作中でステラが言った「先輩」との出会いを書いてみました。元ネタは西尾維新先生の作品「化物語・ひたぎクラブ」です。

ステラの設定上の声と化物語ヒロイン 戦場ヶ原ひたぎの中の人が同じなので・・・・

 

 

では本編をどうぞ・・・・

 

 

六十一話 デアッタヒ 空から降ってきた女の子

 

 

僕が彼女を・・・・宮本ステラを初めて見たのは彼女が初等部の五年で僕が中等部の二年の春の頃だった・・・・。

その時は、初等部五年生が毎年春に行われる体力測定を行っており、彼女は五十メートル走のタイムを測定している時だった・・・・。

校庭を物凄い速さで走っていたのが物凄く印象的だった。そして走り終えた後、仲の良い友人たちと笑顔で話していた。

その次は学生食堂で見かけた時だった。

彼女は成人男性でも完食出来るか分からない程の量の食事を食べていた。

山のように盛られた料理はブラックホールに吸い込まれる星のように次々と彼女の口の中へと消えていった。

周囲の学生や教師も驚いていた。

特に初等部入りたての新入生と春からこの学院に来た新任の教師達は、自分達の食事もそっちのけで、彼女を見ていた。

しかし、それから暫くして、彼女の姿は食堂で見なくなった。

あれだけの量を平然と食べている人物だ。食堂に居れば嫌でも目立つ。

しかし、彼女が食堂に来た形跡はない。

そこで、食堂で働く人に聞いて見ると、「ここ最近食堂に姿を見せないけど、何かあったのかねぇ〜?」と心配していた。

それからと言うもの中等部の校舎から見える初等部の校庭をチラッと見ると、体育の時間に日陰で授業を見学している彼女の姿を見かけるようになった。

昼休みや放課後に図書室の隅で本を読んでいる彼女の姿を何度か見かけた事も有る。

第一印象から運動神経抜群で活発な性格と思いっていたため、僕がギャップを感じたのは言うまでもない。

そして今の彼女は最初に見た時と違って己の周囲にまるで分厚く、そして高い壁を作っているようにも見えた。

それは金庫にしまわれた貴重品のようであり、自分もそこにいるのが当たり前で、金庫の外にいないのが当たり前・・・・のように見えた・・・・。

だからと言って高飛車な態度をとっているようにも見えず、虐められている様にも見えない。

まぁ、だからと言ってどうと言うこともない。

この学院全ての生徒と教師を含め、昼間は何千人と居る人間と生活を共にしているわけだが、その内一体何人が自分にとって意味のある人間なのだろうかと考えると彼女一人の存在はホントどうと言うことも無いのだから・・・・。

後輩の女の子にちょっと変わった子が居た・・・・ただそれだけの事実があっただけで、その子と一言も言葉を交わす事が無い・・・・そんなことで僕はそれを寂しいと思うことはなかった・・・・。

と、言うかむしろ初等部の赤の他人と言葉を交わす方が変なのかもしれない。

その時は、そう・・・・・思っていた・・・・。

しかし、僕のそんな思いは見事に裏切られる事となった・・・・。

 

それは、ある日の放課後のことだった。

僕にとって忘れられない地獄のようなそして冗談のような春休みが終わり、中等部の二年に進級し、新入生達も学院生活に馴染んできた頃の放課後。

友達は皆、部活やら委員会やらで、何かしらの用が有り、一人家に帰っても特にやる事もないので、特別教室の有る棟で一人静かに読書でもしようかと思い、校舎の階段を駆け上がっていると、丁度踊り場のところで空から女の子が降ってきた。

それが彼女・・・・宮本ステラだった。

降ってきたと言っても本当に空から降ってきた訳ではなく、正確に言うならば、階段を踏み外した彼女が後ろ向きに倒れて来たのだ。

避ける事も出来た筈なのだが、僕は咄嗟に彼女の体を受け止めた。

それは避けるよりも正しい判断だったのだろう。

そう・・・・彼女を受け止めるまではそう思っていた。

そして彼女を受け止めたとき、この判断は間違っていたのだと気づかされた。

そう、何故なら・・・・

咄嗟に受け止めた彼女の体がとてつもなく軽かったからだ・・・・。

それはもう洒落にならないくらい・・・・不思議なくらい・・・・不気味なくらい・・・・軽かったからだ・・・。

まるでここにいないかのうに・・・・。

まるで空気の様に・・・・。

そう・・・・。

宮本ステラにはおよそ体重と呼べるものが全くと言っていいほど、無かったのだ・・・・。

初めは魔法の力かと思ったが、彼女が魔法を使った形跡は全くなかった。

不気味なくらいの静寂が階段の踊り場を包み込んでいた・・・・。

 

 

宮本ステラは悩んでいた。

武術家、芸術家、職人が一度は経験があるかもしれないスランプと言う壁に初めてぶち当たったのだ。

母親とその姉妹達(ステラにとっては叔母)知り合いの格闘スタイルの魔導士(ヴィヴィオやアインハルト)と模擬戦をしても全くと言っていいほど、ここ最近成果が上がらない。

動きも技も単調になりがちで、簡単に見切られ、その報復に手痛いカウンターや反撃を浴び、無様に床に叩きつけられ、敗北する日々が続いた。

朝早くから夜遅くまで一人で自主練習をしても一向に能力が向上しない。

やがてステラは鍛錬をすることよりも食べることにより現実から目を遠ざけ始めた。

元々母親譲りで常人よりも多く食べるステラであったが、その母親までもが驚くほどの量をステラは毎日のように食べて食べて食べ続けた。

そしてある日、親友のルリコから、

「ステラ、あんた最近太った?」と言われ、そこで初めて自分が過食症になりつつある現実を理解した。

しかし、親譲りの体質なのかあからさまに体型が肥満体になったと言うわけではない。

だが、友達の中でもルリコは結構、鋭いタイプなので、彼女が「太った」と言えば、自分は恐らく太ったのだろう。

そこで、ステラは急ぎダイエットを始めるが、そう簡単に成果は出るはずも無く、シューティングアーツとダイエットの成果を早急に求めている中、ステラは「体重さえ、なければ素早く動く事も出来るし、ダイエットもしなくてもいい・・・・体重なんて無くなってしまえばいい・・・・」と強く思い、そう願った。

そしてある日、ステラはその怪奇に・・・・・一匹の蟹に出会ってしまった。

その蟹はステラの願い通り、ステラの体重を根こそぎ持っていった。

体重を無くした当初、ステラは喜んだが、普通に歩くのでさえも、周りに気づかれていないが、歩きにくくなり、次第に自分は余りにも異質な存在・・・・人間から化け物に成り下がったのではないかと思い始め、自分の秘密を知られないようにと、次第に家でも学校でも人との間に距離を取り始めた。

そんなある日、ステラは放課後、例によって一人で過ごそうと特別教室のある棟にいた。

ここならば授業以外、寄り付く生徒も居ないだろうから一人になるには丁度いいと考えたのだ。

階段を上がっている最中、ステラはムニュッと何か柔らかいものを踏んだと思ったら視界が90度変わった。

自分が階段から落ちたのだと理解したのは落ちてゆく中、階段に落ちていたバナナの皮を見た時だった。

ステラは床に叩きつけられる衝撃を覚悟しながら目をつむるが、その衝撃はステラを襲わず、変わりに他の人の腕に抱かれた感触と人肌の温もりを感じた。

自分を受け止めた人は制服からこの学院の中等部の生徒だと分かった。

その男子生徒は自分の体を受け止め、自分に体重がないことを知ったのか、目を大きく見開いている。

(気づかれた・・・・アタシの秘密を・・・・他の人に・・気づかれてしまった・・・・)

受け止められたステラ本人も突然のアクシデントによって自分の秘密を知られてしまったこと言葉を無くし、階段の踊り場には不気味なくらいの静寂がその場を支配した。

 

 

それから翌日の放課後・・・・。

「ミヤモト・ステラさん?」

僕の問いかけにクラスメイトのリディアが首を傾げる。

放課後の教室で僕は机を向かい合わせ、反対側にいるクラスメイトに先日受け止めたあの子の事何気なく尋ねた。

「その人がどうかしたの?」

「ああ、いや、なんつうか・・・・」

元々中等部の生徒と初等部の生徒だ。同じ中等部のリディアが詳しく知っているはずがない。

リディアの返答に僕は曖昧に言葉を濁らせる。

「その・・・・変わった名前だよな。ファミリーネームが最初で、後ろに名前なんて・・・・」

そうは言うが、僕には既にフェミリーネームが最初で名前が後につく人物の知り合いがいたが、ここは話題のため、この場ではあえてそれを言わなかった。

「そうかな?管理局で有名なあの『タカマチ』さんや『ヤガミ』さんも同じだよ」

「そう言えばそうだったな・・・・」

「それにしても」

「ん?」

「珍しいね。アララギ君が他の人に興味を持つなんて」

リディアは苦笑しながらそういうので、僕は「余計なお世話だ」と言い返した。

 

リディア・リンドバーグ (イメージCV 堀江 由衣)

僕のクラスメイトでこのクラスのクラス委員長を務めている。

その容姿は如何にも委員長って言う容姿をしている。

きっちりと編み込まれた三編みの髪に黒縁のメガネで恐ろしく真面目で教師たちからの受けも良い。

 

今までの人生を委員長生活で過ごしそしてこれからの人生も委員長を貫き通す。まさに委員長オブ委員長の称号を神から与えられてような子なのだ。

そして何故僕がそんな委員長オブ委員長と二人っきりでいるのかとういと、僕がこのクラスの副委員長で来月の半ばに行われる文化祭の出し物を決めるためだった。

結局、その日の内にやる内容は決まらず、お開きとなった。

リディアはもう少し教室に残って集計をするとのことだ。

 

教室から出て、後ろ手で教室のドアを閉め、下駄箱のある昇降口へ向かおうとすると背後から声を掛けられた。

「こんにちは先輩。綺麗な夕日ですねぇ〜・・・・まるで血のように紅いですよぉ〜?」

振り向く時、僕は声を掛けてきた相手が誰だが分からなかった。

声を掛けられたので、当然僕は振り向く・・・・いや振り向いてしまった。

「動かないでください。先輩・・・・」

振り向いたとき、声を掛けてきた相手がさっき話していた宮本ステラだということを知った。そして僕の口の中にたっぷりと伸ばしきったカッターナイフが突っ込まれていることも・・・・知った・・・・。

 

カッターナイフの刃が僕の左頬内部の肉にピッタリと押し当てられた。

少しでも動けば僕の口の中は一面血の海になるだろう。

「っ!?」

「ああ、失礼。説明不足でしたね・・・・『動いてもいいけど動くととても危険』と言った方が正しかったですね」

彼女の言葉を聞き、僕は間抜けみたいに口を開けたまま動くことが出来なかった。

しかも彼女は怖いくらい優しい微笑みを浮かべていた。

 

 

知られてしまった・・・・。

誰にも話していない、決して知られたくないアタシだけの秘密を知られてしまった・・・・。

まさかあの時間帯にあんな人気の少ない場所にバナナの皮が落ちていてそれを踏んで、そこに人が通りかかるなんて予想外中の予想外だった。

アタシはあれからあの人の事を調べた。意外にもあの人のことはすぐに分かった。

何しろ中等部のクラスの副委員長を務めている人物なのだから簡単に名前と所属クラスは割れた。

そして次の日の放課後、あのことを黙っていて貰うためあの人の所へOHANASHIをしに行った。

魔法では校舎内に設置されているサーチャーに引っかかり厄介だ。だからと言って殴り飛ばしても傷が残るのでこれも厄介。だからアタシは以前パパりんの教えて貰った方法をとった。

 

「魔法や拳以外で相手に恐怖を植え付ける方法?」

「うん」

「なんでそんなことを聞くんだ?」

「あ、いや・・・・痴漢とか変態とかが襲ってきたりするかもしれないからその防犯対策に・・・・」

苦しい言い訳だが、母親から「シューティングアーツは暴力じゃないんだよ。だから決して暴力に使っちゃダメだよ」と、常日頃から言われていたので、良介もその点を考慮したのか、ステラの質問に答えてくれた。

「そうだな・・・・やっぱり道具を使っての方法だが、この世界では銃はあまり役に立たないな」

「なんで?」

「銃の痛みは想像しづらい。それに表には出回っていないからな・・・・ステラ、お前は銃に撃たれる事を想像できるか?そして、その痛みを理解できるか?」

「う〜ん・・・・ちょっと無理かも・・・・」

「それならやっぱり刃物だろうな」

「何で?」

「肌に直接触れられて怖いと思うからだ。要は痛みを予想させて牽制させるんだよ。なんなら小さい傷でも作って、血を出させ、その痛みを実感させればいい」

「成程・・・・」

 

アタシはパパりんの言葉のとおりカッターナイフ、ハサミ、コンパス、シャープペン、ホッチキス等の武器になりそうな大量の文房具を体のあちこちに仕込みあの人の下へと向かった。

そしてそれを実行に移した。

効果は絶大で、今アタシの目の前であの人は声も出さずに少し震えながら立っている。

 

 

怖い。

と、思った。

カッターナイフの刃ではない。

僕に刃物を突きつけながら息も乱さず、動揺する気配もない・・・・ゾッとするくらい平然な態度をとっている目の前の後輩の存在が怖かった。

今、僕の口の中に押し当てられているカッターの刃はレプリカでもなければ峰でもない。

鋭く真剣な彼女の目を見て僕は確信した。

「先輩、好奇心は猫をも殺すって言葉があるんですよ。下手な好奇心や欲望意欲にかられて人の触れられたくない秘密に寄ってくる・・・まるでエサや明かりに釣られてくる虫ですね・・・・それで先輩はそんな虫けらの一匹ですか?」

「・・・・お、おい」

「何です?ああ、右側も寂しかったんですか?そうならそうと言ってくれればいいのに〜」

そう言うと彼女は微笑みながらカッターナイフを持っている右手とは反対側の左手をスっと上げてくる。

てっきり平手打ちでもされるのではないかと思い、僕は歯を食いしばらないように身構えるが、その予想は外れた。

彼女は平手打ちではなく、袖に仕込んだホッチキスを取り出すとそれを僕の右頬肉をホッチキスで挟み込む様に・・・・綴じる形で差し込んできた。

その結果、僕は言葉を発する事が出来る状態ではなくなった。

カッターナイフだけならば何とか言葉を言うことが出来たろうが、今はもう試す気にならないし考えたくもない。

そんな状況下、彼女は語り出した。

「アタシも迂闊でした。階段を登ると言う行為には人一倍気を使っていたのですが、まさかあんな場所にバナナの皮が落ちているなんて予想外でした・・・・そしてそんな場に行きあたった先輩の存在にも・・・・」

「・・・・・」

「先輩、気づいているのでしょう?」

彼女が僕に問う。

相変わらず目付きを変えることなく。

「そう・・・・アタシには重さと言うものがない・・・・ああ、勘違いしないでね。決してアタシが体重を消すレアスキルを持っているわけでもないし、某海賊漫画に出てくる悪魔の実の能力者って事ではないし、魔法で重さを消したわけでもないの」

「・・・・・・」

一部他の漫画の設定が混じったが、魔法を使わず、レアスキルでもなく、体重を消す・・・・そんな方法がある訳がないと思いつつ、何故彼女には重さが無いのか疑問に思っていると、彼女はその訳を話した。

「この前、アタシは一匹の蟹に出会ったの・・・・」

カニ?

今、カニと言ったか?

彼女は!?

この後輩は!?

カニって言うと海や川とかの水辺に生息しているあの蟹の事か?

「そこでアタシは重さを持っていかれたわ・・・・でも全部ってわけじゃないの。アタシと同年代の女子の平均体重は34キロ〜40キロの間・・でも、アタシの体重は・・・・5キロ」

5キロ!?5キロだって!?生まれたての赤ん坊と大して変わらない体重じゃないか!?そんな体重なのに何で今も平然と生きていられるんだ!?

「・・・・理屈はわからないけど、アタシは何の障害もなく今もこうして生きている。そしてその秘密を知っているのはアタシ以外、先輩・・ただ一人・・・・」

彼女は僕の考えを読み取ったかのように5キロでも生きていられる事とその事実を知っているのは僕だけだと言うことを打ち明ける。

ただ彼女のその言葉を聞き、僕の外側の頬を一筋の汗が伝う。

「ねぇ、先輩・・・・アタシの秘密を黙っていてもらうためにアタシは何をすればいいと思います?アタシはアタシのために何をするべきだと思います?」

まさか口封じのために僕を殺すつもりか?

「『口が裂けても』言わないと、先輩に言って貰うため、今この場で先輩の『口を封じる』・・べきなのでしょうか?」

正気かコイツ?上級生相手に何て追い込み方をするんだ。こんな悪魔みたいな後輩がいてもいいのか?

いや、今現在僕の目の間に存在する・・・・。

「先輩、沈黙と無関心を約束してくれるなら二回頷いてください。それ以外の行為は全て敵対行動とみなし、それ相応の対処をとらせて貰いますけど・・・・」

一片の迷いも無い言葉だった。

その言葉に対し、僕には選択の余地など無く、二回頷いた。

「そう・・・・ありがとうございます」

僕の行動を見て、彼女は安心したようでまず、左頬内側に押し付けていたカッターナイフを肉から離し、口の外に出すとカチカチと刃を仕舞い、次にホッチキスを、

「・・・ぐっ!!」

 

ガチャコン

 

と、勢い良く口の中で綴じた。

そしてその激しい痛みに僕がアクションを取る前に彼女は僕の口から素早くホッチキスを抜き取った。

「ぐっ・・・・くぅ〜・・」

「悲鳴をあげないんですね・・・・ご立派です。流石先輩〜♪」

廊下の床で必死に痛みと悲鳴をあげないようのたうち回っている僕を見下すような目で・・・・いや、実際に見下している後輩。

「今回はこれくらいで許してあげます。自分の甘さにも嫌気がさしますが、約束してくれた以上、誠意に応じませんと」

「お、お前・・・・」

 

ガチャコン

 

チャリーン

 

僕が何かを言う前に彼女はホッチキスをもう一度綴じ、ホッチキスの針を僕の傍の床に落とす。

それを見て自然と身が竦んだ。

所謂条件反射という奴だ。

まさか一回やられただけで条件反射が組み込まれるとは思ってもいなかった。これはトラウマになったかもしれない。

「それでは先輩・・・・さようなら・・・・・・」

彼女は踵を返し、廊下をスタスタと歩いていくが、途中振り向き、

「もし、他の誰かがアタシにこの事を尋ねてきたら真っ先に先輩・・・・・・貴方を潰しますから・・・・それも容赦なく・・・・それでは・・・・」

物騒なセリフを微笑みながら吐いて何事もなかったかのように去っていった。

ステラの言動と行動に、

「くそっ、なんなんだ?アイツ・・・・悪魔みたいな女だ」

と、彼は毒突いた。

しかし、彼は知らなかった。

彼女の母親が一時的ではあるが、魔王(なのは)に教えを乞うていた時期があったことを・・・・。

それに関係しているのか、分からないが、今の彼女に悪魔の片鱗を見た彼であった。

 

「む?(キュピーン!!)」

教導隊の隊舎に居た管理局の白い魔王こと、高町なのは、何かを感じ取ったようで、辺りを見回す。

「ん?どうした?なのは?」

その様子に同僚であるヴィータがなのはに尋ねる。

「今、失礼な事を感じたの。私の事を魔王だって」

なのはは殺気めいたものを纏いながら辺りを見回している。

「・・・・そ、そうか・・・・・」

ヴィータは顔を引き攣らせながらそう呟いた。

 

「ぐっ・・・・」

僕は右頬の内側を手で探り、あの後輩に打ち込まれたホッチキスの針を取る。

案の定、僕の口の中は傷ついており、ホッチキスの針にも血がついている。

でも大丈夫・・・・この程度の傷ならすぐに消える・・・・。

廊下で一人突っ立っていると、教室の扉が開き、そこからリディアが出てきた。

「あら?アララギ君?まだ居たの?」

先に帰った筈の僕がまだ居た事に少し驚いているリディア。

「・・・・なぁ、リディア・・お前、バナナは好きか?」

「バナナ?まぁ、栄養価が高いから好きか嫌いかと聞かれれば好きかな?」

「そうか・・・・でも、どんなに好きでも校内では絶対に食べるなよ!!」

「はい?」

リディアは僕の言っている事が理解できないといった感じで首を傾げている。

「いや、食べるだけならまだいい。もし、その皮を階段辺りにポイ捨てしてみろ!僕は絶対にお前を許さないからな!!」

「な、何を言っているの?」

僕はリディアに忠告をした後、大急ぎで彼女を追いかけた。

「こら!廊下は走っちゃいけないんだぞ!!」

リディアの声を後ろから聞きながら・・・・・。

 

立ち去る時と同じ速度で歩いていたため、彼女は意外にもすぐに見つかった。

どうやら僕が追いかけてくるとは予想もしていなかったのだろう。

そして自分を追ってきた僕の姿を見て、

「呆れた・・・・」

本当に呆れた様子で言う彼女。

「いえ、ここは素直に驚いたと言うべきでしょう。あれだけの事をされておいてすぐに反抗する何て・・・・分かりました『やったらやり返す』というのはアタシの正義に反するものではないので、その覚悟があるというならば・・・・」

彼女はバッと左右に両手を広げる。

一瞬、デバイスを起動させる気なのかと身構える。

「戦争をしましょう。先輩」

そう言うと彼女の手には夥しい数のカッターナイフ、ハサミ、コンパス、ホッチキス、シャープペン、万年筆、三角定規、ペーパーナイフ、彫刻刀、等が握られる。

正直、「どこに入っているんだよ!?ソレ!?」とツッコミたくなるくらいの数だ。

「先輩・・・・実はアタシこう見えて・・・・戦争が大好きなんです・・・・殲滅戦、電撃戦、打撃戦、防衛戦、包囲戦、突破戦、退却戦、掃討戦、撤退戦・・・・この地上で行われるありとあらゆる戦争行動が大好きなんですよ・・・・」

先程まで黒かった筈の目を金色に変えて狂気に満ちた笑みを浮かべながらとんでもない発言をする後輩。

これが冗談なのか本当なのか今の僕には分からない。

しかし、要件は彼女との戦争ではないため、

「ち、違う。戦争はしない」

「しないんですか?なぁんだ・・・・」

僕が彼女との争いをしに来た訳でないと分かると、彼女はどこか残念そうに言った。

しかし、広げた腕と大量の文房具はまだ収めていない。 それはすなわち彼女が未だに警戒を解いていないという証拠である。

「じゃあ何の用ですか?」

「ひょっとしたら、なんだけど・・・・お前の力になれるかもしれないと思って・・・・」

僕は意を決し彼女に要件を言った。

「力に?フッフフフフフフ・・・・ハハハハハ・・・・・」

彼女はバカにしたようにせせら笑った。いや、怒ったのかもしれない。

「巫山戯ないで!!先輩に何が出来るって言うのよ!!安っぽい同情や優しさも敵対行為として見なすわよ!!貴方はただ黙っているだけでいいの!!それが出来ないのなら今この場で貴方を潰すわ!!」

案の定、彼女は怒り狂い、鋭い視線で僕を睨む。

恐らく彼女は本気だろう。 これ以上は何を言って無駄だと判断した僕は何も言わず、ぐい、と、自分の唇の右端に指を引っかけ、頬伸ばし見せた。

もはや言葉よりも目の前の現実で分からせるしか彼女を納得させる術が無かったのだから・・・・。

「なっ!?」

案の定、彼女は僕の右頬の内側を見て、驚いている。

それも目を大きく金色の目を見開いて・・・・。

そして彼女の手からは大量に握られた文房具がカチャカチャと音を立てて床に落ち、散らばっていった。

正直、一体いくつの文房具をその身体に仕込んでいたんだ?とツッコミたかった。

「傷が・・・・先輩・・・・それって・・どういう・・・・」

彼女が驚くのも無理はない。

そう、僕の右頬に有った傷はきれいさっぱり消えていたのだ。

 

 

おまけ

 

 

鍋会

 

 

異世界であるミッドの冬もやはり、地球同様寒い。

冬真っ只中のある日

「うぅ〜さむぅ〜」

時折吹く冷たい風に身を震わせる良介。

「冬真っ盛りやもんな」

隣を歩くはやても帽子にコート、手袋にマフラーと完全防備の姿。

「こういう寒い季節にはお鍋がピッタリやな」

「そうだな、おでんにすき焼き、湯豆腐・・・・」

「キムチ鍋に豆乳、きりたんぽ・・・・アカン、何や話していると鍋を食べたくなってきた・・・・」

「それなら今度皆で鍋会でもするか?」

「ええな!!それじゃあ今度皆で・・・・ヤミ鍋でもしよか!!」

「沢山ある鍋のジャンルで何故そのチョイス?」

こうして鍋会をする事が決まり、良介の家で(ヤミ)鍋会をする事となった。

 

(ヤミ)鍋会当日、良介の家にて、鍋の出汁を作っていたはやてが出汁を味見すると、

「ん〜少し薄いな・・・・しゃーない」

はやては食材の入った鞄をゴソゴソと漁り、何かを鞄から出した。

「ヤミ鍋の禁忌を犯すか・・・・」

「ちょっと待て!!そんなモン鍋には絶対に入れるな!!」

大声ではやての行動に待ったをかける良介。

何故ならば、はやての手にはおやつの板チョコがあったからだ。

 

「ヤミ鍋とは言うけど、入れる食材は普通に鍋として食べられるモノ限定にしましょう」

アリサが予め鍋の中に入れる食材を制限してヤミ鍋会は始まった。

 

「おっきいウィンナー・・・・はむっ」

ギンガが鍋の中から大きなウィンナーを摘み、口に入れた。

「はむっはむっはむっ・・・・」

「「「「・・・・・・」」」」

ウィンナーを口にしているギンガを鍋会の参加者はジッと見ていた。

部屋を暗くしても鍋を温めているガスコンロの火で完全な暗闇にはならず、鍋の中身、そして参加者の顔は見る事が出来た。

(((なんかエロい・・・・)))

(ギン姉なんか色っぽい・・・・)

(やっぱり既婚者は違うの・・・・)

(くっ、これが人妻の色気か・・・・)

様々な思いの中、渦中のギンガはそんな事を知らず、ウィンナーを食べていた。

 

何の問題もなく、無事に鍋会が終わり、

「ふぅ〜お腹いっぱい」

「うぅ〜眠いの〜」

満腹でおねむになったメンバー達はその場に横になる。

「食べてすぐ寝ると、牛になるぞ」

良介が、行儀が悪いとばかりに迷信めいた事を言うと、

「人が牛になる訳ないの」

「そんな非科学的なことが起きる訳ないやろう」

「迷信だよ、迷信」

と、皆は信じていない様子。

そこへ、アリサが、

「食べた後すぐ寝ると、逆流した胃液が食道を炎症させてガンになったりするわよ」

と、冷静に指摘すると、寝ていたメンバーは即座に起きた。

良介の迷信よりもアリサの言葉を信じたメンバーであった。

 

 

あとがき

先日、スバルの中の人の斎藤千和さんが入籍した記念?と、未来のスバルが言ったステラと先輩との出会いを書きました。

原案ありのネタで申し訳ありせん。

時系列では、52話のミチトノソウグウヲシタヒ よりも過去の出来事になります。

では、次回にまたお会いしましょう。