作中でステラが言った「先輩」との出会いを書いてみました。元ネタは西尾維新先生の作品「化物語・ひたぎクラブ」です。

ステラの設定上の声と化物語ヒロイン 戦場ヶ原ひたぎの中の人が同じなので・・・・

 

 

では本編をどうぞ・・・・

 

 

六十三話 ジョレイノヒ ステラくらぶ

 

 

「いいよ・・わかった。君が自分の体重を取り戻したいって言うなら力になろう。アララギ君の紹介だしね・・・・」

「助けて・・・くれるんですか?」

震えるような声で彼女は土御門に尋ねた。

「助けはしない・・・・ただ力を貸すだけだ」

土御門は更に「そうだね」、と呟くとポケットから懐中時計を取り出し、時計版に目をやる。

「まだ日も出ているし・・君は一旦家に帰るといい。その間こっちも準備しておくからさ、家に帰って体を冷水で清め、清潔な服に着替えてまた此処に来てくれる?」

「清潔な服って?」

「新品じゃなくてもいいけど、流石に制服は不味いでしょう?毎日着ているものだし・・・・色はそうだな・・・・白っぽい服装がいいかな?なるべく地味な奴で頼むよ」

「わかりました」

「それじゃあ夜の零時にまた来てね♪〜」

服装と集合時間を聞き、僕と彼女はその廃墟ビルを出た。

 

 

僕は彼女を彼女の家まで送ることにした。

彼女は「別にいいです」と断ったが、僕は彼女が心配だった。

それに歩きよりも自転車の方が早いし楽だと思ったからだ。

彼女は渋々此処に来たのと同じく、僕の自転車の後ろに乗り、自宅までの道順を僕に教えた。

そして、

「こ、ここがお前の家なのか?」

「そうですよ」

彼女の家は大金持ちの豪邸・・・・程ではないが、それでも一般庶民が住む家にしては大きな家だった。

「な、なぁ、お前って何気にお嬢様だったのか?」

「そんなわけないでしょう。普通の一般庶民ですよ」

「いや、一般庶民でもこの家は大きい方だぞ!!」

「そうなんですか・・・・よくわかりません・・・・・」

彼女はさも当然のように答え、自転車から降りると、自分の家の門を潜っていく。

やはり家の大きさに比例して庭も広く、そこには彼女の黒髪を青に変換して年齢を進めた感じの女の人が一人、庭で水を撒いていた。

「あら?お帰り」

「ただいま・・・・」

女の人は帰宅した彼女に気がつくと満面の笑を浮かべる。それに反してステラはほとんど無表情で帰宅の挨拶をする。

「およ?後ろの男の子は?」

そして女の人は門の外でポツンと立っている僕に気が付いた。

「学校の先輩・・・・ちょっと帰りが遅くなったから送ってもらったの」

「へぇーそうなんだ・・・・もしかしてステラの彼氏?」

「っ!?そ、そんなんじゃない!ただの先輩よ!!」

彼女はその時、少しだけ表情を崩し、ムキになった様に言うと家の中へと走り去っていった。

まぁ僕がただの先輩と言われ傷つかなかったのは、それが事実だからであり、僕らは特に親しい間柄でもないからだ。

文字通り僕らの関係は同じ学校の先輩と後輩の仲だ・・・・。

「あらら、ステラもまだまだ初心ねぇ〜」

楽しそうに笑みを浮かべ、その女の人は言った。その状況から明らかにこの女の人は彼女をからかっているのが分かる。

学校であれだけ、悪魔の様な所業を見せた彼女が成す術なくからかわれている様子に僕は意外性を感じた。

「あ、どうも初めまして」

「は、初めまして・・・・」

女の人は水撒きを止め、僕に近づき挨拶をしてきた。ならばこちらも返答するのが礼儀だろう。若干言葉に詰まりながらも僕は青い髪の女性に挨拶をした。そして僕はこの女性と彼女の関係を聞いた。

「あの〜」

「はい?」

「ステラさんのお姉さん・・でしょうか?」

「いえいえ、アタシの名前は宮本スバル。・・ステラの母親ですよぉ〜」

「は、母親っ!?」

僕には目の前の女性が彼女の母親だという事実を受け入れ難かった。

どう見ても姉妹と言われたら信じてしまうぐらい目の前の女性は年齢(推定)と外見が一致していなかった。

「ステラを送ってもらったお礼と言っちゃあなんだけど家でお茶でも飲んでいかない?」

自称彼女の母親は僕を家へと招き、紅茶を出した。

その手腕はかなり強引だった。

彼女は帰宅後部屋に戻り、出てくる様子はない。

出てこられてもこの現場がカオスな空気と状況になりそうなので、幸いと言うべきだった。

「あ、あの〜」

「何?」

「本当にステラさんのお母さん何ですか?お姉さん・・とかじゃなくて・・・・」

僕は目の前の女性が彼女の母親だと言う事が未だに信じられず、確認するかに様に尋ねる。

失礼ながら、母親が死んでしまい、姉が母親代わりになっているうちに自分が母親なのだと思い込んでいるのではないかと思った。

「本当だよ♪〜」

「それにしても・・・・」

僕は自称ステラの母(スバル)を見る。

「ああ、ステラの年齢とアタシの外見が合わないってことだね。まぁステラを産んだのもまだまだ若かったからねぇ〜」

「わ、若かったって何時ごろなんですか?」

(今でも十分に若いと思う・・・・)

そう思いながら僕は恐る恐るステラの母に聞いてみた。

「う〜んと・・・・たしか十六、七の頃だったかな?」

「じゅ、十六、七!?」

僕は思わず声をあげた。彼女を生んだ時の母親の年齢が余りにも若すぎだ。

高等部の学生とほぼ変わらない年齢だからだ。

その事実にステラの父親はロリコンではないかと思ってしまった。

いや、もしかしたら同じ学校の同級生かも知れない。

そう思いたい・・・・。

「まぁ、アタシが良介さん・・・・ああ、良介さんって言うのはアタシの旦那様でステラの父親の事ね。兎も角、アタシが良介さんを誘惑して襲ったんだけどね〜まさか一回で子供が出来るなんて夢にも思わなかったけど、嬉しかったなぁ〜あの時は・・・・」

「はぁ〜//////

笑を浮かべて娘の誕生の秘密を言うこの母親に僕は曖昧に答えるしかなかった。

だが、思春期真っただ中の僕には少々刺激が有る話だ。

しかし、赤の他人である僕に自分の初体験を普通に話す彼女の母親は物凄いマイペースで強引な人物なのだと思った。

そして帰り際に彼女の母親は僕に、

「母親のアタシが言うのもなんだけど、家の娘は良い子だと思うよ。これからも宜しくお願いね」

そんな事を言ってきた。

スバルはここ最近ステラの元気が無いのは恋煩いをしたのだと勘違いしたのだ。そして目の前の彼がその相手だと思っていた。

しかし、彼女の母親は夢にも思うまい、まさか怪奇で自分の体重を根こそぎ奪われたのだと言う事を・・・・。

それに、これからも何もこの件が終わったら彼女との縁も仲も以前と同じ様に先輩と後輩の仲のままで、会うどころか会話をする機会もないだろう。

そう思い僕は一度自分の家へと帰った。

 

約束の零時少し前、僕はもう一度彼女の家へと向かい、彼女を待った。

やがて、白いタンクトップに白いジャケット、そして白いフレアのスカートを穿いた彼女が門からこっそりと出てきた。

「先輩、わざわざ、迎えに来たんですか?」

「流石に小等部の女の子一人を夜遅くに出歩かせるわけにはいかないからな」

そして僕は彼女を自転車の後ろに乗せ、土御門の待つあの廃墟へと向かった。

自転車を夕方来た時と同じ場所に停め、あの廃墟に入ると、入口のところで既に土御門は待っていた。

まるでずっとそこにいたかのように・・・・。

此処にいるのが当たり前のように・・・・。

「・・・・・・」

土御門の着ている衣装を見て、彼女は驚いている様子だった。

土御門は白ずくめの装束・・・・浄衣と呼ばれる服を着ていた。

夕方に会った時と比べると見違えてしまうくらいだった。

まさに馬子にも衣装というべきだろう。

「ツチミカドさんって神職の方だったんですか?」

「いや、違うよ」

彼女の質問をあっさりと否定する土御門。

「卒業した学校は神道系の学校だったんだけど、神社や寺院、教会には就職はしていない。まぁ、色々思うところがあってね」

「思うところ?」

「一身上の都合ってやつさ。最も馬鹿馬鹿しくなったって言うのは本音なんだけどね」

「はぁ・・・・」

土御門の衣装を見て、彼女はなんだか呑まれている様に思えた。

「うん、お嬢ちゃん、いい感じに清廉になっているよ。見事だ。一応確認しておくけどお化粧とかしていないよね?」

「するような年齢でもありませんから・・・・」

「そう。取り敢えず正しい判断だ。でも、意外だね」

「何が・・ですか?」

「お嬢ちゃんくらいの年だとお化粧とかにも興味がありそうだけど?」

「人それぞれですよ。ただ単にアタシは興味が無いだけです」

「そうかい。アララギ君もちゃんと身を清めてきたかい?」

「ああ、問題ない」

一応、僕もその場に同席する以上それくらいは当然だと判断し、家に帰ったあと、念入りにシャワーを浴びた。

「それにしても君はあまり代わり映えしないね」

「大きなお世話だ!!」

同席するとはいえ、あくまで僕は部外者なので、彼女の様に白装束に着替えてはおらず、一応正装だと思うので、学院の制服で来たのだから、代わり映えしないのは当然だ。

「じゃ、さっさと済ませちゃおう。上の階に『場』を設けてあるから・・・・」

「場?」

「ああ・・・・」

そう言って早々と土御門はビルの中の暗闇に消えて行く・・・・。

あんなに白い服を来ているのに、すぐ見えなくなってしまった。僕は夕方の時と同じように彼女の手を握り、土御門の後を追った。

「しかし、土御門、さっさとなんてえらく気楽に構えているけど大丈夫なのか?」

ようやく土御門に追いつき僕は背後から土御門に声をかける。

「大丈夫って何が?年頃の少年少女を夜中に引っ張り出しているんだ。早く終わらせたいって言うのは大人として当然の配慮だと思うけどね。それに彼女の家族・・特に父親にバレたら、僕らは半殺しじゃ済まないよ」

「そうじゃなくて、まぁ、お前が彼女の父親の事を知っていたのは意外だが・・・・?」

「前に一緒に仕事をした事があってね・・・・僕がこういうのもなんだけど、彼、意外と変わり者だけど、頼りになる男だよ。君も今度会ってみると良い・・・・でも、彼女の関係者だと知ると、やっぱり半殺しにされるかもね・・・・」

「物騒な事を言うな!!それに半殺しにされるのはゴメンだけど・・・・」

「まぁ、それは君の運次第さ・・・・」

「それで、話は戻すが、その・・なんとか蟹ってそんな簡単に退治出来るものなのか?相手は神なんだろう?」

「考え方が乱暴だなぁアララギ君は」

土御門は振り向きもせずやれやれと言った様子で肩を竦める。

「アララギ君の時とは訳が違うんだよ。今回の場合は・・・・」

「違うって・・・・」

事実被害が出ているのだから悪意または敵意があるのだと判断するべきなのではないだろうか?

「言っただろう?今回の相手は神様なんだよ?そこにいるだけで何もしない。そこにいるのが当たり前なだけ、アララギ君だって学校が終われば家に帰るだろう?それと同じさ。ただお嬢ちゃんが一人勝手に揺らいでいるだけさ」

土御門の言っていることはやっぱり完全には理解できない。

「流石に神様相手に退治なんて無理だからね。だから今回はお願いするのさ」

「お願い?」

「そう、下出に出て、頭を下げてその神様にお願いするのさ・・・・『お願いします』ってね・・・・」

「ふぅ〜ん」

「あ、あの〜・・・・」

僕と土御門が話していると、意を決したように一番後ろにいる彼女が声をかけてきた。

「あの蟹は今もアタシのそばにいますか?」

「そう。そこにいるし、どこにでもいる。ただし、姿を見るため、ここに降りてきてもらうためには手順が必要なのさ」

やがて、土御門が用意した「場」に着いた。

そこに入ると、部屋全体に注連囲いが施されていた。そして祭壇に供物が添えられ、部屋のあちこちには燈火が灯っておりほのかに明るい。

「二人とも、目を伏せて、頭を低くして入るんだ」

「「えっ?」」

部屋に入る前に土御門はそう言う。

「ここは神前だよ」

何故そのようにして入らないといけないのか理由を話すと、僕たちは土御門の言う通り、目を伏せ、頭を低くしながらその部屋へと入った。

そして三人、神床の前に並ぶ。

土御門は祭壇の供物から御神酒を手に取り、それを彼女に渡す。

「えっと・・・・何ですか?」

突然御神酒をだされ、戸惑う彼女。

「お酒を飲むと神様との距離を縮めることができるそうだよ」

「・・・・アタシ、未成年なんですけど?」

「酔うほど飲む必要は無いさ。ちょっと口をつけて舐めるだけでいい」

彼女は一口、御神酒を飲み、その杯を土御門に返す。

土御門は返された杯を祭壇へと戻した。

「さて、それじゃあまず、落ち着こうか?」

土御門は彼女に背を向けたまま彼女に話しかける。

「リラックスして警戒心を解くところから始めよう。ここは君の場所だ。君が居て当たり前の場所・・頭を下げたまま数を数えてみよう・・・・」

部外者の僕がする必要は無いはずなのに、ついつい付き合って目を閉じ、心の中で、数を数えてしまう。その内に思い至った・・・・。

土御門の衣装だけではない、この部屋の装飾も一度家に帰り身を清めるのも全ては雰囲気作り・・・・彼女の心のコンディションを作るのに必要な儀式だったわけだ。簡単にいえば暗示・・・・催眠術に近いのかもしれない。

「どう?落ち着いた?」

「・・・・はい」

「そう・・それじゃあ、質問に答えてみよう。君はこれから僕の出す質問に答えることにした。・・・・いいね?」

土御門が彼女にそう問うと、彼女は小さく頷く。

その後、土御門は彼女に様々な質問をした。

最初は生年月日から始まり、趣味を始めとする好きな事を・・・・・

時折彼女は「答えたくありません」と、拒絶するような事も言ったが、土御門の質問は尚も続いていく。

そして、

「今までの人生で辛かった事、悩んだ事は?」

「っ!?」

土御門のこの質問に彼女は言葉を詰まらせた。

その様子は明らかに動揺しており、彼女の体は小さく震えていた。

「・・・・・」

「どうしたの?一番辛かった事、悩んだ事を聞いているんだけど?」

沈黙を貫き通せる雰囲気でもなく、また、「答えたくありません」と、拒絶できる雰囲気でもなかった。

これが状況・・・・。

これが形成された「場」・・・・。

そして手順通りに事は進んだ。

彼女は戸惑いながらも、赤裸々に告白した。

自分の周りには魔導士としてあまりに優れすぎている人達がいること、また大好きだった格闘技が此処最近めっきりと言っていいほど、伸びず、それから目を背け、食べることに逃げ、過食症になりかけた事を・・・・。

すべては自業自得わかっている筈なのに、自分はそれら全てを他のモノに背負ってもらいたい、他のモノに背負わせたいと強く願望した。

そんな中、彼女は出会ったのだ・・・・。

一匹の蟹に・・・・。

おもし蟹に・・・・。

「お嬢ちゃん。どんなに重かろうとそれは君が背負わなければならないモノだ。他人にまかせちゃあいけないね・・・・」

土御門が諭すように言う。

「・・・・・」

「目を背けずに・・・・ゆっくりと目を開いて見てみよう・・・・」

彼女は土御門の言うとおり、ゆっくりと瞼を開けた。

燈火の明かりがゆらゆらと揺らいでいる。

影も・・・・三人の影も燈火の明かり同様揺らいでいる。

ゆらり ゆらりと・・・・

「あ、ああああああ・・・・・」

すると彼女は突然怯えるような声を出した。

体の震えも先程の土御門の質問の時とは違い、震えているのが十分理解できる程に、震えている。

「何か見えるのかい?お嬢ちゃん」

怯える彼女に土御門が冷静に問う。

「み、見えます・・・・蟹が・・・・あの時と同じ・・・・あの蟹が・・・・すぐ・・そこに・・・・」

彼女は震える指で前を指す。

「そうかい。僕には何も見えないがね・・・・アララギ君。君は見えるかい?蟹の姿が?」

土御門が僕に尋ねてくるが僕には何も見えない・・・・。

「い、いや何も見えない」

彼女の指をさした先には蟹の姿もなければ影もない・・・・。

つまり何もいない・・・・。

「本当は蟹の姿なんて見えていないんじゃない?」

「い、いえ・・・・アタシには・・・・アタシには見えます!はっきりと!蟹が・・・・あの時の蟹がそこに・・・・」

「錯覚なんじゃない?」

「錯覚なんかじゃありません!!本当に・・本当に!!そこに蟹が・・・・!!」

「そうかい。だったら言うべきことがあるんじゃないか?」

「言うべき・・こと・・・・」

土御門のその言葉を聞き、彼女は顔を上げてしまった。

恐らくこの状況に・・この「場」の雰囲気に耐えられなかったのだろう。

その瞬間、彼女の体は突如、跳んだ。

重みが有ろうが、無かろうが関係なく神床の反対側、部屋の一番後ろの壁に叩きつけられた。

「がはっ・・・・」

壁に叩きつけられそのままの状態・・・・床に落下せず、壁に磔られている。

やがて壁にヒビが入り始め、彼女の体が壁に食い込み始めた。

壁が崩壊するか、彼女が押しつぶされるか、そんな状況である。

「う・・・・うっ・・・・ううう・・・・」

彼女があげたのは悲鳴ではなくうめき声だった。

苦しんでいる。

彼女は苦しんでいるのだ。

しかし、僕には相変わらず何も見えない。ただ彼女が一人壁に食い込んで苦しんでいるだけにしか見えない・・・・。

でも、彼女には・・・・彼女だけには、はっきりと見えているのだろう・・・自分を押しつぶそうとしている蟹の姿が・・・・おもし蟹の姿が・・・・・。

「やれやれ、せっかちな神さんだ。まだ神詞も挙げてないって言うのに・・・・」

「お、おい土御門・・・・」

「分かっているよ。予定変更だ。まぁ僕としては別にどっちでもよかったんだけどね」

ため息混じりで壁に磔になっている彼女に近づく土御門。

そしてひょいっと手を伸ばし、彼女の顔の当たりのやや前方ら辺を掴み、軽く引きはがした。

「よっこらせっと」

そのまま掴んだ何かを投げ飛ばし床に叩きつけた。

しかし、叩きつけた音もしなければ埃も舞わない。

そして一呼吸置かない間に叩きつけた何かを足で踏みつけた。

僕の目には土御門が物凄い熟練されたパントマイムをしているようにしか見えなかった。

今も土御門は器用に片足を少し上げて立っているのだから・・・・。

それも足を震わせないまま・・・・。

そして彼女は床に落下した。そんな高い位置ではなかったので、ケガはしていない様だ。

「結局こういうのはさ、心の持ち用の問題だから、お願いできないなら、言葉が通じないなら戦争・・つまり戦うしかないのさ」

「でも・・・・」

「ま、このまま潰しちゃってもお嬢ちゃんの悩みは形の上では解決するからさ。この際それも有りかなって」

「あ、有りかなって?」

土御門の台詞ではこのままおもし蟹を・・・・神を踏み潰すと言う意味合いだ。

「それにねぇ、アララギ君。・・・・僕はとてつもなく蟹が嫌いなんだよ。・・・・殻が堅くて食べにくいし、それに値段が高いからね」

土御門は嫌な感じに頬を歪めつつ、笑いながら言う。

「それじゃ、おさらばだ・・・・」

そして土御門が足にグッと力を入れ始めたその時、

「待って・・・・」

土御門が足に力を入れ、恐らく蟹を踏み潰そうとしたとき、土御門の影から声がした。言う前もなく声を発したのは彼女である。

すりむいた膝をさすりながら体を起こす。

「待って・・・・待って下さい・・・・ツチミカドさん・・・・」

「『待つ』って何をさ?お嬢ちゃん」

「さっきは驚いただけですから・・・・ちゃんと・・自分で出来ますから・・・・」

「そう・・じゃあ、どうぞ・・・・やって御覧・・・・」

土御門は足をどけることは無かったが、踏み潰す事もなかった。

彼女は土御門から「やって御覧」と言われると、足を正座に組み、姿勢を正し、手を床について土御門の足元の何かに対して丁寧に頭を下げた。

そう、彼女は世間で言う土下座をしたのだ。

「ごめんなさい・・・・」

土下座した後、開口一番彼女が口にしたのは謝罪の言葉だった。

「それから・・・・ありがとうございました」

そして感謝の言葉が続いた。

「でも・・・・でも、もういいんです。・・・・それはアタシの気持ちで、アタシの弱さでアタシの思いですから・・・・アタシがちゃんと背負っていきます。失くしちゃいけないものでした」

そして最後に・・・・

「お願いです!!お願いします!!どうかアタシに・・・・アタシの重みを返してください!!」

最後に祈りのような懇願の言葉を彼女は言った。

 

だん!!

 

土御門の足が床についた音だった。

無論踏み潰したわけではないだろう。

そう、踏み潰したのではなく、いなくなったのだ。

そうであるように・・・・当たり前のようにそこにいて、当たり前のようにそこにいない形へと戻ったのだろう。

身動きもせず、何も言わない土御門と・・・・。

全てが終わったことを理解しても姿勢を崩すことなく、わんわんと声を上げて泣きじゃくる彼女を僕は離れた位置から眺めるように見ていた。

 

 

その後、彼女は体重と共に従来の明るさを取り戻した。

中等部の窓からは体育の時間、校庭を走り回る彼女の姿、食堂で成人男性すらも凌駕する量の食事を摂る彼女の姿を見ることがあった。

彼女は貯金を叩いてちゃんと土御門に御礼をし、そして僕には・・・・

「何だ?これ?」

「・・御礼です」

彼女は僕にラッピングを施した紙袋を差し出してきた。

中を開けて見ると、歪な形をしたクッキーが入っていた。

その中には所々焦げている物もある。

 

ステラはアララギに御礼のために、クッキーを焼いたのだが、母のスバルが作るのを見よう見まねで作ったものだから味は正直言って美味いものではなかった。

アララギが顔を歪ませながら食べる姿を見て、親譲りの負けず嫌いに火がついたのか、

「むっ、こ、今度は必ず先輩に『美味しい』って言わせてみせます!!覚悟しててくださいね!!」

と、ビシッと僕に指を突きつけ、そう宣言した後、その場を後にした。

ステラとアララギの仲は今回の一件だけでなく、この先まだまだ続く事になるだろう。

そしてそれが友情か恋愛かなのかは、本人たちにもまだ分からなかった。

 

 

あとがき

ステラ救済編はこれにて終了です。

この後、ステラは異世界の過去に飛ばされて、ギンガと結婚した良介と出会う事になります。

では、次回にまたお会いしましょう。

 




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