三十八話 センニュウシタヒ 学院に来た悪魔

 

 

アンネとのお茶会をした次の日もティアナは隠し通路の探索を行い、アリサとラピスは情報収集を行なっていた。

「あれ?」

先日同様図書館棟で情報収集をしている時、ラピスが何かを見つけたようで、声をあげる。

「どうしたの?」

「これ、見てください」

ラピスが出したのはこの世界で発行されている新聞で記事には一年前、この学院で一人の生徒が校舎の屋上から飛び降り自殺をし、一人の生徒が薬物を多量に摂取し、自殺未遂を起こし、一人の教師が麻薬による中毒死を起こしたと書いてあった。

「この事件も今回の事件と何か関係があるのでしょうか?」

「一年前に起きた生徒の自殺に自殺未遂それに麻薬による教師の中毒死・・・・数年前に消えた生徒会長の死体・・・・そして今回の失踪事件・・・・まだ関連があるのかこれだけじゃあ分からないわ。それにしても・・・・」

「それにしても?」

「それにしてもこの学院、人が消えたり死にまくってない?」  作者のせいです。

「あは、あははは」

アリサの疑問にラピスは乾いた笑いしか出来なかった。

 

アリサとラピスが捜査に役立ちそうな資料を持って寮の方へ向かっていると、

「あれ?」

またもラピスが何かを見つけたようで声をあげる。

「どうしたの?ラピス」

「あそこに喪服を着た人が・・・・」

ラピスが見ている方向にアリサも視線を移すと、確かにそこにはラピスの言うとおり、喪服を着た女の人がおり、その場にしゃがんで花束を添えている。

気になった二人はその女の人の傍に行き、

「あ、あの〜」

ラピスが女の人の後ろから恐る恐る声をかけた。

「あら?」

声をかけられた女の人は振り向きながら立ち上がった。

「あの?貴女は?」

アリサが喪服の女の人の正体を聞く。

「あっ、ごめんごめん。こんな恰好だから不審に思うのも無理ないわね。でも、ちゃんと入場許可は持っているわよ」

女の人は入場パスをアリサ達に見せ、自分が不審者でないことをアピールする。

「貴女はここで何をしていたんですか?それにその花束にその服・・・・」

ラピスが女の人がここで何故喪服を着て花を添えたのかを尋ねると、女の人は顔を少し俯かせながら言った。

「ここでね・・・・妹が死んだのよ・・・・・」

「「死んだ!?」」

女の人から発せられた「死んだ」と言う言葉を聞き、思わず声をあげ、聞き返すアリサ達。

「ええ、自殺したのよ・・・・この校舎の屋上から飛び降りて・・・・」

「それって・・・・」

「もしかして一年前の・・・・?」

「・・ええ・・・・・」

この女の人は先程アリサ達が図書館棟で見つけた、一年前に自殺した生徒の遺族だった。

 

アリサとラピスは女の人の正体が分かると、女の人と共に自殺した生徒(妹)のため黙祷を捧げ、ラピスは飲み物を買いに行き、アリサは女の人と共にベンチに座っている。

「見たところ、二年生のようだけど、見たことない顔ね?」

女の人がアリサの襟についている二年生の襟章を見て尋ねる。

「えっ!?ここの生徒何ですか?」

「元・・ね・・・・妹が自殺をして私この学院をやめたんだ。でも、その時は貴女と同じ二年だったから、当時一年生だったはずの貴女には会ったことがなくてね」

「一人一人の顔を覚えているんですか?」

「ううん」

「じゃあどうして?」

「だって貴女とっても美人だもの。もし、妹と入学していればすぐに分かるわ」

「は、はぁ〜・・・・」

「あ、そう言えば名前を言っていなかったわね。私は、マリア・・・・マリア・アネット。マリアでいいわよ」

「アリス・バニングスです。此処には最近編入してきたばかりなんです」

「そう・・・・よかったわね・・一年ここに来るのが遅れて・・・・」

「それってどういう・・・・」

マリアの言葉の意味を聞こうとした時、飲み物を買ってきたラピスが戻り、ラピスもマリアに自己紹介をする。

「それじゃあ私の先輩に当たる方なんですね。初めまして私もアリスさんと同じく編入してきたラピス・アズラエルです。学年は一年です」

「はじめまして。ラピスさん」

 

暫しの間、三人はラピスが買ってきた飲み物を無言で飲んでいたが、アリサがどうしてもさっきの言葉の意味が知りたくて、マリアに聞く。

「マリアさん、さっきの言葉の意味って・・・・・」

「ああ、あれね・・・・もし、貴女が一年ここに早く編入していたら・・・・自殺していたのは貴女だったかもしれないって言う意味よ」

「どういう事ですか?妹さん虐めにあっていたんですか?」

ラピスも思わず、マリアの言葉を聞き、マリアに尋ねる。

マリアはしばらくの間無言であったが、やがて重たい口を開け、話した。

「あれは一年前の事よ・・・・」

 

 

一年前、ヒルデガルト魔法女学院

「素敵よ。シンシア」

カメラを構え、新調したばかりの制服を着た妹のシンシアを満面の笑で写真を撮るマリア。

「そ、そうかな・・・?//////

姉のマリアに言われ、恥ずかしそうでもあり、嬉しそうな表情で言うシンシア。

その姿は仲睦まじい姉妹の姿だった。

シンシアはこれから始まる学院生活と姉と一緒に通えるということでとても嬉しかったのだ。

学院生活が始まり、シンシアは学術面では上の下で、優秀な方であったが、体力面では他のお嬢様同様、あまり得意では無かった。むしろ、彼女は芸術面において秀でていた。

入学後、すぐに行われた絵画コンクールで彼女は見事に賞を獲得していた。それにより、彼女には多くの友人も出来た。

その後も様々な絵画のコンクールに作品を出展しては賞を獲得していき、評論家からも「将来が楽しみだ」と言う評価も貰った。

彼女の学院生活はまさに順風満帆のスタートを切っていた。

そう、あの男が学院に来るまでは・・・・。

 

 

第二管理世界のとあるアウトバーンを一台の車が走っていた。

車を運転する男は少し不機嫌そうでブスっとした表情で前を向いている。

「あ、あの先輩」

助手席に座る女が恐る恐る運転席の男に声をかける。

「ん?」

「私の事・・・・飽きたんですか?」

「当たり前だ!!何年お前の体を見て抱いてきたと思っている!?」

この会話からこの男女が既に長い間肉体関係を持っていることは明白だった。

「ご、ごめんなさい・・・・私に魅力がないばっかりに・・・・」

女は少し俯きながら謝る。

「お前なぁ〜そう言うシケた声を出すなよ。場が白けるから『止めろ』って何時も行っているだろがぁ」

「・・・・・」

気持がマイナス面に傾いているせいでこれ以上何を言ってもこの男が言っている様なシケた声しかでないと判断した女は遂には黙り込んでしまう。

そんな女に男は、

「お前とはもう終わりだな」

と、別れ話を持ちかけた。

「嫌!それだけは嫌!」

女は別れたく内一心で運転中の男に飛びつく。

突然抱きつかれハンドルを取られそうになりながらも何とか体制を立て直し、車を停める男。

「バカ!!危ねぇだろうが!!」

事故りそうになり男が声をあげる。

「ごめんなさい・・・・」

女は目に涙を浮かべ謝る。

 

男は気持ちを落ち着かせようと車を路肩に停め、タバコに火を着け、タバコを吸う。そして何かを思いついたように顔をニヤっと歪め、女に言い放った。

「俺に捨てられたくなけりゃお前の務めている学校に俺を紹介しろ」

「せ、先輩まさかウチの生徒に手を出す気じゃあ・・・・」

男の言葉を聞き、女は慌てて男に聞く。

「ちげっぇーよ。そろそろまともな職について稼ぎたいだけだよ」

「でも、美術教師の空きは今無いし・・・・それに先輩は前の学校で・・・・」

「それをどうにかするのがお前の仕事だろうが・・・・それとも俺に捨てられたいのか?ん?」

女は葛藤していた。

「まともな職に就きたい」と言ってはいるが、この男は前に他の世界で務めていた学校で女生徒に対し性的乱暴行為を行い懲戒処分となっていた。

きっとこの男の性格ならば必ずまた生徒に手を出すと思っていたからだ。

でも、男に捨てられたくないという思いもまたあり、女は悩みに悩んだ。

それから暫くして学院に務めている美術教師が階段から落ち、大怪我をするという事故が起きた・・・・。

事件は目撃者もなく、また被害に遭った美術教師は未だに意識不明のままで、事情も聞けぬ状態であったが、学院側は足を滑らせて、階段から落ちた事故と言う形でこの件を処理した。

 

それから暫くして入院中の美術教師に代わり、臨時の美術教師がヒルデガルト魔法女学院に赴任してきた。

「えー・・・・今日から美術の臨時教師として赴任してきた。ジョンストン・T・タカネザワ先生です」

教頭が朝礼で美術の臨時教師を紹介する。

「はじめまして。先程教頭先生よりご紹介いただいたジョンストン・T・タカネザワです。短い間ですけどよろしくお願いします」

爽やかそうに挨拶をする青年教師、ジョンストン・T・タカネザワこそ、過去に女生徒の暴行事件を起こした張本人だった。

(皆、この人の表面状の人となりに騙されている・・・・他の教師でさえ、偽物の履歴書と紹介した私の信頼で騙されている・・・・何事も無く先輩の任期が終わればいいのだけど・・・・)

タカネザワを学院に紹介した数学教師のサキこそが、結局タカネザワに捨てられたくない一心とタカネザワの言葉を信じ、美術教師を事故に見せかけ、階段から突き落とし、美術教師の空きを作った犯人だった。

学院も当初は若い男性教師を赴任させるのに決断を渋っていた。

しかし、タカネザワの経歴が一流大学卒(これは本当)と最近亡くなった有名画家の弟子(これは偽造)と言う経歴に着目し、どうせ入院中の美術教師か代わりの女性美術教師が見つかるまでの間と言う事で学院はタカネザワの赴任を許可した。

但しこの時の履歴の中に過去の暴行事件については上手く隠蔽され、削除されている。

結局、タカネザワは本人とサキの思惑通りヒルデガルト魔法女学院に臨時ではあるが、美術教師として赴任出来た。

 

その日の放課後、学院内のどこかの薄暗い地下室にて、白いローブを着た一団が長いテーブルのある会議室の様な場所で密会をしていた。

「皆さんはどう思いますか?」

上座に座るリーダー格の人物が他のメンバーに聞く。

議題は今日赴任してきたばかりのタカネザワについての事だった。

「即刻追い出すべきです!!」

「そうです。そのとおりです」

「あんな若い男が私たちや他の生徒に手を出さないなんて保証はどこにもありません!!」

「ですが、赴任期間も一定というわけではありませんし、ここは様子を見てはいかがですか?」

「それに赴任早々に行動を起こしては今後の我々の活動にも支障をきたす恐れもありますし」

と、追放派と当分の間様子を見る監視派とで意見が別れた。

何時間にわたる議論の末、やはり赴任早々に事を起こすのはマズイと判断され、監視をすることとなった。

「ですがもし、アレが私たちや他の生徒に害をなす毒虫だった場合は?・・・・どうします?」

下座のメンバーの一人が上座の人物に質問する。

「毒虫ならば、虫らしく薬で殺虫すれば済むことですわ。私としてはバラと蝶に被害が出る前に駆除したいですわね・・・・その時にはあの虫には大いに役立ってもらいましょう」

ローブから見えた口元は、妖艶に歪んでいた。

 

 

サキの心配は今のところ杞憂に済んでおり、タカネザワは美術教師らしく絵の描き方を指導したり、休み時間には生徒と共に校庭でレクレーションを興じている姿が度々目撃され、入学したての一年生から、徐々に信頼を掴んでいる様子だった。

しかし、二年、三年からは未だに警戒されている様子だった。

そんなある日、美術の時間にタカネザワはある一人の生徒に声をかけた。

「へぇ〜君なかなか筋がいいねぇ」

「えっ?」

突然声をかけられ、その女生徒は顔をあげる。

「あっ、先生もそう思う?」

「シンシア、この前の絵画コンクールで賞を取ったんですよ」

「へぇ〜それはすごいな」

「ど、どうもありがとうございます//////

絵の事を褒められ声をかけられたシンシアは嬉しそうだった。

ただ、この時タカネザワの視線がシンシアの胸やお尻に向けられていたことに気が付いた者は誰もいなかった。

それ以降、タカネザワは美術の時間では他の生徒よりもシンシア一人に指導する時間が増えた。

シンシアも実際にタカネザワに指導されるとによって絵の技術が更に上がり始めていた。

そんな日々が続いている中、ある日、シンシアはタカネザワから「絵のことについて放課後色々話がしたい」と言われ、放課後美術室へと向かった。

 

この先、己を待ち受ける運命を知る筈もなく・・・・

 

 

シンシアが美術室に入ると、タカネザワはお茶を入れてシンシアを待っていた。

「それで、話と言うのは?」

シンシアが早速要件を聞くと、

「まぁまぁそう焦らない焦らない。まずはゆっくりお茶でも飲もうじゃないか」

「は、はぁ〜」

こうしてシンシアとタカネザワの二人だけのお茶会が始まった。

カップに注がれているお茶を半分程飲んだ頃、強烈な眠気がシンシアを襲った。

「先生・・・・すいません・・・・なんだか私・・・・眠くなって・・・・」

「いいよ。気にしなくて・・・・暫く休んで楽になるといい・・・・」

この時、シンシアは余りの眠たさに瞼も閉じる寸前で、タカネザワがニヤリと不敵に笑を浮かべているのには気がつかなかった。

 

それからどれだけ時間が過ぎただろう。

シンシアが重い瞼を開けると、外は既に日が傾いて空をオレンジ色に染めていた。

結局寝てしまい、(先生が言う絵の話しというのはまた今度かな)と思い寮に戻ろうとしたが、この時初めて自分の体の異変に気がつく。

息を吸うのにも何だか息苦しいし手足が動かない。

改めて自分の体を見ると、シンシアの手足は布でガッチリと机と椅子に縛られ、口にも声が出せないように布で塞がれている。

「ん?んーんー」

声を上げるが布のせいでごもった声しか出ない。

そこに、

「おや?ようやくお目覚めかな?」

タカネザワが姿を現した。

「んーんーんー」

これはどういう事なのか、シンシアがタカネザワに尋ねるが何を言っているのかタカネザワにはかわからないらしく、

「ん?何?ちゃんと言ってくれないとわからないよ」

と、普段の教師の顔ではなく、サディスティック的な笑を・・・・婦女暴行犯の顔つきでシンシアに尋ねる。

「まぁいいや・・・・それじゃあ早速デッサンの指導をしようか?絵の上達の秘訣・・・・それは男の体を知ることなんだよ。それと、これからする事は全部記録される。誰かに話したりしたら・・・・分かるだろう?」

そう言うと、シンシアの服を脱がして行くタカネザワ。

シンシアは縛られているが、体を動かし必死の抵抗を見せる。

「いいね、その反応。久しぶりの処女だ・・・・たっぷり指導してやるよ・・・・」

邪悪な笑を浮かべシンシアに近づくタカネザワ。

そして・・・・。

「ん、んー!!」

美術室にシンシアの悲痛な声が木霊した・・・・。

 

 

それからというもの、タカネザワは週に2,3日の割合でシンシアを放課後に呼び出しては彼女を無理矢理抱き、彼女を犯し続けた。

そして危険日にも「そんなの関係ねぇ」と言いたげに彼女を無理矢理抱いた。

そんな日々が続き、シンシアは身体的、精神的にも追い詰められていった。

家族に相談したくても出来ない、話してしまえば迷惑をかけてしまうかもしれないし、こんな屈辱的で恥ずかしい事など言えるわけが無い。

友達に関しても同じだ。むしろ話してしまえばそのとの友達も同じことをされてしまうかもしれない・・・・いや、きっとそうだ。

そして、危険日に無理矢理抱かれてしまった・・・・もしかしたら妊娠してしまうかもしれない・・・・嫌!それだけは嫌!!あの男の子供を身篭るなんて絶対に嫌だ!!

追い詰められた末、とうとうシンシアは・・・・

「・・・・ごめんね・・・・お姉ちゃん・・・・・」

校舎の屋上から身を投げた・・・・・。

 

彼女の自殺の後、学院には大勢のマスコミが押し寄せた。

名門お嬢様学校で起きた生徒の自殺事件。

現場からも寮の彼女の部屋からも遺書が発見されていないため、明確な自殺の原因がわからないため、マスコミは学院に対し、イジメがあったのではないのか、生徒のメンタルケアーを怠ったのではないか、遺書は合ったが、学院側が持ち去って密かに処分したのではないのかと、問い詰めた。

そして彼女が所属していた美術部の顧問のタカネザワにもそれは及んだ。

しかし、彼はマスコミの取材に対し、「最近彼女は、スランプ気味になっており、悩んでいました。当然ケアーも行なったのだが。こんな結果になってしまい残念です。優秀な画家を救うことが出来なかった」と、涙を浮かべてコメントした。

マスコミの方も彼女が数多くのコンクールにおいて優秀な成績を残しており、将来有能な画家になることは予想されていたため、タカネザワの言葉を信じ、自殺の原因はノイローゼだと、記事にし、学院側もその意見に同調し、彼女の保護者に説明と同時に謝罪した。

しかし、この発表に納得のいかない人物がいた。

それは姉のマリアだった。

彼女は、妹は決してノイローゼで自殺したのではない・・・・

と、確信を持っていた。

なぜならば、彼女の手には妹が残した遺書があったからだ。

妹の葬儀とかで遺書をひらき、読む暇がなかったのだが、漸く時間ができ、マリアは妹が収められた棺を前に、妹が残した遺書を開き、読んだ。

そしてその遺書には驚愕な事実が書かれていた・・・・。

 

 

おまけ

 

チンクのバイト

 

ある日の朝、ナカジマ家において、ノーヴェがチンクに話しかける。

「チンク姉」

「どうした?ノーヴェ」

「実は今日、どうしても外せない試合とバイトが重なっちゃってアタシの代わりにバイトに行ってもらいたいんだけど・・・・」

「バイトの方は断れなのか?」

「バイト先も人手不足みたいでどうしても来て欲しいみたいなんだよ。ウェンディもデェイチも出かけちゃっていてお願い出来るのはチンク姉しか居ないんだよ。お願い」

手を合せ、頭をさげるノーヴェ。

「ふむ、仕方ない。妹の為に一肌脱ぐのも姉の勤めだ。わかったバイトには私が行っておこう」

「ありがとうチンク姉。バイト代はチンク姉が貰っていいから」

そう言い残し、ノーヴェは家を出ていった。

そしてバイト先に行ったチンクは・・・・

「は、嵌められた!!最悪だ!なんだ?これは!?なんなんだこれは!?バイトの内容が路上で二人だけで大福を売るだけなんてこれ・・・・恥ずかしいぞ!!・・・・これ・・・恥ずかしいぞ!!」

現在チンクは駅前のロータリーで大福の屋台の前で客引きをしていた。

しかし、その格好が余りにもダサかった。

「皆が残念そうに私を見ていく・・・・これが客引き?これがマスコットキャラの大福君?目も鼻も口もないただの白いお面・・・・もはやこれは大福君じゃなくてただの大福だよ!!」

そう、チンクは頭にドデカイ大福のお面を着けて客引きをしており、チンクの他にはお店の店主一人だけと言う僅か二人での販売を行なっていた。

チンクが大福君のキャラにツッコミを入れていると、小さな女の子が前方不注意で走っていたためチンクにぶつかった。

「あぅ〜ごめんなさ・・・・・」

「大丈夫か?」

チンクが女の子を起こそうと屈むと、女の子の目には自分に迫ってくる謎の白い物体が目に入る。

「イヤァァァァ!!お母さぁん〜」

女の子はすぐ傍にいた自分の母親の下に泣きながら走っていく。

「完全にアウトだぞ・・・・コレ・・・・・」

女の子が泣きながら走り去っていくのを見て、これは子供受けはしないと判断したチンク。

「あ〜何これ?気持ちわりぃ」

今度は小学生低学年位の男の子二人組がチンクの前に居た。

「へっへっへっへっこれでも喰らえ!!」

そう言うと、男の子二人はチンクに殴り掛かってきた。

「や、止め、地味に痛い・・・・下はプロテクト着けてないから・・・・」

慌てて後退するも男の子たちはチンクを殴りながら追いかける。

そして、

「止め、止めんか!!」

チンクがキレ大声をあげる。

「怒った。逃げろー」

「おー どうかしてるぜ、あの饅頭」

「はぁ〜」

去っていく男の子達に溜息をつくチンク。

そこに、

「うわっ、何スかあのキャラ!?」

聞き覚えのある声がしたので、振り向いてみるとそこにはウェンディとデェイチがいた。

(うっ、やばい、もし、この中の人が私とバレたら姉の威厳が・・・・)

チンクはバレないように無言で立って二人が去っていくのを待った。

「あんな着ぐるみを着る人の神経を疑うね」

「バカっスよ、バカ。アハハハハハハ」

二人はチンクとは知らず、大福君を散々バカにして去っていった。

(アイツら〜覚えてろよぉ〜)

お面を被りながら妹達に報復を誓うチンクであった。

そこに、店番をしていた店主が来て、チンクに言った。

「大福のイメージを壊さないでくれ」

「ええええええええ」

散々な目にあってこの仕打ち、しかも大福のイメージなんてチンクには分からない。

「もう、見ちゃおれん。ホラ早く脱げ」

店主は強引にチンクが被っているお面を引き剥がす。

「これだからバイトは・・・・ボォっと突っ立っていないで店番でもしたらどうだ?ええ?」

恐らく中の顔はキメ顔をしているのだろうけど、白い大福顔で言われても何だか虚しくなるだけであった。

お面を被った店主はやがて体をくねらせて怪しい踊りと歌を歌いながら客引きを始めた。

「・・・・帰りたい・・・・・家が恋しい・・・・・」

そんな店主を放置し、店番をやるチンク。

「しかしこれは売れているのか?綺麗に整列してあるが、売れている気配が無いぞ・・・・」

店に並んでいる大福を見て、チンクが疑問に思っていると、そこにお客が来た。

「すみません。これ一つ幾らですか?」

(お?客か?そう言えばコレ一つ幾らだ?)

チンクが値段を聞こうと、店主に話かけた時、店主は通行人から路上で怪しい被り物をし、怪しい踊りを踊っている不審者がいるとの通報を受けた管理局の捜査員に捕まっていた。

「・・・・無料で結構です」

「お?ラッキー」

こうしてチンクのバイトは無事?終わった。

その後、暫く元ナンバーズ組みのナカジマ妹達はチンクに何故か冷たくあしらわれる日が続いた。

 

 

あとがき

ジェームズ・キャメロン監督作品「タイタニック」も本当は老ローズの昔話なのですが、ローズが本来知らない筈のシーン、ジャックがどうやってタイタニックのチケットを手に入れたか等、描かれていたので、この話も現在のマリアの過去話ですが、補足的にマリアが見ていないシーンも書きました。

それにしても戦闘シーン同様やっぱり悪役キャラを書くのは難しいです。

おまけは日常から、ちゃんみおが大福フェアーのバイトに参加した時の話をネタにしています。




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