五十五話 ミチトノソウグウヲシタヒ 出会った母と子
「それでスバルにはどうするの? ステラの事を話して会わせるの?」
一応、住んでいる世界は違うがスバルとステラの二人は親子関係なので、フェイトがこの件をスバルに話すかどうかを聞いてきた。
「う〜ん・・・・どうするかな・・・・」
正直に言って、良介もその事については、どうするべきか判断に困っていた。
ステラにとってスバルは母親にあたるのだが、この世界のスバルはステラの母親にはなれない。
最も良介がスバルと浮気をすれば話は少し違ってくるのだろうが、やはりそれはあり得ないので、やっぱりこの世界にステラが誕生する可能性は極端に低い。
良介としては無用の混乱はなるべく避けるべきだと思っていた。
本音を言うならばフェイト達にバレたことさえ厄介だったのだ。
良介がスバルとステラの事を思っていると、
「アタシはこの世界のママりんにも会ってみたいな・・・・」
と、ステラは良介の心配事を知らず、この世界のスバルに会いたいと言う。
「う〜ん・・・・ギンガとアリサは・・どう思う?やっぱり会わせるべきだと思うか?」
事情を知る二人に良介はスバルとステラを会わせるべきか会わせない方が良いかの意見を聞く。
「個人的意見としてはこれ以上の混乱は避けるべきで会わせない方が良いと思います。・・・・でも・・・・・」
ギンガは会わせない方が良いと言うが、最後の方で言葉を詰まらす。
「でも?」
「一児の母親としての意見では、やっぱり会わせてあげたいです・・・・」
やはり一児の母親でもあるギンガは例え、異世界の姪とは言え、母として子を想う気持ちは人一倍強かった。
「そうね、私もギンガと同じ意見だわ」
「そうか・・・・わかった・・・・」
ギンガ、アリサはスバルに会わせるつもりでいる。おそらく良介が止めた所でそれを簡単に了承するとは思えない。
それに無理に止めれば、ステラ自身がスバルを訪ねてクラナガン中を虹色のウィングロードで爆走する恐れがある。・・・・と言うか、良介とスバルの子供なのだ、必ずやる!!絶対にやる!!
そう思った良介は腹を括りスバルに電話を入れた。
さすがにクラナガンの街中を虹色のウィングロードで爆走されたら、かなり面倒な事になるので・・・・。
「はい、スバルです。あっ、宮本さん。どうしたんですか?」
「スバル・・明日、時間あるか?」
「えっ!?明日ですか?ちょっと待ってください。・・・・・う〜んと・・・・明日は・・・・・」
突然の良介からの電話で、しかも自分の明日の予定を聞かれたので、スバルは自分の予定が書かれている手帳を広げ、明日の予定を確認する。
「明日は、夜からでしたら大丈夫ですよ。明後日は非番ですし・・・・」
「そうか・・・だったら、明日仕事が終わったら家に来てほしい」
「宮本さんの家に?」
「ああ、お前に会わせたい人がいる・・・・」
良介が真剣な表情をして言うと、スバルは急に顔を赤くして、
「み、宮本さん・・そんな・・私まだ、お見合いは早いと思います
////// それに私の前になのはさんやはやてさん、フェイトさんを紹介した方が・・・・//////」「ん?なんで?俺がお前の見合いをセッティングしなきゃならねぇんだ?そういうのはゲンヤのとっつぁんの仕事だろうが」
良介の真剣な表情と言葉をお見合いと勘違いしたスバル。
どういう経緯でスバルがお見合いなのだと勘違いしたかは不明であるが、ともかく勘違いしているスバルに良介はツッコム。
「えっ!?違うんですか?」
「当たり前だろう!!」
要件の予想がお見合いではないと言われ、少しガッカリした様子のスバル。
何気に少し期待はしていたのかもしれない・・・・。
「じゃあ会わせたい人って誰なんですか?」
「それは明日、家に来てからのお楽しみだ」
「えぇ〜もったいぶらないで教えてくださいよぉ〜」
自分と会わせたいと言う人の事を明かさない良介にスバルはプクーっと頬を膨らませ、自分と会わせたいと言う人の正体を良介に問う。
「電話で話すよりも直接会ってほしいんだ。・・その方が説明しやすいからな・・・・それに多分そっちの方が驚くし、面白いと思うから・・・・本人もその方を望んでいるし・・・・」
「???」
良介の言葉にイマイチ理解が出来ていない様子のスバルは首を傾げている。
「まぁ、ともかく明日仕事が終わった後、家に来い、いいな?」
「は、はぁ〜」
何とも煮え切らない様子でスバルは明日の仕事帰り、宮本家に行くことにした。
「それでどうでしたか?パパりん。この世界のママりん、来てくれますか?」
スバルとの電話が終わると、ステラが不安そうに良介に尋ねてきた。
「ああ、あそこまで言ったんだ。スバルの性格なら気になってしょうがない筈だ。明日ちゃんと家に来るだろう」
良介の言葉に明るい表情をするステラ。
「それにしてもスバル・・言うようになったじゃない・・・・」
先ほどのスバルのお見合い発言がどうも気に入らなかった様子のフェイト。
「大体リョウスケがお見合いをセッティングしたとしてなんで真っ先にスバルに声をかけるのよ・・・・そんなわけないじゃない・・・・そうよ・・きっと・・・・」
フェイトが黒いオーラを出しながらブツブツと何かを呟いている。
正直言って怖いので、誰もフェイトには話しかけなかった。
そしてフェイトは帰る時までも黒いオーラを放ち続けており、一緒に帰るティアナに少しだけ同情した。
ティアナの視線は「先輩責任とってくださいよ」と訴えて来ていたが、良介はあえて火中の栗を拾うことはせず、ダークオーラを出しているフェイトに対し、スル―を貫き通した。
そして次の日の夜。
昨日の約束通り、その日の仕事を終えたスバルは、宮本家へとやって来た。
スバル本人も良介の予想通り、自分に会いたがっている人物が物凄く気になっていたのだ。
一体どんな人なのだろうかと思いつつスバルはチャイムを鳴らし、声をかけた。
「こんばんは。宮本さん」
「よく来てくれたスバル・・・・さ、上がって、上がって」
「お、お邪魔・・します」
スバルは緊張した面持ちで宮本家の玄関からリビングへと進む。
昨日の良介の真剣な表情からこれから会う人物はきっと偉い人なんだろうと思っていたスバル。
お見合いではないと言われたが、やはりどんな人と会うのか分からないため、緊張する。
良介は仕事柄、管理局のお偉いさんや他の世界の色んな人と繋がりがあるため、その事実がスバルを緊張させる要因の一つとなっている。
「それじゃあここで待っていてくれ・・今、連れてくるから・・・・」
「は、はい・・・・」
スバルをソファーに座らせ、良介はリビングを後にする。
良介がリビングを出てから暫くすると、奥の方からドタドタと、廊下を物凄い勢いで走る足音が聞こえて来た。
「な、なんだろう?」
不安と緊張の中、突然リビングの扉が開く、
そして・・・・・・。
「ママりーん!!」
スバルに一人の女の子が勢い良く飛びついてきた。
「えっ!?えっ!?」
突然の事態にスバルは現状を把握出来なかった。
「ステラ、いきなりそんな登場じゃあ。スバルの奴が混乱するだろう?」
「み、宮本さん・・どういうことなんですか?それにこの子は?」
混乱するスバルがリビングに入ってきた良介に事態の説明を求める。
「取り敢えず、落ち着けステラ。スバルが混乱していてそれじゃあ話すこともできないだろう?」
「はーい」
良介に落ち着くように言われ、ステラはスバルから離れた。
ステラが離れてもスバルは未だ混乱の渦中にあった。
「あ、あの・・宮本さん・・・・」
「あぁ〜悪い。いきなりこんな登場されちゃあ混乱もするわな・・・・スバル・・まずはこの子を紹介しよう」
「は、はい・・・・」
ステラの肩に良介が手を置き、ステラを紹介しようとしているとき、スバルは心の中で、
(それにしてもこの子、昔の私とそっくり・・・・でも、なんで?)
と、初めてステラを見た印象を呟いていた。
「この子の名前は、宮本 ステラ・・・・俺とお前との間に出来た娘だ」
「・・・・えっええええええええっー!!」
ステラの親を聞き、スバルは家の中全体に響くのではないかと思うぐらいの声をあげた。
「そ、そんな・・私・・いつ宮本さんと・・・・ハッ・・それ以前に私、ギン姉から宮本さんを奪っちゃったの?私泥棒猫なの!?いや、それよりも宮本さんが私をかどわかして不倫をしていたのかも・・・・。うん、きっとそうだ・・・・宮本さん!!よくもギン姉を裏切って私と不倫しましたね!!」
スバルの言っていることは支離滅裂で聞いている良介が哀れんだ目をしてきた。
まぁ、良介がかなり大雑把な説明をしたのも悪かったのだが・・・・。
「な、なんですか!?その可哀想なモノを見る目は!?そんな目をしても無駄ですよ!!私と不倫してギン姉を裏切った上に私との間に子供も作るなんて!!」
スバルの妄想?がどんどんエスカレートしていく。
異世界の娘であるステラ自身も今の妄想爆走状態のスバルを見て唖然としている。
(ママりんにこんな秘められた妄想癖があったなんて・・・・)
自分の知らない母親の隠された一面を垣間見たような心地のステラであった。
「スバル、貴女少し落ち着きなさい」
ギンガは見かねてスバルの妄想に「待った」をかけた。
「ギン姉!!ギン姉はいいの!?宮本さん、私と不倫していたんだよ!!しかも私に子供まで生ませたんだよ!!」
ギンガも我が妹ながら、スバルの支離滅裂な妄想発言を聞き、良介同様に憐れんだ目でスバル(妹)を見る。
(とりあえず、スバルを落ち着かせないとね。このままだとスバルがイタイ子に見えちゃうから・・・・)
ギンガはステラの事を話す前にスバルを落ち着かせることにした。
「・・スバル、よく考えてみなさい。あなた一体、何時良介さんの子供を生んだの?」
「何時って・・それは!・・・・何時だろう?」
ギンガの問いにようやく妄想を止めたスバル。
「あぁ〜悪いスバル。説明不足だったな。この子は俺たちの世界とは違う世界の俺とスバルとの間に生まれた子なんだ?」
「違う世界?」
「ああ・・・・」
良介は昨日、フェイトたちに話した平行世界、パラレルワールドの事をスバルに説明し、ステラがロストギアの影響で自分のいた世界からこの世界に来た事も話した。
「私と宮本さんが結婚している世界・・・・」
スバルは良介と違う世界の自分の娘、ステラを見て、次にリビングにあった写真立てに目を移す。
写真立ての中には良介とギンガの結婚式で写した写真が入っており、タキシード姿の良介とウェディングドレス姿のギンガが写っている。
スバルは自分がウェディングドレスを着て、良介の隣に立っている事を想像し、顔を赤らめた。
「お〜い、ママりん大丈夫?」
ステラが突然顔を赤らめたスバルの顔を覗き込む。
「はっ、だ、大丈夫だよ。えっと・・・・」
「あっ、アタシのことはステラでいいよ。住んでいる世界は違うけど、貴女はアタシのママであることに変わりはないから」
「う、うん・・・・分かったよ。・・・・す、ステラ・・・・」
スバルは緊張した面持ちで異世界の自分の名前を呼んだ。
スバルは最初こそ、ぎこちない様子であったが、ステラと会話をしていく内に段々と緊張を緩め、友達感覚でステラと談笑を楽しんでいた。
元々、慣れてしまえば人懐っこい性格のため、敵意さえ無ければスバルは誰とでも直ぐに打ち解ける。そしてそれは娘のステラも同様で、二人は親子なんだとスバルとステラを除く、皆は納得出来た。
「ねぇ、ステラ。 貴女から見た異世界の私って・・・貴女のママはどんな感じなの?」
フェイト達同様やはりスバルももう一人の自分に興味があるようで、ステラにもう一人の自分の事を聞いていた。
「アタシの知っているママりん? う〜んと・・・・一言で言えば甘え上手かな?」
「甘え上手?」
「うん、よくアタシと一緒によくパパりんに抱きついているよ。人前とかでも平気で・・・」
「へ、へぇーそうなんだ・・・・」
まぁ、この世界のスバルも良介ではないが、よくティアナやギンガに抱きついているが、異性には抱きつかないので、もう一人の自分は大胆だな、と思うスバルであった。
「あと、意外と独占欲が強いかな?」
「独占欲?」
「うん、この前ウェンディ姉さんが悪巫山戯でパパりんに抱きついてキスしようとしたら、目を金色にさせてパパりんとウェンディ姉さんをボコボコにしていた」
「・・・・」
ステラの言葉を聞き、戦闘機人モードになるまで我を忘れたのか・・・・と、冷や汗を流すステラを除く一同。
「その後、その場にボコボコにしたウェンディ姉さんを放置して、パパりんを部屋に引きずっていったよ。部屋の中で何があったのかは知らないけど、夜にはちゃんと仲直りをしていたかな・・・・ただその時、パパりんは物凄くげっそりしていたけど、反対にママりんは妙に顔の血色が良かった・・・・きっと、パパりんは言葉では表せない御仕置きを受けたんだよ・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・
//////」「・・・・・
//////」(やっぱり、ナカジマ家の血は争えないわね・・・・)
ステラの話を聞き、良介、スバル、ギンガの三者は無言。
アリサは日頃からギンガと良介の生活を見て来ているので、妙に納得できた。
良介とギンガにとっては似たようなエピソード(14話参照)があったからだ。
スバルは自分の知らないもう一人の自分の一面を垣間見た気分だったからだ。
「ん?どうしたの?皆?」
無言になってしまった三人を見るステラ。
「い、いや・・・・」
「なんでも・・・・」
「ないよ・・・・」
三人に言えたのはそれしかなかった。
その後、スバルを含めて宮本家の全員は夕食を摂ったが、テーブルを山盛りの料理が三つ占領しているその光景は物凄かった。
そしてそれらの料理を当たり前のように食べるギンガ、スバル、ステラの姿も同様だった。
スバルは明日非番と言う事で、ギンガが泊まっていくように勧め、ステラも是非泊まって言って欲しいとスバルに頼むと、スバルの母性本能が刺激されたのか、宮本家に泊まっていくことを即決で決めた。
いや、ギンガが薦めなくても恐らくステラかスバルから頼み込んでいただろう。
そして子犬の様な上目で見られれば、良介も断るに断り切れなかっただろう。
その日の夜、スバルとステラは一緒の部屋で寝た。
翌日、早朝から宮本家の庭でスパークリングをするギンガ、スバル、ステラの姿があった。
まず、最初にステラがスバルにスパを申し込み、次にスバルとギンガが行い、その次はステラとギンガ。最後は朝食前の締めにギンガ
VSスバル・ステラの一対二の軽い模擬戦を行った。二対一で行ったにも関わらず、ギンガは圧倒的な強さで二人に勝利し、模擬戦は終了した。
(ギン姉、あれからまた強くなっている・・・・)
(アタシの知っているギン姉さんよりも強いかも。やっぱり子供を持つと母親は強くなるものなのかな?)
模擬戦を終え、タオルで汗を拭いているギンガを見ながらスバルとステラの二人はギンガの強さの秘訣について考えていた。
「ギンガの奴、また強くなったんじゃないか?これならもしかして
Sクラス試験も受かるんじゃねぇかな?」先程、行われていたギンガの模擬戦を見て、良介がアリサに尋ねる。
「ええ、そうかもね。受かるかもしれないわね、
Sクラス試験」「やっぱり、母は強しですぅ!!」
三人のスパを見ていた良介、アリサ、ミヤもギンガの強さを褒めた。
その後、皆で朝食となったのだが、早朝に体を動かした三人の食欲は物凄かった。
いつもの朝食よりも
1.5倍〜2倍の量を食べていた。
後日、良介がギンガに「
Sランク試験受けてみたらどうだ?」とSランク試験の受験を薦めたところ、ギンガは見事にSランク試験に受かった。
おまけ
成長期
六課での食堂風景では、いつもテーブルには山盛りの料理が二つある。
その一つはスバル・ナカジマのモノ、そしてもう一つがエリオ・モンディアルのモノである。
訓練校からのつき合いでスバルが大食いだと知っていたティアナであったが、自分やスバルよりも年下のエリオもスバルと同じくらいの大食いだと知った時は少なからず、ティアナは驚いた。
そしていつもと変わらない六課での食事風景の中、やはり
FW陣のテーブルの上には山盛りの料理が二つ存在する。「それにしてもスバルもそうだけど、エリオもよく食べるわね」
ティアナがスバル並みのエリオの食欲を指摘する。
「えっと・・・・・まぁ・・・・成長期・・・・ですし・・・・・」
エリオが少し頬を赤くして言う。
大食いなのはちゃんと自覚してはいるのだが、こうして他の人から指摘され、見られるのは少し恥ずかしいようである。
「そっか・・・・エリオ君、盛っているんだね!!」
エリオの隣にいるキャロが満面の笑みを浮かべてエリオに言い放つ。
「ブッー!!」
キャロの言葉を受け、反射的に口に入れているモノを吐き出してしまったエリオ。
「キャロ、頭にちゃんと『育ちを』つけなさい。エリオが誤解されるわよ」
キャロは『盛り』の意味を理解できていない様子だったが、他の三人は『盛り』の意味を知っていたようで、エリオとスバルは何を想像したのかはしらないが、顔を赤くし、ティアナは呆れる感じでキャロにツッコんだ。
あとがき
スバルとステラの二人がようやくご対面となりました。
人見知りをしていた昔と違い、今のスバルならば誰とでも気兼ねなく付き合いそして馴れると思い、異世界の娘ともすぐに仲良くなれるきがします。
人知れず、ギンガが実力をつけ始めた設定になってしまいましたが、クイント同様母親になったギンガは姉としてのギンガよりも更に上を目指せると思い、最後に
Sクラスの位置づけにしました。次回、名無し
ASさんのスバルルートの後日談的な話を掲載しようと思っております。では、次回にまたお会いしましょう。