三十五話 センニュウシタヒ 神隠しの起こる街

 

 

「失踪事件?」

「ええ、そうなの」

この日、フェイトから一本の通信が入った。

フェイトの話では第二管理世界にあるSt.ヒルデ魔法学院の姉妹校「ヒルデガルト魔法女学院」に在籍する生徒5人が謎の失踪しているのだという。

当初は寮をこっそり抜け出し、夜遊びでもして帰り損なったのかと思いきや、その失踪した生徒たちが外へ出た形跡はまったくなかったのだ。そして未だにその生徒達は寮に戻っていないという。

失踪した生徒たちが在籍するヒルデガルト魔法女学院は姉妹校のSt.ヒルデ魔法学院とは違い高等部しかない学院だが、「良妻賢母」の育成をモットーとしたお嬢様学校で、その生徒の殆どが大企業経営者のご令嬢や管理局の高官の娘であり、卒業後の彼女達は親の取引先である大手企業の御曹司や管理局高官の息子や政治家・政府高官の息子の下に嫁ぐ者が多い。

そんなお嬢様学校で起きた謎の失踪事件。

管理局高官の娘が多数通っている学院だけに管理局の高官でもあり親である保護者たちは娘の身を案じ、学院側も学校のイメージダウンを防ぐためにマスコミには口外はしていないが、密かに管理局と学院側は協議し潜入捜査をすることに決めた。

そしてその潜入捜査をフェイトが頼んできたのだ。

「でもな、その学校って女子校なんだろう?男の俺には無理だろう。・・まさかこの前みたいに薬を使って俺を女にして潜入させようって事はないよな?」

「ううん。今回はリョウスケじゃなくてアリサに頼みたいの」

「アリサに?」

「うん。その学校やっぱりお嬢様学校なだけであって学力もかなりレベルが高いの。例えリョウスケを女にしてもまず、編入試験で落ちるから意味がないよ。でもアリサなら多分大丈夫だよ」

「お前サラリと酷いことを言うなぁ・・・・」

フェイトはストレートで「良介は頭が悪いから潜入は無理。だから代わりに頭のいいアリサをよこせ」と言ってきたのだ。

「でも、アリサ一人で潜入させるのはちょっと・・・・」

アリサは良介やギンガと違って魔法も法術も使えなければ剣術もシューティングアーツも使えない。精々一対一で自分の身を守れるくらいの護身術が使える程度である。

海鳴で出会ったばかりの幽霊状態ならばポルターガイストが起こせたのだが、生き返った時にはその力は引き継いでいなかった。

「その点なら大丈夫。ティアナも一緒に潜入させるから」

「ティアナも?」

「うん」

確かに局員であるティアナがいればアリサ一人で潜入させるよりもアリサの危険度は下がるが、良介はティアナが無事に編入出来るのかを聞いた。

アリサは問題なく編入出来るだろう。それはアリサが自他共に認める天才少女だからだ。しかしティアナの方は正直言って分からない。

日本の自衛隊や警察官採用試験と違い、管理局の訓練校入学試験なんて魔力がある一定の基準を満たせばよほどの事がない限り落ちることはない。

簡単に言えば自動車の免許試験のようなレベルだ。

これは管理局が慢性的な人手不足による問題のためであり、「試験レベルがこれでいいのか?」と、人事部でも何度か協議された問題であるが、未だに改善はされていない。

しかし、今回潜入するのは名門のお嬢様学校。訓練校の入学試験とは月とスッポンなのだ。

「それでティアナは無事に編入できるのか?編入試験で落ちてアリサ一人なんてオチじゃ困るぞ」

やはり家族であるアリサの心配をするのは当然である。

「大丈夫。今、あの学校の過去問を取り寄せてティアナにやってもらっている最中だから」

「ちなみにどれくらいのレベルなんだ?その学校・・・・?」

良介がその学院の編入試験のレベルを聞き、フェイトから過去の編入試験の倍率と過去問題の一部資料を転送してもらいそれを見た良介は知恵熱を出しそうになった。

高校生なのにその学力や試験レベルは管理局で難関とされる執務官試験よりも難しかったのだ。

「こ、こんな頭が爆発しそうな問題やテストをその学院のお嬢様達はやっているのか?」

「そうだよ」

(ティアナの奴、編入試験前に廃人にならなければいいが・・・・)

編入試験に向けて勉強中のティアナを心配する良介。

「大丈夫だよ。ティアナは努力家だもの。それに将来執務官試験を受けるんだからこの試験が突破できたならかなりの自信が付くと思うし」

「まぁそりゃ確かにそうだが・・・・」

「と、言うわけでリョウスケからアリサに頼んでくれないかな?」

「・・・・分かった」

「ありがとう」

「ただし、俺はあくまで頼むだけだからな。最終的に判断をするのはアイツだからな。アリサが断ったら無理押しをするなよ?」

「うん。分かってる。それじゃあねリョウスケ」

フェイトはティアナが今勉強している学院の過去問のデータを念のためにと転送した後、通信を切った。

 

「捜査協力?」

夕飯の後、良介はアリサにフェイトからの依頼内容をアリサに話した。

「ああ、実はな・・・・」

「ふ〜ん・・成程。そのお嬢様学校での失踪事件を学校側も管理局側も秘密裏に解決したいってことね?」

「ああ。そのために今回ティアナとお前をその学院に潜入させたいって言っているんだが、別に無理をして引き受けなくてもいいぞ。お前は局員じゃないのだから」

「その学校のレベルってどれくらい?」

良介はフェイトから送られた過去問やその学校のデータをアリサに見せた。

「へぇ〜中々のレベルじゃない?」

アリサは過去問を見て興奮している。

それは歓喜に近い興奮で、自分の頭脳がどこまで通用するのかと言うチャレンジャー心が擽られた様だった。

「面白そうだしやってみるわ」

「えっ!?いいのか?」

「ええ・・・・ここなら一時的とはいえ学校生活を楽しめそうだから・・・・・」

アリサは少し寂しそうに呟いた。

海鳴の廃墟で殺される前、アリサは自分の英知と美貌に自信を持ち、同年代の学友を常に馬鹿にして見下ろしていた。

当然そんな態度をとれば友達は出来る筈がなく、両親にも先立たれて独りぼっちだった。

塾の先生や知育研究の人は大切にしてくれたが、やはり寂しさと孤独感は決して拭えなかった。

本音を言うとあの時のアリサは友達が欲しかった。でもプライドが高い性格と教師さえも驚き、引き攣る天才頭脳をもったが故、積極的にアリサに近づく者は少なかった。

だが、生き返った今なら十分やり直しが出来る。

今回の依頼はもう一度学校生活を送ることが出来る恰好のチャンスでもあった。

しかも今回周りにいるのは自分と同じような頭脳を持つ人ばかり、それならばあの時と同じ轍を踏むことはないだろうと判断したのだ。

「・・・・分かった。アリサがやる気なら明日にでもそのことをフェイトに伝えておこう」

良介もそんなアリサの気持ちを考慮したのか、それ以上は何も言わず、アリサがこの依頼を受けることを承諾した。

「ええ、宜しく。・・・・ああ、そうだ。ついでに私がティアナの勉強の面倒をみるわ。そのほうが私も勉強できるし、ティアナも試験に受かる確率が高くなるでしょう?」

「あ、ああ。そうだな」

良介はアリサの提案を若干引き攣らせながら答えた。

何故、良介が顔を引き攣らせたのかはちゃんと理由がある。

まだ海鳴にいた頃、当時まだ学生だったなのは・フェイト・はやての勉強をアリサがみたことがあるのだが、その時の教えの苛烈さは凄まじかった。

飴と鞭を使いこなし、長時間にわたる勉強の成果は確かにあったが、なのは達の精神と気力はボロボロで真っ白に燃え尽き、口からは魂の様なものを吐き出していたのを良介は見た。

(ティアナ・・・・死ぬなよ・・・・)

難題な編入試験にアリサの教えが加わる勉強地獄を想像した良介はティアナの無事を祈った。

 

姉妹校ということで、編入試験はSt.ヒルデ魔法学院で受験することが出来、試験日当日良介とフェイトは応援を予てアリサとティアナの様子を見に来た。

アリサは編入試験を受けることを決めた次の日、フェイトに頼んでホテルの一室を借り、ティアナと共に試験日までそこで缶詰めとなり、試験勉強に励んだ。

「よぉアリサ」

「あ、良介」

試験会場に向かう途中良介はアリサを見つけたので声をかけた。

「どうだ?調子は?緊張とかしてないか?」

「ええ、大丈夫よ」

「ティアナの調子はどうかな?試験・・受かりそう?」

フェイトが勉強を教えたアリサにティアナの調子を聞く。

「大丈夫よ。ちゃんと出来る筈だわ。もし、出来なかったら・・・」

ニコニコしながらアリサはティアナを見る。

ティアナは真っ白に燃え尽きており、目が虚ろでヨロヨロと歩いていたが、アリサから声をかけられビクッと体を震わせる。

「分かっているわよね?ティアナ?」

「ひぃ!!も、もちろんです!!アリサさん!!」

アリサの発した声はとても優しい声なのだが、その声は聞いた者を死へと誘う魔物の美声に聞こえた。

「なんかティアナが怯えて見えるんだけど・・・・」

「あ、ああ」

アリサとティアナの様子を見た良介とフェイトは小声で呟いた。

そこへ、

「ねっ、大丈夫でしょう?」

と、アリサがティアナの答えに満足したのか、満面の笑で良介とフェイトに確認するかのように尋ねてきた。

笑顔なのに何か不気味だ・・・・天使のような悪魔の笑顔だった。

「あ、ああそうだな・・・・」

「が、頑張ってね。二人とも・・・・」

良介とフェイトは互いに顔を引き攣らせながら受験する二人を見送った。

 

そして試験結果は、アリサは当然として、ティアナはアリサの指導により無事受かった。

 

試験の合格発表から暫くして二人は学院のある第二管理世界へと向かうべく次元航行船発着場に来ていた。

「それじゃあ気を付けてね」

「わかりました」

「それと、これは最近分かったことなんだけど、学院の外でも・・第二管理世界でも謎の失踪事件が多発しているの」

フェイトが学院の外で起きている事件についての情報をティアナとアリサに伝える。

「分かりました。その件についても学院の事件と何か関連がないか調べてみます」

ティアナが学院での失踪事件と第二管理世界で起きているその失踪事件の件について同じ失踪ということで、何か関連が無いか調べる事にした。

もしかしたら学院の生徒はその事件に巻き込まれた可能性もあるからだ。

 

こうしてアリサは捜査協力とは言え、再び訪れた学園生活を送るため、ティアナは事件の真相を探るため、二人はミッドを後にし、第二管理世界へと向かっていた。

 

 

学院に行くには次元航行船発着場から一度リニアで第二管理世界のセントラル駅まで出て、そこから学院行きのリニアに乗らなければならない。

そのため、アリサ達は第二管理世界のセントラル駅まで来たのだが、学院行きのリニアの発車時間までかなりの時間があるので、二人はここで時間を潰すことにした。

駅構内を歩いていると、掲示板や壁には探し人の張り紙が張り巡らされていた。

二人は思わずその張り紙に目をやった。

「フェイトに言われていたけど、まさかこれだけの人達が失踪しているとはね・・・・」

アリサが張り紙の多さに驚く。

「物騒ですね・・・・しかも失踪した人達って皆女の人ですね・・・・」

ティアナが張り紙の中にある顔写真を見渡し、失踪した人達はティアナの言うとおり皆若い女の人ばかりであった。

二人がこれから行く学院で起きた失踪事件とこの世界で起きている失踪事件が果たして関連しているのか?

そして犯人と失踪した人達はどこにいるのか?

無事なのか?

二人はそのことを考えていた。

 

 

アリサとティアナがセントラル駅に付いた頃、同じくセントラル駅に付き、ヒルデガルト魔法女学院に編入する一人の少女がいた。

「ふぅ〜やっとついたぁ〜」

長旅をしてようやく学院のある世界にたどり着いた彼女、ラピス・アズラエルは初めて自分の出身世界以外の世界の空気を思いっきり吸い込んだ。

次元航行船発着場からここにたどり着くまでは緊張と不安がいっぱいだったが、学院行きのリニアまでかなりの余裕が有ることがわかると、次第に緊張が晴れて、周りを見渡す余裕が出来たのだ。

ラピスが辺りを物珍しそうに見渡していると、

「おーいラピス」

片手をあげ、ラピスを呼ぶ一人の男がいた。

「あ、兄さん!・・レオナルド兄さん!!」

ラピスは自分の名前を読んだ男、レオナルドに飛びついた。

「お久しぶりです。兄さん」

ラピスは自分を抱き留めてくれた兄に満面の笑を浮かべる。

「ホント、久しぶりだな。見ないうちに背も伸びたんじゃないか?」

レオナルドはラピスを抱きとめた後、今度は頭を撫でる。

「ここまで来るのは大変だったろう?」

「は、はい。でも、ヒルデガルト魔法女学院に入れると思えばこれくらいの苦労なんでもありません」

「はは、村でも盛大に祝ってもらったそうじゃないか」

「はい。父さんも母さんもそうですが、皆さん物凄かったです」

ライピの両親は金持ちでもなければ管理局の高官でもない、一般家庭の出身者であった。

そんな一般家庭出身者のラピスが今回、ヒルデガルト魔法女学院に編入できたのは今年から始まった特待生制度によるものだった。

人手不足な管理局が学院側に能力さえ高ければ家柄など関係ないので、学院への入学を認め、卒業後は管理局へ就職を斡旋してくれないかと、多額の寄付金と共に頼み、学院側も在校生や卒業生に管理局の高官の娘がいることと、多額の寄付金を受け取ったからにはその条件を飲むことにした。

しかし、管理局の条件全てを飲んだ訳ではなく、特待生は在学中の試験結果を常に3位以内と決めており、管理局側も将来優秀な人材を確保するためその条件を飲んだ。

ちなみにアリサとティアナは管理局の高官、リンディ・ハラオウンとレティ・ロウランの縁者という形で学院に潜入することとなっており、これは学院側も了承している。

話は戻し、ラピスは学院側が出した過酷な条件をこの先飲まなければならないのだが、ラピスは実はアリサとタメを張れるぐらいの頭脳の持ち主だった。

ラピスは幼い頃から研究者の両親の元で様々な本を読んでいる内に乾いたスポンジが水を吸収するかのように知識を身に付けていき、出身である第九管理世界ではちょっとした有名人であった。

 

「まだ学院行きのリニアには時間が有るから何か食べてから行くか?ついでに学院まで送っていこう」

「えっ!?でも兄さん仕事は?」

ラピスは兄が学院まで送ると言う事に驚いた。当初はここセントラルまで来た後、兄と会い、その後学院行きのリニアの乗り場を教えるのだけだったのだ。

「いやぁ、ここ最近この世界も物騒でな。妹一人守れなくて管理局の捜査官なんてやってられないだろう?・・・あ、あれ?」

レオナルドが意気込んで言い終えると、先程まで彼の目の前にいた妹の姿はそこには無かった。

では、ラピスはどこに行ったのかというと、

「ぷはっ・・・す、すごい人・・・・私の村とは大違い・・・・」

レオナルドが意気込んで語っている間、人波に呑まれていた。

「にいさ・・・・兄さん?」

やっとの思いで、人波を掻き分けたラピスだったが、近くには先程いた兄の姿が無かった。

「ど、どうしよう・・・・」

ラピスは顔を引き攣らせ小さく呟いた。

 

 

「はぁ〜やっぱり参るわね〜人ゴミって奴は・・・・」

ラピスが兄とはぐれた頃、アリサも同じく人波に呑まれ、ティアナとはぐれてしまっていた。

そこで、駅員に呼び出し放送をかけてもらおうと駅員室に向かっている途中、突然服の袖を掴まれた。

アリサが袖に目をやるとそこには一人の女の子がいた。

「・・・・な、何よ?貴女?」

「じ、実は兄とはぐれてしまって・・・・」

目に涙を浮かべアリサの服の袖を掴んだ理由を話すラピス。

「・・・・迷子なの?」

「は、はい・・・・」

「あなたねぇ〜いい年した娘がたかが迷子になったぐらいで泣かないの」

「で、でも。私今まで他の世界に来たことなくて、私のいた村もここまで人が居なくて・・その・・・・」

気まずそうにアリサから視線を逸らしながら話すラピス。

「そんなこと言ってもこの大勢の人の中から人一人を探し出すなんて無理よ」

「うぅ〜」

涙目で自分を見つめるラピスに罪悪感を感じるアリサ。

「あ〜もう、だったら駅員さんに頼んで呼び出しをかけて貰えばいいでしょう。どうせ私も呼び出しをかけてもらうつもりだったから、行くわよ」

「は、はい」

アリサとラピスは呼び出しの放送をしてもらうため、駅員室へと向かうが、そんな二人を背後から見ている男達がいた。

「おい、あれなんかどうだ?」

「うむ、年格好も丁度いい・・・・やるぞ・・」

「ああ、手早くな・・・・」

そう言うと男達は足早にアリサ達に近づく。

 

「ほら、あそこが駅員室」

アリサが指さした先には『駅員室』と書かれたプレート付きの扉があった。

「さっさと駅員さんに事情を説明してお兄さんを呼び出してもらいなさい。私も連れを呼び出してもらわないといけないし」

「はい」

二人が駅員室に向かって歩き出そうとした時、突然アリサとラピスの鼻と口が布で塞がれた。

その布には予め特殊な薬品が染み込ませてあったようで、その匂いを嗅いでいると段々と意識が遠のいていった。

おまけに口を塞げれているので声をあげることもできない。

やがて二人は意識を失った。

「よし、うまくいったぞ」

「早いとこ運び出すぞ」

男達は意識を失ったアリサ達を担ぎ上げその場から走り去っていった。

 

「ラピス!ラピス!どこに行ったんだ!?」

その頃、ラピスとはぐれたレオナルドは懸命に妹のラピスを探していた。

(くそっ最近この世界は失踪事件が多発していて危ないって言うのに・・・・万が一ラピスの身に何かあれば・・・・)

最悪の事態がレオナルドの脳裏を過ぎる。

そしてその予感は的中することとなった。

ふと彼が駅に隣接する駐車場に目をやるとそこには一台の車に押し込まれるラピスの姿があった。

「ラピス!!」

レオナルドは急いで駐車場に向かうが、彼が駐車場についたときにはラピスを乗せた車は何処かへと走り去っていった。

「くそっ・・ラピス・・・・」

レオナルドは走り去っていく車を悔しそうに拳を固め見ているだけしか出来なかった。

しかし、何時までも惚けているレオナルドではなかった。

彼は急いで携帯端末でこの世界の管理局の支部に連絡を入れた。

「ですから、妹が・・ラピスが攫われたんです!!一刻も早く探さないと・・・・」

「分かったから、少しは落ち着きたまえ、アズラエル君」

通話口の向こうから彼を落ち着かせようとする上司の声が聞こえるが、彼にとってそんな悠長な時間的余裕は無かった。

「妹が攫われたって時に落ち着いてられますか!?」

大声で怒鳴り散らす彼の様子を見て、周りの人達は「何あれ?」「喧嘩か?」と引いている。

「わかった、わかった。ともかく君の妹さんを連れ去った連中はどの方面去っていった?」

「東方面です。急いで検問を張って下さい!ええ、そうです!!はい、よろしくお願いします。私も急いでそちらに向かいますので・・・・はい、では・・・・」

彼はそう言うと通話を終了し、タクシーで向かおうとタクシー乗り場に行こうとしたとき、声を掛けられた。

「すみません。先程のお話詳しく聞かせてもらえますか?」

レオナルドが振り向くとそこにはオレンジ色の髪をした女性がいた。

「何だい君は!?今、急いでいるんだ!後にしてくれ!!」

「失礼、私はこういうものです」

ティアナは懐から管理局の身分証明書を提示し、身分を明かす。

「ミッドの・・執務補佐官・・・・」

彼は驚きながらティアナの身分証明書を見た。支部の捜査官とミッドの執務補佐官とでは与えられている権利が違う。

上司である執務官の許可さえあれば補佐官は一時的に執務官と同じ権利さえ与えられるのだ。

「し、失礼しました。自分はレオナルド・アズラエル捜査官であります!!」

声をかけてきた相手がミッドの執務補佐官ということで彼は先程の非礼を詫び、自分の身分も明かす。

「いえ、構いません。何分急いで中声をかけてしまったようなので・・・・先程妹が攫われたと仰っていたようですけど、妹さんはもしかして今この世界で多発している失踪事件の被害に遭われたのですか?」

「そのことについてはタクシーの中でお話します。何分急いでいるので」

「分かりました」

レオナルドとティアナは急いでタクシー乗り場へと行き、タクシーに飛び乗った。

タクシーの中でレオナルドはティアナに最近この世界で多発している失踪事件と先程妹を攫っていった連中の事を話す。

「成程。妹さんを攫って行った連中はもしかして一連の失踪事件の犯人かもしれないということですね?」

「そうです。もし、このまま犯人を捕り逃すようなことがあれば妹は・・・・」

妹の事に必死になっているレオナルドの姿を見てティアナは殉職した自分の兄に似ているなと思っていた。

「しかし、犯人の行方はわかりますか?あれだけ巧妙に犯罪を繰り返してきた奴らです。検問も突破するかもしれませんよ?」

「その点は大丈夫です。こんなこともあろうかと駅で妹に会ったとき、妹のポケットに発信機を入れてありますから」

「発信機って・・・・」

「妹は可愛いですから、よからぬ虫(男)が来ら叩き潰すつもりで、その予防策として入れました。まさかそれがこんなことに役立つなんて思ってもいませんでしたが」

ティアナはこのシスコンな捜査官がますます兄に似ていると思った。

 

「う、うぅ〜ん・・・・」

ラピスは重い瞼を開けると、そこは薄暗い大きな部屋だった。

「私・・どうして・・・・・」

さっきまで駅にいたはずが何でこんな所にいるのかはっきり思い出せない。

ふと隣を見ると、駅で駅員室まで案内してくれた女の人が隣で眠っている。

「あ、あの〜起きてください」

ラピスが恐る恐ると声をかけたが、女の人は起きる気配がない。

「あの!起きて下さい!!」

ラピスは最初よりも大きな声で、しかも耳元で声をあげる。

「なによ〜うるさいわねぇ〜」

女の人(アリサ)はゴロリとラピスの声から逃れようと体を横にずらすが、そこでようやく意識が戻り体を起こし、声をあげる。

「なっ!?何処よ?ここ!?」

 

「・・・・見たところどこかの倉庫みたいね・・・・」

アリサは最初は事態が把握出来ずに驚いていたが次第に冷静さを取り戻し、此処が何処なのかを確認する。

「で、何でさっきまで駅にいたはずの私達が縛られてこんな倉庫にいるのかしら」

アリサの言うとおり今アリサとラピスは後ろ手に手と足を縄で縛られている。

「さ、さあ・・・・」

「兎も角、縄から抜けないとまともに歩けないわね。ほら、貴女の手、コッチに向けなさい」

ラピスは縛られている手をアリサの正面に向けるとアリサは歯を使って器用に結び目を緩めた。

結び目が緩んだ事によりラピスを縛っていた手の縄が解けた。手が自由になったことで、ラピスは自分の足を縛っている縄を解き、アリサの縄も解いた。

「あ、そう言えば貴女の名前なんていうの?私はラピス。ラピス・アズラエル」

「・・アリサ・ローウェル」

互いに名を名乗ると、ラピスは倉庫に積まれていた箱に乗り始める。

「ともかく此処が何処なのか確かめないと。出ることが出来ればそれが一番なんだけど・・・・」

「そんなことしていると危ないわよ」

アリサは積まれている箱に登るラピスに注意を促す。

「大丈夫です。私村でもこういうことをやっていたので」

アリサの心配をよそに箱に登っていくラピス。しかし、箱が傷んでいたのか、ラピスがある箱の蓋に足をかけると、蓋が壊れ箱の中にラピスの片足が箱の中に突っ込んだ形になる。

「ホラ、言わんこっちゃない」

ラピスの行動にアリサが呆れながら言う。

「んっ?あれ?靴紐が・・中の何かに絡まってる・・・・」

一方、箱の中に片足が抜けなくなってしまったラピスは靴紐に何かが絡まりそれが原因で足が抜けなくなっている。

ラピスは仕方なく手でその絡まったモノを取ろうと箱の中を覗き込んだ。

「ん?」

すると、箱の中には女の人の死体が入っていた。

「あ・・あ・・・・きゃぁぁぁぁ」

ラピスが反射的に体を引くとそのままバランスを崩し、箱の上から落ちた。・・・・箱の中に入っていた死体と共に。

そして死体がラピスに覆いかぶさる状態になるとラピスは余りのショックに気絶した。

反対にアリサは死体を見た当初は驚いたが、その後は慌てることなく現状を分析している。

(人気のない倉庫・・・・それに箱詰めにされた死体・・・・この箱の中身は皆死体?)

アリサが倉庫の中の箱を見渡し、現状を分析していると、

「おやおや箱の中身を見てしまいましたか?」

倉庫のドアが開き、そこからサングラスと帽子を被った男を先頭に何人もの男達が入ってきた。

「全く貴方達は不手際が多すぎますよ」

「す、すみません。それにしてもどうやって縄をほどいたてんだ?アイツ?」

彼らの会話からどうやらサングラスに帽子の男がリーダーのようだ。

「それで貴方たちの目的は何?他の世界に奴隷として私たちを売る?それとも殺してから積荷にして運ぶ?」

アリサは取り敢えず彼らの目的を聞いた。

どう見ても彼らが葬儀社の社員には見えないし、先程ラピスと共に落ちた死体の首には何かで絞め殺した形跡もある。つまりこの死体は事故や病死ではなく他殺された死体ということになる。

もっとも自殺した死体という可能性も捨てきれなかったが、この後、リーダーの発した言葉によってその可能性も消えた。

「ほぉ〜この状況で随分冷静なお嬢さんだ。まぁ冥土の土産としてお教えしましょう。私の世界では妙齢の少女の臓器は高価な秘薬の原料なのです。特にこの世界の少女は他の世界と違い原料となる少女の臓器の質がとても良いので恰好の狩場なのです」

「そ、そんな・・・・そんな下らない物の為に・・・・」

アリサはリーダーの言葉を聞き、腸が煮え繰り返るような怒りが込み上げてきた。

「イヤぁ〜私も残念だ。出来れば殺さず生かしたまま連れて帰りたかった。それならば秘薬の原料でなく移植用の臓器として高く売れたのですが、しかたありません。多少値は落ちますが・・・・」

「黙れ!!外道!!」

「五月蝿いですね・・・・黙らせなさい・・・・永遠にね・・・・」

「はっ」

リーダーの後ろにいた男達の内一人の男が短刀を抜きながらアリサに近づいてきた。

何故、連中が魔法を使って来ないのかというと、管理局が今回の失踪事件の深刻さを鑑みてこの町の至るところにサーチャーをばら蒔いている下手に魔法を使うとこのアジトの場所がバレてしまうと思ったのだ。

そして当然拳銃やライフル等の飛び道具系の質量兵器を仕入れればそこからあしがつくと思い怪しまれにくい刃物で襲いかかってきた。

しかし、良介がフェイトに言った様にアリサも護身術は嗜みとして身に付けている。

たかが小娘一人と油断しているゴロツキに負ける筈が無かった。

アリサは男の突きをかわし、相手の服を掴むと、その勢いを殺すことなく投げ飛ばす。

それを見た連中はリーダーの男以外の連中が一斉に襲いかかってきた。

アリサは最初に襲いかかってきた男の刃物を拾うと果敢に反撃に出た。

しかし、多勢に無勢。それに気絶しているラピスを人質にされてしまいアリサはピンチに陥った。

「そこまでの様ですね。お嬢さん」

リーダーの男がニヤリと笑を浮かべアリサに尋ねるかの様に言う。

「くっ」

アリサは両腕を男連中にガッチリとホールドされ、動くことが出来ない。

「コイツ散々手こずらせやがって!」

「ボス、コイツ殺っちまう前にいっちょ楽しんでいいですか?」

一人の男がイヤらしい笑を浮かべながらリーダーに問う。

「まぁいいでしょう。幸い子宮は秘薬の原料にはなりませんからね」

「そいつは助かった。それじゃあお嬢さん精々楽しませてくれよ」

そう言うとアリサを押し倒す。

「い、いやぁ!!」

アリサは一度殺された時の事が脳裏に浮かび上がり悲鳴をあげる。

「へぇー中々可愛い声で鳴くじゃねぇか」

しかし、それは男の欲望を掻き立てるだけであった。

「い、嫌!離して!」

「離せと言って離すバカがいるかよ」

「おい、早くしろよ。次はオレだからな」

「へいへい」

男がズボンのベルトを緩めたとき、

「全員その場から動くな!!管理局だ!!」

大声と共にこの世界の管理局捜査官が一斉に突入してきた。

「っ!」

そしてベルトを緩めた男は捜査官の突入に顔をそちらの方に向け、アリサに対し隙を生じさせた。アリサのその隙を見逃すことなく、その男の局部に蹴りをくれてやった。

アリサから渾身の一撃を食らった男は白目をむきその場に倒れる。

「う、動くな!動くとコイツの命は・・・・」

ラピスを人質にとった男が気絶しているラピスに刃物を近づけ、叫ぶが突如死角から飛んできたオレンジ色の誘導弾によりノックアウトとなりその隙に御用となる。

「ティアナ!」

「あ、アリサさん?」

ティアナは駅ではぐれたアリサが此処に居たのが意外だった。というかティアナ自身がアリサの事をすっかり忘れていた。

アリサは昔のトラウマをほじくり返され目からは涙が溢れ出てティアナに泣きついている。

普段のアリサからは信じられない姿であった。

アリサはティアナに抱きつき、暫く離れなかったし、ティアナもスバルにやっていた様な強引な引きはがしはせず、アリサが離れるまでそのままの状態でいた。

 

犯人たちの事情聴取が進むにつれ、やはり連中はこの世界で多発していた失踪事件の犯人であることが分かった。しかし、ヒルデガルト学院での失踪事件については関係が無かった。

被害者達の調査も同時に進められたが、その中に学院の生徒は一人もいなかったためである。

ティアナはミッドにいるフェイトに事件の解決と学院の事件との関連が無い事と報告した。

「そう・・・・でも、事件を一つ解決したことには変わらないからね。学院の方も宜しく頼むね」

「はい」

報告を終え、学院へ向かうリニアの中で、

「ティアナ・・・・その・・・・さっきのことは・・・・」

アリサは倉庫で見せた自らの醜態を恥じておりティアナにみんなには内緒にしてくれと頼んだ。

完璧だと思っていたアリサの普段は見せなない意外な姿を見れたのでちょっとだけ優越感の様なものを得たティアナだった。

 

 

あとがき

リョウさんもマイ・ベスト・フレンズにてアリサがなのは達にテスト勉強を教える場面を描いていますが、マジになったアリサの教えは厳しそう。

ティアナにとっては六課時代の訓練よりも地獄だったかもしれませんね。

次回から学院に潜入します。

話上やむを得ませんが、アリサとティアナが行った先々で事件が起こるコナン君体質にやっている・・・・・。

管理局の試験ですが、エリオやキャロの10才の少年少女が入隊出来るのだからとてつもなく簡単な試験っていうイメージがあったので独自の設定にしました。




作者さんへの感想、指摘等ありましたらメ−ル投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。