人は生きていく中で数多くの選択肢に行き当る。

その時、『もし、あの時あっちを選んでいたら・・・・』 『違う選択をしていたら・・・・』『ああしていれば・・・・』 なんて思う事は誰でも一度はある筈・・・・。

パラレルワールド、平行世界、と呼ばれるもう一つの、似た別の世界があり、何らかの力でもう一人の自分に出会ったら・・・・。

 

貴方は今の自分をもう一人の自分に誇れますか?

 

 

五十二話 ミチトノソウグウヲシタヒ 平行世界から来たもう一人の娘

 

 

「ん? 降ってきてないか?」

ある日の休日、自分の家でミヤと共に娘の桜花の面倒を見ていた良介がふと窓に目をやると、いつの間にか外は雨雲が立ちこめ、雨が降り出した。

「変ですねぇ、今日の降水率は0%の筈だったのですが・・・・」

ミヤも首を傾げながら窓の外を見る。

外は突然降りだしたゲリラ豪雨で雨音も大きい。

「ギンガ達大丈夫かな?」

ゲリラ豪雨を見ながら良介はこの場にいないギンガとアリサの心配をする。

この日、ギンガとアリサは二人でクラナガンへショッピングへと出かけていた。

出かけ始めたときは当然、雨は降っておらず、ミヤの言うとおり今日の天気予報では降水確率は0%だったので二人共家を出るときに傘を持って行っていない。

「多分通り雨だと思うので大丈夫でしょう」

「そうだな。いざとなれば連絡をしてくるだろうし」

「迎えに来て欲しい」という連絡が無いところをみると、どこかで雨宿りでもしているのだろうと良介は判断し、そのまま桜花の面倒を見続ける良介とミヤ。

ところが、雨は止むどことか雷まで鳴る始末。

 

ピシャッ!! ゴロゴロ・・・・・・!

 

「きゃっ!」

「おっ大きかったな、今の・・・・」

「うぅ〜・・・・」

桜花は雷の轟音に泣きそうになっている。

 

ピシャッ!! ゴロゴロ・・・・・・!

 

ド―――ン!!!

 

「れ、連続ですぅ!!」

「しかも近かったぞ・・今の・・・・っていうか、雷が落ちたの、家の庭じゃん!!」

「お庭は大丈夫ですか!?」

落雷した庭が心配になり、桜花をベビーベッドに横たえ、良介とミヤが窓から庭を覗いてみると、庭には落雷による小さなクレーターが出来ており、そこには一人の女の子が横たわっていた。

女の子を見た途端良介とミヤは急いで窓を開け、そこから一気に庭へと出て、倒れている女の子に駆け寄る。

女の子は見た目、落雷による外傷はなく気絶しているだけだと分かると二人はホッと一息・・・・するはずもなく、急いで倒れている女の子を抱え家の中へと運び入れた。

 

 

「おい、大丈夫か!? おい!」

居間のソファーに女の子を横たえると良介は女の子に声をかける。

しかし、女の子は一向に目を覚ます気配はない。

「と、取り敢えず濡れた服を着替えさせないと風邪引いちまうな・・・・」

「そ、そうですね・・・・着替え何かありますか?良介?」

「う〜ん・・・・取り敢えず俺のYシャツでいいだろう?」

そう言って良介は自分の部屋からYシャツを取ってきて女の子を着替えさせるため、その子の着ている服に手をかけた。

(け、決してやましい事をしているわけじゃあ無いからな・・・・これは・・・・この子が風邪を引かない為にすることであって・・・・)

良介は心の中で何度もこれは必要な事であって決してやましいことをしているのではないと何度も呟き、自分に言い聞かせた。

女の子の上着のボタンを開けた時、タイミング良く・・・・いや、この場合は最悪と言った方がいいかもしれない。

ともかく、リビングの扉が開き、

「あーもう、突然降り出すんだもんビックリしちゃったわ」

「そうですね。今日の予報は晴れの筈だったのに・・・・」

ショッピングから帰ってきたアリサとギンガがリビングに入ってきた。

そしてリビングに入ってきた二人が最初に視界に捉えたのは良介がソファーに横たわっている見知らぬ女の子の服を脱がそうとしている光景。

一瞬リビングの時間が止まった様に感じられながらも、良介は一言呟いた。

「俺は無実だ・・・・」

その直後、外では水の、内では血の雨が降り、雷の轟音にも負けない良介の悲鳴が宮本家に響いたのは言うまでも無い。

しかし、気が動転していて気がつかなかったのだろうが、良介の他にもその場にはミヤがいたのだから、女の子の着替えはミヤにしてもらえば良かったのだと、後に気がつく良介であった。

最もミヤ本人も良介同様気が動転しており、自らがやるとは言わず、ただ心配そうに女の子を見ているだけであった。

意外と抜けている二人であった・・・・。

 

 

「まったく、良介さんもそうならそうと最初に言えば良いのに、変な言い方をするからこんなことになるんですよ」

倒れていた女の子の着替えをアリサに任せ、ギンガは自らの手でボコボコにした良介の治療を行なっている。もちろんギンガとアリサの二人は雨にぬれた服ではなくちゃんと着替えている。

「お前なぁ〜あの状況で例え素直に言ったとしても、お前らはあの時本当に俺の言うことを信用したか?」

ジト目でギンガを見る良介に対し、ギンガは

「あ、あははは・・・・・・」

乾いた笑を浮かべるだけであった。

恐らく良介の言うとおり、たとえあの時、良介が本当の事を言ったとしてもギンガとアリサは良介の言葉を信用せず、どの道良介の末路は変わらなかっただろう。

良介がノックアウトされた後、ミヤが必死に二人に事情を説明したのだが、良介としては二人が襲いかかってくる前に説得して貰いたかった。

「良介、あの子の着替え、終わったわよ」

リビングから女の子の着替えを終えたアリサが出てきた。

「それであの子の様子はどうですか?」

ギンガが心配そうに女の子の容態を聞く。

「特に問題は無いわ。これといって外傷もなかったし、ミヤの話を聞く限りじゃあ落雷に遭ったわけでもなさそうね・・・・多分、転移系の魔法の強い衝撃で気を失ったんだと思うわ。詳しいことはあの子が目を覚ましてからじゃないと聞けないわね」

「そうですか・・・・」

とりあえず、宮本家の皆は女の子から事情を聞きたいため、リビングで彼女が目覚めるのを待つことにした。

 

 

「ん・・・・んぅ・・・・ん」

ようやく女の子が身をよじらせながら、目を覚ました。

目覚めた女の子が最初に見たのは自分の顔をのぞき込んでいる良介の顔。その顔を見たとたん女の子はパッと目を見開き、嬉しそうに飛びつくと、明るい声で言った。

「パパりん!!」

「えっ!?」

突然、目を覚ました女の子に飛びつかれた事にも驚いたが、いきなり「パパ」と呼ばれたことにも良介は驚きを隠せず、狼狽するだけであった。

それはギンガ、アリサ、ミヤの三人も同様であった。

(ぱ、パパりん?・・・・それってパパって意味だよな?パパっていうとアレだよな?父親のこと・・・・だよな?)

混乱する中で、一早く立ち戻ったのはギンガだった。

「あ、あの・・・・アリサさん」

「・・何かしら?ギンガ?」

「私の気のせいでしょうか?・・・・あの子何となくスバルに似ていませんか?声も姿も・・・・」

「言われてみればそうね・・・・」

「そ、そっくりですぅ・・・・」

ギンガに言われ、改めて良介に飛びついている女の子を見ると、確かに目の前の女の子はスバルに似ていた。違う点と言えば、髪の毛が青ではなく、良介と同じ真っ黒という点だけで他は十歳ぐらいの時のスバルと姿が瓜二つだった。

幼少期のスバルを知っているからこそ、ギンガは女の子がスバルに似ているのだとすぐに気がついたのだ。

「ちょ、ちょっと待て!!」

「何?パパりん?」

混乱しながらも現状を整理しようと、良介は女の子を引き剥がす。

「ま、まずお前は一体誰だ!?それにさっきから言っている『パパりん』ってどういう意味だ?」

「『パパりん』は、パパ、つまり父親って意味だよ。昔、ウェンディ姉さんに教わったんだ〜」

女の子はパパりんの意味を説明するが、その中で良介の義妹の名が出てきた事にさらに混乱を招いた。

「お前、ウェンディを知っているのか?それに『昔』ってどういう意味だ?そもそもお前の名前は何て言う?」

「えぇ〜嫌だな〜パパりんったら可愛い娘の名前を忘れちゃったの?」

「「「「娘!?」」」」

女の子の言う『娘』と言う単語に思わず宮本家全員が聞き返す。

「良介、あんたまさか・・・・」

「スバルと浮気して・・・・・」

「隠し子を作っていたですか?」

アリサ、ギンガ、ミヤの三人が真っ黒いオーラを纏いながらジリジリと良介に滲みよってくる。

「ちょ、ちょっと待て!俺の娘は桜花一人だ!!それになんでスバルの名前が出てくんだよ!?」

「それはこの子を見れば一目瞭然じゃない!!」

「その子、昔のスバルそっくりですもの」

「リョウスケ!スバルと浮気していたですか!?」

三人にそう言われ、良介は改めて自分のことをパパりんと呼ぶ女の子をマジマジと見る。

言われてみると確かに髪の毛の色は違うが、目の前の子はスバルの幼いときの姿そっくりである。

だが・・・・

「ちょ、ちょっと待て!!確かにコイツはスバルに似ているが、スバルが出産したって話しお前達は聞いたか!?」

「そ、それは・・・・」

「聞いてないわね・・・・」

「ですぅ・・・・」

「それにだ、コイツの年齢から逆算してみろ、どう見たってスバルの娘じゃないだろう!!」

自分のことをパパりんと呼ぶスバル似の女の子をビシッと指さす良介。

良介の言うとおり、スバルが出産したという話は聞かないし、第一出産なんてしていたら姉のギンガが知らない筈がない。それに目の前の女の子の見た目から年齢を逆算しても、確かに今のスバルと出産推定年齢が合わない。

「た、確かにその子の推定年齢から逆算すると、スバルが出産したのは五、六歳の時になるわね・・・・」

「いくらなんでもそれはちょっと・・・・」

「無理ですぅ〜」

良介の指摘を受けて、冷静さを取り戻したのか、三人は真っ黒いオーラを引っ込めた。

「良介さんとスバルの娘じゃないってことは・・・・」

「もしかしてこの子・・・・・」

「スバルの・・・・」

「クローン?」

ギンガとスバル自身がクイントをベースとして生まれたクローン体ということで、目の前の女の子も、もしかしたら、スバルの遺伝子または自分達同様クイントの遺伝子をベースとして生まれたクローン体ではないかと思い、四人がヒソヒソと小声で話しながら、この女の子の正体を考えていると、女の子自身も違和感を覚え始めた。

(そう言えばパパりんの姿が微妙に若い様な気がする・・・・それに何でギン姉さんが家(宮本家)に居るんだろう?・・・・何か用でもあったのかな?)

女の子が辺りを見回すとカレンダーが目に写った。そしてそのカレンダーの年号を見た女の子は思わず声をあげた。

「新暦77年!?そんなバカな!!」

その声を聞き、宮本家のメンバーは一斉に女の子の方を見る。

「えっと・・・・今年の年号がそんなに変なの?」

ギンガが女の子に年号について尋ねる。

「今年!?今年は新暦87年の筈ですよね?」

「えっ?」

女の子の言う年号が今から10年先の事にギンガは困惑する。

「何言ってんだ?今年は新暦77年だぞ?」

良介はカレンダーの年号が間違いではないことを女の子に言う。

「えっと・・・・貴方の名前は宮本良介で間違いないですよね?」

「ああ」

「それじゃあ貴方の奥さんの名前は?」

「ギンガ・・・・宮本ギンガ」

「えええええっー!!!」

ギンガの名前を聞いた女の子は驚きの声をあげる。

「それよりもそろそろ貴女の名前を教えてもらえないかしら?」

アリサが女の子の名前を問う。

「あっ、スミマセン。アタシの名前はステラ・・・・宮本ステラ・・・・父の名前は宮本良介・・・・そして母の名前は・・・・宮本 スバル・・・・私はその二人の娘です」

「「「「ええええええっー!!!!」」」」

良介とスバルの娘だと聞き、今度は宮本家のメンバーが声をあげた。

自称良介とスバルの娘、ステラと宮本家のメンバーは互いに困惑して宮本家のリビングは何とも言えない空気が流れていた。

 

 

設定(ネタばれを含む)

 

名前 宮本 ステラ

推定年齢 十〜十一歳

スバルルートの世界で良介とスバルとの間に生まれた娘。

名前の由来はスバルの娘ということで自動車メーカーSUBARU(スバル)から販売された軽自動車軽トールワゴン)ステラ(STELLA)から命名。

 

外見・容姿 スバルが空港火災にあった時と同じくらいの年格好で髪の毛が黒いだけで、容姿はスバルと同じ。ただし性格は周りの影響からか、幼少時のスバルとは違う。

 

デバイス スバル同様のローラーブーツ『スレイプキャリバー』とリボルバーナックル。

由来は北欧神話に登場する神獣の一つ。主神オーディンが騎乗する8本脚の馬、スレイプニルから命名。

待機状態の形状はギンガ・スバル・ノーヴェ同様青翠色のクリスタルペンダント状。

 

バリアージャケット スバルのバリアージャケットと同型で、白と黒の色違い。

スバルが白い所は黒で、黒い所は白。ただしハチマキは紅色でその上に飛行ゴーグルをつけている。

 

魔力光色 虹色

 

好きな物 良介の手作りアイス スバルや叔母達とやる模擬戦

嫌いな物 アリサとの勉強時間

イメージCV 斎藤千和

 

 

 

おまけ

 

洞察力

 

 

六課での士官会議中に眠気が襲ってきたヴィータは必死に眠気を堪えていた。

(あ―――午後になると眠気が・・・・しかも模擬戦や現場とかじゃなくてこの会議の雰囲気が余計に眠気を誘うんだよな・・・・)

そして思わず欠伸が出そうになり、咄嗟に手で口元を隠す。

(い、いけねぇ・・・・士官たるもの会議中に欠伸だなんて・・・・)

「うっ・・・・」

必死に欠伸を堪えるヴィータ。

その様子を見ていたシグナムが思わず小声でヴィータに尋ねた。

「大丈夫か?・・・・その・・つわりが酷いなら休んでいろ・・・・」

シグナムなりの優しさだったが、とんでもない勘違いであった。

「あくび!!」

シグナムの変な勘違いをヴィータは若干怒気を含んで言い返した。

 

 

あとがき

スバルルートと関連のあるミチトノソウグウ編、プロローグですが、最初でかなりネタバレをしていましたが、彼女の出生等はもう少し先になります。

おまけは生徒会役員共のネタです。

では、次回にまたお会いしましょう。




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