良介と美耶子は港湾事務所を後にした。
事務所の近くには古びた看板が沢山積まれており、その看板には、
夜実島を踏みにじる港建設絶対反対!!
我々の海を汚すな!
夜実島を守る会 会長
と、書かれていた。
(さっきの日誌に書いてあった、開発反対派が作った看板か・・・・)
やはりこの島の島民たちは島の外から来た人に対し嫌悪感のようなものを持っていたのだろう。
線路沿いに歩いて行くと、二人はやがて夜実島鉱山に辿り着いた。
鉱山は静まりかえっており、時折吹く風が草木を揺らし、のどかそうな雰囲気の反面静寂過ぎて不気味な印象もあった。
二人は炭鉱の周りを歩き回ったが、鉱山の中へは入らなかった。
落盤の危険もあるし、何より良介は鉱山の中の暗闇からなんとなくだが、不気味なモノの気配を感じ取った。
一般の人には感じられないかもしれないが、何度も修羅場を潜りぬけてきた良介だからこそ、本能的にこの鉱山の中に危険を感じ取った。
最もそれがなんなのか、詳しい正体は分からないが、とにかくこの暗闇の中に入ると、二度と出てこられなくなるのではないかと思い、鉱山の中へ入るのだけはやめた。
そして二人は鉱山の中には入らなかったが、鉱山の方の事務所の中には入った。其処には鉱山の中から感じる不気味な気配は感じなかったからだ。
しかし、港の方の事務所と違い、埃を被った机と椅子があるだけで、日誌などの本や書類の類は一切発見できなかった。
只小さな木箱の中にまだ使えそうな古めかしいリボルバー拳銃(二十六年式拳銃)と何発かの弾があった。
(護身用か・・・・?しかし、拳銃が必要な程、この島の治安は悪かったのか?)
良介が鉱山の事務所の中を捜索していると、美耶子が事務所の窓の向こうをジッと見ていた。
「ん?どうした?」
「宮本さん・・・・あれは・・・・なんでしょう?」
良介に確認を求めるかのような目で一度良介を見た後、美耶子は再び視線を窓の外に向けつつ窓の外を指さす。
「どれ?・・・・・っ!?」
良介は美耶子が指さした先を見て、息を飲んだ。
美耶子が指さした先・・・・・
そこには山間部にはあまりにも不釣り合いなモノがあった。
「み、宮本さん・・・・あれってどう見ても・・・・」
「あ、ああ・・・・あれはどう見ても・・・・」
「「船だな(ですよね?)」」
そう、二人の視線の先には大きな船が山中の中で座礁していた。
二人は急ぎ鉱山の事務所から出て座礁している大型船の近くへと向かった。
(まさか、あんな所に大型船があるなんて・・・・志村さん達、開発事業の作業員たちはあの船の事を知っていたのだろうか?)
大型船に向かっている最中、良介は山間部にはあまりにも不釣り合いな物体(大型船)がある事を志村達、この島に居る人間は知っているのか疑問に思った。
ようやく船の近くまで来ると、船は座礁してから随分と時間が経っており、船体のあちこちはペンキが剥がれ、錆びている箇所も見受けられる。
良介は船首に書かれた船の名前を見て、目を見開く。
船首には英語でこう書かれていた。
『ブライトウィン』 と・・・・・
二人の目の前で座礁している大型船こそ、夜実島で島民の集団失踪が起こる前日に消息を絶った貨客船『ブライトウィン号』に他ならなかったのだ。
「この船・・・・」
「宮本さん、この船を知っているんですか?」
「あ、ああ・・・・この船は君がこの島で保護される前日、この島の近くの海で行方不明になった船なんだ・・・・まさかこの島に座礁していたなんて・・・・・」
良介は何とか船に乗れないものかと船体に沿って歩いて行くと、船の横に有るタラップが下がっていたので、良介と美耶子はそこから船に乗った。
(ここにこの船が座礁しているってことはこの船に乗っていた人達はこの島に避難したことになるのだろうか?それにしては何故この島の人達に救助をもとめなかったのだろうか?)
船に乗っていた人達の事を思いつつ良介はデッキの上を歩いていた。
仮にこの船の人達が島民に救助を求めていれば、『ブライトウィン号』の遭難事件は、座礁事故として取り上げられていた筈だ。
この夜実島の島民が消えたのは『ブライトウィン号』が遭難した翌日の夜。
つまり、『ブライトウィン号』が遭難したその日、島民は島に居た筈なのだから・・・・。
ともかく、良介と美耶子は船内に入るため、デッキにある扉を開けると船内からはひんやりとした空気と長年密閉された空間のためか、埃臭い空気が流れてきた。
船内は鉱山や港の事務所同様に埃っぽく、電灯も長年放置されていたため、明りをともすことなく、音も無く動くものも無かった。
良介は船内の案内板を見て、ブリッジを目指した。
航海日誌を見れば何故この船が夜実島に座礁したのかその経緯が分かるかもしれないと思ったからだ。
ブリッジを目指している途中、美耶子は通路にてセーラー服型に織られた便箋を見つけた。
上手く折られていると思い、見ていると、裏側に何か書かれているのを見つけ、丁寧に開いていくと、それは当時この船に乗っていた乗客が誰かに宛てた手紙のようだった。
手紙には以下の様な事が書かれていた。
Dear Noriko
(女の人の死体?)
手紙の内容を見て、どうやらこの船には乗客の他に途中海中で収容した女の人の死体も積まれていたようだった。
それからもう少し先に進むと、今度はハート型に折られた便箋を見つけた。
これも便箋で織られたということで、美耶子はこれも手紙なのではないかと思い、再び丁寧に開いていくと、案の定これも便箋をハート型に織られた手紙だった。
手紙には以下の様な事が書かれていた。
My Dear Nakajima-kun
最初に拾った手紙にも
Norikoと書かれてあり、あちらの方は文面から察するに差し名であったが、この手紙はそのNoriko自身が書いた手紙であった。この手紙の内容から遭難当時、少なくとも三人の中学生がこの船に乗っていた事になる。
その中学生達はどうなったのだろうかと、同じ中学生の美耶子は彼女達の身を案じた。
一方、良介の方は通り過ぎる客室の中を覗き、何か変わった事がないか調べながら進んでいた。
(通路の壁や床には古い血痕の後は一切ない・・・・つまり、あの日船内において殺人事件のような血生臭い事は起きていないと言う事か・・・・やはり船に乗っていた人達はこの島に上陸した可能性が高いな・・・・そして例の集団失踪に巻き込まれたのか・・・・?)
様々な思いを巡らせながら、ようやく二人は船の操舵室・・・・ブリッジへと辿り着いた。
航海計器は電気が通っていないので使えず、電話も当然使用不能だった。
良介は海図台の上に置かれたこの船の航海日誌を見つけ、早速それに目を通した。
日誌からこの船は本土から夜実島の隣に有る亀石野島へ向かう途中だったらしい。
そして遭難当日の昼前、海上に浮かぶ女性の水死体をデッキにいた乗客が発見、一度船を止め、船員が救命艇でその女性の遺体を収容したと日誌には書かれていた。
その後も、日誌は書きつづけられていた。
以下はその日誌の内容である。
昼過ぎになり、接近中の低気圧の影響を受け、波が高くなり始めた。
夕方、巡回に出た船員から女性の死体を収容した貨物室から変な物音がすると連絡があった。
確認した所、特に変わった様子も無かった。
船が揺れているせいだと思い、また貨物室のドアを閉め、巡回に戻った。
夜実島が近くなるに従い、航海計器に異常が出始めた。
そして貨物室に安置されていた筈の女性の遺体が無くなっているとの連絡が入った。
海も荒れ、航海計器が満足に使えない状況でこれ以上の航海は危険と判断する。
直ちに海上保安部へ連絡を取ることにした。
日誌はここで終わっていた。
(なるほど、その連絡があの『荒天で波に飲まれた。座礁する。女の・・・・』だったわけか・・・・・となるとあの無線の続きは『女の死体』ということになるのか?)
航海日誌を読んだものの、遭難当日女の水死体を見つけ、収容した事と嵐に巻き込まれそうななったことだけで、どのような経緯でこの島に座礁したかなどは記載されておらず、座礁後、船に乗っていた人達はやはり島に上陸したのだろうか?
そして何処へ行ったのかは依然不明のままで、この島に上陸し、そのまま例の失踪事件に巻き込まれたのだろうと良介はそう推測するしかなかった。
とりあえず、良介は航海日誌を持ってきた鞄に入れ、美耶子と共に船を後にした。
美耶子は走っていた。
空はいつも見る悪夢同様赤黒い色で覆われていることからこれは夢なのだと分かった。
そして頭の中にはいつも自分に警告してくるあの声が聞こえた。
ダメだ・・・・
君は・・・・・
ここに・・・・来てしまった・・・・・
この島へ・・・・
また戻って来てしまった・・・・
もう・・・・守れない・・・・
あれが・・・・
君を・・・・・
狙っている・・・・・
「誰!?誰なの!?私に語りかけるあなたは・・・・!?お願い!!姿を見せて!!私は貴方に会いに来たの!!この島にいると思って・・・・どこ?貴方は何処にいるの!?」
美耶子が必死に空に向かって声をあげる。
すると、またも美耶子の頭にあの声がした。
僕を探してはダメだ!!
僕の意識をたどっては・・・・
此処へ来てはダメだ!!
早くこの島から逃げるんだ!!
早く!!
声の主は意識を辿るなというが、美耶子はその意思に反し、必死に声の主を探すため、意識を集中した。
すると、美耶子の脳裏に海岸に建っていた例の塔が浮かび、その内部らしき場所に一人の青年の姿がチラッと映った。
しかし、その先は見えず、美耶子の視界はブラックアウトした。
「おい!!美耶子!!どうした!?美耶子!!」
美耶子がハッとして目を覚ますとそこには自分を必死に呼びかける良介の姿があった。
「み、宮本さん・・・・私・・・・一体・・・・・」
どうして自分が道端で倒れているのか、美耶子が良介に尋ねた。
二人がいるのは島の住宅街の道端で美耶子はそこに倒れ、上半身を良介に支えられている状況だった。
「宿に向かう途中で急に倒れたんだよ。 大丈夫か?」
「え、ええ・・・・・」
「そうか・・・・この先にある学校を開発事業の作業員達が宿泊施設に使っているらしい。島に滞在中は俺達もそこに泊まることになっている。着いたら少し休むといい・・・・」
「は、はい・・・・・宮本さん・・・・あの・・・・」
「ん?」
美耶子は先ほど見た夢の内容を話した。
そしていつも自分を見守っていてくれるあの声の主が例の塔にいるのではないのかと言う事も話した。
「私の見た夢で信憑性は無いかもしれませんが・・・・・」
「いや、そんな事は無いと思うぞ。施設長が言っていたのだが、君には何か不思議な力を持っているのかもしてない」
「不思議な力・・・・ですか・・・・?」
「ああ、それは何なのかは分からないが、ともかく俺は君の見た夢の話は信じる。俺自身もあの塔はいささか気になる建物だからな」
「宮本さん・・・・ありがとうございます」
自分の見た夢と言うあまりにも信憑性が薄すぎる事を良介は疑うことなく信じると言ってくれたため、美耶子は思わず頭を下げ、良介に礼を言った。
それから二人は宿であるこの島の学校を目指したのだが、途中川に掛かっている橋を渡っている時、美耶子が、
「きゃあ!!」
突然悲鳴をあげた。
「・・・・・」
美耶子は橋の上にある銅像をみて怯えている様子だった。
「どうした?」
美耶子が怯えながら見る視線の先には奇形な顔をした人型の銅像があった。
(なんだ?この不細工な銅像は?幼稚園の子供でももっとマシなもの作るぞ)
良介は銅像を見て、不細工で出来の悪い銅像だと思った。
「この出来の悪い銅像がどうかしたのか?たしかに夜に見ると不気味だが、まだ日は沈んでいないし、第一これは銅像だ。噛みつきはしいないさ」
良介の方は銅像を手でペチペチと叩きながら特に気にする様子もないが、美耶子は震える声で言った。
「こ、これ・・・・夢に出てくるんです・・・・」
「えっ?」
「この銅像に似た人が大勢・・・・それで、いつも私を追いかけてくるんです・・・・・」
美耶子がそう言い終えると同時に、生ぬるい風が辺りに吹きわたった・・・・。
登場人物・登場兵器紹介
太田 常雄
夜実島一の網元で、多くの漁師を従える。穢れから夜見島の封印を守る太田家の人間であるため島の因習を代々守ってきていた。
島が炭鉱として開発されていく中、炭鉱業者と揉めた形跡が鉱山事務所に多々残されていた。
二十六年式拳銃
明治
26年(1893年)に日本陸軍に正式採用された初の国産拳銃。ダブルアクション専用の拳銃で撃鉄に指をかける部分が廃されている。
中折れ拳銃としては強度が高く、操作が容易で扱い易かったため太平洋戦争の終結まで愛用された。
明治後期から二十六年式拳銃は一般に市販されており、銃が
22円(現在の約44,000円程度)、弾薬が100発3円(現在の約6,000円程度)と手頃な価格だった。戦後に進駐した米兵の間でも二十六年式拳銃は戦利品として人気があり、現代の米国では
Type 26と呼ばれており、比較的安全かつ楽しく射撃できるアンティーク的な指向の銃器として認識されている※原作では
sirenで初登場。炭鉱の事務所に置いてあり、プレイヤーの武器の一つとして登場。Sire2
では屍人化した太田 常雄が所持しており、彼を倒すと入手できる。
おまけ
クレーンゲーム
とある日、ミッドのゲーセンに非番なのか、ヴァイスの姿があった。
「うっ・・・・くっ・・・・」
彼は物凄い形相で、あるゲームをしていた。
それは、いわゆるクレーンゲームと言う代物で、アームのついたクレーンで中の景品を掴み取ると言う内容のゲームであった。
「よしっ!!行け!!」
クレーンを操作し、中の景品にアームが掴みかかるが、アームの力が弱いのか、折角景品を掴んでも、持ち上がる事は無かった。
「微動だにしねぇ・・・・」
彼が何故、此処まで真剣にクレーンゲームに取り組んでいるのかというと、妹のラグナの為に、クレーンゲームの人形を土産に・・・・と言う訳では無かった。
彼が取ろうとしていたのは、確かに人形ではあるが、人形の中でも、フィギュアと呼ばれる人形の類だった。
何故、男の彼が人形(フィギュア)にこうも、夢中になるのかと言うと、景品のフィギュアがシグナムに似ていたからであった。
(マズイな・・・・これ以上、フィギュアに時間をかけるのはマズイ・・・・)
彼は若干焦りながら、景品のフィギュアを見る。
(何がマズイのかと言うと、恥ずかしいんです!!『そうまでしてフィギュアが欲しいのか?』と思われるのが、たまらなく嫌なんです!!)
辺りを見回しながら自分の近くに人が居ない事を確かめるヴァイス。
(違います!!フィギュアが欲しいんじゃない!!難易度の高いゲームに勝利したと言う達成感が欲しいんだ)
其れっぽい言い訳を心の中で呟くヴァイス。
(って、事を周囲に説明するのは不可能なので・・もう良いです・・・・好きです!!フィギュア!!だが、此処で引いたら、後悔しか残らない・・それだけは避けたい・・・・何としても持って帰るぞ!!)
開き直り、フィギュアゲットに意欲を燃やすヴァイス。
腕まくりをして、気合を入れ直す。
そこへ、
「あの・・・・」
「ん?」
声をかけられ、振り向くと其処には、ゲームセンターの制服を着た女性従業員が居た。
(ゲゲンチョ!!)
店員の姿を見たヴァイスは狼狽する。
しかし、そんなヴァイスにお構いなしに、店員は話しかける。
「ずらしましょうか?位置?」
(見られていたのか!?店員さんに・・・・フィギュアに大金をつぎ込む姿を・・・・は、恥ずかしい〜。だが、違うのだ!!フィギュアが欲しいのではないのだ!!クレーンゲームが好きなだけ・・・・それを分かってほしい。下手な言い訳に聞こえるかもしれない・・だが、此処は甘えてみるしかない・・・・)
「ずらす?・・いや、まぁ、別にそこまで・・・・なんでまた?」
必死に体裁を整えようとするが、声が少し震えているヴァイス。
彼は、何故店員がケースの中の商品をずらそうとするのか、その訳を尋ねる。
すると、
「物凄く執着なさっている様子だったので」
店員は営業スマイルを浮かべて、ヴァイスに言い放つ。
(はっきり言いやがった!!)
店員の一言にこれまで、必死にひた隠そうとしていた彼の苦労が水の泡となった。
(何より厄介なのが、店員さんの綺麗な目!!憐れんでいるのではない!!純粋に接客しているのが伝わってくる!!)
「お・・おね・・・・お願いします・・・・」
ヴァイスは、まるで油の切れた機械人形の様に、ギギギと音を立てるかの様に、店員さんに一礼し、景品の位置をずらして貰うように頼む。
「はい」
(これで完全にフィギュアに執着している男になってしまった・・・・)
一礼しながら、自らに着せられた不名誉な状態を呪うヴァイスであった。
店員さんは、鍵を使い、一度ケースを開けると、景品のフィギュアの位置を取り出し口の近くへとずらしてくれた。
そして、ヴァイスは再び、クレーンゲームを再開するのだが・・・・。
(後ろで見ているよ・・・・スッゴイ見ているよ!!この俺の姿を!!)
何故か店員さんは、景品の位置をずらした後、その場に留まり、背後からヴァイスをジッと見ている。
位置をずらしたのが功を制したのか、そのワンゲームで景品のフィギュアをゲットしたヴァイス。
すると、
「フィギュアゲット、おめでとうございます!!」
店員さんは、ヴァイスの片手を高々に上げて、大声でフィギュアをゲットしたヴァイスを褒め称えた。
近くにいた学生はドン引きしていた。
「また来てくださいね〜」
店員さんは、明るい声でそう言うが、公開処刑をくらったヴァイスは、
「二度と来るか!!」
と、大声で、店員に言い放った。
あとがき
『ブライトウィン号』の乗船者たちの行方については、公式の『ブライトウィン号の怪』をご覧ください。
次回から事態は日常から非日常のへと急転します。
では、次回にまたお会いしましょう。