四十二話 センニュウシタヒ 愛しき白バラのお姉様
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・あ・・・・・・・・」
ティアナの耳に小さいながらも人の声が聞こえてきた。
体は今もだるい感じで重い。
それでも現状を確認しなければならない。
ティアナは重い瞼をうっすらと開け始めた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・・ルリさま、もっと・・・・もっと、下さい・・・・・」
「わ、私にも・・・・・ルリさま・・・・・」
ティアナの目の前には大勢の生徒が下着姿で、喘いであり、眼はまるでドラック中毒者の様に濁っていた。
(・・・・私、変な夢でも見ているのかしら?)
段々と意識が戻り始め、ティアナは辺りを見回し、次に自分の体が五体満足かを確認した。
すると、ティアナも周りの生徒同様、下着一枚となっていた。
(あれ?なんで、私、服を脱いでいるんだろう?やだ・・・・服・・着ないと)
ティアナが服を探そうと動いたとき、
ガチャ
ティアナの近くで金属が擦れるような音がした。
「え?」
時間が経った事と、その金属音を聞き、ようやくティアナの意識は完全に戻った。
「な、何よ!?コレ!?」
ティアナの両手は手錠と鎖でガッチリと固められていた。
自分が拘束されているのに驚いたティアナ。
そこに、
「あら?ようやくお目覚めですか?・・・・ランカスターさん」
自分を蜘蛛の洞窟へ案内したルリが立っていた。
翌日になってもティアナは寮の部屋に戻って来なかった。
不審に思ったアリサは急ぎ、寮監の下へ行き、ティアナの行方を聞いた。
すると、寮監の口から意外な答えが帰ってきた。
「ランカスターさんでしたら、昨日休学届けを出してそのまま休学しましたよ」
「休学!?」
寮監の言葉に思わず、声をあげるアリサ。
「え、ええ。・・何でもご実家の方で急な御用が出来たとかで・・・・・」
「その休学届け、ランカスターさん本人が提出したんですか?」
「いえ、ランカスターさんから頼まれた代理の生徒さんって方が持って来ましたけど・・・・」
「その生徒の方ってもしかしてホワイトローズの方ではありませんでしたか?」
「いえ、普通の制服の生徒でしたよ」
「・・・・そうですか」
寮監の話を聞き、アリサは考えた。
ここで、ティアナの休学届けを出したのが、ホワイトローズの生徒ならばティアナを拉致したのは彼女たちの仕業だと確定出来たのだが、敢えて普通の生徒に代理として休学届けを出したのは自分たちがティアナを拉致したのを隠す為のカモフラージュであった可能性が高い。・・と、アリサは考えた。
しかし、連中はティアナとアリサが潜入捜査を行なっていることを知らない。
捜査中にもかかわらず、ティアナが休学する理由はない、それ以前にティアナは天涯孤独の身だ。
実家で急な用等起きる筈がない。だとすればやはり、ティアナはホワイトローズのメンバーに拉致されたこと以外考えられない。
昨日の放課後、アリサが知る限り、ティアナが最後に会った人物がホワイトローズのメンバーの一人、ルリだった事もホワイトローズのメンバーを疑うのに十分だった。
「ティアナさん・・まさか・・・・い、一年前の事件の時のようになったりはしませんよね?」
ラピスが不安そうにアリサに尋ねてくる。
連中が一年前の事件に関与しているのかどうかは未だ決定的な証拠も事実もないので、憶測の域を出ていないが、ティアナを休学扱いにして、その間にティアナを始末する可能性も無いわけではない。
「・・・・・」
アリサはおもむろに自分の携帯端末をポケットから取り出し、操作し始める。
「あ、アリサさん?」
アリサの突然の行動にラピスは首を傾げる。
「実はこんなこともあろうかと、この前、ティアナに渡したロザリオに発信機を取り付けておいたの」
「おおぉ〜流石です」
やがてアリサの携帯端末の画面には発信機のある場所、つまりティアナが今居る場所が表示された。
「ここは・・・・!?」
「閉鎖されている。白バラ園・・・・・」
「・・・・・」
表示されている携帯端末を無言で見るアリサ。
「ど、どうしますか?」
その様子にラピスは声を少し震わせながらアリサに尋ねる。
「・・・・ともかく行ってみるわ」
ここにいても始まらないし、ティアナの事も気になるので、アリサはティアナが換金されていると思われる白バラ園に行くことにした。
「そ、それなら私も・・・・」
アリサの意を組んでラピスもついていこうとするが、
「いえ、ラピスには別の事を頼むわ」
「はい?」
アリサはラピスに別件を頼み、二人のその場で別れた。
ラピスと別れた後、アリサはまず、白バラ園の封鎖された出入口へとやって来た。
最初にここを見つけたとき同様、この扉が開け閉めされた形跡は無く、アリサは白バラ園の外周を調べながらグルリと回ったが、壁にも何か細工が仕掛けられている形跡は無かった。
(この中にティアナが・・・・早くしないと・・・・)
アリサは高い白バラ園の塀を見ながら多少焦っていた。
(ティアナがこの中に居るってことはやっぱり礼拝堂以外にもこの白バラ園に入る出入口があるって事・・・・)
(でも、それは一体何処にあるの?ティアナがアレだけ探しても見つからない秘密の出入口・・・・)
(落ち着きなさい、アリサ。冷静になって考えるのよ。焦れば焦るほど、考えは纏まらないわ。・・・・)
(ティアナがいるのは白バラ園・・・・白バラ園・・・・白バラ・・・・ホワイト・・・・・バラ・・・・ハッ!?そう言えば・・・・)
アリアは昨日あった出来事から急いである場所へと向かった。
(ティアナのピンチということで気が動転すぎたわ・・・・)
やや、自己嫌悪に陥ったが・・・・。
アリサが来たのは現生徒会、ホワイトローズの執務棟がある青バラ園だった。
青バラ園に侵入したアリサは発信機の信号を頼りに白バラ園に続く秘密の通路を探し回った。
しかし、
「バニングスさん」
ホワイトローズのメンバーにすぐに見つかってしまった。
「こちらに何か御用ですか?」
そう、アリサに聞いてきたのは昨日ティアナを連れていったルリだった。
そしてルリの後ろには他のホワイトローズのメンバーが立っていた。
「ここは一般生徒の立ち入りは禁止されていますけど?」
「あ、あの・・・・その・・・・この前此処に来たときに忘れ物を・・・・・」
実際にアリサは此処に二度来ているので、この言い訳で何とかこの場をやり過ごそうとしたが、
「忘れ物?・・・・ああ、ひょっとしてこれの事ですか?」
「っ!?」
一人のメンバーがポケットから取り出した携帯端末を見て、アリサは目を見開く。
メンバーの手の中にあるのは紛れも無く、ティアナの携帯端末だった。
連中は既にアリサをメンバーに取り込もうと動き出していた。ティアナはそのための人質だった。
「・・・・ティ・・・・ランカスターさんを何処へ?」
アリサは声を低くし、脅すような感じでルリに対し、ティアナの行方を問う。
「あら?ランカスターさんは確か休学したはずよ」
ルリは惚けるように表向きのティアナの不在をアリサに言う。
しかし、アリサは既にティアナがホワイトローズにティアナが拉致されている事は既に確証を得ているので、声をあげてルリにもう一度ティアナの行方を問う。
「巫山戯ないで!!休学した筈のランカスターさんの携帯端末を何故、貴女達が持っているの!?いいから教えなさい!!ランカスターさんは何処!?」
「まぁ、怖いお顔・・・・そんなにあの方が大切?」
「当然よ!!」
「そう・・・・でも、今頃、美味しく食べられちゃっているかもしれませんわよ」
「っ!?」
ルリの発言を聞き、アリサは驚いて目を見開くが、すぐに拳を固め、歯を食いしばり、ルリ達を睨みつける。
そんなアリサに対し、ルリは一本の白バラを差し出す。
「今夜このバラを持ってこのバラ園においでください。そうすれば、ランカスターさんはお返しいたしますわ」
「その言葉信じていいのね?」
「当然ですわ」
アリサに白バラを手渡すと、ルリは踵を返し、他のメンバーもそれにならってアリサの前から立ち去って行く。
しかし、ルリは途中振り向き、
「・・・・ああ、もちろんお一人で来てください。もし、約束を破ったら・・・・・どうなりますか、聡明な貴女なら分かっているでしょう?」
そう言い残し、その場に居たホワイトローズの皆はクスクスと笑いながらアリサの目の前から去って行った。
その日の夜
「ええ・・・・・それで?・・・・・来月の入荷量はどのくらい?・・・・・今月の倍?・・・・・ええ、構いませんわよ。・・・・ええ、分かりました。代金は例の口座に振り込んでおいて下さい。・・・・・はい、それでは・・・・」
アンネは何処かに電話を入れていた。
内容から何処かの誰かと何か取引をしている様子だった。
その会話を部屋の外ではラピスが集音器を使い、録音しながら聞いていた。
アリサがラピスに頼んだ別件はラピスにアンネの動向と出来れば部屋の中を調査して欲しいという内容だった。
そのため、アリサはラピスに様々な道具を貸し与えていた。この集音録音器もその一つである。
電話の内容を録音し終えると、こちらに向かって来る足音が聞こえたので、ラピスは素早く物影に隠れた。
アンネの部屋に来たのはやはり、ホワイトローズのメンバーだった。
そのメンバーはアンネの部屋のドアを数回ノックした後、部屋に入ると、
「アンネ様、儀式の準備が整いました」
と、アンネを呼びに来た様だった。
「ええ、分かりました。では、参りましょう」
アンネはそのメンバーと共に何処かへ、行ってしまうと、ラピスは物陰から出て、手に白手袋をはめると、アンネの部屋のドアノブを回すが、カギが掛かっていて開かない。
そこでラピスはアリサに貸してもらったピッキングセットを出すと、ソレを鍵穴に入れ、左右上下に動かした。
すると、
ガチャ
部屋のカギが開いた。
ラピスはこっそりアンネの部屋に入ると、早速目についたのがテーブルの上にあった本だった。
テーブルの上に置かれたままの一冊の本を手に取り、中身を読んでいくと、ラピスの目が次第に険しいものになっていった。
その後、本を閉じ、ラピスは扉付きの本棚を調べていくと、本棚の後ろの部分にあたる板に隠し扉があるのを見つけその扉を開けると、そこには小さな小瓶に入った液体が幾つも置かれていた。
「?」
ラピスはその一つを手に取り、さらにアンネの部屋の調査を続けた。
その頃、夜の闇に静まり返った青バラ園にアリサは一人来ていた。
手には昼間渡された一輪の白バラを持って・・・・・・。
青バラ園にある蜘蛛の巣(洞窟)がある入口の前には何時ぞや見た白いローブを来た連中がロウソクを片手に持ち、待っていた。
「約束通り一人で来たわ。さぁランカスターさんを返して頂戴」
「・・・・どうぞ、こちらへ」
白ローブの案内の下、アリサは蜘蛛の巣へと降りていった。
そして、洞窟内にある石を動かすと、洞窟の壁が動き、そこに秘密の通路がアリサの目の前に現れた。
「さぁ、こちらへ・・・・・」
アリサはゴクッと喉を鳴らし、再び白ローブの案内の下、歩きだした。
その途中、まるで牢屋のような鉄格子で出来た部屋があり、そこには目隠しをされ、下着姿の生徒の姿が何人かいた。
(あそこにいるのは恐らく今回失踪した生徒たち・・・・やっぱり白バラ園に監禁されていたのね)
アリサは横目で今回の被害者たちを見ながら歩いていく、そしてたどり着いた先は、地下に作られた小さな礼拝堂の様な場所だった。
そしてその祭壇の後ろには培養機の様なカプセルとその保存のための機械が置かれていた。
そしてそのカプセルの中には一人の少女が入っていた。
「お待ちしておりましたわ。アリスさん・・・・」
祭壇の前には案内してきた連中と同じように白いローブを身にまとい、手にはレイピアを持ったアンネがいた。
そしてその両脇にはルリと解毒剤を打ってもらい、体調を回復したリン、そして目隠しをされ、下着姿、おまけに鎖のついた首輪をつけられたティアナの姿があった。
「ア・・・・・サ・・さん」
ティアナは意識を取り戻したあとまた毒を打たれた様で、呂律が若干回らず、顔も赤く、息遣いも荒い。
思わずティアナに駆け寄ろうとしたアリサであったが、そこをアンネがアリサにレイピアを突きつける。
「ただで、ランカスターさんを返すわけには参りません・・・・ルリを上回るすの頭脳・・・・その美貌・・・・貴女には是非ともホワイトローズの一員になってもらいますわ」
アンネはアリサをホワイトローズに勧誘するが、人質をとり、レイピアを突きつけているこの現状では勧誘というよりは脅迫という言葉が似合うのかもしれない。
アリサは突きつけられているレイピアに怯むことなく、アンネに尋ねた。
「・・・・一つ・・いいかしら?」
「何です?」
「・・・・一年前、学院の中庭で死んだあの教師・・・・あれは貴女たちの仕業?」
「一年前?・・・・中庭?・・・・教師?・・・・ああ、あのケダモノの事ね」
アンネは当初、わからない様子であったが、漸く思い出した様に語りだした。
「アレは教師などという生き物ではありませんでしたわ。性欲のみで動く、この世で最も汚らわしいケダモノ・・・・。 最もそんなケダモノだからこそ、遠慮なく私達の実験用のモルモットに出来たのですけど」
「それじゃあやっぱり貴女たちが・・・・」
「あんなケダモノ、駆除されて当然ですわ。あのケダモノのせいで、未来あるバラが摘み取られてしまったのですから・・・・」
「・・・・」
確かにマリアから話を聞く限りでは妹のシンシアの自殺の原因はタカネザワにあるのは明白であった。
被害者の立場から言わせてもらえば逮捕という形で刑務所に入ったとしても十年未満の刑で済んでしまう・・・・しかし、自殺したあの子(シンシア)は二度と帰ってこない・・・・。
そうなればどんな形でも死んでくれれば被害者は満足するかもしれない。
その点に関しては、アリサは似たような境遇を経験しているため、全てを否定できなかった。
「・・・・分かりました・・・・それで私はどうすればいいのですか?アンネ様・・・・・」
「そう、物分りが良いわね・・・・では、誓って。『この白バラに誓って、私に忠誠を誓う』と・・・・さぁ早く!!」
「・・・・白きバラに誓って・・・・アンネ様に忠誠を・・・・誓います・・・・」
アリサの忠誠の言葉を聞くと、アンネはニヤっと口元を緩めると、レイピアを振り、
スパっとアリサの服を一刀両断の元、切り裂いた。
「その服はもういらないでしょう?」
その直後、アリサの鼻腔には甘ったるい匂いがした。
(なにこの甘い匂い・・・・)
下着一枚となったアリサにホワイトローズのメンバーが白いローブを羽織らせる。
しかし、その間にもアリサの意識は段々と揺らいでいった。
どうやらアリサに羽織らせたローブには特殊な薬品が染み込ませていたようで、アンネ達はアリサを薬物によってマインドコントロールをしようとしていた。
(あれ?・・・・なんで・・・・視界が・・・・ボヤけて・・・・)
意識が朦朧とし始めたアリサを尻目にアンネは儀式を進めていく。
「素敵よ・・・・とてもよく似合うわ。これで貴女も私達の仲間・・・・」
アンネは祭壇に置いてあった聖杯を手に取ると、中身を口に含むと、そのままアリサの唇に重ね、口の中の液体をアリサの口の中に流し込む。
(だめ・・・・・ティアナを・・・・ティアナを・・・・助けないと・・・・・)
次第に目蓋が重くなり、アリサは目を閉じた・・・・。
その直後、
ばんっ
礼拝堂に続くドアが勢い良く開かれた。
「アリサさん!!」
「っ!?ラピス!!」
ラピスの大声にアリサは何とか意識を戻すことができた。
そして急いで羽織らせられたローブを脱ぎ捨てた。
「どちら様?ここは一般生徒の方は入れないはずでしたが?」
余裕の表情でラピスの素性を尋ねるアンネであったが、次のラピスの行動に驚くことになる。
ラピスはポケットから先程、アンネの部屋で見つけた小瓶をアンネの前に見せる。
「そ、それを何処で・・・・」
「この小瓶の中には学院内で飼育されている蜘蛛と蝶から抽出した毒から作られた薬が入っています。この薬、毒性は弱いのですが、多幸感をもたらす依存性の高い薬なんです。それをアンネさん達は何処かの世界の闇マーケットに売りさばいていたんです!!失踪していた生徒たちは蜘蛛の餌となる生き血と薬の人体実験のため、ここに監禁されていたんです!!」
ラピスはアンネの部屋で得た情報を大声でアリサとティアナに伝える。
「そしてアンネさん達、ホワイトローズの目的はそこにいるマミ・ミズハシさんの蘇生です!!」
ラピスが指差す先には例の生体ポッドがあり、その中に居る少女こそ、白バラ園で急死し、遺体が消えた少女、マミ・ミズハシだった。
ラピスがアンネの部屋で見つけた薬や研究資料から彼女達の目的を話し終えるのと重なって、ラピスはあっさりとホワイトローズのメンバーに捕まった。
「ラピス!!」
「残念だわ。アリスさん・・・・私達、良い仲間同士になれると思っていたのに・・・・秘密を知られ、私達の仲間になれ以上、生かしておくわけにはまいりませんわ。・・・・せめて・・・・私の手で冥府へ案内して差し上げますわ!!」
アンネはレイピアでアリサに切り掛って来た。
アンネの斬撃をアリサは近くに置いてあった燭台で受け止める。
「貴女・・・・そんなにあのマミって人が大事なの?既に死んでいるあの人が・・・・」
アリサはフェイトをこの世に誕生させ、自分の娘を蘇生させようと画策したプレシア・テスタロッサのように既に故人であるマミの死を受け入れられず、犯罪に手を染めてまで、マミを復活させようとしているアンネに問う。
「マミお姉様はねぇ・・・・私にとって神様と呼べる方だったのよ・・・・。お姉さまは私に色んな事を教えてくれた・・・・お姉さまの言うとおりに振舞うと、周りの反応が一変したわ・・・・お姉様と一緒にいられる・・・・お姉様の傍に居ることができる・・・・ただそれだけで、私は幸せだった・・・・でも、そんな幸せは長くは続かなかった・・・・。お姉様の体は病魔に蝕まわれ、あの日も私はお姉様の最後をただ見ているだけしか出来なかった・・・・」
アンネは叫びながらレイピアを振り、アリサは黙ってアンネの主張を聞きながら燭台で防ぐ。
「だから、私はお姉様とまた会える方法を探したわ・・・・そしてようやく見つけた・・・・あるロストギアをね・・・・」
「それってまさか・・・・」
アリサにはそのロストギアが何なのか予想がついた。
「ご存知のようね?かつて97管理外世界でばら蒔かれたというジュエルシード・・・・そのロストギアこそが私達の希望・・・・お姉様ともう一度会える奇跡の石よ!!それを手に入れるため、私達は資金を集めることにしたわ・・・・私はお姉様ともう一度会えるなら何でもするわ・・・・人をこの手で殺めようが、悪魔に魂を売っても構わないわ」
「貴女・・・・」
アリサは目的のためならば手段を選ばないと言うアンネを睨む。
「おかしいとお思いなのでしょう?それでも・・・・お姉様の復活・・・・それだけはどうしても譲れないのよ!!」
「このっ・・・・大バカがぁ!!」
アリサとアンネが交差し、アンネの持っていたレイピアが祭壇に突き刺さる。その際、祭壇にあった燭台が倒れ、絨毯やカーテンに燃え移り出した。
「いい加減に目を覚ましなさい!!貴女だってもう立派な『お姉様』じゃない!!」
アリサは大声でアンネに言うが、アンネにはアリサの声が聞こえていないらしく、火が回りそうになっている生体ポッドの方へと走っていく。
「火が!!」
「逃げましょう!!」
「急いで!!」
その他のメンバーは自分の身の安全を優先し、次々と礼拝堂から逃げていく。
「アリサさん、私達も逃げましょう。捕まっていた生徒たちはここに来る前に連れ出してあります。それに早くティアナさんに解毒剤を打たないと・・・・」
「・・・・そうね」
アリサは後ろ髪を引かれる思いながらもアリサはティアナを背負い、ラピスと共に脱出した。
燃える礼拝堂にはマミの入った生体ポッドとアンネ・・・・そしてルリとリンの姿があった。
「二人とも・・・・すぐにここから逃げなさい・・・・」
「でも、それですとアンネ様が・・・・」
「私は二人を利用し、酷い目に合わせた・・・・私はこのままお姉様が眠るこの礼拝堂と共に消え去る運命なのよ・・・・もう、この学院にいる価値はもう無いわ・・・・」
「そんな・・・・アンネ様一人を置いては行けませんわ」
「そうですわ。アンネ様は・・・・私達にとって大事なお姉様ですから・・・・」
リンとルリはアンネに微笑む。
「・・・・ありがとう・・・・・・・・」
礼拝堂から出火した火はその後、白バラ園に燃え移り、白バラ園を焼き尽くした。
失踪していた生徒たち全員は病院に搬送され、アンネの部屋にあった解毒剤を投与され、次第に回復へ向かっていった。
鎮火された例の地下礼拝堂へ入った教師と管理局の局員が見たのは、アンネ達の死体ではなく、焼けて壊れた生体ポッドの維持装置と焼けただれた祭壇の跡だけで、アンネ達の姿もマミの入った生体ポッドも姿を消していた。
アンネ達以外のホワイトローズのメンバーは管理局の捜査官の事情聴取を受けることとなり、彼女達の目的もはっきりとしていった。
ホワイトローズのメンバーはマミの死後、マミの復活を目論見、ありとあらゆる情報を調べた。
そして、97管理外世界に似たような事をした魔導士がいた事を知り、そしてそこからジュエルシードと言うロストギアの存在を知った。
そしてミッドチルダで起きた
JS事件の際、97管理外世界で回収されたジュエルシードが密かに横流しされ、使用されたことも掴んだ。そして彼女達は管理局が密かに回収したロストギアを闇オークションで売りさばき非合法な利益を受けていることを知った。そして彼女達はそれを利用し、何とかジュエルシードを手に入れようとしたが、闇オークションなため、現物は高額な値で取引される。
親の力を借りれば早いかもしれなかったが、彼女達は自分達の力でマミを復活させたかった。
そのため、親からの支援を一切借りず、この件も一切親には話さなかった。
莫大な資金を稼ぐため、この学院に生息している黒死蝶と蜘蛛の毒から麻薬を生成しそれを売りさばき、それを資金源としていた。
タカネザワはその実験過程のモルモットとなったわけだった。
管理局の事情聴取の後、彼女達の親の圧力に管理局はやむを得ず、彼女たち全員を釈放したが、ホワイトローズのメンバー全員はその後、学院を自主退学し、学院から去った。
アンネ、ルリ、リンの三人は以前マミの生体ポッドと共に行方不明・・・・。
アリサとティアナの任務は失踪した生徒の捜索で犯人の逮捕では無かったため、主犯であるアンネ達の捜索はこの世界の管理世界の局員に任せることとなった。
そして彼女達の供述や持っていたリストから闇オークションにロストギアを横流しし、不正な利益を得ていた管理局員も逮捕された。
学院は今回の事件の話を聞いてバラ園に生息する黒死蝶と蜘蛛を一匹残らず駆除した。
そしてアリサ達の任務は終わり、とうとう学院から去る日が来た・・・・。
「学院は随分大変だったわね・・・・」
事情聴取から戻ったホワイトローズのメンバー全員が学院を去ってしまったため、学院側は新しい生徒会メンバーを決めたり、教育委員会や保護者への説明などのイメージダウンの阻止に躍起になっていた。
新しい生徒会は以前のホワイトローズが持っていた権限が大幅に縮小された。
「もう時間だから行くわ・・・・それじゃあ、さようなら、ラピス。貴女が局員になったら、ミッドで会うかもね」
「はい・・・・アリサさんも元気で・・・・・」
「ええ、ああそうだ」
アリサは何かを思い出したようにポケットの中から自らのロザリオを取り出した。
「友情の印に・・・・」
「印に・・・・・」
アリサはラピスとロザリオを交換すると、ミッドへと帰っていった。
そして帰りの次元航行船の中で、
「そう言えばティアナ、貴女、随分乱れていたわね・・・・あれを見たら良介がどんな顔をするかしら?」
アリサが礼拝堂で見たティアナの姿を思い出し、ニンマリとした笑を浮かべてティアナに尋ねる。
「あ、アレはその・・・・毒のせいで・・・・・あ、アリサさんこそあの倉庫で・・・・」
「ええ、だからお互い様ね・・・・」
「そ、そうですね・・・・」
お互いに見られたくない姿を見られたものの、アリサはそれなりに学院生活を楽しめたためか、次元航行船がミッドに着くまで眠ったアリサの寝顔は何処か満足そうな表情だった。
そしてその手にはラピスと交換したロザリオが光っていた・・・・・。
あとがき
学院編はこれで漸く終わりました。
普段のアリサとティアナらしからぬ感じでしたが、学院の慣れぬ環境や空気のせいだとでも思ってください。
次回からはまた良介君の日常を描いていきたいと思っております。
では、次回にまたお会いしましょう。