四十八話 オボンノヒ 来年にまた会いましょう

 

 

「いや〜こいつはまいったなぁ〜・・・・」

町内会の会合から戻ったゲンヤは半壊した我が家を見て呟く。

「「ご、ごめんなさい・・・・」」

自宅の半壊の原因となったギンガとスバルがゲンヤに頭を下げて謝る。

「まぁ、家は直せば元に戻る。父さんにとってお前達家族にケガがなければそれが一番だ」

「「父さん」」

「「お父さん」」

「父様」

「パパりん」

ゲンヤの言葉に感動したナカジマ家の娘達が全員ゲンヤに抱きつく。

しかし、ゲンヤの言葉にはオチがついていた。

「ま、全員のお小遣いが減っちまうがな・・・・」

「「「「「ひぃぃぃ!!」」」」」

ゲンヤのお小遣い減額という言葉を聞き、ギンガ以外のナカジマ家の姉妹達は悲鳴をあげる。

「連帯責任だ」

「ゲンヤさん・・・・凄いわね・・・・」

アリサはゲンヤの手腕に感心した。

最初は優しく慰めてその後で、本題を言って、断れなくする。やはりそう言った手腕は子供を育てた経験があり、尚且つ人生経験が豊富なゲンヤならではのモノなのだろう。

「な、なぁ。お父さんアレ(家)あたし達も負担するの〜?」

ノーヴェは連帯責任でお小遣いが減らされることに不満の様子。

「当たり前だろう」

「何でさー。家をぶっ壊したのはギンガとスバルじゃん!!」

口を尖らせ不満を言うノーヴェ。

「「うっ」」

ノーヴェに家のことを言われ気まずそうにするギンガとスバル。

そんなノーヴェの不満をゲンヤはいとも簡単に切り返す。

「ジムや局のトレーニングルームでお前達がよく壊す壁や床、器具とかの修繕費もお父さん皆、負担しているんだぞぉー。しかも壊される都度、壊される前よりも強化してもらっているから普通の修理費よりも値段がかさむんだ・・・・」

「喜んで負担させていただきます!!」

ゲンヤの言葉を聞き、ノーヴェは即座にその場でゲンヤに対し土下座した。

((((つ、強い!!))))

二人のやりとりを見たアリサ、ギンガ、チンク、スバルはもはや何も言えなかった。

 

 

ゲンヤは知り合いの建築業者に電話を入れ、家の修復を頼んだが、お盆休みのため従業員が皆、帰省中などの理由ですぐには無理との返答があった。

しかたなく、ナカジマ家の皆は着替えと貴重品を持ってナカジマ家の修復が終わるまで宮本家でお世話になることになった。

ミッドにある宮本家にはじめて足を踏み入れたクイントは、家に入るなり、

「ここが良介君とギンガの愛の巣ねぇ〜ここで良介君とギンガは毎晩激しく・・・・」

と、妄想の海へダイブ。

「ちょっと母さん!!//////

変な妄想をしている母(クイント)にギンガは激しくツッコム。

しかし、宮本家の夜の事情を知っているアリサは、

(あながち間違いじゃないけどね・・・・)

と、口には出さないが、クイントの予想がほぼ正しいことに心の中で呟いた。

そして宮本夫妻の夜を見学した経験を持つナカジマシスターズもあの時の事を思い出したのか、全員頬を赤く染め、ギンガから視線をそらしている。

 

ギンガとスバルのいざこざと宮本家への移動準備と移動時間を加算した結果、時刻はとっくに昼時を過ぎ、もはや夕食時と行った方が、早いかもしれない状況だった。

なし崩しに巻き込まれたティアナにはせめてものお詫びということでクイント自らが腕を振るい、晩ご飯をティアナにご馳走した。

「はじめまして、ティアナ・ランスターさん。ギンガ達の母、クイント・ナカジマと言います。訓練校からスバルが随分とお世話になったそうで・・・・」

クイントがティアナに頭を下げながら丁寧に自己紹介とスバルが世話になったお礼を言う。

「は、はじめまして。ティアナ・ランスターです。スバルとは・・・・まぁ腐れ縁ということで半ば諦めというか耐久がついたというか・・・・」

クイントが一礼しながらティアナに自己紹介するとティアナも慌てて頭を下げつつ自らも名を名乗る。

「フフ、妙な気分でしょう?死者とこうして話しているわけだし」

「い、いえそんなことは・・・・そ、それよりもクイントさんに一つ聞きたいことがあるんですけど・・・・」

「何かしら?」

「クイントさんはその・・・・あの世でティーダ・ランスターっていう人と会ったことありますか?」

ティアナはあの世からきたクイントならば同じく殉職した自分の兄、ティーダ・ランスターを知っているかもしれないと思いクイントに兄の事を聞いてみた。

「ええ、ティーダさんとはあの世で自慢話をしあった中だし、よく知っているわよ」

「自慢話?」

「彼、あの世にきた時はティアナさんの事でかなり悩んでいたから。『ちゃんと一人で生活していけるのか?』って。その悩みを聞いたのが最初のきっかけね。その後はティアナさんがどれくらい可愛い妹なのかを延々と聞かされたわ」

「に、兄さん・・・・」

ティアナとしては呆れていいのやら、喜んでいいのやら微妙な話題だった。

「それで、私もギンガにスバル、そして息子同然に思っていた良介君の話をしたら互いに白熱しちゃってね」

「は、はぁ〜」

何となくその場面が容易に想像できるティアナであった。

「そうそう、それとこんなこともあったのよ・・・・」

クイントがあの世でのティーダの事をティアナに聞かせている時、ギンガはというと、

「ねぇ、桜花。いい加減機嫌治してよぉ〜お母さんが悪かったって・・・・」

「うぅ〜・・・・うぅ〜・・・・」

桜花に必死に謝っていた。

昼間の一件を未だに根にもっているのか、泣き止みはしたが、桜花はあれから機嫌が悪い。

それにギンガの傍には近寄ろうとせず、今もチンクにしがみついたままの状態だ。

「ほら、桜花。ギンガ母様もあれだけ謝っているのだから許してやれ」

しがみつかれたままのチンクもギンガに加勢する。正直いってそろそろ腕がやばかったのだ。

おむつ替えの時もギンガがやろうとすると桜花は嫌がったので、チンクとクイントが交互にやったのだが、それを終えると、桜花はチンクに抱っこを要求し、姪に弱いチンクはその要求通り桜花を抱っこした。

しかし、いくら戦闘機人と言えど、一日中赤ちゃんを抱っこしていれば腕も疲れてくる。

そのため、チンクは何としても自然な形で桜花に離れて欲しかったのだ。

だから桜花にはなんとしてでもギンガを許してもらわねばならなかった。

それから二時間後、ようやくギンガは桜花に許してもらったが、いまだに桜花から警戒され気味だった。

 

 

楽しい時間というのはアッという間に過ぎ、お盆最終日の前夜、ナカジマ家では誰がクイントの隣で寝るか姉妹同士の争奪戦が行われるほど、クイントと過ごす最後の夜は彼女たちにとって特別なものだった。

そしていよいよお別れの時が来た・・・・。

ナカジマ家の墓をバックにクイントが立ち、姉妹たちは皆、クイントに抱きついている。

「それじゃあ皆・・・・元気でね・・・・」

「「母さん」」

「母様」

「「お母さん」」

「ママりん」

皆、目に涙を浮かべクイントとの別れを惜しんでいる。

「泣かないで、私は常に皆の事を見守っているわ。いい、皆。家族は常に心で繋がっているのよ。それはどんなに離れていても。家族は心が繋がっている限りいつでも一緒よ。分かったかな?」

「「「「「「はい!!」」」」」」

クイントの言葉に皆声をあわせて返事をする。

「フフ、皆いい子たちね・・・・それじゃあゲンヤさん。後のこと頼みますね」

「ああ、任せろ。安心して皆を見守っていてくれ・・・・クイント」

「ええ。・・ああ、それとギンガ」

「はい」

「・・・・来年、また会うときには楽しみにしているわよ」

「え?」

ギンガにはクイントの言うことがいまいち理解ができなかった。そりゃあまた来年クイントに会いたいのは当たり前なのだが・・・・。

戸惑うギンガにクイントは会いたい理由を話す。

「今度は男の子がいいわね。それも良介君みたいな元気でやんちゃな子がいいわ」

「なっ!?/////

そこまで言われ、ようやくクイントの言っていたことがようやく理解できたギンガは顔を赤くする。

「か、母さん!!////

「フフ、それじゃあまた来年にね・・・・」

「まったく/////

クイントが微笑みを浮かべたのと同時にクイントの姿が光輝き、光が収まるとそこに立っていたのはクイントではなく、クイントに体を貸していた良介だった。

まだ意識が無く倒れそうになる良介をギンガが受け止める。

「お疲れ様です・・・・そして素敵なお盆をくれてありがとうございました。良介さん」

ギンガは眠る良介に亡き母と過ごせた短くも楽しかったお盆を与えてくれたことにお礼を言った。

 

 

お盆期間が終わり、皆お盆休暇が明けた頃、

「ホラ、良介さん、もっと早く!!」

早朝からクラナガンの海岸線をジョギングする宮本家夫妻の姿があった。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・クソっ、クイントのヤロォ〜・・・・・!」

お盆が明けたあと、良介はお風呂に入ったとき、お盆前よりもお腹が出ていることに不審を抱き、体重計に乗ってみると、なんと体重がお盆前よりも10キロ以上増えていたのだ。

ギンガにその原因を問いただすと、

「そう言えばお母さん、生前と変わらない量の食事をしていましたね・・・・」

と、良介から視線をそらし、気まずそうに言った。

クイントの期間限定の復活は良介の体重アップという形で返されたのだった。

良介にとってはまさに恩を仇で返された気分だった。

姿形、声、能力、そして食欲はクイントと同じでも元は良介の体だったので、クイントと同じ食事量をお盆の期間中とはいえ、摂取すれば・・・・・まぁ当然と言えば当然の結果だった。

 

「もう・・ハァ、ハァ、ハァ・・来年の・・・・・お盆は・・・・ハァ、ハァ、・・クイントに・・ハァ、ハァ、・・体は絶対に貸さねぇ・・・・」

良介は固く誓うがそれを聞いたギンガは、

「それは困ります!!」

やはり、年に一回は母親に会いたいのだろう。

「でも、毎回・・ハァ、ハァ、ハァ・・これじゃあ・・・・ハァ、ハァ、ハァ・・・・」

良介が息を切らせながら異議を唱えるが、

「それなら、毎年お盆の後、こうしてダイエットすればいいじゃないですか」

ギンガはさも当然の様に言った。

 

後日、ナカジマ家の姉妹たちにも・・・・

「リョウスケ、来年もまた頼むな」

「来年こそは母様と一緒に寝る」

「またお母さんと一緒に訓練するんだ」

「もっと母さんと買い物もしたいし・・・・・」

「アタシも!ママりんと一緒にお出かけしたいっス!!だからよろしくっス!!」

と、義妹達に期待に満ちた目で頼まれた。

その他にも、

「先輩、来年のお盆には是非兄さんを!!」

と、ティアナまで頼み込んできた。

 

 

お盆が明けた後、変わったのは良介の体重だけではなかった。

「ほら、今日のお母さんは大丈夫だから。ねっ?」

「うぅ〜・・・・」

桜花がやたらと母親であるギンガを警戒するようになった。

「い、一体何があったんだ?」

普段はギンガにべったりだったあの桜花があんなにギンガを警戒するなんて尋常ではなかった。

「それに何故か、スバル達の家が半壊していたですぅ・・・・」

「色々あったんだよ・・・・色々な・・・・・」

ナカジマ家は未だに修復されていないため、寮住まいであるスバル以外のナカジマ家の住人達は今もなお、宮本家に下宿している。

そしてギンガのことも家のことも知っているチンクは疲れたように呟いた。

「「?」」

しかし、事情を知らないミヤは首を傾げ、良介は「何か前にも似たことがあったな・・・・」とデジャブを感じていた。

 

 

おまけ

 

青いヒーロー

 

 

良介が地球土産としてカンフーDVDをスバルとノーヴェにあげた。

最近ノーヴェはヴィヴィオにストライクアーツを教えているらしく、何かの参考になればと思い、スバルも貪欲に強さを求めているので、地球のカンフーが何か参考になればと思ったのだ。

何本かのDVDを見た後、スバルとノーヴェが何か言い合いをしていた。

「だから、・・・・だってば!!」

「いいや、・・・・だって!!」

「ん?どうした?」

良介が二人に何を言い合いしているのかを聞くと、

「ノーヴェってば、このブルースリーって人の苗字がブルーだって言うんだよ」

「あーそれわかるなぁー」

良介がなんとなく納得すると、

「スリーが苗字だよね?」

スバルは自信満々に答える。

「・・・・・・」

スバルの答えに良介は呆れるしかなかった。

 

「なんだよ?それ?スリーって3か?青3号?戦隊もののヒーローかよ?」

良介が呆れながら言う。

ノーヴェはこの時、かつて自分の姉であったトーレの姿が脳裏を過ぎった。

「そっか、そう言われれば1号と2号はどうしたんだろう?」

「おい・・・・」

スバルはまだ理解していない様子・・・・。

そして・・・・

「ブルーファイブあたりがこのジャッキーって奴じゃねか?」

「あー」

ノーヴェの指摘に納得するスバル。

「おい、君達・・・・」

ノーヴェも理解していない様子だった。

 

 

あとがき

これにてお盆編は終了です。

作者としては、あの世のイメージはブリーチよりもドラゴンボールの方が強いです。

頭の上に金色の輪っかをつけたクイントさんやティーダさんが思い浮かびました。

おまけのネタはあずまんが大王よりいただきました。

 

「青い」「番号」というキーワードで、まっさきに思い浮かんだのは数の子達でした。

 

彼女達、青っぽいスーツきていましたし、名前がイタリア語の番号でしたもんね・・・・。

 

では、次回にまたお会いしましょう。




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