四話 アタタカナニチジョウ

 

 

病室でギンガと契を交わした夜からしばらくして良介とスバルは無事退院し、ギンガは停職処分期間が開け、再び捜査官として管理局に復帰した。

そして皆はJ・S事件の前と変わらない日常生活を送っていた。

はやてはやはり良介に管理局に入って欲しいらしく、あれから何度も入局の交渉を重ねてくるが、規則等で堅苦しい組織の中で上手く立ち振る舞える程、良介は器用では無いので、はやてからの申し出を断り続けている。

ヴィータとシャマルは相変わらずしつこくアプローチをかけ、交際を申し込んでくる。

シグナムとは暇な時、立ち会って互いに剣の腕を競いあっている。最近ではティアナまでもが良介に勝負を申し込んでくることが増えた。

スバルは特別救助隊のスカウトが来て、現在は訓練施設で訓練中。

ヴィヴィオはSt(ザンクト).ヒルデ魔法学院の初等部に入学し、良介に会うと特製の手作りアイスを作ってくれとせがんでくる。それを良介はなのはに押し付けている。

そのなのはは、教導官として新人の訓練に勤しみながらヴィヴィオを育てている。

そして良介に会うたび、「ヴィヴィオにも父親が必要なんです」と遠回しの言葉と上目の視線とともに呟いているが、良介は聞こえていないフリをしている。

フェイトは仕事の依頼を持ちかけてくることがあるので、仕事上では、知り合いの魔導士のなかで、比較的に一緒にいることが多い。

そのため、なのは達に「フェイトちゃんだけいつもズルイ」と、嫉妬の視線にさらされることが多い。

エリオとキャロは自然保護官になるため、他の管理世界で研修中。

そしてあの夜、契を交わしたギンガと言えば・・・・・。

「待ちなさいっ!」

「断るっ!」

あの夜の出来事が本当に夢だったんじゃないかと思うぐらい両者の関係は前と変わらない。

今日もミッドの首都クラナガンを舞台に良介はギンガと鬼ごっこを繰り広げていた。

そして・・・・・

「いいですか?良介さん、何度も言うようですが・・・・」

結局、良介は捕まりギンガの長いお説教を聞く羽目になった。

とりあえずギンガの説教を右から左に受け流しつつ、適当に相槌だけ打っておく。

相変わらず社会人としての心構えだの、年上としての心構えだの行動だのについて熱く語っている。

もう何度も聞かされているから耳ダコで、半分以上暗記している。

「・・・・・ですから、って、ちょっと、ちゃんと聞いてますか?良介さん!!」

「ああ、ちゃんと聞いてる」

「なら、いいんですけど、それで良介さん・・・・私がさっき言ったこともう一度言ってみてください」

「はいはい」

「・・やっぱりちゃんと聞いていませんね!?」

「はいはい」

「もーっ!」

どうやら聞き流していたのがバレたらしく、ギンガは眉を吊り上げ、良介の方へと詰め寄ってくる。

そして・・・・

「ちゃんと・・・・聞きなさい!!」

「いだだだだだだっ」

業を煮やしたギンガが良介にコブラツイストをかける。

やはり戦闘機人だからか、普通の人間がかけるコブラツイストよりもかなり威力がある。

ギンガのコブラツイストから開放された後、再びギンガの長〜い説教を受ける羽目になった良介であった。

 

 

そんな日常を過ごしていたある日、いつもの公園で副業の露天絵描きをしている中、手でエンピツを回しながら良介はぼんやりと考え事をしていた。(はやて達に消滅させられた公園は良介が入院中に修復済)

良介が考えていること、それは他ならぬギンガのことだった。

あの夜、病室で契を交わした後でもギンガは普段通りだった。

良介を追いかけ、捕まえては説教を繰り返すギンガ。

反対に良介の方はといえば顔には出さないが、ギンガと顔を合わせるのに気まずさが付き纏う。

それはこの年で初めて女を抱いたためである。

しかもほぼ毎日顔を合わせる顔なじみと・・・・。

だからこそ良介は以前よりも必死にギンガから逃げている。

それにも関わらず、ギンガは以前と変わりなく自分を追いかけて来ては捕まえ、説教をしてくる。

病室であんなことがあったにも関わらず、平然としていられるギンガが良介にとっては信じられなかった。

しかし、ギンガの方もそれは同じで、あくまで公私を完全に分けているため、良介には普段と変わらないように見えていただけである。

もっとも年柄年中私人の良介にとっては公人の立場など分かる筈も無く、良介の疑問は深まるばかりであった。

 

 

「無許可営業ですよ。良介さん」

突然背後から聞きなれた声が聞こえ、良介は思わず手にもっていたエンピツを落とした。

恐る恐る後ろを振り向くとそこには私服姿のギンガが立っていた。

余りにも深く考え込んでいたため、背後から接近してくるギンガに全く気がつかなかった。

「また説教しに来たのか?」

ぶっきらぼうにギンガに問う良介。

「いえ、私は今日非番なので取締はしません」

「そうか、それならさっさとどっかに行ってくれ、こっちは商売で忙しいんだ」

ギンガとは顔を会わすと気まずいため今は比較的会いたくはなかった。

「忙しいという割には閑古鳥が鳴いているようですけど?」

確かに公園には再会したときと同様人っ子一人いない。

「多分、以前行なった取締とはやてさん達がここで魔法を使ったのが原因だと思いますけど・・・・」

(あの時のあれか!!ちっ、はやて達め、余計なことを・・・・)

心の中で、はやてたちの所業に文句を言いながら、場所を移そうと道具を片付け始める良介。

「どこ行くんですか?」

「こんな人がいない場所じゃあ商売あがったりだ!場所を変えるんだよ!!場所を!!」

人通りの多い通りに向かおうと歩いていると後ろからギンガが付いてくる。

「・・・・なんで付いてくるんだよ?」

「別にいいじゃないですか」

「よくねぇよ!!商売の邪魔だ!!」

「良介さんの商売はそんなに儲かるんですか?」

挑発的な笑みを浮かべ聞いてくるギンガに良介が黙っている筈もなく。

「当たり前だ!!さっきの場所は人が居なかったからだ!!人が多い場所に行けばそれこそ満員御礼!長蛇の列が出来る程だ!!」

と、強がりを述べる。

「へぇーそれじゃあ賭けをしませんか?」

「賭け?」

「はい、人通りの多い場所で一時間、何人のお客さん来るか、賭けをしません?」

「いいだろう。それでお前は何人来ると思うんだ?」

「それじゃあ・・・・」

顎に指を置き、考える仕草をとるギンガ。

「十人未満だったら私の勝ち、十人以上だったら良介さんの勝ちということで・・・・」

「い、一時間で十人以下だと〜!!ふざけるな!!絶対吠え面かかせてやるからな」

ギンガのあまりにも失礼な言葉にキレる良介。そしてそれは止まることを知らず、

「もし、俺が負けたら今日はお前の言うことなんでも聞いてやるよ!!」

と、新たに罰ゲームまで追加した。

「なんでもですか・・・・なんでも・・・・・」

良介の「なんでも言うことを聞く」という言葉を聞いて頬を赤らめるギンガ。

「ただしお前が負けたらお前も今日は俺の言うことなんでも聞いてもらうからな」

「えっ?」

「あれあれ?先に吹っ掛けたくせに自信がなかったのかな?ギンガちゃんは?」

ニヤニヤしながら狼狽えているギンガを見る良介。

その態度に悔しかったのかギンガは、

「わ、わかりました!!もし、私が負けたら今日は良介さんの言うことを何でも聞いてあげます!!」

と、良介の提案した罰ゲームの話にのった。

こうして良介とギンガの勝負が始まった。

 

 

良介は人通りの多い通りで、足元に空き缶を置き、『似顔絵描きます』と書いてある小さな立て札を立て、客を待つ。

ギンガは反対側にあるカフェで監視兼確認のため、良介の様子を窺っている。

元々捜査官のため、張り込みはお手の物だ。

そして一時間後・・・・

そこには満面の笑みを浮かべているギンガの姿と、

「くそ・・・・ふ、不幸だ・・・・」

とある幻想殺しの高校生と同じセリフを吐き、しかも同じテンションの良介が居た。

あれから一時間、来た客は惜しくも九人で勝負はギリギリでギンガの勝ちであった。

「約束?覚えていますよね?」

ギンガのしてやったりの顔が良介の神経を逆なでる。

しかし、ここで逃げようものならリボルバー鉄拳は確実だ。

「ちっ、それでなんだ?お前の要求は?あいにく今日の売り上げは雀の涙程度だから、大したものは買えねぇぞ」

「良介さんにそこまで期待はしていませんし、お金なら私の方がもっていますから」

何気にひどいことを言うギンガにグサッ!!っと、良介の心に何かが突き刺さった。

「今日一日、私に付き合ってもらえるだけで結構ですから」

ギンガは落ち込んでいる良介の腕をとり、二人はクラナガンの人ごみの中へと消えていった。

 

 

「なぁ、ギンガよ・・・・」

「なんですか?」

良介の左腕に抱きついているギンガに辟易しながら名前を呼べば、ギンガの上機嫌な声が返ってくる。

「歩きにくい、離れろ・・・・」

「え〜いいじゃないですか別に〜♪それに良介さんは今日一日私の言うことを何でも聞くはずですよね?」

「くそっ」

何度目になるかわからないやり取りに、溜息と悪態が漏れる。

普通に歩き辛い、しかも周囲からの視線が痛い。主に男からの嫉妬の視線が・・・・。

しかし、こうして男どもの嫉妬の視線を受けて見ると改めてギンガがイイ女だということがわかる。

「で?今日はどこ行くんだ?まさかノープランなんてことはないよな?」

「ん〜・・・・まずはスバルがこの前美味しいって言ってたアイス屋さんとクレープ屋さんに行こうかと思いまして」

「ならさっさと行こうぜ」

二人は腕を組んだままの状態でお目当てのアイス屋へと向かう。

 

 

二人は屋台が多く並ぶ通り、通称「屋台通り」でお目当てのアイスを購入した。(ちなみに良介の分はギンガの奢り)

しかもカップル限定割引期間とかいう期間中で普段よりも安く買えたことと、店員さんに「お似合いのカップルだね〜」と言われギンガはご機嫌だ。

良介の方はというと、タダでアイスが食べれたので別の意味でご機嫌。

「ギンガ、お前そのアイスの量は大丈夫なのか?ちゃんと食えるのか?」

良介のアイスは一般的な二段重ねのアイスだが、ギンガのアイスは特大のコーンの上に山のような高さのアイスが乗っている。

「勿論大丈夫ですよ〜♪」

そう言って、器用にアイスを平らげていくギンガ。

特大のアイスを平らげたギンガはクレープ屋さんでも団扇とほぼ同じ大きさの特大クレープをなんと三つもペロリと平らげた。

(そういえばスバルもそうだけど、ギンガもよく食べる奴だったな・・・・あれだけ食ってなんで太らないんだ?)

目の前の女の体型に疑問を感じた良介。

しかもその疑問はこの後、さらに深まることとなった。

クレープ屋さんを後にした二人はそのまま屋台通りを食べ歩きツアーのように歩いた。

良介は最初、タダ飯が食えて「ラッキー」と思っていたが、店を回っていくうちに年下の女に奢られていることに罪悪感と敗北感を感じ始めた。

(これじゃあ、俺がギンガのヒモみたいじゃねぇか・・・・)

良介が罪悪感に悩まされている中、ギンガはそんなことを知る由もなく、楽しそうに食べ歩きを続けている。

お好み焼き、ラーメン、カレー、焼き鳥、ピザ、タコス、焼きそば、ホットドック、ハンバーガー、フランクフルト、たこ焼き、ドーナッツ、etc

食べ歩きを続ける中、良介は自身の胃袋がとうとう限界をこえてギブアップ、最後の方は最初のペースをまったく崩すことなく特大の大きさの屋台商品を食べていくギンガをポカーンと見ていた。

 

 

屋台通りのすべての屋台を食べ歩いた頃、太陽は沈もうとしていた。

「ふぅ〜たくさん食べて満足、満足〜♪」

お腹をさすりながら本当に満足した表情のギンガ。

対する良介はちょっと引き気味。

「あっ・・・・」

「ん?」

突然ギンガが、声を漏らし、立ち止まる。ギンガは前方にある何かを見つめている。

ギンガの漏らした声に反応し、彼女が見つめる先に視線を移す。

ギンガが見つめる先にあったのは、どこでも見かける事が出来るような、ごく普通の路上アクセサリーショップ。

台の上に広げられたケースの中で、沢山のアクセサリーが展示用のライトの光を反射して光っている。

(へぇーこいつでもアクセサリーとかに興味があるんだ・・・・)

仕事と食い気しか興味がないと思っていたギンガに対する良介の見方がちょっと変わった。

「行ってみるか?」

「えっ?」

「何やら真剣に見ているようだったし、俺は今日、ギンガの言うことは逆らえないからな。どのみち行きたかったんだろう?」

「う、うん・・・」

腕を組みながら二人は路上アクセサリーショップへと向かう。

「いらっしゃい」

アクセサリーショップの店主が声をかける。

「お二人さんデートかな?」

「えっ!?あっ・・・いや・・・・」

「まぁ、そんなもんです」

「ふぇっ!?」

店主の質問に口ごもるギンガ。そしてほんのささやかな悪戯なのか、良介は曖昧ながらも肯定するような答えをだした。

それを聞いてギンガは顔を少し赤く染め狼狽する。

「まぁ、適当に見ていってよ〜」

と、店主は笑顔で言う。

ギンガは一つ一つ丁寧に並べられた商品を手にとったり、目で追ったりしている。

普段はこういうのに興味を示さない良介だが、ギンガがどんなアクセサリーに興味を示すのか気になってギンガと商品を交互に見る。

「あっ・・・・」

気に入った商品があったのか、ギンガは一つのペンダントを手に取りジッと見つめている。

「お客さん、目が高いねぇ。それ、仕入れをしている職人さんの自信作なんだよ」

ギンガが手にとったペンダントはハート型のシルバーペンダントで、ハートの縁回りには細かな絵や文字が刻まれている。

これを作るには相当の技術に時間と手間がかかる逸品だと素人の良介の目でも分かった。

「これ御幾らですか?」

「・・・・だよ」

値段を聞き一度商品を戻し、財布の中身を確認するギンガ、しかし財布の中を見たとたんガッカリとした表情になる。

食べ歩きが過ぎたためか、財布の中身はほぼスッカラカンで、とてもペンダントを買える余裕はない。

「ハァ〜今日の所は諦めます。また今度来たときに買わせてもらいますね」

「そうかい?でも、これを作ってる職人の商品は結構人気でね、それが最後の一つなんだよ。そのくせ作ってる職人が気まぐれで次はいつ入荷できるかわからないんだよ・・・・」

「そんな・・・・」

よほど気に入っていたのだろう落胆の色が隠せないギンガ。

人気商品となれば今日の内に売れてしまうのは確実で、次回の入荷は未定。

下手をすればもう二度と手に入らないかもしれない。

(やれやれ)と思いながら良介は自分の財布から今日の売上+今月のお小遣いを出す。

「これで足りるだろ?」

「えっ?」

「毎度〜」

「りょ、良介さん?」

「ほら、お前にやるよ。気に入ったんだろ?コレ?」

「い、いや、でも・・・・」

「今日はお前に飯代奢って貰ったしな・・・・俺に奢らなければ買えたんだろう?」

「そ、そうですけど・・・・」

「だったらお前は今日、俺に飯を奢らなかった・・・・それでいいだろう?」

「で、でも・・・・」

「つべこべ言うな。着けてやるから大人しくしてろ」

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完全に俯き、顔を真っ赤にそめているギンガを余所に良介は買ったばかりのペンダントをギンガの首にかける。

この時良介も恥ずかしさで心臓がバクバクいっており、周りを気にする余裕などなかった。

「お似合いのカップルだよ〜お二人さん」

店主がはやし立てるが、その言葉は二人には届いていなかった。

二人の行動は当事者以外の他人から見ればカップルのノロケ以外には見えなかった。

そしてその二人の行動を偶然、知り合いが見ていたことも二人は気付かなかった。

家に帰った良介は売上とお小遣いを全て使ってしまった事がアリサにバレ、御仕置きを受けた。

しかし、良介はお小遣いを何に使ったのかを最後まで言わなかった。

 

 

あとがき

今回は良介君の悩みとギンガとのデートを描いてみました。糖分控えめなのは作者に文才が無いためなのでご容赦ください。

ミッドに作品に載せた屋台商品があるのか、わかりませんが、「ナカジマ」といういかにも日本人の苗字の人がいるので、作品に載せた屋台商品もあると、信じたい。

あと、ミッドの通貨単位がわからなかったので、ペンダントの値段の部分は「・・・・・」で隠しました。値段の方は読者の皆様方のご想像にお任せします。

しかし、現実にナカジマ家の家計が気になりますね。ギンガ・スバルの食費だけで一体幾ら係るのやら?

次回で二人のデートを目撃した人物を描きたいと思っております。

では、次回でお会いしましょう。








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