これは漫画家 荒川 弘 先生 作 「鋼の錬金術師」の炭鉱の街を元ネタにしました。
ネタが思いつかずスミマセン。
それでは本編をどうぞ・・・・。
五十話 ウイジンノヒ 炭鉱の町と支配者
「炭鉱って聞くともっと活気のある場所だと思っていたんだがな・・・・」
良介が周りを見渡しながら、自分の思った炭鉱のイメージと目の前の現実が違うことのギャップを感じていた。
二人は町中を歩いていく中で、途中すれ違ったり、疲れて路上に座り込んでいる炭鉱の労働者達を見てきたが、労働者達はまるで幽鬼の様に疲れきった顔をしている。
「おそらく帰宅時間帯だからでしょう?炭鉱の労働って大変な肉体労働なのでしょうから・・・・」
「そういうもんかな・・・・」
ティアナは特に気にする様子はなかったが、良介は(いくら大変な仕事でも此処まで、疲れ果てるか?)と、神妙な面持ちで労働者達を見ながら歩いた。
そして町の中にある商店を外から見ると、陳列されている商品が少なく、値段もクラナガンのスーパーよりも少し高い。
(田舎って都会と違って物価も安いと思っていたのに違うのか?しかも、たったあれだけの少量であの値段・・・・)
店に並べられている商品の値段にも疑問を感じる良介。
二人は町中の様子を見ながら今日の宿を探していた。
「ねぇ、そこの君」
ティアナはたまたま近くを通りかかった炭鉱員であろう少年に声をかける。
「ん?」
声をかけられ少年炭鉱員はティアナ達の方を振り向く。
「この辺にホテルか宿屋はない?」
「えっ!?何!?もしかして観光!?どこから来たの!?メシは!?今日の宿は決まっているの!?」
ティアナの質問に少年は目をキラキラさせてとびつき、宿の事をティアナに聞いてくる。
「え、えっと・・・・」
少年の質問に逆に最初質問したティアナの方が押され気味である。
「えっと・・・・今、泊まるトコ探しているんだけど・・・・」
「ホント!?親父!!客だ!!金ヅルだ!!」
「ん?なんだって?カール?」
「金ヅルだよ!!金・ヅ・ル!!」
少年は父親であろう一人の炭鉱マンに大声で知らせる。
「おい、ちょっと待て!!金ヅルってなんだよ!?金ヅルって!?」
良介が少年の言った「金ヅル」に対し、ツッコム。
「おう!いらっしゃい。ようこそ炭鉱の町『ユニウス』へ・・・・」
少年と少年の父親に連れられて良介とティアナは少年の父親が経営している宿に向かうこととなった。
「いやーホコリっぽくってすまんねぇ〜炭鉱マンだけじゃあ稼ぎが少なくてな、夜はこうして酒場兼宿屋をやっているわけよぉ〜」
「なに言ってんだよ!? 親方、その少ねぇ稼ぎもすぐ困っている奴に渡しちまうクセによぉ」
「奥さんもそりゃ泣くわな!!」
「うるせぇ!!文句があるなら溜まった酒代のツケ払え!!」
酒場に来ている炭鉱の従業員達は親方をからかい、酒場に笑いが満ちる。
「えっと、宿泊代・・・・食事付きの二人分ね?」
親方の奥さんであり、この酒場のウェイトレス兼女将を務めている女性がオーダーを確認する。
「はい」
「高ぇぞ?」
親方が二ヤリと笑みを浮かべる。
「ご心配なく、こう見えても蓄えはありますので」
ティアナが懐をポンっと軽く叩く。
「・・・・・ だ」
「なっ!?」
値段を聞き、絶句するティアナ。
「な、なんだ!?そりゃ!ぼったくりもいいところじゃねぇか!!」
絶句し、固まったティアナに変わって良介が値段に対して異議を唱える。
「だから言っただろう?『高い』って。滅多にこない観光客にはしっかりと金を落としてもらわないとこっちも生活が出来ねぇんだ」
「冗談じゃねぇ!!他を当たるわ!!」
良介が席を立とうとすると、ガシッと親方に頭を押さえられる。
「逃がすか!金ヅル」
「だぁぁぁー離せ!!」
「諦めなよ。他の所も似たり寄ったりだよ」
先ほど、親方からカールと呼ばれた少年が料理を運びながら良介に言う。
「くそ・・・・」
とりあえず、値段のことはほっといて良介は腹が減ったので、運ばれた料理を食べるため、席に着きなおす。
「そういえば、まだお名前をまだ窺っていませんでしたね」
奥さんが宿帳に記載するため、二人に名前を聞く。
「ティアナ・ランスターです」
ティアナが名前を言った瞬間、酒場の空気が急に変わった。
親方とカールがスッと二人の料理を素早く下げる。
「ランスターってもしかして元機動六課出身のティアナ・ランスターか?」
親方が確認するかのようにティアナに尋ねる。
「え?え、ええ、まぁ・・・・」
ティアナが六課出身の事を言うと、今度は奥さんがテーブルに乗っているコーヒーやお冷のグラスとカップを下げ始める。
J
・S事件の事はミッドでは大々的に報道され、その事件を解決に導いた六課の面々は、隊長陣は元より、FW陣、ロングアーチの面々もマスコミに取り上げられていたため、六課に所属していた局員は他の局員よりも名前が売れていた。最も事件解決時は良介が死亡していたので、マスコミの取材を受ける気など起きるはずもなく、取材は殆ど受けていなかったが、解決に導いたということで名前だけが広がっていた。
つまり、執務官としてのティアナ・ランスターはまだまだその名は知れ渡っていないが、管理局局員としてのティアナ・ランスターの名は知れ渡っていたのだ。
そしてそんな有名人が目の前にいるのにも関わらず、周りの炭鉱の従業員達はまるで親の仇を見るような目でティアナ達を睨んでいる。
「な、なんですか?」
急に変な空気になり、戸惑うティアナに、
「「「「「出でけぇ!!」」」」」
店の中に居る人達は声を上げる。そして、ティアナと良介は酒場にいる全員の手により店からつまみ出された。
「コラ!俺たちは客だぞ!!」
良介が客である自分達に対するあまりの扱いに怒鳴る。
「ふざけるな!!管理局の狗に食わせるメシも無ければ!!用意する寝どこもねぇ!!狗なら犬らしく外で寝ろ!!」
親方が怒鳴り返すと、
「俺は一般人だ!!局員じゃねぇよ!!」
と、良介が怒鳴り返す。
「おっ?そうなのか?そりゃあすまなかった。あんたは入っていいぞ」
「あっ、どうも・・・・」
良介が局員じゃないと分かると親方の態度は
180度変わり、良介もあっさりと怒りを鎮めた。「ちょ、ちょっと!先輩!!まさか、私を見捨てる気ですか!?」
二人の会話を聞いてこのままじゃ、自分一人だけ野宿ルート直行な感じに思わず声をあげ、良介に確認するティアナ。
「いや、流石にこの寒空の下、野宿なんてしたくないし、それに腹も減ったし・・・・」
ティアナの質問にあっさりと、ティアナを見捨てると発言した良介。
怒りを鎮めたのも空腹と寒さをしのげると言う理由があったためである。
「う、裏切り者!!」
ティアナの悲痛な叫び声を後ろから聞きながら、良介は再び店の中に入った。
しかし、良介には一つの思惑があった。何故、此処いる皆が、ティアナが管理局員だと知った途端あんなに態度が急変したのか、その理由も知りたかったのだ。
当然、その理由が分かったら、ティアナに教えてやるつもりだし、食事も持っていくし、寝床も皆が寝静まった時に迎えに行って、休ませてやるつもりでいた。
「なんだよ、久しぶりに外からの客が来たと思ったのに・・・・」
「しらけるねぇ〜」
「まったくだ・・・・」
ティアナを追い出した炭鉱マン達は皆ブツブツとティアナが局員だと知り、愚痴を言いながら席に戻っていく。
良介も再び席につき、周りの人達の様子を伺うが、久しぶりの外からの客が管理局の局員だったということが相当不満だったらしい。
「えらい嫌われようだな?そんなに管理局の局員が嫌いなのか?」
「そりゃあそうだよ。ここの町の皆は管理局の局員を嫌っているよ。それも物凄く・・・・ここを統括しているカモミールって奴が管理局の局員でもあり金の亡者だもん」
改めて良介にお冷の入ったグラスを持ってきたカールが、何故ここの皆が局員をあそこまで嫌うのか理由を話す。
「元は炭鉱の経営者だったんだがな、出世欲が出ちまってな・・・・」
「元々魔導士としての素質も僅かながら有ったからな・・・・」
「えっ?それじゃあここは・・・・」
「そ、この炭鉱はカモの個人資産ってやつさ・・・・」
「奴がここの権利を全て握っているから俺たちに支払われる給料は雀の涙程度」
「おまけに奴は管理局局員も兼務しているからな、文句を言えば公務執妨害だの騒乱罪だの理由をつけてブタ箱行き」
「この前も管理局に嘆願書を送った奴が居たが、そいつはその後すぐに事故死したよ」
「事故死!?」
恐らくフェイトに送られてきた嘆願書を送った人物であり、今回良介達が会う予定の人物だろう。しかし、その人物が事故死して既にこの世にいないとは聞いていない情報だった。
「まぁ、事故死っていうのは表向き、本当はカモの奴が自分の部下に命じて殺したのさ。俺達への見せしめも兼ねてね」
「・・・・・」
こうした件は過去に幾つもあったのだろう。しかし、この町に本格的な調査が入れられたのは恐らく今回が初・・・・。それはこの町からの嘆願書を受け取った局員がそこで嘆願書の内容を握り潰していたのだろう。ここの統括官のカモミールから多額の賄賂を貰って・・・・・・。
そして今回、せっかく派遣されてきたティアナを店から追い出したのも、統括官と同じ局員と言うことと、どうせ統括官から賄賂を貰って「問題なし」と判断し早々に引き上げると思っているためであろう。
「『法の番人』『正義』なんて御大層なことを言っているが、所詮連中は権力と金に塗れた偽善者共なんだよ」
親方が改めて良介に料理を差し出しながら呟く。
「そんなことはない」と、言いたいが今のこの町の現状を見ればそんなことを言っても信じてはもらえないだろうと判断した良介はただ黙って皆の局員に対する愚痴を聞きながら出された料理を食べた。
「うぅ〜・・・・お腹減った・・・・」
その頃、ティアナはひとり寒空の下、空腹に悩まされていた。
「先輩ったらあんなにあっさりと私を見捨てるなんて・・・・クラナガンに帰ったらギンガさんとアリサさんに言いつけてやるんだから・・・・」
うがーっと両手を上げ、自分を見捨てた良介に文句を言うティアナ。
そこへ、
「ギンガとアリサに何を言いつけるんだ?」
手にお盆を持った良介が現れた。
「せ、先輩?」
「ほら、お前の分の晩飯だ」
良介の持っているお盆の上には湯気の立っているコーヒーとサンドイッチが乗っている。
「流石先輩!!」
空腹でまさに地獄に仏状態だったので、思わず良介に抱きつくティアナ。
「ゲンキンだな」
苦笑しながらティアナに夕食がのったお盆を渡す良介。
「成程、差出人は既に殺されていた・・と・・・・腐った局員っていうのはやっぱり、どこにでも居るんですね・・・・」
良介はさっき店で聞いた情報を全てティアナに話した。
「ああ、そいつのおかげでここの炭鉱従業員たちは満足に給料も貰えていないらしい。おそらく食料事情も同じだろう・・・・毎日三食、十分に食えているのかさえ、怪しいな。町ですれ違った労働者達があんなにげっそりしていたのはそういう理由があったためなんだろうな・・・・」
「・・・・そうですか」
食料事情を言われ、ティアナは手の中にあるサンドイッチを目にやる。
(このサンドイッチも本来は皆、自分達が食べたい筈なのに・・・・)
そんな思いがティアナにはあった。
当初、自分を店からつまみ出したここの人たちを恨みはしたが、そんな事情があるとは知らず、事情を知った今ではここの人達が局員である自分に対し、あんなにも嫌悪感を抱き、局員である自分を店からつまみ出した行動もわかる気がした。
「まったくその腐ったお偉いさんのせいで、こっちはいい迷惑だわ。ただでさえ、局員は傲慢だという風評があるのに」
JS
事件前からも局員の横暴な態度には幾度となく苦情が寄せられて来たが、JS事件後はそれが更に増した。その理由としてミッドチルダ最大のテロ事件を解決したのが六課であり、その六課が管理局の局員と言うことでそれに他の局員達がそれに便乗したのである。
そしてミッドの地方や辺境の管理世界、最近になって管理世界に指定された世界ではこうした局員の傲慢や横暴な態度は日に日にエスカレートしている傾向が見られる。
そんな便乗連中の一人でもあるまだ見ぬこの町を統括しているカモミールに対し、愚痴を言いながらコーヒーを飲むティアナ。
コーヒーを飲んでいると、さっきまで自分達が居た店で怒鳴り声が聞こえた。
「どけ!どけ!」
「相変わらず汚い店だな、オールウィン?」
数人の屈強な男を引き連れて管理局の制服を着た一人の男が親方に話しかける。
「これはこれは、統括官殿。ようこそこんなムサ苦しいとことに」
「あいさつはいい。貴様、ここ最近税金を滞納しているのでな事情を聞きにきたのだ」
「成程、税金支払いの催促のために態々ご足労していただいたわけですか?それはご苦労様です」
親方が皮肉をこめて統括官の男に言うが、言われた統括官は何処吹く風のようで特に気にしない様子だった。
「まぁ税金の滞納に関しては貴様の所に限らずこの町全体で言えることなのだがな」
統括官は店の中を見渡すが、客の炭鉱マン達は統括官から目を逸らしている。
「すみませんねぇ。何分稼ぎが少ないもので・・・・」
「その割にはまだ酒を嗜む余裕があるようだな・・・・」
統括官の男は再び酒場にいる炭鉱マン達・・・・正確には店にあるテーブルを見渡す。
「ふむ、酒を嗜む余裕がまだあるという事はもう少し給料を下げても構わないという事だな?」
統括官の給料を下げるという言葉を聞き、店に居る炭鉱マンは皆、不満、怒りを露わにする。
そして・・・・
「ふざけんなぁ!!」
カールが雑巾を統括官の顔面に投げつける。
「っのガキ!!」
「がっ・・・・」
統括官の部下の一人がカールの顔面に一発パンチを入れ殴り倒す。
「管理局員であり、統括官でもある私に雑巾など投げつけたのだ。これは立派な傷害だな?」
とても傷害とは言えないが、この町では局員が犯罪だと認識すればどんな些細なこともそれは犯罪となる。それがこの町の現状・・・・。
統括官は二ヤリと笑い、
「子供といえども容赦はせん。見せしめだ!!やれ!!」
部下の一人がサーベル型のデバイスを起動させカールに襲いかかるその瞬間。
ガキン!!
ティアナがクロスミラージュの銃口に魔法刃を形成させ、統括官の部下の攻撃を受け止める。
「なっ、なんだ?お前は!?」
突然乱入したティアナに驚く統括官。
「通りすがりの者です」
片手にクロスミラージュ、もう片方の手にコーヒーカップを持ったティアナが言う。
「お前には関係ないスッこんでいろ!!それとも公務執行妨害で逮捕されたいか!?」
邪魔をされた統括官の部下が声をあげる。
「いや、統括官がお見えになられたので、ご挨拶をと思いまして」
ティアナはカップをテーブルに置くと、懐から身分証明書を出し統括官に提示する。
「なっ!?」
ティアナの真新しい身分証明書を見た統括官は固まる。
「統括官、コイツは何者ですか?」
「バカ者!!この方は本局の執務官殿だぞ・・・」
「マジですか!?あんなに若いのに?」
「これはチャンスだ。ここで好印象を与えれば本局にコネを作れるかもしれない」
「抜け目がないですな統括官殿」
部下とコソコソと小声で話した後、統括官は
「これは部下が失礼しました。私はこの町を統括しておりますアルベール・カモミールと申します。ここでこうして出会えたのも何かの縁。こんな汚い宿屋よりも是非ともわが屋敷へいかがです?」
カモミールは態度を180度変え、腰を低くしてティアナをもてなそうとする。
「汚くて悪かったな」
統括官の声が聞こえたのか、カールが文句を言う。
「それではお言葉に甘えることにします。ここの親方、ドケチなので泊まらせてくれないので」
ティアナの言葉に親方はムッとする。
「では、こちらへ・・・・・いいか貴様ら、次にくるまでにキッチリと税金は納めてもらうからな」
ティアナを案内し、統括官とその部下は店から出て行った。
「ぐわー!ムカツク!!」
ティアナ達の姿が見えなくなるとカールが突然騒ぐ。
「ちなみにどっちが?」
と、良介がカールに聞くと、
「「「「「両方!!」」」」」
カールを含め、店に居る全員が同じことを言った。
「ささ、どうぞ」
カモミール自らが公用車のドアを開閉し、ティアナを公用車に乗せた直後、部下の一人がカモミールに耳打ちする。
「統括官殿、先ほどのオールウィンの店ですが夜な夜な不穏分子が集まっているとの情報が有りますが・・・・」
「ふん、奴ららは前々から反抗的で面倒な連中だからな・・・・・不審火による火事で死んでもらう事にしよう」
「了解しました。統括官殿」
部下がカモミールの言葉を聞き、ニヤリと笑みを浮かべた。
この日の深夜、この町で一件の不審火が起こり、一つの店が火事で焼けた。
おまけ
ギンガのジャム
ある日の朝、宮本家の朝食にて、
「良介さん」
「ん?何だ?ギンガ?」
「昨日、ジャムを作ったんですけどいかがです?」
ギンガは良介にジャムが入っている瓶を見せる。
「えっ・・・・」
良介はギンガの言う「作ったジャム」と言う単語に過敏に反応した。
それは以前スバルから「宮本さん、ギン姉の作るジャムには気を付けてください」と、念押しされ、スバルの体験談を聞かされたからである。
その体験談とは・・・・。
次のような事だった・・・・。
それはギンガがナカジマ家に戻っている時、
「スバル」
「何?ギン姉?」
「昨日ジャムを作ってみたんだけど、味見してみる?」
ジャムの入った容器を手にギンガはスバルに問う。
ギンガはなのはの母親、高町桃子に料理やお菓子の作り方を教えてもらっているため、スバルはこの時、何の疑いも抱かなかった。
「それじゃあ少し貰おうかな」
ギンガはスプーンを使い、少量のジャムをスバルの手の甲の上に乗せる。
「それじゃあ、スバル、何ジャムか当ててみて」
「んじゃま」
スバルは手の甲の上のジャムを舐める。
すると、
「まずー!!」
ナカジマ家にスバルの大声が木霊した。
「まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!」
(まずすぎて意味がわかんないよ!!)
スバルは床を転がりながらあまりの不味さに悶え始めた。
「ほ、ホラ、スバル、コレ、ロシアンティーっていうジャムが入っている紅茶」
ギンガは口直しのためのロシアンティーをスバルに渡す。
スバルは口に広がるマズイジャムの味を消したいがために湯気の立っているその紅茶を一気に喉に流し込んだ。
「あづーっ!!」
「あづっあづっあづっていうかこのティーマズー!!」
このロシアンティーに入っているジャムは先程、スバルが食べたジャムが入っていた。
そりゃマズイ筈だ・・・・。
「まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!」
再び床に転がりながら悶えるスバル。
「え・・・・えっと・・・・ホラ、スバル、ジャムで舌を冷やして」
ギンガは床で頭を抱えながら悶えるスバルに思わず、スバルの口の中にジャムを放り込む。
「マズー!!」
「まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!まずい!!」
(水!!)
スバルはこの不味さから逃れるために台所の水道の下へ走っていった。
(水!!水!!水!!水!!水!!水!!)
「ミズー!!」
スバルは思いっきり水道の水栓ハンドルを緩め、口を開けて水を飲もうとするが、蛇口からは一向に水が流れてこない。
「何故だと」思い、水栓ハンドルを見ると、そこには『断水中』と書かれた札がぶら下がっていた。
「ズコー!!」
札を見たスバルはその場にズッコケた。
(はっ!牛乳!!牛乳!!牛乳!!牛乳乳!!)
スバルは勢い良く冷蔵庫の扉を開けると、そこから牛乳パックを取り出し、パックごと口をつけ、牛乳を飲んだが、スバルの口に広がったのは牛乳の味ではなく、先程から食わされているマズイジャムの味と同じ味だった。
「ごはぁー!!」
思わず、牛乳パックを落とし、口の中のモノも床に吐き出したスバル。
「あっ、スバル。ソレ余ったジャムが入っているけど・・・・」
「ズコー!!」
スバルは再びその場にズッコケた。
(くっ〜一体なんなの?この比類なき不味さは?ぐぇぇぇぇ〜)
(それにしてもマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイマズイ・・・・)
スバルがジャムのマズさに悶えていると、今までの人生でみてきたこと、経験してきたことが脳裏をかすめた。
「っ!」
思わず眠ってしまいそうな感じであったが、本能的にそれはやばいと思ったスバル。
なぜならば、とても綺麗なお花畑の向こうからクイントが「まだ来ちゃ駄目よ」と言っていたので、スバルは頭をバッと上げ、正気に戻ったのだ。
「スバル、貴女大丈夫?」
そんな臨死体験をしたスバルにギンガは顔を覗き込んで尋ねる。
「大丈夫!?大丈夫かって!?大丈夫なわけないでしょう!?あまりのマズさに微妙な走馬灯を見たよ!!それに綺麗なお花畑の向こうにお母さんが出てきたよ!!」
「やっぱり不味かったのか・・・・ノーヴェやチンク達も同じような事言ってたし・・・・」
ギンガは既にスバルを除く妹達全員を毒味役にさせていたようだ。
しかし、スバル程のオーバーリアクションはとっていなかったようで、悶えるスバルを見てギンガもつい動転して、熱いロシアンティー(まずいジャム入り)を出したり、口の中を冷やそうと、まずいジャムを入れてしまったのだ。
「ちょっと!ギン姉!マズイと思っているものを何で作ったの!?」
「えっと・・・・面白そうだったから?」
「あ〜もう・・・・」
変なチャレンジをしたギンガに頭を抱えるスバル。
「それじゃあスバル、改めてこれは何ジャムでしょうか?」
そんなスバルを尻目にギンガはこのジャムの原料をスバルに問う。
「知らないよ!!どうせ腐った魚でもいれたんでしょう!?ちょっと生臭かったし!!」
殆ど自棄になってジャムの原料を答えるスバル。
「あっ・・おしい!!」
そう言うとギンガは戸棚からあるモノを取り出す。
「正解はくさやジャムでした」
「クサーッ!!」
スバルはジャムの原料を聞き、本日三度目のズッコケをすることとなった。
これがスバルとくさやの最初の出会い・・・・くさや記念日だった。
と、まぁこんなことがあったので、ギンガの作るジャムには注意しろとスバルに言われていた良介。
「ぎ、ギンガ・・・・もしかしてそのジャムくさやのジャムじゃないよな?」
恐る恐るジャムの正体を尋ねる良介。
「いえ、くさやジャムは皆に不評だったので、別の原料を使いました」
「そ、そうか・・・・」
良介はくさやジャムでないと分かると、少し安心した。
そして。ギンガの作ったジャムをスプーンで掬った。
(色は緑か・・・・この色から察するにキウイか?それとも俺の大好きなメロンか?)
ジャムの色を見て、原料をキウイかメロンだと思い、良介はギンガの作ったジャムを舐めた。すると、良介の口の中を物凄い苦味が襲った。
「ニガー!!おぇぇぇぇ・・・・ぎ、ギンガ、このジャムの原料は何だ!?」
「これは八神さんの家の庭で取れたゴーヤを使ったゴーヤジャムです」
「ゴヤー!!」
良介はジャムの原料を聞くとその場にズッコケた。
それから直ぐにギンガにはジャム制作禁止令が出された。
あとがき
値段表記はかわらず、・・・・で現しています。
ミッドの貨幣を知っている方がいれば教えてください。
おまけは前回に引き続き、日常からいただきました。
ジャムネタといえば最初にくるのが、Kanonの水瀬秋子さんが作る謎のオレンジ色のジャムでした。
味は祐一や香里は拒否反応をしていたので、不味いものとおもわれます。
しかし、日常のクサヤジャムと違い、材料は一切不明だったので、今での謎のまま・・・・少し気になります。
では、次回にまたお会いしましょう。