四十話  センニュウシタヒ 白バラの死の鉄槌 実行

 

 

学院敷地内にあるとある地下室。

そこには白いローブを着た人達が集まり会議を開いていた。

まず、上座の人物が下座に座る人物たちに対し頭を下げ、謝罪をしていた。

「今回の件は全て私に責任がある・・・・あの時、追放する意見を採用していればこんな事態にはならなかった・・・・・この件が片づいた後に私は今回の責任を取り役職を降りる・・・・後任は貴女に任せる・・・・」

そう言って下座に座るある人物を後任に指名した。

指名された人物は頷き自らが後任を務めることを了承した。

「ターゲットはこのケダモノとこのケダモノを学院に招き入れ、私たちを裏切ったこのバラに劣る一輪の雑草・・・・」

テーブルの上にはタカネザワの写真とサキの写真が置かれる。

「このケダモノは情報によれば他の世界においても婦女暴行事件を起こしております。その件を上手く隠蔽したのはやはりこの雑草とのことです」

「やはり許してはおけませんな」

「うむ、悪しきものに死の鉄槌を!!」

「「「「鉄槌を!!」」」」

「裏切り者に白バラの制裁を!!」

「「「「制裁を!!」」」」

上座の人物がテーブルの上のグラスを掲げ、高々に宣言の言葉を発すると、その場にいたメンバー全員が宣言した言葉を復唱する。

「皆の・・成功を祈ります・・・・」

そして皆は掲げられたグラスの中の飲み物を一気に喉に流し込んだ。

「さぁて、まずは雑草の方を先に刈り取りますか・・・・」

と、上座の人物はサキの写真を見ながら呟いた。

 

 

マリアが休学してタカネザワはホワイトローズに対して不快感を露わにしていた。

もう少しでマリアを新たな性奴隷に出来るところをあれやこれやで言いがかりをつけて近づけず、遂には自分の手が出せぬ学院の外へと連れ出した。

もし、マリアが学院の外で妹の遺書を公開でもしたら自分は身の破滅だ。

タカネザワは何としてもシンシアの遺書を手に入れるか、マリアを学院に連れ戻さなければならなかった。

そして自分の邪魔をしてくれたあのホワイトローズの面々にも報復を考えていた。

「おい、サキ!あの白服連中の弱みを握れ!!それとあのマリアってガキをここへつれ戻せ、なんだったら誘拐してきても構わねぇ」

と、今度はサキにホワイトローズの弱点を探し、マリアを再び学院へ戻すように命じたが、

「そ、それは無理です先輩!!」

と、サキはタカネザワの命令に無理だと言った。

「はぁ?無理じゃねぇ!俺が『やれ』って言ったらお前はやればいいんだよ!!」

「ほ、ホワイトローズはこの学院の生徒会のメンバーです。一介の教師である私が手を出せる相手ではないんですよ。それにマリアさんの実家だって有名な実業家で屋敷の警備だってあるんです。私や先輩は既に顔を知られているんですよ」

「何を言っていやがる。たかが生徒会連中にお前は何そんなにビビっている!?それにあのガキに顔を知られたのだってテメェの責任だろうが!!」

「先輩は彼女達の実力を知らないからそう言えるんです。・・・・彼女達全員の権力はそれこそ学年主任以上の権力に匹敵するんです。彼女たちを敵に回したら恐ろしいことになります。それにマリアさんの件はどう考えても無理です」

サキは如何にホワイトローズが手ごわい相手か説明して、絶対に彼女たちを敵に回すことは避けるべきだと主張した。

しかし、既にサキとタカネザワは彼女たちを敵に回している事にこの時点ではまだ気がついていなかった。

そしてタカネザワの思惑に反し、シンシアの遺書は世間では未だに公開されておらず、公開される気配も無かった。

それはマリアが学院を去る間際にアンネが「外に出ても妹さんの遺書は公開しないで」と頼んだからだ。

マリアは当初何故だろうと思ったが、アンネはちゃんとその理由を話した。

「外で遺書を公開したら、間違いなくタカネザワは逮捕されるが、それでは貴女は満足できないでしょう?白バラの精霊は悪には死の鉄槌を下すわ。逮捕じゃあそれはできないでしょう?貴女はあのケダモノの死を望んでいるのでしょう?それなら遺書の公開はもう少し待って」

と、妖艶な笑を浮かべながらマリアに遺書の公開を待つように話した。

アイツが逮捕ではなく、死んでくれるならそうしようと思い、マリアは外に出てもシンシアの遺書を公開することはなかったのである。

 

それから暫くして学院が運営しているサイトの掲示板にある記事が掲載された。

『学院の女性教師Sは密かに学院の金を横領し、男に貢いでいる』

『女性教師Sは学院のメインコンピューターをハッキングし、その情報を売って私的な利益を得ている』

等の記事が掲載され、当初は悪戯だと思っていた学院の職員たちであったが、次第に教育機関や保護者たちから抗議が殺到し始め、職員たちはこのSという人物が誰なのか、また記事の内容は事実なのか早急に調査を始めた。

そしてこの記事を読んで顔を青くしたのはほかでもないサキであった。

自身が愛する男、タカネザワのために、犯罪だと知りながら学院のメインコンピューターに何度も不正アクセスを行なった事もあり、また彼がこの学院に来る前、金に困り泣きついてきた彼に金を与えると、しばらくの間、彼はサキに金をせびるようになり、それは次第に金額が増していき、とても自分の給料と貯蓄では足りなくなると、サキは等々学院の金に手を出した。

しかし、サキの手口が巧妙だった事から今までバレていなかったのだが、どこからか情報が漏れ、掲示板に掲載されてしまった。

日数が経過していくにつれ、掲示板に書かれている記事の内容も次第にエスカレートしていき、サキが今までタカネザワのためにしてきた犯罪とも呼ばれる事実があぶりだされてきたり、中には過激なデタラメな記事もあった。

記事を読んでいく内、職員たちもこの記事に書かれている、Sという教師がサキなのではないかと疑い始めた。

そこである日、サキはタカネザワに相談を持ちかけた。

元はといえばこの記事に書かれている事は皆、サキがタカネザワに頼まれたり、彼の為にしてきた行為なのだから、彼にも何らかの形で弁護ないし対処をとってもらおうとしたのだ。

しかし、タカネザワは、

「サキ、もう俺に近づくな。お前が不用意に近づくと俺まで疑われるだろう」

と、サキを冷たく突っぱねた。

職員から疑いの眼差しを受け続け、等々生徒たちからも陰口や授業のサボタージュ、ロッカーやデスクの中にゴミを入れられるといった嫌がらせを受け始めた。

次第に孤立していくサキに更に追い打ちをかけるような事態が起こった。

それはある日の全校朝礼にて、

「えぇ〜現在、美術の臨時講師を務めておりますタカネザワ先生がこの学院にいるのもあと僅かですが、タカネザワ先生の退職と共に文学を教えておりますコーデリア先生も一身上の都合により退職することになりました」

文学の先生の突然の退職という事態に少々ざわつく生徒たち。

「コーデリア先生は結婚退職でありまして、そのお相手はタカネザワ先生です」

校長のこの言葉を聞き、サキは頭を鈍器で殴られたような感覚がするほどのショックを受けた。

サキの眼前には恥ずかしそうに頬赤く染めるタカネザワとコーデリアの姿があり、二人は仲良く照れ笑いをしていた。

サキはただそれを呆然と眺めているだけでしかなかった。

 

その日の放課後、サキは屋上で独りタバコを吹かしているタカネザワに問い詰めた。

「なんだ?サキ、もう俺に近づくなと言ったはずだろう」

「それよりもどういうことですか!?」

「はぁ?何の事だ?」

「今朝の朝礼の事です。説明してください!!」

「どうもこうもねぇよ。俺だって何時までも独り身でブラブラしている訳にもいかねぇだろう?一応は身を固めて格好だけはつけねぇとな・・・・」

タバコを銜えたままサキと顔を合わすことなく外の景色を眺めながらタカネザワは呟く。

「・・・・・」

サキはそんなタカネザワをただ黙って睨んでいる。

「彼女、嫁さんとしてはなかなかイケているだろう?彼女と巡り合わせてくれたお前には感謝しているよ。一時的とはいえ職まで紹介してくれたんだからな・・・・」

「ひ、ひどい・・・・」

「しょうがねぇだろう?もう決めたことなんだから・・・・もうすぐ俺の雇用期間も終わる。そうしたら今度こそお前とはおさらばだ・・・・」

「くっ・・・・」

サキは拳を強く握り、唇を噛んだ。

 

屋上を後にしたサキは独り廊下を歩いていた。

サキの心の中には憎悪、妬み、悲しみ等の感情が渦巻いていた。

(あれだけ私を利用して他の女と結婚!?)

(私が先輩をどれだけ愛していたのか先輩に知らない何て言わせないわ!!)

(先輩は私だけのモノ!他の誰でもない私だけのものよ!!)

そんな中、サキは背後から声をかけられた。

「先生・・・・」

サキが振り返ると、そこには一人の生徒が居た。

「貴女は・・・・?」

サキの背後に居た生徒は口元を少し緩めた。

 

翌日、職員室のサキのデスクの上に一通の封筒が置かれていた。

封筒には「退職届」と書かれており、中には一枚の便箋が入っており、そこには

「一身上の都合により退職させていただきます。寮の荷物はお手数ですが処分してください」

と、書かれていた。

退職届は手書きで書かれており、筆跡もサキのもので間違いなかった。

サキの突然の退職に学院の職員は慌てるかと思いきや、意外と冷めていた。

学院側は掲示板の件でサキの身の上を考えていた。

校長や教頭も何時サキに対し、免職処分を言い渡してもおかしくない状況だったので、向こうが先に学院を辞めてくれるのならばこれ幸いと思い、誰もサキの退職に不審を抱いたり、異議をとなえる者も居なかった。

それはタカネザワも同じで、むしろ自分にしつこく言い寄る彼女が消えてくれて清々していた。

それに自分にはもう婚約者がいるのだ。自分の婚約、延いては結婚と言う名の幸せの前にブーブー文句を垂れる根暗女なんて彼にとっては無用の長物だったのだ。

サキが学院を自主退職してから、掲示板に投稿されていた教師Sに対する記事もパッタリと投稿されなくなり、やはりあの掲示板に書かれていた教師Sはサキだったという見解が学院中に広まり、校長は教育委員会に報告し、サキの名と顔は教育委員会のブラックリストに載った。

 

それからすぐにまたも学院の掲示板にあらたな記事が掲載された。

『学院教師Tは過去に暴行事件を起こしている』

『自殺した一年の生徒の原因はノイローゼではなく別の原因がある』

と、今度はタカネザワが行なってきた行為が掲示板に書かれ始めたのだ。

記事を見たタカネザワの顔は蒼白となった。

このままサキの時みたく、徐々に自分が過去行なってきた犯罪行為がこの掲示板に赤裸々になれば今度こそ自分は身の破滅だし、婚約も当然解消となる。

何としてもこの記事を書いている者の正体を突き止める必要があったのだが、あいにくタカネザワはこういう情報ネットワークについては詳しくなかった。

もし、サキが居れば何とかなったのかもしれないが、サキは既にこの学院を自主退職しており、此処には居ない。

(くそっ、サキの奴肝心なときに居ないなんてやっぱりアイツは使えねぇ奴だ)

と、サキを捨てたにも関わらず、自身が困ったときのみ、サキを頼ろうとするあたり、彼はあまりにも自分勝手な男だった。

 

その後も日を追うごとに掲示板の記事は増えて言ったが、記事に書かれている教師Tがタカネザワだと決定する内容は書かれず、「もしかしたら?」程度の内容で、タカネザワは早く契約期間が終わるのを待った。

もし、今ここで退職をしようものなら記事に書かれている教師Tは自分ですと名乗るようなものだったからである。

そして、タカネザワの雇用期間がもう間もなく終わりに差し掛かった頃、

「タカネザワ先生」

タカネザワは例の白い制服の生徒に声をかけられた。

「ん?何かな?」

(ちっ、忌々しい連中だぜ・・・・お前らがいなければ今頃あの女を性奴隷に出来たのに・・・・)

心の中ではホワイトローズのメンバーを忌々しい連中だと思いながらも表面上は好青年教師を演じているため、ホワイトローズの一人に声をかけられても不快感を表に出すことはなかった。

「先生、もうすぐこの学院から出て行っちゃうんでしょう?」

「ああ、そうだよ」

「そんな先生に先生のファンの生徒たちが送別会をやりたいって要望が私達ホワイトローズの下にきまして、先生の送別会をやることにしたんです。今日の放課後、迎えにきますので来てくれますか?」

「へぇ〜態々僕のために?そうか、それじゃあお邪魔させてもらおうかな?」

「本当ですか!?ファンの生徒たちも皆喜びますよ。それじゃあ放課後に」

そう言い残すとその生徒は踵を返し、タカネザワの前から去っていった。

その後ろ姿を見ていたタカネザワはさっきの好青年教師の表情を崩し、うすら笑いを浮かべていた。

(バカな奴らだ。態々俺に食われにくるなんて・・・・まぁこれがこの学院での最後の指導になるだろうからな、精々可愛く鳴いて貰おうか?)

と、自分のファンである生徒とホワイトローズの面々を食べる準備を行うタカネザワであった。

 

放課後、タカネザワの下に昼間言ったとおり、迎えの生徒がやって来てタカネザワはその生徒共に自身の送別会が行われるという会場へとやって来た。

「「「「「ようこそ、タカネザワ先生!!」」」」

「おおぉ〜」

会場にはバニーガールのコスチュームを着て目の部分には蝶や蜘蛛の形をした仮面を付けている生徒たちがタカネザワを待っていた。

仮面越しなので、素顔は分からないが、その体型から皆、かなりの美人だとタカネザワは判断した。

「さ、先生、どうぞこちらへ」

タカネザワは案内されるままに皮張りの高級ソファーへと腰を下ろした。

「では、先生も来たことですし、おもてなしの料理を」

案内してきた生徒がそう言うと、バニーガール達は料理が盛られた皿を次々にタカネザワの座る前に置いてあるテーブルへと置いていき、テーブルはたちまち料理が乗った皿で埋め尽くされた。

「先生、料理の他にもちゃんと飲み物も用意してあります」

また案内してきた生徒がそう言って手をパンパンと叩くと、今度はジュースやお茶等のソフトドリンクから高級なワイン、ブランデーと言った様々な種類の酒が乗ったワゴンをバニー達が押してきた。

「さ、今日は十分に楽しんでいってください、せ・ん・せ・い」

「ああ、そうさせてもらうよ」

送別会が始まると、タカネザワは後宮の王にでもなった気分であった。

料理はどれも美味く、しかもバニ―ガールたちが「先生、はいあーん」と、言って食べさせてくれるし、用意された酒はどれも高級酒でバニー達がお酌をしてくれる。

そこら辺のキャバクラよりも待遇が良いのではないかと思うぐらいタカネザワは暫し、自分のファンだという生徒たちの接待を受けた。

やがて、タカネザワは頃合を見て、懐から小さな小瓶を取り出し、それをソフトドリンクの中に入れた。

(前菜は食い飽きたし、そろそろ、メインである可愛いうさぎちゃん達を食べるとするか・・・・)

タカネザワが取り出した小瓶の正体は強力な媚薬だった。

その媚薬はひと度その媚薬を飲めば、体が異常に火照り、脳が発情を促す成分を普段よりも多く分泌し、獣みたく発情すると言う違法ギリギリの媚薬だった。

それをタカネザワはここにいる生徒全員に飲ませ、どうどうと彼女たちと交わろうと考えたのである。

しかし、彼女達は媚薬入りのジュースを決して口につけようとはせず、反対にタカネザワに対し、アルコール度が高い酒を薦めてきた。

等々彼女たちに媚薬を飲ませることなくタカネザワは酔いつぶれてしまった。

そして酔いつぶれたタカネザワをバニー達は口元を緩め見下ろしていた。

 

それから一体どれくらいの時間が過ぎただろうか?

タカネザワが目を覚ますと、そこは先程まで自分がいた送別会会場ではなく、薄暗い地下室のような部屋だった。

しかも自分は丸裸にされて、手足を石のベッドのような場所に拘束されている。

やがて地下室の扉が開くと、白いローブを来た人物たちが入ってきた。

「おいおいこれは一体何のマネだよ?まさかここでSMプレイでもするつもりかい?それなら、俺はやられるよりもやる方が良いんだけどな」

うすら笑いをしながらタカネザワが白いローブの人物たちに言うと、ローブを着た一人がタカネザワの丸出しになっている睾丸を思いっきり踏みつけた。

突然の急所攻撃にタカネザワは声にならない悲鳴をあげる。

「何ふざけた事を言っている?汚らわしきケダモノが」

「くっ・・・・お、お前ら、教師である俺にこんなことをしてタダで済むと思っているのか!?」

「ふん、貴様が教師だと?笑わせるな」

「貴様は教師・・・・いや、人間にも劣る汚らわしきケダモノだろうがぁ!!」

「ぬかせ!!俺はちゃんと教員免許を持っている歴とした教師だ!さぁ、早くコレを外せ!!今なら一晩、俺の相手をしてくれるなら今回の件は全部不問にしてやる!!」

タカネザワはこのような状況でもまだ自分の立場は上だと思い込んでおり、白いローブを着た人物達を抱こうとするが、その行為事態が火に油を注ぐ事となった。

「勘違いもここもここまでくるとむしろ清々しいな」

「ええ、こんな状況でも恐怖よりも性欲の方が勝るなんて」

「まさに性欲の塊ね」

「ま、それも今日までですわ。これから先は性の快楽よりも素晴らしい快楽を貴方に差し上げますわ。ついでにその汚らわしい体で少し私達の研究の為に役立ってもらいますわ」

そう言って指をパチンと鳴らすと、またも白いローブを着た人物がワゴンを押しながら入ってきた。

そしてワゴンの上に乗っている一本の注射器をタカネザワに見せる。

「な、なんだよ?それは!?」

突然見せつけられた注射器にタカネザワは声を震わせながら尋ねる。

ここでようやく彼にも自分の身が危険なのだと察した。

「先程言ったはずですわ。性の快楽よりも素晴らしい快楽を与えると」

そう言って注射器を持った人物はゆっくりとタカネザワに近づく。

「や、やめろ!来るな!!」

タカネザワは逃げ出したくても手足が拘束されているため、身動き一つ出来ない。

「それじゃあ、その体、私達の研究のための試験体(モルモット)になってください。せ・ん・せ・い」

「や、やめろぉぉぉぉぉー」

タカネザワの悲願を無視してその人物は腕に注射器を刺し、中の液体をタカネザワの体中に注入した。

 

 

タカネザワが例の地下室に監禁されてから既に五日が経った。

「タカネザワ先生どうしたんだろうね?」

「さぁ?寮にも戻ってないらしいよ」

と、周囲ではタカネザワは行方不明扱いになっていたが、彼は金持ちの御曹司では無く、正規の教職員でも無かったので、学院側も別段大騒ぎして彼の行方を探すことはなく、「見つけたら声をかけるように」と、最低限の行動のみに留まっている。

 

夜、学院内にあるとある地下室

白いローブを着た人物はある部屋に入る。

そこには手足を拘束され、口からはヨダレを垂れ流し、薬物で目がラリっているタカネザワの姿があった。

下半身からは糞尿が垂れ流され、清潔感など微塵もない。

「どう?様子は?」

部屋に入った人物は部屋に充満する臭いに顔をしかめながら、既に部屋にいた他の人物に尋ねる。

先にいた人物もこの部屋の臭いに耐えられなかったのか、マスクを着けている。

「あれから薬の濃度を調整し、どのくらいの効き目があるのか、十分にデータを採れました。また血液を採取し、体の中に成分が残るかも調査済みです」

「で?結果は?」

「こちらの方に纏めてあります」

尋ねられた白ローブを着た人物は研究データが書かれたレポート用紙の束を手渡す。

「ふむ・・・・」

手渡されたレポートを見たあと、

「十分にデータは集まった様だな?」

「はい。この後、多少の改良は必要ですが、人体を使ってのデータ採取はもうこれで十分かと・・・・」

「それならもう、コレには用は無いな。これ以上此処に置いておくとコイツの臭いが染み付いてしまう。今日中に処分しておいて」

そう言って白ローブを着た人物はタカネザワをまるでゴミを見るかのような目で見る。

「了解しました」

タカネザワの処分を命じた後、その人物はレポート用紙を抱え部屋を出て行った。

 

「先生、協力どうもありがとうございました。おかげで必要なデータが揃いました」

「薬・・・・くすり・・・・・クスリを・・・・・・早く・・・・・クスリ・・・・・お注射・・・・・えへへへへへ・・・・」

すでにタカネザワは薬物中毒者同然になっていた。

「さぁ先生、お注射しますよぉ〜 今日のお薬はいつものとは別のモノにしましたからねぇ〜」

そしてタカネザワの腕に注射器の針を刺した。

 

翌朝、学院の中庭でタカネザワは発見された。

しかし、発見された時、彼は既に息絶えていた・・・・。

タカネザワの死体は一糸まとわぬ全裸姿で、周りには沢山の使用済み注射器とおそらく麻薬を入れていたと思われる小さなビニール袋と麻薬が入った小さなビニール袋が大量に散らばっていた。

あまりにも見るに絶えない死体だったので、職員は生徒たちにタカネザワの死体を見せないように急いでブルーシートを周りに張り、生徒が興味本位に近づかないように管理局の捜査官が来るまでブルーシートの近くで見張りに立っていた。

やがて管理局の捜査官が来て、現場検証、事情聴取、検死を行なった結果、タカネザワは麻薬による薬物中毒死と判明され、事件性は無いと判断された。

学院はタカネザワの件をすべて今は学院に居ないサキに押しつけた。

元々タカネザワはサキの紹介でこの学院に来たためである。

それにサキの部屋を捜索した結果、タカネザワがシンシアを強姦している記録ディスクが発見され、同じくタカネザワの部屋からもヴァネッサを強姦している記録ディスクが発見され、映像の記録からその映像を録画していたのがサキだということも判明された。

そしてアンネは頃合を見て、マリアに妹の遺書を公開するように言うと、マリアは妹の遺書を公開した。

シンシアの遺書を見たマスコミは即座に食いつき、タカネザワを極悪教師と記事に書いた。そしてそんなタカネザワと共謀したサキも大悪女と書かれ、そう呼ばれた。

マリアの妹、シンシアはノイローゼを起こし自殺した生徒から悲劇の画家として名を残すこととなった。

後日タカネザワが他の世界において女生徒に対する性的暴行事件を学院が知ると、学院は今後、男性教師の採用を凍結することにした。

その後、学院に復学したマリアはヴァネッサを見殺しにしてしまった罪悪感と妹の居なくなった学院には悲しい思い出しかないとの事で学院を自主退学した。

学院がタカネザワとサキの件が収束に向かった後に当時の生徒会長が体調を理由に会長職を降りたのはそれからすぐの事だった。

 

 

「・・・・それが、この記事に書いてある一年前の事件の真実ですか?」

マリアの話を聞きラピスが確認するかのようにマリアに尋ねる。

「ええ」

マリアは全てを知っている訳ではないが、妹の自殺の真相とタカネザワの本性、そしてあの時自分が逃げてしまったせいでヴァネッサが薬物による自殺未遂を起こして一年経った現在も意識を取り戻していない事

自分がタカネザワを殺そうとしたこと、返り討ちに合い犯されそうになったときアンネに助けられた事

復学した後にタカネザワが麻薬による薬物中毒で死んだ事、彼を学院に招き入れたサキが自主退職をし、教育会にその名前がブラックリストに乗った事を語った。

「それにしても最低最悪な教師だったのね。そのタカネザワって奴は」

アリサはかつての自分の体験から故人であるタカネザワに対し嫌悪感を抱く。

 

「それじゃあ私はこの辺で・・・・」

マリアはベンチからスッと立つと帰り仕度を始める。

「あ、はい。どうもありがとうございました」

「貴女達も何か学院生活で困ったらホワイトローズの方々に相談されると良いわよ。きっとバラの精霊様が何とかしてくれるだろうから。それじゃあ・・・・」

そう言ってマリアは学院から去っていった。

(バラの精霊様・・・・ねぇ・・・・)

マリアの言うバラの精霊様という存在にアリサは不信感を抱かずにはいられなかった。

「アリサさんはどう思いますか?マリアさんの話・・・・」

学院を去っていくマリアの後ろ姿を見ながらラピスはアリサに尋ねる。

「二人の生徒の話は事実でしょうけど、薬物中毒で死んだそのタカネザワっていう教師の件は何となく胡散臭さ感じるわね」

「どういうことでしょう?」

「話を聞く限りじゃあ、性欲の塊でありそうなその男が突然麻薬に手を出すとも思えないし、そもそも何処で中毒死するほどの大量の麻薬を仕入れたのかしら?それに行方不明になってから死体が発見されるまで彼は誰にも見つからずに麻薬を吸っていたことになるわ。それなのにどうして死ぬ間際に限って目立つ中庭で、それも全裸で麻薬を吸っていたのかも謎だわ。彼の周囲には麻薬の入ったビニールや注射器は発見されたのに彼の衣服は見つからなかった・・・・」

「そうですね・・・・そう考えるとバラの精霊様の正体は恐らく学院の誰かで、一連の出来事は全てその人の仕業でしょう・・・・ハッ・・もしかしてタカネザワって言う先生をこの学院に紹介したサキって言う先生の仕業でしょうか?裏切られて彼を中毒死に見せかけて殺したのかもしれません」

「いえ、恐らく彼女の仕業じゃないわ。それにマリアさんの話を聞く限りじゃあ彼女自身も生きているかどうか怪しいわね・・・・」

「そ、それじゃあサキっていう先生の退職も・・・・」

「偽造の可能性があるわね・・・・彼女の手書きの手紙やプリントを使って筆跡を偽造し、退職届を書いて彼女を密かに抹殺ってことも考えられるわね・・・・もしかしたらこの学院の何処かに彼女が埋まっているかもしれないわね・・・・」

「・・・・」

「どうする?もし、バラの精霊様が今回の事件と同一人物・・・・いえ、複数の人達だった場合、調査をしている私達も消されるかもしれないわよ?それでも着いてくる?」

アリサはラピスに如何に今回の任務が危険なのかをもう一度認識させるためにラピスに尋ねる。

「危険なのは元より承知です。それにここまで来てアリサさん達を置いて一人逃げ出すわけにはいきません」

と、ラピスは最後までアリサ達と共にこの事件の真相を解明するつもりだった。

 

 

あとがき

これにて過去編は終了です。

話が進むに連れ段々と学院の暗部の正体が解き明かしていきました。

ただもう少しわかりにくく書ければ良かったのですけれど、作者の力量ではこれが精一杯です。

次回から時系列は再び現在に戻り、アリサとラピスの調査になります。

今回ティアナはおまけみたいな存在でティアナファンの方々、申し訳ありません。

では、次回にまたお会いしましょう。




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