四十三話 ノウリョウノヒ 女の戦い  八神家夏の陣

 

 

ここ異世界のミッドチルダにも四季はちゃんと存在する。

そして今、現在の季節は夏である。

夏となれば当然外気温は暑い。

とてつもなく暑い。

ひどく暑い。

日本の夏同様、むしむしとした湿度の高い不快でイヤ〜な暑さなのだ。

そんな夏のある日、良介達、宮本家の面々はギンガの実家、ナカジマ家に里帰りしていた。

里帰りの理由はもうすぐお盆が近づいているためであった。

この日、ギンガは桜花とアリサを連れて、クラナガンのデパートへショッピングへと行き、夏季休暇中のゲンヤは荷物持ちとして一緒に連れて行かれた。

良介は前日、ショッピングを楽しみにしていたアリサのため、早めにアリサを休ませ、自分は深夜遅くまで事務処理作業を行なっていたため、昼近くまで爆睡し、荷物持ちにならずに済んだ。

・・・・というかこれは良介が計算に入れていた行動であった。

良介本人からすれば真夏の厳しい日差しの中、人混みの中を・・・・しかも大荷物を抱えて歩くなんてまっぴらゴメンだったのだ。

チンクとスバルを除く、ナカジマ家の姉妹達は近くのプールへ出かけた。

プールへ出かける前に、ノーヴェがチンクを誘ったが、チンクはノーヴェとウェンディの胸を見て、マイナスオーラを纏いながら、プール行きを拒否した。

この時二人は何故、チンクがプールに行くのを拒否したのかその理由は分からなかった。

スバルは特別救助隊の夏季休暇前なので、救助隊のオフィスにまだつめている。どうやら事務処理の仕事をかなり貯めていたようだ。

「明日から夏季休暇なのに、なかなか進まないよぉ〜終わらないよぉ〜どうしよぉ〜」

と、嘆きながら自分のデスクで涙目になりながらも仕事をするスバルの姿が救助隊のオフィスにあった。

 

 

昼頃になり、ようやく起きてきた良介がナカジマ家の居間に行くと、居間にはチンク一人だけで、他の皆は出かけて留守だという。

昼ご飯はチンクと二人で素麺を食べた。

素麺を食べながら良介はふとした疑問をチンクにぶつけた。

「なぁ、チンク」

「なんだ。良介?」

「お前何で飯食うとき箸じゃなくてフォークを使ってんだ?」

良介の目の前に座るチンクは箸ではなくフォークで器用に素麺を食べている。

日本人の祖先を持つナカジマ家では洋食系の食事よりも和食系の食事が多く、ナカジマ家に養女となったノーヴェ、ウェンディ、デェイチは最初、箸の取り扱いの難しさに悪戦苦闘していたが、今では普通に使えている。

しかし、チンクは良介が見た限り、食事では必ず箸ではなく、常にフォークを使用している。

それもヴィヴィオくらいか、それよりも下のお子様が使うような小さな絵柄の入ったフォークを・・・・。

「これの方が食べやすいからだ」

チンクはさも当然の様に言う。

「でも、他の数の子連中はちゃんと箸を使っているぞ」

「・・・・・・」

他の妹達の食事場面を思い出したのか、無言で考え込むチンク。

その後、人知れず箸の練習をするチンクの姿が、ナカジマ家で度々目撃されるようになった。

姉の威厳のため努力を惜しまないチンクであった。

 

食後、暫くはテレビを見ながら過ごしたが、チンクが、思い出したかの様に「そういえば、シャマルに用があった」と、言ったので、二人は八神家に出かけた。

八神家にはシグナムとヴィータ、シャマルそしてヴィヴィオが居た。

はやてはスバル同様仕事が終わっていないため、まだオフィスで働いているらしい。

ゲンヤの様にベテラン管理職と違い、新米管理職では仕事の量と処理するスピードに差があったようだ。それは、なのはとフェイトも同じだった。

シグナム達は中間管理職のため、はやて達ほど仕事量がなかったため、ひと足早く夏季休暇を満喫していた。

ヴィヴィオは学校が夏休みに入ったのだが、なのはとフェイトがまだ仕事があるため、一早く夏季休暇になったシグナム達の下でお世話になっていた。

ザッフィーの行方は・・・・不明。

この暑さだ、恐らく近くの公園で水浴びでもしているのだろう。

「おっす」

「こんにちは」

「あら〜いらっしゃい、良介さんにチンクちゃん」

玄関でシャマルが二人を出迎える。

「あ、チンクちゃんコレ、家の庭でとれた野菜。帰りに持って帰ってね」

「ああ、いつもすまないな」

チンクはシャマルから大量の野菜が入った袋を貰っていた。

どうやらチンクの用とはシャマルから野菜を貰う事の様だった。

「なぁ、そんなに沢山の野菜どうするんだ?」

ヴィータが袋に入った大量の野菜を見ながらチンクに尋ねる。

「家に大食らい(ノーヴェ)がいるだろう?」

「ああ、成程。その野菜ノーヴェが殆ど食べるわけだな?」

同じく大食らいの女房と生活をしている良介が納得したかのように言うと、

「いや、アイツ最近野菜だけを残して食べるんだ・・・・」

野菜を見ながら深刻そうにつぶやくチンク。

ギンガが良介の下に嫁いでからナカジマ家の台所はもっぱらチンクが預かっていた。

チンクは家族皆の栄養管理とかも考えながら毎食の献立を考え作っていたのだが、ここ最近、ノーヴェがよく野菜だけを残しているのに、チンクは嘆いていた。

(へぇ〜大食らいでも好き嫌いはするのか・・・・)

チンクの言葉を聞き、自分の知る大食らい三人、ギンガ、スバル、エリオは好き嫌いせず、何でも食べていたので、同じ大食らいでも野菜を残すノーヴェに対し意外性を感じる良介であった。

「この前も肉だけを食べて、野菜を残していたからな・・・・だから、ここで貰った野菜を使って、三日間連続して・・・・ノーヴェだけに肉抜きの野菜炒めを出してやる・・・・フフフフフ・・・・」

((黒っ!!何か黒っ!!)

良介とヴィータが「目にもの見せてやる」とか言いながら黒い笑を浮かべているチンクに心の中でツッコム。

そんな中、

「おっ?ゴーヤもあるのか?」

袋の中を探りながら野菜を見ていたチンクが袋の中からゴーヤを発見する。

「ええ、この時期チャンプルにするといわよ」

シャマルがゴーヤの使い道を提案すると、

「そうだな、そうしよう・・・・あっ!」

チンクがゴーヤを見つめながら何かを思いついたようだ。

「肉抜きのゴーヤチャンプルを作ってやる・・・・フフフフフ・・・・・」

「おいおい、それは・・・・」

「ただの苦いチャンプルじゃねぇ?」

今度はヴィータが口でツッコムが、チンクには届いておらず、相変わらず黒い笑を浮かべている。

良介とヴィータは黒い笑いとオーラを展開しているチンクに引き気味。

「肉抜きにするならいっそ豆腐も抜いちゃえばいいのに?」

ヴィヴィオがチンクに意見すると、

「それはチャンプルじゃないだろう?お前は何を言っているんだ?」

「えっ?あれ?」

チンクはヴィヴィオを哀れんだ目で見た。

 

 

シャマルから「せっかく来たんだからゆっくりしていってね」と言われ、八神家に上がったが、特にやりたいことが思いつかず、空調のきいた部屋で皆でゴロゴロしているとヴィータが、

「そういえば他の姉妹達はどうした?」

と、ナカジマ家の他の姉妹の行方を聞いてきた。

「ギンガ姉様はアリサさんと父様と一緒にデパートへショッピング、スバルはまだ救助隊のオフィスで仕事中。残りはプールに行った」

「ふーん」

姉妹たちの行き先を聞き、納得しているヴィータとヴィヴィオであったが、そこに妙な違和感を感じた。

「え?」

「お前は行かなくて良かったのか?プールに?」

ヴィータがチンクに尋ねると、

「・・・・グレープフルーツ・・なんだ・・・・りんご・・なんだ・・・・それに・・・・牛までいるんだ・・・・」

(グレープフルーツ?りんご?牛?)

チンクは胸の大きい妹達の事を思い出し、どよ〜んとしたマイナスなテンションになり、自らの胸を触りながら突然訳の分からいことを口走る。

その言葉の意味を良介とヴィヴィオは分からなかった。

「・・・・グレープフルーツに・・・・・りんご・・・・それに牛か・・・・・」

「姉の威厳が・・・・」

「大丈夫だ・・・・ステータスだ」

しかし、ヴィータにはチンクの言ったグレープフルーツとりんごそれに牛の意味が通じたらしくチンクを慰めている。

「あっ!」

そんな二人の様子を見たヴィヴィオがチンクの言ったグレープフルーツとりんご、牛の意味を理解したらしく、ヴィータの胸を見て呟いた。

「ヴィータお姉ちゃんのは、さしずめミカンだね?」

「テメェ!!ヴィヴィオ!!アタシの(胸)はミカン見たく小さいだとぉ〜?」

(※ヴィータは()内の胸と言う言葉を堂々と発言していません)

ヴィヴィオの言葉を聞いたヴィータはブチギレ、ヴィヴィオを追いかけまわす。

 

「捕まえたぜぇ、ヴィヴィオぉ〜!!」

ヴィータが手を伸ばしヴィヴィオを捕まえようとする。

その時、

「こら、あまり家の中を走り回るな。危ないぞ」

ヴィヴィオの逃走ルートにシグナムが割り込み、ヴィータの手はそのままシグナムの胸を捕まえる形となった。

しかもこの日は暑かったのでシグナムは、上はタンクトップ姿をしており、ヴィータの手は上手具合に脇の下から上着の中に突っ込んでおり、シグナムの胸を直に鷲掴みしていた。

「・・何のつもりだ?ヴィータ?」

シグナムは冷火の如く、怒気を含んだ声でヴィータに尋ね、突然自分の胸を鷲掴みしてきたヴィータの頭に手を置く。

「こ、これは・・・・偶然の事故で・・・・イタイ・・イタイ・・イタイ・・頭が・・割る・・・」

シグナムはヴィータの頭をカチ割るかのように手に力を込める。

「いいからその手を退けろ!」

「むっ?待て・・・・これは・・・・め、メロンだ!?」

シグナムの胸をつかみながらその胸の大きさに驚くヴィータ。

「なっ!?//////

「「メロンっ!?」」

(メロン?)

ヴィータの報告を聞いたチンクは元より、ヴィヴィオも衝撃を受けていた。

良介は大好物のメロンに反応したが、どこにもメロンはなく、視線の先にはシグナムの胸を掴んでいるヴィータがおり、そこで漸く先程チンク達が言っているフルーツの名称が胸のサイズだと理解した。

(く、くだらねぇ・・・・)

胸の大きさに喚いている女性陣を見て、良介は心の中でそう思った。もし、口に出せば確実に火の粉が自分に降り掛かるのは明らかであったからである。

 

「聞きましたか陛下?あの方メロンですってよ。メロン」

「さすが、エロ要員シグナム・・・・」

「ちょっ!?」

今度はチンクとヴィヴィオのヒソヒソ話を聞いたシグナムがショックを受け、その怒りを事の発端となったヴィータに向ける。

「ヴィータぁ〜〜貴様ぁ〜この屈辱をどうしてくれる〜?」

「そんなことはどうでもいい!!シグナム!!テメェに一言だけ言わせて貰うぜっ!!」

シグナムから怒りを向けられたヴィータも何故だか、シグナムに対し怒っている様子。

その理由は・・・・

「ブラくらいつけろよ!!モロだったぜ!!」

「なっ!?//////

ヴィータの発言を聞き、シグナムは怒りから一転、羞恥に変わった。

烈火の将と呼ばれるシグナムもこの暑さには参っているのだ。

別に外へ出るわけではないし、家の中くらいラフな格好でいたいのだ。というか、この暑さで常にブラなどをつけていれば蒸れて余計に暑くなる。

幸い、良介は海鳴に住んでいた頃から、共に八神家で過ごしていたため、シグナムは良介のことを一人の異性ではなく、家族同然に思っているので、服の上から見られてもそこまで羞恥は感じなかった。

しかも良介はシグナムがノーブラだということに気がついていなかった。だが、ここまで大々的にみんなの前で暴露されればやはり恥ずかしくもなる。

 

 

シグナムとヴィータが言い合いをしていると、チンクの携帯端末がメールの着信を知らせた。

「む?メールか?」

チンクが携帯端末を開くと、

「ウェンディからか?・・どれどれ?」

送られてきたメールはプールへ行った妹組みからのメールだった。

「何て書いてあるの?」

ヴィヴィオがメールの内容を聞くと、

「う〜む・・・・断片的だな・・・・『プール・・・・芋洗い・・・・入れない・・・・無理っス・・・・帰るっス』・・だそうだ」

「うわぁ・・・・大混雑だったようだな・・・プール・・・・」

良介が大混雑のプールを想像し、引くように言う。まぁ、この季節、この暑さならば皆考えることは同じなので、当然と言えば当然の結果だろう。

「ああ、やさぐれているな、こりゃ・・・・」

「せっかくだしここに呼んでやれば?プールからだとナカジマ家よりここの方が近いだろう?」

「そうだな・・・・」

チンクが返信のメールを打つ。

チンクがメールを打っている間、良介は、

(プールが大混雑しているなら、やっぱりデパートも同じくらい混んでいるんじゃ・・・・・ゲンヤのとっつぁん・・・・死ぬなよ・・・・)

と、デパートに行った女房達を心配していた。特に荷物持ちに連れて行かれた義父(ゲンヤ)に対して・・・・。

 

 

「ヴィヴィオも何か言ってやれ、このエロ要員に!!」

さっきからシグナムと言い合いをしていたヴィータがヴィヴィオにも参戦するように言う。

すると、ヴィヴィオは、

「ヴィヴィオには未来があるので、怒ったりはしないのです」

と、小さい胸を張ってヴィータに宣言する。

たしかにJS事件の時、『ゆりかご』の中でなのはと対峙した時の大人バージョンのヴィヴィオはそれなりに胸があった。

あの姿がヴィヴィオの将来像とするのならヴィヴィオは将来胸について悩まなくても済むことになる。それをヴィヴィオは胸について言い合いをしているヴィータを見て、それを堂々と言い放った。

しかし、ヴィヴィオは気がついていなかった。

ヴィータは元々闇の書のプログラム体で構成されており、ある意味不老不死なのだ。

つまり、ヴィータは永遠にロリのままだということを・・・・。

そして背と胸にコンプレックスを抱いているヴィータにそんなことを言えばどうなるか?

「『には』・・だと?」

「はわっ!?」

ヴィヴィオの宣言を聞いて、ヴィータは怒りのオーラを纏った。

ヴィヴィオは「しまった」と思ったが時すでに遅し、ヴィヴィオは狂戦士化したヴィータに手痛いお仕置きを受ける羽目になった。

(まぁ、アレはヴィヴィオの自業自得だしな・・・・)

良介は触らぬ神(ヴィータ)に祟りなしと、判断してあっさりとヴィヴィオをあっさりと見捨てた。

 

 

「「「こんにちわー」」」

「いらっしゃい」

チンクがメールで知らせたプールに行った妹組み、ノーヴェ、デェイチ、ウェンディが八神家に到着した。

「チンク姉います?」

「ええ、いるわよ〜・・・・でも・・」

シャマルが何とも歯切れの悪い言葉を残し、三人を皆の居る居間に案内すると、そこでは・・・・

「メロン!!メロン!!」

「エロ要員!!」

「やかましいぞ!!お前達!!」

ヴィヴィオに制裁を加えた後、再びシグナムを攻撃している貧乳二人組み(チンクとヴィータ)がそこにいた。

「ノーブラメロン!!」

「痴女!!」

「うるさいわっ!!」

その様子は幼稚園児の喧嘩のようでもあった。

 

「身内には見せられない姿ね・・・・」

シャマルが呆れた様子でお客に言う。

「・・・・・」

「チンク姉・・・・」

「情けないっス・・・・」

デェイチは三人の言い合いを唖然とした表情で見て、ノーヴェとウェンディも尊敬する姉の姿にやや呆れ気味だった。

 

「チンク姉どうしたのさ?」

居間に通され、ノーヴェがとりあえずこうなった原因をチンクに聞く。

するとチンクは、ノーヴェの胸を見て、

「グレープフルーツに・・・・グレープフルーツに・・・・姉の何が分かる!!」

突然噛み付く勢いでノーヴェに声をあげる。ターゲットをシグナムから妹のノーヴェに変更したチンク。

「いきなり何言っているのさ!?訳分からないよ!?一体なんの話をしているのさ、チンク姉」

ノーヴェも引きながら声をあげる。

突然訳も分からず責められれば言わずにはいられない。

「まぁまぁ落ち着くっスよ、チンク姉、興奮すれば余計に暑くなるだけっスよ」

一方的にノーヴェに食いかかるチンクをウェンディが宥めにかかる。

「う、ウェンディ・・・・そ、そうだな・・・・姉としたことが少し取り乱しすぎたようだな・・・・」

ウェンディに宥められ、チンクはようやく冷静さを取り戻す。

「はい、コレ、チンク姉におみやげっス」

ウェンディはプールから八神家に来る途中、コンビニで購入したお土産の入った袋をチンクに渡す。

「おお、土産とは気が利くな。姉思いの妹を持って姉は・・・・」

チンクが袋から取り出すとその中には牛乳が入っていた。

「・・・・・」

無言でウェンディからのお土産の牛乳を見つめるチンク。

そして、

「・・これはどういう意味だ?ウェンディ?」

暫くは無言だったチンクガようやく口を開き、何故お土産が牛乳なのか、その真意を聞く。

しかし、その声は妙に低かった。

「いやぁ・・プールに行かなかったのは(背が)小さいのを気にしているのかと思って・・・・」

ウェンディがお土産の意味を答えるが、()の中の「背」という意味はチンクには届いていなかった。しかもチンクの不機嫌に気が付いていない。

ウェンディはてっきり、チンクは背が小さいことを気にしているからプールに行きたくないのだと思っていた。

背が小さいと言う理由から係員に浮き輪を勧められたり、子供用のプールに案内されたり、一人で歩いていると迷子と間違えられたりと、チンクが普段大切にしている姉の威厳が損なわれると思ったからである。

まぁ、ある意味当たってはいるが、残念ながら今のチンクの不機嫌な理由は背ではなく胸の方だった。

「(胸が)小さいか・・・・?そんなに姉は(胸が)小さいか?」

同じくチンクの()の中の「胸」という意味も「背」同様ウェンディに届いていなかった。

「大丈夫っスよ!牛乳を飲めば(背は)大きくな・・・・・」

 

ドスっ!!

 

チンクの拳がウェンディの鳩尾にジャストヒットした。

「はうっ・・・」

「牛(ウェンディ)に姉の気持ちが分かってたまるか・・・・」

凄い音とウェンディの鈍い声がしたので、ノーヴェが振り返ってみるとそこには、腹を抱え、ピクピクと悶絶して倒れているウェンディと体から覇気を滲み出しているチンクがいた。

「い、一体何が?」

なぜ、こうなったのか理由が分からないノーヴェは多少混乱したが、お土産を渡せばチンクの機嫌が直ると思い、自身もお土産を渡すことにした。

「チンク姉、あ、あたしもお土産があるんだけど・・・・」

「 ? 」

「はいコレ」

ノーヴェが赤い網袋に入った冷凍みかんをチンクに渡す。

「っ!? み、みかん・・・・」

「そう、冷凍みかん。冷たくておいしいよ〜」

「・・そうか・・・・みかんか・・・・」

チンクは冷凍みかんを受け取っても機嫌は治らなかった。

それどころか、ヴィータまでもが冷凍みかんを見て機嫌を悪くする始末。

恐らく冷凍みかんを見て、先程ヴィヴィオに言われてことを思い出したのだろう。

「ヴィータ!!」

「おう!!」

いつの間にかノーヴェの背後に回ったヴィータはノーヴェの両腕をガッチリと拘束し、チンクは網から冷凍みかんを一つ取り出す。

「フム、確かに・・よく・・冷えているな・・・・」

冷凍みかんを手に取りその冷たさ加減を確認するチンク。

「ちょ・・・・何する気?・・チンク姉?ヴィータもなんでアタシを捕まえてるの!?」

ノーヴェは両腕を拘束され、怪しいオーラを纏い冷凍みかんを持つチンクに若干の恐怖心を抱く。

「はーっ!!」

気合一声、チンクは冷凍みかんをノーヴェの胸の谷間の中に押し込んだ。

「ギャー!!」

突然、冷凍みかんを胸の谷間の中に入れられたノーヴェはその場に倒れた。

「つ・・・・つべたい・・・・」

「「イェーイ!!」」

床に倒れたノーヴェを見て、チンクとヴィータは互いにハイタッチをしている。しかし、その様子はどこか空しさを漂わせている。

 

「もしや、デェイチ(りんご)も何かあるのか?」

チンクは残るデェイチにも聞く。

「え・・・・えっと・・・・」

持参したお土産を渡し、ノーヴェとウェンディの悲惨な末路を見たデェイチはダラダラと冷汗を流しながら、チンクから視線を逸らす。

そんなデェイチに早々と復活したノーヴェは、

「もちろんあるよな?取って置きのアレが」

ニヤリと笑いながらデェイチの肩に手を置き確認をとる。

するとデェイチはプクーっと頬を膨らませ、ノーヴェの肩に手を置き、「余計なことを!!」と言いたげな視線を送る。

そんなデェイチにノーヴェは「逃がさないぜ。お前も一緒に地獄に落ちろ」と小さく呟いた。

「げ、外道だ・・・・」

そんなノーヴェの行動に良介は一言呟いた。

 

仕方なくデェイチは自分の土産をチンクに渡した。

デェイチの土産はさっきまで自分が食べていた当りつきのアイスの当たり棒でノーヴェとウェンディの土産と比べると一番土産には程遠いものだった。

「ふん!」

案の定当たり棒を渡されたチンクはやはり不機嫌になり、思いっきり、デェイチの両脇腹にチョップを入れた。

土産とも言えない代物と子供扱いをされた気分になったからだ。

 

ズドッ!!

 

「おぐっ!!」

ウェンディ同様、デェイチは脇腹をおさえながらピクピクと悶絶し、床に倒れた。

「お・・お・・お・・お・・・・・」

床に倒れ、悶絶しているデェイチを見て、ノーヴェは満足そうに見ていたが、そこに黒い影がノーヴェを覆う。

「ノーヴェ、お前の言う土産はコレ(アイスの当たり棒)の事か?」

アイスの当たり棒を手に持ちながらノーヴェに確認を取るチンク、機嫌は最高潮に悪い。しかも片手にはまたも冷凍みかんを持っている。

「くらえ!みかんアタック!!」

チンクは再び冷凍みかんをノーヴェの胸の谷間に突っ込もうとするが、

「その技は二度はくらわねぇ!!」

ノーヴェは手で冷凍みかんを弾く。

「な、何やってるの?・・・・」

ヴィータの修正から復活したヴィヴィオが二人のやり取りを見ながら自分が気絶している間に何があったのかを聞く。

「騒がしい奴らだぜ・・・・」

良介も呆れながら二人の攻防を見ている。

「そうか・・・・ならば・・・・」

チンクはアイスの当たり棒を捨て、ポケットから小さな鉄球を取り出す。

「ちょっ・・・・ISを使うのは・・・・」

チンクは取り出した鉄球にIS能力を使い即席の閃光弾を作り、ノーヴェの視界を奪った。

「ぎゃぁぁぁー眩しい!!目が・・目がぁぁぁ・・・・」

突然視界を奪われたノーヴェは両手で目を押さえながら叫ぶ。その姿はどこぞの楽太郎・・・・もとい、ラピュタ王である大佐を彷彿とさせる。

「アタック!!」

視界を奪われ、隙だらけノーヴェにチンクは再び冷凍みかんをノーヴェの胸の谷間に突っ込んだ。

「ギャー!!」

本日二度目のノーヴェの悲鳴が八神家の居間に響く。

 

「おいおい、他人(ヒト)の家の室内で乱闘するなよ・・・・」

戦闘機人同士の乱闘を見た良介は冷静に二人にツッコんだ。

ちなみにチンクが捨てたアイスの当たり棒はヴィータがちゃっかりと回収し、後日彼女はその当たり棒でアイスを手に入れていた。

 

 

あとがき

ちょっと早いですけど、夏の日の一場面を描いてみました。

チンクが箸ではなくフォークを使って食事をするのはvivid一巻のナカジマ家の夕食時に鍋を囲むシーンで一人フォークを使っている場面が描かれていたので、彼女は日常的に箸ではなく、フォークを使い食事をしていることが窺える。

ヴィータもはやてが小学生位の時はみんなと共にプールではしゃいでいたのだろうけど、はやて達が大人になっていくうちに一緒にプールへ行く回数も減ったのかな?と、思います。

どちらかというと、シグナムの方が牛かもしれませんが、ギンガを除く、ナカジマ姉妹の中ではウェンディが一番デカイサイズなので、ウェンディが牛と言う設定になりました。

次回も八神家での出来事は続きます。

では、次回にまたお会いしましょう。




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