五十三話 ミチトノソウグウヲシタヒ もう一人の自分
「えっと・・・・それじゃあ、話を纏めるけど・・・・・」
「はい」
困惑と混乱を何とか収めたステラとアリサはまず、ステラからの情報の確認に入っている。
「貴女は・・・・」
「あっ、ステラでいいです」
「そ、そう・・・・つまりステラは新暦87年の・・未来のミッドから来たっていうのね?」
「はい」
「しかも、ステラの両親の内、父親は良介で間違いはないけど、母親はギンガじゃなくてスバル・・・・って事でいいのかしら?」
「はい。間違いありません」
アリサがステラから事情を聞いている中、ステラからの情報を聞けば聞くほど訳が分からなくなる良介。
(新暦87年?未来?俺とスバルの娘?一体何がどうなってんだ?)
チラッと横目でギンガを見るが、やはりギンガも良介同様未だに困惑している様子。
「な、なぁ・・ギンガ、どういう事か分かるか?」
「い、いえ・・まだ現状がいまいち理解できなくて・・・・」
「だよな・・・・」
良介は困惑したままであるが、ステラの話を聞いていくうちにギンガの心の中では段々と不安が広がってきた。
もしかしたら、近い将来に自分は良介と離婚して、自分と別れた良介はその後すぐにスバルと交際して、やがて二人は結婚し、そしてスバルがステラを産んだのではないだろうか?
そんな不安が脳裏を過ぎり、ギンガは恐る恐るステラに聞いてみた。
「ね、ねぇ・・ステラ・・貴女が知っている私はどんなことをしているのかな?」
新暦
87年の未来でスバルや良介が存在しているいじょう、ステラの世界にも自分は存在しているのではないかと思い、ギンガはステラに新暦87年の自分はどのような生活をしているのか尋ねた。「アタシが知っているギン姉さん?・・・・う〜んと・・・・確か今でも108部隊で現役バリバリの捜査官をやっているよぉ〜」
どうやら、新暦
87年の世界でも自分は父の部隊に在籍し、今と変わらず、捜査官をやっている様だ。「け、結婚とかしているのかな?」
ここで、本命の質問をするギンガ。
「結婚ですか?・・そうですねぇ・・・・告白や交際を申し込む人、さらにはプロポーズをする男の人は沢山いるようですが、今のところ全て断っていますね。このままだと生涯独身を通しちゃうんじゃないかってお爺ちゃんが心配していましたよぉ〜」
「そ、そうなんだ・・・・」
ステラの言ったお爺ちゃんはおそらく自分の父、ゲンヤで間違いないだろう・・・・しかし生涯独身の言葉からますます現状が理解できないギンガ。
仮にギンガの予想が正しければ桜花が生まれているのだから生涯独身なんて言葉は出ないはずだからだ。
せいぜい子持ちのバツイチとでも言うだろう。
それともステラが生まれる前には桜花は病気か事故で死んでしまったのだろうかと、ギンガの不安は益々募るばかりだった。
ステラから情報を聞き出し、その情報を纏めたアリサが未だに困惑中の良介とギンガに説明を始める。
「まず、簡潔に話を纏めると、ステラはこの世界の未来の住人じゃあないわ」
「「「えっ!?」」」
アリサの言葉に未来から来たと言うステラ自身も疑問の声をあげる。
「それってどういう・・・・」
「平行世界・・・・パラレルワールド・・・・・そんな言葉を聞いたことない?」
「小説や漫画・アニメとかで・・・・」
まだまだ遊び盛りのステラはアリサの言った単語をテレビや漫画の中で見たり聞いたりしていた。
「そう、幾つもの可能性のある世界の事よ。・・例えばもしあの時、良介が最初に会ったのがギンガじゃなくスバルだったら、良介とギンガは結婚していたかしら?」
アリサの言葉を聞き、考え込む両者。
アリサの言う「あの時」とは良介が復活した日をさすことはすぐに分かった。
そしてもし、あの日、良介が最初に会ったのがギンガではなくスバルに会っていたら・・・・・。
当時、スバルは訓練中の事故により大けがを負い、入院中でしかも良介が死亡した原因を自分の所為だと決めつけ、心身共に病んでいた・・・・。
そんな所に突然復活した良介が一人で現れたら、おそらくスバルは狂気乱舞し、その行動の早さから良介に告白し、そのままの勢いで良介を押し倒し、良介との関係を求めるに違いないと、普段のスバルの性格と行動を見ていれば分かることだ。
そして良介も、もしかしたらその場の勢いでスバルを抱いていたかもしれない。
現にこの世界の良介はギンガの勢いに負けてそのままギンガを抱いているのだから・・・・。
そうなれば、ギンガの時と同様に良介は責任をとってスバルと結婚していてもおかしくはない。
そしてギンガには、ステラの世界にいるもう一人の自分が何故、独身を貫いているのか少し分かる気がした。
きっと、ステラの世界にいるもう一人の自分も、この世界の自分同様に良介の事を愛していたのだろう・・・・。
その想い人である良介が妹のスバルと結婚したことにより、もう自分は二度と他の人を愛する事は無いと固く誓ったのだろう。
そう考えると偶然にも良介が最初に自分を選んでくれたことにギンガは心の中で感謝するのと同時にこの世界のスバルには悪い事をしてしまったという思いもあった。
「理解できたかしら?つまり、ステラのいる世界はそんな可能性の一つの世界で、恐らくロストギアか転移系の魔法の暴走による影響でこの世界に飛ばされたのではないかと考えられるわね」
「ねぇステラ、貴女ここに来る前に何をしていたの?」
アリサの結論を聞き、ギンガがステラにこの世界に飛ばされた原因について思い当たることがないかを尋ねる。
そしてアリサの平行世界説を聞き、ギンガの心の中の不安も次第に解消されていった。
「う〜んと・・・・そういえば学校が終わった後、友達と遊んでいてキラキラ光る綺麗な石を見つけたんだ。あまりにも綺麗だったから持って帰ってパパりんとママりんに見せようとして手に取ったらいきなりその石が光りだして・・・・・気が付いたらここにいました」
ステラの話を聞く限り偶然拾ったその石がどうやら空間転移能力を秘めたロストギアの一種だったのだろう。
「それで・・・・どうするんだ?この子?」
「どうするって言われても・・・・」
良介がステラの身の振り方を聞く。
アリサもこのようなケースは初めての経験の様で、ステラの身の振りをどう対処すればいいのか分からない様子。
異世界とは言え、ステラは良介の娘。
しかし、身の上は次元漂流者にカテゴリーされる。
「一応次元漂流者になるわけだしクロノかフェイトにでも預けるか?」
良介が管理局のマニュアル通りの対処を言うが、
「えぇ〜」
次元漂流したというのにステラはその事実を特に気にしてはいない・・・・と言うか、寂しがったり、泣きわめくような様子を見せないが、宮本家ではなく他の誰かに預けられるという事に対し不満の様子。
これがもし、十歳当時のスバルならば、大泣きしていただろう。
「せっかく別の世界のパパりんに会えたんだから、アタシここに居たい!!」
「「「「・・・・・・」」」」
(やっぱりこいつは間違い無く・・・・)
(良介と・・・・)
(スバルの血を継いでいるわね・・・・)
かつて訓練校、そして機動六課にてスバルの相棒を務めたティアナがスバル本人に言った。
「あんたのその異様なワガママさと強引さだけは、見習うべき所がある・・・・」
その言葉通りステラはスバル(母親)譲りの神経の太さとどんな状況にもめげない良介(父親)譲りの楽天的な性格・・・・この子は間違いなく良介とスバルの娘だと宮本家の皆は実感した。
父親譲りの性格が含まれているおかげで、ステラに泣きわめかれなかった宮本家の皆だった。
「ま、まぁ、いいんじゃない? この世界でステラが頼れるのは一応、父親の良介だけなんだし・・・・」
「そうですね。流石に似ているとはいえ、見知らぬ世界に一人ぼっちでは寂しいでしょうし・・・・」
「そうですぅ。リョウスケ、まさか住んでいる世界は違いますけど、自分の娘を見捨てるなんて事はないでしょうね?」
アリサ、ギンガ、ミヤは既にステラをこの家に置く気満々の様子で、こうなれば良介一人が反対する理由もない。
と言うか、反対したらどんな目に合うか、分かったもんじゃない。
「わ、分かった・・・・ステラは暫く家で預かろう」
良介が了承すると、
「ありがとう!パパりん!」
ステラが良介に抱きついてきた。
「わっ!ちょっと!いきなり抱きつくな!!」
慌てながらも良介はステラを抱きとめた。
こうして、ステラと宮本家の奇妙な家族生活が始まった。
アリサは自身の情報網を駆使し、ステラがこの世界に来る原因となったロストギアについて調べた。
同じ物でなくとも同様の能力を秘めたロストギアがあるかもしれないからだ。
そして良介とギンガは別の世界の自分たちや知り合いがどんな生活を送っているのか聞いてみたりしていた。
以外と似ている様で似ていない部分が多々あって、それらの話を聞いた良介とギンガは驚いていた。
ステラ自身も自分の生まれた世界とは似て異なるこの世界について興味ありげに良介とギンガに質問をしていた。そして自分の世界とこの世界の違いを言い合いながら楽しそうにしていた。
そして、
「へぇーこの子がパパりんとギン姉さんの子供かぁ・・・・言うなればこの世界のアタシだね?」
ステラはベビーベッドにいる桜花を見ながら呟く。
「まぁ、そういうこと・・になるのかな?」
「そうですね・・・・・」
良介とギンガが顔を見合せながら言う。
桜花もステラも共に良介(父親)譲りの黒髪をしているが、容姿は、それぞれ桜花は母親であるギンガ、ステラはスバルにそっくりだから、桜花とステラはもう一人の自分といっても間違いなようで、あながち間違いではないのかもしれない。
「うっ・・う〜・・う〜・・・・」
そして桜花自身もステラに共感めいたものを感じるのか、両手を伸ばし、ステラを触ろうとする。
ギンガが桜花をベビーベッドから抱き上げても桜花の視線は常にステラの方へ向けられ、必死にステラへ手を伸ばし続けている。
「ステラ・・・・抱いてみる?」
ギンガは桜花の様子を見て、ステラに桜花を抱き上げてみるかを聞く。
「えっ!?いいんですか?」
ギンガからの意外な申し出に思わず声をあげるステラ。
「ええ、この子もステラに興味があるみたいだから」
「そ、それじゃあ・・・・」
ギンガから桜花を手渡され、恐る恐る桜花を抱くステラ。
「はじめまして・・桜花ちゃん・・・・アタシの名前は宮本ステラ・・・・もう一人の貴女だよ・・・・」
ステラが微笑みながら自己紹介をすると桜花も微笑みを返し、「あー・・・・あー・・・・」とまるで自分も自己紹介をしているようだった。
「なんとなくあの構図を見ると、ギンガとスバルの立場が逆転したようにみえるな・・・・」
「そうね」
桜花を抱いているステラを見ていた良介が感想を言うとアリサもその意見に同意する。
「・・・・・」
ギンガの方はそんな二人を何とも微妙な感じで見ていた。チンク同様自分はスバル姉なのだというプライドが無意識の内に働いていたのだ。
しかし、目の前の構図はどう見てもスバルが姉で自分(ギンガ)が妹という構図が当てはまっていた。
夕食時、ステラはやはりスバルの・・・・クイントの血をちゃんと受け継いでいた。
食べる量はほぼ、ギンガと変わらず、山のように盛られた特盛。
二つの特盛りの料理が盛られた皿を見た良介は料理の皿を見た後、横目で自分の愛娘の桜花を見た。
(ステラを見る限り、やっぱり桜花も大きくなったらギンガと同じ量を食うんだろうな・・・・)
良介の懸念はここ最近現実になりつつあった。
なにせ、ここ最近、桜花の一回の食事量が段々と増えてきたのだ。
現在ミルクと併用し離乳食を食べ始めた桜花なのだが、その離乳食を食べる量が、同年代の赤ん坊と比べると、物凄く多い。
それにも関わらず、体重は平均乳児と同じと言う神秘的な体つきをしていた。
桜花の体重についてはあのアリサさえも首を傾げるほどであった。
「そういえばステラはもう自分のデバイスを持っているの?」
ギンガが何気なくステラにデバイスの有無を聞く。
「ん?持っているよ。この前の誕生日にマリーさんから貰ったんだ!」
ステラは嬉しそうに待機状態の自分のデバイスをギンガに見せる。
ステラの待機中のデバイスは自分達姉妹と同じ、クリスタル状のペンダント型だった。
「ステラの戦闘スタイルはどういう感じなんだ?」
今度は良介がステラに自分の戦闘スタイルを聞く。
「アタシはお母さんやギン姉さん、ノーヴェ姉さんから教わったシューティングアーツとストライクアーツを組み合わせた格闘スタイルだよ」
良介の質問にステラが自分の戦闘スタイルを説明すると、スバルと一緒に訓練をする姿が容易に想像できる宮本家の皆だった。
(へぇーステラはスバル似の戦闘スタイルなんだ・・・・桜花もそうなるのかな・・・・)
良介はミルクを飲んでいる桜花を見ながら自分の愛娘の将来を考えた。
「ねぇ、ステラ。よかったら私とも模擬戦やってみる?」
ギンガがステラを模擬戦に誘う。
普段ならばスバルや旧六課の戦闘狂共・・・・もとい、旧六課の隊長陣から模擬戦を誘われる事が多いギンガがこうして自分から模擬戦に誘うと言うのは珍しい。
しかし、ギンガ本人も異世界の妹の娘・・・・つまり姪の実力に興味があるようだ。
「えっ?いいんですか?」
「ええ、ステラが良いなら私は構わないわよ」
「じゃあ是非お願いします!!」
ステラはスバルと同じように満面の笑みでギンガとの模擬戦の誘いを受けた。やはり格闘家として強者との戦いは興味があるようだ。
夕食後のお風呂の時、ステラはギンガと一緒に入り、寝るときは良介と共に寝た。
そして寝る前に、アリサから
「良介・・・・信じているけど、もしステラに何か変なことしたら・・・・」
「するか!娘に手を出すほど俺は鬼畜じゃねぇよ!」
「分かっているわよ。冗談よ、冗談」
と、こんなやり取りがあった。
翌日、近くのジムの屋外練習場にギンガとステラの姿が有った。
二人は一定の距離で対峙し、それぞれバリアージャケットを展開し、ギンガは左腕にリボルバーナックルをステラは右腕にリボルバーナックルを装備した。
(へぇージャケットはスバルと同じ型だが、色は違うんだ・・・・)
ギャラリー席から見ていた良介は心の中でステラのバリアージャケットを見て思った。
互いに準備が出来たのか、ギンガとステラの模擬戦が始まった。
まずは互いに地上で拳と蹴りのラッシュが続くとステラがウィングロードを展開し、空へと舞う。
「スレイプキャリバー!ウィングロード展開!!」
「オーライ」
「ブリッツキャリバー!こっちもウィングロードを展開」
「リョウカイ」
ギンガも同じくステラを追うかのようにウィングロードを展開し追撃をする。
空中に数百本の道が展開されていくのは見ていて壮観ではある。
とくにステラのウィングロードは虹色に展開されているので、二人の模擬戦を観戦している他のギャラリーもその光景に目を奪われている。
「あれはウィングロードというよりはレインボーロードかレインボーブリッジね・・・・」
アリサがステラのウィングロードを見ながら呟く。
「とてもきれいですぅ・・・・」
ミヤは目を輝かせながらステラのウィングロードを見ていた。
そんな中、空中で何度か激突音が響き渡る。
幾度かぶつかりあいながら徐々にステラを追い詰めて行き、自分のペースへと引き込むギンガ。
しかし、追い詰めながらもステラに対しちゃんと、「ほらステラ、ちゃんと脇を閉める!」 「相手から目を逸らさない!」「ここは一旦離れて距離をとる!」等の的確なアドバイスをしているあたり、ギンガは年長者として、また母親であるクイントに次ぐシューティングアーツの実力者として流石と言うべきであった。
ステラもスバル譲りの格闘センスを十分に受け継いだが、まだまだ経験不足で、段々と自分のペースが崩れ、ギンガ主導のペースになってきている。
そうなればもはや勝敗は目に見えている。
六課時代、ギンガとスバルとの間で行われた模擬戦同様、最終的にギンガの拳がステラの頭部へ寸止めをして模擬戦は終了した。
「ふぅー やっぱりギン姉さんは強いですねぇ〜」
ベンチに座り、頭にタオルを被りスポーツドリンクを飲みながらステラは改めてギンガの強さを称賛する。
「ありがと、でもステラも良い筋をしているわよ。スバルが貴女ぐらいの時と比べると実力差はかなりあるわ。もう少し経験を積んでいけば一流の格闘家になれるんじゃないかしら?」
ステラの隣で首にタオルをかけ、ステラ同様スポーツドリンクを手に持ったギンガがステラを褒める。
久しぶりにスバルと模擬戦をしたかのようにギンガの表情はスッキリとしていた。
「ははははは・・・・ そりゃどうも」
結果的にステラはギンガに負けたが、この時のステラの表情は悔しそうではなくむしろ清々しい表情をしていた。
あとがき
ロストギアがミッドの地に石ころの如く落ちている訳が無いでしょうが、こんな感じの設定でないとステラがこの世界に来る事が出来なかったので、苦し紛れですが、作中のような設定になりました。
では、次回にまたお会いしましょう。