五十一話 ウイジンノヒ 取引

 

 

時系列は少し時間を過去に戻し、ティアナがカモミールの屋敷に着いたところまで遡る。

「さ、どうぞ遠慮なさらずお召し上がりください」

カモミールの屋敷に着いたティアナは早速食堂へと案内され、そこでは高級レストラン並みの料理が出された。

「随分豪華な食生活を送っていますね。町はあんな状態なのに」

出された豪華な料理、カモミールの屋敷と町の状態を比較しながらティアナはカモミールに尋ねる。

「いや、お恥ずかしい話ですが、局へ納めるための税金の徴収もままならずホトホト困っている状況でして・・・・」

「そうですか・・・・心中お察しします」

「どうもありがとうございます」

(ふーん・・局へ納める税金ねぇ・・・・)

カモミールが言っている「局へ納めるための税金」がはたしてどこまでが事実であり、ちゃんと局へと納められているのか不審に思うティアナ。

「おまけに先程執務官殿に対し、失礼な事を働く野蛮な輩も多く・・・・ハハハハハ・・・・いや、まったくお恥ずかしい限りです」

作り笑いを浮かべ町の状況をティアナに話すカモミール。

「つまり、カモミール統括官殿が仰るには納税の義務を怠っておきながら自分達の権利ばかりを主張する無粋な連中・・・・という訳ですね?」

カモミールの遠まわしの話しを端的に纏めるティアナ。

「その通りです。流石は本局の執務官殿。話がわかるお方だ」

「我々は法と秩序を守り、管理する立場にある人間ですから、『義務』あっての『権利』・・・でしょう?カモミール統括官殿?」

ティアナは仕事とはいえ、自分でも嫌気がさすような言葉を口にするが、決してそれを顔に出すことなく、冷静さを保つかのように両手を組むが、その手には自然と力が入る。

「成程、すばらしいお考えです。と、なればこれも義務として受け取っていただけますか?」

そう言うとカモミールはテーブルの上に置いてある小さなベルを手に取り、チリンと鳴らす。

すると、使用人の一人が小さな皮袋が乗った銀のお盆を持ってきた。

「ランスター殿は本局の執務官であり、元六課のご出身・・・・しかもあのJS事件を解決に導いたお方・・・・ということで何かと上の方々にも顔がきくと思いまして・・・・」

使用人はお盆をティアナのすぐ傍に置く。

「これはお近づきの印としてお受取りください」

ティアナはおもむろにお盆の上の皮袋を手で摘むと、

「・・・・これは、いわゆる『ワイロ』というものですか?」

皮袋の中身を興味なさげに尋ねるティアナ。

それに対しカモミールは、

「いえいえ、そんな無粋なものではありません。あくまで『お近づきの印』ですよ」

と、微笑みながら言う。

(嘘も方便ね・・・・言い方を変えているだけでどう見ても賄賂じゃない)

ティアナが呆れながら思っていると、

「私は局員と言えど、一生をこんな田舎町の小役人で終えたくはないのですよ。おわかりいただけますかな?執務官殿?」

不敵な笑を浮かべるカモミールに対し、ティアナは胸糞の悪さを感じた。

 

結局、ティアナはカモミールからの「お近づきの印」を曖昧に答え貰わなかった。

ティアナとしては貰えば目の前にいるこの腐った局員と同類になるので、それだけはゴメンだったのだ。

「では、執務官殿。どうぞごゆっくりお休みください」

「どうも・・・・」

ようやく胸糞の悪くなる時間もこのカモミールという生理的に受け付けない人物との対面の時間を終えたティアナは用意された客室へと案内された。

客室に入るとティアナは念の為にその部屋に警戒用の結界を張り、この日は休むことにした。

 

 

ティアナと別れ、親方ことオールウィンの店の宿に泊まった良介は深夜、辺りに漂うキナ臭い匂いを嗅ぎつけベッドから飛び起きた。

目を覚ますと辺り一体は煙に包まれていた。

良介は近くに立てかけてあった愛刀のみを手に持ち、まずは急いで親方達の寝室へと向かった。

もし、彼らが火事に気づいていれば一早く、客である良介に知らせる筈だが、未だにそれが無いと言うことは、夫妻はまだこの火事に気がついていない可能性があったためである。

事実夫妻は良介が夫妻の寝室に飛び込むとまだベッドの中にいた。

炭鉱での重労働と深夜遅くまで営業をしていた酒場での仕事で相当疲れていたのだろう。

「おい!起きろ!!火事だ!」

良介は大声をあげながら夫妻の体を揺すって起こすと、夫妻達と共に急いで外へと避難した。

ところが・・・・

「カール!?・・カール!!」

オールウィンが自分の息子の名を呼びながら息子を探すが、その姿は見えない。

「まさか!?まだあの中に!?」

奥さんは燃え盛る自宅兼店を見る。

「くそっ!」

オールウィンは息子を助けようと火の海へと飛び込もうとするが、火事の騒ぎに起きてきた炭鉱仲間達の手によって止められる。

「離せ!!まだあの中にカールが!!息子がまだ残っているんだ!!」

「ダメです!!」

「親方、危険ですよ!!」

親方と炭鉱仲間が声を上げている中、

「かせぇ!!」

「お、おい!アンタ!ちょっと!」

良介は消火している別の炭鉱マンから水の入ったバケツをひったくると頭からバケツの水を浴び、燃え盛る店の中へと入っていった。

 

「カール!!どこだ!?カァール!!」

火の海の中、姿勢を低くし、タオルで口を塞ぎ必死にカールを探す良介。

煙と火の周りが以外と早い。どうやらあらかじめ外に油が蒔かれていたようだ。急いで探さなければならないが、この場合冷静さを常に保っておかなければパニックを引き起こし、自分自身の生命も危険になる。

「カール!!」

良介は自分(カール)の部屋の傍の通路で倒れていたカールを見つけた。

倒れているカールを良介は脇に抱えると出口を目指すが、もうちょっとのところで出口だったのだが、瓦礫が天井から降ってきて出口を塞いでしまった。

「くっ・・・・」

良介は瓦礫により塞がれた出口を見て苦虫を潰したように睨むが、残された時間は少ない。

抱えていたカールを一度床に置き、愛刀を鞘から抜くと良介は目を閉じ、魔力を集中させる。

やがて良介の周りに虹色の光が灯り始めると、良介はカッと目を見開き、

「紫電一閃!!」

シグナム直伝の斬撃魔法で目の前のガレキを吹き飛ばす。

納刀する暇も無く良介は再びカールを抱え外へと飛び出した。良介が外へ飛び出した直後に店は轟音と火花を散らしながら崩れ落ちた。

 

 

明け方近くにようやく火事は鎮火され、跡に残ったのはかつて家を構築していたであろう建築材料の黒く焼けた跡だけだった。

カールは力なく地面に座り込み、奥さんは燃え残った店の看板を抱えながら涙を流し、親方はそんな奥さんを優しく慰めている。

「ひでぇ・・・・」

「昨日の夜、俺、カモの部下が親方の店の周りをうろついているのを見かけたぜ」

「きっとそいつらが放火したんだ」

「畜生、汚ねぇマネしやがる」

「局員だからって好き勝手しやがって・・・・」

「放火をすることが正義かよ・・・・くそっ・・・・」

仲間の炭鉱マンがボソボソと囁きあっている。

火事の騒ぎを聞きつけ、ティアナも現場に赴くと、座り込んでいたカールがティアナの姿を見つけ、その場から起き上がりティアナに話しかける。

「な、なぁアンタ執務官なんだろう?偉いんだろう?それならカモの奴を逮捕してくれよ。アイツがきっと部下に命じて火を着けさせたんだからさぁ」

「無理ね」

カールの願いをあっさりと切り捨てるティアナ。

「っ!? ど、どうしてだよ!?」

あっさりとティアナに自分の願いを切り捨てられたカールが思わず声をあげる。

「カモミール統括官が放火を指示した証拠もその部下が放火をした証拠もないでしょう」

「でも、奴の部下が俺の家のそばを彷徨いていたんだぜ」

「だから?」

「えっ?」

「この町を統括する統括官の部下がこの町を歩いているのは当たり前じゃない?そんなの何の証拠にもならないわ。仮に逮捕出来たとしても証拠不十分ですぐに釈放されるわよ」

ティアナの言葉にカールは遂にキレ、ティアナの胸倉を掴む。

「てめぇ!それでも正義を自称する組織の人間かよ!?お前ら管理局の人間はちょっと怪しいって言うだけで証拠もロクに探さないで無実の人間を逮捕するくせに同じ組織の人間が犯罪をしたら見逃すのかよ!?」

「だから証拠が無いって言っているでしょう!!」

「そんなもん改ざんでもしろよ!!お前ら局員は年がら年中やってんだろう!?執務官のお前ならそれぐらい出来るだろう!?」

「っ!?」

カールの言葉にティアナは否定できなかった。

確かに管理局は同じ組織の上層部の人間や金持ちや政治家などの権力者達が起こした汚職や不祥事に対しては証拠を改ざんしている形跡が多々見られる。

自分もそんな腐った連中と同類と見られるのは不本意だが、不正と権力で町を支配している局員が居れば全ての局員を信用出来ないのも無理はない。

「よせ、カール。執務官様にそれ以上言うと侮辱罪だとか吐かして逮捕されちまうぞ」

奥さんを慰めていた親方が皮肉を込めながらティアナに詰め寄っていたカールを引きはがす。

「くそっ・・・・」

カールは悔し涙を流し始める。

「なぁ、そんなに生活が困っているなら引っ越でもして違う職を探さないのか?」

ティアナとカールの成り行きを見ていた良介が親方に声をかける。

「ヨソ者のお前さんたちには分からねぇだろうさ。この炭鉱の町が俺達にとって家で・・・・ゆりかごで・・・・墓場よ・・・・」

親方は良介とティアナにそう言い放つとカールを連れ、奥さんも下へと歩いていく。その背中は哀愁を帯びていた。

 

 

カールとの言い合いの後、ティアナは人知れず誰もいない資材置き場で木材に腰掛けながら俯いていた。

管理局員になると決めてから命の危険性があると知っていたし、覚悟もあった。そして念願の執務官になってその危険度が上がったのも十分認識はしていた。

しかし、本来守るべき一般市民からここまで嫌悪され、拒絶されるのは予想外だった。

まるで自分の存在を全て否定されたような感じがしたのだ。

こんな思いは六課に配属になった当初以来だが、今回の出来事はそれ以上に辛くキツイ。

当初は簡単な調査任務かと思ったのに、事態はティアナが思っている以上に最悪の状況だった。

「どうしたティアナ?落ち込んでいるのか?」

いつの間にか近くには良介が来ており、落ち込んでいるティアナに語りかける。

「・・・・」

「お前の中の正義はそんなものか?この程度で音を上げて悪に屈するようじゃあこの町を統括しているあの腐った連中と同レベルか?いや・・そいつらに屈したことになるからそれ以下だな。それならさっさと局員なんか・・・・執務官なんか止めちまえ・・・・」

「・・だったら・・・・・」

「ん?」

「だったらどうすればいいんですか!?」

ティアナが突然怒鳴り声をあげながら顔を上げ、キッと良介を睨む。ティアナには解決策が思いつかないのだ。

仮に上司でもあるフェイトに報告しても証拠が無い以上どうすることも出来ない。

カールが言うように証拠を改ざんなんてしたら、カモと賄賂で繋がっている上層部の局員に証拠改ざんされたと言われ、逆にこっちが犯罪者として検挙されるかもしれない。

「なぁ、ティアナ。六課時代にセンターガードを務めていたお前なら知っていると思うが、作戦の上には戦術があり、戦術の上には戦略があり、戦略の上には大戦略がる。それと同じく小悪党の上には悪党があり、そのまた上には大悪党が居る・・・・」

「それってどういうことですか?」

「悪党は一般的には悪人を意味する語であるがな、俺の国の悪党の意味ではもう一つ、既存支配体系へ対抗した者と言う意味もあるんだよ」

「えっ?」

「着いてきな・・・・お前が本当にこの町の連中を助けたいのならな・・・・」

ティアナは一瞬迷ったが、この町の人たちを助けたい・・・・その事実は変わらず、良介の後をついて行った。

 

 

「・・・・あ、あの・・・・もう一度仰っていただけますか?」

カモミールが恐る恐る言う。

「だから炭鉱の経営権を全て売ってもらいたい」

炭鉱の全権を全て売ってくれと言うティアナの後ろには金塊が山の様に積まれている。

「スゲェ・・・・」

「これ全部本物かよ・・・」

カモミールの部下たちは金塊に目を奪われている。

「足らなかったですか?」

「い、いえ滅相もない」

(これだけの金塊があればこんな田舎とはオサラバして本局の高官に賄賂を送って、高級リゾート地に別荘を買って、それから・・・・)

カモミールが将来の事を妄想していると、ティアナと目があった。

「ああ、統括官殿のことはちゃんと本局の上司に話を通してあげましょう」

ニッコリと営業スマイルを浮かべるティアナ。

「執務官殿!!」

カモミールは感動したのか、ティアナの手を握る。

「ですが、一つ問題が・・・」

「と、言いますと?」

「実はこの金塊、綺麗な金塊ではないので、このことがバレると私も貴方も身の破滅を意味しまして、ここは『無償で穏便に譲渡した』という誓約書をいただけるとありがたいのですが・・・・それとこの記録も一切消去していただきたいのですが・・・・・」

「分かりました。すぐに用意しましょう。しかし、執務官殿も中々の悪ですなぁ」

「いえいえ、統括官殿ほどではありませんよ」

ティアナは口角をあげ、何か意味合いを含めた笑みを浮かべた。

 

 

ティアナがカモミールと炭鉱の経営権で取引を終えた頃、炭鉱の事務所では、オールウィンとカール、そして大勢の炭鉱マン達が言い合いをしていた。

「なんでだよ!!親父!!なんで止めるんだよ!?」

「なんでもだ。殴り込みなんぞ許さん・・・・」

「親方、あんたが止めても俺達はやるぞ!!」

「もう我慢できねぇよ!!」

「刺し違えてもカモの奴をぶん殴ってやる!!」

炭鉱マンたちは以前からカモミールの屋敷の襲撃を計画していたが、オールウィンによって何度も説得され、止められていた。

しかし、今回の放火騒ぎでもう我慢の限界が来たようだ。

次は自分達の家が放火され、命を奪われるかもしれない。しかし、犯人は分かっているのに逮捕されない・・・・。こんなバカな話があってたまるか!!

そんな思いが炭鉱マン達の中にあった。

「ダメだ!皆を犯罪者にするわけにはいかねぇ」

「だけど・・・・」

確かにカモミールがどんなに不正や悪政を働いていても暴動を起こせば本局の武装隊が鎮圧に乗り出し、犯罪者は炭鉱従業員側になり、カモミールは被害者ということで決して裁かれることはない。

そしてカモが行なってきた不正も表沙汰になることは無いだろう・・・・。

事務所でオールウィンと炭鉱マン達との間で言い合いが続く中、

そこへ、

「はーい!皆さん。シケた顔並べてご機嫌麗しゅう♪〜」

装飾が施された箱を抱えたティアナがやってきた。

ティアナの顔を見た一同は不快感を露にする。

「何しに来んだよ?管理局の狗っころ」

カールがティアナを狗呼ばわりして、何をしにティアナがここ(事務所)に来た理由を尋ねる。

「あら、ここの経営者に対し、その口の聞き方はないんじゃない?」

「ハァ?テメェ何訳の分からない事を・・・・」

一人の炭鉱マンが詰め寄ると、ティアナはその炭鉱マンの目の前に箱から取り出した一枚の書類を素早く突き付ける。

「それは?」

「ここの炭鉱の採掘、運営権と販売権、その他諸々の商用権が記された権利書」

ティアナが突き付けた書類の正体を言うと皆、唖然としている。

「何でそんなもんを持って・・・・あああああっ!!名義がカモの奴からティアナ・ランスターに変わってる!!」

「「「「「なにぃ!!?」」」」」

経営権がカモミールからティアナに変わっていることに対し、一同は驚愕の声を上げる。

「その通り!!すなわち今現在、この炭鉱は私の所有物って事で、私がここのオーナーよ!!」

「「「「「うそーん!!」」」」」

自分達の知らぬ間に炭鉱のオーナーが変わっていたことに驚く炭鉱マン達。

「・・とは言うものの、私は執務官に成り立てで、炭鉱の経営を行う余裕はありません」

驚く炭鉱マンを尻目にさくさくと話を進めていくティアナ。

ティアナ自身、炭鉱経営などさらさらする気などなく、この権利書を売り払おうとしていた。

「俺たちに売りつけようってか?」

オールウィンがティアナを睨みつけながら尋ねた。

「高いですよ。何かを得ようとするならそれなりの代価を支払わなければなりませんからねぇ〜」

そう言うと、ティアナは権利書の書類と保管箱の重要性とデザインを強調し、権利書の代価を言う。

「・・・・以上の事から見積もって、親方さんの店の食事代を含めた宿泊費二人分って所かな?」

「「「「・・・・・・」」」」

権利書の値段を聞き、唖然とする炭鉱マン一同。

「・・・・は、ハハハハハ・・・・そいつは確かに高けぇや!!ハハハハハ・・・・べらぼうに高けぇ!!ハハハハハ・・・・」

権利書の代価を聞いたオールウィンは最初、他の皆と同じく唖然としていたが、やがて片手で顔を覆いながら笑うと、

「よっしゃあ!買った!」

「よし、売った」

オールウィンは迷うことなく権利書を買い、ティアナは権利書を売った。

 

 

ここで時系列はティアナが良介の後をついて行った頃にまで遡る。

「どこに行くんですか先輩?」

着いてきたはいいもののどうやって町の人を救うのか、そのやり方を早く教えてもらいたいティアナの言葉には多少焦りが含まれていた。

「なぁ、ティアナ、このボタ(石炭以外の悪石)どれくらいあると思う?」

良介は炭鉱の採掘現場から集積場まで石炭を運ぶ貨物列車の操車場で貨物車両に積まれているボタ山の量をティアナに尋ねる。

「ざっと1,2トンって所でしょうか?でもこの石をどうする気ですか?」

「なぁに。今からちょっと法に触れることすから、お前、見てみぬフリをしつつ、協力しろ」

「な、なに言っているんですか!?」

「法に触れる」という言葉を聞き、ティアナは思わず声をあげる。

まさか目の前で堂々と不正行為を行い、しかもその不正に協力しろなどと、ティアナには信じられなかった。

これじゃあカモミールや汚職を働いている腐った管理局員連中と同じじゃないかとティアナが思うのも無理はなかった。

「『毒をもって毒を制す』言葉のとおり、小悪党には大悪党を持って小悪党を潰す。俺はさっき言った筈だぜ、ティアナ。それにお前はこの町の連中を助けたいからここまできたんだろう?」

「そ、それはそうですけど・・・・」

「だったら腹を括れ、綺麗事だけで小悪党は潰せないんだよ。時には小悪党以上の大悪党になって悪党を潰さなければならないこともこの先多々あると思うぜ」

「わ、分かりました・・・・」

町の人々を救いたい・・・・その一心でティアナは良介の言う「法に触れる」と言う必要悪に加担することにした。

「大丈夫だよ。俺の言う通りにすれば上手くいく」

そう言った後、良介はこのボタ山を使いどうやって町の人々を助けるのか作戦をティアナに話した。

まず、このボタ山を良介の法術とティアナの得意魔法である幻影魔法を使って、金塊にし、経営権を売って欲しいと取引を持ちかける。

カールが言うにはカモミールは金の亡者だ。目の前に金塊の山と言う極上のエサをチラつかせれば必ずティアナの取引に応じる筈。

(必要悪も時には正義にもなるってことですか・・・・)

良介とティアナがボタ山に法術と魔力を込めると、ボタ山が光を放ち始めた・・・・・。

 

 

時系列は時間を元に戻し、

「よっしゃあ!買った!」

「よし、売った」

ティアナが権利書を親方に売った直後、事務所にカモミールと部下が慌てた様子で飛び込んできた。

「執務官殿!これは一体どういうことですか!?」

「これはこれは統括官殿。ちょうど今、権利書をこちらの方に売ったところです」

「なんですと!?」

カモミールは権利書を売った事に驚愕の声をあげるが、それよりも彼にはティアナに問うことがあった。

「そ、それよりも、あなたからいただいた金塊が全部石塊になっておりましたぞ!?一体どういうことか説明していただきたい!!」

「えー金塊なんて知りませんよぉ〜?」

「とぼけないでいただきたい!山のような金塊と権利書を引換えたではありませんか!?これは立派な詐欺ですぞ!!」

「あれ?私は、権利書は無償で譲り受けたんですけどね?ホラ、貴方のサインが入った誓約書もここにありますし、そんな金塊があったなんて記録はどこにも存在しませんよ?」

ティアナは笑顔でカモミールの目の前に誓約書をチラつかせる。

カモミール自身も小悪党故、身の破滅を恐れ、バカ正直に不正な金塊で権利書を交換したという記録を全て削除していたのだ。

「ぬぐぐ・・・・・こ、この取引は無効だ!!お前達あの権利書を取り戻せ!!」

カモミールは癇癪を起こし、部下に命じて権利書を取り戻そうとすると、カモミールと部下を炭鉱マン達が取り囲む。

「力づくで個人の資産を奪う気ですか?統括官殿?」

「しかも証拠も無しに、執務官殿の目の前で?」

「それは職権乱用ではないですか?」

「いや、強盗だろう?」

ニヤついた表情で炭鉱マン達はカモミールに問う。

「う、うるさい!貴様らケガをしたくないのであればそこを退け!!」

炭鉱マン達の闘気に当てられ、ビビるカモミール。その声は震えて裏返っている。

「炭鉱マンの体力をナメてもらっちゃあ困るよ。統括官殿」

両手の骨を鳴らしながらジリジリと滲み寄る炭鉱マン達。

その後は一方的だった。抵抗を試みたカモミールの部下はデバイスを起動する前に炭鉱マン達にノックアウトされた。

部下がやられていく様をカモミールは唖然とした表情で見ていた。そんなカモミールにティアナは止めの一言を言い放つ。

「ああ、そうだ統括官殿」

ティアナの声を聞き、カモミールは体をビクッと震わせる。

「統括官殿の無能っぷりはちゃんと上に報告をしておきますので」

その言葉を聞き、カモミールの口から魂が出てきたように見え、外見も一気に老けたように見えた。

 

翌日、クラナガンに帰るため、ティアナと良介の姿はリニアの駅舎にあった。

カモミールを含め、不正を働いていた局員達全員の身柄は昨日ティアナがフェイトに連絡し、その日の内に高速ヘリで現地に赴いたオーリスが率いる、監査官達の手によって身柄を拘束され、本部へと連行されていき、厳しい取り調べが行われた。

これにより、この街で行われてきた不正の数々が明るみになることだろう。

ティアナの方も、後日提出する報告書の作成に苦労することになるだろうが・・・・。

しかし、今はこの街を不正と権力で支配していた局員達から解放出来たのだと言う喜びに浸りたいティアナだった。

 

「それじゃあ私達はクラナガンに戻ります」

「ああ、世話になったな。嬢ちゃん・・・・いや、ランスター執務官殿。色々迷惑もかけたし・・・・すまなかったなぁ・・・」

オールウィンは柄にもなく頭を下げて礼と謝罪を言う。

「構いません。それよりもこれから先、経営者として色々大変でしょうけど、お仕事頑張ってください」

「ああ、嬢ちゃんもな・・・・」

「はい」

ティアナとオールウィンは互いに握手を交わし、ティアナはリニアに乗る。

「経営で何か困ったことがあったら、家にそういうことが得意なメイドが居るから何時でも連絡をしてくれ」

良介は事務所の電話番号が書かれた名刺をオールウィンに渡し、リニアに乗った。

やがて発車時刻となり、二人が乗ったリニアはユニウスの町を後にした。

二人が乗ったリニアを見送っていたカールが父、オールウィンに尋ねるように呟いた。

「親父・・・・」

「ん?」

「ティアナは、権力や金の欲に魂まで売っちゃいなかったようだな」

「・・・・ああ、そうだな」

帰りのリニアの中でティアナは初仕事と緊張で疲れていたのだろう。すぐに眠ってしまった。

しかし、その寝顔はとても満足そうであった。

 

 

おまけ

 

ヴァイスのラブレター

 

ある日、ヴァイスは顔なじみの男友達を集めて相談事をしていた。

その内容は言うまでも無く、あの日、108部隊隊舎で出会ったあの女性局員(良介)のことである。

集まった場所も108部隊隊舎の食堂である。初めて出会った場所の方がより忠実にその時の状況を思い出せるからだと言う。

ヴァイスはまず、最初に心当たりを聞いたが、皆は知らないと言う。

「ま、まぁ局で働いている局員は沢山いるからな・・・・がんばっていればその内で会える日がくるさ・・・・」

クロノがヴァイスを励ますと、

「そうですよ。ヴァイスさん。案外ヴァイスさんの近くに居るかもしれませんよ?」

グリフィスもヴァイスを励ます。

「そ、そうだな。ありがとう・・・・」

「ところで、もし、出会ったらどうするんですか?」

「えっ?」

グリフィスの質問に固まるヴァイス。今までその女性局員(良介)を探し続けることでその先の事を考えていなかったヴァイス。

もし、見つけたとしてその先をどうする?

ヴァイスは自分自身に問う。

「や、やっぱり最終的には交際をしたい!でも・・・・・」

「でも?」

「きっかけが分からない・・・・・」

「だったら・・・・」

 

クロノの提案から無難に文通から初めてはどうだと言う事になった。

手紙なら直接顔を合わせないで自分の想いも伝えられるし、メールと違って手書きの方が自分の気持ちが込められているからだと言う。

クロノの言うことも一理あると、そう思ったヴァイスは早速手紙を書こうとするが、

「う〜ん・・・・」

便箋を前にヴァイスは悩む。

今までの人生の中で、恋文(ラブレター)なんて書いたことがないからである。練習とはいえ何を書いていいのかまったく思いつかない。

そこで、

「それじゃあ僕が代筆をしてあげよう。これでも昔はよくエイミィに手紙を送ったものさ・・・・」

と、クロノがペンをとり、手紙を書き始める。

 

『貴女のことを想うと、とても胸が痛みます。でも僕が貴女を想う気持ちは誰にもまけません。

貴女と共に、この先も寄り添い、二人で未来を切り開いていきたいと思います。

・・・・開くといえば、貴女は何時になったら股を開いてくれるんでしょうか・・・・?』

 

「失礼だろうがぁ!なんつぅ話題に切り換えようとしてんだ!?アンタは?原始人でももっとマシな口説き方をするわ!!」

クロノのあまりにも失礼な文面に声をあげて、突っ込むヴァイス。

そんなヴァイスに対してクロノは、

「恋をした時、人は皆原始にかえるのさ・・・・僕だってエイミィと一緒になったばかりの頃は・・・・」

と、何かを悟ったような顔で言う。

しかし、

「アンタだけが原始に帰れ!!そして二度と戻ってくるな!!」

そんなクロノの態度にますますキレるヴァイス。

「ふぅ〜まったくなっていませんね。それではヴァイスさんの人となりがわかりませんよ。次は僕が・・・・」

と、今度はクロノにかわりグリフィスが手紙の代筆を行う。

 

『貴女のことを想うと・・・・・ムラムラします・・・・』

 

「なんだ!?そりゃ!?それじゃあただの見境のないケダモノじゃねぇか!!アメーバでももっとマシな思考をしているぞ!!」

クロノより酷い文面にまたもキレるヴァイス。

「恋をする時、人は皆粘々さ。それにこっちの方がヴァイス陸曹らしいと思って・・・・」

「お前の頭の中がネバネバだ!このムッツリスケベ!お前さんが俺のことをどう思ってんのかよぉ〜く分かったよ!!・・・・はぁ〜・・カルタスの兄貴〜」

ヴァイスはグリフィスをジト目で見た後、最後の砦とも言うべきカルタスに代筆を頼んだ。

「ん?しょうがねぇな・・・・」

カルタスは長年の経験から女性をときめかせる甘い言葉を書き、最後の一文に『貴女に会いたい』の部分を書いた後、あえて線で消し、恥ずかしさまでも演出した。

「こんなもんでいいだろう?」

「す、スッゲェ!!完璧っスよ!!流石カルタスの兄貴!!」

ヴァイスは思わずカルタスの手を握り喜んだ。

その後、四人はコーヒーブレイクをするため、食堂のカウンターへ飲み物を頼みにいった。

そこに、

「ん?何だ?これは?忘れ物か?・・・・」

四人が席を離れている間、さっきまで四人がいた席の傍をゲンヤが通りかかった。テーブルの上には『愛しの君へ』と書かれた封筒が置かれ、裏にはヴァイスの名前が書かれていた。

事情を知るゲンヤはいらぬお節介かもしれないが、この手紙を良介に渡してやろうと思い手紙を懐に入れ、その場から立ち去った。

 

「良介、お前に手紙だ」

「俺に手紙?誰から?」

「ああ、ヴァイスが女のお前に恋をしちまったみたいでな」

「はぁ!?マジで!?・・・・そういえばあの時、俺の写真持っていたよな・・・・」

「ああ。会うのは無理でもせめて文通の相手でもしてやったらどうだ?」

「・・・・」

良介はゲンヤから手紙を手渡され、その内容を見た。

「へぇーヴァイスがこんな手紙を・・・・」

ヴァイスらしからぬ文面に良介は感心した。

手紙を読んでいた良介は最後に書かれた一文を読んで固まった。

最後の一文にはこう書かれていた・・・・

 

『貴女のことを想うと・・・・・ムラムラします・・・・』

 

手紙の最後の行にはグリフィスの書いた内容がそのまま残っていたのだ。

後日、ヴァイスは良介に問答無用で一発殴られた。

 

 

あとがき

多少、強引な形でしたが、調査任務は完了です。

読者の皆様には腑に落ちない点やあきらかにおかしいだろう!?という点がおありかもしれませんが、これで精一杯です、スミマセン。Orz

おまけは銀魂からネタをいただきました。

Strikers編のクロノの中の人が銀ちゃんと同じ人だったので、中の人繋がりです。

次回からはスバルルートに関係する話を書こうと思っています。

では、次回にまたお会いしましょう。

 




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