四十一話 センニュウシタヒ 聖ロザリオ祭と蜘蛛の巣

 

 

学院内にある、とある地下室。

そこからは鎖が擦れるジャラジャラという音と、少女の荒い呼吸音がした。

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

「先日の件・・・・貴女達二人が考え、実行した・・・・・私の側近である貴女達ならば、私の性格をよく知っている筈よ。あのような卑怯な方法を私は好きではないということを・・・・実力で劣ったのならば、実力でまた追い抜けばいい筈よ・・・・そうでしょう?」

壁際には天井から吊るされた鎖に両手を縛られ、上半身は裸で、下は下着一枚のリンの姿があり、体のあちこちには黒死蝶の幼虫が這っており、リンの白い肌にその毒牙を突き立てていた。

リンは目から涙を流し、口からは留まることなくヨダレが垂れ、失禁までしている。その姿からはお嬢様らしさなど微塵もない。

その傍には涙を流しながらリンの体に黒死蝶の幼虫を貼り付けているルリの姿があった。

だが、決してこれはルリが望んで行なっている訳ではない。

「はぁ・・・・も、もう、耐えなれません・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・や、やめてください・・・・・アンネさま・・・・・お許し下さい・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・・」

黒死蝶の毒に犯されながらもリンは必死にアンネに許しを請う。

何故、ルリとリンがこのような事をされているのかは、先日アリサに対し、野球ボールを投げつけたのが、この二人なのだと判明し、その事実を知った、アンネが二人に対しキレたためである。

「やめて欲しいならば、私よりもルリさんに頼みなさい。・・・・ただし、その場合、貴女に変わってルリさんが罰を受けることになりますわよ」

アンネの言葉を聞き、二人はビクッと体を震わせた。

結局、リンはルリに許しを請うことはなく、そのまま黒死蝶の毒を受け続けた。

「・・・・アリス・バニングスさん・・・・・素晴らしい方でしたわ・・・・・・ルリを越えるあの頭脳・・・・そしてあの美貌・・・・・是非とも私達の仲間に誘いこみたいですわね・・・・」

アンネは既に目の前で黒死蝶の毒に苦しんでいるリンと親友に毒を盛っているルリの姿に興味などなく、彼女の頭の中にはアリサ(アリス)の事しか無かった。

 

朝、アリサとティアナがクラスに入り、担任の教師が出席簿を付けていると、リンとルリは体調不良により今日は欠席だと言った。

別段、親しい訳ではないのだが、アリサは先日マリアの話を聞き、ホワイトローズに対し、やや不信感の様なものを抱き始めていた。

そのメンバー二人が揃って休みだなんて・・・・

何かあるなとアリサは思った。

そしてその日の放課後。

『全校生徒の皆さん、本日は聖ロザリオ祭の日です。友情と信頼の明かしであるロザリオを親友である方と・・・・・御慕いあげる方と交換する日です。互いに交換し合い、親睦を深めて下さい』

生徒会から『聖ロザリオ祭』の開催の放送が流れ、生徒たちはそれぞれ中の良い友達と、慕っている先輩に入学の際に、配られたロザリオを交換し合っている。

そんな祭りに興味なさげにしているのは、この学院に潜入したアリサとティアナ、そして転校してきたラピスぐらいだった。

アリサ、ティアナ、ラピスはアリサとティアナの部屋でお菓子を食べながら暫し談笑していたが、放送を聞き、ラピスは窓の外を見ている。

「ほぇ〜流石お嬢様学校です・・・・ロザリオを慕う方と交換なんてロマンチックです〜」

ラピスは窓の外では、互いにロザリオを交換し合っている生徒を見て、少し興奮している。

「ティアナは似たような経験ないの?」

不意にアリサがティアナに尋ねた。

「あ、ありませんよ!!こんな百合々しいことなんて!!」

声をあげ、否定するティアナ。

「でも、訓練校とかでも女性訓練生とかいたし、六課時代なんて殆ど女性局員だらけだったじゃない?」

「た、確かにそうでしたけど、私は至ってノーマルです!!」

「あら、そう・・・・でも、スバルは以前『私とティアは運命の赤い糸で結ばれているんだ』って言っていたわよ」

アリサはスバルの声マネをしながらニヤニヤ顔でティアナに尋ねる。

「あんのぉ〜バカスバルぅ〜」

この場に居ないスバルに対し、怒りを露にするティアナ。

ちょうどその頃、ミッドの救助隊のオフィスにいたスバルが妙な悪寒を感じ、体を震わせた。

 

ブルっ

 

「どうした?スバル?」

突然体を震わせたスバルに同僚が話しかける。

「今、何か悪寒が・・・・ティアが私に対して怒っている様な気が・・・・」

「ああ、お前の訓練校時代と前にいた部隊の相棒だっけ?今は他の世界に出張中なんだろう?」

「う、うん・・・・」

「何か怒られるような事したのか?」

「心当たりは一杯ある!!」

「それ、堂々と胸をはって言うセリフじゃないよ」

「でも、ティアの御仕置きを受けていると、何だか次第に気持ちいい感じになってくるんだよ//////

頬を赤く染め、照れるような仕草をとるスバル。

(コイツ、マゾなのか?それとも変態さんなのか?)

スバルの言葉を聞き、同僚は若干引き気味だった。

 

 

ラピスの興奮も治まり、三人はアリサが用意したお菓子を食べながら捜査状況を話し合った。

「それでティアナはどう?隠し通路か秘密の隠し部屋は見つかった?」

「それが全然。それらしい隠し通路もなければ、被害者を監禁している隠し部屋も見つかりません。アリサさん達はどうです?」

「こっちも似たようなものね。ただ、隠し通路や隠し部屋ではないけど、過去に起こった事件を調べていくうちに私は過去の事件や今回の事件にホワイトローズのメンバーが関与しているんじゃないかと思っているわ」

「ホワイトローズ・・・・あの生徒会のメンバーが・・・・ですか?」

「ええ、この学院の生徒会には色んな特権が与えられているわ。それこそ生徒会メンバーのみが立ち入ることの出来るバラ園とか・・・・今は青バラ園に執務棟を構えているけど、そこに隠し通路が無いとは言い切れないわ」

「確かに・・・・」

アリサの指摘を受け、納得するように頷くラピス。

「何とか、生徒会のメンバーと接触してその青バラ園の中を捜索できれば・・・・」

ティアナが考え込みながら、アリサの用意したクッキーを齧る。

「そう言えば、アリサさんの用意したこのクッキー凄く美味しいですね」

ラピスがアリサの用意したお菓子の感想を言うとアリサは、

「ああ、コレ今の生徒会長のアンネさんから貰ったのよ」

「「えええええっ!!」」

ティアナとラピスはアリサが今の生徒会長アンネと知り合いになっている事に驚いた。

「い、一体どういう経緯で知り合ったんですか!?」

「この前、廊下でケガをしてね、その時、青バラ園で手当してもらって帰り際に貰ったのよ」

「その時、怪しい場所とかはありませんでしたか?」

「探したくても常にあの生徒会長がいたから下手に動けなかったわよ」

「そうですか・・・・」

「まぁ、一度とはいえ話す機会があったのだから何とか取り入ってあそこを調べるようにしてみせるわ」

そう言ってアリサは部屋を出ようとドアノブを握る。

「出かけるんですか?」

「ええ、こうしている間にも被害者達が心配だもの」

「そうね」

三人が部屋を出ると、寮の通路の奥からまるでダンプが暴走運転でもしているのかと思うぐらいの大きな音がしてきた。

 

ドドドドド・・・・・

 

「あぁ〜・・・・アリサさんは、早く逃げたほうがいいかもしれませんよ」

ラピスが通路の向こうから聞こえる音を聴き、顔を引き攣らせながらアリサに警告する。

やがて寮の通路から大勢の生徒たちが押し寄せてきた。

「「「「「アリスさまー!!」」」」」

「「「・・・・」」」

普段のお淑やかなお嬢様とは思えない程、迫ってくるお嬢様たちには物凄く身の危険をアリサは感じた。

「な、なんなの!?あの迫り来るお嬢様達は!?一体どこにあんな体力があるの?普段のおしとやかさは?あれが火事場の馬鹿力なの?」

「どうやらアリサさんとロザリオを交換従っているようにも見えますけど・・・・」

「冗談じゃないわ!!あんなのに捕まったらロザリオどころか、服や下着までも剥ぎ取られそうよ!!」

確かにアリサの言うとおり、捕まればもみくちゃにされてその勢いで服も下着も剥ぎ取って行くのではないか、むしろそれを狙っているかのようにも見えなくはない。

「すごい人数ですよ。アリサさんモテモテですね?」

逃げながらティアナがアリサに尋ねる。

その顔はさっきのお返しと言わんばかりに、ニヤニヤ顔である。

「同性にこんなにモテなくていいわよ!!目立たないように動きたかったのにこれじゃあ、ますます動きにくくなるじゃない!!」

アリサが文句を言いながら逃げる。

「ここは、三方向に、別々に逃げましょう」

「そうね、それがいいわ」

ラピスの提案を意受け入れ、三人はそれぞれ別々の方向へと逃げた。

 

「アリスさまー」

「どちらにいらっしゃいますの?」

「アリスさまー」

三方向へ逃げても元々追いかけてきたお嬢様の数も半端では無かったため、全てのお嬢様達を撒く事は出来ず、アリサは森林地区で隠れながら追手のお嬢様たちをやり過ごそうとしていた。

「まだそんなに遠くへは行っていないはずよ」

「この辺りをもっと探してみましょう」

(やれやれ、こんな時だけ、お嬢様方本気すぎるよ・・・・)

「はぁ〜・・・・」

アリサは此処まで逃げてきた疲れとお嬢様達の執念を見て、思わずタメ息をついた。

しかし、それがいけなかった。

「今、近くでため息が聞こえませんでした?」

(ヤバッ!見つかっちゃった!?)

アリサは口を抑え、息を殺した。

そこへ、

「アリスさん・・・・アリスさん・・・・」

近くの木の影からアンネが手招きをしていた。

その場から自分を捜索しているお嬢様に見つからず、アンネの下に寄って行くアリサ。

「アリスさん随分とお困りの様子ですけど・・・・」

「え、ええ・・・・まぁ・・・・」

「でじたら、私についてきてください。絶好の隠れ家へご案内しますわ」

アリサは一瞬迷ったが、ここはあの生徒会長に近づく絶好のチャンスだと思い、アンネについて行った。

 

アリサが連れて行かれた先はまたも生徒会の執務棟がある青バラ園だった。

「ここならば、追いかけられる心配はありませんわ」

「た、確かに・・・・」

事前に人払いをしてあったのだろうか?

前回同様、執務棟にはアリサとアンネ以外人の気配は無かった。

「騒ぎが収まるまで、ここでお茶でもしていきませんか?」

アンネがティーポットを持ちながらお茶を薦める。

「え、ええ・・・・頂きます」

アリサはさりげなくアンネから情報を聞き出そうと思い、お茶の誘いに乗った。

それから暫くして

「ん・・・・」

アリサは急激な眠気に襲われた。

(変ね・・・・何で急に眠気が・・・・)

「色々あってお疲れになられたのでしょう。ここでお休みになられた方がいいですわ」

(そうなのかしら?でも・・・・)

「い、いえ・・・・そこまで、お世話になるわけには・・・・・」

アリサは眠い体を起こし、御暇をしようとしたが、アンネに体をソファに押し戻されると、遂には起き上がることも出来ずに、瞼を閉じて、そのまま眠ってしまった。

 

「スー・・・・スー・・・・・」

静かに寝息を立てているアリサを見つめるアンネ。

その顔には探し求めていた宝を手に入れたような満足感があった。

「アリスさん・・・・」

アンネはアリサの頬を愛しそうに撫でると、次にアリサの髪を自らの指に絡めたり、手で何度も撫でる。

「アリスさん・・・・私とロザリオを交換していただけるかしら?」

アンネはアリサの胸に顔を埋めながら眠るアリサに問う。

「ねぇ、アリスさんよろしいでしょう?」

「スー・・・・スー・・・・・」

「お返事がないということは『良い』と言うことですね?アリスさん」

そう言うと、アンネは舌なめずりをし、自らの唇を唾液で湿らすと、アリサの唇に自らの唇を重ねる。

「んぅ・・・・んぅ・・・・・んぅ、んぅ・・・・・んぅ・・・・・」

アンネの接吻は次第に激しくなっていき、遂には自分の舌をアリサの口の中に入れ、アリサの舌に絡ませたり、アリサの口の中を舐めまわした。

「ぷはぁ・・・・・」

漸くアリサの唇から自分の唇を離したアンネ。

その口元からは唾液による銀色の橋がアリサの唇と繋がっている。

「フフ・・・・」

続いてアンネはその紅く湿った舌でアリサの首筋を舐め始めた。

「んっ・・・・んっ・・・・・」

ピチャ、ピチャと言う湿った音が青バラ園の執務室に響く。

この種の水音は本来なにかしら不快感を煽るような効果が高い筈なのだが、今、ここで響く音は酷く甘美に思える残響を孕んでいた。

少なくともアンネにはそう聞こえただろう。

「・・・・うっ、・・・・うーん・・・・・」

やがて、アリサの目蓋がうっすらと開き始めた。

「あら?眠り姫がやっと目を覚ましましたわ」

アンネは手の甲で口元についた唾液を拭いながら呟く。

「なっ!?//////

一方、目を覚ましたアリサは驚きが隠せなかった。

目を開ければ、アンネが自分の上に跨っていたのだから・・・・。

それに首筋には僅かながら湿り気を感じる。

「あ、アンネさん・・・・い、一体何を・・・・?」

冷や汗がアリサの首筋を伝う。

「アリスさん・・・・コレ、私に下さらない?」

そう言うと、アンネは強引にアリサの首に掛かっていたロザリオを引きちぎる。

「痛っ・・・・」

強引に引きちぎられたため、鎖の部分がアリサの首の後部に食い込み、アリサはその痛みに顔を歪める。

「そのかわりに、貴女には新しい首輪を差し上げますわ。・・・・受け取ってくださるわよね?アリスさん?」

「は、はい・・・・」

アンネの鬼気迫る勢いに断ることが出来ず、アリサはほぼ無意識にアンネの頼みをきいてしまった。

 

「ハァハァハァ・・・・」

アリサは急ぎ青バラ園から逃げるように飛び出してきた。

あのまま、あそこに居たら、自らの貞操に危機が及んでいたかもしれないからだ。

そんな状況下であの青バラ園を調べるなんて不可能だ。

「あら?」

「アリスさまですわ」

「手にはロザリオをお持ちですわ」

「羨ましいわ。どなたがアリスさまのお心を射止めになられたのでしょう?」

お嬢様達はアリサが手に持っていたロザリオを見て、アリサが誰とロザリオを交換したのか話し合っていた。

そんなお嬢様に構っている余裕はアリサには無く、アリサは頻りに顔を振りながら誰かを探している様子だった。

そして、お目当ての人物を見つけ、声をかけた。

「セレナさん!!」

「ん?」

「手を出して!!」

「え?」

突然偽名であるが、自分の名を呼ばれ、『手を出して』と言われ、ティアナは首を傾げる。

しかし、ティアナはアリサの言うとおり、手を差し出す。

「セレナさん、私とロザリオを交換してくれませんか?」

「はい?」

アリサはティアナの差し出された手に自らの手を重ね、ロザリオの交換を申し込んだ。

 

 

学院内にあるとある地下室。

「あ、アンネさま・・・・はぁ・・・・・もっと・・・・はぁ・・・・もっと下さい・・・・はぁ・・」

「あら?リン、そんなに欲しいの?」

黒死蝶の毒に犯され、僅かながら中毒患者のようになりながらリンがアンネに強請る。

「アンネさま、もうお止めください。これ以上はリンの体が・・・・」

ルリがリンとアンネの間に割って入る。

「ルリでもいい・・・・はやくぅ〜・・・・リンにはやくちょうだい〜」

荒い息遣いをしながらリンはルリにも強請る。

「リン・・・・」

そんなリンにルリは心配そうに見つめる。

「・・・・ねぇ、ルリさん・・・・貴女に一つ頼みたいことがあるの・・・・聞いてくれるかしら?」

アンネの頼みを聞き、ルリの体がビクッと震える。

「もし、引き受けてくださるのであれば、リンさんに解毒処置をすぐにするのだけれど・・・・」

親友のため、ルリはアンネの頼みを聞くしかなかった。

 

その頃、アリサとティアナの部屋では。

「まったく、大勢の生徒の前でロザリオを交換するなんて、どういうつもりですか?」

ティアナは先程アリサから貰ったロザリオを手に聞いてきた。

「どうもこうも、アレだけ大勢の生徒の前でやれば一緒にいても怪しまれないでしょう。それに同室なわけだし」

「それはそうかもしれないですけど・・・・」

ティアナは何処か腑に落ちない様子だった。

 

その日の夜。

「アリスさん・・・・私の上げたロゼリオを交換してしまったんですね・・・・・」

アリサが誰かとロザリオを交換したと言う噂は直ぐに立ち、更にそのアリサがティアナ(セレナ)と交換したと言うのは瞬く間に学院中に広がった。

ロザリオ祭では、交換したロザリオをまた誰かと交換してもそれは決してマナー違反ではない。

むしろ、交換する回数を増やす事で友情の輪を広げると言う意味で、積極的に行うものだと、記載している。

しかし、一途な者や独占意識が強い者にとっては、それは自分に対する裏切りでしかない。

そしてその嫉妬や憎しみの矛先は、ロザリオを交換した者、またはそのロザリオを受け取った者へと向けられる。

「・・・・セレナ・ランカスター・・・・・・・」

そしてアンネの嫉妬の矛先は後者・・・・つまりロザリオを受け取ったティアナへと向けられた。

「貴女さえいなくなれば、アリスさんは私のモノになる・・・・フフフフフフフフ・・・・」

アンネの手にはアリサと交換したロザリオが握りしめられ、それは深く彼女の手に食い込み、そこから血が流れ出した。

しかし、彼女は痛がる様子も無く、血塗れたロザリオを更に力を込めて握りしめた。

 

 

そして翌朝・・・・

「えっ?生物委員?」

教室でホワイトローズの一人のルリがティアナに話しかけてきた。

内容はティアナを生物委員に推薦したいと言うことだった。

「はい。生物委員はこの学院に生息するありとあらゆる生物の生態を調査・管理する学院でも重要な役割を担う委員なんです。本来は我々、ホワイトローズが兼任をするのですが、ここ最近生徒たちの失踪で我々も独自の調査を行なっており、人手が足りないので、是非ともセレナさんにそのお手伝いをと思いまして・・・・」

突然のホワイトローズからの頼みにティアナは怪しさも感じたが、「虎穴に入らずんば、虎子を得ず」ここは敢えて、ホワイトローズからの頼みを聞き、生徒会のメンバーのみが入れる箇所を調べるチャンスを得ようとティアナはルリの頼みを了承した。

「わかりました。お引き受けしますわ」

「そうですか。それでは放課後、ご案内致しますわね」

こうしてティアナは放課後にルリの頼み、生物委員の仕事をやることになった。

「大丈夫なの?ティアナ」

先程までルリとティアナのやりとりを見ていたアリサがティアナに声をかける。

「大丈夫ですよ。これで何とか連中の尻尾を掴んで見せますって」

ティアナは大丈夫そうに言うがアリサにはどうも不安が拭いきれなかった。

 

放課後、ティアナはルリの案内の下、青バラ園に初めて足を踏み入れた。

「綺麗な青バラですね・・・・・」

「ええ、この学院自慢のバラですわ」

「それで今日の仕事は何ですか?バラの水やりですか?」

「いいえ、今日の仕事はそれよりももっと重要な作業があるんです。どうぞこちらへ・・・・」

ルリが青バラ園を案内しながら進んでいくと、鉄の門で閉ざされている洞窟のような場所へティアナを案内した。

(怪しい洞窟ね・・・・まさか、この奥に被害者たちがいるんじゃ・・・・)

流石に怪しすぎる場所だったので、ティアナは警戒しながらルリの後をついて行き、洞窟の中へと入って行く。

洞窟内は完全に暗闇というわけではなく、洞窟の天井に電灯が設置されて、明かりは灯されているが、それでも洞窟内はやはり薄暗い。

ティアナが洞窟の中を進んでいくと、天井から一匹の黒い蜘蛛が降りてきた。

「ん?・・・・ギャァァァァァァァー!!」

突然目の前に降りてきた蜘蛛を見て、ティアナは思わず声をあげ、尻餅をついてしまった。

「ああ、驚かせてしまいましたね」

そう言ってルリは降りてきた蜘蛛を自分の肩に乗せる。

お嬢様なのに蜘蛛を恐れたりする様子が全く無い。

「この洞窟では珍しい蜘蛛を飼育していますの」

「く、蜘蛛・・・・な、何でも蜘蛛を?」

普通お嬢様ならば嫌いそうな蜘蛛を平然と肩に乗せているあたり、ルリは他のお嬢様とは違う性格または趣味を持っているのではないかとティアナは思ったが、洞窟の中ではルリの他にも平然とした様子で蜘蛛と接している生徒たちの姿があった。

「この子達はいわば学院の大切な財産ですから」

ルリは微笑みながら蜘蛛の説明をする。

なんでも、この蜘蛛はこの世界のみに生息している蜘蛛で、昔はこの世界の彼方此方に生息していたのだが、自然破壊等の理由で数が物凄く減少してしまったのだと言う。

そこで、学院がこの世界の象徴とも言える蜘蛛の個体回復の為、こうして育てているのだと言う。

「は、はぁ〜・・・・」

その説明についていけないティアナは未だに顔を引き攣らせている。

(なんでそれがよりにもよって蜘蛛なのよ・・・・いいわよ、別に蜘蛛の一種類ぐらい絶滅しても・・・・)

「大丈夫ですわ。この子達は皆、良い子達ですから、ご心配なさらず。あっ、これはこの子達のご飯ですわ」

そう言ってルリはピンセットと黒い蝶が入った虫かごをティアナに渡した。

ティアナは辺りを見渡すと、皆ピンセットで虫かごの中の蝶を取り出し蜘蛛に食べさせている。

ティアナもここで怪しまれてはマズイと思い、恐る恐るピンセットで虫かごの中の蝶を掴むと、蜘蛛の近くへと運んだ。

すると、蜘蛛は蝶に食らいつくと物凄い勢いで蝶を食べだした。

「うわぁ〜・・グロっ・・・・」

捕食された蝶と捕食している蜘蛛を見て、ティアナはやはり、引き気味だった。

暫く、ティアナがそんな作業をしていると、一匹の蜘蛛が音も無く洞窟の天井から降りてきて、ティアナの背中に着地した。

背中に降りた蜘蛛はカサカサと、ティアナの頭部目掛けて歩いていくと、ティアナの首筋の辺りで止まり、ティアナの首筋を・・・・

 

カプッ

 

噛んだ。

「っ!?」

突然体が痺れるような激痛を受け、ティアナは声を出す間もなくその場に倒れた。

そして、倒れたティアナをホワイトローズのメンバーたちは口元を緩めながら囲んでいた・・・・・。

 

 

あとがき

やはり、今回の潜入捜査編ではアリサもそうですが、ティアナも普段らしくない感じになってしまいました。

普段ならば敵中の中、常に警戒を怠らなそうなティアナでしたが、あっさり敵の手中に落ちてしまいました。

局ではなく、学校生活を体験している間、僅かに勘が鈍ったと思って下さい。

アリサの凡ミスも同様で久しぶりの学校生活の影響だと思って頂けたらさいわいです。

では、次回にまたお会いしましょう。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。