三十話 コドモノヒ  私の旦那様は六歳

 

 

「お姉ちゃんだぁれ?」

その言葉を聞き、ギンガは固まった。

が、それはほんの一瞬。ギンガは良介がきっと悪ふざけをして自分をからかっているのだと思った。

「良介さん、いくら体が子供に戻ったからといってそんな悪ふざけは通用しませんよ」

「ふぇ?」

ギンガの言葉に良介は不思議そうに首を傾げる。良介のギンガを見つめるその瞳はとても無垢な瞳でその瞳や行動からとても演技や嘘のようには見えない。

「・・・も、もしかして・・・・・本当に?」

良介の眼を見て、ギンガの顔が若干引きつり、冷や汗が一筋伝う。

「ねぇ、お姉ちゃんはだぁれ?ここはお姉ちゃんのお家なの?どうして僕はここに居るの?」

固まっているギンガを尻目にお子様良介はもう一度、ギンガの名前を尋ね、ここがどこなのか、そして自分がどうしてここに居るのかを聞く。

「あ、アリサさぁ〜ん!!」

ギンガは気が動転し、良介の質問に答えず、急ぎ、階段を駆け下りて台所に居るアリサの下に駆けつけた。

 

「良介の様子が変?」

朝食の支度をしながらアリサはギンガからの報告を聞き、怪訝な顔つきになる。

「そ、そうなんです!まるで本当の子供に戻っちゃったみたいで・・・・・」

「そんなわけないでしょう。女になった時でも記憶はしっかりと受け継いでいたのだから。それに昨日の夜も間違いなく記憶はあったわ。どうせ、悪ふざけしているに決まっているでしょう」

動転しているギンガとは反面、良介の現状を見ていないアリサは至って冷静で、若干呆れながらギンガの話を聞き、良介の悪ふざけと言う形で処理しようとしている。

「私も最初はそう思ったんですけど・・・・」

良介の様子を見たギンガにとっては、あの時見た良介の様子から嘘や芝居のようには見えなかった。そのため、ギンガはアリサの言葉を肯定することができなかったが、また良介の状態を詳しく見ないで台所に降りてきてしまったので、否定をすることも出来なかった。

「どうせ今頃、ギンガの慌てた様子を見て笑い転げて・・・・」

 

うわぁぁぁーん!!

 

アリサが呆れながら「笑い転げている」と言おうとした時、上の寝室から男の子の大きな泣き声が聞こえ、その泣き声に連動し、ベビーベッドの中に居る桜花までもが泣き出した。

たちまち宮本家は子供の泣き声の合唱に包まれ、ギンガは桜花の下にそしてアリサは良介の下へと向かった。

「どうしたの?良介?何泣いてんの?」

アリサが良介の寝室に入ると、良介が手で涙を拭きながら泣いていた。

「ひっく・・・・お父さん・・・と・・・ひっく・・・・お母さん・・・・・いないの・・・・・どこにいるの?ここはどこなの!?」

「ちょ、ちょっと、良介・・アンタ・・・・な、何言ってるのよ?・・・・」

今の良介は保護されたときのヴィヴィオと同じように、自分の近くに両親の姿が無かったことに不安と恐怖に駆られ、泣き出していたのだ。

それは普段の良介からは信じられない姿だった。

「み、ミヤ、ちょっと魔法で、確かめてくれる?嘘をついているのか・・そうじゃないのか・・・・」

アリサは若干声を震わせながらミヤに頼む。冷静を装っているが、アリサ自身もギンガ同様多少動転し始めている。

「りょ、了解ですぅ」

ミヤ自身もアリサ同様、目の前の良介の姿が信じられなかった。

ミヤは真相を確かめるために黒皮の魔道書を出し、呪文を唱え魔法を発動させ、良介の心を読み取ると、良介の心の中には何度も「お父さん、お母さん。どこにいるの〜ぼくをひとりにしないでよぉ〜」と、両親を呼ぶ良介の悲痛な叫び声が聞こえた。

「あ、アリサ・・良介は嘘をついていないですぅ。・・良介は完全に体も精神(心)も子供に戻っちゃっていますぅ・・・・」

「・・・・・」

ミヤの言葉を聞き、アリサは言葉を無くし、完全に固まった。ミヤ自身も良介の心の中を見て、驚きが隠せなかった。

 

 

「それじゃあ、やっぱり良介さんは・・・・」

「ええ、体も心も子供に戻っているわ・・・・」

ギンガは漸く泣き止んだ桜花に自らのおっぱいで授乳をさせながら今の良介の状態をアリサから聞いた。

良介はアリサが固まっている間にミヤが泣き止ませた。

泣いていた良介の視界にミヤが入ると、途端に良介は泣くのを止め、

「・・妖精さん?」

と、ミヤに話しかけた。

ミヤはここでちゃんと空気を読み、良介にゆっくりと近づき、

「はい。妖精さんですよぉ〜。名前はミヤといいますぅ。良介君、いつまでも泣いていてもお父さんもお母さんも帰ってきませんよ。でも、いい子にしていればきっと帰ってきます。それまで、私達と待っていましょう。ねっ?」

ミヤが微笑みながら良介に尋ねると、

「う、うん」

良介はミヤの微笑みに釣られてぎこちないながらも笑みを浮かべ、泣き止んだ。

長年天才少女アリサと行動を共にし、ギンガの子育てを傍で見ていたため、泣いている良介を優しく慰め、泣き止ますことが出来た。

 

それから宮本家の皆は食堂で食事を摂ったのだが、食堂の椅子では今の良介では少々食べにくかったようで、椅子の上に何冊かの辞典とクッションを置きその上に座り、朝ごはんを食べた。

「良介君、口元が汚れているわよ」

ギンガが布巾で良介の口元を拭く。

「ん〜・・・・ありがとうギンガお姉ちゃん!!」

「ど、どういたしまして・・・・/////

お子様良介の笑顔は100万ボルト並みの威力があり、ギンガはたちまち顔を赤くする。

「う〜ギンガ・・・・羨ましい・・・・」

「ですぅ〜」

笑顔を向けられたギンガを羨むアリサとミヤであった。

 

 

食事の後、アリサは今週入っている依頼をキャンセルする手続きや依頼人への説明に追われ、ミヤもその手伝いをしている。

ギンガは桜花とお子様良介を連れて、外へと散歩に出かけた。

当初はギンガもアリサの手伝いをしようかと思っていたのだが、アリサが子供二人を放っておいては子供達がかわいそうよと、子守をギンガに担当してもらい、自分は仕事に専念した。

本音を言うと、アリサも今の良介の相手をしたかったのだが、良介が子供に戻ってしまっては依頼をこなせないため、その尻拭いをしなければならなかったのだ。

公園でギンガは桜花を抱きながらベンチに座り、砂場で遊んでいる良介を見ているたが、ほんの僅かにギンガが目を離した間に良介の姿は公園から消えていた。

「えっ?良介君!?どこ?どこにいったの!?」

慌ててベンチから立ち上がり、ギンガは良介を捜し始めた。

 

その頃、良介はというと、公園の直ぐ傍にあったアイス屋に来ていた。

良介はそこでコーンの上に塔の様に高く積まれたアイスを食べようとしている青い髪の女の人を見ていた。

「やぁ〜屋台通りのアイスもいいけど、ここのアイスも素敵だぁ〜」

アイスをキラキラした目で見つめている。青髪の女の人。

「あんたはどこのアイスを食べても同じようなことを言うじゃない」

そんな青髪の女の人を呆れたような顔をして言うオレンジ色の髪をした女の人。

「ん?・・アレ?」

青髪の女の人こと、スバルはアイスを食べようとしたとき、自分のことをジッと見ている男の子の存在に気が付いた。

「ねぇ、ティア、男の子が一人こっちを見てる・・・・」

「ん?ほんとね。迷子かしら?」

スバルに言われ、オレンジ髪の女の人こと、ティアナがスバルの視線を追うとそこには確かにヴィヴィオ位の男の子が一人ポツンと立っていた。

「ん?どうしたの?」

ティアナが男の子に近づいて、目線を合せ話しかける。

「・・・・アイス・・・・」

男の子はスバルのアイスを物珍しそうに見る。

「え?ああ、アイスね・・・・食べる?」

ティアナがまだ口を付けていない自分のアイスを男の子に差し出す。

すると、男の子は首を横に振り、

「知らない人からモノを貰っちゃダメってアリサお姉ちゃんに言われた」

「えっ?」

男の子の口から知り合いの名前が出てきて、ティアナは驚いた。

「アリサお姉ちゃん?」

「うん」

「ねぇ・・・・ティア。私の見間違えかな?この子なんとなく宮本さんに似ているんだけど・・・・」

スバルも男の子に近づき、男の子の顔をマジマジと見つめる。

「そ、そうね。どことなく先輩に似ているわね・・・・」

スバルの言葉を聞き、ティアナも意識しながら男の子の顔を見る。

と、そこへ、

「良介君!!」

「あっ、ギンガお姉ちゃん」

ティアナとスバルが目の前の男の子から目が離せないでいると、男の子の後ろから赤ちゃんを抱いた、紫がかった長い青髪の女の人が来た。

「ギン姉!?」

「えっ!?スバルにティアナ?」

後ろから来た女の人を見たスバルとティアナは更に驚いた。

 

 

良介は今、ベンチの上に座り、ギンガから買ってもらったアイスを美味しそうに食べている。

そしてベンチから少し離れた所では、

「「ええええええっ!!」」

ギンガから男の子の正体が良介本人だと知ると、二人は声を揃えて驚愕の声を出す。

「本当に・・・・」

「この子が・・・・」

「宮本さん!?」

「先輩!?」

「「なの!?」」

「・・ええ、そうなの・・・・」

ギンガはこの前、はやての家で開かれたお茶会ではやてが良介のお茶に変な薬を入れ、それにより、良介が体も精神も子供に戻ってしまったことを話した。

「良介君は今、いくつなのかな?」

スバルが良介の年齢を聞くと、

「え?・・う〜んと・・・・」

良介はアイスを食べるのを一時中断し、指を折ながら数を数え始め、

「六さい!!」

と、元気よく答える。

「うわぁー宮本さん可愛い!!」

「そ、そうね//////

(た、確かに、かぁいい〜 このままお持ち帰りぃ〜したいわ!!)

ティアナもギンガ同様小さくなった良介の笑顔に顔を赤くする。

 

 

良介には監視がついていた。

しかし、今回はゲンヤから命令を受けたへの28号ではなく、シグナムとシャマルの二人から半ば脅された形で監視を任された八神家の番犬こと、ザフィーラだった。

「・・・・なぜ、主はやての守護獣たるこの私が宮本の監視をせねばならぬのだ?」

遠巻きで良介を監視するザフィーラがポツリと愚痴を零す。

すると、

「ほぅ〜・・・・ザフィーラはシャマルの手料理をたらふく食べたいようだな?」

ザフィーラの首に着いている首輪型の通信機兼高性能カメラからシグナムのドスのきいた声がした。

「ぬっ!?」

「あらあら、ザフィーラったら、そんなに私の料理が食べたかったのね?それならそうと言ってくれればいいのに〜

今度は明るい声なのだが、なぜかその声を聞いていると、嫌な汗が流れ出てくる・・・・そんなシャマルの声がした。

「ぜ、全力で、守護獣としての役割を果たせてもらう!!」

ザフィーラは犬状態でなければ直立し、敬礼していたかもしれない程、凛々しい声で二人に答えた。

 

ザフィーラが撮影した画像は逐次シグナムとシャマルの二人の下に送られていた。

画像の中身は、

満面の笑でアイスを食べる良介。

公園に居るハトやアヒル、池にいる鯉に餌をやる良介。

ジャングルジムやすべり台の上からギンガ達に無邪気な笑顔を浮かべて手を振る良介。

などの、子供らしい一面を捉えた画像ばかりだった。

「りょ、良介ちゃん・・・・さ、最高よ!もう食べちゃいたいぐらいだわ!!」

シャマルは送られてきた画像を写真用紙にプリントアウトし、その写真を舐めまわしている。

「み、宮本の子供の頃は・・こ、こんな破壊力がある子供だったのか・・・・も、もし、主がはやてではなく、子供時代の宮本だったら正直危なかったかもしれん・・・・私の命が・・・・・」

シグナムはドクドクと鼻血を流しながら良介の画像を眺めていた。

そんな中、シグナムとシャマルのように子供になった良介が可愛いのか、良介をギュッと抱きしめているスバルの画像が送られてきた時、二人の異常行為がピタッと止まった。

さらに転びそうになった良介を間一髪ティアナが抱きとめた時、良介の顔がティアナの胸に押し付けられる形となった画像も送られてきた。

それらの画像を見た二人は・・・・。

「ランスター・・・・」

「スバルちゃぁ〜ん」

「「二人とも・・今度、OHANASHI決定だな・・・・(ね・・・・)」」

二人が黒い笑みとオーラを出しながら低く呟いた。

それと同時に公園にいるティアナとスバルが物凄い悪寒に襲われ、体を震わせた。

 

 

お昼になり、ギンガ達は近くのファミレスに入り、昼食を取ることにした。

「ほら、良介君。沢山食べて大きくなるんだよ!!」

「えっ?」

スバルは良介に向けて山盛りの料理を差し出していた。良介はそれを見て少し驚く。

何時もの様にスバルは大量の料理を机の上に置いている。それはギンガも同様である。

記憶を失う前ならば当たり前の光景なのだが、記憶のない今の良介にとって、それは驚きの光景でしかなかった。

「スバル、良介君はまだ小さいんだから私達みたいに食べられないわよ。はい、良介君。あーん」

(大きくてもギンガさんやスバルと同じ量は食べれませんよ)

ティアナは心の中で冷静にツッコム。

ティアナの心のツッコミを知る由も無く、ギンガは良介のために、小皿に次ぎ分けていた料理を良介の口の前に差し出す。

「あーん!」

良介は笑顔で料理を口に運ぶ。

「モグモグ・・・・ゴクン・・・・今度はギンガお姉ちゃんの番ね。はい、あーん」

良介はフォークにのった料理をギンガに差し出す。

以前、良介が入院中、ギンガが良介に行なった行為だが、こうしてやられてみると、やはり恥かしいものがある。

「はい、あーん」

「あ、あーん//////

しかし、無邪気な笑を浮かべる良介の頼みをギンガは断れるはずがなく、ギンガは頬を赤く染めながら料理を口に入れた。

「いいなぁ〜ギン姉〜」

(ホント羨ましい・・・・)

スバルとティアナはそんな二人の様子を見ていたが、スバルはやはりただ見ているだけではつまらなく、

「ホラ、良介君。こっちの料理も食べてみない?」

スバルの行動は早く、自分の皿から料理を分け、良介の前に運ぶ。

「えっ?いいの?」

「うん。いいよ。はい、あーん」

「あーん」

ギンガのとき同様笑顔でスバルの差し出された料理を食べる良介。

「ね、ねぇお姉ちゃんも良介君の料理少し食べたいなぁ・・・・」

「ん?いいよ。はい、あーん」

「あーん」

ギンガと違いスバルは頬を染めることなく、満面の笑で良介の差し出した料理を食べるスバル。

((や、やるわね!スバル!!))

ギンガとティアナはスバルの神経の太さと行動力の速さに感心した。

「ティアはやらないの?」

ニヤニヤ顔でティアナに聞いてくるスバル。

「や、やらないわよ!!//////

本当はやりたいのだが、人の目があり恥ずかしくて実行に移せないティアナであった。

 

食事が進んでいくと、良介が料理の中にある人参だけを皿の隅に追いやり残していた。

「良介君、人参もちゃんと食べないとダメよ」

ギンガがそれを見て良介に注意する。

「うぅ〜ニンジン嫌い〜」

フォークをくわえながら唸る良介。

その仕草を見て、三人は「可愛い」と心の中で思った。

「好き嫌いしていると、大きくなれないし、強くなれないわよ」

「う〜」

「ほら、スバルお姉ちゃんを見てごらん、好き嫌いせず、何でも食べてきたから大きくなったし、強くなったのよ」

「ギンガお姉ちゃんも?」

「もちろんよ。さっ、食べさせてあげるから。はい、あーん」

ギンガは人参をフォークでさし、良介に食べさせる。

「う〜・・わ、わかった・・・・あ、あーん」

良介は涙目になりながらも頑張って人参を食べた。

「はい、よく出来ました

人参を食べた良介にギンガは微笑みながら頭を撫でた。

「さ、さすが、ギンガさん。伊達に一児の母をやっていませんね」

ティアナが人参を嫌う良介に人参を食べさせたギンガの手腕を褒めた。

 

 

その頃のザフィーラは・・・・

「はぁ〜腹減った〜」

昼ご飯抜きで、良介の盗撮・・・・もとい、監視を続けていた。

 

 

あとがき

子供時代の良介君は寂しがりやで甘えん坊・・・・そんな設定にしました。

流石に六歳の子供が孤独を愛していたら引くので・・・・。

久しぶりのザッフィーの登場ですが、やはり今回も不憫な役回り・・・・ザッフィーファンの方々重ね重ね申し訳ない。

そしてシグナムとシャマルにショタ要素が入りました。原作キャラの性格が崩壊しつつありますが、二次小説だと割り切って下さい。

では次回にまたお会いしましょう。




作者さんへの感想、指摘等ありましたら投稿小説感想板
に下さると嬉しいです。