五十九話 ミチトノソウグウヲシタヒ 別れの日
「それでその後どうしたんだ?」
「その後、ゲンヤのとっつぁんとギンガの所に挨拶に行ってな・・・・」
「うん」
「・・・・ゲンヤのとっつぁんに殺されそうになった」
「えっ!?」
異世界の良介の言葉にこの世界の良介は言葉を失う。
自分もギンガとの婚約を勝ち取るため、ゲンヤの下に挨拶に行った。
しかもその時にはギンガのお腹の中には既に桜花がおり、ゲンヤから殴られる覚悟はあったのだが、意外にもゲンヤはすんなりと自分とギンガの婚約を認めたため、異世界の良介の言う、『ゲンヤのとっつぁんに殺されそうになった』と言う言葉に意外性を感じた。
一方、ギンガの方は異世界の父(ゲンヤ)が何故そのような行動をとったのかなんとなく分かる気がした。
やはり、スバルはゲンヤにとって大切な末娘だし、何故かゲンヤは自分(ギンガ)よりもスバルに関して過保護な一面がある。
その要因は、基本ギンガはしっかりしているが、スバルにはどこか抜けている点があるためだろう。
現にこの世界でもゲンヤがスバルの彼氏を抹殺しようとしたこともあったくらいだ・・・・。
それは今、新たに娘となったウェンディにも拡大している。
「なのは達に結婚話をしたときも怖かった・・・・」
「あぁ〜それは、わかるわ。俺も怖かったもんなぁ〜・・・・」
二人の良介は遠い目をして過去の出来事を思い出していた。
「あの・・・・その後は?」
この世界のスバルが恐る恐る異世界の良介に聞くと、
「その後は、ちゃんと良介さんと結婚したよ」
答えたのは異世界のスバル(自分)だった。
「結婚してから、暫くしてこの子が生まれてきたの」
異世界のスバルはステラの頭を撫でながら言う。
「そ、そうなんだ・・・・」
スバルは異世界のスバルを見て、少し寂しそうに呟く。
「ねぇ、次はそっちの話を聞かせて。ギン姉がどんな経緯で良介さんと一緒になったのか知りたい」
「そうだな。次はそっちの話を聞かせてもらおうかな」
「あ、ああ・・・・」
良介はどういう経緯でギンガと一緒になったのかを異世界の自分とスバル、そしてステラに話した。
「・・・・成程、多少だが、俺たちの知る歴史とは若干違う点が幾つかあるな・・・・」
「そうね。あの年のミミズ退治は延長なんてされなかったし、港湾工業地帯で貴方達の世界であった火災事故はこの世界では起きていないし、ナンバーズの更生プログラム期間もそっちの方が短期間だったようだしね」
「ああ」
「そう言えば一つ気になったんだが・・・・」
「ん?なんだ?」
「俺たちの結婚のきっかけと言っちゃあ妙だが、お前たちの世界のカミンスキィー親子はどうなったんだ?」
やはりギンガの夫ということで、異世界のギンガの事も心配になった良介はギンガを精神的、社会的に追い詰めたあのカミンスキィー親子について聞いた。
「ああ、お前さんの話に出てきたその生け簀かねぇ本局のボンボン親子か?」
「ああ」
「確か
JS事件の後、汚職や不正をしていた管理局の高官が一斉摘発されたんだが、その中に確かそいつらの名前もあったな・・・・」「そうか・・・・お前さんの世界ではギンガを追い詰める前に逮捕されたか・・・・良かった・・・・」
此方の世界でカミンスキィー親子に嵌められ、追いつけられたギンガの姿を知っているだけに、異世界とはいえ、向こうの世界のギンガがこの世界同様、追い詰められたかと思っていたが、あんな事が起きる前に犯人であるカミンスキィー親子が失脚した事にホッとした。
どうやら、異世界での数の子達の更生プログラムがこの世界より短かったのはソレに影響しているようだ。
「ん?なんだ?やっぱり心配だったか?」
「そりゃあ、別世界とはいえ、ギンガはギンガだしな・・・・」
「お熱いこって・・・・」
「う、うるせぇ・・・・
//////」異世界の良介がこの世界の良介を茶化す。
互いに思い出話にふけっていると、既に日は沈んでおり、もうすぐ夕食時であった。
「もうこんな時間か・・・・」
「それじゃあ私たちはそろそろ・・・・」
異世界のスバルが「帰ろう」と言いだす前にこの世界のスバルが、
「ね、ねぇ折角だし今日は泊まっていかない?」
ここが宮本家にもかかわらずスバルは異世界の宮本一家を引き止める。
「でも、この世界の俺やギンガに悪いし・・・・」
異世界の良介がこの世界の良介とギンガに視線を向ける。
「ギン姉、い、いいよね?一晩くらい」
スバルはギンガに異世界の宮本家の皆を泊めても良いかを問う。その目は「お願い」と切願している目だった。
「私は構いませんよ・・・・良介さんはどうですか?」
「まぁ、そっちの俺達がいいなら構わないが・・・・」
「それなら泊まっていってよ。どうせなら別の世界のアタシ自身とも手合わせとかやりたいし」
この世界の宮本家の宿泊許可が出て、スバルはより強く異世界の宮本家に泊まっていくように勧める。
「・・それならお言葉に甘えて、今夜は泊めてもらおうかな?」
「ホント!?ありがとう!」
スバルはもう少しだけステラと過ごせることに喜んだ。
泊めてもらうお礼として異世界のスバルが今日の夕食を作ると言って、台所へと向かう。
「ギン姉、冷蔵庫の中身使ってもいいよね?」
「ええ、構わないわよ」
ギンガからの返答を聞いて、異世界のスバルは冷蔵庫を見て、献立を考えて冷蔵庫の中から食材を出す。
そして、
「ねぇ、この世界のアタシ、夕食作るのを手伝ってくれない?」
「えっ!?アタシが!?」
「それなら私が手伝おうか?スバル?」
異世界のスバルはこの世界のスバルに夕食を作るのを手伝ってくれと言い、スバルは突然指名されて、戸惑い、そこをギンガがスバルに代わって手伝おうかと問うと、
「大丈夫だよ。ギン姉。教えながら作るから。もう一人のアタシ、料理を食べるだけでなくて、これからは作る事も覚えないとダメだよ」
「う、うん・・・・」
こうして宮本家には二人のスバルが立ち、今日の夕食の準備に取り掛かった。
しかし、この世界のスバルも特別救助隊に入隊してから一人で寮住まいをしているので、料理はまったく出来ないというわけではなかったが、異世界のスバルはこの世界のギンガ同様、なのはの母、桃子から料理の手ほどきを受けており、ギンガに負けないくらいの腕前があった。
それはやはりギンガと同様に一途に良介と娘に美味しい料理を作ってあげたいと言う思いからであった。
異世界のスバルはこの世界のスバルに料理の手順を教えながら黙々と夕食の準備を整えていく。
一方、料理を教えられているこの世界のスバルの方はというと、気まずさが付き纏った。
若干、台所が気まずい空気が漂い始めた時、
「ねぇ、もう一人のアタシ・・・・」
異世界のスバルがこの世界のスバルに料理以外の事で話し掛けてきた。
「な、なんでしょう?」
目の前にいるのはもう一人の自分なのだが、向こうの自分の方が年上という事で思わず丁寧口調になるスバル。
「もしかして、ステラがいなくなるのが寂しいけど我慢しなきゃ、とかそんなこと思っているでしょう?」
異世界のスバルが言った事はまさに図星であり、その言葉に料理をしていたスバルの腕がピタリと手が止まる。
「そ、そんなこと・・・・」
スバルは反論しようとするが、どこか弱弱しい。
「あのね、アタシは世界が違うけど、アタシもスバルなのよ。自分がもし、こういう立場に置かれたら、なんて気持ちは分かるわ」
「・・・・」
やはり、目の前にいるのはもう一人の自分なんだ。
どう転んでも自分自身を欺くことは出来ない。
それにしても、未来の自分は、年齢や様々な経験を重ねているせいか、口調が何となく、訓練校と六課時代の相棒に似ていると思うスバルだった。
そんな事を思っていると、異世界のスバル(自分)は、
「皆に心配かけたくないのは分かるけどね、辛いならさ、良介さんを頼ってもいいんだよ。甘えてもいいんだよ」
「で、でも、この世界の宮本さんはギン姉の旦那さんだし・・・・」
「確かにこの世界ではギン姉の旦那さんだけど、貴女にとっては義兄さんでしょう?妹が兄に甘えたり、頼ったりするのは家族として当たり前だよ」
「家族・・として・・・・」
「うん。現にアタシの世界でもギン姉やチンク姉、ノーヴェも良介さんに頼ったりしているし、ウェンディなんてアタシの目の前で良介さんとベタベタとくっついてくるんだよ・・・・良介さんはアタシの旦那さまなのに・・・・それに抱き付かれた良介さんの方も満更悪くはないなって顔しているし・・・・」
何かイラつく事でも思い出したのか、異世界のスバルが包丁の柄を強く握ると、ミシッという音が鳴り、背中からはダークオーラが滲み出てきた。
「・・・・・」
スバルはもう一人の自分の行動を若干引きながら見ていた。
「ま、まぁ・・・・多少くっついたり、頼ったりするくらいならギン姉はきっと許してくれるよ。きっと・・・・」
そう言って異世界のスバルは微笑む。
それは本当に幸せそうで、優しい気持ちになるような笑みだった。
「頼る・・・・甘える・・・・」
「そうよ。最初は恥ずかしいかもしんないけど、慣れればたいしたことないわよ」
「あまり慣れ過ぎると、ギン姉がヤキモチを焼きそうだけど・・・・」
「あははははは・・確かに・・・・」
異世界のスバルは乾いた笑いをするしかなかった。現に自分もウェンディがあまりにも良介にベタベタしすぎる光景を見て、二人をボコボコにした経験から多分ギンガもそうするだろうと容易に想像がついたのだ。
二人のスバルがそんな話をしている時、スバルを除くメンバーがリビングで夕食が出来るまでの時間を潰すため、宮本家の皆とステラがこの世界で過ごした出来事を異世界の良介に話していた。
「へぇーそんなにこの世界のギンガは強かったのか?」
「うん、もしかしたらアタシの知っているギン姉さんよりも強いかも。それに料理もママりんと同じぐらいとっても上手いんだよ」
ステラの中で一番印象的だったのはやはりギンガとの模擬戦とこの世界で食べたギンガの料理だった。
「へぇーそっちのスバルは料理が上手いんだ?」
「うん、なのはさんのお母さんの桃子さんに教わったって言ってた」
「やっぱり、桃子を頼ったのか」
「ああ、母親としても桃子は大ベテランだからな」
「そうですね。私も色々桃子さんに色々相談にのってもらいましたし・・・・」
「だな、それにスバルの奴、俺においしい料理食べさせたいからって結構気合入れて習っていたらしい。いやぁ、ホントいい嫁さんを俺は貰ったぜ」
異世界の良介がそう言うと、良介が少しムッとした表情になり、言い返す。
「俺の嫁さんも献身的に俺に尽くしてくれるんだぜ。炊事、洗濯、どれをとっても天下一品だぜ」
すると異世界の良介も対抗するかのように、
「俺の嫁だってな・・・・」
と、また異世界のスバルの自慢話をし、それを聞いた良介も、
「俺の嫁だって・・・・・・」
「なにぉ〜俺の嫁だってなぁ・・・・」
やがて二人の良介の間で互いの嫁自慢合戦が始まった。
その様子はアリサとミヤ、ステラは呆れながら、そして話の渦中にあるギンガは顔を赤らめながら見ていた。
そこに、
「そういえばステラも最近、週一のペースで桃子さんの所に行って、お菓子作りを習っているようだけど、誰か食べさせてあげたい相手ができたの?」
「は?」
異世界のスバルが台所で調理を続けながら
SLB級の威力のある言葉を言い放った。意味が分からずステラはきょとんとした表情を浮かべる。しかし父親に与えた衝撃は計り知れなかったようだ。
「す、す、す、す、ステラ・・そ、そ、そ、それは本当なのか?か、かか、彼氏!?ステラに彼氏!?」
異世界の良介はあまりの衝撃ですっかり狼狽してしまいパニック状態だ。
「な、な、何を言っているのさ、ママりん!! あ、アタシにそんな相手はいないって!!」
「えぇ〜でもウェンディから聞いたわよ。最近仲のいい年上の男の子がいるって・・・・もしかしてこの前家に来たあの子かな?」
慌てて訂正するステラだが、母親から矢継ぎ早に次弾が投下されてしまう。
「なっ!? た、確かに先輩とはよく遊びに行ったりするけど、そ、そんな仲じゃないもん!!・・・・もう、ウェンディ姉さんのお喋り・・・・」
ステラは必死に否定するが、母親に言われて彼の顔を思い浮かべてしまい、体温が上がり、顔もほんのり赤い。
そして母親に仲の良い先輩の事を喋ったウェンディに愚痴る。
「ほ、ほら、パパりんからも何か言ってよ!!」
ステラは自分だけではどうにもならないと悟ったのか、父親に助けを求める。
しかし、父親からはなんら反応もない。「あ、あれ?ぱ、パパりん?」
ステラが顔を向けると、異世界の良介は、
「フフフフフ・・・・ハハハハハ・・・・・・どこのチャラ男か知らねぇが、いい度胸だ!!家のステラを誑かしたんだ・・・・その罪はテメェの命で償ってもらうぜ・・・・ハハハハハ・・・・・」
すっかり親バカモードの良介。その姿は良介の知る何時ぞやのゲンヤの姿と被る。
「な、何バカな事言ってんのよ!?」
ステラは思わず、父親の頭を思いっきり殴り気絶させて黙らせる。
「まったくもう・・・・」
あまりの親バカっぷりに呆れるステラ。
そんな父娘の姿を見たこの世界の良介は、
「な、なぁ・・・・やっぱり桜花が大きくなったら俺もああなるのかな?」
と、娘の一撃によって気絶した別世界の自分を指さしながらギンガとアリサ、そしてミヤに尋ねる。
「多分・・・・」
「なるわね」
「ですぅ〜」
三人は良介の言葉を即座に肯定する。
「へぇ〜。ステラの好きな人ねぇ。アタシも興味がある。ねぇ、一体どんな人?カッコイイの?」
「こ、こっちのママりんまで!?」
暴走した父親が気絶したことにより有耶無耶になるかと思われた話題が、年頃の女の子として気になるのか、この世界のスバルも参加してきた。
さすがにこれは予想外だったのかステラは驚きの声を上げた。
「白状しちゃいなさい。お母さんがステラの恋のお手伝いするわよ」
「だ、だから、そんなんじゃないの!! ただの年上の男友達なの!!」
ニヤニヤとした笑みを浮かべる母親達に、ステラは頬を赤く染めながらも強く反論する。
「そっか。違うのか」
「そ、そ、そうなの。ただの友達だからね」
あっさりと引き下がった母親に、ステラはホッと胸をなでおろす。
しかし、
「でも、キスくらいしてみたいとか思うんじゃない?」
「キッ、キスぅ!?」
油断していたところに今度は特大のアルカンシェル級の破壊力を持つ言葉。
母親に言われ、つい、そのシーンを想像してしまい、ステラの顔が熟れたトマトのように真っ赤に染まる。
消そうと意識すればするほど、頭の中からその想像をかき消すことができず、ステラの脳内をそれ一色に染めてしまう。
ステラの思考はぐちゃぐちゃに乱され、混乱に比例するように体温は上がっていく。
「キキキキ
s・・・・・」
バタっ
頭からボンっと、湯気でも出しそうなほど、殊更に顔を染め上げたステラは、そのまま目を回して倒れてしまった。
「ステラもまだまだだね。私の娘なんだからそのくらい耐久があってもいいと思うんだけど・・・・」
「スバル・・貴女わざと嗾けたでしょう?」
ギンガが呆れた表情をしながら異世界のスバルに聞くと、
「あっ、バレた?だって、弄りがいがあるじゃない」
ギンガの問いに異世界のスバルはウィンクしながら答える。
「はぁ〜母さんそっくりね」
自分達の母、クイントを思わせるような異世界のスバル。
そんな異世界のスバルに呆れるギンガ。
「だって、お母さんの娘だもん♪〜」
やはり血筋は争えなかった。
その後、二人のスバルが作った夕食を食べたこの世界の宮本一家。
異世界の良介が言うとおり、確かに異世界のスバルが作った夕食は美味しかった。
ギンガは異世界のスバルに料理の作り方を尋ねる場面もあった。
例え、スバルが妹でも、今、目の前にいる異世界のスバルはギンガよりも年上で、経験も今のギンガよりも豊富なためであった。
その日の夜・・・・。
異世界の良介とスバルの寝室では・・・・
「懐かしいですね、良介さん・・・・・」
「あ、ああ・・そうだな・・・・」
迫りくるスバルにタジタジの良介。
「うふふ・・・・久しぶりに新婚時代を思い出して・・・・」
「い、いや・・・・昨日の夜もしたばっかだし・・・・・ちょ、ちょっと・・・・アーッ!!」
異世界の良介が妻のスバルに食われている中、この世界の良介の寝室では・・・・
「うふふ・・・・向こうのスバルも頑張っているようですね・・・・それじゃあ良介さん、私達も・・・・」
「ちょ、ちょっと待て!!ギンガ。な、何も向こうと張り合う必要は無いんじゃないか?」
迫りくるギンガにこの世界の良介もタジタジであった。
「でも、艶のあるスバルの声を聞いて、なんだか私も火照っちゃって・・・・」
「だ、だからって・・ちょっ・・・・アッ―!!」
異世界のスバル(妹)に負けていられまいと、この世界のギンガも良介に襲いかかった。
「・・・・ステラとスバルの部屋に結界を張ったのは当たりだったみたいね・・・・」
両宮本家の寝室の惨状を聞いて、アリサは咄嗟の機転でスバルとステラが一緒に寝ている寝室に防音の結界をミヤに張ってもらった。
翌日、ギンガ、スバル、異世界のスバル、ステラの四人はジムの屋外練習場で模擬戦を行なった。
観戦者の中で二人の良介は少しやつれているように見えた。
何故、模擬戦を行ったのかと言うと、これもスバルからの申し出で、異世界のスバル自身ももう一人の自分と姉の実力を見たかったので快く応じた。
ギンガ・スバル
VS異世界のスバル・ステラ の二対二の模擬戦から始まり、ギンガ
VS異世界のスバルスバル
VS異世界のスバルスバル
VSステラギンガ・ステラ
VS異世界のスバル・スバルギンガ・異世界のスバル
VSスバル・ステラ等、組み合わせを変えながら四人は模擬戦を楽しんだ。
異世界のスバルは強く、ギンガと引き分けるほどの腕前だった。
ギンガ本人としては今までスバルと戦ってきて負け無し・・まして引き分けたこともないので異世界のスバルの腕前には驚くものがあった。(
JS事件の際は洗脳されていた事と、良介が命をかけてギンガを足止めしたのでノーカン)
楽しい時間はあっという間に過ぎ、等々お別れの時間となった。
「さて、準備完了・・・・何時でも帰れるぞ」
異世界の良介が庭に魔方陣を描き、自分達の世界から持ってきたロストギアを起動させる。
「別の世界に急に飛ばされて右も左も分からないところに、この世界のパパりんたちに会えて本当によかったよ。どうもありがとう」
ステラが宮本一家に一礼し、お礼を言う。
「いや、俺たちもステラと一緒に過ごせて楽しかったぞ」
ステラはお世話になった宮本家の皆と丁寧に握手を交わす。
「ステラ、時間だ。そろそろ帰るぞ〜」
異世界の良介が声をかける。いよいよ帰る時が来たようだ。
「うん、今行く」
するりと滑るように手を解き、本来の両親の元に駆け寄っていくステラ。
「それじゃあね、もう一人のパパりん、ママりん!!」
ステラは輝くような笑みを浮かべるが、やはり別れが悲しいのだろう。その目には光るものがある。
「ああ、そうだ!もう一人の俺!」
異世界の良介が何かを思い出したかのようにこの世界の良介に声をかける。
「ん?なんだ?」
「いいか、・・・には気をつけろよぉ!!俺達の方は何とかなったが、お前の方はこの先起こるかもしれないからな!!」
「えっ!?なんだって!?」
「だから、・・・には気をつけろよ!!」
異世界の良介がこの世界の良介に何か注意を促しているようだが、肝心の部分がよく聞こえない。
「さようなら!!もう一人のパパりん、ママりん!!」
やがて魔方陣が光り、辺りを照らす。そして光が収まった頃にはその場には元から誰もいなかったかのような静寂に包まれた。
「・・・・帰っちまったな」
ほんのさっきまでステラ達が居た場所を見ながら良介が呟く。
「うん・・・・」
スバルは頷くと、急に顔を伏せたまま良介の胸に押し付けるように抱きついた。そして顔を見られまいとギュッと力強く抱きつく
。「スバル?」
「ごめんなさい、宮本さん。急にこんなことして。・・・・でも、もうちょっとだけ・・・・もうちょっとだけこのままでいさせてください・・・・・」
良介の胸に飛び込み、顔を伏せたスバルの身体は小さく震えていた。
それはスバルが声を殺して泣いているのだとその場に居る誰もが理解した。
スバルに急に抱きつかれ良介は困惑し、ギンガに視線を移すと、ギンガは一度頷いた。
それはそのまま抱いていてあげてというギンガの意思表示だった。
ギンガは何故スバルがこのような行動に出たのか痛いくらい分かっていた。
立場を変えれば今、良介にしがみついて泣いているのは自分だったかもしれないと言う事を今回の件で知ったのだから・・・・。
スバルに抱きつかれながら良介はもう一人の自分(良介)が言い残した言葉が妙に引っかかった。
もう一人の自分は一体、何に気をつけろと言いたかったのだろうか?
良介がこの言葉の意味を知るのはもう少し先の未来になってからだった・・・・。
朝、宮本家のリビングにて・・・・。
「はい、良介さん。あ〜ん」
「あ〜ん。もぐもぐもぐ・・・・」
ステラの眼前では両親が娘の目の前にも関わらず、朝から全力全開の桃色空間を展開している。
独身男が見たら口から砂糖を吐くか、発狂し襲いかかるぐらい甘ったるい空気が宮本家のリビングを支配している。
「パパりん、ママりん。いい加減にしてよぉ〜」
ステラは基本的に両親の事は好きであるが、人目をはばからずイチャイチャするこの時だけはどうしても好きにはなれない。
「はっ、す、すまん。つい、いつもの調子で」
「あ、あははは〜」
「少しは抑えてよ。この前もスーパーの出入口でイチャついていたでしょう。バカップル全開なのを友達に見られて次の日アタシがからかわれて散々だったんだからね」
「そ、それはすまなかった・・・・」
「今度から気をつけるから・・・・」
両親は、今後は気をつける事を言っているが、またやるだろうと内心諦めているステラだった。
「っと、いけねぇ! そろそろ出ないと依頼人との待ち合わせに遅刻しちまう!!」
良介はしっかりとスバルの作った朝食をすべて平らげると、すばやい動きで準備を完了し、玄関に向かう。
「じゃ、行ってくるな」
「いってらっしゃい。良介さん。早く帰ってきてね」
「出来るだけ早く帰ってくるよ」
口付けを交わし、良介は依頼人との待ち合わせ場所に走って行った。
「ステラ、貴女もそろそろ出ないとまずいんじゃないの?」
「ん?・・うわ、いつのまに!?」
ステラは食事を無理矢理にでも口に押し込んで素早く身だしなみを整えると、玄関から出て行った。
「いってきま〜す〜」
「いってらっしゃい」
スバルの声を後ろで聞きながらステラは学校へと向かった。
「うぅ〜眠い。あぁ〜朝日がまぶしい・・・・」
どこか危うげな足取りでふらふらと通学路を歩くステラがぼそりと呟く。
その顔には覇気がなく、気を抜いたら今にもその場で眠ってしまいそうだ。
家を出た当初は早く学校に行かなきゃと思い勢い良く飛び出たが、通学路を歩いているうちに強烈な眠気がステラに襲ってきた。
「元の世界に帰ってきて精密検査を受けるのはいいわよ。・・・・でも・・・・でも、なんで一晩中かかるのですか?しかも翌日からいつもどおり学校ですよぉ〜しかも今日はテストがあるし〜あぁ〜不幸だぁ〜」
とほほ、と肩を落としながらもステラは歩みを止めない。
むしろ立ち止まったら寝る。というか独り言をやめても寝そうだ。精密検査が終わってまもなく登校、寝る暇さえ与えられていない。もう、色々限界なのだ。
何故検査にこんな時間がかかったのかというと、検査が終了したと思ったら、検査結果がエラーを起こしたり、再検査をしようとしたら検査機器が故障したたりと何故か不幸が立て続けに起こったのだ。
結局、検査時間よりも機器の修理時間に大幅に時間を取られ、ステラは満足に睡眠をとる事が出来なかったのだ。
それならば今日は学校を休めばいいのにと思うのだが、タイミングが悪く、今日の科目の中の一つにテストが含まれており、休むに休めなかったのだ。
父親の良介と母親のスバルも昨晩ステラの検査に立ち会い、条件は同じなのだが、良介は仕事柄、徹夜は慣れているし、スバルは結婚後、管理局を寿退社し、今は嘱託魔導士として活動しているので、管理局からの要請がなければ専業主婦と変わらないので、日中に昼寝することが出来る。
つまりステラのみが、貧乏くじを引いた結果となった。
「あぁ〜不幸だぁ〜」
激しい眠気で朝からテンションただ下がりのステラ。
そこに、
「みぃ〜やぁ〜もぉ〜とぉ〜!!」
ばさぁっとステラのスカートが後ろから突然めくられる。
ステラの通う
St(ザンクト).ヒルデ魔法学院、小等部の制服はスカート部分が短い、そのため、スカートをめくられてしまえばすぐに中が見えてしまう。まぁ、ステラの場合は普段から激しい運動をすることが多いため、スカートの下に短パンを履いているので最悪の事態は回避されるのだが、だからといって突然こんな公衆の面前でスカートをめくられて恥ずかしくないわけはない。
「ひゃあっ!!??」
突然の奇襲に眠気も一時的ではあるが覚める。
「はァ〜。ステラってば、またスカートの下に短パンなんて履いて・・・・」
「ル〜リ〜コ〜ッ!! いつも言っているでしょう、人のスカートを捲るな!!それに履いている一番の理由が、アンタがアタシのスカートを捲るからでしょう!!」
「いやァ〜 親友がちゃんとパンツ履いているか気になるのよ〜」
「履いている!!確かめなくてもちゃんと履いているわよ!」
ステラのスカートをめくったのはルリコ・サテン、ステラの幼馴染であり、親友であり、同じ学校のクラスメイトだ。
自分の髪と同じ黒髪で、その感触はサラサラしており、そこに白い花を模した髪飾りを着けている。
「まァまァ、落ち着いて、なんなら私のパンツ見る?」
「だぁ〜っ! 自分のスカートめくりあげようとすんな!!見えちゃうから、それに周りに沢山人いるから!!止めなさい!!」
とぼけた調子で自分のスカートをつまむルリコをステラがあわてて抑える。
この様子をかつて、母親のパートナーだったティアナ・ランスターが見たら、ステラがスバルに似ている事から「こんなのスバルのキャラじゃない!!」
と言っていただろう。何しろスバルがツッコミ役を演じている様に見えるのだから。「あっはっは。やっぱりステラはいじりがいがあっていいわ」
「アタシはあんたのおもちゃか?・・ふぁ〜・・・・」
ルリコからの奇襲を受け、驚きはしたが、次第に落ち着きを取り戻すと、再びステラを強烈な眠気が襲う。
ステラは目を擦り、思わずあくびをする。
「ん?どうしたの?ステラ?随分眠そうだけど?それに昨日、突然消えちゃったから物凄く心配したんだよ?」
「うん・・・・ありがと・・・・・そしてお休み・・・・」
「えっ!? ちょ、ちょっと!ステラ、貴女、本当に大丈夫なの?」
今にも倒れそうな親友の様子に驚くルリコ。
「大丈夫なのかと言われると、物凄く眠い、眠いんだよ、眠いんですのよの三段活用〜・・・・ふぁ〜んぅ。 あぁ、テンションあげてもダメみたいだわ。ルリコ、後はよろしくぅ・・・・・ぐぅ〜」
そう言うや否や、ステラはふら〜っとルリコの肩にもたれかかると、そのまま気持ちよさそうに寝息を立て始めた。
しかも器用に立ったまま寝ているのだ。
「えっ!? ちょ、ちょっとステラ!?しっかりして!! こンなところで寝ないでよぉ! えぇ〜!! これどうすンのよぉ!? 私がこのまま連れて行くの!? あぁ〜もぅ〜、不幸だぁー!!」
ゆすっても、声をあげても起きないステラ(親友)に予想外の出来事を押し付けられた少女の叫びが朝の通学路にこだました。
あとがき
ステラの親友のルリコ・サテンのイメージは苗字から御察しの通り、とある科学の超電磁砲の登場人物、佐天涙子です。
漫画Vividでヴィヴィオ達が通う
St(ザンクト).ヒルデ魔法学院、小等部の制服でスカート部分が短かったので、書いてみました。少し、これからの展開に伏線を含ませてみました。
一体、異世界の良介君は何に注意しろと言ったのでしょうか?
それは今後の展開で明らかにしていきたいと思っています。
では、次回にまたお会いしましょう。